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花魂の禍唄 -陰-
漆黒の闇が天を、地を、支配する。
全てが深闇に包まれる中、その声の主はふるりと身体を震わせた。
誰か……この呪縛を解き放ち
あの子を救っておくれ……
「無駄、ですよ」
楽しそうに、けれど凍えて響くその声は青年のもの。
空間の一角が揺れて形を為す。
闇にも紛れる事のなき美しき漆黒の髪、その双眸。名工の手によって造られたかのような白磁の肌。その麗貌は闇夜を照らす冴えたる月を思わせる何処か冷たい印象を抱かせる。
「その『声』は誰にも届きませんよ。この結界が崩れぬ限りは」
紅の雫が青年の腕を伝い、ほとり、と地に落ちては赤い華を咲かせる。
瞬間。
地に染込んだ紅は1本の線へと姿を変えると命を得た生き物のように蠢き、地中へと姿を消した。
ひらり、と淡い光を纏った花弁が闇に舞う。
青年の目前、巨樹の姿を為した桜は黙して語ることはなく、ただ己の運命に立ち向かうように毅然と佇んでいた。
「さぁ、もう暫くの間おやすみなさい」
青年は愛でるようにそっと桜の幹へと手をのばすと得も知れぬ甘い香が周囲に広がってゆく。
艶やかに咲き狂う満開の花の下、ゆっくりと……青年の口許に妖しく微笑が刻まれてゆく様を、舞い遊ぶ櫻の花弁が花陰に隠しその姿を攫っていった。
†
「盗まれた物を取り返して欲しい?」
ええ、と草間からコーヒーカップを受け取りながら抑揚のない声で応えたのは、全身を黒の衣服で身を包んだ青年。
どうやら草間の知己らしく、口数も少なく始終表情を見せぬそんな彼の様子にも草間は慣れているようで常と変わらずに愛用の煙草の灰皿を手許へと引き寄せると既に吸い殻の山となっているその頂上へと新たに灰を落とした。
「一体何を盗まれたっていうんだ。警察に言えないような代物か?」
青年はそれまで脇に置いていた黒の風呂敷を手に取ると丁寧に広げてテーブルの上に置いた。
「取り戻して頂きたいものは二つ」
言って不破が中から取り出したのは……細く伸びる植物の枝らしきもの。
「これは……桜?」
他の木に比べ特徴のある木とはいえ一目見ただけで草花に興味を持つでもない草間がそれを言い当てたのには少し意外な気もするが、当の本人はそんな周囲の視線を気にすることもなくただ深くため息をつくように煙草の煙を吐き出していた。
「盗まれたっていうのは桜の枝だっていうのか?別に構わないじゃないか、桜の枝の一本やニ本」
「これは樹齢千年とも、それ以上ともいわれる桜のもの。その枝には霊力を宿すという謂れがあるものです。持ち去られたのはこれと同じものが二枝……それともう一つ」
黒いフレームの眼鏡の奥、漆黒の瞳が僅か陰りを帯びる。
青年は懐から一枚の写真を取り出すとテーブルの上を滑らせ草間へと差し出した。
「ピンが甘いな。それに随分画像が荒いようだが……」
夜、それも被写体が動いている所を撮影したものだろう。画像が荒いのは元々小さなサイズで撮影された画面を無理に引き延ばした所為か。全体的にひどくぼんやりとしてはいるものの、かろうじて人物の特定が出来る程には撮影されていた。
「盗まれた時、僕の他に知合いが居合わせていたんです。その時に彼が携帯電話のカメラで撮ったのが……この花泥棒の姿という訳です」
流石に表情までははっきりと見てとることは出来ない。だが、そこに写っているのは……
「お前、か?」
思わず草間が声にしてしまうのも無理はない。それ程に写真の中の青年は目前の彼に似ていた。
「いいえ。僕ではありません。家族でも親戚でも。彼は盗んだんです」
青年の落す視線の先を追うように草間もまたそれを目にする。
「僕の血と……姿を」
黒のシャツの袖口から覗く幾重にも巻かれた白い包帯が痛々しい。写真の男が枝を奪った際、斬り落とした桜の枝の先でこの青年の腕を深く抉っていった時の傷がまだ癒えないのだと言う。
「という事は、だ。つまり……盗まれた枝の他に、奴さんの化けの皮を剥がして自分の姿を取り返して欲しい、と?」
青年は静かに頷いてみせ、草間はぷかりと宙に浮かべた煙を眺めると少し困ったように頭を掻いて立ち上がった。
「あー分った、分った!その変わり報酬はいつも通り用意して貰うからなっ!誰か動ける奴はいるか?……っと、そういやこいつの紹介もまだしていなかったか」
「不破・乙夜(ふわ・いつや)といいます。」
青年はソファーから立ち上がると自らそう名乗り、深々と頭を下げた。
〜 壱 〜
開け放たれた窓から強い陽射しが部屋の中にまで容赦なく差し込んでくるのを恨めし気に眺めて、草間武彦は愛用の椅子に深く腰を落した。
「全くなんて暑さだ。しかも、だ。この陽気の中で桜が開花するってのはどういう訳だ?」
連日三〇度を越す猛暑が続くと言われている東京の季節は夏。けれどここ数日の間、その都内各所では桜の異常開花の様子が報告されている。今迄碧く茂っていた葉が一夜にして枯れ果て、翌日には花を咲かせているという現象が次々と起きている。
「まさかとは思うが……この異常現象もお前の言う『桜』の所為だ、なんていうんじゃないだろうな?」
「さぁ……ですが、可能性は否定出来ませんね」
ふと思い付いた思考をそのまま深く考えもせずに口にした草間の問いを青年は否定するでもなく、寧ろその可能性の方が強いのだと言わんばかりの言葉に、早くも話を引受けた自分の考えを改めたくなった草間だったが既に好奇心にかられ集った者達を前にしては流石に草間の一任で辞退するという訳にも行かないのだろう。天井を仰ぐ仕種で気分直しとばかりに煙草のケースに手を延ばし、後は任せたとひらりと軽く手を振ってみせた。
「これは……桜の木の枝、でしょうか」
ソファの上に座る童女の姿を模して造られた日本人形は瑠璃の色を宿した瞳を不破へと向ける。
身に纏う振袖は紅の地色に牡丹をあしらい、飾る帯は金。そのどちらもこの人形の為だけに仕立てられたのだろう。愛らしい顔をした人と変わらぬ……否、それ以上とも言える程に精巧に造られた人形、四宮灯火によく映えている。
慎重な手つきで絹布を取り払う作業を終えた不破は灯火の問いに静かに頷いて肯定すると座高と視点が人よりも低い灯火の為を思ったのか、側のクッションをいくつか重ね合わせ、その上に灯火を座らせた。
「きれい……」
その姿が陽光の下に晒されるまで固唾を飲んで見守っていた快活な少女といった印象を抱かせる女子大生、香坂丹が嘆息と共に声に出した。
春の陽光を纏った新緑のような柔らかな緑の瞳が件の桜の姿を捕らえ、きらきらと明るく輝いている。
樹皮が縦に裂けた特徴的なその枝はエドヒガンと呼ばれる桜の種類のものらしく、幾つか仄かな薄紅色の桜の花をつけていた。
「そういえば……姿を盗む前はその泥棒さんてどんな風だったのかしら?」
漆黒の髪を一つに束ねた中性的な顔立ちの美女、シュライン・エマが集った面々のそれぞれの好みに応じて用意した麦茶やジュース、コーヒーなどをテーブルの上に並べ終わりトレイを脇に席についたのを合図とするように、少し離れた場所で静観していたケーナズ・ルクセンブルクと久我直親も桜を囲み込む人の輪の中に混ざった。
「そう…ですね。不破様の姿を…盗む前の姿…覚えていませんか…?」
シュラインの独白に灯火が頷いて口にしたが不破は首を横に振っただけだった。
「身長や体格の差はなかったように記憶していますが……暗い場所ということもあって。気づけば同じ顔が僕を見下ろしていました」
「姿を盗まれた、ね。そもそも何故姿と血を奪われるような事態に陥った?」
黒いスーツ姿の長身の男はサングラスの奥の黒瞳を細め、皮肉気に口の端を上げて笑みを象る。
「奪った『モノ』の姿は見ているのか? ソレの目的が何か……お前はどう見ている?」
黒服の陰陽師は何処か楽しそうに、だが隙のない様子で青年を探るような視線を投げて不破に問う。
「そうね。私も問題はそこだと思うの。泥棒さんが『何の為に』盗んだか」
「何か…心あたりは…ございませんか…?」
「色々と謂れのあるものだと先代から聞いています。真偽の程は分かりませんが、樹齢は二千年ともそれ以上ともいわれ、一説では桜の始まりの木とも言われています。不思議な力を宿すとされて代々不破家に伝わる聖木…御神木として祀ってきたものなのです」
不破の説明に丹がこくり、と息を呑みこんだ。
「に、二千年って……それ以上って……それって……凄くないですか?」
分かってはいても思わず指折り数えて確認せずにはいられないと指を折る丹に、久我の横に座っていた白金の髪を束ねた美貌の主が応えた。
「ああ。エドヒガンと呼ばれる種の桜は総じて長命らしいとは聞いた事がある。国や県等に名木や古木として指定されているものもこの種類が多いようだが……流石にそういう事情では公式にはなっていないだろうがな」
言って、眼鏡のフレームに手を添えたケーナズはすらりと延びた足を優雅な仕草で組み替えた。長身の久我とケーナズの二人にはいささか足許のスペースが窮屈だったようだ。
