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<幻影学園奇譚・学園ノベル>


■切望の未来−懐かしの未来・続編−■

 最近、男女構わず生徒の間で「自分の前世の夢」の話で盛り上がっている。
 そのどれもが、「望郷」を思わせるキャラだと皆陶酔したり、それがあって今の自分があるだのと、実に楽しそうだ。
 とある筋のある情報では、だがその「前世」は「ダミーではないか」という興味深い話も出ている。
 果ては、「占い同好会」など、小遣い稼ぎのインチキまで出てくる次第だ。
 そんな時、あなたも授業中うたたねをしている間、夢を見た。
 それは───。
 覚えていても覚えていなくとも、起きたときハッキリ分かった。
 今見た夢は、「自分の前世」。
 でも、何かしらの陰謀と言ったら言い過ぎだろうが、自分への当てつけか何かとも感じ取れる夢。
 このままではすっきりしない。
 あなたは、この「夢」について仲間も募り、調査を始めることにした───。


■Relief party■

 暫くの間、集まった三人は押し黙り、放課後も遅く誰もいない2年B組の教室に佇んでいた。
「前回感じた『ダミー』というのと」
 ヒグラシの声と、静寂を破ったセレスティ・カーニンガムの声が重なった。
「何かが裏にある、というのは感じるんです」
 彼だけが上級生なのだが、誰もいないのだからと集合したメンバーのもうひとり、諏訪・海月(すわ・かげつ)が誘ったのだ。その彼は頭に巻いたタオルをなんとはなしに弄りながら、口を開く。
「誰かが裏で糸引いてる、とも俺は感じた……なんとなくだが」
 残るもうひとりの十里楠・真癒圭(とりな・まゆこ)がぽつりと零すように言った。
「あの時、『夢』から購買部に戻った後───何かがとても懐かしかったの、覚えてる……」
 何故、「ダミー」を作ってまで、誰が何を訴えようとしているのだろう?
 三人は同じ疑問に辿り着き、そこから進めないでいたのだった。
「あの時、購買部で皆で前世の夢の話をしていたんですよね」
 セレスティは、窓辺を背にあの時のことを反芻する。
「小鳥の鳴き声が聴こえた、それで床に穴が開いて全員『夢』に落ちた」
 続ける、海月。
「たまたまそういう、異次元の穴があいて入っちゃう漫画とかあるけど……その類、なのかな……」
 まさかまた同じことはないよね、と言った真癒圭だったが。
 思わず、自分達の足元を見る三人。
 そして、しばらく待ち───何も起きないことに苦笑し、海月は顔を上げ───目を瞠った。

 そこに、仲間二人の姿はなかった。



■それが運命(さだめ)ならば■

「セレスティ、真癒圭!」
 二人がいないだけではない。教室を出ようとした彼の周囲の空間が、ふと歪んだ。
「!」
 脳裏に鋭い痛みが走る。
(これは……一体)
 頭を抑え、瞳を閉じた彼がもう一度瞼を上げたのは、ようやく頭痛も治まった頃だった。
 違う景色に、彼はいた。
 酷い頭痛の後のせいか、意識がぼんやりとしている。
「どうした氷鏡、もう音を上げたか」
 自分の身体が、ぐんと意志よりも先に起き上がるのを感じた。目の前の、上品な顔立ちをした中年を睨みつける。
「誰が。父上、もう一度」
 これも海月の意志より先に言葉が口をついて出る。
(父………上?)
 ああ、とぼんやり思う。
 そうだ、俺は氷鏡(ひきょう)という名の……そう、この父親、氷見(ひみ)の息子だった。何故忘れていたのだろう?
 そして、ふと何かの気配に気付き、氷見とほぼ同時に自分が今いる場所───道場の外のほうへ神経を張らせた。
「まだまだだな、氷鏡」
 小さな声で、氷見が余裕を持ったように言う。
「そう殺気を出しては魍魎共も逃げてしまうというもの。せっかく奴らのほうから気配を出してくれているというのに」
 そして、音もなく数歩歩き、手で印を結ぶと扉が独りでに開いた。
 そこへ、氷鏡が躍り出る。自分はまだ父より未熟、それは充分分かっている。だが、それを指摘されて腹を立てるほど彼は子供ではなかった。何よりも、状況を優先させる。それが、魑魅魍魎を常に相手とする自分達陰陽師の使い手の常だった。
 道場の外、木々の隙間から確かな妖気を感じる。その中心に、氷鏡は小さく呪を唱え、カッと指を突き出す。その指から強い光が迸り、妖気の元だった魍魎の主の叫びが放たれた───数秒後、完全に妖気が失せたのを感じると、氷鏡はようやく小さく微笑んで自分の義理の父親を振り返った。
「このようなもので如何か、父上」
「まあまあだな」
 そう───義理の父親は、暖かな瞳で自分が昔に拾ってきた息子を見つめる。
 いつだったか、自分が捨て子だったと聞かされたのは。本当の息子ではないと聞かされたのは。
 当時こそショックを受けたものの、氷見の深い愛の元、徐々に受け入れていった。
 今や氷鏡の腕は日本一とうたわれる、その彼に「まだまだだ」といつも言う父、氷見は既に隠居のような生活をして、息子と二人道場を開き細々と過ごしていた。
 魍魎より何よりも、この父にこそ生涯勝てはしないだろうと、氷鏡はいつからか思っていた。


