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<幻影学園奇譚・学園ノベル>


回り灯篭
「ねえねえ、盆踊り大会行かない?」
 突如そんな言葉を投げかけられ、見ると刷ったばかりかインクの臭いの強いパンフレットを持ったアイドル――その違和感は強いが、SHIZUKU自体は全く気にする様子が無く、薄い紙を廊下を通り抜ける人々に配り歩いている。それも「盆踊り」という、どちらかと言うと若者向けではなさそうなイベントに嬉々としながら。
「…何か楽しいことでもあるの?バンド演奏があるとか」
「やあねえ、そんなのあるわけないじゃない。ご先祖様の霊が戻って来る日なんだから」
 あっけらかんと言う彼女に、通りがかった生徒が一瞬だけあっけにとられ…そして彼女のもう1つの姿に納得して、苦笑いしながらパンフレットを受け取る。
 怪奇探偵クラブ――文字通り、怪奇な噂を追い求める特殊なクラブに所属する彼女が、『霊』という言葉に飛びつかない筈が無かった。
「…ボクにも1枚くれないか」
 その時、何気なく通りがかった生徒がSHIZUKUについと手を差し出す。
「おっ、分かってるね詠子ちゃん。そうなのよ、これはちゃんとした盂蘭盆会の儀式なんだから、精一杯楽しまないと!」
 はいどーぞ、と紙を配りながら歩き回るSHIZKU。興味深そうにそのパンフレットを読み進める月神詠子が、
「どうしてお面がいるんだ?」
 不思議そうに聞く。
「強制じゃないけど、お面って被っていると誰が誰だか分からないでしょ?ご先祖様がスッピンで来たらすぐばれちゃうじゃない。だからね、あたしたちもそうやってご先祖様が入りやすい状態にしてあげるのよ」
「ふーん」
 感心したように頷く詠子に、おいでよ、ともう一度声をかけると、
「ねえねえ、盆踊り大会行かない?」
 再びそう言いながら、楽しそうにパンフレットを配り続けた。

***

「盆踊り大会…ねえ」
 ふぅん、とパンフレットを受け取りながら考え込むシュライン・エマが、熱心に配り続けているSHIZUKUに近づき、
「これって、色々準備とかあるんでしょ?何か手伝わなくてもいいの?」
「手伝い?うーん」
 訊ねると、一旦配る手を止めて首をかしげる。
「もうほとんど終わってるし、後は当日の設置くらいだけど。グラウンドが空くのが夕方以降だから、ちょっと忙しいのよね」
「だったら手伝うわ。何か出来そうなの、ある?」
 SHIZUKUがシュラインを眺めて少し考え込み。
「それじゃあ、入り口に灯篭立てて、後は灯りの提灯の配列を見てくれる?学校側のは燃えたら危ないっていうので全部電気仕掛けなんだけどね」
「分かったわ。それじゃあ、当日の放課後にそっちの教室に行くわ」
「うん。待ってるね」

