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【熱戦! スーパー障害物競走】
相変わらず神様貴様俺らを殺す気ですかと草間武彦がぼやくくらいの激暑であるが、スポーツ少年少女が内から発揮する『熱』はそれを遥かに上回る。彼ら彼女らは神に勝っている。
グラウンドからも体育館からも声出せ力出せ気合出せの連呼。皆、ただひとつ目標に掲げる夏の祭典インターハイ。優勝のためならば、チームのためならば、どれほど体を痛めつけても構わない。それは憎らしいまでの若さや情熱といえた。
そして、その中でも最も熱いとされる種目があった。
名をスーパー障害物競走という。
行く手を阻むのは魑魅魍魎。しかも、競争相手すら障害になるのがスーパーの由縁である。つまりゴールを目指すためにバトルを繰り広げなければならない。近年隆盛を極めているそうだが、誰が何のために設立したかは闇の中である。
ザシャアッ!
ともかくここにスーパー障害物競走部の面々が集う。まずはこの神聖都学園で行われる都大会の優勝を目指して!
熱狂する観客たち。パラッパとラッパが鳴り響いて入場行進。
続いて、スーパー障害物競争運営委員会東京支部の暑苦しく長々しい挨拶。
そして、グラウンドに雄々しく立つ4チーム。
――あまりに過激過酷強烈な競技のため、参加校は少ない。したがって第1回戦が自動的に決勝戦となる。隆盛を極めているというのは誰かの妄言かもしれない。
「これに勝てば全国だね……」
神聖都チーム、龍堂玲於奈はしみじみと言った。長く苦しい戦いの果てにここに辿り着いたかのようなセリフである。
「何かワケわからんもんやってんなぁって思ったけど、燃えてきたな」
暇潰しにちょうどいいか――五代真はそんな参加理由でメンバーになったが、今ややる気満々である。
「しかしバトル、いいねぇ! ここんとこ喧嘩やってないんで憂さ晴らし肩慣らしにゃ丁度いいぜ。あんたもそうだろう?」
「まあね」
最後のメンバーである月神詠子は無感情に言った。表情の変化が少ない彼女だから、かすかに笑ったのかもしれなかった。
「戦いは胸が高鳴るね。どれだけボクを楽しませてくれるのかな」
スーパー障害物競争は、様々な障害物(魑魅魍魎)が待ち受ける1周400メートルのトラックを、1チーム3人によるリレー方式で走り抜けるのである。つまりこの都大会の参加者は12人。――繰り返すがスーパー障害物競争は過激過酷強烈な競技のため、参加者は少ない。
1.道具の使用禁止。
2.コース途中の魑魅魍魎は必ず倒してから進む。空飛んでやり過ごすとかは禁止。
3.競争相手の妨害をしてもよい。
あとはこれらのルールを遵守すればいい。「比較的単純だが奥が深い」とは主催者側の言である。
「ではこれよりスーパー障害物競争東京都大会を第1レースを開始いたします!」
運営委員会長が堂々と宣言した。いよいよスタートの火蓋が切って落とされようとしている。
アスリートたちがタスキを掛けて、スタートラインに並ぶ。
神聖都チームは第4コース。最初の走者は龍堂玲於奈である。女性離れした筋骨隆々とした体。気弱な人間は見るだけで萎縮するだろう。
1コースは大市学園、2コースは代仁学園、3コースは打衣参学園。
この他チームの3人もこの荒唐無稽荒行レースの出場者だけあって、相当の強者に間違いはない。
だが体が震えている。この女は何者だと3人が3人、内心で呟いた。
玲於奈はスタートラインに並ぶ直前に、身に着けていた鋼鉄の腕輪を外した。するとどうだ。玲於奈の全身から信じがたい気が発せられた――と錯覚するほどの威圧感。
普段、彼女は自らの力を封じるために件の腕輪をはめているが、それを1度外せば――怪力という表現では追いつかない神力を発揮する。戦闘力のみならず、およそ力の関係してくるものならどんなものにでも秀でた才能である。
場はすっかりひとりの女傑に飲まれ――時が来た。
トラックの内側にはタイム計測用の電光板が設置されており、丸いランプが4つ取り付けてある。
一番上のランプが、今灯った。
パ。
パ。
パ。
パーン!
