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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


お人形さん'sの大ピンチっ!〜後日談

 その日、草間興信所はとてもとても険悪な空気に包まれていた。
 原因は人形博物館からやって来た二人の少女。
「信じられませんわっ。あんな目に遭わされたんですのよっ!」
 銀の髪に赤い瞳のお人形さん――ただし、今は人間サイズだが――エリアル・シルヴィア・コレットは、そう叫んでぷいっとそっぽを向いた。
 エリアルの言葉の先にいるのはアイリス・エルヴィア・コレット。金の髪に碧の瞳を持つお人形さん。こちらも今は人間サイズに変身しているが。
「でも、今は反省してくださってますわ。これから仲良くなれると思ってはいけないんですの?」
 言葉こそ穏やかであるが、雰囲気はエリアルに負けず劣らず迫力いっぱい、双方一歩も引く気はないらしい。

 事の起こりは数日前、人形博物館に新しい人形がやって来たことに起因する。
 その人形は人間に恨みを持っており、あろうことか人形博物館にいた動く人形たちみんなを封印してしまったのだ。
 草間興信所の協力があって、その事態はなんとか解決できたのだが……。
 その後に大問題が残った。騒ぎを起こしたお人形の落ち着き先について、だ。
 彼女も反省しているんだから、こっちからも仲良く出来るよう歩み寄ろうと言う子たち。
 あんな目に遭わされたんだもん、ぜーったい許せないっ! と言う子たち。
 人形たちの意見が真っ二つに割れてしまったのだ。

 ちなみにアイリスとエリアルは別に一緒に来たわけではなく、お互い別々に草間興信所にやってきたら鉢合わせてしまい、そのまま喧嘩に突入してしまった。
「お人好しにもほどがありますわっ」
「もう害を及ぼす気はないと言っているんですもの、お友達は多い方が良いですわ」
 ふわりと。
 草間興信所内の小物や書類やらが浮きあがった。
「うわ、ちょっと待てっ!!」
 どうやら激昂のあまり能力が少々暴発しているらしい。
 慌てて止めにはいる武彦の声は、二人の少女には届いていなかった……。



 突然喧嘩を始めてしまった二人を前に、セフィア・アウルゲートは悩んでいた。
 喧嘩を止めたいとは思うのだが、彼女たちには叫ぶ武彦の声すら聞こえていない。
 同じくこの場に居合せたシュライン・エマやシオン・レ・ハイも仲裁に向かおうとしているようだが、飛び交う物たちになかなか近づく事もできないでいた。
「ど、どうしよう……」
 小さな分身体ならこの嵐の中も切り抜けられるかと考えてみたが、眺めている限り、それも難しそうである。
 物に命を与えても、多分結局辿り着く前に撃墜されるだろう。
 仲裁しようとして近づいていったシオンが、あっさり突進してきた物に撃墜された。
「だ、大丈夫ですか……?」
 とりあえずあの場に放っておいたら危なそうなので、こちらに引っ張っておく。
 完全に伸びているシオンの足を引いて、ずるずると床の上を引きずりソファーのところまで引き戻す。
 と、その時。
「なんの騒ぎですか?」
 扉を開けて入ってきたのは榊船亜真知であった。
「……ん……どうしよう……? みんな楽しいことが好きなはずなのに……喧嘩は……嫌だよね?」
 なにやら問いと微妙にずれた答えを返したのはセフィアである。
「……詳しいお話はあとで聞かせてください」
 とりあえず亜真知は、事情を聞くのはあとまわしにする事にしたらしい。
「いい加減になさいませ。周囲の迷惑もお考え下さい」
 亜真知の声とともに、宙を舞っていた全ての物が力を失い、床へと落ちた。
 シン、と室内が静まり返る。
 すかさずシュラインは、人形たちに聞こえるように、うーんと考えこんだ様子を見せた。
「あらら……困ったわね。備品は壊れるし書類はバラバラ。ん、これはエリアル嬢達の対応と同じく、頑なな態度でいるべきなのかしら〜?」
 さすがにこれは聞こえた様子。
 ぴたりと止まった二人は、改めて周囲を見まわした。
 アイリスはさっと顔色を変えたが、エリアルはあまり動揺している様子はない。
「もっ、申し訳ありません。すぐに片付けますわ。ほら、エリアルも」
 しかしエリアルはぷいっと明後日の方を見て、片付けようとはしなかった。
「お二人とも、仲良くしてくださいよ〜。女性は笑顔が一番ですよ?」
 どこから出したのか両手にぬいぐるみを持ち、人形劇のように話しかける。
 それにエリアルが興味を持った。じーっと見つめ、小さな笑みを零した。
「……わたくし、まったく事情がわからないんですけれど……。教えていただけますか?」
 険悪な空気が去った部屋の中で、亜真知がこくんと首を傾げた。



 改めて話を終えて、集った八人の意見はほぼ固まっていた。
「思うのだが、一番の問題はアデライトの気持ちではないのか。反省した後、彼女が関係修復を望むなら誠意を示す筈だ。だが望まぬならこの喧嘩は無意味だ。私は彼女の話が聞きたい」
 全員の気持ちを代弁するようにそう告げたのは冥月。
 もちろん反対意見もなく、片付けに残る武彦以外の全員が、人形博物館へと向かう事になった。


