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調査コードネーム:死闘 〜東京戦国伝〜
執筆ライター :水上雪乃
調査組織名 :草間興信所
募集予定人数 :1人〜4人
------<オープニング>--------------------------------------
「どういうことなんだ?」
ホテルに着くなり、草間武彦が言った。
こちらにも襲撃があったはずなのに、その痕跡すらない。
「なんなんです? いったい」
榎本武揚を守っていた槙野奈菜絵が訊ねる。
「してやられたかも‥‥」
ぎり、と新山綾が奥歯をかみしめた。
「そうか‥‥そういうことか‥‥」
一瞬遅れて、草間も気づく。
真田幸村の言葉。あれ自体が罠だったのだ。
うかうかと乗せられてしまった。
剣士たちの目的は榎本武揚抹殺にあるのではなく、弁天台場に残った能力者たちの抹殺にある。
そのために戦力を分けさせたのだ。こちらの。
「くそっ! すぐに戻るぞっ!」
「判ってるっ!」
踵を返す草間と綾。
向こうには、それぞれ大切な人が残っている。
「土方くん。奈菜絵くん」
榎本武揚が促し、
「承知」
「判りました」
土方歳三と奈菜絵が頷く。敵の目的が知れた以上、榎本武揚のガードは意味がない。
いまは、最大限の戦力をもって救援に赴くべきだ。
可及的速やかに。
「それから、自衛隊の医療班も動かすわ。念のために」
「ああ。念のためにな」
そうだ。念のためにだ。
大丈夫。幾多の戦いをくぐりぬけてきた連中なのだから。
くわえた煙草を、火をつけずに懐に戻す草間だった。
※舞台設定は8月20日の午後のままです。
バトルシナリオです。
参加の際は、「恨み坂」「囚われた零」「北へ」の東京戦国伝シリーズをお読みください。
特に「北へ」を読んでいないと、なにがなんだか判らないと思います。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
受付開始は午後9時30分からです。
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死闘 〜東京戦国伝〜
草間武彦たちが函館へ赴くことについて危機を感じていたものがいる。
義妹の零だ。
どこがどう、という類のものではない。
漠然とした、いうなれば女の勘とでも称するのが適当かもしれない。
彼女は何人かの局外スタッフに連絡を取った。
不動修羅、梅蝶蘭、天薙さくら、御崎月斗の四名にである。
そして探偵事務所の会計を勝手に使い、北海道へと飛んでもらう。
これが、草間たちが出発してから三時間後の話だ。
「‥‥俺も嫌な予感がする」
暗然と呟く不動。
それぞれに初対面な四人だが、彼だけは剣豪たちと戦ったことがある。
「俺は杞憂だと思うがね」
さらりと月斗がいう。
「あいつらをなめるな。強さの桁が違う」
不動の表情は厳しい。
剣を交えたから判る。
剣豪たちが本気で戦えば、特殊能力者といえども一溜まりもない。
「甥が言っていました。けっして一対一の局面を作るな、と」
「それほどまでですか‥‥」
さくらの言葉に、蝶蘭が神妙に頷いた。
先発しているメンバーは、草間興信所きって強者たちである。シュライン・エマ、巫灰慈、守崎啓斗と北斗の双子、それに狂戦士桐崎明日。
彼らをもってして零や不動を不安にさせる。
並大抵の相手ではないことが判るだろう。
「けど、敵の戦力は多くないはずなんだ」
「どうしてそう思う?」
「函館というか、北海道はあいつらの主戦場じゃない」
「なるほどな‥‥」
不動はすべてを語ったわけではないが、月斗が得心したように頷いた。
他の二名も同様である。
またもな戦略眼の持ち主であれば、主戦場以外の場所に全兵力を投入したりしない。思わぬところを痛撃したからといって戦況への影響は少ないのだ。
そんな非効率的なことをするはずがない。
また、全力で函館へと向かったとすれば、当然、東京方面が手薄になる。
剣豪たちが何を考えているかは判らないが、東京を空にしておけるはずがない。