「桜の木の出典も遡ろうとすればかなり昔の文献まで遡れるのよね。確か……風土期、日本書紀、万葉集……桜のルーツは更に遡るとも言われているけど……まさかその初めの、樹?」
事実ならば歴史上の大発見とも言えるけど、とシュラインが呟く声に不破はあくまでも言い伝えですけれどね、と応えた。
「それで不思議な力、とはどういう事だ? 魔よけや何かに使えるかもしれないだろう? 使えるなら借りたいと思うが……」
「この桜は穢れを断ち切り、浄化するもの、と。けれどひとたび道を誤れば穢れを呼び、災い招き寄せる力を持つものとも聞き及んでいます。霊力を秘めてはいるがそれ故に使役する者に影響されるということなのですが……」
「しかし、枝はともかく何故姿を盗む必要がある? 誰かに恨まれるような覚えでも?」
「特に恨まれるような心あたりは……」
暫し考えに耽るように顔を伏せて無言になる不破を固唾を呑んで見守る。
「多すぎて特定できないというか…」
「お前、普段一体何やってるんだ?」
思わず草間が呆れたようにツッコミを入れるのに不破は変わらず表情が乏しいながらも何処か不思議そうに首を傾げて言った。
「普通に学生をしていると思いますが?」
「……お前の言うところの「普通」はあてにならん。だいたい「普通」の学生は民俗学なんて怪し気な学部はとらないだろう」
「そんなことないですよ!」
草間の言葉に意外にも反応したのは不破ではなく丹だった。大学は違うといえども同じ民俗学という学部を専攻している丹にとって、どうやら草間の言葉は聞き捨てならないものだったらしい。
「民俗学部は歴史を調べる上で大変重要な学部なんですから!「この業界」で名を売ってる草間さんらしからぬ発言ですよ?」
丹の色素の薄いウェーブのかかった柔らかな茶の髪が肩のあたりでふわりと揺れる。
もぅ、と愛らしくも窘める丹に草間はがっくりと肩を落とした。
「いや、だから……というより、ちょっと待て。それは『どっち』の業界の話だ」
ふと。
黙していた久我が何か思いついたように顔をあげた。
「済まないが……その腕を見せてもらえないか?」
ぴくり、と不破の右腕が久我の言葉に微かに反応した。
不破は少しの間躊躇していたようだったが仕方がないといった様子で包帯をほどくと徐徐にその傷口を露にした。既に出血は止まっている。深く抉られたであろう傷は思いのほか回復も早く感じられたがただ一つ、白い雪の上に墨を落としこんだかのように受けた傷の周囲の肌が黒く染まっている。
その黒に視線を止めてその鋭い眼を細め、久我は片眉を吊り上げた。
その久我の考えを読み取ったかのように、ケーナズが不破の右腕を掴んで捕らえる。
「失礼?」
短く断るとそのまま袖口から自分の指を不破の肌の上に滑らせる。
一瞬、身体を引いた不破だったがその隙を逃すケーナズではない。
(これは……)
ふと感じた違和感に眉宇をひそめるケーナズをじ、と見つめ返してくる不破の眼差しが非難めいたものを含む。が、何処か困っているようにも見えて思わず笑みを零したくなったが敢えてそれを堪え、つい、と不破の顎を持ち上げた。
「このまま隠しきれるものでもあるまい?」
ケーナズの言葉に観念したのか不承不承頷いてみせると瞳を閉じて抵抗をなくす。
それでいいと微笑して腕を延ばし頬に指先を触れる
(やはり、な)
感触を確かめるようにそのまま顔の輪郭を辿り……首筋の辺りで動きが止まった。思った通りの結果を得たとばかりに手を離す。
「どうかしたの?」
訝し気に訪ねるシュラインの声に答えるように、ケーナズが周囲にも分かるように軽く怪我した方の不破の腕を叩いてみせる。と、そこからはこつこつ、と何か無機質な物を叩くような堅い音が返った。
次に左腕をとって同じように感触を確かめるとこちらは弾力があり音は周囲に響く事はなかった。
「義手……なんてことはないのよね?」
「首から下はまだ問題はないようだが頬も同じだ。体温は感じるが柔らかな人の肌の感触はみられない」
触診を終えたケーナズに丹がどういう意味か問う間もなく。
「え……不破、さん?」
懐から出した小柄を鞘から引き抜くとヒュ、と空を切って傷口の上から新たな傷を生む。
つ、と冷たく光る切っ先の後を追って白い肌に赤い軌跡が刻まれた。
「肌が硬化しても血液は流れる…か。感覚は?」
「あまり変わらないようですね。痛覚もあります。ただ、日に日に身体が重くなってゆくような感じがしますね」
久我の問いに顔色一つ変えずに平然と応えている不破との会話に丹はくらり、と目眩を感じながらもすぐに止血しようと傷口へ手を延ばそうとするのへ不破が柔らかに制した。
「血を少し貰うぞ」
黒のスーツの懐から取り出した一枚の紙をそのまま不破の傷口の上にあてると血が紅の筋となって文字を象って染みてゆく。
「急々如律令」
刀印を切ると紙は命を得たかのように空へ舞い上がると同時、蒼い焔に包まれて宙に消えるのを見届けて久我は卓上に落ちた包帯を手に取ると何か面白いものを見つけたように楽し気な笑みを浮かべた。
「血を媒体に後を追うよう式神を飛ばした。いずれにせよ肌の硬化は呪いの類だろう。傷口の辺りから障気を感じる。黒い…蛇のような気が傷口の周辺を這いまわっている感じだがそれが徐々に身体に広がっていくような感じだな。無理に引き剥がす事も出来なくはないが、得策ではないだろう」
「蛇って確か呪いとかによく使用されたりするんですよね。執念深い生き物で人を呪う時に使用されることもあるって聞いたことがあります」
久我から包帯を受け取った丹が不破の傷口に自らのハンカチをあてがい、その上から注意深く慎重に包帯を巻きながら顔を曇らせた。
「と、いう事はこのまま放っておくのは危険という事ね」
「ゆっくりと全身にまわってゆくという訳か、遅延性の毒のように」
シュラインとケーナズが顔をあわせるのへ灯火がぽそり、と呟いた。
「人が……まるで人形のように……?」
「そう……全身の肌が堅くなって動くのも困難になったら……人形になるのも同……じ」
ぞくり、と背筋に冷たいものを感じてシュラインはふいに襲った不安と恐怖に耐えるように自分の腕を掴んだ。
(なにか……気にかかるような気もするのだけれど)
「早く……見つけださなければ……不破様が……人形になってしまう前に」
命を宿さぬものが命在るものへと変わるのはいい。けれど人として命を宿しているものが自由を奪われ、その感情も、命も奪い去られてただの人の形を残すだけのものとなってしまうのだとしたら。
もとより人形である灯火にはよく分からない。けれどそれはとても悲しいことのように灯火には思えた。
「任せてください!」
暗く張り詰めた場の中で一際明るく響く声に顔をあげると丹が胸を張って笑ってみせた。
「私、物探し・人探しって得意なんです。色んな意味で鼻が利く私の能力は役に立つと思いますよ?桜の枝を探すんですよね?この桜の枝は普通の桜とは違う、なんていうか……独特の匂いがあるから探せると思いますよ!」
少し驚いたように眼を瞠って丹を見つめる不破に向けて丹はにこりと明るい笑顔を向けた。
「大丈夫!その泥棒さんを早く探し出して不破さんにかけられた呪いを解いちゃえばいいんですよ!」
ねっ?と周囲に意見を求める丹に灯火が頷き、ケーナズもまた微笑を浮かべて応じた。
「確かに相手を捕まえて猿真似を止めさせ、呪いも解呪できるとあれば一石二鳥。更に桜を奪回出来れば依頼も全てこなしたことになるわけか」
「そうね。丹さんの言う通りだわ」
ここで考えてばかりもいられないし、とシュラインは席を立つと笑顔を浮かべた。
「とにかく手分けして探しましょう?」
期待感に胸を膨らませた丹の返事の声が元気よく部屋に響き渡った。
〜弐〜
「大変!すっかり遅くなっちゃったわ!」
JR上野駅の改札を背にしてシュライン・エマは信号が変わるのを待つ時間も惜しんで携帯電話でメールを送り続けていた。
送信ボタンを押して返事を待つまでもなく、メール着信を告げるライトが点滅する。
忙しなくメールを開封しようとしてシュラインはその手を止め、待ち合わせの相手に手を振って応えた。
「あ、シュラインさん。こっちです!」
元気に手を振る丹に駆け寄ってシュラインは呼吸を整えた。
「ごめんなさい。ちょっと調べものに手間どっちゃって……」
「大丈夫ですよ。ね?灯火ちゃん」
丹の腕の中に納まった灯火がこくりと頷いた。
草間興信所に持ち込まれた桜と同じ匂いを追って丹と灯火が辿り着いたのは東京台東区に位置する上野恩賜公園だった。
事前調査を済ませる為に少し遅れる形で合流する事になったシュラインの顔を丹が期待と不安の混じる顔で覗き込んだ。
「それで…どうでした?」
「まだなんとも言えないけれど……多分この桜の異常開花は例の桜の枝が盗まれた件と関連している可能性は高いと思うわ。ちょっと気になって盗まれた日と桜の開花した時期を比較対比してみたの」
