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<東京怪談・PCゲームノベル>


茜の心を癒す人

 雨の中で、彼女は佇んでいた。
 色々あったが、今まで支えて見守っていた幼なじみ織田義明に恋人が出来たこと。また、兄と思っていたが徐々に恋に芽生えつつある人物にも振られたこと。そして、己の運命が徐々に近づいてくる。

 ――「長谷神社の後継者」としての修行。
 この状態では彼女はこの運命を受け入れられないだろう。
 大きな事件が終わり、彼女は一人何かを考えるために家出してしまった。

 其れを知った長谷平八郎は必死に愛娘を捜している。

 茜は、知っている人の場所により着かず、路地裏で悪霊を退治していた。それはどう見てもやるせない気持ちを悪霊に当たっているだけにしか見えない。其れに隙が出来、悪霊の攻撃を受けて、倒れる茜。
 あなたは、「危うい彼女」に出会った。


 買い物袋をいっぱい持って内藤祐子は鼻歌を歌いながら帰宅の途中だった。常人の持てる袋の数以上を軽々持っている。服装はメイド服でポニーテールある。
「何かおかしいですね」
 と、雨の中で彼女は呟いた。そして一気に駆け出す。
 いつの間にか彼女の周りに黒い剣が浮かんでいた。
 
 彼女がたどり着いたとき、自分と同じ年頃の少女が倒れていた。その少女は今にも悪霊に殺されようとしている。
「! あの禍々しい者をお願いします!」
 黒い剣にそういうと、荷物を放りだし、少女に駆け寄った。
 剣は無言で悪霊と戦う。
 ほんの数秒だった。祐子が少女を抱え距離を置き、予言所の一ページを破り悪霊に其れをもって殴りつけたのだ。悪霊は何も分からないまま燃え尽きてしまったのだ。
「此処にも……こういった者が居るのですね……」
 記憶消失の祐子。ただ、異世界でもこの世界でも自分の“立ち位置”が直感的に理解してしまった。
「さて、戻りますか……この子を連れて」
 すでに剣はいない。単に姿を消したようだ。
 祐子は買い物の荷物と少女を軽々と担いで、何事もなかった様に路地裏を去っていった。
 
 
 客室に少女の怪我を治し、可愛いパジャマに着替えさせて鼻歌交じりで夕ご飯を作る祐子。
 少女は、意識を回復、とたん……、
「きゃぁぁ〜!!」
 絶叫をあげた。
「ど、どうされました!?」
 急いで、駆けつける祐子。
 しかし、更に事は……
「ああああ、あのメイド好きぃ〜とうとう約束まで破って!」
「な、何のことなのでしょうか?」
「あー、助けてくれたことはお礼言うけど、此処の主とは会いたくないの!」
 少女の行っていることはよく分からない。ただ、此処の主が誰だか知っているようだ。
「あの方をご存じなのでしょうか?」
「知っている! しかも、腐れ縁並み! メイド魔神でたらし、更にたこ足だよ! 天空剣門下生でもあるんだから! 出て行く! あんなヤツの顔も見たくない!」
 と、ずかずかと何故過去の場所の勝手をしる少女は、パジャマを脱ぎ捨て、適当な服を着替え出て行こうとする。
「い、いけません! まだ……なにに怒っているか、私には…」
 祐子は出て行こうとする少女を力で押さえつけた。
「はなせー! あいつの家にいたくなーい!」
 なんと、祐子の怪力を凌ぐ怪力で対抗する少女。
「!!」
 其れには祐子も驚いた。
 祐子は記憶がないのだが、おそらく“予言者”としての能力であると考えていたのだ。しかし其れを凌ぐとは恐ろしい少女である。
 しかし、この力は単なる暴走、“発作”に過ぎない。
 時間もかからず、少女はへたりと座り込んでしまった。
「ま、まさかこんなところで……拐かしもしているなんて……」
「拐かしって……?」
「あの、たこ足―!」
 今度は大泣きする少女だった。
 周りにはメイド服やらランジェリーやらと散らばっていた。
 祐子はどうすべきか困った顔をする。