「とにかく今は、草間さんたちは合流するのが第一ですね」
やや緊張した微笑をさくらが浮かべる。
力は集中してこその力だ。
現在のように戦力が二分しているという状況は、あまり好ましくない。
とはいっても、飛行機の中で焦っても仕方がない。
これ以上速い手段は、物理的にないのだから。
東京から函館までの約一時間。
いまは、鋭気を養うのだ。
「私は少しやすみます」
いって目を閉じる蝶蘭。
余裕だな、と、口に出さず呟いた不動も、ゆっくりと瞼を閉じた。
ジャンボジェットが、虚空を駆けてゆく。
「く‥‥みんな生きてるか?」
ふらふらと起きあがった巫が、周囲を見渡す。
惨憺たるありさまだ。
北斗は鎖骨と肋骨三本を折られ、啓斗は背中から腹へと刀で貫かれ、桐崎は腹部を大きく切り裂かれて腸がはみ出している。
そしてなにより、シュラインが誘拐されてしまった。
「なんてこった‥‥武さんになんて報告すりゃいいんだ‥‥」
呆然としたように呟く。
彼自身、恋人を誘拐されたことがある。
そのときは生きた心地がしなかった。修辞ではなく心からの思いだ。
同じ思いを草間に味あわせるのは忍びない。友として。
「シュラ姐‥‥助けるから‥‥必ず助けるから‥‥」
あえぎながら、ずるずると啓斗が這い進む。
「おいっ!? やめろって兄貴っ!!」
それを北斗が抑えた。
骨折の痛みが全身を走るが、いまはそんなことにかまっていられない。
彼の大切な兄だって重傷なのだ。否、重体といってよいだろう。普通なら動ける状態では絶対にない。
突き抜けた刀は、内臓を傷つけているかもしれないのである。
命に関わるほどの怪我だ。
「くくく‥‥ふははははっ!!」
突然、桐崎が笑い出す。
地面に大の字に転がったまま。
ぎょっとして、巫が振り返った。
恐怖と痛みのあまり、気が違ったかと思った。
だが、そうではなかった。
「ふふふふ‥‥おもしろい。おもしろいですよ」
むくりと身体を起こし、上着を引きちぎる。
そして、傷口に強く巻いた。
「おい桐崎‥‥」
「大丈夫ですよ巫さん。これで動けます」
「無茶なことを」
「無茶をしないで何とかなる相手ですか?」
顔に微笑を張り付かせたまま、淡々と告げる。
彼は気が狂ったわけでもなんでもない。氷のような冷静さで事態を把握している。
現状、能力者たちは敗北した。
だがそれを最終的な負けに繋げるつもりはない。
無茶でも無理でも、追撃してシュラインを取り戻さなくてはならない。
もちろんそれは簡単なことではなく、野球でいうなら九回ツーアウトを取られたようなものだ。
だからこそ、楽しくなったのである。
ここまでの苦境は桐崎の経歴において他にはない。
狡猾で冷静で、あまりにも強い敵。
わくわくするではないか。
「くくく‥‥」
「痛くねぇのか?」
「痛いですよ。決まっています。けど」
「けど?」
「自己催眠ってしってます?」
「なーる‥‥」
むろん、巫は知っていた。
彼の恋人もまた同じ技術を使うから。意思の力は侮れない。あるいは思いこみと称してもいいが、意思の力によって肉体をコントロールできるのだ。
催眠術ほどのものでなくとも、誰でも力である。
「追いましょう」
「無茶いうな。いま追いかけてどうする」
それでも巫は慎重だった。
彼自身、左肩を割られて、折れた鎖骨が露出している。腕はまったく動かない状態だ。
守崎兄弟は重体。
仮に桐崎だけが突出しても、返り討ちにあうだけの話である。
六対三で歯が立たなかった相手を、一対三でどうこうできるはずがない。
「判ってます。今は援軍を待たないと」
「そういう‥‥ことだな‥‥」
弟の手を借りて立ち上がった啓斗が頷く。
すぐに草間たちが事態に気づいて戻ってくるだろう。もちろん援軍を引き連れて。
新山綾、土方歳三、槙野奈菜絵。
戦力は一気に増える。
そのときが反撃の好機だ。
むろん、それは信長の陣営も承知しているはずだ。
だからこそ、こちらは全兵力が揃うのを待たなくてはならない。
兵力の逐次投入は、各個撃破の対象にされるだけだから。
現に、さきほどしてやられたのだって、各個撃破によるものだ。
「いまは、待つときなんだな。そうと決まれば‥‥ぐ‥‥」
