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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


筋肉は眠らない

○オープニング

 ある日ゴースネットOFFに書き込まれた投稿。
 それはリングへの未練から成仏することのできない格闘家達の叫びを代弁するものであった。
 安息につけぬ男達の魂を癒すために、今集う者たちがいる。

○思いもよらぬ懐かしい友

「なんとぉぅ!」
 とあるネット喫茶にて突然男が立ち上がり、周囲を驚かせた。
 緑の髪にやや低い身長。学校帰りのようなラフな格好をしている彼の名は雪ノ下正風。神聖都学園大学部に所属する学生にしてオカルト小説家である。
 今、彼はゴーストネットの書き込みを見て衝撃のあまり声を上げてしまったのだ。
「この依頼引き受ける! 幽霊の1人は間違い無く俺の親友だった男だ。高校時代はつるんで楽しく暮らしていた!」
 言うや否や泣き始める正風。衆人環視など気にしない。慌てふためく従業員も気にしない。
 なにせ死んだ親友とこんなところで出会える機会を得たのだ。そんなこと気にしていられる心境ではない。
 しばらく正風はネット喫茶で男泣きしながら佇んでいた。

○竜虎の邂逅

「マジで!? 本物のムチャパットにガルシアかよ!」
 溌剌とした印象の青年、竜笛光波ことミッチーは目の前の隆々たる肉体の持ち主達に嬉々とした声を上げた。理解しかねている眼鏡の女性、投稿者である鳥塚に視線を受けて、ミッチーは説明を試みる。
「この人達は世界的にも名の知れた方々なんですよ! テレビにも結構出てて、一時期話題にもなったんです! 知りませんか?」
 鳥塚の困惑顔を見て、ミッチーは自分の興奮が伝わっていないことを悟った。
「あの…すみません…あ、でも、ミッチーさん詳しいんですね」
「オレ、格闘技大好きだから! あ、でもミッチーって呼ばないでね」
 直に憧れの選手に会うことができてミッチーがはしゃいでいるところに現れた長身の男。身長192cm、体重135kgとガルシアと比肩する体格の上に、被っている覆面にピンときてミッチーは即座にその正体に気付いた。
「レオ・オーガスタ! レオさんでしょ、トキオプロレスリングの!」
「そやけど…なんや兄さん、俺のこと知っとるんか」
 国籍不明、年齢不詳。その他諸々プロフィールは謎だらけ。同業者ですら素顔を知らないとされる謎の覆面レスラー、レオは言った。
「もちろんですよ! オレ、何回も試合見ました。特に所属団体を超えた覆面レスラー4人戦は感動しました! ガルシア戦もオレ、本当に楽しみに…」
 その瞬間、雰囲気が一変した。張り詰めた緊張感がミッチーの背後から走って抜ける。レオの視線は既にミッチーになく、佇むガルシアにあった。立ち上がり、レオに相対したガルシアはレオを睨んだ。その瞳には愉悦の情が見える。
「まさかてめえをぶちのめせるとはなぁ…この世に残っていた甲斐があったってもんだぜ。長かった、長かったぜぇ!?」
「見つけられんで…待たせて悪いことしたな。でも、あんさんとは俺もずっと闘いたかったんや…せやけど、そう簡単にのされるつもりはないで? 全力でいかせてもらうわ」
 2人の視線が激しく火花を散らす様子はまさに竜虎睨み合うが如し。周囲の者達は一触即発の雰囲気に息を呑む。
「…お2人はどういったご関係なんですか?」
「ガルシアさんが死んだ日、闘うはずだった対戦相手が…レオさんなんです」
 ミッチーは期待に胸膨らませる少年のような瞳をしていた。

