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<幻影学園奇譚・学園ノベル>


茶道部の茶碗を探せ

--オープニング--
「詠子ちゃん、そこの柄杓取って」
 一条汐海は水屋でせっせと準備をしている。
 ぼさっとしていた月神詠子誘ったのは、汐海だった。
 部員3名、正し、汐海を除いた2名は幽霊部員。彼らは、どんなに汐海が誘ってもまったく反応を示さない。
 汐海から見れば、彼女は人付き合いが苦手そうに見えた。だからではないが、せっかくもうすぐ楽しいイベント―学園祭―が控えているのだ。
 自分も含め、友人を作ろうと、無理矢理詠子を部活動に誘ったのだった。

 そんな茶道部部室で、事件が起こった。
 茶道部が代々所持している、楽焼の茶碗『面影』が誰かに盗まれたのである。

「うそでしょぉ。あれが、今度のお茶会のメインなのにぃ」
 ルルル――と涙を流す汐海。それを不思議そうに見つめる詠子。
「こうなったら――」
 きっと空を睨み付けると、汐海は一枚の広告を掲示板に貼った。
 
  緊急告知!
  茶道部部室内で、茶碗が盗まれました。
  盗まれた茶碗を探してくる人を募集します。
  もし、見つけられた方には、小山園の「永寿」(未開封)の抹茶をごちそういたします。
  ※正し、早い者勝ちですよ。一番最初に見つけた方にのみ、ごちそうします。

「これでよし」
 正面玄関の掲示板に貼った張り紙を見つめ、得意げな表情をする汐海と、やはり、現状をいまいち理解出来ていない詠子。
「おや、これは……」
 汐海の背後からバリトンの声が降ってきた。
「大変なことになっているみたいだね」
 その声に振り返ると――。
「あれ? えっと……」
 見覚えがあるのか、汐海は眉根を寄せた。
「いや、すみませんねえ、入部してから一度も顔を出さなくて」
「あ!」
 そう、彼は幽霊部員の1人、城ヶ崎由代だった。
「城ヶ崎君……茶碗知らない?」
 取りあえず聞いてみる。
「僕は、そんな高価な品があの部室にあっただなんて、知らなかったよ」
 そう言うと、何かを思いだしたのか、城ヶ崎由代はクスリと笑いを漏らした。
「そーだよね。あんなのがあそこにあるだなんて……誰も思いつかないと思うの。普通、職員室の金庫とかにしまってあるものだし」
 そう言うと、由代を促し、茶道部部室へと向かった。

--助っ人登場--

 部室――と言うより、倉庫に近いそこは、プレハブの一角をついたてで囲い、道場のお下がりの畳を6畳分敷き詰めた粗末なものだった。
 壁にそってゴザが置かれていて、角には、スチール棚が設えてあり、そこには、木箱が納められていた。
「こんな所に、そのような高価な物を置くのは、不用心だと思うよ」
 部室をぐるりと見回すと、由代は、軽く溜息をついた。
「ハイ、ごもっともなご意見で」
 申し訳なさそうに、シュンとすると、ガクっと肩を落とし項垂れた。
「兎に角、探す……」
 と、由代が言いかけた所に、ついたてからサラサラの長髪を揺らした、可愛らしい少女が顔を出した。
 そして、彼女の背後から青い瞳を持った、長身の少年が顔を覗かせた。
「あの、ここって茶道部ですよね?」
 怖ず怖ずと尋ねると、少女はペコリと頭を下げた。
「貼り紙見ました」
 ニッコリ笑うと、訴えかけるような視線を部室内へ向けた。
「どうぞ」
 汐海より先に、由代が彼女らを招き入れた。
「お邪魔します」
 丁寧に靴を脱ぐと、そっと揃えた。
「あ、悠宇、靴ちゃんと揃えなくちゃ駄目だって」
 もう、と小さく怒りながら、脱ぎ散らかされている靴を丁寧に揃えた。
「始めまして初瀬日和と申します」
「俺、羽角悠宇、こいつがさ、探しに行くなんて言うからさ」
 軽く溜息をつく悠宇に、日和はちょっとむっとする。
「別についてきて欲しいだなんて、頼んでないわ」
「危なっかしいんだよ」
 2人の関係がどういうものなのか、定かではないが、どう見ても互いをとても大切に思っているようで、端から見ていると、少し照れくさい。
 だから、由代が1つ咳払いした。
 そこへ、バタバタと足音をさせ、髪を耳の横で束ねた少女が駆け込んできた。
「抹茶ミルク〜☆」
 そこにいた全員の目が一瞬点になったのは、言うまでもないが――。
「こんにちはぁ」
 ぴょんと部室の中に飛び込むと、小首を傾げて見せた。
「あ、みんなも探す人? チカもね、探しに来たの」
 彼女は、栄神千影と名乗った。
 最後に――。
「あれ、みあおが最後かな?」
 銀色のぱっちりとした瞳を持った少女が顔を出した。