手渡された東京の地図には数カ所赤く描かれた桜のマークが飾られ、その横には開花を意図する日付が細かく記されている。
「時期も同じ。開花場所はあちこち点在しているけれど一番目立つのは九段下と此処、上野なのよ」
「では……盗まれた二枝がこの場所のどちらかにあると……?」
丹の腕の中から顔を覗かせた灯火が地図に落とされた紅い桜を眺め、二人の顔を見上げた。
「う〜ん。そうとも限らないんじゃないかな?用心して二カ所に分けたって線も考えられるし。逆にそっちは囮って事も……ほら、浅草とか芝のあたりも同じ時期に結構咲いてる」
丹の指さした場所はどこも桜の名所とされ、人々に親しまれている場所でもある。
「この中にあってくれるといいけど……」
シュラインはため息混じりに振り返って公園の先を見つめた。
上野恩賜公園は日本で初めて公園に指定されたうちの一つであり旧跡も多く、動物園、美術館、博物館などもあり文化の森と名を広めると共に桜の名所としても知られている場所だ。一口に公園内を探すと言っても規模の大きい公園内を確証もなく探すのは困難のように思えた。
「ところで不破さんらしき人物の目撃情報は……」
シュラインが最後まで問いかける前に丹と灯火が揃えてふるふると首を振った。
「それが……どなたも不破様らしき方は見ていないと……」
「不破さんって印象に残り易いと思うけどなぁ……あ、でも……」
ふいに。
言葉を続けようとした丹の動きが静止した。
「丹……様?」
動きを止めたまま微かに震える丹を心配したのか灯火が小首を傾げ再度名を呼んでみるが応えはない。
「上野公園前、美女一人、目印の人形を抱えた少女一人……と。OK!貴女達ね、麗華の友人って」
背後から聞こえた稟と通った女性の声にシュラインは振り向いた。
ショートボブの黒髪に縁取られた整った貌に体の線を惜しむ事なく表現したスーツを着こなした美女は視線を受けて華やかに微笑する。
「さ、さ、才神さくらさん!『あの』占い師のっ?」
歓声を上げてその名を呼んだ丹に本業はライターだけどね、と悪戯っぽくウインクする彼女はカリスマ占い師的存在として最近テレビや雑誌で騒がれている人物だ。怪奇現象と共に心霊特番をこよなく愛する丹にとって、馴染みの番組にレギュラーゲストとして出演している彼女は知りすぎる程知っている人物とも言えたが、そんな彼女が何故自分を知っているのかまでは丹にも分からなかった。
「貴女がシュラインさんね。麗華からコレを貴女に渡すように頼まれたの」
「驚いたわ。まさか才神さんを使いに寄越すだなんて」
さくらから分厚い茶封筒を受け取りシュラインは苦笑を零しながらも封を開け、中の書類に目を通した。シュラインも知り合いの数は多い方だが、麗華の顔の広さには驚かされるばかりだ。
その間に丹はしっかりとさくらのサインを得ていたが、さくらの方もまんざらでもない雰囲気で、すっかり意気投合した二人は上野公園の怪談話という話題で盛り上がっている。常より怪異に慣れている所為か灯火に対しても別段驚く様子もなく、むしろ気に入った様子ですっかり輪の中に溶け込んでいる。
「流石麗華さん!」
受け取った書類に目を通し終えて、シュラインは思わず賞賛の声をあげた。
常に新たな怪奇的事件を求め、記事にしている優秀なる月刊アトラス編集部長である彼女ならばこの事件について興味を示さない筈がないと踏んでいたのだが、この情報量は期待以上といえた。
「この様子じゃ麗華さんもこの桜の開花には感心があるみたいね」
「正確に言えば麗華の興味は桜の異常開花よりも最近九段下界隈で起こってる『吸血桜の噂』とかいう怪し気な噂にあるみたいだけど、ね」
『九段下?』
思わず声を合わせて顔を見合わせる三人にさくらは不思議そうに頷いた。
「私もその件に関しては詳しくは知らないけど確か取材の助っ人を呼んでたと思うわ。彼等なら何か掴んでいるかもしれないけど。何処かの財閥の総帥だとか、予備校の先生とか……知合い?」
脳裏にすぐにその名前を浮かべたシュラインは笑って多分、と応えた。
彼等が調査に関与しているならば互いに協力体制がとれるかもしれない。
「あ〜っ、さくらさん!こんな所にぃぃっっ!」
周囲に響き渡る男の叫び声に丹は一瞬びくりと肩を竦ませ、シュラインは耳を塞ぎ、灯火は首を傾げ……さくらは舌打ちした。
「こんな所まで走って追ってくるとは敵もしぶといわねっ。それじゃ私はこれでっ!」
ひらりと身を翻して軽快に駆け出すさくらを半ば呆然と見送ると、その数メートル後をスーツ姿の男が情けない声をあげながらも必死にさくらの後を追っていく姿が見えた。
「さっ、さくらさ……アトラスの仕事ばっかりしてないで……ウチの締め切り……原稿……くださ……」
息をきらしながらもしっかりとさくらの後を追って男もまた雑踏の中に消えた。さくらの行動の裏にはどうやら原稿締切催促を逃れるという意図もあったらしい。
「編集さんって……どこも大変なのねぇ……」
しみじみと慌ただしい訪問者を見送ってシュラインは手にした書類を封筒に戻した。
「それにしても……これといって九段下の噂の事件と、不破さんの話の共通性は見当たらないように思えるけど…2つの事件にはなにか関連性があるのかしら?」
確信はない。だがシュラインの直感がそうだと告げている。
敢えて言うならばライターとしての勘、そして草間の許で共に数々の事件を解決してきた者としての勘……とでもいうのだろうか。
「あの……先ほど丹様は何か言いかけていたように思いましたが……伺っても……宜しいでしょうか?」
灯火の言葉に思い出したように丹がぽん、と手を叩く。
「あ、そうだ!泥棒さんの目撃証言はとれなかったけど、手がかりはちゃんと見つけましたよ!」
言って丹はそっと瞳を閉じて胸に手を当てる。
「淡く、優しい香り。気高くて……毅然としているの。どこまでも澄んで……」
街に溢れる様々な匂いの中から微かに鼻孔の奥に残るあの桜と同じ優しい、甘やかな香りを捕らえてその微かな残滓を辿る。
(見つけた)
一つはシュラインのバッグの中から、そしてもう一つは上野公園の奥の方から。
丹は捕らえた香りを逃してしまわないように、その気配を殺してしまわないように掌にそっと引き寄せる仕草でふわりと笑んだ。
そのまま意識を香りに同調させ、広げてゆく。
…誰か
ふと丹の耳に女性の声が届いた。
丹にはその声が誰の声なのか問わずとも解っている。
誰か……
目に捕らえることは出来なくとも肌で感じる香りと同じに
声が響くごとに周囲に甘く上品で柔らかな、至高の香りを漂わす
この呪縛を解き放ち
あの子を救っておくれ……
「でも……哀しんでる」
香りが伝えるのは哀しみに震える魂の声。
「お願い。もう一度私に教えて。貴女のいる場所を……私達が必ず貴女を見つけだすから。貴女を助け出すから……」
ふわり、と風が丹達を慈しむように包んで、吹き抜けた。
公園の外から中へと。
ぱちり、と大きな緑の眼を開いて丹は意を決したように声にした。
「盗まれた枝は……この公園の奥の方にあると思います。場所まではっきりとはしないけど……でもこの中に在るのを、感じるんです」
シュラインはバッグからそっと白い包みを取り出して丹に手渡した。
先程丹が感じた匂い。草間興信所に持ち込まれた桜の枝の匂いをはっきりと包みの中から感じる。
「さっきより香りが強くなっているわ。本来桜の花はそこまで香らないものでしょう?」
「……呼び合って……いるのでしょうか」
灯火の問いにだが丹が首を振った。
「助けを求めているんだわ」
丹の声にシュラインは大丈夫、と微笑した。
「必ず見つかるわ。桜の枝も、泥棒さんも。その為にも私達が頑張らないと、ね」
はい、と応える丹と灯火の声が重なり、シュラインは柔らかに微笑した。
でも、その前に……とシュラインはバッグの中から携帯電話を取り出し、記録された番号に電話をかけた。
「え?もう着いているの?それなら詳しい事は中で。ええ、ちょっと気になる事があるの」
どうやら電話の相手は久我のようだ。既にケーナズと共に公園内の調査に入っているらしい。
ばさり、と鳥が木陰から羽ばたく音を耳にして、シュラインは通話ボタンを切りつつそっと微笑した。
「これでいいわ。それじゃあ……行きましょうか」
「シュライン様……あの、お電話のようですが……久我様からでしょうか?」
シュラインの携帯電話のメロディーはだが久我ではなく、公衆電話からの着信を告げていた。
「あら……噂をすれば。いいえ、こっちの話」
電話の向こう、先程話題になったシュラインの知人であるというアトラス編集部の協力者の一人へと向けてシュラインはくすり、と悪戯っぽく笑った。
「実は……私もその件でお願いしたい事があって……」
電話の相手、セレステイ・カーニンガムの返事を受けて、シュラインは笑顔を浮かべた。
†
ふわり、と雪のように軽やかに舞う桜の花弁をその白き手に掬い取って灯火は頭上の桜のアーチを見上げた。
