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<幻影学園奇譚・学園ノベル>


自習時間


 自習時間は二時間もあったのである。
 教室を出てからはすぐは地下準備室と機械室を覗いてみた。
 薄気味悪いと評判の場所だったが、入ってしまえば何て事はなくいたって普通意外の何物でもない。
 けれど少し変わった出来事もあった。
 幸運のお陰で少し変わった小石を拾って、残念ながらそれは持ち主だという生徒会長に渡してしまったけれど。
 一時間の冒険としては、なかなかの成果だ。
「さて……と」
 空気の良い所に移動して大きくのびをするみあおと、途中まで一緒だった雫。
「私は散歩でもするけど、雫は?」
「生徒会長でも追いかけてみようかな、なんかちょっと気になって」
「そっか」
 行動目的が別々だからとここで一度別れる事にする。
「………追いかけてどうするのかな?」
 なんて事を思って振り返った時に見えたのは、小さな背中だけだった。
「………はやっ」
 ここは学園なのだから、何事もないはずだろう。
 姿が見えなくなったのを切っ掛けに、みあおも別の方向へと歩き出す。
 向かう場所は校舎裏。
 木が多く、気持ちの良さそうな場所でもあるし……何かが起こりやすい場所でもある。
 後者はそう多くは起こらないだろうが。
 途中で靴を履き替えて校舎の隙間を縫って歩き、程なく目的の場所に到着する。
 何もない、カラリとした場所だった。
「……んー」
 緑と、その木々の隙間から差し込む光が心地よい。
 大きくのびを一つ。
 耳を澄ませば聞こえてくる色々なざわめき。
 木々がこすれる音。
 遠くで聞こえるプールでの水音。
 楽しそうな人の声。
 風が運んでくる小さな歌声。

 それから、怒鳴り声と悲鳴。

「……え!?」
 幻聴ではなくはっきりと聞こえたのだ。
「なーなー、ちょっとだけお小遣いちょうだいな」
「そ、そんなぁ〜」
「今月ピンチなんだよねぇ」
「そうそう、貸してくれるだけで良いからさ」
 絵に描いたようなカツアゲ現場。
「………」
 被害者は三下。
 加害者の男子生徒は3人。
 ここまで何から何までお約束な現場に、良く出来た物だと感心しかけたがそうも行くまい。
 囲まれている三下にとっては災難に決まっているし、助けようにも直接行くのはいくらなんでも無謀だ。
 直接前にでよう物なら3対1どころか、きっと三下が『助けてくださぁぃ! うわあああん!!!』なんて言ってしがみつかれた日には更に酷い事になる。
 ここは……。
 あたりを見渡し見つけたのは水道とホースと出しっぱなしになっているビニール紐の切れ端。
「………」
 こっそりと身を隠しつつ、急いで良く水が飛ぶように先を細めたホースを校舎の水道管に縛り付ける。
 距離は、多分届くだろう。
 後は蛇口をひねるだけ。
「上手く逃げてくれれば良いんだけど……」
 蛇口を全開にして逃走。
「うわわわわ!」
「なんだこれっ!!」
「水ぬるっ!」
「ひぃぃぃーー!!」
 チャンスは作った。
 最期まで見届けないうちにそこから離れたから後はどうなったかは今は解らない。
 あれで上手くいってくれたらいいのだが。


 ある程度距離を置いた所で走るのをやめる。
 急いだ所為で熱くなっていたから、いま行くなら風通しの良い所だろうと思った。
 教室でも良いけれど、残り少ない時間をやっくりと過ごせる場所。
 居心地の良さそうな場所と言ったら屋上だろう。
 あの場は偶に鍵が開いているから、運が良ければ入れるはず。
 屋上へと続く階段の所で二人の生徒とすれ違うのをみて、きっと開いているだろうと解った。
 がっかりした顔ではなかったのが、その理由。
「やっぱり」
 簡単に扉は開いたし、ちょうど人もいなかった。
 鍵がかかっていたら取りに変わって飛んでいけばいいのだが、開いているとやっぱり嬉しい。
 フェンス越しに見下ろす光景はいつも通りなにも変わらなかった。
 些細な変化はあるのだけれど、感じる雰囲気は何時だって気持ちのいい場所なのである。
 見晴らしの良い所に腰掛け、取りだした紙とペンとで目に映る光景を描き取っていく。
 大きく広がるグラウンドに、右手に見える体育館や部室棟。
 購買部の方は既に自習時間だからと買い物に走っている生徒もいる。
 真っ白な紙に書き込んでいく景色はパーツもおかしかったりする所はあったし、決して上手いとか言えるものではなかった。
 特徴だけは捉えたそれを見ながらスケッチを続けるのは、時間を楽しむための物だしもっと別の何かを残しておきたかったから。
 いつものようにデジカメに納めるのとは違う。
 いま残しているのは、正確な光景ではなく、雰囲気で、切り取られた時間だ。
「………なんて言うのは、カッコつけすぎかな」
 スケッチした紙を見上げてから、ザァと吹いてきた風に顔を上げる。
 鞄にノートを閉まったみあおは、何か楽しそうな事を浮かんだ顔をしていた。



