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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


昆虫採集は命がけ

 …夏休みが終わる。
 さて、この時期の風物詩といえば。
「宿題が終わらねえっ!」
「…自由研究が終わってねぇー!!」
「……もう間に合わないよう…」
 某図書館にてそれぞれ十人十色の悲鳴を上げながら頭を抱える一同。
 その時、何かがその一人の袖を引いた。
「ん?」
 見下ろした先には、全長約30pのエビフライ。
 何故エビフライが…首を傾げる彼らに、エビフライは一枚のプラカードを差し出した。
『ゐゐとこ、しってる』
「…何の?」
『こんちうさいしう。』
「おお、それなら捕まえさえすればどうにかなる?」
「植物採集と違って乾燥させる時間とか要らないよね!」
「どこ、それどこ!?」
 一気に盛り上がる一同に大きく頷いて、エビフライはその場で奇妙なステップを踏み始めた。
「………?」
「……?」
 くるりくるり、独特の足取りで輪を描いて。
 その後そこに現れたのは、直径1m足らずの黒い穴。
「……それ、何?」
 覗けとでも言うようにそれを指差されて覗き込めば、中から漂ってくるまるで熱帯の森の湿気を含んだ蒸し暑い空気。
 中は何も見えない…深淵の闇である。
 どこか遠く、虫や鳥の鳴き声が聞こえている気がする。
『どぞ。』
「……入れってか?」
 答えは当然YES。
 胸を張るエビフライに、一同は…引いた。
「…あ、あたしモヤシでも育てようかな、たしか一週間ぐらいでいけるよね?」
「朝顔の観察日記を昔のデータをもとに…」
『かぶとむし、くわがた、おおきいの、いっぱい。』
 ミミズののたくるような汚い字が新たなプレートに書き記される。
「………。」
 …それは男心を擽る。
 しかし、だがしかし、やっぱり命は惜しい。
 正直きっぱり昆虫採集如きでそんな危険は冒したくない。
「…ま、また今度、な?」
 そう言って誤魔化そうとしたのだが…。
『エンリョすんな』
 太く墨で書かれたプラカードを持ったエビフライは、穴の一番近くにいた人間の頭を踏んだ。
「!?」
「きゃあっ!」
「うぎゃあああああ!!」
 小さな身体はぽぉんと跳ねて、蹴り倒された形になった男は穴に、落ちた。
「や、やめろーっ!」
「ちょ、あたしいい、いいですっ!いいですぅっ!」
 …全員が消えるまでに要した時間は約30秒。
 目にも止まらぬ早業で全員を穴の中に落としたエビフライ、穴の淵に腰掛けて足をぷらぷらさせながら、まるでいい仕事をしたとでも言うように爽やかに汗を拭う仕草をしたのだった…。

 一瞬にも永遠にも感じる暗闇、気が付くと貴方は密林の中にいた。
「………ここは、どこだ?」
 ご丁寧にも何時の間にか手の中には虫取り網とカゴ、頭の上には麦藁帽子。
 左右を見渡そうとして…耳の痛くなるような轟音に慌てて身体を伏せた。
 頭の上を渡っていったのは…カブトムシ。
 全長約2m。
「………確かに、おっきいなぁ……」
 どこか諦めたような、途方にくれたような声が響いた。



 8月も末…八木さつきも他の多くの学生達と同様、宿題に追われていた。
 国語に英語、数学物理生物世界史日本史社会etc…。
 分厚い紙束を片付けるべく図書館に篭っていた彼女は、他の人の迷惑にならないように静かにが定番の図書館でざわざわと騒がしい人だかりを見つけた。
「…あれー、なんだろ?」
 図書室で騒いでいるというのに司書のヒトは何をしているんだろ…否、司書は居る。必死で騒ぎを鎮めようとしているがどうにも空回っている模様で、人だかりは黒さを増す一方。
 ごくごく普通(?)、且つ楽しいことが大好きの女子高校生に興味を持つなという方が無理がある。
 何がおこっているのかと興味津々近づいてしまったのが運のツキ。
「おい、マジかよ…」
「すいませーん、通してくださいー!」
「やだなにコレー!」
「落ちたぞ、落ちた!」
「…?」
 人込みに揉まれてたたらを踏んで…足をつこうとした先には地面がなかった。
 バランスを崩したところで視界に入ったのは、エビフライ。
 エビフライはひらりと舞い上がり、その針金のような足で…と言うか待って、何で足があるんですか!?…さつきの頭の上に着地した。
 そうしてぽーんと跳ね上がり…さつきはその衝撃で前のめりに、倒れた。