 --探索開始--

「えっと、茶碗の形なんだけど――」
 そう言うと、汐海は古びたパンフレットを皆の前に広げた。
 それは、展示会開催のパンフレットで、かなり昔のもののようで、開催日の所に"昭和"と記されていた。
「中身はこれね。で、これが、木箱に納められているの」
 そう言うと、パンフレットの中の1つを指さした。
「そう言えば、城ヶ崎さんは、茶道部員さんなんですよね? 見たことあるんですか?」
 日和が、隣にいた由代に問いかけた。
「すみません。 僕は幽霊部員で、部活に出席した記憶が……」
 そんな由代に、汐海がジトッと視線を送った。
「じゃあ、なんで入部なんかしたんだ?」
 日和の肩越しに、悠宇が問いかけた。
「教養を身につけようと思ったんだが」
 そう言うと、ハハハと軽く笑った。
「活動しなくちゃ意味ないな」
「雑談はそのくらいにして、どこを探すか考えなくちゃ」
 クリクリとした瞳を更に丸くすると、みあおが、パンフレットを食い入るように見つめた。
「みあおは、偶然の事故じゃないかなって思うの」
 そんなみあおに対抗するかのように、千影ががばっと手を上げた。
「お茶碗さん…きっとね寂しくてお友達を探しに行っちゃったんだよ」
 一瞬間が空くと、日和が小さく笑いを零した。
「千影さんは、ロマンチストね」
 嫌みではなく、やんわりと告げると、日和は悠宇に視線を向けた。
「そうだな、こんな茶道部に嫌がらせするヤツなんて、いないだろうし」
 そう言うと、部室を見回した。
「魔物の関与とか?」
 すると、悠宇の言葉に、日和も頷いた。
「いや、僕は嫌がらせだと考えるよ」
「どうして?」
 由代の説に、みあおが首を傾げた。
「例えば、お茶会の開催場所とかどうなんだろう」
 由代は、ちらりと汐海に視線を向ける。
「場所は抽選のはずだけど、一等地を引き当てて、他の部の妬みを買ったりしていないかい?」
「――そんな、お茶会の場所は毎年決まっている場所だし。嫌がらせされるいわれなんか……」
 自信がないのか、汐海の語尾が弱々しくなる。
「お話していても始まらないよ。動こうよ」
 収集がつかなくなりそうだった会話に、千影がパッと立ち上がって、元気な声で告げると、タタっと走って部室を出ていこうとした。
「千影さん、どこに行くの?」
 日和が声をかける。
「チカはねぇ、食器がありそうな所探してくる。えっと、調理室とか?」
 そう言うと、パタパタパタと足音をたてながら部室を出ていった。
「んじゃ、俺らも」
 そう言うと、悠宇が立ち上がった。
「校内の見晴らしのいい所とか、探してきます」
 悠宇につられるように、日和も立ち上がると、ペコとお辞儀をして、部室を後にした。
「じゃあ、みあおは、ここから探すね」
 ぴょんと立ち上がって、部室内を探し始めた。
「では、僕は食堂にでも行ってみましょうか」
 そう言って、部室を出て行った。

--それぞれの探索--

 サークル棟のプレハブを出た日和は、キョロキョロと辺りを見回した。
「ねえ、お茶碗って、こういうものよね?」
 後ろから来た悠宇に、手を丸くして形作りながら、尋ねた。
「そんなんじゃない?」
「例えば、例えばね、お母さん魔物が、自分の赤ちゃんのゆりかごにって、持ち去ったとか……」
 上目遣いに悠宇を見ると、心配げに首を傾げた。
「……赤ちゃんかどうかは別として、俺も魔物が絡んでると思うぜ」
 すると、日和はニッコリと微笑んだ。
「使用されてない教室とか探してみない?」
「そうだな」
 そう頷くと、2人は校内へと向かった。

