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<東京怪談・PCゲームノベル>


茜の心を癒す人 中編

 宮小路皇騎が長谷茜に出会ってからも雨は降り続ける。
「まるで、何かに呼応しているかのようだ」
 と、皇騎は呟く。

 ――たしか、従妹も同じ事を言っていたような。

 神格暴走の時も雨は降り続け、三滝尚恭の策略の時にも雨がふっている。単に偶然だろうと想えばいいが、彼らに関わると何かしら天気がおかしいのは確かだ。雨と言うものは風流な感じもあるが、陰鬱さを倍加させるものだった。
 今まで親しく仲が良かった従妹の事、確かに好きだったが、恋愛感情もあったのだろう。ただ、その想いを告げる事を間に合わず、彼女は織田義明と共に生きると決めた。いま、自分の隠れ家にかくまっている長谷茜も自分と似たような境遇なのだろう。従妹が幸せになってくれるなら、其れは自分の幸せと想える事は自分が大人になったのか……というと其れも不確かだ。
 いまは、長谷茜の調子がおかしい事について頭を占めている。

「茜さん」
 茜がいる部屋をノックする。
 返事がない。
 あのあとから、彼女は引きこもってばかりだった。ただ、この場所の結界を破っていないし、勝手にでると、“鳴子”が鳴るように出来ている。もちろん科学的セキュリティもあるので、万が一の不法侵入にも万全だ。
「茜さん?」
 中でもぞもぞ音がする。
「食事はどうしますか?」
「……いらない」
 かなり、参っている様だ。
 鬱状態か、と皇騎は思った。
 こういう精神状態になるのは誰にでもある。その度合いが酷すぎれば病となるが、“過去を見た”皇騎から考えるに、鬱状態で止まっているといい。しかし、接し方は思いやること、理解することになる。もちろん“女性には優しく”として母親に躾をたたき込まれているため、その方針を曲げない。
 ただ、茜が気になる。
 まだ、実感は分からない。
 ヒョッとすると、と思ってしまう。
「今は、そっとしておくしかないか」
 呟く。
「茜さん、この家は自由に使っても良いですよ」
 と、伝えて彼は去った。
 

 さて、どうやって茜を元気づけるのかが彼の悩みになっていく。
 雨はずっと降りっぱなし。外にも行けない。
 彼女は側に誰かいて欲しいという意思表示もないので、おいそれと近づけなかった。
「どうしたらいいのだろう」
 こんなに女性を思うことは20年無かったので自分も戸惑っている。
「……そうなのかも」
 それから5日は経ったのだろうか?
「皇騎さんいる?」
 ノックがした。
「茜さん? どうぞ」
 茜は静かにドアを開けた。
 パジャマ姿の茜は泣き続けていたのか目が赤い。
「どうしたのですか?!」
 急いで駆け寄る皇騎。
「こ、怖い、こわい……こわいよう……」
 その場で、へたり込み泣く茜。
 一人で痛かったのが流石に孤独に耐えられなくなったのだろう。
 皇騎は彼女を抱きしめる。
 そこに言葉をかけなく只、無言で。言葉にすると茜は更に怖がるだろう。
 彼の胸で寂しさと、これから起こる自分の運命の怖さに泣いている茜だった。

 ――やはりこの子を放っておけない。

「私が側にいます」
「ほんと? ねぇあの人みたいに捨てない?」
「大丈夫です。誓います」
「……ほんと?」
 選ばれることの無かった茜は皇騎の真剣な表情をみて、
「よかった……」
 茜は皇騎に身を委ねる。
 そして、2人は見つめ合って唇を重ね……夜は2人だけの時間となった。


 それからと言うもの茜は徐々に元気になってきた。多少の些細な会話も出来るようになり、笑顔を見せるようになった。流石に暫く、お互いの顔を恥ずかしくて見られなかったようだが、収まるころには更に仲が良くなっていく。
 問題としては、雨ばかりが続くので、家ばかり居るのも困るのだが、
「いいの、いまは皇騎さんが此処にいてくれれば……落ち着くから」
 とか、茜は俯いて呟くように言う。
 僅かに頬が赤い。
 幼児退化状態か、皇騎に抱きついてくる茜だった。精神状態が悪化したのか、それともよりよい変化をもたらす前兆なのか、“その手”に知らない皇騎は、戸惑う。
 しかし、彼は放っておけないので、甘えてくる彼女と一緒にいてあげた。
 其れが功を奏したのか、徐々に従妹から聞いていた、元気で面白い茜になっていく。色々話をしてくる茜を見て皇騎は喜んだ。彼が他の人と違いとても優しく接するので、茜もずいぶん甘えられた。ハリセンこそ出さない物の、感情豊かになり、皇騎がたまに従妹の話をすると拗ねる仕草をする茜だった。


 ある朝に驚くことが。空は晴れていた。
「これ? は?」
「気分が良かったので、作ったの」
 朝の食卓に、鯖の焼き魚にニンニクとタマネギを混ぜた納豆、浅漬け各種に海苔に生卵。普通の服にエプロン姿の茜がニコニコと言う。
「たべますか?」
「はい、頂きます」
 と、笑顔で答える皇騎。
 財閥御曹司がこういった庶民のメニューを食べるイメージは不思議かも知れないが、皇騎は、従妹の所にお邪魔してはその手の代物は食べているし、母親もそう言った物を好むと仮定したら、それほど不思議ではない。表立っていない財閥なぶん、こうした極普通のものが好きなのかもしれない。
 食事は、とても美味しかった。
「美味しかったですよ、茜さん」
「あ、ありがとう……」
 俯いてしまう茜。
「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。後かたづけするね」
「それは、使用人に……」
「だめ、片付けもするの」
 と、食器をまとめて厨房に向かう茜だった。
 動き出したいらしい。と、皇騎は思った。
 しかし、まだ危なっかしい感じして堪らない。
 丁度、天気が良いことなので、皇騎は少し何かを思いついた。
 