「多分、あっちの方だとは思うんですけど……ごめんなさい。周りの匂いがきつすぎてこれ以上の特定が難しくて」
よく見れば丹の眦には涙が滲んでいる。
その敏感な嗅覚に今も無理を言わせて周囲を探らせているせいなのだろう。
「この方向だと……清水観音堂……それとも花園神社かしら……?」
「不忍池も……この道の向こうの筈……かと思いますが……」
シュラインと灯火が顔を曇らせた。
「この霧では、ね……」
公園の中央の辺りまで来たところで、濃霧に閉ざされ道を失ってしまった上に、頼りの丹の嗅覚が限界に達してしまったのだ。
耳を澄まし、音や声を拾おうにも、周囲は奇妙な静けさに包まれ、人の気配を感じる事もない。
何かの力が働いているのだと、シュラインだけでなく灯火や丹も周囲の異常を感じ取っていた
「桜の香りがきつい、とかじゃなくて。匂いは物や人の特徴だけでなく記憶や感情も含むから……私の場合はそういった匂いから色々と情報を得ていくんだけど……」
不破の血の匂いを辿ればあるいはもっと早くに見つけられたかもしれない……が、彼の持つ感情の匂いが丹の負担となってしまう事を危惧したのかその方法はとらぬようにと不破に頼まれたのだ。
「今回は特にすごい力で何かにひっぱられてる感じ。意識をしっかり保ってないとどうなるか……って感じなんですよね。異常なほどの甘い香り。危険で、心地よくて…匂いに酔っちゃいそうな……でもなにかその中に混じってるみたいな気がして……」
「何か……ですか?」
うーん、と唸って丹は首を捻る。
「花とは対象的な……そう、『異質』な匂いっていうのかなぁ?」
「異質……とは、可笑しいことを云うのですね」
灯火の声ではない。
りん、と軽やかな鈴の音が静まりかえった公園内に響いた。
「鈴の音?」
だがシュラインの耳はつい先程まで何の音も捕らえる事が来なかった筈だ。
見れば愛らしい着物姿の童女が一人。
裾と袖には淡い桜が描かれ、銀の帯の上に巻かれた帯紐の先に結ばれた鈴の音がちりん、と鳴った。
霧の中より現れたそれは灯火と同じように木を削り、人形の身体に生命を得た者。
「まさか、この子が泥棒さん?……の訳ないし……でも、何か……知っているかしら?もし知っていたら教えて欲しいのだけれど」
「貴女がたは……この桜達をどのように思います?」
鈴を転がすような愛らしい声には感情というものが見られない。
「勿論綺麗だと思うわ。でも…何かこう……あまりにも綺麗すぎて……怖い、のかな」
「生命あるものの強さと儚さを感じます。まるで…体の内にある生命力を、全て振り絞って……咲いているかのよう……です」
「そう。この都に恙なく花を咲かせる事こそあれら『桜女』たる者達の努め。『桜女』は結びの花。天より神を降し、その身に宿らせ地へ注ぐ。また地を走る力に根を降ろし、力の均衡計りて吸収し、花を咲かせる」
詠うように、少女は言葉を紡いだ。
「つまり……神の宿る御神木のようなものととっていいのかしら?」
「けれど使いようによっては……あのような者を生む事も出来る」
おおぉぉぉぉ……
咆哮を上げて姿を現した異形の影に、思わず息を飲んだ。
巨大な体躯、鋭い眼光を放つ琥珀の瞳。裂けた口から覗く牙。
何よりもその頭部から突き出しているものは紛れもなく鬼を象徴する角と呼ばれるもの。
「お行き」
少女人形の命ずる声に、鬼は唸り声をあげたが逆らうことはせずに霧の中へと駆けだし……姿を消した。
「彼も、私も……そしてあれも同じもの。感情を持たず、執着も、得るものもなく……時の輪から外れた人ならざる私たちは共に偽りの命をこの身に宿している、いわばこの世には存在しない者」
「ちょっ、ちょっと待ってよっ!そ、そりゃ……人じゃないのは確かかもしれないけど、ちゃんと『生きてる』じゃない。ちゃんと、そこにいるじゃない」
思わず身を乗り出して丹はきっぱりと告げた。
「少なくとも!人形だって人間だって、関係なく仲良くやっていけるんだから!存在しないなんて、そんなこと……」
俯いた丹の顔は影になって見えない。
「丹様……」
「そんな哀しいこと、言わないでよ……」
「人の子よ。貴女はおかしなことを言う」
丹は見上げる灯火の手をとり、繋いだ手に力を込めた。
「おかしくなんてない。姿形を失ってもその人の持つ悲しみや、想いは色んな匂いで、形で、ちゃんと残ってる。人でないものが意志を、感情を持つことだってある。否定する人がいても私は否定しない。私が……ちゃんと知ってるもん」
何よりも自身が存在を否定している事が哀しくて。
丹の声は声が震えて言葉を飲み込んだ。
うまく、自分の思う通りに言葉がでないことが、伝えられないことがもどかしかった。
目前の少女人形の為にも、傍らの小さな自分の友人の為にも。
「私は……貴女のおっしゃること、少しわかるような気がします。貴女は、きっと『自分』というものに執着がないのでしょう?私もそうでした。それまでは意志を持たぬ只の人形。この世に存在してはいるけれど、命を持たず、存在していないも同じこと。けれどその私にあの方は………名を、そして命を与えてくださいました」
灯火の言葉に少女人形はじ、とその黒瞳を向けて動かない。
「先程執着はないと……仰っておりましたけれど……一つだけある筈です。私達人形にとって主こそが自分にとっての全て。全てはその方の為か、それに繋がる行動なのではありませんか?貴女も私と同じ。なによりも、誰よりも。主を想い、強く求めているのですね」
それでも、と灯火は静かに続ける。
「私は此処に在ります。丹様のおっしゃって下さったように、命を宿して。主を想う心と共に……」
りん、と鈴の音が響いた。
「……ここを去りなさい。「鍵」は此処にはないのだから…」
「鍵?どういうこと?……もしかしてそれが私たちの探している「枝」のことなの?」
ざざ……っ!
風に桜の花が舞い、視界を覆う。
「去りなさい。我らの……あの方の邪魔を…しないで。我らは願い叶えし者。人の望みを叶え、導く…それこそが我らが望み、我らが願い、我らが運命。すべては…あの方の為、我が主さまの望みのままに……」
人形の姿も、霧も……花嵐の中に飲み込まれて……消えた。
「あの、鬼さん……」
顔をあげた丹がぽつり、と呟いた。
鬼の去る一瞬、丹が嗅いだ匂いは闇に染められてはいたが、それでも拭いきれない『何かを想う心』が残されていた。
「あの鬼さんから……人の、匂いがした……?」
〜 参 〜
『どうして……俺は』
目を閉じれば 笑っている少女がそこにいる
はにかむようにして笑う彼女は頬を染めて
優しく笑っている いつも変わらずに
『どうして……彼女は』
(それは貴方がよくご存じの筈でしょう?)
脳裏に響く声が嗤う。
「傷つけたくないのに……傷つける事しか、出来なくて」
可哀想に、とまた声が嗤った。
「だから、嘘をついたんだ」
(そう。とても優しくて……残酷な嘘を)
『どうして……』
頭を抱え込み、その場に蹲ると、その頭を上げた。
「俺は……殺したんだ」
言って力無く木の根本に跪く。
許しを請うように。救いを求めるように。
「そう。だから……これでいつでも……いつまでも、貴方と共にいられるでしょう?」
雲間に身を隠した月が姿を晒したかのように。
闇の中から悠然と姿を現した彼は艶やかな微笑を浮かべ、促すように視線の先をその桜の木の上へ向ける。
頭上で何か軋むような音がした。
ゆらり、と闇の中で蠢く影がある。
暫くの間前後左右に揺れていた影はやがてぴたりと動かなくなった。
黒と白の固まりが宙に浮かんでいる。
喪服を着た人形が桜の木の枝に縄で繋がれていた。
もっとよく確かめようとして延ばした手が服に触れ……喪服と思われていた服が黒の制服だったという事に気付くと同時、透けるような白い肌の人形が何であるのかを悟る。
「あ…あ……」
掠れた声と共に熱いものが頬を伝った。
「あああぁぁぁ……ッッ!!!!」
悲痛なまでの叫びは慟哭
けれど尽きぬ哀しみは怒りと強い負の力に支配され、怨嗟へと変貌を遂げる。
慟哭の声は咆哮と化して公園に木霊した。
†
「来る、か」
低く呟いて久我は顔を上げた。
「あれは……鬼、か?」
木陰から現れた黒い影を視界に捕らえ、ケーナズが尋ねた。
頭部から突き出す二つの突起は角。巨大な体躯は赤みを帯びて、口からは鋭く延びた牙が覗いている。
「前菜が物足りなかった所だ。メインとするには……まぁ、妥当な所か」
臆することどころか、むしろ何処か楽しそうに笑む久我に、ケーナズは肩を竦めてみせる。
「私はこの後にまだメインを控えているのだが?」
言って、ああ、と久我の考えに思い至ったというように笑んでみせる。
「成る程。デザート(楽しみ)は最後にとっておく……確かにそれも悪くはないな」
「メインが美味いかどうか、まだ知れたものではないからな」
ヴォォォ……ッッ!!!
咆哮をあげて鬼が突進し、腕を振り上げた。
が、振り下ろされるよりも早く久我とケーナズは左右へと跳躍し直撃を回避する。
ドン……ッッ!
