|
■mosquito
無防備なまでに薄い肌を裂き 痙攣を続ける肉の奥の奥
規則的に脈を刻む心臓に杭を打ち込み
溢れ出す生命の源を 甘美なる真紅のしたたりを
余す事無く我が物に
二重螺旋の囁くまま 次なる命を紡ぐ為に
「珍しいな。お前が俺の所に顔を出すなんて」
紫煙を吐き出した草間・武彦(くさま・たけひこ)は、目の前のソファに身を沈めた男に話しかけた。
男の年齢は草間と同じ位であろうか。短く刈り込まれた黒髪、安物ではあるがさっぱりとした仕立ての背広。そこそこ整った顔立ちをしてはいるが、疲労のためであろうか、その瞳は暗い。
男の名は、風祭・啓吾(かざまつり・けいご)といった。草間とは旧知の間柄である。
「で、刑事のお前が俺に何の依頼だ? まさか、大泉中央公園の連続殺人の犯人を捕まえろって訳でもないだろうし」
「……もしもその通りだと言ったら、どうする」
啓吾の言葉に、珈琲カップに伸びかけた草間の手が止まる。
「……怪奇絡みなのか?」
「あぁ。上からの指示で、マスコミには公表できんがな」
向かいに座る男は視線を上げようともしない。草間の視線は、男からテーブルの隅に放り出された新聞へと移った。
ここ数日、新聞の一面には奇妙な連続殺人事件が大きく取り上げられていた。
鋭利な刃物で心臓を貫く殺人鬼。初めの被害者は、公園をジョギングしていた若い女性。2人目は浮浪者。そして、3人目は巡回中の警察官。死因は心臓を刺された事による失血死。被害者に共通しているのは、財布やその他の持ち物はそのまま残されていた事と、刺殺体にもかかわらず、その傷口からは一滴の血も流れ出していない事。
死体には殆ど争った形跡もなく、失われた血液がどのようにして消えたのかすら判明していないという。
『現代に蘇った吸血鬼』。新聞の関連記事には、そんな大きな見出しが付けられていた。
「失血死した被害者には、一般には公開されていないもうひとつの共通点がある」
草間の視線を追った啓吾が、新聞を取り上げる。
「……死体にはアレルギー反応が現れていたそうだ」
「アレルギー反応? 毒殺って訳でもないだろうに、何でまた……」
「検視官が言うには、虫に刺された時のアレルギー反応に似ているらしい。しかも、それは全身に及んでいる」
暗い瞳の男は、初めて草間に顔をあげた。重い口調で言葉を続ける。
「凶悪犯を発見する為に、巡回は常に2人組で行われていた。そして……3人目の被害者は、俺の弟だった……」
「……啓吾……」
「生き延びた警官は、犯人は巨大な蚊のように見えたと報告した。だが、上のほうは彼が錯乱しているという判断を下し、今その警官は警察病院に収容させれている」
淡々と語られる言葉。だが、だからこそ、草間には相手の悲しみの深さが判る。
「……判った、引き受けよう」
旧友の視線を正面から受け止め、草間は頷いた。
無防備なまでに薄い肌を裂き 痙攣を続ける肉の奥の奥
規則的に脈を刻む心臓に杭を打ち込み
溢れ出す生命の源を 甘美なる真紅のしたたりを
余す事無く我が物に
二重螺旋の囁くまま 次なる命を紡ぐ為に
―― マダ 足リナイ ――
act.1
「こんにちはなのー」
クマさんリュックを背負った藤井・蘭(ふじい・らん)が草間興信所の扉を開けた時、室内には重苦しい雰囲気が立ち込めていた。
「……どうしたの? 何かあったなの?」
ぱちくりと瞬きした彼は、とりあえず手近に居た少女に問い掛けた。
「また怪奇事件が起きたんです。草間様のご友人の弟さんが、大きな蚊に血を吸われてお亡くなりになったとか」
薄墨色のミニのチャイナドレスに身を包んだ海原・みその(うなばら・――)は、自分を見上げてくる少年にも丁寧な口調を崩さずに事情を説明する。