観客が歓声を巻き起こす。4人は一斉にスタートした!
……と思いきや、玲於奈はいきなり転んだ!
「ああ! 何てことすんの!」
少しでもハンデをとっておきたいと目論んだ3コースの走者が足を引っ掛けたのだ。玲於奈は即座に立ち上がり、怒り心頭でダッシュする。
「卑怯じゃないの!」
競争相手の妨害をしてもよいというルールを忘れている。
悲鳴が上がった。
3コースに、おどろおそろしい緑色のスライムが出現していた。走者は拳を繰り出したが、あえなく体ごと飲み込まれた。彼はもがくが一向に脱出できない。息が苦しいのか、両腕をクロスしてバッテンマークを作った。テントから救急隊が出動した。
打衣参学園、早々と脱落である。
「あたしの足をかけた罰だね」
と、玲於奈の前にも地から生み出たスライムが立ちはだかった。色は赤い。
障害は玲於奈を見るや、大口を開けて飛びかかってきた。
「はん、なめんじゃないよ!」
玲於奈はスライムから離れたまま拳を繰り出す。
ゴウ!
風船を割ったような音。スライムは粉々にはじけた。拳から発せられた衝撃波が、敵の体を貫いたのだ。
「よっし、突破!」
スライムの残骸を踏みつけ、再び駆ける。
大市学園と代仁学園は何とか最初の障害を越えたようで、先を走っている。
残り200メートル。スタート地点を見やると、すでに2番目の走者がスタンバイしている。
残り100メートル。障害は……出てこない。
最後にどーんと出てくるよね、と思ったまさにその時。
「キキキキキー!」
色とりどりの小鬼がズラッと宙から現れた。一列に連なって一様に笑い、鋭い牙を覗かせる。
常人なら恐れおののくその光景に、むしろ闘争心が高まった。
「出たね〜、おとなしく冥府に逆戻りしなさい!」
玲於奈は右腕の筋骨をきしませて、豪快に振り回す。
バシーン!
ドカーン!
ボボーン!
観客席まで響くほどの快音轟音とともに、鬼どもをバッタバッタとなぎ倒す。
辺りは赤く染まろうとしている。血湧き肉踊る怒涛の地獄絵図である。
「あはははははははは!」
まったく敵ではない。玲於奈は雄叫びを上げ拳を繰り出し、ついに最後の赤鬼をぶっ飛ばした。霧散していく鬼たち。
残り20メートルの地点で、1コース2コースの走者をかわす。彼らは力を使い果たしたのか、目が虚ろで足もフラフラだ。玲於奈の一歩一歩がグラウンドを震わせ、何度も転んだせいもある。
「任せたよ!」
「ご苦労さん! 一番手に躍り出たぜ!」
2人目のランナー、五代真にタスキを手渡す。
爽やかな笑顔でコースを走る真。大市学園と代仁学園が後を追う。
しかしメチャクチャなレースだ、と真は思う。ここでひとつの言葉が頭をよぎる。
「勝てば官軍、だな。ルールでも認められてるし!」
真はズボンをまさぐった。こういう時のためにコンビニレシートが忍ばせてある。
――これに念を込めれば、まきびしの出来上がりである。
そして、こっそりと1コース2コースにばらまいた。
「いだあああああ!」
間もなく痛そうな声が後ろから聞こえてきた。
愉快愉快、と顔をほころばせる真。その時。
グオオオオ!
とてつもない咆哮に学園全体が震撼した。
目の前には巨大な髑髏竜が地から現れていた。
「おいおいおお! 冗談じゃねえ」
真は一瞬目を閉じて念じ――封印を解いた。
掌から輝かしい刀が出現する。
退魔宝刀『泰山』。
道具が使用禁止であることは無論頭から漏れてはいない。しかし注意のアナウンスは流れない。
どうやら遠目には、真が無から具現化した精神武器に見えるようだった。もっとも、注意を受けたところで、こんなの素手じゃ倒せねえつーのと猛反発して進むつもりである。
髑髏竜が口を開け――猛吹雪を吐いた!