 ――放課後。ついでにこのまま出てしまおうと紺基調の花柄の浴衣を着、帯におかめの面を挟んでぱたぱたとSHIZUKUの待つ教室へと向かう。
 そこで手渡されたのは、高校用に開かれているいくつかの門それぞれに立てる盆灯篭だった。細長い電球と長いコードが艶消しだったが、校内で行う以上は仕方ないかと半分諦めて、それらを一抱えにし、他の係員にも手伝ってもらいながら『門』を設える。それから、あちこちに仕掛けた提灯の灯り具合を見…そうこうしているうちにやぐらもどんどん手際よく作り上げられて行った。
「ありがとー。後でちょっとしたイベントがあるの。見てくれると嬉しいな♪」
 こうして皆に混じってぱたぱた動き回っているSHIZUKUは、世間で噂されるようなアイドルにはまるで見えない。寧ろこっちの方がしっくり来るのは、彼女を一般人と同じように見ているからだろうか。
 そんな事を思いながら、彼女と別れてそろそろ増え始めた盆踊り大会へやって来た生徒達を眺める。その中に隣のクラスの緋玻の姿も混じって見え、その手にある狐面に似合うな、と思いながら近寄って声をかけようとしたその時。
 からん、ころん。
 …あら、下駄?
 浴衣を着てもサンダルがほとんどな中で、クラシックな音に耳を向けると、そこには左右でまるで色合いの違う浴衣を着たみあおが興味深げにきょろきょろと周囲を見回していた。…緋玻の方は、その間にすっかり見えなくなってしまっていたが。
「あら、あんたも来てたの?」
 近くのクラスの友人と見て声をかける。くるっと振り返った彼女は知り合いの顔を見つけてにこりと笑い、
「あ、シュラインも来たんだ。こんばんは」
「はい、こんばんは」
 昼間にも顔を合わせている筈なのに、何となく丁寧な挨拶を交わし、そして周囲を見渡した。
「思っていたよりも賑やかね。高校主催で生徒メインだったらどうなるのかなって心配したけど、杞憂だったみたい」
「そうだよね。あんまりおじちゃんやおばちゃんもいないし」
「…その浴衣、随分変わってるわね。手作り?」
 ちらちらと眺めてみてもその独特な作りに堪えきれず聞いてみれば、こくこくと大きく頷いてにっと嬉しそうに笑い。
「お父さんが作ってくれたの」
 ほらほらー、と白に羽根の模様と、逆に縦半分にすぱんと切り取って月夜を模した黒生地を見せびらかす。
「お面まで凝ってるのね」
 提灯の用意もしてあるのを見て、小さく笑いかけると、
「ご先祖様や他のひとも来るなら、楽しんでもらいたいじゃない?こんなに賑やかだとは思わなかったんだけどね」
 当てが外れたと言う風な顔をするみあお。
「…まだ盆踊りは始まらないのね」
「そうだね。――ねえ、先に屋台廻ってみない?」
「それは良い考えね。まだ夜でも暑いし、何か冷たいものでも食べたいわ」
 ぱたぱたと手で顔を仰ぎつつ、シュラインが言い。おっけー、と楽しげに言ったみあおが連れ立って歩き出した。
 その途中、この学園では珍しくないものの、やはり日本人に比べると数の少ない金の髪が目の端に映り、そのまま2人が視線を動かした。
「おや。こんばんは…お2人ご一緒でしたか」
「こんばんは。――あ、先輩それかき氷ですね?」
 爽やかな笑みを浮かべる1年上の先輩に2人がぺこんと挨拶をすると、シュラインがすかさず手に持っているカップに目を向けた。
「ええ、屋台を見回っていましたらフラッペがありましたのでひとつ買って来ました。青さんが作ってたんですけどね、こっちには気付かなかったみたいです」
 影薄いですかね…と小さく笑ったモーリスが、それでは、と手を振って2人と別れて行き。
「シュラインのクラスだよね?確か」
「そうよ。へえ、部活参加してたんだ。…行ってみようか?」
「うん、行こっ」
 みあおの手の中にある提灯が潰されないよう気を付けながら行ってみると…随分と古めかしい器具と格闘している青の姿が、並んで買っている生徒達の向こうに見えた。
「忙しそうね」
「…それに混んでるね。あたし2人分買って来るからこれ持ってて。何がいい?」
「そうね…それじゃレモンお願い」
「うん」
 提灯を押し付け、からころ音を立てつつ並んで買いに行く様子を眺めていると、やはり混んでいるらしく暫く待った後でようやく2つのカップを手にみあおが戻って来た。
「やっぱり気付かなかったみたい。全色で頼んだのに」
 そう言うみあおのカップは、シュラインの薄い黄色とは違いサーカスのテントのような色合いに染まっていた。