 …トンネルを抜けたらそこは雪国だった…ではなく、暗い闇を抜けたらそこは南国だった。
 じりじりと肌を焼く灼熱の太陽、じわじわと吹き出る汗、虫や獣の鳴き声。
 あたりを見回せば同じように落とされたらしい学生その他の姿。
 その全員が思い思いの麦藁帽子と虫取り網を手にしていて…図書室に何で虫取り網なんかと思ったところで自分が長いものを手にしているのに気がついた。
 目の前にも暗い影がある…まるでふちの広い帽子を被っているような。
 頭に手をやって確認してみるとそこには制服のリボンとお揃いのブラウンのリボンの巻かれたオーソドックスな形の麦藁帽子があった。
 右手に持っていたシャーペンも何時の間にか1メートルを越す長さの虫取り網になっている。
「え、ちょっと待って、どーゆーこと!?」
「うぎゃあぁぁあッ!」
「!?」
 響き渡る、悲鳴。
 思わず音の方へと視線を向ければ高い空を黒い巨大な物体に掴まれて飛んでいく人影…え、何!?
 よくよくみたらカブトムシ…?にしても大きい。
「……ど、どうにかしなくちゃ!」
 しばらく呆然とそれ見送って…はっと我に返ってさつきは慌ててそれを追って走り始めた。
 どうやら一般人…と言うとまるでさつきが一般人ではないようだがさつきだって立派な一般人、極々普通の女子高校生である…が多かったらしく、そこかしこで巨大昆虫相手に苦戦している姿が見れる。
「たーすーけーてー!」
「今助けますからねー!」
 引き攣った悲鳴を上げる男子生徒を励ますように声をかけたものの、持っているのは虫取り網のみ…刀を召喚することは出来るけど、相手は空の上。
 多分魔法陣を書いている時間もなくて、悩んでいるうちに時間は過ぎていく。
 と、さつきの視界に一人の…黒衣の女性が飛び込んできた。
 低空飛行をするカブトムシのちょうど進路上で、このままではぶつかってしまうだろう。
「あ、危ないです!」
 慌てて注意を呼びかけたが…それは意味をなさなかった。
 何故ならその彼女…一見おとなしめな純和風美人…はひらりと上空へと飛び上がったからである。
 彼女はそのまま身体全体を使って、体重と重力を乗せた重い一撃をカブトムシの背中へと叩き込んだ。
「………」
 衝撃でカブトムシは男子生徒を取り落とし、地面にめり込んだ。
 一瞬何が起こったのかわからなかった。
 彼女がゆらりと立ち上がるのを見てさつきは慌てて頭を下げた。
「…あ、ありがとうございました、あたし八木さつきです!」
 幾分乱暴ではあったが…助かったことには違いない。
『我は狩りを楽しんでいたのみ…何故礼を言う?』
 ククククとどこか暗い笑みを浮かべて彼女は笑った。
 年の頃は二十代始め、到底学生には見えない黒髪に黒い瞳の日本的な美人…だがその口から漏れる音はあまり女性的ではない。
 思わず目をぱちくりさせていたら彼女は一瞬眉を顰めて…それからにこりと綺麗に微笑んだ。
(あ、さっきと違う…)
 先程の邪悪とさえいえる笑みとは違う、たおやかな笑みだった。
「……ごめんなさいね、怪我はない?」
「あ、はい…」
「そっちの彼も大丈夫?」
「…はっ、忘れてました!だ、大丈夫ですかー?」
 慌ててしゃがみ込んで半ば叩き落とされた男子生徒を確認するが外傷はない…ちゃんと息もしているようだ。
 女性の方も座り込んで彼を覗き込んでほっと安堵の息を吐いた。
「だ、大丈夫みたいです!よかったぁ…」
「良かったわね、あなたのお友達?」
「あ、いえ、助けてって叫んでたので…」
「そう、優しいのね」
 クスと小さく笑って、彼女はぽむとさつきの頭に掌を乗せた。
「一緒に、出口捜しましょうか。彼をここに放置しておくわけにも行かないし…他の子達もパニックになったりしてるからいつまでもここに居るのも危険でしょう?中の子も存分に暴れてストレス解消できたみたいだし…」
「ナカノコ?」
「…ええと…秘密、ね」
 クスリと小さく微笑んで彼女は音をさせない静かな動きで立ち上がった。
「私は雨柳凪砂よ。よろしくね。」