 鞄を屋上の隅に隠してから、隠れた場所でみあおはへ別の姿へと変化を遂げる。
 高くなったつもり乗せも、いまだにこの姿の背丈の方が高い。
 二十歳代の女性の姿。
 試しにと……大きく、ゆっくりと羽根を動かすと柔らかく舞っては消えていく羽根。
「………うん」
 なにも問題なし。
 地面から足を離すと宙へと飛翔するパーピーの体。
 人気のない場所を選びながらこっそりと低い場所を羽ばたく。
 大丈夫、バレはしない。
 姿を見られたのが一瞬であるのなら目の錯覚かと思うだろうし、例え景色をぼんやりと見ているだけの人が居たとしても……得てしてそう言う人に限って騒ぎ立てたりしないものだ。
 多少の限定はされていたがそれでも風を切る瞬間は心地よかった。
 人目に触れないように注意しながら建物を大きく旋回する。
 校舎の裏手や道場。
 駐輪場近くも。
「―――……っ」
 風に乗っている途中に聞こえてきたのは誰かの歌声。
「………?」
 どこかで聞き覚えのある、鈴のような音色。
 注意がそちらに向いた瞬間、唄っている女生徒が見える程までに近づきすぎた事に気付いて慌てて引き返した。
「きゃ!」
 離れる瞬間に強く羽ばたいた所為で巻き起こったらしい風に、小さな悲鳴が聞こえた事に心の中で謝りつつも人気のない場所へと羽ばたいていく。
「……危なかった」
 ポツリと一言呟いて胸をなで下ろす。
 唄う事に集中していたお陰で気付かれては居ないようだったが………同時にみあおもどこかで歌でも歌ったらさぞかし気持ちいいだろうと思った。
 人の居ない場所で、こっそりと唄う歌。
 スケッチと同じぐらい、楽しそうな事だった。
「……そろそろ……ぁ」
 屋上に戻ろうとしたがタイミングが悪かったらしい。
 人が居て降りられないのだ。
「うーん……」
 どうしようかと首を傾げてから、辺りを見回した時に見えたのは三下だった。
 一人で、大した怪我もない所を見ると無事逃げおおせたらしい。
 髪がびしょ濡れで、ジャージに着替えている事を除けばの話だが。
「……………」
 どうなったのかとほんの少し気になっていただけに、良かったと安心する。
 最もいま考えるべきはどうするかなのだが。
 このままそこにいられたら出ていけない。
 昼休みが本格的に始まってしまえば、もっと人が来る可能性すらある。
 案としては、このまま人気のない場所に降りて、いつもの姿に戻ってから忘れ物を取りに来たとでも言って鞄をもっていけばいいのだろう。
 きっとそれが一番の手だ。
 立ち上がり、さっと羽ばたき空へと舞い上がる。
 見えるのは真っ青な空。
 こんなにも気持ちの良い日だ。
 回り道する事も、散歩を兼ねて歩くのも楽しそうだと思える。
 今日は、そんな陽気なのだから。



 屋上に戻ってきたのは、昼休みが始まってからすぐの事。
 ゆっくりと歩いてはいたが、もっときたらあの時いた二人の姿はない。
 きっとみあおが飛び立ったすぐ後に立ち去ったのだ。
「………ま、いいか」
 鞄を引っ張り出し、埃を払う。
 色々と良い物が見れたのだから。
 鞄を肩にかけ、みあおも軽い足取りで階段を下りていった。


 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1415/海原・みあお/女性/2−C】

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■         ライター通信          ■
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二度目のご参加、ありがとうございました。
今回はゆっくりめでしたが……。
果たしてゆっくり出来たでしょうか。
楽しんでいただけたら幸いです。
ご依頼ありがとうございました。