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<東京怪談・PCゲームノベル>


『 花唄流るる  ― 幻の花園と約束の花 ― 』


 しゃんしゃんしゃん。
 風が渡るたびに、その音色は美しい音色を奏でた。
 白い花で、どこか鐘のような形をした花。
 カンパニュラの花に似た異界の花。
 感謝という花言葉を持つその花に似た花に込められた願いも、やはり感謝であった。
 友情という想い。
 あなたが居てくれてよかった、と。
 そう、彼女は望まれていた。
 そこに居てもらえてよかった、と。
 そう、あなたはそこに居てよいのだと。
 私があの少女に託されたこの花を彼女に渡したら、そうしたら彼女はどんな顔をするであろうか?
 泣いてしまう?
 笑う?
 ただただ喜ぶ?
 そのどれでもあってどれでも無いような。
 私には想像はつかない。
 なぜなら彼女は生きる自分というモノに、深い罪悪感を抱き、罪の意識の鎖に己をがんじがらめにして縛っているから。
 これは私の友人である綾瀬まあやを発端とした優しくも残酷な哀しい物語で、そしてこの美しい白き花は、彼女のためにつくられた花。



 ――――――――――――――――――
【Begin Tale】 


 夏の終わり。
 昼間はまだ残りわずかな寿命をそれでも謳歌するように燃やすように蝉が鳴くが、しかし夕暮れ時からそれでも季節の変わり目に入った事を物語るように蝉からコオロギ、鈴虫へと世界を彩るオーケストラの奏者は交代する。
 騒がしいジャズから静かなクラッシクへと。
 そして彼女はその秋の世の虫たちが奏でるオーケストラの一員となって、その音色に即興でヴァイオリンを奏で出す。
 どうやら今宵は耳だけではなく、眼でも楽しませていただけるようだ。
「可愛らしい踊りですね。スノー」
 そう声をかけると空間で軽やかに可愛らしくまあや嬢が奏でるヴァイオリンの音色に合わせて踊りを踊る小さな妖精が私を見て、微笑んだ。
 スノードロップ、希望という花言葉を持つ愛らしい白き小さな花の妖精。
「さて、それでは次は私の番でしょうか?」
 木製の丸テーブルに白のテーブルクロスを敷いて、その上に私、まあや嬢の分の紅茶カップ、スノーのはドールハウス用の小さなカップを用意し、それに作法に乗っ取ってポットの紅茶を入れていく。
「さあ、まあや嬢、それにスノー、紅茶の用意が出来ましたよ。こちらにどうぞ」
 笑いかけながら私がそう言うと、彼女らはにこりと笑って私が後ろに引いた椅子に座った。
 スノーは腰を下ろしてテーブルの上に座っている。そんな彼女の様子にほんの少し眉音を寄せたまあや嬢は大きく溜息を吐くと、私の顔を見て苦笑いを浮かべた。
「こちらの紅茶は、セレスティさん?」
「ええ、こちらの紅茶の銘柄はイングリッシュブレンド。フルーティなセイロンにアッサムをブレンドしたものです。ミルクを少々加えてどうぞ、まあや嬢」
「ええ」
 まあや嬢は髪を耳の後ろに流しながらにこりと笑うと、ミルクを紅茶に少々加えて静かにかき混ぜ、それを一口口に入れた。
「まあ、美味しい!!! すごく口当たりが良くって」
「お褒めのお言葉、光栄でございます」
