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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


月の魔法が甦る

●アイデア募集
 ルナティックイリュージョンのオフィス階層の1室では、誰もが額に汗を浮かべつつ、渋い顔で手元の資料を見つめていた。その資料にはルナティックイリュージョンがいかに危機的状況にあるかが明確に記載されていた。
「ご理解いただけましたでしょうか?」
 経理総務担当・鬼塚真也は青白い顔で皆を見る。これまで再三再四訴え続けてきた金銭的危機だが、誰もそれを問題視してくれなかった。そのツケが今まわってきている。
「このままだと‥‥倒産、か?」
 保安警備担当の桜庭螢がお手上げと言った様子で両手を肩のあたりまであげる。隣に座る機器制御の吉村佑輔も苦い顔で浅くうなづく。
「そうですね、このままの入場者数が続けば『年を越せずに倒産』ということになりますわね」
 広報広告担当の黒澤紗夜は涼しげな表情で言った。
「どうしましょう‥‥」
 相馬まゆみは哀しそうな顔で言う。彼女の愛する植物達がこのルナティックイリュージョンには数え切れない程ある。ここが閉園となれば自分のことよりも、それらの行く末が心配になる。
「あの‥‥」
 控えめに小声で水城亮が口を開いた。
「どうすれば経営が好転するか、広くアイデアを公募するっていうのはどうでしょうか?」

 その後、この提案は社長矢沢栄一の決裁を受けた。ルナティックイリュージョン再建の為、広くアイデア募集がなされたのだった。

●方策
 とりあえず現場に行ってみなくてはわからない。海原・みあお(うなばら・みあお)は開園前のルナティックイリュージョン内を歩いていた。来場者のいない園内はそれだけでホラー場面の様に不気味に見える。ただ、清掃担当のロボット達が固まって仕事している様子だけがなんとも可愛らしかった。
「見学なんかしてなんかわかるか?」
 眠そうな目をしながら桜庭螢が言った。通常保安警備を担当しているのだが、今はみあおのガイド役をしている。小学生を一人歩きさせるわけにはいかないと思ったのだろう。
「螢、眠いの?」
 みあおは螢を見上げて言った。不思議な銀色の髪が揺れ同じ色の瞳が螢を映す。
「あ、悪いな。え〜っと昨日寝たのが朝の10時で起きたのが午後4時だから‥‥大丈夫。まだまだ活動出来る筈だ」
 螢は酷く苦労しながら昨日の自分を思い出し言った。ここの従業員達は規則正しい生活を出来ないおかげで、日付の感覚がおかしくなっている。
「そういうの、わかんなくなっちゃうの?」
「そうだな。ここは働くおじさん達に親切な職場じゃないからな」
 螢は機嫌良さそうな笑顔を向けたが、それはどこか嘘っぽいとみあおは感じた。
 アルテミス広場では天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)が懐かしそうに空を仰いでいた。ここにはささやかだが大切な思い出がある。だから出来る事ならば、倒産閉鎖などしてほしくない。案内係の相馬まゆみは撫子から少し離れて立っていた。何度も来園したことのある撫子は内部に不案内というわけではなかったので、まゆみが付き添っているのも形式上の事の様だ。それよりもまゆみは園内の植物達に関心があるらしい。
「なにか良いアイデアが‥‥ここにあって他にない、そんなモノがあれば経営も好転するのでしょうに‥‥」
 雲の切れ間から太陽の光が差していた。数日前には想像もつかないほど穏やかで柔らかな光だ。そう、ここは月が出ている間しか開園しない『月』の支配する場所。家族連れなどの行楽客を毎日期待出来ない事情がある。だが不意に撫子は目を見開いた。
「逆手に取るしかありません。月しかないのですもの、月のテーマパークです」
 手近なベンチに腰を下ろし、撫子は更に深く考え始めた。
 オフィス階層の小さな一室では鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)は矢沢栄一とテーブルをはさんで向き合っていた。
「人間の3大欲求、睡眠欲・食欲・性欲を出来る限り満たす‥‥それがわたくしの再建案ですわ」
 デルフェスはおっとりとした口調で話を始めた。大仰な着衣も大胆に露出した胸元も、昼間にオフィスで見るモノではなかったかもしれないが、少なくも対面している男は気にしていない様に見える。
「どうぞ‥‥話を続けてくれ」
「はい」
 デルフェスは表情を変えずに話しを続けた。

