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<東京怪談ノベル(シングル)>


三下に捧げる葬送曲

1.

「そこの綺麗なお姉さん、俺らと茶しばきに行かへん?」

鈴宮北斗(すずみやほくと)、18歳。彼女なし。
夏休みもそろそろ終わりの今日この頃・・・、鈴宮は連れを伴い午後の渋谷にいた。
目的は、そう。

 ナンパである。

「・・・そっちはどうや?」
鈴宮は連れにそう聞いた。
「鈴宮さ〜ん・・もう、やめましょうよ〜」
情けない声で返事をしたのは月刊アトラス編集部の下っ端・三下忠雄(みのしたただお)である。
彼女がいないであろう・・と言う理由で鈴宮に連れられここまでやってきたのだ。

「何ぬかしとるんや? 今年の夏ももう終わりや。今のうちになんとか彼女ゲットせなあかんで! 折角の夏やっちゅーのに彼女がおらんやなんて寂しいやろ! 悲しいやろ!? そないな切ない夏は、お天道さんが許しても俺が許さんのや!」

「べ、別に僕は・・・」
鈴宮の熱弁に、三下がもごもごと口を動かしている必死に言い訳を探している。
「おぉ! あっちにベッピンさん発見!! ほれ! さっさと行きや!!」
が、そんな三下にお構いなしに、鈴宮はとっくに別のターゲットを捕捉していた。

ドンッ と三下の背中を押して、ターゲットの前に投入。
三下がゴニョゴニョとなにやらターゲットに話す。
ターゲットに平手打ちを喰らい、三下撃沈。

以上、三下の涙の特攻ナンパの一部始終である。
「・・・やっぱ、三下はんじゃダメなんやなぁ・・・。参考になったで。おおきにな〜」
三下がボロボロになりながら、はいずって鈴宮の元へと戻ってきた。

「ぼ・・僕はオトリですか・・・」

そう言った三下に、鈴宮はにっこりと笑った。

「何事も経験や♪」

その言葉に、三下は黙って涙したのであった・・・。


2.
「まぁ、それはジョーダンとしてや」

鈴宮は真顔になった。
「いや、全然冗談になってないです・・・」
「俺もさっきから声かけてんねんけど、どーも相手にしてもらえん。・・・ターゲットが20代の綺麗なお姉さんってのがいかんのかもしれんけど・・・」
「・・・僕の言ってること無視ですか・・・」
「ち。ピチピチの18歳で、こないいい男やっちゅーのに・・・」
横でメソメソとなく三下に、鈴宮は言葉をいったん区切った。

「・・そこで考えたんやけど、俺ら2人で声かけるんが効果的かもしれん。ほれ、ちょっと眼鏡とってんか?」

「へ!?」
言うが早いか、鈴宮は三下の眼鏡を疾風のごとく取り去った。
「はわわ!? す、鈴宮さん! 僕眼鏡がないと・・!」

「俺のミリキだけでは足りんちゅーのがちょっと悔しいけど、コレなら絶対いけるで〜!」

哀れ三下。彼の目はほんの数メートルも離れていない鈴宮の姿を捕まえることすらできない。
虚空をさ迷う三下の手。
そんな三下の肩をグイっと掴み、鈴宮はキョロキョロと辺りを見回した。
そして、とある後姿に心を奪われた。

ストレートで美しい黒髪は腰まであり、涼しげなオーガンジーのスカートはロング丈で太陽の光に微妙に足のラインが浮き出る。
細身で、少しだけ俯いた時に見えた瞳は切れ長で長いまつげが印象的。
20代の女性としては最高ランクではないだろうか。

これは・・・最大のチャンス!?

鈴宮は勝負に出た!!
「そこの綺麗なお姉さ〜ん!! 俺らとレイコー飲み行かへんですか〜!?」
ぴた・・っと女性の足が止まった。
「そうそう、今止まった綺麗なお姉さんのことや〜♪」
調子に乗った鈴宮は駄目押しとばかりに再び『綺麗』にアクセントをつけて呼ぶ。

「あたしのこと〜?」

予想外の声に、鈴宮の体が硬直した。


3.
「あっら〜、可愛い坊やと素敵な男(ひと)・・・。あたしとお茶したいのねぇ〜?」

その容姿とはうらはらに、野太いガラガラとした声。
そして、近づいてきた女性の顔にはなぜか青いブツブツ・・・・。

「あんた男やろ?! 俺にはそんな趣味はないでー!!」
「僕もないですよ!!」

慌てる鈴宮と三下に、女性・・・もとい、オカマはにっこりと笑った。
「ダイジョーブよぅ♪ あとは下を工事するだけなんだからぁ〜」
「何が大丈夫なんか全然わからん・・」
オカマの言葉に、鈴宮が呆然としていると三下が叫んだ!
「鈴宮さん、とにかく逃げましょう!」
「お!? そ、そやな! 36計、逃げるにしかずや!」
「・・・? 48計じゃ・・?」
「そないなこと気にしとったら、あかん!!」
ダッシュで走り去ろうとする2人・・だがしかし!

「お茶するんでしょぉ〜?」

いつの間にか2人はオカマによって手首を掴まれていた。
そのオカマの手に、微妙に力がこもっている。
「い・・いったいわ・・さすが男の腕力・・・」
思わず呟いた鈴宮の言葉におかまはパッと手を離した。
「あら! あたしったら・・・恥ずかしい! きゃ!」
普通の女の子が言ったら可愛かった台詞かもしれない・・・が目の前にいるのはオカマ。
その恥らう姿は気持ち悪いの一言に尽きる。

「あ〜・・でも、男性2人にあたし1人じゃ数が合わないわぁ・・・そうだ! お友達も呼ぶわねぇ♪」


4.
鈴宮と三下から少し離れて、オカマはササッとカバンから携帯を出すとどこかへ電話をし始めた。

「あ、あたしぃ。今お茶に誘われたのぉ〜・・もちろん男よぉ! でね、ひろし・・・ううん、ひろこちゃんも来れないかなぁって思ってぇ・・・」

「お、オカマ仲間を呼んでるみたいですよ・・・」
三下の顔が一気に青ざめていく。
これから来るのがどんな輩かはわからないが、地獄を見るのは必至である。

鈴宮は決心した。

「俺な・・・前々から思っとってん。三下はんはどんなにこき使われても、泣き言いいながらも絶対にやるヤツやって・・」
「鈴宮さん? 突然何を・・??」
「俺も、自分前向きな性格やと思っとってんけど・・・今回ばっかは前向きになれそうにないんや・・」
苦悩し、心のうちを吐き出すかのように呟きつつも鈴宮の手はポケットに潜ませてあったバンダナを探っている。
そして、時は来た!
「俺の分まで、頑張って来てやーーー!!」


 鈴宮はすばやくバンダナを締めると、一気に駆け出した!


「ああぁ!? 鈴宮さあああぁぁぁぁ・・・・」
だんだん遠ざかっていく三下の情けない断末魔。
「あ!? あっちの坊主、逃げやがったなあああぁぁぁぁ・・・」
そして、同じく遠ざかる野太い声。

「三下はん、堪忍や。けど、俺にはできんのや! 未知の扉を開ける勇気は持ち合わせとらんのや!!」

涙を流しつつも、鈴宮の足が止まることはない。
犠牲となった三下に同情しつつも、けして鈴宮の足が反対方向に向くことも・・・。


三下よ。
キミの犠牲はあまりにも尊く、そして勇敢なものであった・・・。

合掌・・・。