衝撃ともに地が割れ、粉塵が風圧に飛んだ。
「折角の豪腕も当たらなければ意味を為さない」
ケーナズは優雅な手つきで眼鏡を外した。曇りのない、青く澄んだブルートパーズを思わせる瞳が秘められた能力と共に露わになる。
「力任せの攻撃とは捻りもないな。もう少し楽しませてくれるとは思ったんだが」
言って久我は懐の符に手を伸ばし、勢いよく鬼へと向けて放つ。
符が鬼の腕を絡め取り枷と化し、目に見えぬ力が衝撃となって鬼を地へと叩きつけた。
鬼は怒り狂ったように暴れ、起きあがろうとするが何かの力に阻まれ、抑えつけられるように体を動かす事が出来ない。
己の能力を抑え、調整するための道具である筈の眼鏡を外したケーナズのPK波が鬼の巨躯を吹き飛ばし、今は直親の唱える不動金縛の術に合わせるように、念動力をもって鬼の動きを封じている。
「人……いや、人であったもの、と言うべきか。心の隙をつかれ妖しの者と化す人は存外多い。執念は鬼にも蛇にもなるが。これは……」
言いかけた言葉を飲み込んで、直親はゆっくりと……だが隙のない動きで振り向いた。
花を召しませ 召しませ花を
「歌が……?」
響く少女の歌声にケーナズは眉宇をひそめ……そして鬼の異変を見た。
アァァァ……!!!!
ぎらり、と目を爛々と光らせた鬼は形相を変え、寄声を上げて直親達に向かって走り出した。
†
花を咲かせよ 咲かせよ華を
「唄が聞こえるわ」
顔を上げ、耳を澄ますシュラインに倣うように、丹と灯火も同じように耳を澄ましてみるが歌声どころか、音一つ耳にする事は出来なかった。
「確かにこの向こうから……あの子の声だわ」
その先には不忍池が広がっている。
降りしきる桜の雨を水面に広がる蓮の花々と大きな葉が優しく受け止め、抱いてゆく。
少女人形の声は確かにその先から聞こえてくるというのに、それらしき姿は見つからない。
ふと、シュラインは延ばした片方の手の先に違和感を覚えてもう片方の手もまた同じように前に延ばした。
ぴたり、とその手が宙で止まる。玻璃の壁に触れた時のような感触を受けた。
シュライン達を拒絶する見えない壁が周囲に張り巡らされている。
「結界……?」
「私は……声は聞こえなかったけど。でもあの桜の枝と同じ匂いが……この向こうから」
シュラインと丹が顔を見合わせ頷いたその時。
「ようこそ。きっと来て下さると思っていました」
青年の声にふるり、と桜が身を震わせて花を散らせた。
その花片を愛でるように掬い上げた白い指が花影から現れ……黒衣の青年が白月を背に姿を現した。
「不破……さん?」
シュラインに名を呼ばれた青年は冴えたる月の如くに玲瓏たる美貌に穏やかな微笑を浮かべる。
「違う……」
丹が小さく呟くような声で否定する。草間興信所を訪れた青年はこんな表情をする人ではなかった筈だ。不破という青年は浮かべる表情こそ少ないがその瞳には静かな優しさを宿らせていた。
けれど、と丹は思う。
目前の青年は見た目は確かに不破青年の姿そのものに見える。とはいえ、その優しく象った闇色の瞳の奥には冷酷さと残忍な光を揺らし、隠しているのが解るのだ。
「驚いたわ。本当に不破さんにそっくりさんなのね。貴方が噂の泥棒さんね?」
シュラインは平静さを保ったままに問う。が、青年の纏う何処か得体の知れない気配を感じているのだろう。額にじわりと汗が滲むのを感じた。
「教えて下さいませ。何故……不破様の姿を必要としているのですか……?貴方の元の姿は……」
「後の質問については……そうですね。貴女なら、解るのではないですか?」
それ以上青年は語ろうとはせず、ただ静かに灯火を見つめている。
彼が何者であるのか。灯火にとって今の青年の答えが全てだった。
「貴方も……傀儡なのですね……?」
だが青年は灯火の問いには答えずに笑みを返しただけだった。
「さぁ、その手にしている桜の枝を渡して頂きましょうか?その為に『彼女』の香りを残して此処へ招いたのですから」
青年は右腕を虚空へと向け差し伸べる。
「安心して下さい。桜を傷つけるような真似はしません。丁重に扱う事をお約束します。ですから……」
その掌に生みだしたのは……蒼き焔。
「どうか、安らかなる永久の眠りを」
「危ない……っ!!」
反射的にシュラインが灯火と丹の腕を引き、青年に背を向け庇う形で二人を胸に強く抱きしめた。
ドォ……ン……!!!
爆発音に似た音が闇に轟き、叫声をあげるように桜の花が散った。
〜 肆 〜
「シュラインさん!」
丹と灯火を抱いたままの姿勢で微動だにしないシュラインの名を叫ぶように丹が何度となく呼ぶ。
「大丈夫よ。なんともないみたい」
傷一つない様子のシュラインにほっと安堵の息をついて丹はぺたり、とその場に力無く座り込んだ。
「良かったぁ。でも……どうして……?」
「焔が……私達を守って下さいましたから……」
灯火の言葉に、初めて自分達が蒼い焔に包まれている事に気付く。
目前の青年の焔よりもより蒼く。シュライン達を守護するように優しく包み込む焔は不思議と熱を持たず、青年の放った焔を一瞬のうちに掻き消し、陽炎のように揺れている。
「焔……青い、焔だわ。でも、不思議と熱くない」
焔の正体を突き止めようとして……視線が止まる。
地に放り出されたシュラインのバッグから転がり出た小さな瓶の内側から焔が溢れ、シュライン達を包み込んでいる。
その中身は……
「不破さんの……血?」
久我とーナズが不破の血を分けて貰ったように、シュラインもまた同じように血を小瓶に入れて持ち歩いていたのだ。
「持ち去られた枝にも同じようにさんの破の血が付着してんじゃないかと思って。結界が施されているなら内と外で同質の物があれば解き易かったりするのかとも思って持ってきていたのだけれど……」
「そしてそれは実証されたという訳だ」
気付けば長身の男が二人、シュライン達と青年の間に入るようにして立っていた。
「ケーナズさん、久我さん!」
「ご無事だったのですね」
ど、と鈍い音をたて、青年の前で鬼が倒れると同時、焔は一瞬にして血と共に虚空へとかき消えた。
「結界の壁に鬼を叩きつけた衝撃で歪みを生み……彼の血をもって結界を破り、焔を呼んだ、と?」
随分荒っぽい手を使ってくれますね、と嘲笑も露わに青年は口許を歪め、鬼に歩み寄ろうとしてその動きを止めた。
花を召しませ 召しませ花を
「さっきの……唄?」
シュラインが耳を澄ました。
生命の喜びに満ちた清浄なる歌声ではない。
音と言葉で絡みとり、獲物を縛りつけるための呪歌だ。
ウオォォォ……
苦し気に呻いて鬼が叫んだ。
悪意と怨嗟の感情が黒い霧を生み出し渦を巻き、青年を包み込む。
めきり。
骨の軋む音が響き、鬼の背が、腕が、体全体が波打ち、変貌を遂げようとしていた。
貴方にひとつ 私にひとつ
胸に咲かせよ 徒花の
咲き狂い 舞い遊び
とこしえに
「不味いな。先程と同じ、か?」
「シュライン、四宮、香坂。少し離れていろ。注意をこちらに引きつける」
構わないな?と久我がケーナズに問えば、ケーナズも同じ考えだった様子で頷いて返した。
「それじゃあ私達は桜の枝を探してみるわ。必ずこの近くにある筈よ」
花は散るらん 花嵐
花嫁御霊の 胸元に
きれいに 花が咲いたなら
「あの唄が、彼を縛っているのかしら」
それならば、とシュラインが辺りを見回して……傍らの丹の様子に気付く。
「丹さん?」
「私……何も出来ない」
顔を伏せた丹は絞り出すような声でそう零した。
「さっきだって……せめて自分の身くらい守れたら、いいのに」
足手まといにならないように。
大切な人達を守れるように。
丹はきゅ、と服の裾を掴んだ。
「そんなことないわ。現に此処まで辿り着けたのは他でもない丹さんのおかげだし。私達に戦う為の特別な力はないかもしれないけれど、出来ることはなにかある筈よ?それでも見つからない時は……探せばいいわ。何でもいい。今の自分に出来ることを探してみるの」
「今の、私に出来ること……」
にっこりと笑ってシュラインは青い瞳を閉じて耳を澄ます。
ぽたり、と水音が微かに響くのをシュラインは聞いた。
目の前には不忍池一面に広がる蓮の花。
その葉に止めた夜露が池へと飛び込む音は聴覚の優れるシュラインのみが捕らえる事の出来る音だ。
「あれがいいかもしれないわね」
(歌があの鬼を狂わせているのなら……その歌の波長を狂わせる事が出来れば……)
シュラインは深く息を吸い込むと、耳に届く水音の自然のリズムに乗せて高く、澄んだ声で歌い始めた。
シュラインの歌声が波紋となって周囲に広がってゆく。
安らかなる眠りに誘う為の鎮魂歌が。
花を捧げよ 捧げ……よ 花……を と……し………えに……
ふつりと歌声が途切れ……シュラインの歌声のみが周囲に残されて響き渡る。
「ドウシテ……」
鬼から出された声は少年のものだった。
シュラインの歌声によって呪歌の束縛を逃れた鬼は少年としての自我の意識に目覚めたのだろう。
既に戦意は喪失しているらしく、顔を上げ、月明かりに晒された鬼の顔は醜く歪み……その琥珀の瞳からは涙を流していた。
「酷イ、事ヲしたンだ」
桜の花の降りしきる午後。
肩を震わせ、高鳴る胸の鼓動に戸惑いを隠せずに、それでもありったけの勇気を振り絞って想いを言葉で伝えようと必死だった少女。
「俺ノ所為だ。俺が……嘘ヲついて傷つけタ」
恋の告白は嬉しくも残酷なものだった。
「好き、だったんダ」
好きな相手……それも何よりも大事に思う、幸せになって欲しい相手からの告白。それ故に少年は彼女との別離を決意しなければならなかった。
「酷く傷ツケル……解っていた。ソレデモ彼女にハ幸せになって欲シカッタから……彼女の告白ヲ否定した。お前ノことナンか……好きじゃない…っテ」
頭を抱えた鬼は震えていた。
「ソノ翌日……彼女……自殺シタ……桜の樹の下」」
「ちょっと待って。その話に似た話が確か調べた事件の中にあったわ。女子高生が失恋を苦にして桜の樹に首を吊って自殺したって。場所は……九段下。その少し後、上野公園でも男子生徒が自殺した事件があったわ。状況も似ていたから気にはなってたんだけど……確か名前は……鬼塚、そうよ。鬼塚月矢君。そして……もう一人は……朝霧静香さんね?」
「シ……ズカ……」
鬼は少女の名前を何度も繰り返して声に出した。
「私も似た話聞きましたよっ!ねっ、灯火ちゃん!」
「……はい。確か……此処では自殺された高校生の霊が……亡くなった恋人を思って夜泣く声がすると……そのようなお話を、先程才神様が」
「同じように首を吊って、か。そうか……お前だったんだな」
