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<幻影学園奇譚・学園ノベル>


夏だ!気合いだ!根性見せろ!〜肝だめし編〜

◆臨海学校へ!

「やっぱり夏と言ったらコレじゃなきゃね!」
 バスの中、弾む声でニコニコと微笑むのは、
レクリエーション愛好会の会長である新堂・愛輔。
やたらと大きな荷物を抱えた彼は、なにやら人一倍このイベントを楽しみにしているようだった。
 このイベント…そう、『臨海学校』を。
学園からバスで海沿いにある専門の施設まで移動しての臨海学校は、
施設内で色々と学習した後、地引き網体験をしたり、ボートを使っての漁体験、
さらにビーチバレー大会や遠泳大会までありの盛りだくさんな内容だった。
 しかし…なんと言ってもメインイベントになるのは、
2日目の夜に行われる『肝だめし大会』である。
これは、宿泊施設の近くにある公園を一周し、
途中に置いてあるロウソクを取って来ると言うだけの単純なものなのだが、
そこはそれ、レクリエーション愛好会やその他の担当者達によって、
ありとあらゆる仕掛けを施してあると言うものなのだ。
 怪談が好きだろうが苦手だろうが、生徒達は強制参加となる。
しかも、何故か皆やたらと気合いが入っていた。
何故なら…クリアした者はそのタイム順に”ご褒美”が出るというのだ。
 響・カスミの提案するご褒美ゆえに期待はあまり出来ないであろうが…。
「さ〜!夏の一大イベントっ!腕がなるよー!!」
 愛輔は周囲の友人達に苦笑いされながら、張り切って腕を振り上げたのだった。


◆パートナー決定!

 公平を規する為に、肝試しのパートナー決めはくじ引きという事になった。
参加する全生徒の名前を書いた札を箱に入れて、教師がそれを引いて決める。
学年もクラスも性別もバラバラになっているために、
どこのどんな相手と一緒になるのかわからないと言う事でなかなかのサバイバルだった。
ある意味これも肝試しだと…誰かが言ったとか、言わなかったとか。
「なるほど…私は一番手というヤツですか」
 冠城・琉人は首から下げた金の十字架のアクセサリーを指でいじりながら、
張り出された組み合わせを見上げていた。
「相手は海原…みあおさん…クラスメイトですか…」
「はい…!あの…宜しくお願いします」
「ってうわっ…!い、いたんですかっ!?海原さんっ」
「あ、ごめんなさい!驚かせちゃって…」
「いえ、気付かなかった私が悪いんですから…」
 琉人はふっと口の端を上げ気味に、皮肉っぽい笑みを浮かべながら謝る。
しかしまあとりあえず、肝試しのパートナーが知っている相手で良かった、と。
「大人数のシャッフルくじ引きですが同じクラス同士というのも何かの縁ですね」
「頑張ります!宜しくお願いします!」
「こちらこそ」
 琉人は先ほどと同じような笑みを浮かべると、みあおと共に集合場所へと向かった。
そのすぐ横、でパートナー表を見ながら戸惑いの表情で立っているのは1年A組、橘・都昏。
どこの誰とペアになるのかわからないが、肝試しなどさっさとすませようと思っていたのだが…
ペアの相手は2年B組の数藤・明日奈。
「まさか…」
「何がまさかなんですか?」
「…っうわっ…す、数藤さん…」
「都昏くんとペアみたいですね。良かった…
私、昔から恐いのは苦手なんだけど…都昏くんと一緒だったら安心かなぁ…なんて…」
 明日奈は少し恥ずかしそうに頬を染めて小さく言う。
都昏は顔を赤くしたまま、口をぱくぱくさせたまま何も言えずに視線を彷徨わせる。
肝試しというシチュエーションに明日奈と二人で参加できると言うのは、
嬉しいような、少々どうすればいいのか戸惑いそうな気がする都昏であったが、
他の誰とも知らぬ男子生徒と組まれるよりはいいかもしれないと…
「へー、僕の相手は2年C組の鹿沼さんかぁ〜」
 不意に並んでいた二人の間からひょっこり顔を覗かせ表を眺めるのは、
3年B組の如月・縁樹。いつも相方…相棒の人形を連れて歩いている事で有名なのだが、
どうやら今日は部屋で待機でもしているのか一人だけのようだった。
「如月先輩〜!わたくしはここですわ!良かったですわ…女性の方で」
 そんな縁樹を見つけ、鹿沼・デルフェスが駆け寄ってくる。
「今夜は宜しく!楽しみだよね、肝試し」
「ええ…わたくしはカスミ先生のご褒美がちょっと楽しみですの」
「なんだろうね…ご褒美って。僕も楽しみかも。数藤さん達も狙ってる?」
「私はきっと無理です…都昏くんには迷惑かけてしまうかも」
「あ、いや…僕は別に賞は狙ってないし…」
「それでしたらライバルが減ってありがたいですわねv」
 にっこりと微笑むデルフェス。
それぞれ顔を知っている者同士ゆえに、雑談を交わしながら集合場所に向かう事となった。