大きく息を吸い込み、うめく北斗。
肺をふくらませて、折れた肋骨を接着させたのだ。
「無茶なやろうばっかりだぜ」
呆れたように、巫が首を振った。
結局、弁天台場に能力者たちが集結したのは、それから二〇分後の事であった。
回復術の使える月斗とさくらによって負傷者の治療がおこなわれ、能力者たちは追跡に移る。
むろん治療といっても、重体から重傷にかわった程度だ。
傷を塞ぎ、幾ばくか痛みを取る。これで精一杯である。
完全回復などできるはずもない。
申し訳なさそうにするさくらに、
「痛みが取れれば上々。思いっきり飛べるぜ」
と、北斗が笑みを浮かべたものだった。
「道路と空港、港と駅はすべて閉鎖したわ。彼らはこの函館から出られない」
「さすがは綾だ。仕事が速いぜ」
手放しに褒める巫。
たしかにこれは褒めてもバチはあたらないだろう。
人質を抱えている以上、信長陣営の行動速度は速くない。
「徒歩で脱出はないですか?」
念のため、蝶蘭が訊ねる。
「それはないだろう。人質をつれて峠は越せない」
ちらりと視線を草間に投げてから、不動が応えた。
函館から陸路で脱出しようとするなら、どういうルートをたどっても峠を越えなくてはいけない。
地理不案内な信長陣営に可能なことではなかろう。
「海路だな。おそらく」
「俺もそう思う」
草間の言葉に月斗が頷いた。
蘇った剣豪たちは、飛行機を嫌うのではないか。
ただの勘でしかないが、彼らの友人の中にもいる長命種は一概に飛行機を嫌っている。これは生理的なものだろう。
空を飛ぶ機械に未知なる恐怖を感じるのではないか。
「となると貨物船ですね。急ぎましょう」
さくらが言った。
真田昌幸たちに拉致されたシュラインが目を覚ましたのは、探偵たちが予想したとおり貨物船用の港だった。
「目が覚めたか」
「ここは‥‥」
「そこもとの仲間も打つ手が速い。すでにこちらにまで手が回っているとはな」
質問に直接は答えず、真田昌幸が顎をしゃくる。
視線を転じると、桟橋は自衛官たちが固めていた。
「あれを斬り破るつもり?」
「蝦夷の自衛隊は最精鋭と聞く。無理だろうな」
淡々とした返答。
冷静な男だ、と、シュラインは思った。
智者は己を知るという。
進むことと攻めることしか知らぬイノシシは、結局のところ猟師の引き立て役になるだけだ。
マタドールにあしらわれる闘牛のように。
「でも、隠れているだけじゃ状況は変わらないわよ」
挑発してみる。
効果など期待していないが。
「そうだな。だが待っていれば状況か動くかもしれぬ」
「どんな根拠で言ってるのよ?」
「さて。根拠があればいいがな」
微笑。
ちょっと格好いいじゃない。
不覚にも思ってしまう。
三〇代前半の渋めの男に、ちょっと弱いシュラインだった。
それはともかくとして、このように倉庫街に隠れているだけで状況が変わるとは思えない。
どのような成算を立てているのか。
深沈と考え込むシュライン。
ちらりと横目で真田昌幸が見た。
黒い瞳に、感心したような光が浮かぶ。
味方のほとんどが倒され、しかも誘拐されながら、この女の落ち着きぶりはどうだろう。
「さすがは護り手の一人というべきか」
声に出さない呟き。
IO2からの情報で、この国に起こったいくつかの戦いのことを、彼は知っている。
すべてに参加し、生き残ったのが、このシュラインという女と巫という男だ。
それがどれほどのことか、べつに真田昌幸でなくとも判る。
女だからといって侮ることは、絶対にできない。
もっとも、だからこそ交渉の余地が生まれるというものだ。
能力者たちをこちらの陣営に引き込むための。
「‥‥きたようだな」
呟き。
シュラインが、はっとしたように視線を転じる。
二両のジープが、港に入ってきていた。
遠く見はるかすと運転席にはよく知った顔。
彼女にとって自分自身よりも大切な、男の顔。
そして気づいた。
真田昌幸たちが待っていたのは、この瞬間だったのだ。
乱戦になれば、戦局は指揮官のコントロールを受け付けなくなる。
かなり優秀な指揮官でも、その手綱を取るだけで精一杯になるだろう。さらに探偵たちはいずれも集団戦を得意としていない。