ケーナズが見た映像。桜の樹の下で首を括った少年というのが目前の少年というのなら、あれも過去視の一種だったのだろうかと思い至る。
「俺ガ、殺シタ……俺ガ……」
「何を……言うの?だって……貴方が殺したんじゃないわ!」
だが丹の声は鬼に届かない。
「言っても無駄だ」
久我の声に、丹は首を振った。
「だって放っておけない……あんなに……辛そうなのにっ!」
……テクレ……オレヲ……
鬼は涙に濡れながら懇願するように言った。
それは救いを求める言葉ではなく、終わらせる為の言葉。
『オレヲ……殺シテクレ……ッッ!!!』
「貴方の願い、叶えましょう」
応えたのは青年。
その腕を高く掲げ……そのまま鬼の心臓の位置をめがけ、勢いよく振り下ろす。
「貴方の、僕の願いを。そして己が役目を知り、果たすといい」
丹の制止の声が悲鳴へと変わる。
ずぶり、と鈍い音がした。
ゆっくりと……紅の鮮血に染まった右腕を鬼の身体から引き抜くと同時、赤い雨が降る。
シュラインと丹の二人は顔を背けずにはおれず、灯火は哀し気な瞳でじっと地に転がったものを見つめ、久我とケーナズは不快気に眉を潜めて目前の青年を見た。
鬼の心臓らしきものを掴み取り、その鮮血の雨を身に注いで青年は妖しくも艶やかな微笑を浮かべ佇んでいた。
足許の鬼の骸は形を止める事も許されずに音もなく地へと崩れる。
おおぉぉぉ………ぅぅぅ……
その声は哀しみに溢れ、楽になる事も、魂の解放さえ許されずに消滅へと導かれた者の絶望の断末魔でもあった。
「そろそろ答えて貰おうか。お前の目的が一体何なのか。生憎いつまでも茶番に付き合ってやれる程暇でもないんでな」
「答えなら……すぐに出ますよ……ほら……」
冷ややかな久我の声に笑みを崩さぬまま応えた青年の姿が……変貌を遂げてゆく。
肩のあたりで纏めていた余りの髪は足許に届く迄になり、指先の爪が鋭さを帯びて伸びると同時、頭部から現れた左右の角は、紛れもなく彼が鬼と変じたものである事を示していた。
白く透ける肌は生気を宿したように暖かな色となって、仄かに体の周囲に青い焔のような揺らめく光を纏っている。
「そんな……どうして……」
掠れる声の丹に、久我はやはりな、と口中で呟いた。
「確か香坂は民俗学を専攻していると言ったな……それならば気付くか」
「えっ?」
言われても丹にはそれが何を意味するか見当もつかない。
そんな丹の心中を読むかのように、久我が何処か楽しそうな様子で言った。
「ヒントを出してやるか。一つ、恨みを強く抱いた霊の祟りを怖れ、それを鎮める為に神として祀るというケースがある。二つ。動物をある手法で神とする手段がある」
「あ!知ってます。はじめのは御霊、のことですよね。平将門公のような、とても強い怨念はなかなか鎮める術がなくて神として祀ってようやく鎮める事が出来るって。それで……次が狗神。きちんと祀ってあげればその家の為に尽くしてくれるけれども、神といっても動物の神様だから位は低くて…だから主人が少しでも嫌った事の人とかの事を思ったりすると命令とは関係なくすぐに荒しに行ったり…また代々家に憑くとされているから近所の人や周りからは厭われるんだって聞きました」
「いわゆる憑き物筋というやつだ。狗に限らずイタチや狐というのもあるが、今問題なのはそこじゃない。この二つの共通点がなんだか分かるか?」
「どちらも本来もともといた神さまじゃなく……人によって祀られて神様になったところ?」
返った丹の答えに久我がそんなところだ、と小さく笑った。
「それともう一つ。昔から伝わる呪法に蟲毒というのがある」
「数匹もの虫を壺に入れて、生き残った最後の一匹を使うというアレか」
先程の蛇の群を思い出してケーナズは口にすると久我の言おうとしている意味に気付いたのかその整った眉を微かに寄せた。
「鬼の系譜、か」
不破の口にした言葉をそのまま繰り返したケーナズに久我が頷いてみせる。
「どういういきさつか知らんが人にして、鬼の血を受け継いだ一族というのがある。そんな連中を使って蟲毒の応用ともいえる手を思いついたんだろう。より強い鬼を作る事でも夢見て……」
「じゃあ……不破さん、も? 彼の血と姿を盗んだのは私達に此処へ枝を運ばせる為の餌ではなく、やはり彼自身の血が必要だったのね」
「それなら……どうして……直接不破様を狙わなかったのでしょうか?」
「自らの手で都合よく操作出来る自分達に都合の良い神でも作りたかったんだろう?手間を惜しんで懐柔し易い傀儡に姿と血を与えたという訳だ。確かにオリジナルよりも従順そうだしな」
肩を竦めた久我にケーナズは軽く溜息を零した。
「神を造る、か。しかしそれが狗でも狐でもなく…鬼の神とはまた大きく出たものだな」
「でも……それにしては……随分と……偶然が重なりすぎているという気が……あちらの方に都合の良いように事が運んでいるのでは……ありませんか?」
利用しようとした鬼の末裔かも知れないという少年が『たまたま』『自殺していた』……それはもはや偶然とはいえない。
「おそらく……彼の死そのものが贄とされたもの。全てははじめから仕組まれていた事だったのでは?前に自殺した女学生さんというのも……」
青年の楽し気な笑い声が灯火の言葉を遮る。
「仕組んだ、とは聞こえが悪いですね。僕達は彼等の背を押して彼等の望むままに力をお貸しただけですよ?」
「少女に告白する勇気を与えた、とでも善人振る気か? 自分の素性を知った少年が彼女の好意を、ましてや自分も好意を抱いている相手だ。受け入れる事など出来る筈がない事も無論承知の上で唆したんだろう」
成長時期にある思春期を迎える彼等にとって……特に恋愛感情に対し、精神的に繊細で不安定な時期でもある。傷つき、哀しみの中で自分を失っている彼等を闇に誘導する事は容易い事だと想像もつく。
「好きな人を振り向かせたいという彼女の願いは未練という執着を。苦しみの中に魂ごと消滅する選択をした彼の願いは悔恨と苦痛、そして事実を告げた僕への憎悪を。どちらもあの桜の枝の良き苗床として必要なもの。恨みと憎しみにという穢れに満ちた、さぞ見事な桜女が誕生するでしょう」
「結びの……花。天より神を降しその身に宿らせ地へ注ぐ……」
少女人形の言葉の意味を捕らえたシュラインが声にした。
「確かにそう言えるかもしれないわ。桜の名前の由来は色々言われているけれど、その中には神を降ろす座(クラ)、つまり台座を示す言葉からきているとされる説があるの。桜はその年の稲の収穫の凶兆を占うものともされ、稲の精霊を下ろす神の依代として昔から神聖視されていることもあるわ」
そうよ、と低く呟いてシュラインはその事実の意味を解き明かす。
「花を咲かせる事によって結界を為すためのものとばかり思っていたけど……もしかしたら神と依代を『結ぶ』為の呪術的な道具という意味を示すのではないかしら?」
「それも鬼を先祖にしていたかもしれん血を媒体に呼ぶくらいの『神』とやらだ」
「ひとたび道を謝れば穢れを呼び、災い招き寄せる力をもつ。つまりそれが奴の目的か」
鬼は肯定するように宛然と笑んでみせた。
「少女の嘆きが他の血を呼び桜の糧とする、そして今、僕の中に取り込まれた彼の哀しみと憎悪に満ちた血を糧として。此処にいる桜達を呼び覚ますんですよ。穢れの力を生命とし、その身に招き入れて生まれ変わるんです」
僕と同じように、と鬼は冷ややかな声を紡いだ。
「抗ってみますか?」
穏やかな口調の裏に潜む冷たく凍る殺気をそこにいる誰もが感じ取っていた。
「それも悪くないでしょう。僕を倒すというのなら、倒して下さって結構。但し……あなた方にそれが可能ならば、のお話しですが」
「随分自信があるのね。と、いう事は当然……裏に何かある、という事なのでしょうね」
ふぅ、と溜息をつくシュラインにケーナズもまた吐息を零す。
「大方我々の依頼主に関係している事なのだろう。攻撃するとそのダメージがそのまま乙夜の方に行く、とかな」
「小物がよく使う常套手段……といったところか」
久我が溜息混じりに苦笑を浮かべた。
「そんなの卑怯よっ!ちょっと貴方、そんな姑息な方法とるなんて恥ずかしくないのっ?」
きつく唇を噛んでいた丹が抱いていた怒りをそのまま声に出した。
「確かに貴方がたに対して多少陳腐な策だとは思いますが、同時に有効な手だとも思っていますからね。どちらにせよ彼が死を免れる事はありません。現に今も四肢を引き裂かれるような激痛が走っている筈ですよ? そして……」
くっ、と喉をならして鬼が嗤うのを丹は見た。
「そのままゆっくりと、自我を失い苦痛の中で死の淵に捕われて眠りについていく」
「悪いがそれは阻止させて貰おう。出来れば手荒な真似は避けて穏便に済ますつもりだったが、そうもいかないらしい」
ケーナズの青の瞳に剣呑な、鋭い光が宿る。
刹那。
ケーナズの意志と感情はそのまま力と化して鬼の周囲に雷撃を走らせた。
バシリと衝撃を払い落として鬼は嗤う。
「……本気で僕を倒したいのなら残りの最後の枝を探してみる事ですね。さもないと……あちらの少女の魂さえ救えなくなりますよ?あの哀れな少年の魂のように、ね」
鬼の口許に残忍な笑みが刻まれてゆくのを見て、灯火は決心したようにシュラインに向き直った。
「あの、シュライン様? あの桜の枝を……私に触らせて頂いてもよろしいでしょうか……?私も、こういった形で試したことはありませんが……今できること、というのを試してみたいと……思います」
シュラインから桜の枝を受け取って、灯火は枝に静かに語りかける。
「樹齢千年ともなれば…いろいろな想いが…つまっているのでしょうね…」
歴史を重ね、長き時を過ごしてきた桜の樹のつける花は美しく、爛漫と咲き誇ることだろう。
(見てみたい……ものですね)
灯火は瞳を伏せ、手を触れるとその枝の中に大きな意志の力を感じ取った。
枝の宿す生命の強さとその意志を、灯火を通して形を為してゆく。
灯火の掌に収まりそうな程の小さな、白い影。
純白の腰まで届く長い髪の女性は、白銀の着物を纏い、胎児のように体を丸めて眠りについている。
手にしていた桜の枝が見る間に蕾みをつけ、花開いてゆくその様を見守りながらその美しさに灯火がそっと嘆息をついた。
柔らかな淡い色。仄かな香りを漂わせ、闇の中にあって尚清浄な光を放つその姿。
「桜の王……」
ふと抱いた感想を灯火は声にするのを己が覚醒を促す呼び声と捕らえたのか。
女の睫が震えた。
(何、してるの。私)
丹は己を奮い立たせた。
(そうよ。くよくよしてたって解決なんてしないもの!皆頑張ってる。私だって!)