 私は彼女に腰を折って礼をし、そして顔をあげてまあや嬢と顔を見合わせあうと、くすくすと笑いあった。
 そんな私たちをぱちぱちと瞬かせた大きなどんぐり眼で見つめていたスノーはそれらが羨ましかったのか、
「こちらの紅茶は、セレスティさん?」
 などと横目でまあや嬢に睨まれながらもティーカップを持って笑顔でそう私に訊いてくる。私は思わず苦笑しながら、それに答えてやる。
「スノーにはテ・オ・レを。これはミルクをたっぷりと入れて楽しめるまろやかな紅茶ですから、あなたには相応しいと想いまして」
「まあ、美味しい!!! すごく口当たりが良くって」
「お褒めのお言葉、光栄でございます」
 そして私は先ほどと同じように彼女にも腰を折って礼をするのだ。
「っとに、あなたはいい加減にしなさいな」
 顔をあげた私とにこりと笑いあったスノーは頬をちょっと赤くしているまあや嬢に右の人差し指で頭を叩かれる。
「あうし、でし」
 私はその彼女らのやり取りに笑いを堪えながら、お菓子を勧める。
「まあまあ、まあや嬢。さあ、チョコレートケーキと、林檎チップですよ」
「まあ、素敵!!!」
「まあ、素敵でし!!!」
 手を胸の前で組み合わせたまあや嬢の真似をしながらそう言ったスノーについに私は耐え切れずにぷっと吹き出し、そのままくすくすと笑い、そんな私と同じく楽しそうに笑うスノーをまあや嬢は半眼で睨みながら大きく溜息を吐いた。
 そして私もイングリッシュブレンドを喉に流す。喉から胸に落ちた温かみに私はほっとした息を吐き、思い通りの味を出せた紅茶に満足気に頷いた。
 そうして私たちは夜空に輝く満月の光の下で紅茶を何杯も飲みながら他愛も無いお喋りに花を咲かすのだ。
「それにしても素敵なお庭でしね。お花たちが皆、楽しそうに笑っているでし♪」
「おや、スノーには花の声が聞こえるのですか?」
「はいでし♪ わたしはお花の妖精でしから」
「そうですね。スノーはお花の妖精ですから聞こえますよね」
「はいでし」
 にこにこと笑う彼女に私は頷いた。そして私は林檎チップを一枚手に取って、それを彼女の顔の前に持って行く。そうすれば彼女は心得たようにぱくりとそれを口に頬張って嬉しそうに食べる。
「スノードロップ、どうでもいいけどそんなに食べて大丈夫? 体が重くなって飛べなくなくなっても知らないわよ? 飛べない妖精は虫以下だわ」
「はわぁ」
 頬杖つきながら素っ気無く言うまあや嬢。先ほどのスノーへの仕返しであろうか? ならばスノーはまあや嬢の思惑通りに衝撃を受けたように思いっきり身を後ろに引いて固まって見せた。まるで三流のコメディアンのように。
 そしてやはり私はその彼女の姿にくすくすと口元に手をあてて笑ってしまうのだ。そんな私を今度はスノーが涙目でじっと見てくる。ここで彼女にまたもう一枚林檎チップを与えたらどうなるだろう?
 そんな魅力的で楽しい誘惑にかられながらも私は彼女に提案した。
「だったらスノー、私と一緒に食後の運動でもしますか? 珍しいお花の事や、花々の声を私に教えてくださいませんか?」
「はいでし♪ どーんと大船に乗ったつもりでいてくださいでし」
 スノーはどんと胸を拳で誇らしげに叩いて、だけど強く叩きすぎた彼女はけほけほと咳き込んで、そんなスノーの背を私は苦笑しながら人差し指で摩り、そして呆れたような眼でスノーを見ながら紅茶を啜るまあや嬢に提案する。
