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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


V・A・C・A・T・I・O・N!!

 <午前6:00 起床>

「みあお! ラジオ体操、遅れちゃうよ!」

海原(うなばら)家の朝は早い。
・・・それが、たとえ夏休みだったとしても。
「まーだーねーむーいー・・・」
姉の海原みなもに起こされた海原みあおは眠い目を開けようとしたが、まぶたがあまりに重くて開けられない。
「夏休みだからって、夜更かしするとダメだよ?」
みなもはタンスからみあおの洋服を1組出し、みあおを起こすとそれを着せた。
「で〜きた。下にメロンパンとイチゴ牛乳あるから、それ食べてラジオ体操行こうね」
ニコニコとみなもはみあおから剥いだパジャマを抱えてそう言った。
まるで着せ替え人形のようにみあおは真新しい白のノースリーブの上下を着せられていた。
だが、みあおはどうやら立ったまま寝てしまっているらしい。
「みーあーおー!!」
みなもの呼ぶ声が、みあおには遠い夢の中から聞こえていた・・・。


 <午前8:00 宿題開始>
半分以上眠ったみあおを半ば強制的にラジオ体操に連れて行ったみなもが家に帰り着いたのは、なぜか8時を回っていた。
「あっつ〜い! ねぇ、プール行きたいな♪」
「だ〜め、宿題しなきゃ。午前中の涼しい時にやる方が効率がいいのよ?」
みあおの『プール連れてって(はぁと)』攻撃にみなもは心を鬼にした。
実はラジオ体操からの帰り道中ずっと、このおねだり攻撃が続いていたのだ。
いつもなら可愛い妹の頼み、聞いてやらないわけにはいかないと思っていたが宿題は自分でやらなければ意味がない。
それに、早めに宿題をやっておけば夏休みを思いっきり楽しめるのだ。
そう、すべてみあおのことを思えばこそなのだ。

「ね? あたしも手伝ってあげるから。・・・こら。浮き輪持ってこないの!」
「じゃあ、褌なら持って来ていいの?」
「・・・そ、それは・・・」

つぶらな瞳がキラキラとみなもを見つめる。
いつかのプールでの出来事が、みなもの中に悪夢として思い出された。
「と、とにかく、宿題やるの。・・そうだ! お昼ごはん、みあおの好きなもの作ってあげるから。ね?」
みなもが苦肉の策として、お昼ご飯のリクエストをみあおに提案した。
「ホント!? じゃあ、みあお、素麺がいいな♪」
「わかった。素麺ね」
みあおが意外に普通のものをリクエストしてきて、みなもはホッとした。
だが・・・。

「『豪華な』素麺にしてね♪」

『豪華な』素麺・・・。
みなもの頭の中に、冷蔵庫の中身と『豪華な』素麺のイメージ図が次々と消えては浮かんでいく。
果たして、『豪華な』素麺とはどんなものなんだろうか?
みあおの宿題を手伝いつつも、みなもの思考は『豪華な』素麺のことで頭がいっぱいになってしまっていた・・・。


 <午後0:00 昼食>
遠くからお昼のサイレンが聞こえた。
「お腹空いた〜!! おねえちゃん、ごはんごはん〜!」
午後8時から約4時間。
時々水分補給をしながらみっちり宿題をやったので、自由研究や自由工作などの大きなものを残してほぼ片が付いた。
・・・半分以上みなもがやったような気がしないでもないが。
「じゃあ、お昼ご飯作るから、みあおはテーブルの上片付けておいてくれる?」
「リョ〜カイっ!」
先ほどまで宿題に対してはやる気を見せなかったみあおの豹変ぶりに、みなもは苦笑しながらも可愛いと思った。


さて・・・とみなもはキッチンに立った。
『豪華な』素麺・・・みなもはみあおのリクエストに答えるべく、まずは冷蔵庫を探った。

カニカマ、トマト、きゅうり、卵、チャーシュー・・・。

使えそうな具材を調理台の上に載せ、もらい物の素麺も取り出した。
さぁ、ここからが腕の見せ所である。
みなもは白いフリルのエプロンの紐をしっかりと結んだ。

「ゴウカ〜ゴウカ〜♪ 豪華な素麺〜♪」
テーブルの上の宿題の山を自分の部屋へと運びつつ、テーブルの上を拭く。
みあおの出した『豪華な素麺』という宿題に悩むみなもの顔を思い出して、みあおは知らず知らずに顔がほころんだ。
 (おねえちゃんは困った顔も可愛いのよね♪)
どんな豪華な素麺を作ってくるのか。
それはたいした問題ではなく、単にちょっと困った顔が見たかっただけだった。


「お待たせ〜」
すっかり片付けたテーブルの上に、みなもの作った素麺が2つ乗せられた。
のだが・・

「うわーい! 豪華な・・・・冷やし中華?」

みあおは思わず首をかしげた。
大きな皿の上には綺麗に盛り付けられたカニカマ、トマト、きゅうり、薄焼き卵、チャーシュー・・・。
見るからに鮮やかな冷やし中華としか思えない。
「・・・素麺です。豪華でしょう?」
自分でもその見た目が冷やし中華だと思っているのであろう。
みなもは念を押すように、それが『豪華な素麺』であることを強調した。
「・・・」
「ほら。伸びちゃうから、食べようね!」
やや不満げなみあおだったが、必死にごまかそうとする姉の姿を見てコクリとうなずいて箸を取った。
一生懸命なみなもの姿もなかなか可愛かった。
「いただきまーす!」

