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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


筋肉は眠らない

○オープニング

 ある日ゴースネットOFFに書き込まれた投稿。
 それはリングへの未練から成仏することのできない格闘家達の叫びを代弁するものであった。
 安息につけぬ男達の魂を癒すために、今集う者たちがいる。

○竜虎の邂逅

「マジで!? 本物のムチャパットにガルシアかよ!」
 溌剌とした印象の青年、竜笛光波ことミッチーは目の前の隆々たる肉体の持ち主達に嬉々とした声を上げた。理解しかねている眼鏡の女性、投稿者である鳥塚に視線を受けて、ミッチーは説明を試みる。
「この人達は世界的にも名の知れた方々なんですよ! テレビにも結構出てて、一時期話題にもなったんです! 知りませんか?」
 鳥塚の困惑顔を見て、ミッチーは自分の興奮が伝わっていないことを悟った。
「あの…すみません…あ、でも、ミッチーさん詳しいんですね」
「オレ、格闘技大好きだから! あ、でもミッチーって呼ばないでね」
 直に憧れの選手に会うことができてミッチーがはしゃいでいるところに現れた長身の男。身長192cm、体重135kgとガルシアと比肩する体格の上に、被っている覆面にピンときてミッチーは即座にその正体に気付いた。
「レオ・オーガスタ! レオさんでしょ、トキオプロレスリングの!」
「そやけど…なんや兄さん、俺のこと知っとるんか」
 同業者でも素顔を知らないとされる謎の覆面レスラー、レオは言った。
「もちろんですよ! オレ、何回も試合見ました。特に所属団体を超えた覆面レスラー4人戦は感動しました! ガルシア戦もオレ、本当に楽しみに…」
 その瞬間、雰囲気が一変した。張り詰めた緊張感がミッチーの背後から走って抜ける。レオの視線は既にミッチーになく、佇むガルシアにあった。立ち上がり、レオに相対したガルシアはレオを睨んだ。その瞳には愉悦の情が見える。
「まさかてめえをぶちのめせるとはなぁ…この世に残っていた甲斐があったってもんだぜ。長かった、長かったぜぇ!?」
「見つけられんで…待たせて悪いことしたな。でも、あんさんとは俺もずっと闘いたかったんや…せやけど、そう簡単にのされるつもりはないで? 全力でいかせてもらうわ」
 2人の視線が激しく火花を散らす様子はまさに竜虎睨み合うが如し。周囲の者達は一触即発の雰囲気に息を呑む。
「…お2人はどういったご関係なんですか?」
「ガルシアさんが死んだ日、闘うはずだった対戦相手が…レオさんなんです」
 ミッチーは期待に胸膨らませる少年のような瞳をしていた。

○天邪鬼の実力

「リングの用意はほとんどできているわ。そちらはよろしくて?」
 ミッチーの運転する青いファミリアに乗って試合を行う八王子市民会館に到着した一行を迎えたのは、黒のノースリーブにストールの魅惑的な女性だった。名前は蒼樹海という。
「あら、随分年代ものの車ねぇ。ここまでまっすぐ来れたのかしら?」
「ほっといてくださいよ。これでもオレの愛車なんです」
 海に軽く揶揄されてもミッチーは強く言うことができない。きれいな女性の前では緊張してしまうタチなのだ。海はそれとなく察した。
「せやけど…市民会館て、よお急でこんなとことれたもんやな」
 後部座席から身をかがめて這い出てきたレオは会館を見上げた。こういったところでの興行にも参加するレオにはよくわかるが、大抵数ヶ月先まで予定が決まっていて急にイベントを開こうにも普通手続きも準備も間に合わないものだ。
「あら、ご不満? じゃぁ、ここは止めておいて近くの公園でもよくってよ?」
「不満とかとちゃうねん。ただ不思議に思うただけやって、堪忍してや」
 レオの反応に海は嬉しそうに微笑む。
「みなさん、とても快く手伝ってくださったわよ」
 海に続き、会場入りする。通路には、はがし忘れた某有名落語家の口演を知らせるポスターがところどころにあった。その日付は今日だと明記してある。
 ホールには急ごしらえだが立派なリングが設置してある。いたるところで男達が今も会場整理をしていた。なぜだか男達はみな筋肉質で、さっきまでトレーニングでもしていたかのような汗臭い服装だった。
 ご苦労様、と海が優雅に労いの言葉をかけると男達は気合の入った叫びを返した。
「…海さん、この人達は…?」
「ご近所のジムから来てくれた善意の協力者達よ。今日の分の練習もした後で雑用を引き受けてくれるなんてありがたいわよねぇ?」
 海の身体からふわりと紫色の気配が漂いでていたが、ミッチーは見なかったことにした。レオは会場に観客までいることに驚いていた。なぜか、年配の方が大部分を占めているが。
 リング脇には某有名落語家が実況席に座ってスタンバっていた。