個人戦の猛者ではあるものの、状況が混乱してしまえば戦闘力が減殺されるのは道理である。
冷静な真田昌幸が自ら乱戦を演出するとは思わなかったため、さすがのシュラインにも狙いが判らなかった。
「く‥‥」
無念の臍をかむ。
「気づいたか。だが、遅かった」
むしろ哀れむように真田昌幸が言う。
瞬間。
倉庫の影から踊り出る十数名の黒装束。
現代に蘇った忍者軍団。むろんそれは服部半蔵の配下たちだろう。
「なっ!?」
「待ち伏せかっ!?」
北斗と月斗の声が聞こえる。
見る間に乱戦の靄に包まれてゆく港。
「ダメっ! 目先の敵に惑わさ‥‥」
大声で危機を知らせようとするシュラインの腹に、ふたたび当て身が決まる。
「ぐ‥‥」
「何度もすまぬな。だがその声は少々厄介ゆえ封じさせてもらうぞ」
暗闇に落ちる意識のなか、真田昌幸の声が聞こえる。
「こいつら‥‥っ」
「なかなかやりますね」
背中合わせになって戦いながら、不動と蝶蘭が言った。
相手は明らかに雑魚だ。
にもかかわらず、戦闘力は護り手たちと拮抗している。
「それだけ実戦経験が豊富だって事なんだろうな」
「今の時世、何の自慢にもなりませんけどね」
月斗の裏拳とさくらの回し蹴りが忍者たちを吹き飛ばす。
この期に及んでなお相手に致命傷を負わせまいとするのは、彼らの甘さだろうか。
しかし、
「命を奪う戦いならもっと簡単だ」
「けど、それをしたら俺たちは敵と同じ水準まで堕ちてしまう」
守崎兄弟が一振りずつもった雌雄一対の剣が、黒装束を打つ。
嘘八百屋から借りた武器は、すべて刃が潰されているのだ。
「人は人を殺さない。支配もしない。長い歴史から学んだことだっ」
佐々木小次郎に斬りかかってゆく巫。
貞秀が唸りをあげて剣士へと迫る。
「しかし、それでは我らは倒せぬぞ」
物干し竿が一閃し、赤い目の青年の胸が大きく裂けた。
血が、弾ける。
「それでもっ! 俺はもうあんな思いはしたくねぇんだよっ!!」
怯まずに斬りかかる。
幾度も幾度も。
網膜の奥に焼き付いた顔。彼が手にかけた七条燕という少女の顔。
理不尽なものを見るようなあの瞳は、たぶん死ぬまで忘れない。
「破ぁぁぁぁっ!!!」
速度と鋭さを増してゆく貞秀。
佐々木小次郎の剣技を、あるいは一時的に上回ったのだろうか。
いくつかの小さな傷が青年剣士の身体に刻まれる。
「やるな」
「ほめてもなんにもでねぇよっ!!」
「いや、褒美にくれてやろう」
ぎゅん、と、軌道を変える物干し竿。
肉視できない速度で。
右側からくるはずの攻撃が、突如として左に出現する。
必殺剣、燕返し。
「なっ!?」
驚く暇もあればこそ。
がら空きの左を取られ、巫の首が宙に舞‥‥わなかった。
ごきりと響く嫌な音。
物干し竿は、直前に差し出された腕に食い込み、骨を折り、そしてそこで止まっていた。
「蝶蘭‥‥」
「あぶなかったですね」
巫へ向けられる優しげな微笑。さすがに蒼白だったが。
「無茶をなさる」
苦笑混じりの賞賛は、佐々木小次郎の口から出た。
「そうでもありませんよ‥‥」
「ほう?」
「カタナは、斜に引かなくては切れませんからね」
言った瞬間。
足下のアスファルトがめくれ、十数本の剣となって佐々木小次郎へと迫る。
「くっ!」
飛び退こうとする剣士。
「無駄です」
少女の微笑。
凄絶な。
どすどす、と、剣士の身体がアスファルトの剣に貫かれる。
「骨に食い込んだ刀は、そう簡単には抜けませんから。巫さん」
「応」
浄化屋の剣が佐々木小次郎の首を刎ねる。
土塊へと変わってゆく剣士を、風が吹き散らしていった。
「もう一度挑むか。元気なことだな」
服部半蔵が言う。
「次は負けないさ」
にやりと返す北斗。
「なにとろ種を仕込んであるんでね」
啓斗とも笑う。
「三人目か」
表情すら変えずに服部半蔵が見抜いてみせた。
「バレてたのか」
彼の背後に現れる月斗。
服部半蔵は前後から挟撃された格好になる。
しかし態度は、憎々しいほどに落ち着いていた。
「未熟者が何人たばになっても、拙者には勝てぬぞ」
「やってみなければ、わかんねぇだろうよ」
突進する月斗。
「見え見えだな。お主が囮になって双子が勝負を決めるというところか」
