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<幻影学園奇譚・学園ノベル>


激走! まぼろしのメロンパン!

1.
夏休みの神聖都学園・・・。
その学園内になぜか1つの噂が持ち上がった。
その噂とは・・・

『限定メロンパンが購買部にて販売される』

という噂だった。
神聖都学園の購買部は食堂も兼ねた充実のラインナップが魅力的な、いわゆる名所のひとつである。
その購買部に限定メロンパンが販売されると聞けば客が殺到することは間違いない。

そして、噂は真実となる・・・。


2.

 ピンポンパンポーン

「ただ今より、購買部にて10個限定メロンパンの販売を開始します」

夏休みの補習授業の終了の鐘と共に、そのアナウンスは流れた。
限定、それは心をくすぐる何か神秘的な響きを持つ言葉である。
そして、そんな言葉に心くすぐられてしまった人物がここにもいた。

来たわ・・・ついに来たのよ、この時が!!!

1年A組・丈峯楓香(たけみねふうか)である。
楓香はこの日が来るのを待ちわびていた。
そう、噂を耳にしたあの日から毎日補習に登校するも、昼前には必ず自前の能力で『偽楓香』を作り教室のみんな全員に見せ続けた。
・・・デッサン狂いの『偽楓香』は教室にいたクラスメートたちにはバレバレであったのだが・・・。
そして、教室をこっそり抜け出して購買部の前で張り込み続けること約3日・・・。
その努力がついに実る日が来たのであった!

「んふふふふ〜! 限定よ! メロンパンよ! あたしの物よーーー!!」

天高く握り締めたこぶしを突き上げ、ガッツポーズを決めた。
購買部のおばちゃんたちがいそいそとメロンパン販売の準備をしている。

もうすぐ・・・もうすぐメロンパンがゲットできるのだ!


3.
だが、意外にも購入者たちは早く来た。
楓香の予想よりもかなり早い。
それはその購入者たちが実は生徒ではなく、先生たちだったからだ。
よくよく考えれば職員室のある1階がこの購買部により近い場所なのだ。
生徒よりも早く来れるのは必至であった。

「よ・・予想外だわ・・・」

夏休みの補習を半ばエスケープする形でこの購買部に張り込んでいた楓香としては、実に後ろ暗い。
だがここで引いてしまっては、張り込んでいた理由も何もかもが吹っ飛んでしまうのだ。
既に女の意地である。
楓香は大きく深呼吸すると、目を閉じ神経を集中させた。

先生や後から来るはずの生徒に上手くメロンパンを買わせない方法・・・。
そうよ! 偽物があればいいんだ!
ついでに妨害用に偽者のあたしも一杯作れば・・・もーバッチグーじゃん!!

パッチリと開けた瞳にキランッと光る怪しげな光。
そして、楓香は力を発動させた!

「楓香の世界〜!!」


4.
購買部には怪しげなレジと、怪しげな購買部のおばちゃんと、怪しげなメロンパン、そして怪しげな偽楓香が溢れかえった!
こそこそと楓香は怪しげな購買部のおばちゃんの後ろへ回り込み、そして叫んだ。

「本物のメロンパンはここだよ〜!!」

ざわめく先生たち。そして、次々に購買部へとたどり着いては混乱する一般生徒たち。
楓香の作戦は見事に命中した。
これで楓香は悠々とメロンパンを買えるというものである。
意気揚々と楓香はレジへと向かった。
呆然とおばちゃんたちが怪しげな購買部レジを見ているのを無視しつつ、楓香はオーダーした。

「メロンパンくださ〜い♪」

「あ・・あ、メロンパンね。ちょっと待ってね」
ハッと我に返り、おばちゃんはメロンパンをごそごそと紙袋へと入れる。
「ぜーんぶ入れてね♪」
「10個とも!? あんたが食べるのかい!?」
おばちゃんがマジマジと楓香の顔を見た。
スレンダーな体のどこにメロンパンが10個も入るのか?と疑問に思っているようだった。
だが、限定10個と聞けば全部欲しくなるのが乙女心・・・。
にっこりと笑い、楓香は縦にうなずいた。
おばちゃんは怪訝な顔をしながらも10個ともを袋に入れ、楓香から代金を受け取った。
・・・と。