***

「そろそろ踊りが始まるみたいね」
「ほんとだ。――あっ、青ー、美味しかったよ」
 交代の時間になったか、店から出歩いていた青にみあおが声をかける。その声に気付いて青が身体の向きを変えた。
「来ていたんだ」
「シュラインもいるよ?かき氷注文したのに全然気付いてないんだもん。モーリスも買ってたし…」
「……そりゃ悪かった」
 隣で、うす黄色い氷を突き崩していたシュラインがくすくす笑う。
「緋玻に宜しくね」
「ああ」
 確か、緋玻と青は血縁者に当たる筈、と思いつつ言うと、青が言葉少なに答え、2人とは別の場所へ行くらしく別れ際に手を上げてくるりと背を向けた。
 去って行く青には構わず、また2人で世間話に興じながら盆やぐらの下で踊っている生徒達の方へと歩いて行く。
 その時、おぉぉぉっっ、とどよめきが聞こえて、その音に釣られてシュライン達も無意識に声を追いやぐらを見上げた。…そこに。
『みんな、ノッてるぅ〜!?』
 SHIZUKUが、やぐらのてっぺんからマイク片手に大声を張り上げていた。通りの良い声がきぃんとスピーカーに反響しつつ会場全体に行き渡る。
『今日はねえ、ご先祖様にも喜んでもらえるようにセッティングしたの。一気に行くよーっ』
 恐らく事前にこういった用意がなされていたのだろう。とは言え、太鼓に横笛、残りはテープで補うと言うものでしかなかったが、それは――SHIZUKUの新曲を祭ふうにアレンジしたダンスミュージックだった。
 …ざわ…
 最初戸惑っていた生徒達も、ノリ良いリズムに触発されたか綺麗な輪になりながら踊り出す。その様子を満足げに眺めていたSHIZUKUが、時折起こる歓声に上機嫌で手を振りながらやぐらの上で歌っていた。
「やるね〜」
「完全に和風にアレンジしてるわね」
 流れる曲と声は耳に馴染む懐かしいもので、この場の雰囲気に調和している。
 見れば、となりのみあおが踊りの輪を見ながら何となくうずうずしている様子。遠慮しなくていいのに、とぽむっと彼女の肩を軽く叩いて笑いかけた。
「荷物持っててあげるわ。…行きたいんでしょ?」
「シュラインは?」
「私は見物」
 言うなり、相手からの反論を待たずおかめ面を被り、そしてその内側でくすくす笑う。
「いいから、行ってらっしゃい」
「ありがとう…じゃ、じゃあこれお願いね」
 シュラインに提灯とカップを預け、輪の中へ躊躇無く飛び込んでいった。カップの方はほぼ空で、自分のに重ねながら、たどたどしく踊り始めたみあおが戻る前に捨てて来ようと周囲を見回し、各場所に設置されたゴミ箱を見つけて時折みあおに目を向けながら其処へと近寄って行く。

「悪戯は良く無いよね」

 不意に。
 何処から聞こえたのか良く分からないのだが、そんな声が耳に届き。
 その声に導かれるように目を向けると、何故だか少し放心したようなモーリスの姿があった。

 ――曲はまだ続いている。そのまま見学にまわっても良いが…と思いつつ、SHIZUKUの歌を耳に聞こえるままに小声で口ずさみながらぶらぶらと戻って行く――その目の隅に、会えたらしい緋玻と青の姿が見えた。何を話しているかは分からないが…狐面を被ったままの緋玻の雰囲気は、いつも知っている彼女とはどこか違っていて…。
 …その違いが頭の中で確たるモノに至る前に、するりと逃げ出してしまうのが何だか酷くもどかしかった。
 ゆっくりと最初いた場所に戻り、面を被ったまま、その小さな視界で会場をゆっくりと見渡す。
 それはどこか幻想的な風景だった。
 まるで――夢のような。
 丁度みあおが一周したところで曲が終わり、誰かと話していたみあおがこちらを向くのに合わせてぱちぱちと拍手を贈り…表情は分からないながらどこか満足げな彼女へと手を振った。