言葉とともに放たれる蹴り。
月斗の腹部を的確に捉え、肋が折れ砕ける。
「ぐぼ‥‥」
口から溢れる鮮やかな赤。
双子の攻撃に備えるニンジャマスター。
だが、
「なに‥‥っ!?」
はじめて驚愕の声を服部半蔵が発した。
そしてその瞬間。
「破っ!」
「斬っ!!」
左右から切り込んだ啓斗と北斗が服部半蔵の肉体を斬り裂く。
「へへ‥‥」
凄惨な笑みを、月斗が浮かべた。
作戦が読まれている事など百も承知だったのだ。むしろ読ませたといってよい。こちらの行動を読んだともらってこそ勝算が生まれる。
打撃を受けた月斗が服部半蔵の足に組み付く。
作戦内容は、たったこれだけである。
致命傷を受けたらアウト。遠くに吹き飛ばされてもアウト。気絶してもアウト。
ほとんどギャンブルだ。
だが、一瞬で良い。服部半蔵の動きが止まれば勝敗は決する。
そして結果は吉と出た。
「かったのか‥‥おれたちは‥‥」
呆然と、砂になってゆく忍者を見つめる北斗。
「三流三人にやられたとあっては、いずれ化けて出たくなるかもしれないな」
珍しく、啓斗が諧謔を飛ばした。
「俺は三流じゃねぇ。お前らと一緒にすんな」
地面に転がったまま、月斗が異議を申し立てた。
啓斗も北斗も、軽く肩をすくめただけだった。
自衛隊員と護り手たちがそれぞれに死闘を演じている。
その横をすり抜け、シュラインを抱きかかえた真田昌幸が桟橋へと向かう。
誰も注意を向けるものなどいない。
いないはずであった。
「ここから先は通しませんよ。軍師サン」
立ちはだかる影がみっつ。
桐崎とさくら、そして不動。
「良く気がついたな」
賞賛する真田昌幸。
心から。
「誰をどうしようとしているのか、というのを考えたんですよ」
にっこりと、さくらが微笑む。
もしも信長軍団が、ここで護り手の殲滅を図るのであれば、このような乱戦にはしないはずだ。
もっと整然とした、隙のない布陣で挑むだろう。
どうしてこんな乱戦になったか考えたとき、さくらには真田昌幸の狙いが判ったような気がした。
このあたり、さすがは血筋である。
「それで待ち伏せをしていたわけだ」
すっと不動が前に出る。
真田昌幸がシュラインを降ろし、地面に寝かせた。
「ほぅ? 解放してくださると?」
目を細める桐崎。
「さすがに抱えたまま戦うのは無理なのでな」
穏やかな微笑で、真田昌幸が剣を抜く。
「気をつけろ。かなり強いぞ」
「判ってる」
ささやきに応じた不動が、じりじりと間合いを詰める。
その後方、桐崎が真田昌幸の死角になるように移動した。
と、放たれる極細のワイヤー。
「またその芸か」
軍師が一気に間合いを詰める。
だが、
「攻撃に使うだけが、芸じゃありませんよ」
ワイヤーは真田昌幸の横をすり抜け、シュラインに巻き付く。
そのまま、大きく飛ぶ美女の身体。
桟橋の上だ。
少し移動させるだけで足場が消える。
響き渡る水音。
「さくらさんっ!」
「任せてください」
間髪入れず海に飛び込んださくらが、シュラインを確保する。
「‥‥見事」
してやられた真田昌幸が桟橋を走った。
逃げをうったのだ。
人質を失った以上、戦う意味がない。といったところだろうか。
「待てっ!」
追う不動。数歩遅れて桐崎が続いた。
ここまできて逃がしてなるものか。
召喚した不動の火炎剣が、まさに真田昌幸を捉えようとした、そのとき。
「ぐあっ!?」
もんどり打って倒れ込む少年。
桐崎の動きも止まる。
突如として降りかかってきた影が、不動の胸から腹にかけてを斬り裂いたのだ。
「甚八か。助かったぞ」
「なんのこれしき」
男と真田昌幸が会話を交わす。
「父上。お退きください」
貨物船の船上から声がかかる。
見上げる桐崎。
船縁に立った少年と、それを守るようにたつ数人の男が黒い瞳に映る。
真田昌幸を父と呼ぶということは‥‥。
「真田‥‥幸村‥‥」
かすれた声を唇が紡ぐ。
ということは、いま真田昌幸を助けた男は‥‥もしかして‥‥。
「名乗っておこう。根津甚八だ」
「‥‥‥‥」
やはりそうだ。
真田十勇士のひとり。
小説や漫画、映画などでも描かれているあの勇者だ。
やや唖然とする桐崎を尻目に、船へと消える真田昌幸と根津甚八。