「のう、最近では大蜘蛛が人々を喰らって名のある陰陽師もやられているようだが」
 素朴な食事をしながら、いつものようにのんびりとした口調で氷見はある時、口を開いた。
「その噂なら聞いている。何故我ら親子は呼ばれないのか、些か疑問を持っていたところ」
 こちらは最後の一口を食べ終え、茶をすする、氷鏡。
「お前の腕が立ちすぎるのだよ、氷鏡。生まれもってなのか、そのお前の陰陽師としての力が、同業の妬みを買う。富も名声もない我らは後ろ立てのある彼らの前線に立つことは出来ぬだろうよ」
「妬みなど!」
 氷鏡は声を荒げて立ち上がり、落ち着かせるようにふうっとため息をつく。
「……愚かな連中だ。たかだか妬みのせいで罪のない人々が喰われて行く。人の命を粗末にしている。父上、俺は独りでも行く」
「氷鏡!」
 部屋を出て行く氷鏡には、父の諌めも届かなかった。
 個人の感情で人々を救う手立てから目をそらすなど、彼には考えられない。
 使える能力・人材があれば人の命を救うために使って何が悪い。
「……!」
 大蜘蛛がよく現れると噂の場所、その更に上の山に馬を駆けている時、ふと彼の脳裏に直接言葉が飛び込んできた。
<……封印>
 ノイズのように、断片的だ。うまく聞き取れない。
<宿命……それが、>
<───イヤだ!>
 全部一人の声なのか、複数なのかも分からない。
 気を取られていた彼は、前を横切ろうとする馬に気付かず慌てて自分の馬を止めた。危うく衝突を免れ、氷鏡は相手に頭を下げた。
「すまない。気がそれていた」
「こちらこそ。……気をつけて」
 どこか聞き覚えのあるその声に、ハッと顔を上げる。どこかで見たことのある少年だ。だが、どこで?
 考え込みながら、分かれ道を左に行く。
(駄目だ、この道は蜘蛛の罠が)
「?」
 自分の「中」から、声がする。不審に思っているところへ、馬が叫びのように嘶いた。見ると、見事に巨大な蜘蛛の糸に絡まれるところだった。
 急いで逃れ、馬が呑み込まれるところを見る暇もない。
 蜘蛛が上から急速に降りてくる。
「魍魎よ、自ら我が手によって朽ち果てるか!」
 氷鏡はだが、得たりといった風にその場を逃げもせず素早く指で印を結んでゆく。
(駄目だ、ここは駄目だ、もっと昇れ、道を!)
 そんな「自分の中からする声」にも気を取られないほど、彼は集中していた。
 ───別の、声を耳にするまでは。
「氷鏡……逃げろ……!」
 恐らくは、自分を追ってやってきた、氷見の姿。「お宮」直属の陰陽師や兵士達に捕らえられ、その身体は傷で血が流れていた。
「父上!」
 叫んだ氷鏡に、蜘蛛の足が振り下ろされる。
「くっ」
 転んで逃げた彼は、結び終えた印と共に右手を突き出した。蜘蛛の腹を光と共に貫いていく。
 その断末魔の叫びで、やった、と思った。同時に彼は、自分の死も悟っていた。
 氷見の声に気を取られたのが災いし、少しの隙を縫われて蜘蛛の足が氷鏡の心臓部をこれもまた貫いていた。
 転んだ、そのまま仰向けになる。
(だから───駄目だといったんだ)
「……お前の、名は?」
 彼は自分の中からする声に問いかける。海月、と帰ってきた。
 ああ、そうか───。
 唄が、聴こえる。騒ぎ立てながらやってくる陰陽師や氷見、兵士達の声も遠のいていく。
(お前───幸せだったか)
 その「中」からの問いに、氷鏡はうっすらと微笑む。ああ、と答えた。
 唄───どこからだろう。こんな唄は聴いたことがない。