○ガルシアVSミッチー

 落語家が弁士のように朗々と前口上を述べ、海が試合開始のゴング代わりに木琴を鳴らす。
 いささか身の締まらぬ音ではあるが、第一試合は開始された。
「まずは肩ならしだ。軽く屠ってやるぜ、小僧!」
「プロとガチンコなんて感動もんだぜ。精一杯やってやる!」
 リングの対角線に対峙するガルシアとミッチー。格闘家の持つ本物の迫力がミッチーの全身を威圧する。射すくめられそうになる心を鼓舞してガルシアに向かっていく。その原動力には素直な憧憬による興奮もあった。
 機敏な動きで間合いを詰めるミッチー。対してガルシアは泰然として、一見すると隙だらけにも見える。
 なめられているのか?
 そう思ったミッチーはいきなり大技を狙っていった。
 突進すると見せかけて、目の前で猫だまし。素早く背後に回りこむとガルシアのぶっとい腰に両手を回して一気に持ち上げる。身体を鍛えているだけあってミッチーの身体は柔軟で筋肉もあるが、それでもガルシアを持ち上げるのは背骨がきしむような負担がかかる。このまま根性でぶっこぬきジャーマンスープレックスが決まる、かと思った瞬間ガルシアは肘でミッチーの腕を打った。
「ぐあぁっ!?」
 激痛にたまらず両手を離すミッチー。すかさずガルシアは振りかえり強烈なボディブローを見舞う。防御に構えた両腕は無理矢理弾き飛ばされ、重みのある一撃が内臓に響いた。
「そこでおねんねしてな…小僧」
 リングに崩れ折れ、身体が痙攣するのを止められない。ミッチーは悟った。なめていたのは…甘く見ていたのは自分の方だったと。プロの実力は想像を絶する領域にあるのだと。
「こいつは…マジでやらんと死ぬ!」
 肋骨が痛む。これは2・3本折れているかもしれない。腹が重たく足が震える。プロのパンチは中から来ると誰かが言っていたのを思い出した。
 けれどミッチーはとめどない激痛に耐えながら、闘志を剥き出しにした目でガルシアを睨みつけた。既に身体が悲鳴を上げているのを自覚しながら、欠片も怯むことはない。
「…おもしれえじゃねぇか、小僧」
 ガルシアの口の端が喜びに歪む。
「今度こそ寝かしてやるよ!」
 ガルシアのラッシュが始まった。一発一発のパンチが鉛のように重く感じられる。今にも臓腑が口からでくるような、肉体が千切れたかのような、錯覚を覚えながらミッチーは耐え続けた。
 そして一瞬の勝機。
 ミッチーは知っていた。ガルシアのラッシュは左のねじり込むようなパンチで終わる。それがフィニッシュブローなんだ。それは絶対に避ける。
 ガルシアが左の拳を放つ。ミッチーは一瞬前までは考えられなかった機敏さでそれをかわした。そして姿勢を変え、伸びきった左腕に腕を絡ませるようにして引きずり倒した。ミッチーの真骨頂、合気道の技だ。
「…このっ!?」
 ガルシアは慌てて振りほどこうとするが、しかしミッチーの方が早い。最小限の動きでミッチーはガルシアの関節を決めた。ガルシアが呻いた。一介の学生がプロの格闘家をしてやった瞬間なのであった。
 次の瞬間にはガルシアの右の拳がミッチーの側頭部をとらえ撃沈させたが、ミッチーはガルシアに一泡吹かせてやったことを大いに誇れることだろう。
 ガルシアの勝利を称える歓声が響く中、健闘を称えるミッチーコールもまた止む事はなかった。
「…ミ、ミッチーてゆうな」
 か細い抵抗は割れんばかりの歓声にかき消されていった。闘いきったミッチーは不思議な昂揚感に包まれていたが、ただ、身体は満身創痍で意識はかすかに残っているものの指一本動きそうもなかった。
 海がゴングの代わりに仏鈴を「ち〜ん」と鳴らしていた。

