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<幻影学園奇譚・学園ノベル>


激走! まぼろしのメロンパン!

1.
夏休みの神聖都学園・・・。
その学園内になぜか1つの噂が持ち上がった。
その噂とは・・・

『限定メロンパンが購買部にて販売される』

という噂だった。
神聖都学園の購買部は食堂も兼ねた充実のラインナップが魅力的な、いわゆる名所のひとつである。
その購買部に限定メロンパンが販売されると聞けば客が殺到することは間違いない。

そして、噂は真実となる・・・。


2.

 ピンポンパンポーン

「ただ今より、購買部にて10個限定メロンパンの販売を開始します」

夏休みの補習授業の終了の鐘と共に、そのアナウンスは流れた。
限定、それは心をくすぐる何か神秘的な響きを持つ言葉である。
そして、そんな言葉に心くすぐられてしまった人物がここにもいた。

「さてと、いくか・・・腹も減ったことだし・・・」

3年C組・龍堂玲於奈(りゅうどうれおな)である。
屋上の貯水タンクの上で昼寝をしていた玲於奈はムクリと起き上がり、ひとつ大きく伸びをした。
補習はかったるかったが、噂のメロンパンとやらがどうにも気になって帰宅する気にはならなかったのだ。
貯水タンクからヒラリと飛び降りる。
ふわりとミニ丈のスカートが風に舞うがそこは乙女の恥じらい、準備万端・スパッツ着用。
だが、故意に見に来る様なヤツがいたら間違いなく玲於奈に吹っ飛ばされるであろう事は明白だ。
玲於奈はスタスタと校舎内に戻る階段へと向かわずに、屋上のフェンスへと向かっていた。
そして、さらにそれを飛び越えると雨どいのパイプの場所を確かめた。

ちゃらぁちゃ〜ちゃらぁちゃ〜♪ ちゃらぁちゃ〜ちゃらぁちゃ〜♪

心のテーマ曲、ロッキーがいま、玲於奈を購買部という名の戦場へと送り出そうとしてる。
そして玲於奈はチリンとチョーカーについた鈴を鳴らすと、雨どいのパイプを掴み一気に下まで滑り降りて行ったのだった・・・。


3.
「・・・あれ?」
玲於奈は着地地点の傍に、何かが落ちているのに気がついた。
その何かとは、人間であり、落ちているのではなく倒れていたのであった。

「さ、酸素を・・・」

青くなった顔と、弱々しく差し伸べられた手。
黒い髪に青い目が印象的な・・・

「えーっと・・・悪い。誰だっけ?」

見覚えは確かにあったのだが、名前が思い出せない。
「うぅ。ひどい・・・。クラスメートのシオンです。『シオン・レ・ハイ』です・・・・」
「あーそうそう。そんな名前だったね。ごめん。で、なにやってんだい? こんなところで」
あいまいにそう頷き、玲於奈は話題を変える事にした。

「メロンパンを買いに行こうとして、窓の外を見たらいつの間にかここまで降りてきてました・・・」

「・・・」
どうやら、玲於奈が降りてきた雨どいの近くの窓から顔を出したところを無意識に引っ掛けてきたらしい。
「き、きっと天気がいいからだね〜。あーいい天気だ〜」
「何かにつかまれたような気がしたんだけど・・・」
「気のせいだ! 天気がいいからさ!!」
玲於奈はひたすらに天気のせいにする。
「・・あー、何か忘れてる気が・・・。うーん・・・これも天気のせいでしょうか?」
「・・・ぼくも何か忘れてる気がするな・・・」
心地よい風とサンサンと降り注ぐ太陽。
そして、頭を抱える2人・・・。

「あ! メロンパン!?!?!」


4.
「そうだった! メロンパンだよメロンパン!」
玲於奈は敵に不意打ちを食らったかのように顔をしかめた。
「そうでした。早く行かないと・・・」
と、その時 パカーンッ! といい音が段々と玲於奈とシオンの方向に近づいてくる気配がした。
「な、何の音でしょう??」
「・・・なんか、ヤバイ?」

