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<東京怪談・PCゲームノベル>


★鶴来理沙の剣術道場

●ようこそいらっしゃいました! 〜オープニング〜

 はじめまして。
 当道場は剣神リサイアの巫女、鶴来理沙(つるぎ・りさ)の剣術道場になります。
(――――つまりこの私が道場主です!)
 場所はあやかし荘の大部屋を間借りして開いています。が、とある結界の力を用いて道場内に色んな修行の場を出現させたり、古の武術を伝える師範がいたりと、ふつーの道場ではないのです。
 武の道を極めたい人、必殺技の修行をされたい人、なんとなく和みたい人などは、ぜひ当道場の門をお叩きください。ビンボーですががんばりますので!
 あ、それと補足がひとつ。
 ただいま門下生希望者は、随時熱烈大歓迎☆

 それでは、本日も良き修行の一日を!!


●本日の修行、開始です!

「暑いけど生きてるかー? 補給物資もってきたぞー?」
 道場に響き渡ったのは元気のいい声。
 鎌鼬三兄弟の末っ子―― 鈴森 鎮(すずもり・しず) が道場まで来てくれたのだが、それを迎えたのはヘロヘロ〜とした覇気のない声音だった。
「は、はうー、助かりますー。残暑がきびしいものですから‥‥」
 と剣術師範らしくないセリフをのたまってタレ理沙と化した道場主は、鎮からヨロヨロと出迎えた。風は入ってきても湿度を持った熱風ではたしかに厳しいかもしれないけれど、剣術道場を謳っていながらこの態度はいかがなものかと思われる。
 しかし、お土産を受けとった理沙は突然にシャキーンと目を輝かせた。
「つ、つめたいですっ!!」
 鎮が持ってきたものは、母親イタチから送られてきた「お中元でいっぱい貰ったゼリーの詰め合わせ」で、そのうち1箱をお裾分けにやって来たのだ。
「なんだかなぁ、理沙ってかなり現金だな」
「あはは〜‥‥えっと、所で『ソレ』はなんですか?」
 ひんやり程好く冷えたゼリーをパクっと美味しそうに咥えながら理沙が横目で見つめた先には、不思議だけれどどこか愛らしい生き物がいた。鎮は自慢そうにニッコリ笑顔を見せる。
「ロボロフスキーハムスターサイズのイヅナ、くーちゃん☆」
「えっと、やっぱり鎮さんはフュリースちゃん目当てですか?」
「勿論! みてみて、わんこ、くーちゃんかわいーでしょ」
 ダッシュで子狼のフュリースに駆け寄ると、さっそく嬉しそうにご自慢のハムスターくーちゃんを引き合わせた。
 鎮がワクワク見つめている中、わんこことフュリースは鼻を近づけてくんくんと匂いを嗅ぐと、じーっと見つめて、くーちゃんの横にコロンと寝そべった。お互いに心を許し合ったようで、じゃれつきながら戯れ合う二匹。
 そこへちょうど頭の上にチワワをのせた 五降臨 時雨(ごこうりん・しぐれ) が――。
 ちょっとまった!!
 頭の上にチワワが‥‥。
 え?
 ??
 目をごしごし。
 もう一度レッツチャレンジ。
 頭の上‥‥
 チワワ。

  いる。

「そ、その頭の上のナマモノはなんなんですかっ!?」
「‥‥‥‥‥‥チワワだけど?」
 真顔で答えられてしまった。
 むしろこっちが変人みたいに!
 現代日本におけるファッションモードもここまできたかーとしみじみ理沙は感慨にふけった。頬をふくらませながら。
 わたしに流行なんて理解りませんっ、そんなの! もー!
「‥‥‥‥‥‥‥そうだ、今日は師範代としてお願いしたい、な‥‥‥」
「本当ですか! うれしいです!」
「‥‥‥‥‥で、給料について、だけど」
「お金なら少ししか出ませんよ」
 キッパリと言い切る理沙。早っ。光速の返答だ。別に嫌がらせだったりチワワが理解できなかったからと言うわけではなく、単に、本当に、心のそこから! ‥‥お金が乏しいだけなのだ。
 しかし時雨も只者ではない。
「‥‥‥‥‥‥‥そこを、なんとか‥‥!」
 達人の気合いで虎のオーラを背負いつつ理沙に食い下がった。理沙も負けじと獅子のオーラで対抗する――まさに見えない刃による剣と剣の戦い!
「‥‥‥‥‥‥‥ど、どうしても‥‥?」
「はっ、はい、ウチもかなり厳しいんでっ」
「‥‥‥‥‥‥‥誠意を尽くして、教える、から‥‥!」
「‥‥せ、成果しだいですっ」
 異様な別空間を造り出しながら対峙していたが、理沙がビシッと時雨を指差す。
「それじゃ‥‥私よりも立派に教えられたら考えましょう、勝負です時雨さん!!」
 楽しげにじゃれあうフュリースとくーちゃんと鎮とチワワのすぐ横、時雨と理沙はふっふっふっふ〜‥‥と緊迫した笑顔で見つめ合う結局漫才な二人だった。