「蚊? ちっちゃくて、刺されると真っ赤になるんだよね? 刺されるのは嫌なのーっ」
「今回は真っ赤になるだけでは済みませんよ。これまでに発見された被害者は、全員命を落としているんですからね」
わたわたと両腕を振り回す蘭に向かい、綾和泉・匡乃(あやいずみ・きょうの)は笑いもせずにそう言った。
それにしても、と匡乃は考える。巨大な蚊――確かB級ホラーにそのような物があった記憶もあるが、仮に犯人が目撃された通りのものであった場合、たとえ事件を解決したとしても、それを表沙汰にする事は出来ない。公的には迷宮入りとなるであろうこの事件の被害者の遺族は、これから先、哀しみと苦悩を抱えたまま生きていく事を強いられるのだ。
(まぁ……それを操っている人物が居ないとも限りませんが)
依頼人の暗い眼差しを思い出しながら胸中に呟く。正直、あまり期待はしていなかったが。
「そう言えば、草間さんは?」
「依頼人の風祭さんの家に出かけたわ。……亡くなった風祭さんの弟さんの通夜があるのよ」
ふと興信所の主を求めて視線を彷徨わせた少年に、テーブルの珈琲カップを片付けていたシュライン・エマ(しゅらいん・えま)が答える。
「巨大な蚊……とすると雌ね。蚊が血を吸うのは産卵の為栄養素の高い血液を狙っての事だもの。被害者達も二酸化炭素や汗、熱といった蚊が寄ってくる特徴を持った方々でもあるし……。ただ、何故突然発生したのかが気になるわね」
何らかの想いの変容現象かも知れない。蚊と言えば、やはり水場が関係しているのだろうか。生者が関与している可能性も考慮に入れると、近辺で事故にあった妊婦の有無等、産婦人科への聞き込みも必要になってくるかも知れない。
そうなると――やはり、人手が足りない。
「……あんたは、どうするの?」
シュラインの視線が、事件資料のファイルが収められた棚の方へと流れる。
「死んだ弟の敵討ち、か。いいだろう……俺も同行させて貰おうか」
背中を預けていた棚からゆらりと身を起こし、ティエン・レイハート(てぃえん・れいはーと)は数歩、彼女の方へと歩み寄った。
act.2
「……そうですか。ありがとうございます」
何度目かの問い合わせの電話を終え、重い受話器を黒電話に戻したシュラインは深い溜息をついた。
電話帳の住所から現場付近に点在する産婦人科をピックアップし、事故や事件だけでなく、出産時に死亡した女性や死産で子供を失った母親の有無までを問い合わせてはみたものの、かなり古い事例にまで遡っても、該当しそうな者は見つからなかったのだ。
「……参ったわね」
誰に言うともなしに呟いて、事務机に積み上げた古新聞の山を片付け始める。
最初の事件が起きたのは今から丁度一週間前。それ以前に大泉中央公園周辺で発生した事件で、今回の連続殺人事件に関連のありそうなものは無い。そして犯行時刻に公園周辺で目撃された不審人物も居なければ、付近で巨大な蚊を目撃したと言う証言も無い。唯一犯人を目撃した警官は未だ警察病院に入院しており、訪ねはしたが加療中であることを理由に面会を断られていた。
全ては野鳥の森という限られた空間内でおきている。更に言えば、3人の被害者が襲撃された地点も、距離だけに限ればさほど離れている訳ではない。
「こちらにも有益な情報はありませんでしたね。最初の被害者が発見されて以降、警察が巡回を行っていた事を考慮に入れれば、人為的な関与の可能性は低いでしょう」
古い応接セットに身を沈め、同じように古新聞に目を通していた匡乃が
手にしていたそれを丁寧にたたみ始める。