***

 そろそろ帰る者が出始め、人が次第に減って行った頃。校庭の隅でほんのりと瞬いている灯りが目に付いた。
 その灯りは、遠いような近いような…好奇心をくすぐらずにはおれない複雑なパターンで瞬いていて、なんだろう、と思わず足を向ける。
「あら」
「あ」
「ん?」
「おや」
 その途中でばったりと行き会った数人が、同じものを目指していると互いに気付き少しくすぐったそうな顔をした。
「あらあら、どうしたの皆。そんなにSHIZUKUちゃん特製の回り灯篭が見たいの?」
 その後ろから更に元気な声が聞こえ。続いてぱたぱたと足音と共に寄って来たのはSHIZUKUと、途中で行き逢ったらしい詠子の2人だった。
「え…SHIZUKUさんも作ったんですか。私もですね、面白そうな風習という事でこんなものを作ってきたんですよ」
 手に持ったままだった盆灯篭をにこにこ笑いながら皆に見せるモーリス。
「それ、入り口に立てて置けば丁度いい目印になったかもしれないね」
 ひと目見て何を持っているのか分かったらしいSHIZUKUがモーリスへにこりと笑いかけ、
「そういうものなんですか。私はまたてっきり水に流すものかと思っていました」
「流す行事はあるけれど…その前に『それ』は流れないと思うわ」
 シュラインが少し困った笑みを浮かべながら、言葉を選んでモーリスへ告げる。
 紙を貼った逆さの円錐形に木の柄を付けた盆灯篭は、盆の行事にある意味欠かせないものではあるのだが…少なくとも水に流す物ではない。
「残念です…」
 しょんぼりとしたモーリスを慰めるように、何処に用意していたのかSHIZUKUが「はい」と小さな蝋燭を差し出し。
「大丈夫、その辺りに立てて置けば良いよ。まだ終わりじゃないし、このくらいの蝋燭の大きさならイベントが終わる前に消えちゃうから」
 その言葉に押されてモーリス手製の盆灯篭が立てられ、その傍でくるくると回転している廻り灯篭へと皆が近づいていった。…気のせいか、気配が増えたような気がしたのだが…人数が増えたようには見えないまま。

 ――ゆうらり、ゆうらりと。

 走馬灯が、回る。

 SHIZUKU手作りなのか、内側からほんのりと灯りが漏れ、和紙に描き、色を付けて描いた模様がくるくると周り、踊り出す。蝋燭を使用しているのだろう、内側からも揺らめく灯りが幻想的な雰囲気を醸し出して覗き込む者の顔をぼぅ…と下から照らし上げ。
「シャッターちゃーんす!」
 ぱしゃっ、と陽気な声を上げたSHIZUKUの手によって、時ならぬお化け屋敷のような形相がフィルムの中に巻き取られていった。
「やだ、何するのよぅ。変な顔で写っちゃってるでしょー」
 みあおがすぐさまその場から一歩飛び退り、その後で口を尖らせた。
「綺麗に写ってたら焼き増ししてあげるよ」
「いらないわよっ」
 みあおの声に、くすくす笑い声を上げたのは誰だったろうか。
 集まった人数さえ定かではない、そんな『場』で。
 ただ――悪意らしきものは、かけらも感じなかったけれど。

***

「さあて、後始末しないとね」
 三々五々帰り支度をして家路に付く生徒達を見送りながら、SHIZUKUが門の近くに置いておいた枯れ枝のような物を取り出した。
「遊びに来てくれてありがと。…またおいでよ」
 苧殻をぱきんぱきんと折りながら、SHIZUKUが灯篭の置いてあるすぐ近くにそれを重ねていく。
「お疲れ様でした。あたしも楽しかったよ」
 しゅっ、と小さな火が手元に生まれ。
 そして――薄い煙になって、空へと立ち昇っていった。
「――SHIZUKUはまだ帰らないの?」
 苧殻の火の始末をしているSHIZUKUが、そのまま会場へ戻ろうとするのを見てみあおが訊ねる。
「あたし実行委員でもあるから、最後の確認だけはしておかないとね。大きなものはほとんど片付いたし、後は見回るだけ。…ありがとう。皆が来てくれて嬉しかった」
「こっちこそ、なかなか楽しかったわ。ねえ?」
「…ああ…まあな」
 緋玻の言葉に青がこくりと頷き。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「またな」
 詠子とSHIZUKUが見守る中、それぞれが自分の家へと戻っていった。…夢のような一夜を過ごした後で。