「あったか?」
 誇りまみれの教室の中で、手を真っ黒にしながら、悠宇は床にはいつくばっていた。
「ない」
 教室後方に設置された、ロッカーの中を一個一個覗きながら、日和は首を振った。
「隣の音楽室も探してくる」
 そう言うと、日和はパタパタと小走りに駆けて行った。
「お、おい。高いところや、危ない所は俺に言えよ。俺が探すから」
 日和の背にそう叫ぶと、悠宇は屋上へ続く階段に視線を向けた。
「一応、探してみるか」
 そう言うと、階段を二段飛ばしで駆け上がった。
 広いが殺風景な屋上は、探すには簡単すぎた。
「どこにもねえか」
 そう言うと、屋上から身を乗り出し、更に下を見つめた。
 プレハブや講堂の屋根が見える。
 しかし、どこにも茶碗らしき姿は見あたらない。
「屋根に登らなきゃ解らないよな」
 とはいえ、そんな所に登っているのを、誰かに見られでもしたら、呼び出しを喰らうことは必須である。
「たかが茶道部の為に、そんな危険犯すのもな」
 などと考えていると、視界の先に日和の頭が映った。
「あそこにもなかったみたいだな」
 苦笑すると、ぐっと身を乗り出すと、日和に向かって叫んだ。
「こっちにもねえよ」
 降ってくる悠宇の声に、日和は目をパチクリさせた。
「こっち、上」
 その声につられるように、日和は屋上を見上げた。
「あんま乗り出すな。今から戻るから、待ってろよ」
 窓枠に腕をかけ、ぐっと身を乗り出そうとした日和に、悠宇は慌てて叫んだ。
「う、うん。解った」
 素直に頷くと、日和は窓から体を引き戻し、近くの椅子に腰掛けた。
 しばらくすると、悠宇が勢いよく駆け込んできた。
「お前、無茶すんなよ。危ないだろ」
 開口一番に叫ぶと、安堵の溜息を吐いた。
「大丈夫よ。ちょっと顔出しただけだもの」
 心配しすぎと、苦笑すると、「後、どこ探そうか」とぐるりと見回した。
「とりあえず、他の奴らの状況見に行ってみるか?」
 2人は連れだって、音楽室を後にした。

--大集合--

「あ、海原さん」
 後ろからトコトコと駆けてくる足音に気付いたのか、日和が振り返った。
「職員室になくて」
 みあおがそう言うと、日和も「こっちもなかったの」と答えた。
「他の奴らの状況を聞きに行く所」
 悠宇がみあおに告げる。
「みあおも一緒に行く」
 そうして、3人は、残りの2人がいるであろう、食堂へ向かった。

 食堂を覗いてみると、誰もいなかった。
 3人は顔を見合わせながら、調理室を覗いた。
 そこには、床に散らばった器をせっせと片づけている由代の姿があった。
「おいおい、どうしたんだよ」
 ぐるりと見回した、悠宇の視線の先には、辺り一面に散乱している調理器具があった。
「ああ……千影君が……」
 そういいつつも、由代は動かす手を止めない。
「私も手伝います」
 日和は、タッと歩み出ると、床に落ちている器具を拾い始めた。
「日和、俺がやるから、お前はあっちでも探してこいよ」
「え、でも……」
 散らばっている器具や、器の中には、割れたりした破片が混じっていた。
「手、怪我したら大変だろ」
 少し照れくさそうに言うと、さっさと床を掃除し始めた。
「ありがとう」
 そして、隣に立っていたみあおに視線を向けた。
「海原さんも、一緒にあっち探さない?」
 その言葉を受け、みあおは大きく頷いた。
 そこへ、千影が飛び跳ねながらやってきた。
「あれ? みんな何してるの?」
 少し唇を尖らせ、何も知らない風を装うと、ニコニコと笑った。
「千影君、こちらに来てここを片づけましょう」
「え〜」
 そんな彼らを余所に、日和とみあおはそっと調理室を出ていった。
「キミが散らかしたんでしょ? 後かたづけをするのは当然の義務。さ、僕達も手伝っているのだから」
 由代は、先輩口調で千影を叱咤すると、立ち上がり散らかっている床を指した。
「むぅ〜」
 不満そうな声を上げながらも、千影は素直に後かたづけを始めた。
「で、地下資料室に何かあったのかい?」
 千影の隣で片づけていた由代が、千影に尋ねた。
「ん〜きったない石板とか、割れた器とかあったけど、肝心なのはなかったよ」
 なんで、あんな汚いの終っておくのかなあ〜と、ブツブツ呟きながらも、千影は、片づける手を早めた。
「僕たちが探している茶器も高価な物だが、キミが見てきた物も価値があるのもなんだよ」
 由代の言葉に、ふ〜んと頷くと、軽く肩をすくめた。
「チカね、お茶碗さんは、寂しくて、お友達を探しに行ったんだと思ったんだ」
「なんなんだ、おまえのその独特な感性は」
 後ろにいた悠宇が、軽く苦笑した。
「だって〜、一人ぼっちでお留守番は寂しいでしょ? チカも一人は嫌い」
「千影君は、とても感受性が豊かなんだよ」
 由代は、悠宇に告げると、最後の一枚を棚に戻した。
「あとは、こっちの、探していない所を探して、食堂を手伝いましょう」
 