・・・冷やし中華もどきの豪華な素麺は、やはり素麺の味がしたのだった・・・。


 <PM1:30 昆虫採集へ>
「みあお、自由研究の虫取りに行きたいんだけど、おねえちゃん連れて行ってくれる?」
豪華な素麺を食べて、少したった頃にみあおが突然思いついたように言いだした。
「虫取り? じゃあ、ちょっと遠いけど郊外の大きな森に行ってみよっか。この辺じゃ虫、取れそうもないから」
「ホント!? よし! すぐ行こ!!」
やる気満々に立ち上がったみあおをみなもは「ちょっと待って」と制止した。

「帽子と、水分補給のスポーツドリンク用意するから・・あ、おやつも持っていこっか?」

「帽子やスポーツドリンクはともかく、おやつって・・・遠足じゃないんだし・・」
みあおの鋭い突っ込みに、みなもは焦って訊いた。
「持って行かないの?」
「・・・持って行く」
少し考えたみあおの返事に、みなもはにっこりと笑顔になった。

「かっぶとむし〜♪ 出ておいで〜?」
森の中は思っていたより鬱蒼としていて、夏の暑さも森の奥までは入ってこられないかのような涼しさで満たされている。
みあおとみなもは虫取り網と虫かごを持ち、木の上や根元などを見て回っていた。
既に数匹のカブトムシを捕まえていたが、全てメス。
やはりカブトムシを捕まえるのならオスがどうしても欲しいところだ。
「・・いないね〜。おねえちゃん、見つかった?」
「メスはいるんだけど・・」
落ちて腐りかけた木の葉をかき分けながら、みなもも一生懸命捜している。

『この罰当たりどもめ〜・・・』

突然、声がした。
みあおは辺りを見回したが、人影はない。
「きゃあ!!」
みなもが突然声をあげたので、みあおは走りよった。

「い・・芋虫が立ってる・・」

『芋虫ではなーーーい! わしゃ、カブトムシの長老じゃぞ!』
ふと見ると、みなもが探っていた根元あたりに小さな白い塊がふんぞり返っている。
どうやら、先ほどのおどろおどろしい声はコレから出ているらしい。
「・・幼虫なのに、ちょーろー?」
『長老とて自然界の節理にはかなわぬので転生を繰り返すのじゃ・・・って、お前らにそんなことを教えてどーするんじゃ!』
1人ぼけツッコミをする長老に、みあおは傍に落ちていた木の棒を拾って突付いてみた。
『うを! 長老のわしに何たる無礼を! 自然を害する人間に呪いを〜!』
「それって、タダの『しかえし』って言わない?」
「みあお、それ言ったら長老さんが可哀想よ・・」

『うるさーい!』

遂に切れた長老がそう一声かけると、ポンッとみあおとみなもの体が小さくなった。
・・いや、小さくなっただけではなく・・・

「かぶとむしだーーー!!」

まるで気ぐるみを着たかのように、みなもとみあおはカブトムシにされてしまっていた!
「これで自由研究はバッチリだね♪」
「自分がカブトムシになったら自由研究にならないったら!」
飛び回って喜ぶみあおに、カブトムシとなったみなもの右2本の足(手?)が鋭い裏拳ツッコミを入れたのであった・・・。


 <PM6:30 夕飯>
何とかカブトムシの体から解放され帰宅したみあおは、早速自由研究を書き始めた。
結局、小さくなったみなもとみあおの体では折角取ったカブトムシたちを持ち帰ることはできず、標本作りは諦めざるをえなかった。
しかし、何を書いているのやら? と、ちょっとだけ不安な気持ちでみなもは夕飯を作った。
トントンと包丁の音が響くだけの家の中。
昼間の暑さとは違い、少しだけ過ごしやすい夏の夜。
みなもの作ったのは、夏野菜のカレーとサラダ。
育ち盛りのみあおにしっかりと野菜を食べてもらおうという、みなもの配慮だ。

「おねえちゃんの料理は世界一だね♪ おかわりー!」

みあおのモリモリと食べる姿に、みなもはニコニコと自分もカレーを食べた。


 <PM9:00 就寝>
ご飯を食べ、お風呂にも入り、あとは寝るだけ。
みあおは今日の分の絵日記を書いている。
「ねぇ、絵日記何かいているの?」
「ん〜・・・ないしょ」
みなもは絵日記を一生懸命書いているみあおの邪魔をしないように、黙ってテレビを見ていた。
・・・と、いつの間にか小さな寝息が聞こえていた。
みあおは、絵日記に突っ伏して寝てしまっていた。
と、みなもは開いたままの絵日記に目を奪われた。

【8がつ17にち はれ
 きょうはおねえちゃんとムシとりにいった。
 おねえちゃんといっしょにカブトムシにされたけど、たのしかった。
 おねえちゃんがいっしょにいてくれたから、たのしかった。 】

茶色のカブトムシにされたみあおとみなも、2人の描きかけのイラスト。
みなもはテレビを消し部屋の明かりを消すと、みあおをベッドへと運んだ。
そして、みなもも自分のベッドに横になって目を閉じた。

明日もきっと楽しい事がいっぱいあるはずだ。
だって、夏休みはまだまだ長いんだから・・・。

Let's Enjoy a Summer Vacation!