はっと気づいたときには、すでに射程外へと出てしまっていた。
汽笛が鳴り、海鳥が啼く。
エピローグ
こうして、函館での戦いは幕を閉じた。
無事にシュラインは救出され、敵の正体も判明した。
IO2日本支部。
そしてそれに反旗を翻した榎本武揚の陣営。
事態は解決へと向かっている、のだろうか。
探偵たちは、この北の地で二日の休養の後、東京へと戻ることになる。
「それはいいけど、草間とシュラ姐の姿がねえぞ?」
ふと北斗が心づく。
「巫さんと綾さんもいませんよ?」
三角巾で腕を吊った蝶蘭も首をかしげた。
「居場所なら俺が知ってますけどね。草間さんと巫さんの」
くすくすと笑う桐崎。
「どこだ?」
不動が訊ねる。
「天井の下。女の上」
簡にして要を得た答えだった。
思わず赤面する蝶蘭。
「子供が夢を育てるには広い場所が必要だけど、大人が愛を確認するには鍵のかかる部屋があればいいって、誰かがいってたな」
男と女の冗談を、珍しく冷凍野菜の啓斗が口にする。
「フン」
月斗が鼻を鳴らし、
「あらあら」
さくらが笑った。
古い港町に、秋の気配が近づいていた。
つづく
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0554/ 守崎・啓斗 /男 / 17 / 高校生
(もりさき・けいと)
0086/ シュライン・エマ /女 / 26 / 翻訳家 興信所事務員
(しゅらいん・えま)
0568/ 守崎・北斗 /男 / 17 / 高校生
(もりさき・ほくと)
2592/ 不動・修羅 /男 / 17 / 高校生
(ふどう・しゅら)
2336/ 天薙・さくら /女 / 43 / 主婦 退魔師
(あまなぎ・さくら)
3505/ 梅・蝶蘭 /女 / 15 / 中学生
(めい・でぃえらん)
0143/ 巫・灰慈 /男 / 26 / フリーライター 浄化屋
(かんなぎ・はいじ)
0778/ 御崎・月斗 /男 / 12 / 陰陽師
(みさき・つきと)
3138/ 桐崎・明日 /男 / 17 / フリーター
(きりさき・めいにち)
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■ ライター通信 ■
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お待たせいたしました。
「死闘 〜東京戦国伝〜」お届けいたします。
はやいもので今回で4回目。予定の3分の1を消化しました。
ストーリーは中盤にさしかかります。
このシリーズは、今までわたしが描いたバトルものの中で、もっともスケールの大きな話になります。
そして、もっとも危険度の高い話でもあります。
キャラクターの死亡もあるかもしれません。もちろん、水上雪乃の作品のみでの話で、他のライターの描く作品には影響しませんが。
皆殺しの水上といわれたわたしの腕の見せ所ですね☆
さらに危険なポジションにいるのが、NPCたちです。
ストーリー展開によっては、草間や零も死にます。
草間が死んでしまうと、この東京戦国伝がわたしの引退作品になってしまいますがー
そうならないことを祈ってますー
さて、今回のお話は函館が舞台でした。
次回はふたたび東京に戻ります。
現状、IO2、榎本武揚の陣営、そして草間興信所、と、3つのスタンスがあります。
3者のうちのいずれつくか、考えておいてくださいね。
あ、念のため、キャラクターのダメージ表です。
啓斗 :腹部裂傷、肝臓裂傷。全治2ヶ月。
シュライン:風邪。全治3日。
北斗 :鎖骨骨折、肋骨骨折。全治2ヶ月。
不動 :腹部及び胸部裂傷。全治1ヶ月。
さくら :風邪。全治3日。
蝶蘭 :左腕骨折。全治1ヶ月。
巫 :鎖骨複雑骨折。全治1ヶ月。
月斗 :肋骨骨折。全治1ヶ月。
桐崎 :腹部裂傷。大腸裂傷。全治2ヶ月。
みょーに治りが速いのは、回復のおかげということで☆
それでは、またお会いできることを祈って。
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