***

「…ボクに縁のある人は来なかったみたいだね」
 後片付けをすれば、何も無くなってしまうグラウンド。捨てられて残った紙屑がかさついた音を立て、物悲しさを強調する。
「皆が皆来たわけじゃないし。そんなことしてたらこの学校じゃ全然足らないよ」
 くすっと笑いながら、頭にちょこんと乗せていた面を外すSHIZUKU。その頬は紅潮し、目はきらきらと満足げに輝いていた。
「SHIZUKUは楽しめた?」
「もっちろん楽しかったよ。年に1回しかないんだもの。…詠子ちゃんはどうだった?」
「そうだね」
 ほんの少し、小首をかしげ。
「楽しかった、かも」
 その答えにくすくすとSHIZUKUが笑う。
「詠子ちゃんってさ」
「うん?」
 にーっ、と意地悪気な笑みを浮かべ。
「とっても素直だよね♪」
 とても無邪気な――ブラウン管の向こう側で良く見かける『純真』な顔を向ける。
「――え…えっ、ボクが?」
 イベント用の灯りを取り払った後は、グラウンドの端に設置されている灯りがあるのみ。その薄暗い場で、詠子はさっと頬を染めた。
「いただきっ」
 ぱしゃり。
「あっ」
 うろたえてどうリアクションして良いのか分からずに居た詠子の顔に、フラッシュが焚かれた。瞬間目を閉じたものの、再び目を開けて見ると嬉しそうににこにこ笑うSHIZUKUがそこにいて。
「最後の一枚、余ってたんだ。学園祭のコンクールに出す写真をずっと撮ってたの」
 でもコレはあたしのお友達コレクション――と楽しげに笑いながら手元のカメラを振る。
「もう…びっくりしたよ」
「んー、だって詠子ちゃんの照れた顔なんて滅多に見れそうもないんだもん。あ、でも不意打ちは不意打ちだから怒ったらネガごと返すよ。驚かせちゃってごめんね?」
 普段、アイドルと言うもうひとつの顔を持つSHIZUKUのこと。自分がしょっちゅうシャッターチャンスを狙われているのを知っているだけに、勢いに任せて撮ってしまったことを後悔しているらしく、神妙な顔で詠子を見る。
「――ううん」
 ふるふる、と詠子が首を振って小さく笑みを浮かべた。
「ボクは構わないよ。…SHIZUKUの思い出になるんだよね?それ」
「当たり前じゃない。あたしはこういうのちゃーんと整理するんだから。自家製でHPだって作ってるのよ?」
「…やっぱり怪奇系かな」
「とーおぜん」
 ふむん、と胸を張りながら「あっそうだ」ところっと表情を変えると、
「来年もやるから、詠子ちゃんもまた参加しなよ。忙しくても息抜きにね」
「…来年か…そうだね」
 また、来年も変わりなくこの行事を行えるように。
 にこり、と詠子が笑いかける。
「帰ろうか」
「そうだね。…SHIZUKUの家って何処だっけ?」
「あたしはねー…」
 実行委員がまだ数人残っているのを除けばもう生徒の姿は無い。
 その中を、声だけが遠ざかって行く。

***

 誰が忘れたのか、
 燃え尽きた蝋燭がこびり付いた回り灯篭が、斜めに傾いだまま其処にあって。
 僅かな風に、ゆっくりと、ゆっくりと一回転し…そして、カツリと何かに引っかかったように動きを止めた。
 いつ、この場に来ていたのか。
 その灯篭へ伸ばされた白い手が、大事そうに其れを持ち上げる。
「…来年…か」
 最早表情も見えないその暗がりに響いた声は、酷く平坦で。
 ――そして…ひやりとした冷たさを含んでいた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】

【0086/シュライン・エマ /女性/2-A】
【1415/海原・みあお   /女性/2-C】
【2240/田中・緋玻    /女性/2-B】
【2259/芹沢・青     /男性/2-A】
【2318/モーリス・ラジアル/男性/3-A】

NPC
SHIZUKU
月神詠子

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■         ライター通信          ■
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お待たせしました。「回り灯篭」をお届けします。

盆踊り大会、特設ステージと言った感じでNPCの雫さんに歌っていただきました。
今回は物語の核心部には全く触れていません。が…ほんの少しずつ、綻びが出て来ているような…そんな雰囲気を感じ取って下されば幸いです。

『夢』の終わりまであと1ヶ月。宜しければまたお付き合い下さい。

間垣久実