 その頃、食堂では――。
「なんで、こんなに食器があるの?」
 日和が音を上げていた。
「調理室にも沢山あって、ここにも沢山あって、こんなの探しても探しても見つからない」
「みあおも、飽きて来ちゃった」
「そうよね〜」
 そういいながらも、2人はせっせと奥の器をどけながら目当ての物を探していた。
「日和ちゃんは、今回探している茶碗のことって何かしってる?」
 くるくるっとした瞳を日和に向けると、小首を傾げた。
「うん〜と、楽茶碗でしょ。探している茶碗は、長次郎って人が作った物みたいよ」
「長次郎?」
「うん、桃山時代の人、ほら、千利休っていたでしょ? 茶道を始めた人で、茶道に使う茶碗として、長次郎って人が作ったって、確か誰かが言っていたわ」
 みあおは、興味深そうに日和の話しを聞いていた。
「で、長次郎さんが初代で、代々現代まで楽焼きは続いているらしいよ」
「すごおい。その、長次郎さんって偉い人なんだね」
 みあおの言葉に日和は、柔らかく微笑んだ。
「ほんと、偉い人よね」
「でも、そんなすごい茶碗がなんで茶道部にあるのかなぁ」
 唇を尖らせ、考えるように人差し指を唇に押し当てた。
「解らないわ」
 そこで、一旦言葉を途切れさせると、2人は無言のまま器を探し始めた。
「色は黒、厚みがあって、ごつごつした印象を受ける茶碗を探しているんだよ」
 由代がみあおと日和の背後から、にゅっと顔を出した。
「きゃあ」
 思わずハモると、顔を見合わせ、プッと吹き出した。
「びっくりしたぁ」
 こそばゆそうに笑うみあおに、日和も楽しそうに笑った。
「見つかったのか?」
 悠宇が顔を覗かせると、笑い合っている2人に声をかけた。
「チカも探す!」
 その後ろから、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら姿を現している。
「みんなで探しましょ」
 そう告げると、日和は、一番下の戸棚を開けた。
「……あれ?」
 日和の目の前に、ちょこんと黒い茶碗が置かれていた。
「もしかしてこれって……」
 日和は振り返り、悠宇に視線を向ける。
「目当ての茶碗か?」
 日和を見つめ返すと、悠宇が慎重な声音を出した。
「わーい、茶碗さんだぁ」
 ご機嫌な声で、千影が瞳を輝かせている。
「案外簡単な所にありましたね」
 由代が溜息を吐く。
「日和ちゃん、よかったね」
 みあおがにっこりと微笑んだ。

--ほんわか休息--

 部室へ入ると、そこに汐海がせっせと茶の準備をしていた。
「見つかったの?」
 皆の顔を見回し、優しく微笑むと、室内へ招き入れた。
「てか、飲み物の準備してんじゃん」
 悠宇は、冷ややかに言い切ると、肩をすくめた。
「やだ、みんなのことを信頼していたのよ」
 ばつが悪そうに笑うと、そこへ座ってと、指さした。
「で、誰が見つけてくれたの?」
「日和ちゃん」
 汐海の言葉に、みあおが答えた。
「で、でも、本当は城ヶ崎さんが探そうとしていた所だったし……」
「でも、お前がみつけただろ」
 悠宇は、謙遜する日和に告げると、ほら茶飲んでこい、と促した。
「けど、みんなもその場にいたし、私だけ飲ませてもらうのは……」
 そんな日和を見ていた汐海は、瞳を細め柔らかく微笑んだ。
「これは茶碗を探して来てくれたお礼よ」
 そう言うと、茶菓子を振る舞い、20グラム数千円の抹茶を点てはじめた。
「わーい、抹茶だぁ」
 千影はご機嫌な表情で、畳の上に正座している。
「いいのかなぁ」
 日和は、遠慮がちに隣にいた悠宇に問いかけた。
「飲ませてくれるって言ってんだから、遠慮するな。てか、俺はいらないからな」
 苦くて飲めねえよ、と1人ごちると、目の前に置かれている饅頭を頬張り始めた。
「すごく良い香りが漂ってくるね。楽しみだな」
 みあおは、汐海の作法を見つめながら、ワクワクしている。
 その隣で、由代はブツブツと何か呟いていた。
「どうかしたの?」
 みあおが、由代の顔を覗き込んだ。
「いや、茶碗は見つかったが、誰が一体なんの理由であんな所に置いたのかと思って、ね」
「ごめんなさい。実はこれが……」
 そう言うと、動かしていた手を止め、膝を動かして、ポケットから一枚の紙を取り出して、由代の前に置いた。
「読んでも?」
 視線だけ汐海に向けると、由代は黒い瞳に探るような光りを浮かべた。
「ええ」
 汐海の言葉をうけ、由代はその紙を手に取り、広げた。
 背後から、乗っかるように、千影が覗き込んでいる。
 隣からは、みあお、反対側からは悠宇と日和が――。