◆肝試しへ!〜縁樹とデルフェス〜

 日も落ち、そこはかとなくまだ空は明るい感じがするものの、
それなりに暗くなった頃、肝試し大会は開会の言葉と同時にスタートを切った。
前のチームが出発して5分後に次が出発というやり方でどんどん進んでいくのだが、
途中で前を追い抜く事も、リタイアもOK!というルールである。
とにかく、スタートした後、真ん中の地点にあるロウソクを取って戻ってくる、
その間のタイムによって入賞が決まると言う事だった。
「どうやらわたくし達はしんがりのようですわね」
「そうみたいだね…なんだか一番最後って言うのも面白いかも」
 デルフェスと縁樹の2人は最後のグループとして出発する事となった。
担当の生徒が出発時間を記入すると同時に、2人は並んでコースへと進み出る。
 コースは宿泊施設のある建物から少し離れた公園の散歩コースを使っていて、
昼間だったら普通に景色の綺麗な森林浴でも出来そうな散歩道なのだが…
さすがに夜になると暗い。木々の間から何かが飛び出してきそうな雰囲気すら…
「如月先輩、わたくし肝試しというものをよく知りませんの」
「縁樹って呼んでいいよ。うーん…まあ、驚かす役目の人がコース内に隠れてて、
その中を通って何かあったらクリアしてゴールに進む遊び…かな」
「では不意打ち等に気をつけていれば宜しいんですのね」
―――どうやら二人の前には無意味のようだった。
「縁樹様、そこの木陰に誰かがいるみたいですわ」
「え?そうなの?」
『う、うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!』
 一つ目小僧なのだろうか。
和服を着て、大仏の被り物を加工して大きな目を描いているものを被った生徒が飛び出してきたのを、
2人はいたって冷静な表情で見つめる。それどころか、縁樹はまじまじと見つめ…
「それってどうやって作ったの?」
 ニコッと笑いかけながら質問するのだった。
脅かし役の生徒は、しばし固まった後でがっくりと肩を落として去って行く。
きょとんとした顔でその姿を見送り、再び歩き始めた。
 しばらく歩いた頃、目の前を白いものが過った気がして足を止める二人。
目を凝らすと、白いシーツのようなものが空中を浮遊しているのが見えた。
「あれどういう仕掛けなんだろう…」
「糸で釣っているのかもしれませんわね」
「でも糸とか見えないなぁ…凄く興味深いかも」
 興味津々といった感じで、縁樹は白いシーツの元に向かうとそれに手を伸ばす。
デルフェスもその横に並んで見上げると、狙っていたかのようにソレはぺちゃりと潰れ、
2人の上にばさっと覆い被さるようにして落ちてくる。
「あれっ…ちょっ…前が見えない…」
「縁樹様っ…いやですわ…そんなところ触っちゃ…」
「えっ、あ、ごめんなさい…ってあれ?出口どこなの…」
 2人がわたわたとシーツから逃れようと動き、そしてやっと顔が出た瞬間…
『ぺたり』
 ひんやりとして、尚且つぬめっとしたような、なんともいえない感覚の物体が首筋に当たる。
ぞぞっつと背中に何かが駆け上がってきて2人は一瞬固まった。
「な、なんかこの感覚…」
「首筋に虫のようなものが…」
「む、虫はイヤだぁっ!!!!!」
 縁樹は慌てて首筋をばたばたを叩きながらその場から逃げるように走り出す。
デルフェスも急いでその後を追いかけつつ自分の首筋についたものを冷静に解析していた。


