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CLAZY LOVERS' HIGH-SCHOOL
新進気鋭のロックバンド『スティルインラヴ』の新曲マキシシングルが全国有名CDショップやインターネットモールなどで絶賛発売中!
そんな情報が音楽雑誌や私設ファンクラブのホームページなどで紹介されていた。文字の広告だけで見ると、いつの時代にも存在するありふれたもののように感じる。しかし今回のジャケットを見れば、このバンドの特徴がよくわかるだろう。メンバーはすべてお年頃の女性で、現在のバンドにしては人数の多い6人組。メンバー全員が個性的に見えるのは気のせいではない。情報によれば、幼なじみが結成したバンドということだ。お互いがお互いに気心知れているのだろう。トラックの名前が書かれた裏にも6人揃って写っている。
その中心に、赤毛の女の子がマイクを持って立っていた。私設ファンクラブのページでは見事なまでに曖昧な表現になっているが、この松田 真赤が一応のリーダーらしい。今回の曲もそんな彼女が作詞と作曲をしているようで、しっかりとその名前が書かれていた。彼女の担当はヴォーカルとパフォーマーである。ちなみに編曲はスティルインラヴ名義。ヴォーカル、ギター、ベース、ドラム……果てはサックス、キーボード、パフォーマンスまでこなす実力派集団だからこそなせる技だ。ラジオの音楽番組にもちょこちょこ顔を出しており、その時に真赤がアルバム製作に関しての質問にも答えていた。
新曲の出足はなかなか好調だったが、なぜか神聖都学園周辺のショップでは絶好調で品切れ状態が続いた。その辺の事情をアルバイト店員に聞いてみると、発売日を越えたあたりから学校帰りの中等部や高等部の生徒がこぞって買っていったのが原因らしい。CDは飛ぶように売れ、あっという間に在庫がなくなってしまった。店としては業者に再入荷を打診したのだが、店先にそれを掲示するまではしなかった。するとその間に学園中で噂が広がったらしく、生徒たちはおろか児童や大学生まで「スティルの新譜はいつ来るのか」と質問されてしまったのだ。今は新曲のラックの一部を使って入荷日を掲示することで対応している。このショップにしてみれば嬉しい悲鳴であるが、なぜそんなにスティルインラヴの曲が売れるのかがどうしてもわからない。ある日、店長が適当な生徒を捕まえて話を聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。
「ああ、だって真赤ちゃんがうちの校門の前で歌ってたんだもん。ゲリラライブっていうか、即興で歌ってたらしいよ。えっと……CDが出るかなり前だったかな。ダチでそれを見物してた奴がいるんだけど、たまたま今度の新曲を聞いたらその時の曲が入ってるって言うからさ。ちょっと聞かせてもらったらいい感じの曲だったんで買いに来たんだけど……で、いつ入るの?」
「まだちょっとかかりそうなんですよ。試聴用のサンプルならそこにありますけど……」
「じゃ、今日はそれで我慢するよ。早く入れてよ、意外と競争激しいんだから。うちのクラスは特に」
そう言いながら生徒はイヤホンを耳にして、CDを試聴し始めた。もちろん曲はタイトルにもなっている『CLAZY LOVERS' HIGH-SCHOOL』である。
■CLAZY LOVERS' HIGH-SCHOOL
作詞・作曲:松田 真赤 編曲:スティルインラヴ
ハイスクールオーシャン 波かき分ける
6000日の未知なるTreasure
優雅に泳ぐ あのマーメイドが
ボクの狙いさ 全速前進!
小さな肩 強くつかんで
目と目を合わせ ハート震わせ
瞳のきらめき バックライトに
愛をささやくよ I Love You!
CLAZY LOVERS' HIGH-SCHOOL!
キミが頷いたら All Right!
退屈な日々から Escape!
さあふたりで行こう 水平線(Let's go!)
CLAZY LOVERS' HIGH-SCHOOL!
キミが狙われても Don't mind!
ボクが守り抜くよ Go Fight!
みんなが見ているよ My Sweet Honey(Go! Go! Go! Go!)
コンクリートジャングル 人追いかける
無我夢中 ただ前だけDanger
私の前を行く あのターザンが
お目当てなのよ 全身全霊
少し大きな腕をつかんで
チョコの味する声で釘付け
密林にはない 恋のため息
胸つらぬくわ I Love You!
CLAZY LOVERS' HIGH-SCHOOL!
言葉さえ届けば All Right!
意味は後からでも OK?!
さあ手と手をつないで 地平線(Let's go!)
CLAZY LOVERS' HIGH-SCHOOL!
別の娘が好きでも Don't mind!
忘れさせてあげる Forget!
私だけのものよ My Sweet Darling(Go! Go! Go! Go!)
ゴメンねみんな 恋になると見えなくなるの
友情も大事 勉強も大事
だけど今は前だけ見つめて……(Go! Go! Go! Go!)
CLAZY LOVERS' HIGH-SCHOOL!
キミが頷いたら All Right!
ふたりの楽園へ Escape!
さあふたりで行こう どこまでも(Let's go!)
CLAZY LOVERS' HIGH-SCHOOL!
諦めるな、私! Don't mind!
忘れさせてあげる Forget!
私だけのものよ My Sweet Darling
Oh… BrandnewMorning CLAZY LOVERS' HIGH-SCHOOL!
(Go! Go! Go! Go! Go! Go! Go! Go!)
男子生徒はこの曲を聞いてずいぶん満足したのか、この後すぐに予約を入れて帰った。丁寧に控えの紙を折って、そーっと財布の中に入れる仕草がどれだけ気に入ったかを示していた……
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