 茜は、鼻歌交じりで食器を洗っている。
「茜さん、これから公園にでも出かけませんか? ピクニック気分で」
 と、誘ってみる。
「え? 私と?」
「はい」
 戸惑う茜に、ニコリと微笑む皇騎。
「……、でも、わたし……えっと……その……」
 本心をあまり表に出せずにいる茜。
 皇騎は、その姿に愛おしさを感じてしまう。
「いきます」
 また俯いて返事をした。


 近くに、自然豊かな公園がある。子供が遊ぶ遊具のない公園に2人は向かった。サンドイッチは使用人に頼んで、2人は軽い服装に着替えて出かける。
「雨が止んでる」
 茜は呟いた。
 長い間雨だったので、気分も鬱陶しくなる。しかし久々に照りつける陽は気持ちが良い。
 思わず駆け出す茜だった。
「茜さん!?」
 はやく、此処が気持ちいいよ!」
 と、草むらに寝っ転がる茜。
 大きな公園で、辺り一面が緑。地平線でも見えるならとても気持ちいいだろう。
 皇騎は、彼女の側に座った。
 感覚的には逆だというのは置いておき。

「きもちいい〜」
 茜の表情に前みたいな“危うさ”は無かった。
 何か吹っ切れたのか。先に向かう決意の表情だった。
「ありがとう、皇騎さん」
 皇騎の手を取る茜。
「元気になってよかった」
 優しく強く彼女の手を握る皇騎。
「あのね……、私馬鹿だよね。失恋して、自棄になって魔物に当てっていたんだもん。でも、皇騎さんに会えて良かった。そうでないと私は、心の闇に堕ちていっていた」
 彼女は、一息つく。
「皇騎さん、私のことどう思う?」
 いきなりの質問だ。
 いや、2人で夜を明かしたというのに、何故聞くのか。皇騎は一瞬戸惑ったが、
「一緒にいますよ、茜さん」
 にこやかにかつ真剣に答える。
「よかった……」
 抱きついてくる茜を優しく抱き返す皇騎。
「あのね……、一緒に来て欲しいところがあるの」
 と、しばらくしてから、立ち上がる茜。
「何処ですか?」
「私が目指す一つの宿命、その場所に」
 今まで甘えていた茜の顔ではなかった。
 皇騎ははっとした。
 彼女はれっきとして巫女。しかも、純真の霊木を守護するための巫女であり、エルハンドの持つ抑制力レベルの神秘を使う魔導師なのだ。
「いままで、ただ、怖かった。今でもよしちゃんは好きだけど、今はこまった弟みたいに感じる。あのメイド趣味な“大きな弟”にも振られて、嫌気がさしたと同時にこれから自分が背負う事に背を背けていた何てね。おかしいかな?」
「いいえ、おかしくはありませんよ、茜さん。人は悩んで、成長していきますから」
「皇騎さん、ヤッパリ優しい。でも暫く怖かった。でも大丈夫」
 茜は皇騎の頬にキスをする。
「帰ります。そして、正当な長谷神社の巫女に成るための試練を受けます」
 と、彼女は言った。


 一度長谷神社に戻って疲れを何とか癒そうとする長谷平八郎。
 巧妙な術なのか、運が茜に味方しているのか分からないがなかなか見付からなかった。もし、茜が無意識に時間念視遮断を行っていれば、時間から読みとりが不可能だろう。もしくは匹敵する力の持ち主が側にいるかだ。
「もう、雨が降るか……」
 そこで、“霊木”のざわめきがする。
「茜が戻ってくるのか?」
 いきなり立ち上がる平八郎。

 今までの青空が一転、夕立のごとき土砂降りになる。
 神社の入り口に、2人の影がいた。
「あ、茜! それに……宮小路家の跡取り……」
 この組み合わせが“起こりうること”を予想していたが、その可能性は万一と思い、長谷平八郎は驚いていた。
「長谷宮司、茜嬢を暫く保護していました。事情で連絡を出さずにいたこと済みません」
 皇騎が、年長者に対して礼儀正しいのは普通である。
「いや、有り難いことです。皇騎殿。ただ、まさか茜とココまでの関係ということが驚いたのみ。すまぬが……茜と話をしたい。中で待っててくれぬか?」
「いえ、此処で構いません。話を聞きたいので」
「わかった……風邪だけはひくな」
 長谷平八郎は少し溜息をついた。
 皇騎は一度茜を見る。茜は強い意志をもって頷いていた。

 一歩ずつ茜は前に進む。父であり師である老人の元に。

 霊木は更に霊力を放出している。
 この数日の雨は、茜の心情と其れを感じ取った霊木の反応なのではと皇騎は思いはじめた。


To Be Continued

■登場人物紹介

【0461 宮小路・皇騎 20 男 大学生(財閥御曹司・陰陽師)】

【NPC 長谷・茜 18 女 神聖都学園高等部・巫女】
【NPC 長谷・平八郎 65 男 長谷神社宮司】

■ライター通信
 滝照直樹です。
 『茜の心を癒す人』に参加して下さりありがとうございます。
 さて、順調に茜との関係が深まっていますね。
 最後の後半があります。そこで重要なことですが(全参加PC様に連絡されます)、短い時間でしたが、宮小路様は長谷茜に対してどう思っておられるかを、今度のプレイングに必ず書いて下さい。その時かなり変化が生じるでしょう。
 さて、皇騎さんと茜の関係はどうなるのか……? 後半で……。

 では又の機会があればお会いしましょう。

 滝照直樹拝