                             ☆

「ん〜! 疲れが吹き飛んじゃうかんじ!」
 神崎 こずえ(かんざき・こずえ) は気持ちよさそうに腕を伸ばした。
 こずえは師範代のくのいち、村雨汐(むらさめ・しお)との修行を終えると、道場の横の中庭にある温泉につかって今日一日の疲れをお湯と一緒に洗い落とす。
 夏も終わり、残暑とはいえ陽が落ちると冷たくなった秋の空気が流れ込んできて、疲れた体にも心地いい。
「でも退魔師をしてると実戦中心になるから、基本練習は久しぶりで、却って新鮮だったかも」
「新鮮じゃダメでしょ。毎日ちゃんと欠かさずやっておきませんと」
 ツンと注意する汐とこずえの視線があって数秒、クスクスとふたり同時に笑いあった。気がつくともう夕陽が落ちていて、見上げると一面が朱色の空。
 遠い目をしてこずえは呟いた。
「‥‥本気で戦うにしても、相手を滅ぼすのが目的じゃないってのはいいよね」
 温泉からあがると、畳敷きの休憩室に麦茶や鎮の差し入れであるゼリーがちょうど人数分並べられていて、どちらも美味しそうに冷えている。
「いい汗をかいたからさ、温泉のあとのゼリーも美味しいよ」
 くーちゃんを頭に乗せながらわんこを抱えていた鎮が温泉後の夕食の準備を終えていた。
 不穏な黒雲を漂わせながら卓袱台につくと、一緒に温泉からあがった理沙は先に上がっていた男性陣を一瞥する。
「誰かさんと誰かさんも大活躍でしたからねー」
「うん、俺だってわんこと修行したんだからな!」
「‥‥‥‥‥‥そんなに褒められても困る、よ‥‥給料アップ、なんて」
 鎮も時雨も当然のように嬉しそうだ。特に時雨さん、給料アップなんて誰も言ってません。私の死活問題です!
「うぅ〜、鎮さんがヘンな風を起こして邪魔するからぁ‥‥第一、剛陣さんとお酒飲んでばっかりだったしぃ‥‥」
「あれっていい修行になっただろ! 風の負荷は動きの練習にいいんだから!」
「そ、そういうことだから勝負の結果はまだですっ!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥理沙、まだって‥‥」
 ぎゃあぎゃあとうるさい一同を横目に、リラックスしたこずえは思い出すように、手元の麦茶が入っているグラスに視線を落とした。
 どうしたの? と訊ねる汐に、前髪で目元を隠しながら、こずえは小さく口を開いた。
「あたしね、人には言わないんだけど、幼馴染のボーイフレンドがいたんだ――――」
 以前は学生だったが、こずえはある事件に巻き込まれて潜在能力が開花させた。でも、彼女が戦うようになったことが原因で二人の間には溝が出来て、
 ――そして、別れてしまった――。
「一緒に戦えないどころか、足手まといにしかならないのが幼馴染は悔しかったし、あたしは焦って逆に危険な目に遭う幼馴染を見るのがつらかった。結局、そのせいかな。あたしは今も探してるんだと思う――あたしの過去も今も受け入れてくれて、一緒に未来へ歩いていってくれる人‥‥」
 ゼリーを食べていた手を止めて、汐も呟やいた。誰に言うともなく、そんな小さな声で。
「私にもね、大切な兄上がいました。そう、とても大切な‥‥」
「‥‥汐の、お兄さん?」
 汐は目だけで頷いた。今はもう別れてしまった、たった一人の兄。いつも汐の前にいて、忍びの修行もそれ以外のことも教えてくれていた。
「だから私の動きの一つ一つに、おにいちゃんがいるんだって。そう思うことで私はさびしくなくなるんです」
 透き通った琥珀色の中で氷が溶けて、カランと音を立てる。
「忍びは過去を背負ってもいいが、決して振り返るな。兄の口グセなんですよ。おかしいですね、いつもは嫌ってくらい冷静なのに変なところだけ妙に熱血で」
 ふたりはどちらからともなく茜の夕空を見上げた。静かな空気が心地いい。
 涼しい風が吹き抜けていく。
「ねえ、虫の鳴き声が聞こえてきたよ」
 道場の縁側でくーちゃんやわんこと遊んでいた鎮が振り返って庭を指差している。
 全員が秋の訪れを感じていた。