○筋肉が結んだ約束

 全試合が終了した。
 第二試合では、突如カンフー着で登場した雪ノ下正風とムチャパットが高校時代の親友であることが発覚し、友情の決戦が行われた。
 第三試合では、レオとガルシアの失われた試合が行われた。ファンならずとも血湧き肉踊ることを止められないような熱い勝負だった。
 まだ興奮覚めやらぬ時分に、ガルシアが話しかけてきた。
「よう、小僧。お前とのファイトもなかなか楽しかったぜ」
「マジっすか! 光栄です!」
「なんならオレ様の弟子にしてやろうか。そうだ、それがいい。あの世に行ったらバシバシ鍛えてやるからな」
「ちょ、ちょっと待てぇ!」
 ガルシアの四の五の言わさず連れて行きそうな態度にミッチーは慌てて抵抗した。
「あら…いっちゃっても楽しいんじゃない?」
「海さんも待ってください! 本気で!」
 紫色の空気を漂わせかけている海に切羽詰った声を上げた。この2人にかかったら本当にあの世に連れて行かれてしまいそうだ。
 ガルシアとミッチーは改めて向き合う。
「そうか、ま、てめえらのおかげですっきりした。これでなんの未練もなく、向こうにいけそうだ…」
「…オレがそっちに行ったらまた闘おうな」
「あぁ、約束だ。それまでにはちったぁ強くなっとけよ、小僧」
「あったりまえだろ」
 2人は互いの拳をがつんと突きあわせた。

 会場を後にした。歩きながらまだ闘いの余韻の残るミッチーは今気付いたようにつぶやいた。
「…あ、もっと強くならないと、あっちに行っても命が幾つあっても足りないってことになるのか?」
 頬をかくミッチーの頭上には、かんかん照りの太陽が焼け付くような日差しを降らしていた。


                          終


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0391 / 雪ノ下・正風(ゆきのした・まさかぜ) / 男 / 22歳 / オカルト作家】
【1623 / 竜笛・光波(りゅうてき・みつは) / 男 / 20歳 / 大学生】
【2618 / 蒼樹・海(そうじゅ・かい) / 女 / 25歳 / 天邪鬼】
【3630 / レオ・オーガスタ(れお・おーがすた) / 男 / 31歳 / プロレスラー】


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■         ライター通信          ■
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 どうもこんにちは。池田コントです。
 今回はご注文頂きありがとうございました。
 OMCでのお仕事はまだ2回目。未熟者もいいところです。ですので、満足の行かぬ点、私の至らぬ点、多々あるかと思いますが、ご指摘・ご感想など頂けましたら嬉しいです。
なお、都合上各参加者様の試合は各人のストーリーにのみ記述されています。試合の詳細をお知りになりたい場合はそれぞれお読みください。
 というか部分的にかなり違った内容なのでお時間があるなら是非全部読んでみて下さい。
 では、再び会える事を祈りまして。
 失礼しました。

P.S. ところでウルグはどこが好きですか?(←をい)