「となると、残る線は突然変異で発生した巨大生物という事になる訳ですが……それにしても不自然すぎますね」
「……それにしても、あまりに不自然すぎるね」
「不自然は、自然じゃないなの?」
事件の舞台となった野鳥の森。その遊歩道を歩きながら、蘭は言葉の主に問い返す。
「判らないかい? 被害者は心臓を貫かれたのに一滴の血も出ていない。目撃者の言うように犯人が巨大な蚊なら、これは納得できる。でもね……それを事実だと認めると、突然変異っていう言葉では説明できなくなるんだ」
同行者へと振り向いたティエンは、うっすらと汗ばんだ額に張り付いた前髪をかき上げた。木漏れ日を受けた金髪が周囲にキラキラと燐粉を振りまく。
「……どういう事ですか?」
艶やかな黒髪の下で、優美な弧を描くみそのの眉が微かにひそめられた。
「蚊が血を吸う現象が問題になるんだよ。吸血は雌が産卵に備える為の行為だろう? 産卵できるって事は、その巨大な蚊が雄と交尾をしたという事を示してる。つまり、巨大な蚊は複数存在してる筈なんだ。少なくとも、雄と雌の2匹以上がね。けど、目撃されたのは雌が1匹だけ……雄は何処に居るんだい?」
「きっと隠れてるなの。だから見つからないなのー」
「成る程……確かに不自然ですね」
みそのの頷きを、蘭が不思議そうに見上げる。
「突然変異によって発生した固体が複数存在する可能性は、低いとはいえ完全に否定する事は出来ませんよね。でも、目撃されたのは1匹で、しかもたった1度です。殺人事件が起きたのですから、当然警察は手掛りを求めて森を捜索した筈。なのに……」
なのに、犯人――この場合は巨大な蚊であるが――の痕跡は一切発見されていない。唯一の目撃証言が錯乱した者の言葉として取り扱われている以上、そう考えるのが妥当だろう。野球場と同程度の広さを持つ野鳥の森だが、何人もの警察官が捜索を行っているのだから、不審なものを見落とす事は無い筈だ。
「事件は野鳥の森以外では発生していませんし……目撃者が居る以上、犯人が不可視の存在という訳でもないでしょう。なら……犯人は一体何処に……?」
「ふにぃ……本当に不思議なのー。そうだ! 僕、森の皆に聞いてみるの!」
人工の小川に沿って続く遊歩道を、クマさんリュックと少年が駆けていく。
「1人じゃ危ないな……俺達も行ってみるかい?」
「ええ、そうですね……」
ティエンに応じたみそのは、突然、弾かれたように背後へと振り返った。少女の急激な反応に、青年も反射的に身構える。
「……おや、お揃いでやんすね」
それまで誰も存在しなかった筈の場所に、和服姿の青年が1人立っていた。彼の背後には、切り取られた空間の中に佇む唖然とした表情の風祭と、煙草を咥えた草間の姿までが見えた。
「あれ? 闇壱さんじゃない。なんでこんな所に?」
かつて別の怪奇事件で顔を合わせた事のある相手を認め、ティエンが構えを解く。
「ちょいと草間さんに頼まれたんでやんすよ。人手が足りないと言われやしてね」
事も無げに答えた黒葉・闇壱(くろば・やみいち)は振り返りもせず、己が切り取った空間を『閉じ』る。
「さてと……さっそくでやんすが、何か新しい手掛りでもあったでやんすか?」
「ふぅん、それじゃ、今は居ないなの? ……うん、判ったの。どうもありがとなのー」
3人に増えた調査員が姿を見せた時、蘭は現場近くに立つ1本の桜に、ぺこりと頭を下げていた。かさりと草を踏み分ける音に気付き、仲間達に元気一杯に手を振ってみせる。
「あのねあのねっ。判ったの! この桜さんが見てたなの! ……あっ、初めましてなのー」
歩み寄ってくる彼等の中に見知らぬ青年を認め、再びぺこりと頭を下げる蘭。
「お初でやんす。あちきは闇壱という者でやんすよ」