 こぶしの花の咲く頃に ひとりは編み物してました ひとりは刺繍をしてました 誰かは童話をよみました
 こぶしの花の散る頃に ひとりはお嫁にいきました ひとりは教師になりました 誰かはいなかで死にました
 こぶしの花の咲く頃は みんなが笑っておりました みんなが唄っておりました みんなが夢見ておりました

 仰向けになった彼の頭上、澄んだ夜空に星が瞬いている。
 自分も今から、あの星のひとつになるのだろうか。
(こんな最期でも、か)
 その問いかけに、もう一度、「中」にいる「いつからか入って来ていたもうひとりの自分」に答える。
「それが、俺の運命(さだめ)ならば」
 不思議なほど、気持ちは穏やかだ。
 俺は───幸せだった、父上……。
 それが、
   彼の最期の意識。


■未来を切望する者■

 手の平の痛みで、海月は我に返った。
 ハッとする───風景は、元の2年B組の教室に戻っていた。時計を見ると、時間は3分程しか経っていない。
「海月さん!」
 すぐ目前に、真癒圭が泣いている。手の平の痛みは思い切り握り締めたその爪の痛みだと知り、これも視線の先で両膝をがくりとついたセレスティがいた。真癒圭も気がつく。
「セレスティさん!」
 真癒圭に続き、
「大丈夫か?」
 と、尋ねる。セレスティはゆっくりと自分達を振り向き、安堵したようにため息をついた。海月もまた、哀しい何かはまだ残っていたものの、真癒圭とセレスティが無事だったことにこみあげてくる涙を抑え込む。
 聞くと、二人ともそれぞれ別の世界に飛ばされていたらしい。
 海月は、恐らく江戸の世界。
 セレスティは、どこかの家と学校のある、現代とそう離れていない時代に。
 真癒圭は、戦国時代に。
「きっと、それぞれ私達の前世だったのでしょうね」
 セレスティが言うと、「ん」と、何かに気付いたような海月の声。
「なんだこれ?」
 そう言って海月が取り出したのは、小さな石だった。真癒圭も声を上げる。
「わたしのポケットにも、入ってました」
「……私のポケットにもです」
 何か、意味でもあるのだろうか?
 とりあえず、セレスティは下級生二人を安心させるような微笑みを作り、「一緒にお茶でも如何ですか?」と誘った。真癒圭も少し笑い、「はい」と同意する。海月も「ああ」と気のないようないつもの返事をした。
「でも結局、今回のことも謎だよな」
 言う海月に、
「まだ……『前哨戦』の続き、そんな感じがします。焦っては何もなりませんから」
 セレスティは穏やかに答える。
「わたし達は……誰かの夢の影響を受けている、そんな気はするんですけど」
 そこまで真癒圭が言い、扉に向かおうとしていた三人は、足を止めた。
 そこにいつの間にか立っていた生徒───繭神・陽一郎(まゆがみ・よういちろう)は、徐に口を開く。
「すまないけど……キミ達のその石、もらえないかな?」
 何故そんなことを言うのだろう? そんな三人の視線を感じたのか、彼は少し困ったように笑った。
「個人的趣味でそういう形の石を集めていてね。なかなかないものだから、是非譲ってほしい」
 そういえば、前回「夢」に引きずり込まれた彼らを一番最初に見つけ出したのもこの生徒会長だった。
 三人は顔を見合わせていたが、特に使うこともなく手がかりもなさそうだったので、繭神にそれぞれ石を渡した。
 繭神は微笑み、「ありがとう」と去っていった。
「じゃ、気を取り直して」
 セレスティが促すと、真癒圭はこくんと頷き、
「いくか、飯付きで」
 と、海月。
「海月さん、セレスティさんにたかるのは悪いよ」
 思わず笑う真癒圭と、「分かった分かった俺の分は自分で払うよ」と悪戯っぽく笑む自分を微笑みながら見つめているセレスティの視線を感じながら、海月は思うのだ。