「まあや嬢もいかがですか? 夏の花々が散って仕舞う前に愛でに行きましょう」
「あたしは、………遠慮しておきます。ここでここにある花々を愛でながらあちらから聴こえてくるこのとても綺麗で澄んだ歌声に合わせてヴァイオリンを奏でましょう。今夜、このお茶会のためにセレスティさんが貸してくださったこのヴァイオリンを」
 彼女は秘密の花園の方を見て、そして私を見てにこりと笑った。
 逆に私はまあや嬢の顔から彼女が見ていた秘密の花園の方へと視線を移した。
「あちらからとても綺麗で澄んだ歌声が聞こえてくると仰る。ならばそれは本当に光栄ですね。あちらにはね、まあや嬢、春先に設計を変えた秘密の花園があるんです」
「秘密の、花園ですか。でもあたしに仰ってしまったら秘密では無くなってしまいますよ?」
 くすりと笑った彼女に私は肩をすくめる。
「今夜はとても良い時間が過ごせていますので、つい口が軽くなってしまいました」
「でもやっぱり秘密の花園ですから、あたしをそこには入れてもらえないのでしょう?」
 少し意地の悪い笑みを浮かべる彼女に私は苦笑した。
「ええ、すみませんが、あそこは彼女と一緒以外ひとりでは入らないと決めている場所ですし、三人の秘密の花園ですから」
「ええ、わかっていますとも。意地悪で言ったんです。ご馳走様です、セレスティさん」
 そして私たちは共に口元に手をあててくすくすと笑いあった。
「あの花園は私が児童文学の通りに作ってくれと提案したもので、彼は短期間にそれに充分に応えてくれましてね」
「なるほど。その秘密の庭にはたくさんの想いが込められているんですね。ああ、だからそこに咲く花々はとても綺麗な声で歌を唄う。でもこれはどちらかと言うと、愛の歌ですかね?」
 どうやら今夜の彼女は手加減が無いらしい。だが人にはどのような人にも弱い部分や秘密がある。そう、この私にだってそれがあるんだから。
 私は少し興味を持った。
「大切な人と秘密を共有するのは何か他の人とかわす約束などとはまた特別だと想うのです」
「確かにそうかもしれませんね。そういうのはあるかもしれません」
「まあや嬢にもありますか、そういう話が?」
「聞きたいですか?」
「ええ、それは是非に」
 私はスノーと一緒に彼女に頷いた。
 まあや嬢は小さく溜息を吐きながら肩を竦め、吐いた溜息でふわりと上がった前髪が額を叩くのと同時に口を開いた。
「秘密、そうですね。あたしにも秘密を共有した子がいました。今では顔も名前も、それが本当だったのかすら覚えていない…遠い想い出。記憶」
 さわーっと庭を風が渡った。
 揺れる花々が奏でる音色はどこか私に焦燥感のようなモノを感じさせた。
 しかし私にはその感覚がわからず、そしてそれは風が通り過ぎて、世界が静かになると、消えた。
 だが消えたのはそれだけではない。
 先ほどまで絶えずオーケストラを奏でていた虫たちの声も消えたのだ。
 夜の帳が降りた庭はただ風に揺れる花々の音色だけが聞こえる。
「その想い出って、どんな想い出だったんでしか?」
 この小さな妖精は世界の奏でる音色が変わったのに気付かないのだろうか?
 私は衝撃を受け、しかし意識は彼女の口から紡がれる思い出話へと傾けられた。