「オラオラ〜!! 俺の行く手を阻むものは全てこの健康スリッパの餌食となりやがれ〜!!」

目が血走り、ただの通りすがりだったであろう生徒を次々となぎ倒しながら近づいてくる人物の姿。
「あれは・・・B組の門屋君ですね」
そう、それは誰あろう3年B組所属・眼鏡と白衣がトレードマークの門屋将太郎(かどやしょうたろう)であった。
おーいと、のん気に手を振るシオン。
だが、門屋の目にはおそらくシオンは見えていないであろう。

「逃げるぞ! あんた、アイツにひき殺されるぞ!」

玲於奈の本能が危機を告げ、玲於奈はとっさに傍にいたシオンの腕を掴んだ。
「ま、まさかぁ・・」
「ひき殺されなくても、健康スリッパで叩きのめされるのは確実だと思うぞ?」
シオンの手が凍りつた。
「しょーがないね。ぼくが連れてってやる!・・・さっきの詫びにさ・・・」
玲於奈のボソッと付け足した一言をシオンは聞き逃さずに聞き返した。
「何か言いました??」
「なんも言ってないよ! ほら、行くよ!!」

玲於奈はシオンの手を引っ張ったまま、先ほど降りてきた雨どいを今度は上り始めた。
地上を駆け抜けたのでは門屋の妨害に合うかもしれない。
それに、雨どいの途中にあった渡り廊下を行く方が実は近道なのだ!
「メロンパンはお先に貰うよ! 追いつけるもんなら追いついてみな!」
玲於奈の捨て台詞に、門屋の雄たけびが聞こえた。

「なにをーー!? メロンパンは俺のもんだ! 誰にも食わせねぇ!」



5.
玲於奈は門屋よりも早く購買部へと着いた。
多少無茶な道を通ってきてはいたが、玲於奈にとってそれは大したことではない。
・・・引っ張ってきたシオンは魂半分抜け出てる気がするが・・・。

購買部は物凄い人の数で溢れかえっていた。
限定メロンパンを求め、集まってきた人々なのだろう。
だが、溢れた人々は何かに戸惑っているようでもあった。
「?」
玲於奈は、その人々を掻き分け前へと進み出た。
そして、その戸惑いの原因をみた。

デッサン狂いの落書きのような購買部のおばちゃんとレジ、そして怪しげなメロンパンの山。
そして、同じくデッサン狂いの謎のツインテール少女軍団。

「・・・な、なんなんだ? これ・・・」
その異様な光景に、思わず玲於奈はあとずさった。
「落書き・・・ですかね?」
いつの間にか復活したシオンも首をかしげた。

「なにぃーーー!? これが噂のメロンパンだとーーー!?」

「なんだ、意外と早かったじゃないか」
叫び声の方向を見た玲於奈はそう言って笑った。
門屋が落書きのようなレジにおいてあるメロンパンを見てショックを受けていたからだ。
「しかし、誰がこんなことを・・・?」
・・・と。

「メロンパンくださ〜い♪」

ふと、玲於奈の耳にそんな声が聞こえた。
玲於奈がその声の方向を向くと、ツインテールの少女がレジでメロンパンを受け取ろうとしていた。
そして、その少女に掴みかかろうとする少年の姿・・・。

どうやら、一戦交えないといけないようだね・・・。


5.
「限定品と聞いたら手に入れたくなるのは乙女心よ! 年頃青春真っ盛りの乙女を止められるものなら止めてみなさいっ!」

ツインテールの少女・丈峯楓香(たけみねふうか)はそういうとクルリと体を反転させ購買部から運動場へと逃げだした!!
「待てこのやろー!」
と楓香を追っているのは1年生の鈴森鎮(すずもりしず)である。
そして鈴森と平行に追っているのは同じく1年生の相模紫弦(さがみしづる)。
「待ったないもーーん♪」
ベーッと舌を出し、楓香は足取りも軽く逃げていく。
「またんかい! こら!!」
と、その後ろを門屋が追う。
「独り占めは許されないよ!?」
玲於奈もその後ろをぴったりとマークする。
「ちょ、ちょっと! か弱い乙女を数人掛かりでよってたかって追ってくるなんて酷いじゃない!」