 2人はいつの間にか中間地点に到着していた事に気付く。
ロウソクはもう一本だけしか残っておらず、すでに前を行くグループは全員ここを通過したらしい事がわかった。
「ああ、さっきはびっくりした」
「不意打ちは驚きますものね」
 明るい場所ゆえに少しリラックスしつつ、ベンチに腰を下ろす二人。
ここで少し休憩してゴールまでスパートをかけようかという話をしていたのだが…
『あ、あのぅ…』
「!?」
 突然、背後から何者かに声をかけられて驚いてほぼ同時に振り返る。
そこには疲れきった顔をした学園の生徒、先輩である玲於奈が立っていた。
「ど、どうしたんですか龍堂さん?」
「確かお化け役をしていらっしゃったはずでは…?」
「あ…いやそのっ…その通りなんだけど…なんていうかちょっと休憩してる間に迷っちゃって」
 そう言いながら視線を彷徨わせる玲於奈は思いっきり挙動不審だった。
「良かったら一緒にゴールまで行かない?」
「え?僕は別に構わないけど」
「わたくしも構いませんわ。失格になったりしませんわよね…」
「だ、大丈夫!それはほら、あたしがちゃーんと説明するから!ね!」
 縁樹とデルフェスが同行をOKすると、玲於奈はほっとしたような、
嬉しそうな顔で2人の肩をポンポンと叩いて笑いかけたのだった。

 そして結局、そのまま3人揃ってゴールする事になったのだった。
後半は畳み掛けるように次々に仕掛けやお化け役の生徒達が出てきたのだが、
縁樹とデルフェスの反応があまりにも薄い為に、飛び出してもすぐに引っ込んでしまったりするのだった。
ただ、玲於奈だけはひたすら2人の後ろに隠れたままで目を閉じていたとか…
いつの間にやらそこには誰も…いなかったとか。


◆結果発表!