 +


「それでこの花はでしね………聞いていますでしか、セレスティさん?」
「え、あ、はい、聞いていますよ、スノー」
 空中に飛びながら背中の羽根を動かして頬を膨らませる彼女に私は微笑みながら言った。しかし実は言うと彼女の声は聞こえていたが、意識はまあや嬢が語った思い出話に行っていた。
 果たして彼女が体験したあれは、彼女のただの想い違いなのか、それとも彼女の能力が引き起こした異界遭遇であったのか?
 そう、綾瀬まあやは闇の調律師で、幼い頃から不思議な力を持っていて、そのせいで幼い頃から闇の者に狙われ、最悪事態としては両親を殺してしまった。
 彼女が語ってくれたのはその後の事であった。両親が死に、彼女自身も大怪我を負って、それで………



『ええ、そう、それで大怪我を負ったあたしは病院に入院したんです。あたしはただ幼心に自分の能力が両親を殺した事をわかっていて、それで、そう、それでその時は死んでしまいたかったんだわ。そんな時だった………彼女が居るあの花園に迷い込んだのは………』



 風に乗って聴こえてくるヴァイオリンの音色。
 それはひどく物悲しく、そして戸惑いに満ちていた。
「その想い出とやらを想像しながら弾いているのですか、まあや嬢」
 綾瀬まあやは私にひとつ、嘘を吐いた。
 彼女はその時は死んでしまいたかったんだわ、と言った。それは過去形だ。その言い様だけを聞いていると、その時だけの感情にそれは思えるが、しかし彼女は今も死にたいとそう願っている。
 そう、彼女は死にたがっている。
 闇の調律師としての力をつけ、私を助け、そしてその他にも多くの事件を解決する彼女だが、それは闇の調律師としての使命や過去の清算などではなくただの遠回りな自殺願望なのではないのであろうか?
 私は彼女を見ると時折ものすごく悲しくなってくる。
 彼女は哀しいぐらいに誰よりも過去というモノの鎖に囚われて、重い十字架を背負っているから。
 できるならば私はそれを解いてあげたいと想うものなのだが、しかし…
 ――――――彼女が生きているのは、それは関わる事件において彼女に敵対する者が彼女よりも弱いからで、それは彼女のプライドがあるが故…つまり彼女は自分がただ自分よりも弱い相手に殺されるのが許せないだけで、それでは自分よりも強い相手に巡りあったら簡単に死を選んでしまうのかといえばそうはいかなくって、それでもそれをなんとか倒してしまうほどにプライドが強くって、要するに彼女は生への欲求ではなく、プライドだけで生きてるようなもので、そんなプライド高い彼女に私が何ができようか?
 私は苦笑を浮かべながら、肩を竦めた。
 しかしそれ、をもしも私がどうにかできるのならあの娘の背負う十字架の重みは少しは軽くできるやもしれない。そう、それ、は確かに私の前に開いているのだから。
「セレスティさん、これは何でしか?」
 先ほどまでは空中を軽やかに飛び回りながら私に花が想っている事や花言葉、花物語を語ってくれていたスノーが私の服にしがみついた。
 私は彼女に優しく微笑みかけながら、スノーを剥がして、胸のポケットに入れる。
「異界の扉ですよ。これは」
 そう、異界の扉。
 私は考える。
 綾瀬まあやは無意識に今夜、私の庭とこの異界の扉が重なるからあの想い出話を私にしたのか、
 それとも彼女がそれを話したからこれがここに開いたのか?
 どのみち私は入るのだが。
 そう、ほんの少しの気まぐれに興味を持った綾瀬まあやの秘密。
 その一つを私は見る事ができるのだから。
 私はいともあっさりと、私の庭に開いた異界の花園への入り口(ツタ系の植物を組み合わせて作ったアーチ型の入り口)へと入った。



 +


 それをなんと説明すればいいのだろうか?
 そこには何の秩序も無く四季の花々がただごっちゃまぜになって咲いていた。
 そう、何の秩序も無く、ごっちゃまぜに、四季の花がだ。
「これをうちの庭師が見たら何といいますかね?」
 その様子も言葉も私には容易に想像がついてつい笑ってしまった。
「何が面白いでしか、セレスティさん?」
「え、いえ、何でもありませんよ」
「そ、そうでしか…。わたしはここが怖いでし。戻りましょうでしよ、セレスティさん」
「ああ、でもスノー、残念ながら私たちが入った扉は閉じてしまいましたよ」
「はう」
 私のポケットの中で固まった妖精に私は苦笑した。
 そう、異界の花園の入り口は閉じてしまった。
 これはおそらくはこの異界の主と会わねばならぬようだ。
 そうしなければあちらには戻れない。
「さあ、行きましょうか、スノー」
「はいでし」
 私は無秩序に咲く花園に一歩、足を前に出した。するとその花々は私に踏まれる事を嫌って、さっと私を避けるのだ。
「そこは異界の花という事ですか」
 そうそう、私は無秩序に四季の花が咲き乱れると言ったが、咲いている花にも統一性は一つはある。
 それは全ての花が白だということだ。
「あ、スノードロップでし♪」
 白のアサガオが咲くその横で、スノードロップの花は咲いていた。
「でも何で白の花ばかりが咲いているんでしかね、セレスティさん?」
「おや、スノー。あなたもそれに気付いていましたか」
「それは気付いていますでしよ」
 珍しくスノーは苦笑というモノをその小さな顔に浮かべて、私はこのいつも能天気そうな妖精がそんな表情も知っていた事に余計に笑えた。
 しかし何とか笑声は我慢して、そして私はそこを指差しながら彼女にそれを言った。
「まあ、それはあのライラックの下にいる少女に訊いてみましょうか?」