●始動
 社内通達にてアイデアは実施に向けて動き出した。みあおが先ず着手したのはホームページの強化だった。
「みあお、一番見て貰いたいのってここの開園スケジュールだと思う」
 ディスプレイの前には機器制御の吉村佑輔がすわり、その横にみあおがいる。後ろには広報広告担当の黒澤紗夜が立っていた。
「その通りね。トップページに開園時間を入れるべきだわ」
 紗夜が口をはさむ。佑輔がHTMLを書き直し大きくラジオボタンが新たに設置される。
「今日だけじゃなくて、1ヶ月ぐらいのスケジュールもあるといいよ。だって、いきなり来るって人よりも誰かと約束して来る人の方が多いでしょう?」
「‥‥なるほど、そうだな」
 佑輔はうなづき、別ページへと飛ぶリンクを作った。
「あと口コミなんかで宣伝出来るといいんだけど‥‥」
「それはなかなか操作しづらいわね」
「うん。後は‥‥月を意識した時事イベントとかがあるといいよね、ってそれは撫子達がやってるんだよね」
 みあおはニコッと笑った。
 撫子は月に関連のある神話を使い参加型アトラクションにするという案を提示した。
「常設と期間限定のモノがあるといいと思いますが、ともかく常設の案として最も有名な話を使うのがいいと思うのです」
「有名な話っていうと‥‥なんですか?」
 新米社員、水城亮は身を乗り出して撫子に尋ねた。
「それがとても難しいのです。ローマ神話のアルテミスなんていいと思うのですけれど、彼女の神話ってアトラクションには使い辛くて‥‥」
 自分の裸体を見た男を鹿に変化させたのも、ゼウスの子を宿した側近を熊に変えたのも、恋人を間違って射てしまったエピソードもアトラクションにアレンジするには暗すぎると思う。
「困りましたわね‥‥」
 撫子は溜め息をついた。
 デルフィスの提案は3つであった。それらは各々始動していた。睡眠欲から発展し、リラクゼーション系施設としてプラネタリウムが建造されていた。アロマセラピーの考えを導入し、利用客1人1人にあった香りが入り口で渡され指定席へと向かう。
「簡単な質問に答えるだけで5か6種類からその方にあった香りが渡される‥‥って感じで考えてるところです」
 まゆみは園内のハーブで香りを調合し経費削減に一役買っていた。食欲を満たすモノとして、メインダイニング『アリアデウス』の厨房では総出で『ルナティック・イリュー丼』の創作に取りかかっていた。そして、デルフィス自身は最後の欲望、性欲へのアプローチとして女性従業員の制服改変に着手していた。
「実際、どういう風にすればいいんでしょうか?」
 鬼塚真也は不安そうにデルフィスに尋ねた。度の強い眼鏡の向こうから気弱そうな瞳が覗いている。
「なんとなくですが、ラフスケッチをお持ちしました」
 デルフィスはA4版のノートよりちょっと大きめのスケッチブックを開いて見せた。
「え‥‥」
 真也が顔を赤くする。襟ぐりが大きく開いた上衣、下着が見えそうなマイクロミニのスカートだった。デザインが通り落ち着いた深緑色のしっかりとしてそうな生地を使っても、このデザインはあんまりだと真也は思う。少なくても自分は駄目だ。着こなせそうにない。
「出来ません!」
「出来ますわ」
 デルフィスはゆっくりと真也に歩み寄った。
「今、ルナティックイリュージョンの窮状を最も判っていらっしゃるのは経理を担当していらっしゃる鬼塚様ですわ。ね、お出来になりますわよね」
「‥‥う」
 確かにそうだった。真也の瞳が小刻みに揺れる。
「なら、それなら男性の制服も変えてください!」
 それなら諦め(?)もつく、とやぶれかぶれになった真也は思った。

