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<東京怪談・PCゲームノベル>


茜の心を癒す人

 雨の中で、彼女は佇んでいた。
 色々あったが、今まで支えて見守っていた幼なじみ織田義明に恋人が出来たこと。また、兄と思っていたが徐々に恋に芽生えつつある人物にも振られたこと。そして、己の運命が徐々に近づいてくる。

 ――「長谷神社の後継者」としての修行。
 この状態では彼女はこの運命を受け入れられないだろう。
 大きな事件が終わり、彼女は一人何かを考えるために家出してしまった。

 其れを知った長谷平八郎は必死に愛娘を捜している。

 茜は、知っている人の場所により着かず、路地裏で悪霊を退治していた。それはどう見てもやるせない気持ちを悪霊に当たっているだけにしか見えない。其れに隙が出来、悪霊の攻撃を受けて、倒れる茜。
 あなたは、「危うい彼女」に出会った。


 この所元気のない宮小路皇騎。それは従妹に恋人が出来たと言うことで寂しいのである。母親同士がしまいと言うが、いつも仲良くしている故、付き合いもとぎれることはなく、子供の頃から仲が良かったのだ。考えてみれば、フェミニストで通していたが、色恋沙汰はあまり無かったなぁと考える皇騎だった。
「私もそろそろ考えないと行けないのか?」
 この心の空白を埋めるにはどうしたらいいのか考えるのだが、母親の徹底的な躾で良い考えが浮かばないのだ。単にきっかけがないとかと言うのもあるだろうし、ナンパなんてしたらどうなる事やらと寒気が走る。

 そんな気分がブルーの皇騎が雨の中、不安定な霊気を感じる。
「これは? 誰かが退魔行を?」
 急いで彼は精霊式神の大梟『和尚』、『御隠居』を呼び出して先を向かわせ、彼は急いで走る。
 その先には、高校生ほどの少女が今にも悪霊に襲われ、倒れている。今は式神2羽が、悪霊を牽制しているので、少女はそれ以上の怪我はない。生命力を少しばかり吸われたと思われる。
――先に悪霊を始末しなければ!
 皇騎は素早く髭切を召喚して、一太刀で悪霊を切り伏せ浄化した。女性が絡むと実は実力の3倍、否、10倍は出せる皇騎である。コレはやはり母親の躾のたまものである。
 彼は軟派ではなくフェミニストである。その辺間違いないように。
「さて、うーん。どうしようか……」
 少女の姿を見ると、どうしても家出したとしかおもえない。近くに大きなバッグが落ちていた。制服はどこかで見たようだが思い出せない。ポニーテールの少女はまだ気を失っている。
「少し失礼しますよ」
 と、皇騎は彼女を抱きかかえ、御隠居に荷物を持って貰い、近くの避難所に向かう事にした。


 避難所と言っても、何故か使用人付きというホテルのような、別荘のような、兎に角突っ込みたくなる所であった。それだけに、部屋も多い。外見上は術などで“人目に付かない”ようにしている見窄らしい建物にしているのだろうが、上層階級の人間は何を考えているか分からない一例であるかもしれない。
 皇騎は、少女を使用人に託し、
「頃合いの部屋で休ませてあげて下さい」
 と、頼む。
「かしこまりました」
 恭しく従う、使用人。
 内装は落ち着いたものであるがどれも高価なものだろう。和と洋が合わさった今時のマンションなどに似ている。彼の避難所と言うことだから、彼の能力を最大にまで可能にする設備も存在する。もちろん肉親にも今のところ“知られていない”かもしれないが。それは、置いとく。

 皇騎は自室のソファに座って、少女の事が少し気になっていた。
 何故あそこに? と。
 ぼんやりしていると、ノックする音が聞こえる。
「どうしました?」
「皇騎様、あのお嬢様を着替えさせて、ベッドに休ませておりますが」
 使用人が返事をした。
「ありがとう」
 彼は、ゆっくりとソファから立ち上がり、少女の寝ているという部屋まで向かった。
 皇騎は疲れ切った少女が気になって仕方ないのだ。

 少女はまだ眠り続けている。リボンを外してみるとその髪は艶やかで美しい黒髪だ。汚れきった制服から使用人のものと思しき寝間着に着替えさせられている。多少の汚れなどはタオルで拭いて貰っているようだ。
「ヤッパリどこかで見たことが……。あやかし荘? それとも……」
 記憶をたぐり寄せるがなかなか思い出せない。
「まず、治癒しなければ」
 皇騎は、悪霊によって生命力を奪われた少女の額に手をあて、唱える。
 今まで土気色の肌から生気が戻って綺麗な白っぽい肌になる。生命力が戻ったのだ。
「……しかし、まだ起きないな。よほど疲れているのでしょう」
 無理に起こすことは危険だし失礼に値する。皇騎はそのまま、少女が起きるのを待つことにした。
 その間に、使用人から、彼女が長谷茜と言うことを知らされる。荷物や制服の中に入っている生徒手帳で分かった物だった。