 ライラック…白のライラックの花は死者へと捧げられる花。


 その少女は数と言う概念を度外視した幾億もの白のライラックの花に埋もれていた。
 そしてその花に埋もれている少女は………
「まあやさんでしか?」
 そう、幼き日の綾瀬まあやであった。
「なるほど、この花園の花、すべてが白なのはそういう事ですか」
「はいでし?」
「白のライラックは死者への花。つまりは白は死を暗示する花として見立てられ、そうしてここには無秩序に白の花が咲き乱れるのですよ。それでも…」
「それでも?」
 希望という花言葉を持つスノードロップが咲くこの花園は完全なる死の花園ではないのですけどね。
「でもここの花園は怖いでし。お花さんたちの声が聞こえないでしよ」
 私の胸元でスノーがそう呟いた瞬間、そこにある花々が一斉に風も無いのに揺れた。それはどこかさざなみのような音を奏でて、そしてただただ白の花びらが空に舞い上がった。
 白の花びらの花霞み。
 白の花びらの嵐。
 舞い狂う白の花びら。
 息も出来ぬほどの白の花びらの世界の中でいつの間にか幼い頃の綾瀬まあやを抱きしめる今ひとりの少女がいた。



 +


 かつてここは色取り取りの花々が咲き乱れ、そして花が楽しそうに歌う幻の花園という場所だった。
 私はその幻の花園の守人として、ここに居り、花園の花を愛で、そこで取れた種を人の心へと飛ばした。
 そう、それがこの幻の花園の役目。
 その花は人の夢の世界に行きつき、美しい花を咲かせるのだ。
 それは夢であり、希望であり、願いであり、疎は汝の夢の世界において色様々な花を咲かせるただ一輪の花となりて。
 だが私は彼女と出会ってしまった。
 綾瀬まあやと。
 私は此処に居るのが好きだったわけではない。
 ただひとり、この無限に続く花園にいて、花だけを相手にする日々がものすごく嫌だった。怖かった。哀しかった。寂しかった。
 だけど此処に綾瀬まあやが来たのだ。



 あたしは気付くと花園に居た。
 ただひとり生き残った事に絶望したあたしは、皆に謝りたくって、申し訳なくって、自分だけが生きている事が哀しくって、だから死にたいと願っていて、そうしたらその花園に居た。
 その様々な花が咲く花園に。
 そしてあたしはその花園を見て、泣いてしまったのだ。
 花があんまりにも綺麗に楽しそうに咲いているから。



 私は彼女が何で泣いているのか、わからなかった。
 だけど私は彼女が此処に来てくれたのが嬉しかった。
 それで私は彼女に話し掛けた。
 そして彼女はこの私が精魂込めて育てた花園を褒めてくれて、そうしてしばらくの間、私の話し相手になってくれて、それがどれほどに嬉しかっただろう?
 だから私は私が彼女の望みを叶える事ができる花を咲かせてあげると言った。
 そう約束した。
 そしてその日から、この花園は白の花だけを咲かせるようになった。
 彼女が私に聞かせてくれた白のライラックの悲しい伝説を見立てとして。



 +


「どうして、あなたたちは此処に来れたの?」
「おそらくは綾瀬まあやを媒体として、私もこの異界の花園に感染したから」
 綾瀬まあやにこの異界の花園を聞いた事によって、私はこの異界の花園を認識できた。知っているならば、私がそれを見逃すことは無い。逆に知らなければ見逃す…認識できずに、通り過ぎてしまうのだが。
「まあや、まあや、まあや、まあや、まあや、まあや、まあや、まあや、まあや、綾瀬まあや。私の初めての友達。だけど私は彼女が望む花を育てられない」
 彼女はヒステリックに泣き叫んだ。
「あなたは彼女が望む花をわかる? この世界の花は、その人の望む花を咲かせる。ならば私はまずはその種を得るためにその花を咲かせねばならない。だけどその花を私は咲かせる事ができない。どのような花を作って彼女にその種を贈っても、その花は彼女の中に根付き、花を咲かせない」
 嘆き哀しむ彼女に私は頷く。
「ふむ、それは問題ですね。まあや嬢の望む花を咲かせたいが、咲かせられない。なるほど。でもそれはあなたが勘違いをしているからでは?」
 私がそう言うと、彼女はじっと私を見た。その彼女に私は言う。
「この花園の花はすべて白に溢れている。それは彼女が死を願っていたから? そうかもしれない。今も尚、彼女は死を望んでいる。おそらくはそういう精神には花は咲かない。どのような花の種もまた根を張る事はできずに枯れるでしょう。そう、花とは枯れるために咲くのではない。咲くために咲くのですから。だから彼女の心の奥底にたとえどのような願いがあっても、今のその土壌(まあやの心)が死んでいてはダメ。ならばまずはその土壌を改善する事を先にせねば」
「だ、だけどまあやは死にたがっていた。あなただってそう言って…」