「僕の名前は蘭なの。よろしくなのー」
「それで、一体何が判ったんですか?」
簡単な自己紹介を終えた少年に、みそのが話しの先を促す。
「えっとね、おっきな蚊は1匹だけなの。夜になると来るの。何も無い所から出てきて、ぶ〜んって飛んで、血を吸うと帰っちゃうの。血を吸わなくても、朝になると居なくなるなの。だから今は居ないなのー」
「……つまり、その蚊はあちきと同じ能力を持っているという事でやんすかねぇ」
いまいち要領を得ない蘭の言葉を頭の中で反芻し、闇壱が首を傾げる。
「それなら目撃者が出ない事も説明がつくね。とりあえず、一旦興信所に戻ろうか。敵が夜にしか現れないなら、こんな所に居ても仕方がない」
やれやれといった感じで大きく伸びをしたティエンは、さっさと出口に向かって歩き出す。その後ろに続きながらも、みそのは名残惜しそうな視線を殺人現場へと投げた。
どんな思いを抱えて犠牲者達が無くなったのか、直接聞いてみたかったのだが――
(巨大な蚊に刺されてお亡くなりになった方なんて、滅多にお会いできませんし……)
この一件が片付いたら、改めて尋ねてみる事にしよう。そう思い定めた少女は、先に行ってしまった仲間たちを追うべく、その足を速めた。
act.3
夜の大気が、音もなく地上を包み込んでいる。
立て続けに殺人事件が起こった事もあり、大泉中央公園の周辺は早や人通りも絶え、野鳥の森には虫の声と風に揺れる草や葉の囁きだけが満ちていた。
「……そろそろ頃合いですね」
訪れる者とて無い筈の遊歩道の入り口に、1人の青年が姿を現したのは0時を少し回った頃。すらりとした長身をジョギングウェアに包んだ匡乃は、恐れる風も無く夜の森に足を踏み入れる。
ここに来る前に、軽く走りこんできたのであろうか。白い肌はうっすらと汗ばみ、やや上昇した体温に心地よい風が、青年の髪をさらりとそよがせる。
呼吸を整え、周囲の気配を探りながら、匡乃は足を運ぶ。姿こそ見えないものの、他の仲間たちも既に行動を起こしている筈だ。今のところ、特に変わった様子は見られない。第一、第二の殺人現場は既に通り過ぎ、3人目の犠牲者が亡くなった現場は、もうすぐそこまで迫っている。今夜は空振りに終わるのだろうか。そんな思いが脳裏を過ぎった時、彼の危機回避能力に何かが引っ掛かった。
「匡乃さん、後ろです!」
同時だった。
闇の中にみそのの声が響き、何が起きたのか確認するまもなく身を捻った匡乃の脇を、大きな影がかすめたのは。
「現れたわね。……けど、もう血を吸う必要は無いわ。あんたは今夜、ここで死ぬんだから」
空間を歪ませ、姿を現すと同時に仕掛けた初撃をかわされた影の前に、シュラインが立ちはばかる。
僅かに欠けた月が照らし出した『それ』は、確かに蚊の姿をしていた。――ただし、大きさを除いての事ではあるが。
巨大な複眼の下から伸びた凶悪な吸血器官は、ざっと見ただけでも50センチ程はあろうか。縞模様を帯びた腹部までを入れれば、体長は蘭の身長にほぼ匹敵する。1メートルを優に超える羽を振動させ、耳障りな羽音を周囲に撒き散らしながら、『それ』は遊歩道の上に滞空していた。
――血ヲ寄コセ――
現実の声を伴わぬ言葉が、直接シュラインの意識に叩きつけられる。物理的な圧力すら感じさせる殺意が彼女に向かって殺到してきた時、シュラインの手に握られていたスプレー式の殺虫剤が白い霧を吐き出した。一瞬の差を置き、匡乃の持っていた殺虫剤も噴霧される。
――キ、貴様等……!!――
前後からの挟撃でまともに薬剤を浴びた『それ』が、唯一がら空きとなっていた上方へと逃れる。多少は効果があったようだが、体の大きさの事もあり、一撃で仕留めるという訳にはいかなかったらしい。
