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<幻影学園奇譚・学園ノベル>


激走! まぼろしのメロンパン!

1.
夏休みの神聖都学園・・・。
その学園内になぜか1つの噂が持ち上がった。
その噂とは・・・

『限定メロンパンが購買部にて販売される』

という噂だった。
神聖都学園の購買部は食堂も兼ねた充実のラインナップが魅力的な、いわゆる名所のひとつである。
その購買部に限定メロンパンが販売されると聞けば客が殺到することは間違いない。

そして、噂は真実となる・・・。


2.

 ピンポンパンポーン

「ただ今より、購買部にて10個限定メロンパンの販売を開始します」

夏休みの補習授業の終了の鐘と共に、そのアナウンスは流れた。
限定、それは心をくすぐる何か神秘的な響きを持つ言葉である。
そして、そんな言葉に心くすぐられてしまった人物がここにもいた。

「限定!? ・・・きっと、金のNOが欲しくなるくらいのメロンパンに違いないッ!」

1年A組、鈴森鎮(すずもりしず)である。
ざわめくクラスメートを縫うように、鈴森は駆け出した。
途中、なにか妙なクラスメートを見た気がした・・・が、彼は無視した。
そのクラスメートの名は丈峯楓香(たけみねふうか)であったが、何が違和感だったのか彼に知るすべはない。
なぜなら、彼は立ち止まってはいられなかったのだから。

教室を走り出て、階段を一気に降る。
と、誰かにぶつかった。
「うわっ!」
あまりの勢いに双方とも弾き飛ばされる形で尻餅をついてしまった。
「いってー・・・あれ? 隣のクラスの相模(さがみ)?」
「そういうあんたはA組の鈴森か・・・あまりに小さくて見えなかった。すまん」
1年B組・相模紫弦(さがみしづる)はそう言いながら立ち上がり、ズボンをポンポンとはたいた。
「小さいって言うな! 成長期なんだよ!! これから伸びるんだよ!」
ササッと立ち上がり、噛み付くように鈴森は相模に主張した。

「うん。俺も成長期だし、まだ伸びると思うよ」

にっこりと笑う相模。
鈴森との身長差はあまりに違いすぎた。
「それ、嫌味?」
「別に嫌味を言った覚えはない」
鈴森の問いに相模はそう答えた。
鈴森は『成長期なんだから相模の身長もまだ伸びる』ととらえたようだが、相模は『鈴森の身長はまだ成長期だから伸びると思う』という意味で言ったようだ。
日本語とは難しいものである・・・。


3.
相模は、一通り会話が終わったと思ったのか何かを思い出したようだ。

「あ・・・メロンパン」

「・・!?」
鈴森も自分がメロンパンを買いに行く途中だったことを思い出した。
おもむろに廊下の窓を開け、窓の縁に足をかけた。

相模の目の前で風に乗るのはさすがにマズイけど、窓から出て校舎の影からなら購買部には近道になるよな。

「メロンパンは貰った! 悲しいけどコレ、競争なのよね!」
捨て台詞を吐き、身軽に窓の外にひらりと飛び降り・・・る予定だったのだが、なぜか空中で足がもつれた。
まるで誰かに足を掴まれたような感覚。
鈴森は、無様にも顔から土の上へと落下した。
「・・・大丈夫か?」
窓から、ひらりと相模が舞い降りて鈴森にそう呼びかけた。
そう。本当は鈴森もそうやって降りる予定だったのだ。
「あんた、今俺の足引っ掛けなかった?」
「・・・いや」
相模の答えがわずかに遅かった。

何かしやがったな? こいつ・・・。

だが、先ほどの距離からすれば手で掴んだとは考えにくい。
なにか、特殊な能力でもあるのだろうか・・・?
「・・・悪いけど先行くから」
相模はそういうと、ヒョイっと鈴森を跳び越した・・・はずが微妙に鈴森の頭を掠めて行った。
「すまん! 怪我ないよな? じゃ、そういうことで」
去っていく相模の後姿・・・。
鈴森はあまりの出来事に、呆然としていたがハッと我に返った。
そして叫んだのだった。

 「俺を踏み台にしたーーーーっ!?」


4.
ようやく踏み台にされたショックから立ち直り、鈴森は校舎の影から風に乗り購買部へとやってきた。
購買部は物凄い人の数で溢れかえっていた。
限定メロンパンを求め、集まってきた人々なのだろう。
だが、溢れた人々は何かに戸惑っているようでもあった。
「?」
鈴森は、その人々を掻き分け前へと進み出た。
そして、その戸惑いの原因をみた。

デッサン狂いの落書きのような購買部のおばちゃんとレジ、そして怪しげなメロンパンの山。
そして、同じくデッサン狂いの謎のツインテール少女軍団。

「・・・な、なんなんだよ? これ・・・」
その異様な光景に、思わず鈴森も引いた。
「鈴森? いつのまに来てたんだ??」
「相模!? あんた、さっきはよくも・・・!」
鈴森よりやや遅く相模が到着した。
「まぁまぁ。ところで、これどうなってるんだ? 何だ、この変なのは・・・?」
うやむやのうちに、相模は話題を目の前のものに移した。
「俺も今来たばっかだから、よくわかんないんだけどさ・・」
素直な鈴森は、相模のその言葉に思わず答えてしまう。
・・・と。

