コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


龍の縛鎖 【第3回/全4回】

●プロローグ

 テレビから場違いなくらい軽い警告音が鳴った。

『――緊急速報です。都内で突如巨大な暴風雨が発生しました。この異常な気象現象については各省庁では目下詳しい情報を調査中とのことでありますが、このまま発達を続けると巨大な被害を関東一帯にもたらすと予想されています。政府及び関係各省庁では緊急対策本部を設置することで――』

 緊急情報には何一つ真実なんて流れない。
「なんだろう、これ‥‥」
 日本の都市部で突如発生した局地的な暴風雨? 最近、ヒートアイランド現象がどうとか言われているけれど、その波及効果の一種なのか。
 窓から空を見上げた。
 轟く暴風は空を切り裂き、黒雲をものすごい勢いで吹き流している。まるでビデオの早送りを見ているような空。
 そして、東京タワーには巻きつくように巨大な紅い龍が‥‥。
「これは‥‥夢?」

 都心では、誰もが同じ光景を目撃していた。

                              ○

 人気アイドルであり、龍使いの家系に生まれた巫女でもある天羽 八雲(あもう・やくも)は、機械の魔術を使う謎の一団にその身を狙われていた。
 彼女の双子の姉である天羽 和泉(あもう・いずみ)が先日、誘拐されたばかりである。

 コンサートを警備していた能力者は女魔術師に問う。
「なあ、何で八雲さんや和泉さんを連れ去ろうとするんだ? 一体何が目的なんだよ」
「何をわかりきったことを。龍使いの巫女は、龍の力を発動させるための鍵でしょう? 巫女を得て、巫女の力を引き出すことでわたくしの龍の力はもっともっと上がっていく‥‥うふふ、この時代に双子の龍使いが現れたのは、彼女たちにとっては不幸で、わたくし達にとっては僥倖ということね」
「――あれは、姉さん‥‥」
 飛行船の上から巨大な龍を見上げた八雲は、額に埋め込まれた和泉を見た。
 二人の間でだけ空気が止まる。
 静止した時間。閉じられた和泉の瞳が開き始める。双子の眼と眼が合った。
 輝く黄金色の和泉の瞳。
 叫び声をあげて八雲は弾けるようにのけぞると、膝をついて倒れた。
 ‥‥感じる‥‥。
 和泉の唇がかすかに動く。同時に誰もが感じ取っていた。もう一つの巨大な力の覚醒――。
「緊急連絡です! 東京タワー方面に、巨大な龍が、紅い龍が出現したそうです‥‥!」

「面白いわ。予測より早いけれどいいでしょう。そちらを優先して確保をします」

 機械の龍からけん引の魔力が放たれ、飛行船ごと掴まえて移動を始める。
「わたくしはネオ・ソサエティ四大魔術師の一人、五大元素の魔術師―― 歌美咲 霊樹(かみさき・れいじゅ)です。奪い返したいのでしたらご自由に」
 白銀の龍は、低い響きを上げて東京タワーへと向かい始めた。
 新たの戦いの場所は、東京タワー上空。
 その空間には紅い龍が待つ。

 果たして、能力者たちは双子の龍使いの巫女を助け出すことが出来るだろうか。
 そして、天羽家に隠された秘密とは一体――。 


●大空中戦U

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥くッ!」
 機械龍の放った衝撃波で『空飛ぶ箒』を破壊された 五降臨 時雨(ごこうりん・しぐれ) は高度数百メートルから地上めがけて一直線に落下していった。
 ――――――――
 ――――
 ばふっ。
 ごつごつした固い足場の感触。
 地上にはまだ早い。
「だ、大丈夫ですか、時雨さんっ!!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥ああ、助かっ、た」
 直径20mくらいの円形の物体が彼を受け止めていた。
 魔法のじゅうたんの上から見下ろした蒼色水晶剣の巫女―― 鶴来理沙(つるぎ・りさ) が叫ぶように声をかける。時雨を助けたのは、急ごしらえで彼用に用意されていた謎の飛行機械だ。
「急いで追いかけましょう、このままでは引き離されるばかりですのでっ!」
「‥‥‥‥‥」
「どうされたんですか?」
「‥‥‥‥‥動かな、い‥‥」
 ガク。
 几帳面にズッコケることを怠らない理沙。その飛行機械はふよふよと漂ってるだけで、全然動こうとしない。気配すらない。なんなんですかこれは!?
 また欠陥品のようだった‥‥箒に続いて‥‥。
「そんなヘンテコな道具さんは選ばないでください時雨さん、もうっ!」
 理沙、かなり涙目だ。
「‥‥‥‥‥理沙‥‥お願い、ね‥‥」
「あうぅ〜。(5回ほどため息してから、深呼吸1回)もう、わかりましたよぉ」
 こうして理沙がじゅうたんからロープで引っ張りながら、時雨は龍を追いかけることになった。
 20mなんて大きすぎて迷惑極まりない道具だが――それはまあ、いつものことなので――。