【本日の修行、おしまい!】



●黄昏に消える邂逅

「よう、剣の女神を探してるお嬢ちゃん」
 ほとんど陽も沈んで理沙があやかし荘の玄関で全員を見送っている時だった。
 影の長く伸びた黄昏時。
 彼女の背後から声をかけた降霊師―― 不動 修羅(ふどう・しゅら) が腕を組んで壁に寄りかかっていた。陰になっているせいか表情はよく分からない。
「‥‥どうされましたか。私に、御用でも」
 それは隙のない声。影と同化したような修羅の姿に理沙のまなざしは鋭い。
「アンタ、何か目的あんのか?」
「目的とは?」
 修羅はすっと目を細める。
「蒼色水晶剣――聞いてるぜ。アンタが探してるってことをな」
 ――――蒼色水晶の剣。
 その一言で理沙の表情が強張る。彼女、鶴来理沙がこの地にいる理由もその神聖にして不可侵の、彼女が守るべきでありながらも失ってしまった、奪われてしまった、その剣を求めるためであった。
 剣の女神――リサイアの巫女として、未だに行方の知れない蒼色水晶剣を取り戻すこと。その手掛かりはまだ掴めていない。理沙の雰囲気が変わった。凛とした、触れたあらゆるものを斬り裂いてしまいそうな気配をまとっている。
「あなたは、何かを、知っているのでしょうか」
「俺は家業で人生相談みたいな事もやるからな、その辺の事はまあ比較的察しが良い。蛇の道はヘビってやつだ。で、事情を聞いたら水晶剣とやらの在り処はそのリタイヤだかリサイアだか言う女神に訊けば良いンじゃねえのか? 俺が訊いてやろうか」
「リサイア‥‥です」
「ああ、そんな怒らないでくれ。すまなかったな。お詫びと言うわけではないが、降ろしてやるよ」

  この俺が、その女神をな。

 印を結ぶ修羅。膨大な霊力。荒れ狂う力の奔流。それらが修羅を中心に一点に集まってくる。
 理沙の持つ気配に混じる神聖な『気』と同調を試みる。
 まずは光が見えた――――。
 戦いの神の気配。
 圧倒的なまでに崇高で目が開けられないくらいの聖なる青の光。
 剣気。戦うというイメージを剥き出しにした抽出した光。そして‥‥

 なにかが拒絶していた。

 神の気は漠然としたイメージでとどまり修羅の中にまで降りてこない。圧倒的なものは遠くでたゆたっている。 

 気がつくと、荒い息の音。修羅は滝のような汗をかきながら地面に両手をついていた。
「――――駄目だったか。その女神、アンタから訊いた情報に間違いがあるか、肉体を持って転生してるか、俺との霊的相性が悪いかの何れかだな」
「‥‥そうですか」
「今度はもっと相性の良い奴に降ろしてみるとするか。阿鼻捨法と言って神霊を巫女に降ろす法術があるが、アンタでそれを試してみようと思う」
 一瞬、表情をほころばせた理沙だが、修羅の
「まあ、その場合は有料だがな。まけとくぜ」
 ‥‥という一言に顔を青ざめさせていた。
 そこにいるのはいつもの理沙だ。
「あの、とりあえず温泉にでも入っていかれますか? すごい汗ですから」


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1564/五降臨・時雨(ごこうりん・しぐれ) /男性/25歳/殺し屋(?)】
【2320/鈴森・鎮(すずもり・しず)/男性/497歳/鎌鼬参番手】
【2592/不動・修羅(ふどう・しゅら)/男性/17歳/神聖都学園高等部2年生 降霊師】
【3206/神崎・こずえ(かんざき・こずえ)/女性/16歳/退魔師】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、雛川 遊です。
 ゲームノベル『鶴来理沙の剣術道場』にご参加いただきありがとうございました。
 遅延続きで参加頂いた皆様にはご迷惑をお掛けして申し訳ありません。一応9月をもってどうにか環境に関する問題は解決いたしましたので、執筆速度は速くできるかと思います(でもなんでこんなに長引いてしまったんだろ‥‥/汗)
 最近なんでもありになってきている剣術道場ですが、ここはそういうアットホームな雰囲気の場所でもありますので、ごゆっくりとリラックスしたお立ち寄りを楽しんでください。
 ‥‥チワワとか‥‥温泉とか‥‥なんかふえてる‥‥。

 さて、剣術道場はゲームノベルとなります。行動結果次第では、シナリオ表示での説明にも変化があるかもしれません。気軽に楽しく参加できるよう今後も工夫していけたらと思いますので、希望する修行やこんなのあったらいいなぁというイベントがあれば、雛川までご意見をお寄せください。

 それでは、あなたに剣と翼の導きがあらんことを祈りつつ。


>時雨さん
師範代のプレイングは少し難し目になってしまうかもしれませんね。それと、チワワの存在感が日に日に大きくなっているのは雛川の気のせいでしょうか‥‥こどもを見守る保母さんのようにこの先が楽しみかも。
>鎮さん
今回はイヅナ、チワワ、わんこと小動物のスリーカードでした。そのうち小動物のストレートやフォーカードなんて発展したりして。いやそういえば鎮さんもいたちだし――。ところでロボロフスキーハムスターサイズってどれくらいですか?(汗)
>こずえさん
今回の話し相手は汐をメインでいってみました。使えなかったお話のネタは機会に書かせていただきたいです。‥‥温泉、存在感が大きくなってきるかも‥‥。
>修羅さん
蒼色水晶剣の女神・リサイアについてもそろそろシナリオを動かせたらな、と思う今日この頃です。「それがメインの一柱だろうに」といま偉い女神さまに頭を叩かれてしまいました‥‥あう。