「メロンパンくださ〜い♪」

ふと、鈴森の耳にそんな声が聞こえた。
鈴森がその声の方向を向くと、そこにはクラスメートの丈峯楓香の姿が!?
「・・・アレが本物のレジだな」
相模がボソリと呟いた。
「おのれ、丈峯〜!! 独り占めなんて許さん!!」
思わず叫んだ鈴森の声が、楓香の耳に届いたのかクルリと楓香が振り向いた。

その腕にはしっかりと限定メロンパンが収まっていた・・・。


5.
「限定品と聞いたら手に入れたくなるのは乙女心よ! 年頃青春真っ盛りの乙女を止められるものなら止めてみなさいっ!」

楓香はそういうとクルリと体を反転させ購買部から運動場へと逃げだした!!
「待てこのやろー!」
「待ったないもーーん♪」
ベーッと舌を出し、楓香は足取りも軽く逃げていく。
「またんかい! こら!!」
と、後ろからさらに追ってくる人物たちがいる。
「独り占めは許されないよ!?」
1人は白衣がトレードマークの3年生・門屋将太郎(かどやしょうたろう)。
こちらは手に健康スリッパを持って追ってくる。
そして、もう1人は鉄枷がトレードマークの3年生・龍堂玲於奈(りゅうどうれおな)。
どちらも追ってこられると相当に怖い。
「ちょ、ちょっと! か弱い乙女を数人掛かりでよってたかって追ってくるなんて酷いじゃない!」

「じゃあメロンパン独り占めするのは酷くないのか!?」

自分の所業を棚に上げた楓香の言いように、思わず鈴森はそう突っ込んだ。
「しょうがない。ここはひとまず休戦して、あの子からメロンパンを取り戻そうじゃないか?」
「ち、しかたねぇな。おい! おまえらも手伝え!」
なにやら休戦協定を結んだ玲於奈と門屋が鈴森と相模にも協力を求めてきた。
「女の子をいたぶるのは趣味じゃないんだが・・・まぁ、この場合しょうがないか・・・」
相模が少し考えた後でその協力に応じた。
「おっしゃ! 俺もやる!!」
鈴森もその手に乗ることにした。


6.
「じゃあ、4方向から追い詰めるよ!!」

玲於奈がそういうが早いか左方向へとダッシュをかける。
「では俺は右から・・・」
相模が宣言どおりに右へ。
「直進あるのみっ!!」
健康スリッパ片手に門屋が叫ぶ。

「俺は反対側を塞ぐぜ!」

身軽に楓香の頭上を掠め、楓香の進行方向を塞ぐ。
「うっ!?」
4方向をふさがれ、楓香の足が止まった。
「フェレットとは違うのだよ、フェレットとは!」
得意げに鈴森は胸を張った。
「全然意味わかんねぇよ」と、相模が鋭い一言を放つ。
「ムッキーーー! おまえどこまで俺をバカにするんだよ!?」
怒る鈴森を無視し、玲於奈と門屋は楓香に詰め寄った。
「さぁ、メロンパンを出してもらおうか?」
「・・・」
「こっちは腹減ってんだから、これ以上手こずらせるんじゃないぞー? ん?」
玲於奈と門屋に優しい言葉ながら迫力満点で迫られ、楓香は焦った。
だが、

「っ、甘ーい! 道はどこにだってあるんだから!」

小競り合いを起こしていた鈴森と相模の間をすり抜け、楓香は再び走り出した!
『しまった!?』
一瞬、誰もがそう思った!
だが・・・

「あ、UFOだ!!」

「え? あ!!?」
髪の長い人物の指差した方向を思わず見た楓香は、その人物に思わぬ膝カックンを食らいその場にへたり込んだ。

その人物とは、誰あろう『シオン・レ・ハイ』。その人であった・・・。


7.
「どこから出てきたんだ・・・まぁ、いいや。とにかくこうしてメロンパンは手に入ったわけだし」
爽やかに笑い、いつもの顔に戻った門屋はそういうと、楓香の持っていた紙袋からひとつメロンパンを取り出した。
「あぁ!? あたしが買ったメロンパン!!」
「・・金は払うよ。いくらだよ?」
半泣きの楓香に門屋が財布を取り出しながら言った。

「5000円」

「嘘つくんじゃないの!」
速攻、玲於奈がコツンと楓香にデコピンをかます。
「うぇ〜ん・・いった〜い・・・」
チャリンと紙袋の中に100円硬貨を門屋は入れた。
「じゃあ俺も貰おうかな。・・・こんなこと、危ないから二度としちゃダメだよ?」
にっこりと笑うと相模も同じく100円を紙袋に入れメロンパンをひとつ取った。
「戦いとは、常に二手三手先を読んで行うものだ・・・」
「何かっこつけてんの? メロンパン食っちまうよ?」
玲於奈にそういわれ、鈴森はハッと我にかえると100円を袋に入れメロンパンを1つとった。