 肝試し大会の全てが終り、広場に集合した生徒達は、
それぞれ自分達のクリアタイムの結果発表を心待ちにしていた。
いや、まあ実際、心待ちにしていたのはごく一部の生徒だけのようであるが…。
「皆さん!お疲れ様でした〜!」
 響・カスミが少し高い台の上にあがってマイク片手に声を張り上げる。
ざわついていた生徒達はぱらぱらとそちらに目を向けた。
「まず最初にお化け役の皆様にチーム賞を贈りたいと思います〜♪」
 ざわっと部分的に生徒達がざわついた後、カスミの口から発表されたのは…
「新堂・愛輔くん率いるSチームと、月神・詠子さん率いるDチームです!」
「おおおお!!やった!!やったぜっ!!」
「やった〜〜〜〜〜!」
 声を揃えて、鎮と愛輔は喜びハイタッチ。
その脇には真っ白に燃え尽きている玲於奈が、由紀に介抱されながら立ち尽くしていた。
玲於奈はコース内の社に隠れているのを参加者に発見されて、
由紀が迎えに行き、なんとかSチームが揃う事が出来た。
そして並んで意気揚揚と表彰台へと向かうと、同じく表彰されるDチームのリーダーの月神・詠子と目が合った。
「おめでとう。キミ達なかなか良かったよ」
「この鎮特製の”びっくりゾンビくん”に敵はないっ!」
「そうそう、そのゾンビくん。面白かった」
 詠子はニコニコと笑うと、ゾンビくんの肩の部分を数回叩いて鎮に笑いかける。
鎮は嬉しそうに微笑んで自慢げにそのゾンビくんをぐっと空へと突き上げた。
「龍堂先輩もお疲れ様でした」
「えっ…あ、そ、そうね…お疲れ様…」
「走って疲れたんじゃない?待つ間暇じゃなかった?」
 詠子は玲於奈にもそう言って笑いかけると、踵を返して表彰台に向かう。
まるで自分の事を見ていたような発言に首を傾げつつも、まあいいか、と、考える事はやめることにする。
「さてさてっ!次は参加者の皆さんの順位発表です!」
 すかさずカスミは次へと司会を進行していく。
リタイアしたり反則したグループもいたらしく、それらを除外してのタイムを比べて、
早い方から3チームまでが入賞と言う事だ。
「…それでは発表しますっ!まず第三位っ!如月縁樹さん&鹿沼デルフェスさんチーム♪」
「ええっ?意外と早かったんだ…僕たち」
「三位でカスミ先生のキッスはいただけるのでしょうか…不安ですわ」
「…次に第二位!!数藤明日奈さん&橘都昏くんチーム♪」
「私たち…二位に入れたみたいですね…」
「最後が特に早かったですから…」
「―――そして栄えある第一位は……草間武彦くん&因幡恵美ちゃんチームでした♪」
 名前を呼ばれた6人は口々に呟きながら表彰台へ向かう。
呼ばれなかった者たちは、囃し立てたりからかったりしながら拍手でそれを見送った。
「では皆さんには商品をプレゼントしますね」
「食べるものとかだったらいいな」
「楽しみですわ…わたくしはカスミ様のキスさえあれば…」
「私は何もしてないですから…都昏くんがもらって下さいね?」
「いや、僕は別に…興味ないし…」
 表彰と賞品の授与を待っていた面々に、カスミはニッコリと微笑みかける。
そしてマイクを通して、声を大にしつつ…
「お化け役の受賞のご褒美は帰りのバスのカラオケ選曲優先権プレゼント!
参加者の受賞のご褒美は歌のテストを自由に選んでいい権プレゼント〜〜〜♪」
 実にテンション高く、「いいでしょう!?」と自信満々で嬉しそうに言うカスミに対して、
会場からはブーイングの嵐と、燃え尽きたお化け役の冷ややかな視線があった事は言うまでもない。




◆終◆

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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1年A組
【2320/鈴森・鎮(すずもり・しず)/男性】
【2576/橘・都昏(たちばな・つぐれ)/男性】
2年B組
【3199/数藤・明日奈(すどう・あすな)/女性】
2年C組
【1415/海原・みあお(うなばら・みあお)/女性】
【2181/鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)/女性】
【2209/冠城・琉人(かぶらぎ・りゅうと)/男性】
3年B組
【1431/如月・縁樹(きさらぎ・えんじゅ)/女性】
3年C組
【0669/龍堂・玲於奈(りゅうどう・れおな)/女性】

NPC
【***/神城・由紀(かみしろ・ゆき)/女性】
【***/新堂・愛輔(しんどう・あいすけ)/男性】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ。この度は『幻影学園奇譚』肝だめしイベントに参加いただきありがとうございました。
今回は皆さん、高校生で登場と言うお話でしたのでいつもと少し違う雰囲気で、
高校生らしいイメージになるように執筆させていただきましたが楽しんでいただけましたでしょうか?
また、肝試し大会の脅かし役と参加役にわかれての参加と言う展開だったので、
鈴森様は橘様と数藤様、如月様と鹿沼様のシナリオにて脅かしております。
龍堂様は冠城様と海原様のシナリオで脅かし、如月様と鹿沼様のシナリオにも登場しております。
 それぞれ読み比べていただくと、よりいっそう楽しめる…かもしれません。
執筆していて皆様とても個性的で楽しませていただいたので、
肝試しにこだわらず、臨海学校全般的に書きたかったな〜と思ってしまいました。(^^)

幻影学園奇譚に関しては次にシナリオを展開するかどうかは未定ですが、
もしまた高校生の皆様とお会いできるようでしたら…お会いしてみたく思います。
またいつかどこかでお会いできるのを楽しみにしております…。


:::::安曇あずみ:::::

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>