●進捗
 メインダイニング『アリアデウス』では3回目の試食会で社長直々に『ルナティック・イリュー丼』完成を承認された。現在では恒久的な材料調達の方法とコスト計算が続けられている。
 プラネタリウムは建物が完成し、今は内装やプログラムの設定が始まっていた。
「佑輔、プラネタリウム関連のコンテンツも追加したほうがいいよ」
 みあおの細かい指摘のおかげで公式ホームページも少しずつ体裁を整え始めていた。また園内を掃除するロボット達を使い、演出としてスモークを発生させたり光を発する様にすることも検討されている。それもまた佑輔とみあおの仕事だった。まゆみのアロマには花弁を利用し着色することにより、香りに付加価値を付ける予定となっている。
 撫子の担当した参加型アトラクションは『かぐや姫』を題材にすることに落ち着いた。ディスプレイに映し出された『プリンセスかぐや』が出題する5つのクエストをクリアするというものだ。クリアするには園内のあちこちを歩かなくてはならない。クリアすると最初に渡されたカードに描かれた月が少しずつ満ちていき、最後は満月になる。
「その後で最初の場所までお戻りいただき、カードを差し込めばストーリーはエンディングへと進むのです」
 撫子はようやく形が見えてきたアトラクションをスタッフ達に説明する。
「第一弾としてはいいんじゃないか? 別のアトラクションを楽しみながらやれそうだ、普段人気がなさそうなアトラクションの近くをクエストの場所にすれば、人の流れを誘導できそうだ」
 螢がすぐに賛成した。真也もコスト面から賛同する。
「掃除のロボットも活用出来ればもっと楽しいよ。例えばクエストのヒントとか。ロボット1体ずつ違うヒントをセットしていけば子供でも出来るアトラクションになるよね」
 みあおはロボット達を掃除だけに使うのは勿体ないと思っていた。この際、使えるモノはなんでも使う。出し惜しみすべきではないのだ。
「‥‥よかった」
 題材に困ったがなんどか目処が立って来た。しかも、かなり面白そうなアトラクションになりそうだ。完成まではまだ掛かりそうであったが、撫子はほっと胸をなで下ろした。
 最後に一新された制服の試着が行われた。モデルは真也と螢だった。
「どうでしょうか?」
 にっこり笑って原案を作成したデルフェスは皆の反応を待つ。真也着ているのは先日同様胸元が開いた上衣にマイクロミニのスカートだった。インナーは外に響かないキャミソール型で、それに膝までの茶のレザーブーツを履いている。螢が着用した男性用は色と生地は女性用と同じだった。上衣はコートの様に膝丈まであり、中には半袖の記章をあしらったシャツを合わせていた。ズボンは細身で靴は女性のブーツと同系色だ。
「制服のコンセプトはセクシー軍服です」
 デルフェスはにっこり笑う。女性従業員達が男性客を、そして男性従業員達が女性客の好感を得られれば、制服がリピーター率に大きく貢献したことになるだろう。初めて見るみあおと撫子はびっくりした様子で新制服を見つめていた。新宿歌舞伎町なら違和感ないだろう服装を見せられたのだ。
「いかがでしょうか?」
 これが決まれば実際に着用するのは従業員達だ。けれど客足が落ちて困るのもまた彼らであった。ジレンマの中従業員達は困った様な視線を仲間2人に注いでいた。

●成果(デルフェス)
 昨日とは違うルナティックイリュージョンが今日から始まった。ここ数日、開園時間は午後7時を過ぎているがそれはデルフェスにとって何ら支障にはならない。
 最初にチェックしたのは『ルナティック・イリュー丼』の売れ行き状況だった。夕食時でもあり、また物珍しさもあってあちこちのテーブルに『ルナティック・イリュー丼』が運ばれてくる。女性客よりは男性客が好んで注文しているようだった。次は女性客を狙った商品を出すべきかもしれない、デルフェスは心のチェックシートにそれを問題点として書き込んだ。
 長蛇の列をなすプラネタリウムを通り、デルフェスはインフォメーションセンターへと向かった。通常ならばここに紗夜がいるはずだ。遠目からも紗夜はすぐに判別出来た。どこか客達とは違った雰囲気を持っているような気がする。勿論紗夜もデルフェスがデザインした制服を着用していた。デルフェスの顔に満足げな笑みが浮かぶ。
「思った通りですわ。わたくし、黒澤様ならば楚々としたイメージを残しつつ、且つどこか妖艶さを漂わせる‥‥そんな高度な着こなしをしてくださると思っておりましたの」
 まさにデルフェスの思惑通りだった。その時、紗夜の側にいた男が名残惜しそうに離れていき、2人の視線が偶然の様に絡み合った。優しげな笑顔で会釈をする紗夜に軽く礼をするとデルフェスはその場を離れた。
 後にルナティックイリュージョン社長宛で謝礼が届けられた。それは入園チケットと園内で使える金券であった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1415/海原・みあお/女/子供年齢/ハイソなお嬢ちゃま風美少女】
【0328/天薙・撫子/女/少女年齢/清楚なお嬢さん風佳人】
【2181/鹿沼・デルフェス/女/多分少女/セクシーなお姫様風美女】
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■         ライター通信          ■
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 このたびは界鏡現象〜異界〜『ルナティックイリュージョン』にご参加いただきありがとうございました。参加してくださったおかげで新しいサービスが稼働することになりました。無事集客はアップするのか‥‥いずれその情報もお届け出来るといいなぁって思ってます。デルフェスさんの企画はどれも具体的なものでしたので、書き手は大変助かりました。特に新制服は私も見てみたいので、いつかきっとお披露目させていただきたく思います。また機会がありましたらルナティックイリュージョンへ足をお運び下さい。