                              ○

 天馬に乗った 咎狩 殺(とがり・あや) は唇をそっと細い指先でなぞる。
「くす‥‥紅い龍‥‥いいわ、どんどん面白くなってきた‥‥」

  紅い龍。 赤い龍。
                    あかいりゅう。
     ――――アカイリュウ。
 まるでそれは血のような赤。血の紅色。鮮血の紅‥‥死色の朱。鮮血。紅蓮。烈火の色彩。破壊の色。破壊の色。破壊の色。破壊の色。破壊の色。破壊の色。ハカイのイロ。凡てを終わらせる終末色。
 風が強い。雲と夜空を引き裂き嵐がやって来たようだ。
 真っ赤な着物を着た幼さを残した少女が見降ろす先は、闇の中をスポットライトで輝く東京タワー。

 東京タワーには、とぐろを巻くように巻きついた、禍々しくもあり神々しくもある巨大な紅い龍の姿があった。

 スベテヲオワラセルシュウマツイロ。
 その姿の意味は、矮小な人間如きでは判断できないのかもしれない。しかし、視覚的にありえない存在が幻想的な風景として大衆の前に姿をさらしているという真実。
「それにしても、あの機械仕掛けの龍‥‥そろそろ邪魔になってきたかしら。お前、あれを抑えておきなさい」
 羽を持った巨大な人形に殺は命じる。
 機械仕掛けの人形『Deus ex Machina(機械仕掛けの神)』に向かって囁く殺の妖艶な声な呼びかけに、彼女の背後に控えていた巨神は地平線の彼方からやってくる「それ」を迎え撃つべく、重々しい動きで迎撃の体勢をとった。

 ――――機械龍『D−オメガ』――――

 百八十五層に及ぶ超純度の魔力結界を持つ魔龍。伝説のレニウム魔鉱石と神鉄鉱ミスリルを配合させたスーパー・ミスリル装甲で武装され、いくつもの魔力兵装を完備した殺戮兵器――――
 人の手によって造り出された地上最高最強空前絶後の存在であり、機械魔術の結晶の一つとも言うべき巨大な白銀の龍は、大気を切り裂き、東京タワーに到達しようとしていた。
 天羽 八雲(あもう・やくも) の搭乗する巨大飛行船ごと誘拐しているせいか、進行速度こそ遅れているものの、光の街の地平線から姿をあらわした禍々しい龍は圧倒的なプレッシャーと存在感を併せもっていた。

「いくら外道とはいえ命には哀れみをもって接してください」
 龍を追撃していた悪魔憑き―― 神無月 慎(かんなづき・しん) は、儚げな微笑で彼の引き連れた悪魔軍団にさらなる命令を下した。優等生という仮面をかぶりながら。穏やかにして追われそうなほどに繊細な雰囲気からは想像もできない苛烈な指示を下す。
「さあ、攻撃を始めてください。私の軍団たちよ‥‥(下らん人間など食い散らかしてあげて、滅ぼしてさしあげるのが悪魔の本懐でしょう。彼らも満足でしょうしね、ふふ)」
 そう、くだらない。
 人間など、男どもは私たち悪魔の餌と奴隷、女性たちは全て私のもの――私の占有物なのだから。
 この仮面は脱ぐことはない。脱がないことが、私を私として獲得させ、高次の存在へと引き上げている。
 飛行船を連れた巨龍に追いつくと、慎は自身の翼で空中を滑空すると、いっせいに龍と飛行船を守る機械の魔術師たちに襲いかかった。
 外道の魔術しと非情な悪魔軍団が互いに喰らい合い、殺し合い、壊し合い、潰し合い、凄惨な光景が一面に広がる。