『いただきまーす♪』

・・・と食べようとしたが、とある熱い視線のせいで動きが止まった。
いや、食べることができなかったのだ。
その熱い視線はシオンのものであった。

「・・・財布、お金足りませんでした・・」

捨てられた子犬のように、そう呟くとジーッと無言で門屋や相模、鈴森を見つめる。
これで食えたら、相当のつわものである。
「あー・・わかった、わかった! ぼくがあんたの分までメロンパン買ってあげるから、そんな顔しないの!」
「えー、まだメロンパン減るのぉ・・・?」
ブーブーとブーイングをする楓香を一睨みし、玲於奈は200円を袋に入れると2つメロンパンをとった。
そしてその1つをシオンへと手渡した。
「あ、ありがとうございます〜」
ウルウルとした目のシオンに、玲於奈は視線をそらして「全然気にしなくていいから」と手を振った。

気を取り直し、目の前のメロンパンへとご挨拶。
『いただきまーーす!』

「・・・っ!」
親指を立て、無言でかぶりつく鈴森。
門屋も「ふまひ♪」と口に入れながら、もふもふと食っている。
そろそろ牛乳が欲しいお年頃だ。(?)
「これって、日本で初めて作られたメロンパンじゃないのか。でも美味い美味い♪」
どうやら復刻か何かと思っていた相模は、それでも美味しそうに食べている。
が・・・
「美味しい・・・? どの辺が限定なんだろ? でもいいか【限定品】だし! 美味しいに違いないのよ! そうに決まってるわ!」
なにやら自己暗示でもかけるかのように楓香は言った。
「ふーん、限定って言うから期待しちゃったけれど、なんか普通だね」
一口食べた玲於奈はクールにもそう言った。

味覚とは所詮、十人十色である。

そんななか、1人遠い目の人物がいた。
「『川の向こう 誰かが手招き メロンパン』
 『ひまわり畑 追いかけるよ メロンパン』・・・」

「し・・シオン先輩?」
鈴森が恐る恐るシオンに呼びかけると、シオンは涙を流しつつ呟いた。
「あれが天国なのでしょうか・・・」

「・・・何が見えてるんだ?」
相模がシオンの目の前でヒラヒラと手のひらを動かすが、シオンは全く反応しない。
「や、ヤバい物でも入ってたのか?」
「うっそぉ! だって同じもの食べてるのに・・・?」
玲於奈と楓香が食べかけのメロンパンを食べるべきか悩んでいる。
「ほっとけって。腹減ってる時はどんなモンでも美味いって事だからさ」
門屋が笑ったのを見て、鈴森がウンウンと頷いた。

夏にしては爽やかな風が吹いてきた。
ほんのひと時の休息。
学年も性別も関係なく、それは戦場をともにしたものだけが味わえる爽快感でもあった。

そして、その風に乗ってそれはやってきた。

『ただ今から限定5個のチョココルネを購買部にて販売開始しま〜す』

「・・・限定?」と、相模が呟いた。
「これは行かないとねぇ?」と、玲於奈が指を鳴らす。
「今度こそ俺が一番だ!」と、鈴森がダッシュをかます。
「このメロンパンよりは美味しいかな?」と、楓香も少し考えた後で走り出す。
「やっぱり菓子パン1つじゃたりねぇもんな」と門屋が再び健康スリッパを手にした。
「メロンパン・・幸せです・・・」と、シオンはメロンパンを噛み締めていた。


そしてまた、新たな戦いが幕を開ける。
今度の勝者は誰なのか!?

それは誰にもわからない・・・。



-------

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】

2320 / 鈴森・鎮 / 男 / 1年A組

2973 / 相模・紫弦 / 男 / 1年B組

2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 1年A組

1522 / 門屋・将太郎 / 男 / 3年B組

3356 / シオン・レ・ハイ / 男 / 3年C組

0669 / 龍堂・玲於奈 / 女 / 3年C組


■□         ライター通信       □■  

鈴森・鎮様

この度は『激走! まぼろしのメロンパン!』へのご参加ありがとうございました。
今回のお話は、当初NPCを使いましての妨害の後メロンパン奪取・・・と考えておりましたが、色々考えましてNPC無しのPC様同士での競争と相成りました。
つきましては少々プレイングの方反映し切れなくなりましたことをお詫び申し上げます。
今回は色々台詞の方に力を入れていただいたプレイングで楽しませていただきました。
ちょっとずれてますが、とーいもソレ世代ですので台詞見ればわかります。(爆)
少し(?)無理やりに言わせてる部分もありますが、こういった隠し要素的なことは大好きです。
それでは、またお会いできることを楽しみにしております。
とーいでした。