「おのれ、丈峯〜!! 独り占めなんて許さん!!」

どこからかそんな声が聞こえた。
振り向くと、楓香に突進してくるクラスメートの鈴森鎮(すずもりしず)の姿があった・・・。


5.
「限定品と聞いたら手に入れたくなるのは乙女心よ! 年頃青春真っ盛りの乙女を止められるものなら止めてみなさいっ!」

楓香はそういうとクルリと体を反転させ購買部から運動場へと逃げだした!!
「待てこのやろー!」
「待ったないもーーん♪」
ベーッと舌を出し、楓香は足取りも軽く逃げていく。
「またんかい! こら!!」
と、後ろからさらに追ってくる人物たちがいる。
「独り占めは許されないよ!?」
1人は白衣がトレードマークの3年生・門屋将太郎(かどやしょうたろう)。
こちらは手に健康スリッパを持って追ってくる。
そして、もう1人は鉄枷がトレードマークの3年生・龍堂玲於奈(りゅうどうれおな)。
どちらも追ってこられると相当に怖い。
「ちょ、ちょっと! か弱い乙女を数人掛かりでよってたかって追ってくるなんて酷いじゃない!」

「じゃあメロンパン独り占めするのは酷くないのか!?」

自分の所業を棚に上げた楓香の言いように、思わず鈴森はそう突っ込んだ。
「しょうがない。ここはひとまず休戦して、あの子からメロンパンを取り戻そうじゃないか?」
「ち、しかたねぇな。おい! おまえらも手伝え!」
なにやら休戦協定を結んだ玲於奈と門屋が鈴森と相模紫弦(さがみしづる)にも協力を求めてきた。
「女の子をいたぶるのは趣味じゃないんだが・・・まぁ、この場合しょうがないか・・・」
相模が少し考えた後でその協力に応じた。
「おっしゃ! 俺もやる!!」
鈴森もその手に乗ることにした。


6.
「じゃあ、4方向から追い詰めるよ!!」

玲於奈がそういうが早いか左方向へとダッシュをかける。
「では俺は右から・・・」
相模が宣言どおりに右へ。
「直進あるのみっ!!」
健康スリッパ片手に門屋が叫ぶ。

「俺は反対側を塞ぐぜ!」

身軽に楓香の頭上を掠め、楓香の進行方向を塞ぐ。
「うっ!?」
4方向をふさがれ、楓香の足が止まった。
「フェレットとは違うのだよ、フェレットとは!」
得意げに鈴森は胸を張った。
「全然意味わかんねぇよ」と、相模が鋭い一言を放つ。
「ムッキーーー! おまえどこまで俺をバカにするんだよ!?」
怒る鈴森を無視し、玲於奈と門屋は楓香に詰め寄った。
「さぁ、メロンパンを出してもらおうか?」
「・・・」
「こっちは腹減ってんだから、これ以上手こずらせるんじゃないぞー? ん?」
玲於奈と門屋に優しい言葉ながら迫力満点で迫られ、楓香は焦った。
だが、

「っ、甘ーい! 道はどこにだってあるんだから!」

小競り合いを起こしていた鈴森と相模の間をすり抜け、楓香は再び走り出した!
『しまった!?』
一瞬、誰もがそう思った!
だが・・・

「あ、UFOだ!!」

「え? あ!!?」
髪の長い人物の指差した方向を思わず見た楓香は、その人物に思わぬ膝カックンを食らいその場にへたり込んだ。

その人物とは、誰あろう『シオン・レ・ハイ』。その人であった・・・。


7.
「どこから出てきたんだ・・・まぁ、いいや。とにかくこうしてメロンパンは手に入ったわけだし」
爽やかに笑い、いつもの顔に戻った門屋はそういうと、楓香の持っていた紙袋からひとつメロンパンを取り出した。
「あぁ!? あたしが買ったメロンパン!!」
「・・金は払うよ。いくらだよ?」
半泣きの楓香に門屋が財布を取り出しながら言った。

「5000円」

「嘘つくんじゃないの!」
速攻、玲於奈がコツンと楓香にデコピンをかます。
「うぇ〜ん・・いった〜い・・・」
チャリンと紙袋の中に100円硬貨を門屋は入れた。
「じゃあ俺も貰おうかな。・・・こんなこと、危ないから二度としちゃダメだよ?」
にっこりと笑うと相模も同じく100円を紙袋に入れメロンパンをひとつ取った。
「戦いとは、常に二手三手先を読んで行うものだ・・・」
「何かっこつけてんの? メロンパン食っちまうよ?」
玲於奈にそういわれ、鈴森はハッと我にかえると100円を袋に入れメロンパンを1つとった。