「だからあなたは綾瀬まあやを殺したいのですか?」



 そう言った瞬間に花園すべての花が散り、枯れ、そしてそれを肥料とするかのようにまた新たな花が咲いた。
 今度は色取り取りの花が秩序正しく咲き乱れる夢幻の花園。
「ふわぁー、すごいでし、すごいでし」
 そして少女はその手に持っていた一輪の花を私に託した。
「カンパニュラ。花言葉は感謝、でしたかね、スノー?」
「はい、そうでしよ♪」
 彼女はふわりと嬉しそうに笑った。
 そして私は少女を見る。
 彼女は私のもう片方の手に一粒の種を託した。
「私はまあやにこの花の種を贈るわ。この花は死を望む花ではない。きっとこの花の種は、彼女の中でその時を待ち続けると想う。ずっとずっとずっと」
「ええ。いつかこの花の種が彼女の中で芽吹き、綺麗な花を咲かせるのでしょう」
「はい」
 そして私が立つ場所からまっすぐにカンパニュラに似た花が左右に咲く路ができる。
 それは風が渡るたびにしゃんしゃんしゃんと音を奏でた。
「そのカンパニュラの花をまあやに。私はあなたに感謝していると」
「ええ」
「それとこのカンパニュラはあなたとその妖精に」
「私はセレスティ・カーニンガムと申します」
「わたしはスノードロップでし♪」
「ええ。セレスティさんとスノードロップさんにもこのカンパニュラの花を。ありがとう。本当にあなたたちに出会えてよかった」
 少女は花が咲き綻ぶように笑った。



【ラスト】


 私は綾瀬まあやの秘密を知った。
 彼女は常に黒の服を着て、死と共に居るが、
 しかし彼女の心の中では静かにその何かが変わり始めているということ。
 彼女は誰にもその本心を見せない人だから、大抵の人はそれに気付けないけど。
 そして彼女の中では、ひとつの種が今はまだ種のままでいつか芽吹く事ができるその日を待ち続けているという秘密も知っている。
「さてと、その種とは一体、どのような花を咲かせるのでしょうね?」
 私が手に持つカンパニュラの花にヴァイオリンを奏でながら小首を傾げた彼女に私は微笑んだ。


 ― fin ―

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


【 1883 / セレスティ・カーニンガム(せれすてぃ・かーにんがむ) / 男性 / 725歳 / 財閥総帥・占い師・水霊使い 】


【 NPC / 綾瀬まあや 】


【 NPC / スノードロップ 】




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■         ライター通信          ■
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こんにちは、セレスティ・カーニンガムさま。
いつもありがとうございます。
このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。
いつも嬉しいお言葉本当にありがとうございます。

今回はまあやの秘密ということでこのような物語に。
まあやの裏設定を使ったバトル作品にしようかな? とも想ったのですが、
セレスティさんの秘密の花園と絡めて見るのも面白いかな? と、想ったので、今回はこのように。^^
バトル作品もセレスティさんさえよろしかったらいつかやってみたいです。^^


そして今回も迷える子羊NPCを救っていただきありがとうございました。
やっぱりセレスティさんは冷静沈着で、相手の心を見抜き、的確な判断をして、優しく穏やかに言い諭してくれるというイメージがあるので、
いつも迷える子羊さんの心理カウンセラーになっていただいてしまいます。
でもそういうセレスティさんがすごく好きだったりしますので。^^
や、でも水を扱い、敵を倒すセレスティさんもすごく好きなのです。
次回機会がありましたら本当にセレスティさんに戦って事件を解決してもらうお話を書いてみたいです。^^
(と、なんかさりげなくおねだりみたいな文章に。(汗))

それと作中に使った白のライラックの伝説とは、イギリスの伝説で、お墓に供えた紫のライラックの花が翌日には白の花に変わっていたというモノで、
白のライラックの花にはそういった死を感じさせるお話が多いようです。でも花言葉は無邪気、青春の喜び、愛の最初の感情、美しい契りというモノなんですけどね。^^


それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
本当にありがとうございました。
失礼します。