自分が見守っていなくても、灯火なら大丈夫だ。と確信を得て背を向ける。
(私に出来ること……私が為すべきことは……他にある筈だから)
自分の為さねばならない事とはなんなのか。丹は既にその答えを知っている。
「そんなの、決まってるよね」
決意も新たに、丹は意を両手を合わせて胸の前で組むと目を閉じて意識を集中させた。
祈るように。
(何処にいるの?)
それは奪われた桜の枝の残した香を追ってその場所を突き止め、悪用されてしまう前に敵の手から一刻も早く枝を救い出すこと。
逸る気持ちを抑え、丹は覚えている桜の香りを追い求め……見つけた。
「あそこ!」
丹は池の向こうに埋められた桜の樹の一本を指さした。
「あの茂みの向こうの桜、右から三番目の枝!あの枝になってる桜の花だけが周りの花と違う香りを放ってる。間違いないわ。『あれ』が盗まれた枝よ!」
「なる程。木を隠すなら森、というわけだな」
「……!」
桜の方へと足を向けようとした鬼の行く手を久我が阻んで止めた。
「よそ見をしている余裕があるのか?」
「無駄、ですよ。」
ふ、と笑みを浮かべる鬼へ向けて直親は片眉をあげてみせた。
「とも言えんだろう。なんならその身で確かめてみるか?」
脳裏に浮かぶ光景と、目前の光景を重ね合わせて久我はタイミングを計る。
チャンスは一度。失敗は許されない。
映像は鮮明に一人の青年の手によって鞘から刀身が抜かれるのを映しだす。
瞬間。
久我の取り出した符が一瞬にして生命を宿し、形は紙そのままにして鋭利な刃物と化し、鬼へと向け放たれる。
その式神符を目前でひらりと交わして、鬼は嘲笑を浮かべながら後ろへ跳躍した。
「今、だ」
久我が短く告げると同時、鬼の背後から延びた手が包み込むように鬼の視界を遮り、その漆黒の双眸を隠し塞いだ。
瞬間移動によって鬼の背後に現れたケーナズのサバイバルナイフが引き抜かれ……ゆっくりと、ケーナズの腕の中に鬼が崩れ落ちてゆく。
鬼の裂けた首の傷口からは不思議と血の一滴も流れなかった。
「……何……故………」
「こけしの中とは考えたが……生憎だったな」
ばさり、と黒い烏が羽音を立て、久我の肩に止まった。
足が三本の烏は久我のねぎらいの声にひと鳴して応え……一枚の紙へと姿を変える。
「式、紙……」
鬼がその口許に自嘲の笑みを浮かべるのが見えた。
「久我さんにお願いして、九段下の方に飛ばした式神さんを通して向こうの様子を見て貰っていたの。向こうにいる知り合いにも話を通して、ね。向こうの枝も後で武彦さんの元に届けて下さるそうよ」
「あ。それでさっきの電話……」
公園の入り口でシュラインが久我の他にも電話をかけていたいたのを思い出して声をあげた丹にシュラインはウインクして見せた。
かくり、と力を失う鬼へと向けてケーナズはその耳元に小声で囁いた。
「Gute Nacht」
だが、本来在るべき姿へと戻った鬼がそれに応えることもなく。
傀儡は眠りについた。
何もない筈の空間にふわり、と緋色の着物の袖が翻った。
瞬間移動によって丹の指した桜の樹の枝上に姿を現した灯火は小さな腕をいっぱいに伸ばして目的の枝を探る。
『それでない。それ、そこの右の枝よ』
妙に古風な声を頭上で聞いたような気がして、声のする方へと視線を送る
淡い桜の花影に白く透ける小さな人影のようなものを見つけ……その一枝が光輝くのを見た。
「やっと……見つけられました」
灯火が手を伸ばすとふわり、と枝が宙に浮かびあがる。そのまま見えない力によって灯火の許まで運ばれると、それはゆっくりと舞い降りて灯火の手中へと収まった。
傷つけぬように二枝を手にとって、灯火は袖元で優しく包み込む。
胸に抱いた桜の枝が灯火に礼を告げるようにぽぅ、輝いてと灯火の胸元を暖めたような気がして。
「お帰りなさいませ」
灯火は今も桜に宿り、姿を隠しているであろう桜の王にふわりと声をかけた。
〜 伍 〜
「此処だな。間違いない」
樹の幹に触れて告げるケーナズの声に灯火と丹が頷いて桜の樹の根本を掘り返す。
「桜の樹の下には……死体が埋まっていると……聞いたことがありますが……」
こつん、と灯火の指先に堅いものがあたる。
白い、骨。人のものであるそれはだが空気に触れると砂と化して風に舞った。
「上腕骨か。墓から盗み出して此処に埋め、利用したか……」
「形も残らないなんて……あんな形で……消えちゃったままだなんて」
丹は桜の枝の残した香りの中で聞いた声を思い出して顔を伏せた。
「桜は……あの子を……鬼塚君を助けてって言ってた。それなのに……」
「大丈夫。その桜の枝を一枝、彼に捧げてください。彼は在るべき場所へと辿りつける筈ですよ」
背後から現れた人物の声に瞬時に緊張が走り……声の主の姿を確認して安堵の声を漏らした。
「不破……さん!」
はい、と応えた不破は舞い散る桜の花弁の影で微かに微笑したように見えた。
「でも、いいの? 折角取り戻したのに。大切な枝なんでしょう?」
「彼等はこの桜が呼び寄せた災いに巻き込まれた被害者なのですから。せめて安らかに眠りについて欲しいのです」
手にしていた桜の一枝を土へと埋めようとしていた灯火の手をシュラインの声が止めた。
「ちょっと待って。その前に……もしかしたらアレが使えるかも」
思い出したようにバッグの中から取り出した容器には透明の液体が詰められている。
「神社に寄ってご神酒を分けて頂いておいたの。効果があるかどうか解らないけど……」
蓋を開けて桜の枝に神酒を浸す。
ふわり、と甘い桜の香りが広がった。
だが先程迄のような異様な、邪気を孕むものではない。
淡く、清浄な空気を含むそれは聖なる結界を紡ぎ出している。
「桜が……喜んでる。清められて……命が、力が漲ってゆくのを感じる」
丹の明るい声に、灯火もまた枝を埋めてすぐに目前の桜を見上げた。
「嗚呼、周囲の桜も皆……祝福しているのですね」
(そして貴女も)
灯火は誰の耳にも届かぬような声でそっと傍らの桜の枝へと語りかけた。
ひらり。
降りしきる桜の花弁は雪の舞うように軽やかに、音もなく。
「それで?具合はどうなんだ?」
ケーナズが不破の右腕へと視線を送るとああ、とそれに気付いたように不破が頷いた。
「皆さんのお陰で無事元に戻ったようです。このように……」
「だ、だめぇっ!」
動かした左手は右腕でなく懐へと伸ばされるのを眼にして、丹がしっかりと不破の腕にしがみつく。
「そんな風に簡単に傷をつけたらだめです!」
不破が草間興信所でしたように再び腕を傷つける事を危惧したのだろう。
「ご、ごめんなさいっ。勝手な事言って。ただ、不破さんのこと大切に思ってる方とか心配するだろうなって思って。私も怪我とかはしてほしくないって思うし…っ」
言いかけてふと、自ら抱きつくような形になっている事に気付いた丹は微かに頬を染めながらあたふたと身体を離す。
「心、配?」
思いもつかなかった言葉を初めて耳にしたというように不思議そうに首を傾げる不破に、丹は迫力さえ感じさせる程の勢いでずい、と指をたてて不破の前に進み出る。
「心配ですっ。心臓に悪いですっ…それになにより痛そうです!」
言い聞かせるようにしてく、と踵をあげてまっすぐに不破を見つめた。
時に人は自分が傷付くことよりも、他人の痛みによって受ける傷の方が深い場合があるという。
丹もその一人ととったのか。
変わらぬ表情のまま、だが少し考え込むように首を傾げ……不破はぺこりと頭を下げた。
「すみません……気をつけるようにします」
「え? いえ、あのっ、そんな謝る程の事でもないんだけどっ……」
素直に、しかも丁寧に頭まで下げて謝罪されると思いもしなかった丹が焦る様子にやはり首を傾げる不破を見て名案でも思いついたのか。
シュラインはすす、と不破の背後に移動するとぽん、と不破の肩に手をかける。
「不破さん」
「……はい」
ふに。
名を呼ばれて振り向いた不破の頬に、一本だけ立てられたシュラインの人差し指が見事にあたった。
「良かった。ちゃんと柔らかいわね。これなら大丈夫」