○天邪鬼の実力

「リングの用意はほとんどできているわ。そちらはよろしくて?」
 ミッチーの運転する青いファミリアに乗って試合を行う八王子市民会館に到着した一行を迎えたのは、黒のノースリーブにストールの魅惑的な女性だった。名前は蒼樹海という。
「あら、随分年代ものの車ねぇ。ここまでまっすぐ来れたのかしら?」
「ほっといてくださいよ。これでもオレの愛車なんです」
 海に軽く揶揄されてもミッチーは強く言うことができない。きれいな女性の前では緊張してしまうタチなのだ。海はそれとなく察した。
「せやけど…市民会館て、よお急でこんなとことれたもんやな」
 後部座席から身をかがめて這い出てきたレオは会館を見上げた。こういったところでの興行にも参加するレオにはよくわかるが、大抵数ヶ月先まで予定が決まっていて急にイベントを開こうにも普通手続きも準備も間に合わないものだ。
「あら、ご不満? じゃぁ、ここは止めておいて近くの公園でもよくってよ?」
「不満とかとちゃうねん。ただ不思議に思うただけやって、堪忍してや」
 レオの反応に海は嬉しそうに微笑む。
「みなさん、とても快く手伝ってくださったわよ」
 海に続き、会場入りする。通路には、はがし忘れた某有名落語家の口演を知らせるポスターがところどころにあった。その日付は今日だと明記してある。
 ホールには急ごしらえだが立派なリングが設置してある。いたるところで男達が今も会場整理をしていた。なぜだか男達はみな筋肉質で、さっきまでトレーニングでもしていたかのような汗臭い服装だった。
 ご苦労様、と海が優雅に労いの言葉をかけると男達は気合の入った叫びを返した。
「…海さん、この人達は…?」
「ご近所のジムから来てくれた善意の協力者達よ。今日の分の練習もした後で雑用を引き受けてくれるなんてありがたいわよねぇ?」
 海の身体からふわりと紫色の気配が漂いでていたが、ミッチーは見なかったことにした。レオは会場に観客までいることに驚いていた。なぜか、年配の方が大部分を占めているが。
 リング脇には某有名落語家が実況席に座ってスタンバっていた。

○天邪鬼年下をからかう

 第一試合はミッチー対ガルシア戦が行われた。
 結果的にミッチーは敗れはしたものの、民俗学を専攻する一介の大学生には思えない健闘を見せ付けた。おかげで場は想像以上に盛り上がったのだが…ミッチーは続けてムチャパットとも闘う予定であるのに、連戦は厳しい状況になった。
 さて、どうしよう。働いてもらった男達の中から適当な格闘家でも見繕おうか、それともいっそムチャパット自身の気を変えてしまおうか。でも、それでは根本的に問題が解決しないわね、と海は思案する。
 私が闘ってもいいんだけど…爪や牙を使ったらさすがに反則だろうし…などと考えていると、突然扉をぶち開けるように、1人の男が登場した。
 緑の髪をなびかせて、びしっと決まったカンフー着。
 雪ノ下正風である。
 状況を飲み込めず騒然となった場を悠々と歩み、実況席でマイクを奪うとムチャパットを名指しした。
「やってきたぞ、ムチャパット! 出てこい!」
 海の瞳が輝く。
 慌てて控え室から飛び出てきたムチャパットの目が丸くなる。それは驚きか喜びか、はたまたその両方か。ムチャパットは声を漏らした。
「オゥ、マサカゼェ! 久シブリダヨ!」
「そこにいたか、ムチャパ…おおぅ!?」
 ムチャパットに抱きつかれ正風は後ずさり。ボクサーパンツ一丁の格好できつく抱きしめられ、正風は硬直した。観衆がどよむ。まさか、こんなところで薔薇色の展開が。
「ちょっ…こら、ムチャパット?」
「会イタカッタヨ、マサカゼー。君ノコト愛シテルヨー」
「えぇ!? 愛すな」
「燃エル、むえたい。ばーにんぐらぶダヨー」
「意味わからんぞ、こら、離れろムチャパット! 再会のギャグにしてはやりすぎだぞ!?」
 なんだか見ようによってはかなり危ない想像を引き起こす場面に、年配の女性の方々は年甲斐もなく顔を赤らめたりする。鳥塚は代えの濡らしタオルを渡しながらミッチーに朝と同じ質問をした。
「お2人は…」
「なんか親友…らしいですね。そういえばムチャパット選手は高校は日本の学校だと聞いたことがあります」
「…ムチャパットさんて、外国の方ですよね」
「タイ人です」
「…留学生なのかしら」
「…ま、それはともかくとして」
 頬を赤らめている鳥塚を見て、今やるべきことを判断したミッチーは実況席の隣で優雅に座している海に寄っていった。
「もうやめてあげて下さいって」
 紫の空気をまとう海はとぼけた顔をして、
「あらちょうど今やめたところだったのよ? ミッチー」
 決して素直に返事をせず、噂どおりの天邪鬼だとミッチーは思った。
「ミッチーって言わないで下さいよ」
「わかったわぁ。ミッチー♪」
「言ってるじゃないですか!」
「言っちゃいけないの? ねぇ、ミッチー、ダ・メ?」
「…だ、ダメですよ!」
 『きれいな』女性に弱いミッチーは顔を赤くして押され気味。海は我が意を得たりとミッチーに徐々に詰め寄る。
「どうしても、なの? ミッチー」
「…ど、どうしてもって…わけじゃないすけど…」
「じゃ、言ってもいいのね。ミッチーって」
「あ…えー…ちょっと、だけなら…」
「ありがとう。私、キミみたいな素直な子好きよ」
 海は満足げに微笑む。
「じゃ、これからは光波クンて呼ぶわね」