「じゃあメロンパン独り占めするのは酷くないのか!?」

自分の所業を棚に上げた楓香の言いように、思わず鈴森はそう突っ込んだ。
「しょうがない。ここはひとまず休戦して、あの子からメロンパンを取り戻そうじゃないか?」
「ち、しかたねぇな。おい! おまえらも手伝え!」
なにやら休戦協定を結んだ玲於奈と門屋が鈴森と相模にも協力を求めてきた。
「女の子をいたぶるのは趣味じゃないんだが・・・まぁ、この場合しょうがないか・・・」
相模が少し考えた後でその協力に応じた。
「おっしゃ! 俺もやる!!」
鈴森もその手に乗ることにした。


6.
「じゃあ、4方向から追い詰めるよ!!」

玲於奈がそういうが早いか左方向へとダッシュをかける。
「では俺は右から・・・」
相模が宣言どおりに右へ。
「直進あるのみっ!!」
健康スリッパ片手に門屋が叫ぶ。

「俺は反対側を塞ぐぜ!」

身軽に楓香の頭上を掠め、楓香の進行方向を塞ぐ。
「うっ!?」
4方向をふさがれ、楓香の足が止まった。
「フェレットとは違うのだよ、フェレットとは!」
得意げに鈴森は胸を張った。
「全然意味わかんねぇよ」と、相模が鋭い一言を放つ。
「ムッキーーー! おまえどこまで俺をバカにするんだよ!?」
怒る鈴森を無視し、玲於奈と門屋は楓香に詰め寄った。
「さぁ、メロンパンを出してもらおうか?」
「・・・」
「こっちは腹減ってんだから、これ以上手こずらせるんじゃないぞー? ん?」
玲於奈と門屋に優しい言葉ながら迫力満点で迫られ、楓香は焦った。
だが、

「っ、甘ーい! 道はどこにだってあるんだから!」

小競り合いを起こしていた鈴森と相模の間をすり抜け、楓香は再び走り出した!
『しまった!?』
一瞬、誰もがそう思った!
だが・・・

「あ、UFOだ!!」

「え? あ!!?」
髪の長い人物の指差した方向を思わず見た楓香は、その人物に思わぬ膝カックンを食らいその場にへたり込んだ。

その人物とは、誰あろう『シオン・レ・ハイ』。その人であった・・・。


7.
「どこから出てきたんだ・・・まぁ、いいや。とにかくこうしてメロンパンは手に入ったわけだし」
爽やかに笑い、いつもの顔に戻った門屋はそういうと、楓香の持っていた紙袋からひとつメロンパンを取り出した。
「あぁ!? あたしが買ったメロンパン!!」
「・・金は払うよ。いくらだよ?」
半泣きの楓香に門屋が財布を取り出しながら言った。

「5000円」

「嘘つくんじゃないの!」
速攻、玲於奈がコツンと楓香にデコピンをかます。
「うぇ〜ん・・いった〜い・・・」
チャリンと紙袋の中に100円硬貨を門屋は入れた。
「じゃあ俺も貰おうかな。・・・こんなこと、危ないから二度としちゃダメだよ?」
にっこりと笑うと相模も同じく100円を紙袋に入れメロンパンをひとつ取った。
「戦いとは、常に二手三手先を読んで行うものだ・・・」
「何かっこつけてんの? メロンパン食っちまうよ?」
玲於奈にそういわれ、鈴森はハッと我にかえると100円を袋に入れメロンパンを1つとった。

『いただきまーす♪』

・・・と食べようとしたが、とある熱い視線のせいで動きが止まった。
いや、食べることができなかったのだ。
その熱い視線はシオンのものであった。

「・・・財布、お金足りませんでした・・」

捨てられた子犬のように、そう呟くとジーッと無言で門屋や相模、鈴森を見つめる。
これで食えたら、相当のつわものである。
「あー・・わかった、わかった! ぼくがあんたの分までメロンパン買ってあげるから、そんな顔しないの!」
「えー、まだメロンパン減るのぉ・・・?」
ブーブーとブーイングをする楓香を一睨みし、玲於奈は200円を袋に入れると2つメロンパンをとった。
そしてその1つをシオンへと手渡した。
「あ、ありがとうございます〜」
ウルウルとした目のシオンに、玲於奈は視線をそらして「全然気にしなくていいから」と手を振った。