 彼女もここに落ちる際エビフライを見ていた…明らかに不審な、針金のような細い手足で縦横無尽に動き回るエビフライを。
「…やっぱりあれかしらねえ…」
「他におかしな気配とかありませんでしたし、多分あれじゃないでしょうか!」
「……うーん…」
 確かにあれはあからさまに不審だった…。
 凪砂が中の子…魔狼フェンリルの影の感覚を借りてこの空間を探ったところ、どうやらここは閉鎖されたい空間らしい。
 否、そうでもなければこんなでかい昆虫なんか居るはずがないのだが。
 さつきが召喚した刀で襲ってきたクワガタを一刀両断、蟷螂と戦い蜂に追いかけられ…結構な苦労をしつつ二人はその中央へと向かっていた。
 気を失った男子生徒は後で迎えにくることにして…とにかくまずはこの閉鎖空間を解こうと話し合った結果である。
 勿論中には恐ろしい昆虫ばかりではなく蝶や蜻蛉だのも居て、特に巨大なアゲハチョウなんかは結構な見物だったのだが。
 そうして辿り着いたこの世界の中央…多分最初に落とされた穴は随分と高い場所にあった。
「……届きそうにないですね」
「ええ…」
 凪砂の中の子の能力であれば届かないこともないか…その高さ約10メートル。
 さてと思案する二人の足を何かが突いた。
「?」
 見下ろした先には、座布団ほどの大きさの…てんとう虫。
 てんとう虫はにこおと笑い…細い手足で自分の背中を指差した。
「…乗せてくれるの?」
 さつきがおそるおそる尋ねるとてんとう虫は大きく首を縦に振った。
 それ以外にも、わらわらと小さな…否、普通よりは充分に大きいのだが…てんとう虫達が集まってくる。
「でもどうして?」
 てんとう虫が身振り手振りで説明するところには、凪砂が殴り倒した…性格には凪砂の中のフェンリルが…カブトムシはてんとう虫達の敵だったらしい。
「……てんとう虫の恩返し?」
「………一体どういう基準で構成されてるのかしら、この世界…」
 悩みつつもINてんとう虫。
「わー、すごいですよ高いです、飛んでますっ!」
 てんとう虫の背中に乗って大空に飛び上がったさつきはきゃあきゃあと黄色い声を上げた。
 だって高いし、下は綺麗な緑の森で、空は青くて…黒い穴が開いているが…空を飛ぶなんて滅多に出来る経験じゃない。
 折角なんだから楽しんでおこうと言うポジティブシンキング。
「あ、なんか…」
 穴の側まで近づいた彼女達はそこから針金が二本、飛び出していることに気付いた。
「………ひょっとして、足?」
 それは最初に見たエビフライの足に、酷似していた。
「…よし、ひっぱってみましょう!」
 ぐっとガッツポーズ、てんとう虫にお願いしてさつきは穴へと寄せてもらうことにした。
 だが穴には微妙に近づきたくないらしいてんとう虫はなかなか思うように動いてはくれなくて、さつきはその背中から身を乗り出した。
 伸ばしすぎて震える指がその針金へと触れる…だが美味く掴むことが出来ない。
「…も、もーちょっと…よしッ!」
 ようやくそれを掴んだ、と思った瞬間てんとう虫の背中についていた手がつるりと滑った。
「…ぇ……」
「さつきちゃん!」
「きゃーッ!!」

「…ぁ……!」
 地面に叩きつけられる、と思って身体を固くしたさつきは、足に感じる冷たい感触に目を瞬かせた。
 暗い室内、冷たいリノリウムの床、古びた紙の匂い。
「…図書室…?」
「…戻ってきたみたいね」
 声に振り向くと、そこには先程まで一緒に居た…凪砂の姿があった。
「ぁ…凪砂さん、ええと夢じゃないですよね?さっきあたし落ちましたよね??」
「ええ…やっぱりあれが鍵だったんでしょうね、閉鎖空間が溶けてもとの空間に放り出されたみたい」
「ほ、他の人達はっ!?」
「大丈夫よ、多分皆居るわ」
 あたりを見回せば同じくい空間に落とされていたらしい生徒達の姿…そこそこの人数。
「…はぁ…良かったぁ」
 安堵の息を吐くさつきの視界に入ったのは、踊るような足取りで去っていくエビフライ…あとには汚い字が書く殴られた紙が一枚。
『 またあそぼ 』
「…あんまり、しゃれにならない遊びでしたけどね…」
「……一応のところ…バカンスにはなったのかしらねぇ…」
 そういって首を傾げる凪砂の頭の上には…麦藁帽子が乗ったままだった。
「あれ、凪砂さんそれ…」
「…あら、これだけ出てきちゃったのかしら?」
「あ、こっちにもあるみたいです。」
 よくよく見れば、落ちた衝撃で落としてしまっていたのだろう、さつきの足元にも麦藁帽子が落ちていた。
「……記念品、ですかね?」
「…まあ可愛いから、もらっておきましょうか?」
 二人は顔を見合わせて、クスと小さく笑った。

                                −END−


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
3413/八木・さつき/女性/17歳/学生
1847/雨柳・凪砂/女性/24歳/好事家

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■         ライター通信          ■
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遅くなってしまって申し訳ございません、ご参加ありがとうございました。
女の子ばかりだったので痛い役はNPCにお願いすることになりました(笑)が、少しでも楽しんでいただければ幸いです。