 ああ───前世の自分、氷鏡。星にならず、「ちゃんと俺に」生まれてきてくれて、ありがとう───。





 to be countinued..............






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
1883/セレスティ・カーニンガム(せれすてぃ・かーにんがむ)/男性/3年A組
3629/十里楠・真癒圭 (とりな・まゆこ)/女性/2年B組
3604/諏訪・海月 (すわ・かげつ)/男性/2年B組






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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東瑠真黒逢(とうりゅう まくあ)改め東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。今まで約一年ほど、身体の不調や父の死去等で仕事を休ませて頂いていたのですが、これからは、身体と相談しながら、確実に、そしていいものを作っていくよう心がけていこうと思っています。覚えていて下さった方々からは、暖かいお迎えのお言葉、本当に嬉しく思いますv

さて今回ですが、幻影学園でのわたしの初のノベル、その続編になりました。このあと1〜2回でノベルに謎を残しているものが明らかになると思います(つまり、あと1〜2回目が最終章ですね)。
参加なさらなくてもわたしの出来上がってくるノベルを見ていただければ、「あの時はそれであんな風だったのか」と納得していただければ、幸いです。
今回は、それぞれのPCさまの前世と絡めて主張したいこともありましたので、半分ほど個別になっております。是非、ほかの参加者様のもご覧になってみてください♪

■セレスティ・カーニンガム様:連続のご参加、有難うございますv 前世での「最期」に見せる飛ぶ鳥を何の種類にしようか迷いましたが、結局は何の鳥にしても「彼」にとっては「思い出のうぐいす」とさせていただきましたが、如何でしたでしょうか? また、「彼」の名前も特に書かれておりませんでしたので、かえってこのほうがいいなと思い、ヘタにわたしが名前をつけるようなことはしませんでした。
■十里楠・真癒圭(とりな・まゆこ)様:連続のご参加、有難うございますv 今回は「男性を意識する」場面は、前回と同じメンバーだったため描写しませんでした。前世の黒豹の名前や姫の名前をどうするかこちらも悩んだのですが、やはりヘタに名前をつけないほうがと思い、このようになりました。鈴をいつもつけていたとのことでしたので、「鈴の姫」とか色々と呼ばせていましたが、如何でしたでしょうか?
■諏訪・海月(すわ・かげつ)様:連続のご参加、有難うございますv ちょうど前に書いたわたしのオリジナルの物語に陰陽師からの一族というものがあり、幸いにして海月さんの書いていらした前世の資料というかそういうものになるなと思いながら、思い出しながら書いていました。あまり氷鏡さんとお話が満足にさせてあげられなくて、すみません; ですが、きっと氷鏡さんというかたは、こんな人だったのではないかな……と、思ったのですが、如何でしたでしょうか?

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回はいわばその「半分伏線」とも言うべき作品となりましたが、皆様は如何でしたでしょうか。実は、御三方の「前世の最期」の部分に出てくる共通の唄は、わたしの母のそのまたひいおばあささんから伝わっている、口伝えの唄で、何かに使おうとずっとずっと暖めてきた大事な唄なのでした。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