  茶碗を返して欲しかったら、廃部しろ
  その場所を明け渡せ

「やはり、妬みだったのか」
 由代の言葉に、汐海が頷いた。
「ほら、サークル棟って、プレハブを数部が仕切って使っているでしょ。茶道部はね、今年隣の棟からここへ移ってきたのよ。それでね、ここ、前は違う部が使っていたみたいで……」
「もしかして、ここを使っていた前の部の嫌がらせ?」
 みあおが大きな目をさらに大きく開くと、何度か瞬かせた。
「そうみたい」
「だったら、またっ」
 日和が心配そうな顔をする。
「そう思って、先生に今後こんなことが起こらないように対策をお願いしてきたの」
 すると、汐海は皆の顔を見回した。
「本当に、今日はありがとう。みんなのお陰で、この茶碗は見つかったし、大事にいたらなくて……これも全てみんなが協力してくれたお陰。本当にありがとう」
 深々とお辞儀する汐海に、皆そんなことないよと言うように、頭を振った。
「ねえ、ねえ、そのお茶碗使わないの?」
 突然、千影が緑色の瞳に興味の光りを浮かべた。
「お茶碗はね、使ってあげないと駄目なのよ、えとね、楽焼は使えば使うほど味が出てくるって…確かママ様が言ってたの」
 屈託のない表情で笑うと、ずっと身を乗り出した。
「そうね、千影ちゃんの言う通りね。うん、使おう。今日、使っちゃう」
 そう言いながら、汐海は楽茶碗で抹茶を点て、皆にふるまった。
「そういえば、月神さんは?」
 抹茶を一服飲んで、ほんわかしていたみあおは、思い出したかのように尋ねた。
「うん、なんか気分が悪いって言うから、そのまま帰したの」
「ふ〜ん」
 そう答えると、残りの茶を飲み干した。
「美味しい」
 一同が口々に言うと、至福の表情を浮かべた。

 炭が燃え、パチパチと音をたてる中、開けられた窓から注ぎ込まれる初秋の風に乗って、甘い白檀の香りがふんわりと鼻を掠めた。
 季節が深まれば、虫の音が聞こえ、もっと風流になるだろうが、いかんせん、仕切りに囲まれ、畳が置かれただけの部室である。
 とはいえ、コポコポと、釜の中でお湯が沸き立つ音は、心を静めてくれる。
 そして、香り立つ抹茶の香りが、穏やかさをもたらせてくれる。
 ほんの一時の平穏――学園は日々変化している中、この一瞬だけは暖かく安らぎに満ちていた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3524/初瀬・日和(はつせ・ひより)/女/2-B 】
【3525/羽角・悠宇(はすみ・ゆう)/男/2-A 】
【1415/海原・みあお(うなばら・みあお)/女/2-C 】
【3689/千影・ー(ちかげ・ー)/女/1-B 】
【2839/城ヶ崎・由代(じょうがさき・ゆしろ)/男/3-A 】

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■         ライター通信          ■
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 学園ノベルへのご参加、まことにありがとうございました。
 ライターの風深千歌(かざみせんか)です。

 思った以上に沢山のご参加を頂き、皆さまのプレイングを生かしきれたたかどうか、少し不安が残りますが、いかがでしたか?
 楽しんで頂ければ幸いです。
 「それぞれの探索」にて、個別文章となっていますので、読み比べられるのも面白いかと思います。
 また、設定と違うなどの修正がございましたら、遠慮なくお申し出下さい。
 もし宜しければ、ご意見など賜りたく思います。
 残り少ない”学園生活”ですが、どうぞ楽しんでください。
 そして、またどこかでお会いできることを祈りつつ――。

>>羽角悠宇マ
 はじめまして。
 初瀬日和サマとのご参加ということで、一緒に行動するパターンにしてみましたが、いかがでしたでしょうか?
 また、日和サマをとても大切にしている雰囲気を出させて頂いたのですが、設定に沿っていればいいのですが……。
 いつか、ご縁がございましたら、再会出来ることを楽しみにしております。