コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


試験・失敗・趣味・シリューナ


◆ 師匠は弟子に試練を与える

 両手の間から、金色の光が漏れいずる。
 それはどんどんと質量を増し、影響を受けて空間がざわめく。
「ああ……。ああああっ!!!!!」
 ぶわっとファルス・ティレイラの黒い髪が風を受けてはためいた。



 ぱ……ぶすぶす。



「……………………。」
 鈍い音を立てて、手の中から煙が上がる。
 ティレイラはしばらくそのままの格好で硬直していた。一気に下がった背後の温度が怖くて振り返るどころか、下手に身動きすら出来なかった。
「ティレ、あなた本当に水系苦手なのね。」
 シリューナ・リュクテイアが深々と溜め息をついた。
 恐る恐るティレイラが振り返ると、シュリーナは本当に呆れたような顔をしている。
「し、師匠ー。」
「甘えるな。」
 びしっと突っぱねられ、ティレイラはぐっと唇を噛む。
 シリューナは見て見ぬ振りをして、顎に手を当てて考え込んだ。
「まあ、いきなりそのレベルはティレには辛いだろうね。もっと初歩の水系魔法にしてみようか。一滴でもいい。水を作ってみな。」
「はい! 師匠!!」
「一週間後、テストをするからね。」
「分かりました!」
 ティレイラはテストという表現に緊張した面持ちを見せる。気合が入ったのは確かなようだ。
「た・だ・し! 出来なかったらお仕置きだからね。こんな簡単な魔法。」
 今までほとんど表情の変わることがなかったシリューナがにやりと笑った。そのあまりの不吉さに、ティレイラは背筋に寒気を感じた。



◆ 弟子は師匠に技を披露する

 ティレイラは火系の魔法が得意だ。だから、対称な属性である水系の扱いに弱い。
 魔法書を何度読んでも、シリューナに何度教えられても、簡単な初歩魔法ですら成功しない。
 それなのに、どんどんテストの日にちが迫ってくる。
 人間(竜族?)追い詰められるとどうにかなるものらしい。ティレイラは10回に3回の割合で、一滴の水を作り出すことに成功するようになった。それも本当に僅かに一滴と分かるようなものだったが、初めに比べれば遥かに進歩していた。
 そして、とうとうテストの日がやってきた。
「自信はあるんでしょうね。」
 そうでなければ、テストをする意味すらないとばかりにシリューナが尋ねてくる。
 緊張した面持ちで、ティレイラは力強く頷いた。少し意外そうにシリューナが眉を上げ、それでも特に何も言わなかった。
「じゃあ、やってみなさい。」
「はい、師匠!」
 ティレイラは深呼吸すると軽く目を閉じ、意識を両手に集中させた。
 熱源が集まっていくのを感じる。
 それを水へと構成を練り上げ、具現化する。
 細心の注意を払い、ティレイラはそれを作り上げた。
 光が収縮していく。
「ほう……。」
 シリューナが感心したように目を細めてその光景を見守る。
 ティレイラも手ごたえを感じていた。



 ぼんっ!!



 無粋な音が響き、ティレイラの両手からもくもくと煙が上がる。
「…………。」
 沈黙が落ちる。
 失敗したのは明白だった。
 ティレイラは嘆きのあまり、頭を掻き毟った。
「あああああっ!! 10回中7回の方が出たぁっ!!!」
「成功率が低すぎる!!」
 リシューナはびしっと突っ込む言葉を媒体に、ティレイラに石化の呪いをかけていた。
 喚いていた格好のまま、ティレイラは固まってしまった。
「さて、出来なかった不肖の弟子にはお仕置きをしないとね。」
 にっこりと嬉しそうにリシューナは笑った。



◆ 師匠は弟子に罰を下す

 シリューナは魔法薬屋を営んでいる。液体に魔法の効力を封じ込めたものを商品として売っており、化学薬品が並んでいるような怪しげな雰囲気を持っていた。
 その片隅に、シリューナはいそいそとティレイラをオブジェとして置いた。店番でカウンタに座り、そこから見える位置をいろいろと試行錯誤して、ちょうどよい場所に設置する。
 店内がぐっと華やかになったような気がした。
 だが、まだ何か足りない。
 シリューナはうーんと首を捻って考えた。
「……何かしら……。」
 そもそも、リシューナはティレイラが魔法を成功するとはちっとも思っていなかった。十中八九失敗するだろうと思って、テストを仕掛けたのだ。
 その理由はただ1つ。
 ティレイラにお仕置きして遊びたかったから。
 そう。そのためには、石にするだけでは面白くない。
「そうだ。違うものを着せてみよう。」
 わくわくと胸を躍らせながら、シュリーナは何を着せようかと頭を悩ませ始めた。



 やっぱりメイド服は外せないだろうか。
 折角夏だし、水着というのも捨てがたい。
 魔法薬屋らしく魔女の姿にするのもいいだろう。
「どれもティレに似合いそうだから迷う〜〜!」
 弟子馬鹿な師匠は悶えた。普段感情の起伏の少ないシリューナの珍しい姿を見たら、ティレイラはきっと目を丸くして、それこそ石のように硬直するかもしれない。
「そうだわ。折角のオブジェだし。天使にしよう。」
 シリューナは我ながらよいアイディアに満足そうに頷いた。
 元来2人は翼を持つ竜族だ。人の姿に飛翔可能な翼と角と尻尾が生えた姿にもなることも出来る。
 ティレイラの紫の翼を思い出し、背中に作り物の羽根をつけ、真っ白なローブを着せて、目を潤そうとシリューナは考えた。どうせ置物だから、客も可愛らしい天使に見えることだろう。



 本日の来店者から、入り口近くの天使の像がとても可愛らしいと評判で、シリューナは大変満足した。もちろん、自分もしっかり堪能したのは言うまでもない。
 ティレイラの魔法特訓はまだまだ続く……。


 * END *