 昼間であったが本日は休館日のため、一般客はいなかった。
 人形たちが感情的にならないようにとアデライトには同席をちょっと待ってもらうことになり、その間アデライトの相手をすることになったのはセフィアとシオン。
 二人とも、アデライトが比較的なついている者だからだ。
「アデライトさん、お近づきの印にこれをどうぞ」
 人形たちの話し合いを気にして落ちつかない様子のアデライトに、シオンがそっと差し出したのは、ポプリ入りのマスコット人形だった。
「うわあ……」
 ほんの少し。
 アデライトの表情が緩む。
「そういえば、アデライトさんがどうしたいのかって……まだ、聞いてなかったですよね?」
 セフィアはその頃合を見計らって、アデライトに問いを投げかけた。アデライトはしゅんと俯き、不安げな瞳で見上げてくる。
「悪い事、しちゃったなあって……」
 チラと視線を向けた先にあるのは玄関ホール。今人形たちが話し合いをしている場所だ。
「……今も人間はお嫌いですか?」
「うん」
 シオンの問いには即答が返って来た。
 よほど嫌な思い出があるのだろうとは推測できるが、あえてそこは聞かずに話を進める。
「それでも、お人形さんたちには……謝りたいって思ってるん、だよね?」
「うん」
 それだけ聞ければ充分だ。
 少なくとも人形たちとは仲良くする気があると言うことだから。
「みなさん。仲良しになれればいいですね」
 言って、シオンが穏やかに優しく笑う。
「一生懸命にやれば、きっとわかってくれますよ。アデライトさんの気持ち、きっと伝わります」
「いっぱい酷いことしちゃったのに?」
 なかなか笑顔の戻らないアデライトを見、セフィアとシオンは顔を見合わせた。
 下手な事を言えばかえって落ちこませてしまうし。
「そうだ。セフィアさん、館にも協力してもらいませんか?」
 一番人形たちの傍にいて、人形たちをよく知っている者なら、良い言葉をくれるかもしれない。
 シオンの提案にセフィアはこくりと頷いて、招魂の能力を発動させる。
「あの……館さんは、どう思ってる……?」
 さすがに都合の良い言葉だけが欲しいとは言えなくて――嘘をついたってあとでアデライトが余計に傷つくだけだから――問いかけた言葉に、館はふわりと暖かな気配を向ける。
「……大丈夫。あの子たちは仲間もそうでないものも、等しく大事にする子だ。君が、寂しかっただけだって、きっとわかってくれるよ……」
 ふにゃんっとアデライトの顔が崩れて涙が零れた。
「うん。あのね、仲間に会えたと思ったの。嬉しかったの。でも……」
 大嫌いな人間と仲良くしている仲間たちに感じたのは憎しみだったのか、羨望だったのか。
「館もああ言っていることですし。私もアデライトさんに味方しますから」
「うん」
 セフィアは、何度も頷くアデライトをそっと抱き寄せてその頭を撫でた。
 ちょうど、そのすぐあとだった。冥月が、向こうが落ちついたから来て欲しいと告げに来たのは。
 立ち上がった瞬間。セフィアはとある事実を思い出してあっと小さく声を漏らした。
「……私……お人形さんたちに……嫌われてたら、どうしよう……」



 ざらりと揃った人形たちと、やってきたアデライトは、しばし無言で視線を交わした。一部、睨んでいる子もいたが。
「とりあえず、しばらくはいていいですわよ」
 ツンと、明らかに不満げにそう言ったのはエレノーラ。
「私たちに危害を加えなくとも、人間に危害を加えたらすぐ追い出しますからね」
 高飛車に告げたのはグラディスである。
「だいじょうぶだよお。なかよくしよ。ね?」
 ほにゃんっと、見るほうまでも微笑ましく感じる笑顔でエリスが笑った。
 スッと。エリアルとアイリスが、アデライトの前まで進み出る。
「私たちは貴方を歓迎はしませんが追い出しもしません」
 ついと優雅な貴族の礼をして淡々と述べたアイリスは、ふと苦笑を浮かべて横のエリアルに目を向けた。
「私個人としては新しい仲間を歓迎したいのですけれど」
「あたくしはまだ怒っているのですけどね。……貴方の出方次第ですわ」
 エリアルの言葉に、全員の視線が一斉にアデライトに集中した。
「……ごめんなさい」
 ただ、一言。
 深々とお辞儀をしたアデライトは告げた。
 けれどそこに込められた言葉に嘘はなく、余計な言い訳もない潔さは好ましくも思えた。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

1593|榊船亜真知|女|999|超高位次元知的生命体…神さま!?
2778|黒・冥月|女|20|元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒
1252|海原みなも|女|13|中学生
3356|シオン・レ・ハイ|男|42|びんぼーにん +α
0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2334|セフィア・アウルゲート|女|316|古本屋

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         ライター通信          
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いつもお世話になっております、日向 葵です。
今回は人形たちの喧嘩の仲裁をありがとうございました。
喧嘩の仲裁というよりは、話し合いの纏め役といった感じでしょうか。
人形たちは長く生きているわりに、精神年齢お子様なので(苦笑)

本当に、アデライトのことをたくさん気にかけてくださり、ありがとうございます。
館の台詞、実は招魂がなくてもどこかで使おうと狙っていたものでした。
けれど予定していた面子(人形+PC様方)の台詞にできる言葉じゃないし、PCさんには結局わからないままになるんだなと思っていましたので、セフィアさんやシオンさん、アデライトに聞いてもらうことができて嬉しかったです。

それでは、この辺で失礼します。
少しなりと楽しんでいただける事を祈りつつ……。
またお会いする機会がありましたら、その時はどうぞよろしくお願いします。