どうやら不破の身体が元に戻ったかどうかを穏便に確認する手段としたらしい。
得られた結果に満足してシュラインはにっこりと微笑を浮かべた。
一方、不破はといえば、どう反応を返せば良いのか判断し難いといったように戸惑いを隠せぬままにシュラインの指を頬にあてた姿勢のまま硬直している。
ぷ……。
吹き出す声が訪れた静寂をうち消した。
丹が堪えきれずに明るく笑った。
やれやれ、と肩をすくめるケーナズの口許にも笑みが浮かんでいる。
灯火は少し不思議そうに小首を傾げ、背を向けた形で声もなく肩を振るわせながら笑っているのは久我だ。
当のシュライン本人はまさかそこまでの反応があるとは思ってもいなかったらしく、何かそんなにウケるような事言ったかしら?などと考え込んだりしている。
「どれ、俺も確かめてやろう」
人の悪い笑みを浮かべた久我が、両手で不破の頬を包み込み数秒見つめた後。
むにっ。
「………。」
勢いよく不破の頬を掴んで左右に延ばした久我に対し、問題がないと解ったのならそう何度も確認せずとも良いのではないかと、非難めいた視線を送る不破だったが、そんな様子に気付いているのか、否か。
「ははは……」
珍しく楽し気に声に出して笑う久我にどこか意図的なものを感じたのか、不破の眉間に微かに皺が寄せられた。
「あ……」
ふわり、と風が櫻の花の香りを運ぶのに気付いて丹が顔を上げる。
「桜が……」
灯火もまた頭上を仰ぐ。
「綺麗ね」
シュラインが微笑を浮かべ、ケーナズが肯定するように目を細め、桜へと視線を移す。
淡い薄紅色の桜の花弁が風に身を躍らせ、空に舞い上がってゆく。
ひらり。
またひらり、と
天に還ってゆくように。
一瞬。
花嵐のその中に。
少年と少女の白い影が一対となり、踊る花影に重なって消えてゆくのを見たような気がして。
ケーナズはふ、と微笑を浮かべた。
†
気が付けば。
灯火は一人、桜並木の中に居た。
しずしずと。
舞い落ちる桜の雨の中に佇んでは櫻の杜の中に鈴の音を探す。
灯火が探し求める影と共に、また別の影をも追って……ふ、と息をつく。
「どちらにおいでなのですか……?」
櫻は灯火の問いには応えず、ただただ灯火を優しく包み込むように音もなく淡紅色の花弁を舞わせるのみ。
鈴の音と共に現れた淡い櫻柄の着物を纏った少女人形は歌声と共に消えて、何処を探しても、とうとう見つける事は出来なかった。
もしかしたら、という期待感に胸を膨らませ、出逢った場所に戻ってみたのだがそこにはあるのは櫻の木だけ。
灯火と同じように主を想い、それ故に邪魔はしないで欲しいと頼みながらも灯火達に桜の事を教えてくれたあの人形と、灯火はもう一度逢って話がしてみたいと思った。
「今は逢えなくとも。いずれ機会はあろう」
頭上からの声に灯火は顔を上げた。
視界を覆う一面の淡い桜の花の遙か上空には柔らかな夜の黒に映える白銀の、下弦の月が灯火を見守るように見つめている。
その月がゆらり、と揺れて白い影が虚空へと姿を現した。
足許まで届く白銀の髪に不思議な銀の瞳。薄紅桜の着物に身を包んだ女はころころと笑ってみせるとふわり、と軽く桜の枝に腰掛けた。
その正体は古より咲き誇って来た桜の樹に宿る神の化身ともいえるもの。
「私は……いつかまた……あの方にお逢い出来るのでしょうか?」
そして。
灯火が求めて止まない、灯火にとって唯一の主であるあの少女にも。
「焦ることはない。人のめぐり逢わせとはそういったもの故」
「そういうものなのですか?」と不思議そうに訪ねる灯火の様子に桜の精はくすくすと笑って答えた。
「いつか……本当の貴女とも……お逢いしたいです。きっと……お美しいのでしょうね。言葉にならぬくらいに……」
灯火が見た彼女の桜はほんの一部に過ぎないと言うのに、それでも言葉に出来ぬ程に荘厳で清浄たる美しい花を咲かせていた。
本体の桜の樹には、一体どれ程美しい桜の花を咲かせるのか。
灯火には見当もつかないが、さぞ絢爛とした見事なものなのだろう。
「いずれ……の。その時は一緒に来るが良い」
す、と延ばされた指先の向こうから息を弾ませて走ってくるのは……
「丹様……?」
「あっ!灯火ちゃん!あのね……」
ふと、言いかけて丹はきょろきょろと周囲を見渡し……そしてある桜の枝の上で視線を止めた。
「ああ、彼処に来てたんだね」
既に姿を消した後だったが、彼女の残した微かな残り香の中にその姿を見つけたのだろうか。
また、逢えるといいね、と丹がふわり、と笑んだ。
「そうそう!あの後、結局誰が一番ボート漕ぐのがうまいかって話で盛り上がってね、それならいっそみんなで乗ろうって事になったんだよ」
何をどうしたらそんな展開に結びつくのか。とはケーナズの意見なのだが、そんな彼自身もしっかりメンバーの中に数えられているらしい。既に水上のボートに引きずりこまれている不破もまた逃げ場を失い強制参加となっているという。
丹はこれからレースでも始めようといった勢いで既に目を輝かせている。
彼女の好奇心は止まる事を知らぬ様子だった。
「ねっ? 私達も行こう?」
差し伸べられた手に触れて、思い出す。
灯火の中に眠る記憶の中、同じように差し伸べられた手があった。
『灯火、おいで…』
優しく響く声は灯火の大好きな彼の人の声。
灯火の小さな手を包み込む手の温もりは、あの時とは違うけれど。
同じように暖かい温もりをその手に掴むように、逃さぬように。
この空の下、どこかにいる筈の主と再び手をつなぐ日が訪れるようにと願いながら。
「はい」
灯火はしっかりと丹の手を握り返した。
〜 花魂の禍唄 -陰- 了 〜
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/女/26歳/
翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0095/久我・直親(くが・なおちか)/男/27歳/陰陽師】
【1481/ケーナズ・ルクセンブルク(けーなず・るくせんぶるく)
/男/25歳/製薬会社研究員(諜報員)】
【2394/香坂・丹(こうさか・まこと)/女/20歳/学生】
【3041/四宮・灯火(しのみや・とうか)/女/1歳/人形】
-NPC-
【才神・さくら(さいかみ・さくら)/女/カリスマ占い師】
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■ ライター通信 ■
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この度は受注頂き有難うございます!
ライターのひたきと申します。
納期が大幅に遅れてしまいまして本当に申し訳ありません!!
まことに大変反省いたしております。
今回今までになく長い文となっておりますが……(汗)
少しでも楽しんで頂ければ幸いでございます。
ご意見等ございましたら素直にお言葉を頂戴しまして、今後
より精進するよう努力いたします!
がんがんテラコンから送ってやって下さい。
それでは、またお逢い出来ることを楽しみにしつつ。
この度は誠にありがとうございました。
■香坂・丹様
はじめまして!ライターのひたきと申します。
そしてこの度はしょっぱなから大遅刻と誠にご迷惑をおかけいた
しました。
丹ちゃんの設定を等を拝見し、可愛いお嬢さんだなぁv
とうきうき。そして執筆中もうきうきと(笑)書かせて頂いたり
しておりましたが……いかがでしたでしょうか。
イメージが崩れてしまっていないよう天に祈るばかりですが…。
ED部分で丹ちゃんの言っていた「あの後」編ですが、実は別の方
のED部分となっていたりしますので、ご参考までに。
もし宜しければこれに懲りず、また参加してくださると嬉しいです。
ご参加頂きましてありがとうございました!
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