――オノレ……!――
声無き憎悪を滴らせながら苦悶する『それ』の頭上で空間が歪む。
「……逃がしません」
長い髪を闇と同化させたみそのが、ほっそりとした手を突き出した瞬間、『それ』の周囲の時間の流れが切断され、空間の歪みまでが消失した。
「降りてきて頂きましょうか」
間髪を入れず、匡乃が退魔の力を解放し、『それ』の右の羽を撃ち抜いた。術の反動で生じた擦過傷から僅かに血が滲むも、青年は眉をしかめただけで痛みに耐え、重い音を立てて落下した『それ』を見つめた。
「悪い事しちゃだめなの。『めっ』なのー!」
蘭の声に応え、『それ』の周囲で緑がざわめきだす。長く伸びた草や蔓が意思を持って動きだし、長い足に、羽に、胴体に絡み付き、文字通り大地へと縫いとめた。
「……神翼よ!」
ティエンが頭上に掲げた手の先に舞い降りた純白の召還獣が、周囲を白光で染め上げる。閃光が消え去ると、青年の手には月光を集めて輝く一振りの刃が握られていた。
「これで……終わりだ!」
――ギャアァァァ……!!――
振り下ろされた刃に腹部を裂かれ、体液と内臓を撒き散らした『それ』は、脳髄にこびり付くような絶命を残して息絶えた。
それが、野鳥の森で3人の命を奪った吸血鬼の最期であった。
act.4
「やれやれ……出来れば腹部は避けて欲しかったでやんすねぇ。これじゃ後始末が大変でやんすよ」
足元に転がる『それ』の骸を見下ろして、闇壱は嘆息した。
「……って、闇壱さん。それは一体なんだい?」
光の刃を消し去ったティエンが、彼に向かって興味深げに問いかける。
「あぁ、蚊遣り豚でやんすよ。蚊取り線香を入れる……最近の若い人はご存じないでやんすかねぇ?」
「いや、それは知ってるけど……なんか勝手に動き回ってるし」
ちまちまと短い足を器用に動かして歩き回る蚊遣り豚。そんな物がやたら転がっている訳も無く。
「付喪神でやんすよ。あちきも蚊に刺されたくはないでやんすから」
あっさりと言ってのけた闇壱の右手が宙に円を描くと、指でなぞった部分に白い線が浮き上がる。切り取った空間から掃除用具を取り出して骸の片付けを命じると、それらは人の手も借りずに与えられた指示にとりかかった。
「すご〜い! 勝手にお掃除してるなの♪ ……でも眠いのー……」
「もうこんな時間ですからね。僕が送っていきますよ、家の方も心配されているでしょうし」
深夜の活動に疲れてしまったのか、今にも居眠りを始めそうな蘭の小さな体を、匡乃が抱き上げる。
「そうでやんすね。ここはあちきが片付けるでやんすから、皆さんお引取りになっていいでやんすよ」
「なら、私は興信所に戻るわ。武彦さんが戻るまでに報告書を纏めておきたいから」
「わたくしも一緒に。手伝わせてくださいね」
闇壱の言葉を受けて、シュラインとみそのがその場を立ち去る。
「では、僕もこれで失礼します」
早くも穏やかな寝息を立て始めた蘭を腕に抱き、匡乃が2人の後を追うように姿を消すと、見送ったティエンは闇壱に振り向いた。
「これで事件は終わったと思うかい?」
「どうでやんしょ。空間転移能力が種族的なものでない限りは、もうこんな事件は起きないと思うでやんすが」
「うん……そうだね」
骸を『あるべき世界』へと送り返す闇壱の言葉を聞きながら、青年はその青い瞳を閉じた。
吸血鬼によって命を奪われた者達の冥福を祈って。
その後、大泉中央公園における連続殺人事件の新たな犠牲者は途絶えた。マスコミの話題も次々と移り変わり――やがてこの事件は、人々の記憶から風化してゆく事になるのだろう。
・Fin・
|
|
|