 茜は目覚めると、知らない天井を見て、
「ここは……?」
 と、呟くように状況を確認しようとする。身体が重くて起きあがれないのだ。
「たしか……悪霊に……」
 記憶をたぐり寄せる茜。まだ目覚めたばかりであるし、力が入らないため、うまく思い出せない。
「気が付いたようですね」
 と、彼女の隣から男性の声が聞こえる。
「あ、あなたは……?」
 茜は皇騎を見て尋ねた。
「私は宮小路皇騎です。貴女は長谷茜さんですね? 路地裏で倒れているところを此処までお連れしました」
「は、はい。え、えっと……あ、ありがとう」
「なにか、飲みたいものはありますか?」
 優しく訊く皇騎。
 茜は彼の仕草にエルハンドや義明、そしてあの女性を思い出す。
「………少し水を……喉が渇いて……」
「分かりました」
 部屋には水はポットに常備されている。薬を必要とするためならの配慮である。
 皇騎はポットからコップに水を注ぎ、茜を優しく起きあがらせて、コップを渡した。
 茜は、コップを取るとゆっくり飲み、一息ついた。
「あ、ありがとう。すこし生き返り……」
 何故か茜は固まった。
「どうしました?」
 不思議そうに訊く皇騎。
 其れもそうだろう。今目の前にいる宮小路にある女性の、つまり織田義明の恋人の面影か気配を感じる。今彼女にとって、義明や彼の恋人の事は苦悶にしかならない。
「あ、あああっ!」
 何かから逃げようと起きあがろうとしても、力がでない。
「大丈夫ですか?!」
「いやあ! あああ!」
 茜は、皇騎が支えようとするところをはね除けた。
 錯乱状態の茜を見て皇騎は、為す術がない。彼女の力の一つ“時間”で瞬間的に過去を見てしまったのだ。
 ――従妹の事を知る人物と。
 悲しみと、寂しさ、やるせなさを感じ取ってしまったのだ。
 同じ寂しさを共有する者同士かもしれないが……。其れを抜きに今は彼女を落ち着かせるべきであると皇騎は思った。
 苦しむ茜を無言で抱き寄せる。暴れる力が徐々に無くなる茜に何度も引っかかれても止めなかった。
 そして、力尽きたように茜は又意識を失った。
「……こまったな……」
 少し自己嫌悪する皇騎。
 今の彼女には慰めも励ましも無理だろう。追いつめてしまう。
 ましてや、自分が関係者と言うことでは。
「いや、そう言う事で放っておく訳にはいかない……」
 首を振って何とかしようと考え込む皇騎だった。
 茜に引っかかれた所は数知れず。美男子の頬にもくっきり残っている。軟膏を塗っておいた。
 
 
 夕食時だったので、茜の分も用意し、いつでも出せるようにと使用人に指示したあと、気を失っている茜に付き添い続ける皇騎。
 茜が目を覚ます。
「あ、ああ……。ご、ごめんなさい」
 状況を理解していたのか、彼女は皇騎に謝った。
「いえ、わたしは大丈夫です。貴女が心配で……」
「でも、私、あなたのことを無意識に“過去”を見てしまった。それに一瞬でも“同調”したから、大体のことはしってしまったの。たぶんあなたも私のことも……ごめんなさい」
 涙を潤ませ、茜は謝り続ける。
「気にしないで下さい……其れより貴女が元気になる方が大事なことです。食事はどうされますか」
 優しく話す皇騎。
「………はい」
 すこし、落ち着いてきたのか素直に従う茜。
 無言のまま、2人は部屋で食事をとった。茜は数日食事をしていない事を“同調”で知った事で胃腸に優しいスープとリゾットである。
 茜は食後、暖かい紅茶で外を眺め続けていた。闇夜にまだ雨の音が聞こえる。
「気分はどうですか?」
 と、暫く何も言わず、付き添っている皇騎が尋ねる。
「落ち着いてきた。……でも、色々御免なさい」
 茜は又謝った。
 多分ひっかき傷のことだろう、と、皇騎は思った。
「それに、もう、私のこと知ったと思うけど……どうするの?」
 茜は居心地が悪いのだろう。この数ヶ月の出来事あたりは殆ど“見て”しまったのだ。
 それは皇騎も同じであるが、彼女の気持ちは分からなくもない。複雑だった。
 しかし、精神的なダメージで力の制御が出来ない彼女を放っておく訳にもいかなかった。おそらく又、彷徨うだろう。それに、義明が茜を選ばず自分の従妹を選んだ事も、茜を妹に思っている男にしても罪はないし、誰も責める事は出来ない。しかし、後者の男には怒りを覚える訳だが(実は馬鹿げた出来事も悲しい出来事も“見て”しまっている)。
「暫く、此処でゆっくり考えて下さい。此処は私の避難所なので、誰も知られていません」
 と、皇騎は言った。
「……」
 茜は黙ったまま頷いた。
 その後、又時間が経つ。沈黙が支配する。聞こえるのは雨の音。
「私の従妹のことですけどね……」
 と、ふと何を思ったのか……皇騎が自分の従妹の出来事を自分なりに思ったことをふまえ茜に言うのだった。
 茜は頷くだけで、何も答えない。ただ彼の話を聞いている。

 そして夜は更けていくのだった。


 一方、茜の父親の長谷平八郎は、茜の残留霊気が強く残っている路地裏にいた。
「む、近い……しかし、この先が“見えない”……」
 “近くにいる”それだけでも分かった初老の男は、愛娘を捜すため、歩き始めた。



To Be Continued

■登場人物紹介

【0461 宮小路・皇騎 20 男 大学生(財閥御曹司・陰陽師)】

【NPC 長谷・茜 18 女 神聖都学園高等部・巫女】
【NPC 長谷・平八郎 65 男 長谷神社宮司】

■ライター通信
 滝照直樹です。
 『茜の心を癒す人』に参加して下さりありがとうございます。
 いきなり、出来事を見てしまったトラブル。でも落ち着いたようです。しかし、お互いの心境は複雑かも知れません。雨の音はまだ続きます。
 これから先、宮小路さまがどういう振る舞いをするかで、彼女の心の傷が癒され、成長するかになりますし、平八郎との対峙もあると思います(一寸でてきていますが)。茜の背景は異空間書斎〜東京怪談で起きた事件と同じですが、このノベルだけはパラレルです。今後中編、後編の行動次第で、茜との関係(恋愛か友情)が深まっていくでしょう。

 では又の機会があればお会いしましょう。

 滝照直樹拝