『いただきまーす♪』

・・・と食べようとしたが、とある熱い視線のせいで動きが止まった。
いや、食べることができなかったのだ。
その熱い視線はシオンのものであった。

「・・・財布、お金足りませんでした・・」

捨てられた子犬のように、そう呟くとジーッと無言で門屋や相模、鈴森を見つめる。
これで食えたら、相当のつわものである。
「あー・・わかった、わかった! ぼくがあんたの分までメロンパン買ってあげるから、そんな顔しないの!」
「えー、まだメロンパン減るのぉ・・・?」
ブーブーとブーイングをする楓香を一睨みし、玲於奈は200円を袋に入れると2つメロンパンをとった。
そしてその1つをシオンへと手渡した。
「あ、ありがとうございます〜」
ウルウルとした目のシオンに、玲於奈は視線をそらして「全然気にしなくていいから」と手を振った。

気を取り直し、目の前のメロンパンへとご挨拶。
『いただきまーーす!』

「・・・っ!」
親指を立て、無言でかぶりつく鈴森。
門屋も「ふまひ♪」と口に入れながら、もふもふと食っている。
そろそろ牛乳が欲しいお年頃だ。(?)
「これって、日本で初めて作られたメロンパンじゃないのか。でも美味い美味い♪」
どうやら復刻か何かと思っていた相模は、それでも美味しそうに食べている。
が・・・
「美味しい・・・? どの辺が限定なんだろ? でもいいか【限定品】だし! 美味しいに違いないのよ! そうに決まってるわ!」
なにやら自己暗示でもかけるかのように楓香は言った。
「ふーん、限定って言うから期待しちゃったけれど、なんか普通だね」
一口食べた玲於奈はクールにもそう言った。

味覚とは所詮、十人十色である。

そんななか、1人遠い目の人物がいた。
「『川の向こう 誰かが手招き メロンパン』
 『ひまわり畑 追いかけるよ メロンパン』・・・」

「し・・シオン先輩?」
鈴森が恐る恐るシオンに呼びかけると、シオンは涙を流しつつ呟いた。
「あれが天国なのでしょうか・・・」

「・・・何が見えてるんだ?」
相模がシオンの目の前でヒラヒラと手のひらを動かすが、シオンは全く反応しない。
「や、ヤバい物でも入ってたのか?」
「うっそぉ! だって同じもの食べてるのに・・・?」
玲於奈と楓香は食べかけのメロンパンを食べるべきか悩んだ。
「ほっとけって。腹減ってる時はどんなモンでも美味いって事だからさ」
門屋が笑ったのを見て、鈴森がウンウンと頷いた。

夏にしては爽やかな風が吹いてきた。
ほんのひと時の休息。
学年も性別も関係なく、それは戦場をともにしたものだけが味わえる爽快感でもあった。

そして、その風に乗ってそれはやってきた。

『ただ今から限定5個のチョココルネを購買部にて販売開始しま〜す』

「・・・限定?」と、相模が呟いた。
「これは行かないとねぇ?」と、玲於奈が指を鳴らす。
「今度こそ俺が一番だ!」と、鈴森がダッシュをかます。
「このメロンパンよりは美味しいかな?」と、楓香も少し考えた後で走り出す。
「やっぱり菓子パン1つじゃたりねぇもんな」と門屋が再び健康スリッパを手にした。
「メロンパン・・幸せです・・・」と、シオンはメロンパンを噛み締めていた。


そしてまた、新たな戦いが幕を開ける。
今度の勝者は誰なのか!?

それは誰にもわからない・・・。



-------

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】

2320 / 鈴森・鎮 / 男 / 1年A組

2973 / 相模・紫弦 / 男 / 1年B組

2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 1年A組

1522 / 門屋・将太郎 / 男 / 3年B組

3356 / シオン・レ・ハイ / 男 / 3年C組

0669 / 龍堂・玲於奈 / 女 / 3年C組


■□         ライター通信       □■  

丈峯・楓香様

この度は『激走! まぼろしのメロンパン!』へのご参加ありがとうございました。
今回のお話は、当初NPCを使いましての妨害の後メロンパン奪取・・・と考えておりましたが、色々考えましてNPC無しのPC様同士での競争と相成りました。
つきましては少々プレイングの方反映し切れなくなりましたことをお詫び申し上げます。
えー・・・悪の親玉(!?)といった役割になってしまいました・・・。(^^;;;
ですが、これもまた乙女の試練と言うことで、少しでもお楽しみいただければと思います。(?)
限定と言う言葉に弱いのは女性の宿命なのかもしれませんね・・・。
それでは、またお会いできることを楽しみにしております。
とーいでした。