○遊び終わり

 全試合も終了し、男達も観客達も満ち足りた表情である。
 海もまた自分なりにこのイベントを楽しんだ。それはみなが求めたものとは大きく違ったものであるが…十人十色という言葉があるくらいなのだから、ましてや正真正銘天邪鬼である海なら考え方が180度違っていたって不思議はないだろう。
 さて、長居は無用と海が立ち上がりかけると、
「どうですか、せっかく集まったことだし、これから打ち上げでも」
 ミッチーこと光波クンが話しかけてきた。後ろにはレオや正風、ついでに依頼人の鳥塚もいる。
「そうねぇ、悪くないわね」
 海は思わせぶりに微笑む。じゃあ、と光波クンが言いかけるのを、
「でも、私はいかないわ」
 遮って、海は1人出口へ去っていった。
 海はこれからも自分にとって面白いことを探してまわるのだ。


                          終


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0391 / 雪ノ下・正風(ゆきのした・まさかぜ) / 男 / 22歳 / オカルト作家】
【1623 / 竜笛・光波(りゅうてき・みつは) / 男 / 20歳 / 大学生】
【2618 / 蒼樹・海(そうじゅ・かい) / 女 / 25歳 / 天邪鬼】
【3630 / レオ・オーガスタ(れお・おーがすた) / 男 / 31歳 / プロレスラー】


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■         ライター通信          ■
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 どうもこんにちは。池田コントです。
 今回はご注文頂きありがとうございました。
 OMCでのお仕事はまだ2回目。未熟者もいいところです。ですので、満足の行かぬ点、私の至らぬ点、多々あるかと思いますが、ご指摘・ご感想など頂けましたら嬉しいです。
 なお、都合上各参加者様の試合は各人のストーリーにのみ記述されています。試合の詳細をお知りになりたい場合はそれぞれお読みください。
 また、他の方サイドにもちょこちょこキャラクターが出張ったりしているのでお時間あるときにでも読んでみて下さい。
 では、再び会える事を祈りまして。
 失礼しました。

P.S. 天邪鬼さんは難しいですね。しかも、比喩でなく本物の天邪鬼さんですから。精一杯やったので、イメージにあっていればいいのですが。