空気を凍らせ、地面を凍てつかせる。トラック外から沈痛な声。
一瞬の白い世界が消えうせる。そこには氷像と化した真の骸が――ありはしなかった。
竜は驚愕の呻きを漏らす。何ひとつ変わりない姿の真がそこに。
泰山の力を全開にして盾に吹雪を凌いだのだ。客たちは歓声を惜しみなく投げかける。
「元の世界に帰るんだな。そうりゃあ!」
突撃しながら一振りする。断末魔が上がる。
退魔の光を受け、髑髏竜はガラガラと崩れ去った。
4分の3を走り終えた。途中でまた骨だらけの獅子だのカラスだのが襲ってきたが、いずれも真の敵ではない。次々と一薙ぎに倒した。
後ろをチラッと振り返ると、2コースの走者が100メートルほど後ろを走っている。大市学園の走者の姿はない。どうやら脱落したようだった。
「ぐっ?」
突如、真は膝から崩れ落ちた。
背中に激痛が走っている。
背後から笑い声。
「はは、完全に油断したな。いつ食らわそうかと思っていたが」
代仁学園の走者が迫ってくる。先ほどと違うのは、真に右手を向けていることだった。
「かは、体の自由を……奪う術か?」
残り30メートルで追い抜かれた。憤怒が頭の先に上ってくる。
相手はラストランナーにタスキを渡した。真はまだ動けない。
その時、観客がひとつになった。
頑張れ五代! 頑張れ五代! 頑張れ五代!
頑張れ五代! 頑張れ五代! 頑張れ五代!
真は汗を滝のように流しながら、ゴールへと這っていく。
頑張れ五代! 頑張れ五代! 頑張れ五代!
頑張れ五代! 頑張れ五代! 頑張れ五代!
負けられるはずはなかった。今までの死闘が脳裏によみがえる。
自分を支えてくれる人のためにも――負けられない。
肩に手が置かれた。
「あとはボクに任せなよ」
「ああ、任せた……」
月神詠子に望みとタスキを託し、真は倒れた。
代仁学園の走者はもう100メートル先を行っていた。常識ならば追いつける距離ではない。
だが詠子は笑っていた。
「さあ、楽しもうか」
誰にも聞こえない声で呟いた。
――夢を見ているようだとは、それからの出来事についてのグラウンドにいた全員の感想である。
何の力を宿しているのか、月神詠子は弾丸のごとく速さでコースを爆走した。
代仁学園ランナーは巻き起こった風でコース外へ吹っ飛んだ。魑魅魍魎など、体当たりだけで散っていった。誰も目で追えなかった。
5秒とかからなかった。詠子は圧倒的な強さでゴールテープを切った。
神聖都学園、スーパー障害物競走東京都大会優勝である。タイムは4分2秒だった。
■エピローグ■
事務的な表彰式を終えて数時間後。神聖都の3人は黄昏のグラウンドに座り込んだ。
「あー、すっきりした。それより大丈夫?」
玲於奈は真に尋ねた。
「持ち直したよ。一時的な術だったらしい」
しかしだ、と真は詠子を見る。
「あんた、何モンだ? つーかどこのクラスだっけ」
「さあね。どうでもいいじゃないかそんなこと」
詠子は立ち上がった。夕陽が眩しく、顔が見えない。
「面白いことがまだまだあるね、ここには」
何を言っているんだ、と玲於奈も真も首をかしげる。
不可思議な少女は歌うように呟く。
「次はどんなことがあるのかな」
【了】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/クラス】
【0669/龍堂・玲於奈/女性/3−C】
【1335/五代・真/男性/3−B】
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■ ライター通信 ■
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担当ライターのsilfluです。おふたりとも初の発注
ありがとうございました。何だか変な話でしたが
いかがだったでしょうか。
それではまたお会いしましょう。
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