気を取り直し、目の前のメロンパンへとご挨拶。
『いただきまーーす!』

「・・・っ!」
親指を立て、無言でかぶりつく鈴森。
門屋も「ふまひ♪」と口に入れながら、もふもふと食っている。
そろそろ牛乳が欲しいお年頃だ。(?)
「これって、日本で初めて作られたメロンパンじゃないのか。でも美味い美味い♪」
どうやら復刻か何かと思っていた相模は、それでも美味しそうに食べている。
が・・・
「美味しい・・・? どの辺が限定なんだろ? でもいいか【限定品】だし! 美味しいに違いないのよ! そうに決まってるわ!」
なにやら自己暗示でもかけるかのように楓香は言った。
「ふーん、限定って言うから期待しちゃったけれど、なんか普通だね」
一口食べた玲於奈はクールにもそう言った。

味覚とは所詮、十人十色である。

そんななか、1人遠い目の人物がいた。
「『川の向こう 誰かが手招き メロンパン』
 『ひまわり畑 追いかけるよ メロンパン』・・・」

「し・・シオン先輩?」
鈴森が恐る恐るシオンに呼びかけると、シオンは涙を流しつつ呟いた。
「あれが天国なのでしょうか・・・」

「・・・何が見えてるんだ?」
相模がシオンの目の前でヒラヒラと手のひらを動かすが、シオンは全く反応しない。
「や、ヤバい物でも入ってたのか?」
「うっそぉ! だって同じもの食べてるのに・・・?」
玲於奈と楓香が食べかけのメロンパンを食べるべきか悩んでいる。
「ほっとけって。腹減ってる時はどんなモンでも美味いって事だからさ」
門屋が笑ったのを見て、鈴森がウンウンと頷いた。

夏にしては爽やかな風が吹いてきた。
ほんのひと時の休息。
学年も性別も関係なく、それは戦場をともにしたものだけが味わえる爽快感でもあった。

そして、その風に乗ってそれはやってきた。

『ただ今から限定5個のチョココルネを購買部にて販売開始しま〜す』

「・・・限定?」と、相模が呟いた。
「これは行かないとねぇ?」と、玲於奈が指を鳴らす。
「今度こそ俺が一番だ!」と、鈴森がダッシュをかます。
「このメロンパンよりは美味しいかな?」と、楓香も少し考えた後で走り出す。
「やっぱり菓子パン1つじゃたりねぇもんな」と門屋が再び健康スリッパを手にした。
「メロンパン・・幸せです・・・」と、シオンはメロンパンを噛み締めていた。


そしてまた、新たな戦いが幕を開ける。
今度の勝者は誰なのか!?

それは誰にもわからない・・・。



-------

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】

2320 / 鈴森・鎮 / 男 / 1年A組

2973 / 相模・紫弦 / 男 / 1年B組

2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 1年A組

1522 / 門屋・将太郎 / 男 / 3年B組

3356 / シオン・レ・ハイ / 男 / 3年C組

0669 / 龍堂・玲於奈 / 女 / 3年C組


■□         ライター通信       □■  

龍堂・玲於奈様

初めまして、とーいです。
この度は『激走! まぼろしのメロンパン!』へのご参加ありがとうございました。
今回のお話は、当初NPCを使いましての妨害の後メロンパン奪取・・・と考えておりましたが、色々考えましてNPC無しのPC様同士での競争と相成りました。
つきましては少々プレイングの方反映し切れなくなりましたことをお詫び申し上げます。
姉御肌なお姉さん、男っぽい言動でありながらどこか女性的な優しさを持っている・・・といった感じで書かせていただきました。
端々の気付かれにくい心遣いで女性らしさを出せれたらと思ったのですが、イメージと違っていたら申し訳ありません。
それでは、またお会いできることを楽しみにしております。