 やっと、落ち着いたのは20時頃。
 お互い自己紹介して、晩ご飯。
 内藤祐子、実際どこから来たのか分からないとうちあける。長谷茜は不機嫌な顔して自分は今家出中とか事情を話す。
 長谷茜は其れをしっかり聞いてご飯を食べながら、此処の主の悪癖を語り始めた。
「ここの、主は私を着せ替え人形みたいに遊ぶの」
「ははぁ」
「で、まぁデザインとか良いから気に入っちゃったけど……。大のたらし」
「はぁ……でも困っていた私を拾ってくれました」
「其れは間違い。単に……ううん。まぁお人好しでもあるけど、たらしですけべで、実際は教会のシスターを愛しているとか振ったのよ? それであなたを保護しているなんて飛んだ無神経な男だわ」
 怒りながらもご飯を食べる。
「しかし、いい人ですけど……」
「だいたい、メイド服を着せたいとかおもっている輩にいい人はいないわよ」
「メイド服お嫌いですか?」
「……」
 反論できなくなった茜。ここの主の所為で自分もメイド服が好きになってしまったからだ。
「助けてくれてありがとう。でも、此処に私がいたら、絶対地獄の絵巻図になるから、出て行くね」
「その心配は無用です。あの方は暫く帰ってきませんから」
「……でも、居たくない。此処にはイヤな思い出がありすぎる……」
「……」
「……」
 沈黙が訪れる。

 夕食が終わった時、茜は荷物をまとめ始めている。
「駄目ですよ。まだ……それに……私も言っていないことがあります」
「なに? またあの魔神のこと」
「いいえ、あなたのことです。どうして、無茶なことをしていたのですか! 命を粗末にするものじゃありません!」
「いいもん……わたし……」
「いけません!」
 と、延々しかりつけた。
 黙り込む茜。
 その瞳には悲しみと絶望、葛藤が入り交混じる。
「皆さんが心配してます」
「これは……自分自身の問題だもん。誰も関係ない」
「関係なくないです」
 茜を優しく抱きしめる祐子。
「無理をしないで下さい……主は帰ってきませんから、忘れて……」
 茜は早く出て行きたい所なのに、でて行きづらくなってしまった。
「今日はお世話になるけど……明日は出て行くから」
「そんな……」
「今日は、祐子さんの言うことを聞きます。恩人だから」
「ありがとう」
 と、緊張した雰囲気は残るものの、茜はこの忌まわしい家に一晩泊まることになった。

 ――あとでこっぴどくいぢめてやる〜! あのたこ足助平、誘拐犯!

 茜はそんな事を考え勝手知る“自分を振った男”の部屋を借り、眠ることにしたのだった。

「これからどうしましょう……」
 祐子はこの事を、自分の“恩人”に話すべきか悩んでいた。
 いや、“恩人”に話した時点で、彼の人生は終わるだろう……。そう思うと内密にする方が良いと思った。
 この先混沌としているのは確かだ。


 厄介ごとは厄介ごとを更に引き寄せるというものである。
 ただ、雨だけは降り続ける。

To Be Continued

■登場人物紹介

【3670 内藤・祐子 22 女 迷子の預言者】

【NPC 長谷・茜 18 女 神聖都学園高等部・巫女】

■ライター通信
 波乱パターンで幕開けです。祐子さんとの友情はどうなるか! というか、第一級危険存在の関係者で場所が悪かったですねぇ。祐子さんは悪くはないでしょうけど、そこの家主が……どうなっても知りませんが。乱す人になりそうだ予感ですが……。
 これから先、内藤さまがどういう振る舞いをするかで、彼女の心の傷が癒され、成長するかになりますし、平八郎との対峙もあると思います(一寸でてきていますが)。茜の背景は異空間書斎〜東京怪談で起きた事件と同じですが、このノベルだけはパラレルです。今後中編、後編の行動次第で、茜との関係(恋愛か友情)が深まっていくでしょう。

 では又の機会があればお会いしましょう。

 滝照直樹拝