 火宮 ケンジ(ひのみや・けんじ) は息を切らしながら高度数百メートルの空を走っていた。
 ようやく現場に追いついた。
「ああ、俺さ、選択間違ったかな――息が切れて、もう、胸焼けそうだっての‥‥はぁはぁ」
 空飛ぶ靴をはいているケンジはようやく戦闘区域にまで辿り着いた。
 飛行船を連れてスピードが落ちているとはいっても、生身で走って追いつくのは生半可な作業ではなかった。追いかけ始めてすぐに後悔した。
 いや、実際よく追いつけたよ俺。こんな異常な輩相手にして。自分で自分を褒めてみたくなる。しかし、そんな暇すらケンジには与えられなかった――。
「す、凄いなこれ‥‥!?」
 絶句の一言だ。巨大な翼をもった人形が銀色の龍を押しとめ、悪魔軍団が魔術師たちと殺しあう。さらに、その向こうには東京タワーに巻きつく巨大な紅の龍――――これは本当に現実の世界だろうか。
 信じられない光景にめまいを覚えながら、ケンジは思わず頭を押さえたくなる衝動に耐えた。特殊な力は持っていても何の変哲もない、平凡な、といってもいい一大学生なのだから、せめて気持ちでは負けていられない。
「八雲さんは俺達の事を信じていると言ってくれた。だから俺はその期待に答えたい」
「ケンジさん、少し休んだらいかがですか?」
 上空から声が聞こえる。時雨を連れた理沙もようやく追いついたようで、魔法のじゅうたんから声をかけてきた。
「いや‥‥俺の力なんてたかが知れてるけど、それでも八雲さんと、和泉さんの為に戦いたいと思っている」
「でも――」
 心配そうな理沙を振り切るように不器用な笑顔を見せる。
「んじゃ、そーいうわけなので、俺はちょっくら八雲さんを助けてくるから」
 ケンジは乱戦の中を飛行船に突入した。戦いの余波を受けないように避けながら飛行船に辿り着くと、耐気圧性の硬質ガラスでつくられた窓を手にしていた細身の剣で叩き割り、船内に侵入する。彼女のいるドーム天井に直接行くには敵が多すぎるとの判断からだ。
 内部では多くの人たちが意識を失って倒れていた。機械龍に捕まった時に、なんらかの魔術で気絶させられたのだろう。
(‥‥八雲さんはどこだ――!?)
 魔術師たちも数名入り込んでいるようだ。通路で出会った一人を叩き伏せて先に進み、ドームの天井部に通じる扉を開けた。
 その中央で天羽八雲が倒れていた。
「助けに、来てくれたのね‥‥」
「当たり前だろ。助けに来てくれると言ったのは――八雲さんじゃないか」
「そうだったね。‥‥ありがと。私の馬鹿な思い込みなんかを律儀に守ってくれて」
 助け起こされた八雲は、礼を述べているというより悪戯が見つかった子供のようだ。
「気にするなよ。俺、親切が好きだから」
「それじゃさ、親切ついでに、もう一つお願いしてもいいかな? 私を――姉さんのところにまで連れて行ってもらえない?」
 突拍子もない願いにケンジは面食らう。ここまで来るだけでも大変だったというのに、さらにこの激しい戦いの真っ只中、最激戦のひとつだろう彼女の姉、天羽和泉の囚われている場所まで連れていけだなんて――。
「危険だけど、分かってるのか」
「覚悟は出来てるつもりよ」
「わかった。連れて行く。でも、その前に一つだけ教えてほしい‥‥どうしてこんな状況で和泉さんに会わなくちゃいけないんだ?」
 姉を心配する気持ちは分かる。でも、戦いの中を危険を犯してまで、危険な今、八雲が和泉に会おうとする意味がわからない。
「それはイッツ・シークレット♪」
 こんな状況でジョークですか。呆れるやら頼もしいやら。
「真面目に聞いてるんですけど、俺」
「一口に説明することは難しいんだけどな‥‥そうね、謝らなくてはいけないことがあるの。それと、伝えたいことも‥‥」
 八雲は視線を上げると、タワーに撒きついた紅い龍を見た。
 仕方がないと気持ちを切り替えて、ケンジは八雲の腕を取り、剣に紅蓮の炎を纏わせた
「――――少し無茶するが、しっかりついて来てくれよな」


 五大元素の魔術師―― 歌美咲 霊樹(かみさき・れいじゅ)。
 いた。女魔術師がそこにいた。
 慎は獲物を見つけると雑魚を蹴散らし、一直線に飛翔しながら彼女へと向かう。
 飛翔しながら、自分の悪魔軍団を呼び寄せ――

   残さず 「自らの体に取り込んだ」。

 慎は体を巨大化させ、背中から69本ものグロテスクとも美しいとも艶かしいとも取れる触手をはやした。
「さあ、まだまだです‥‥愉悦の宴を始めましょうか(もっと来なさい、わたしの悪魔たち‥‥漆黒なる眷属、悪魔の軍団よ!)」
 さらに悪魔たちを召喚して魔術師たちを襲わせる。
 そして、慎は辿り着いた。
 白銀に輝く龍の頭部にたったその女魔術師のいる場所――――。
「よく辿り着けたものね。このわたくしまで――――」
 問答無用で触手が霊樹に巻きつく。
 彼女の全身を絡め取った――だが、その体は根が生えたようにピクリとも動かない。
「うふふ‥‥あなた、わたくしを吸収したいのですか? まるで飢えた獣ね。うふふ。見苦しいくらい美しく、哀れね。その狂気なる精神。その異常な魂の器。狂おしいほどの邪悪を感じます――」
 霊樹を吸収して取り込もうとした慎。しかし、霊樹は足元から龍と融合を始めていた。霊樹腿刃やこの白銀の巨龍の一部となり始めていて、彼女を取り込むということは、この巨大な力を持つ龍の凡てを飲み干さねばならないのと同義に他ならない。
 融合を進行させながら、挑発するように霊樹は嗤った。
「わたくし、賞賛してあげてますのよ。あなたのように聖から外れた異形なる存在、嫌いではありませんから」
 悪魔は――慎は狂ったように嘲笑を上げた。愉快だ。この女は愉快すぎる。
 もはや、慎は己の内なる闇を隠さない。
 隠す必要すら微塵たりとも認めない。
「下賎な女風情が――至高にして絶対なる私を語るか、下種が! いいでしょう。貴様は、この手で直々に全てを奪い尽くして差しあげましょう」


 白銀龍は、殺を眼前に捉えていた。
「それじゃ行きましょうか、蝕」
 龍と人形がぶつかり合う中を、蝕と一緒にあがっていき、龍のその額へ――龍に取り込まれた天羽和泉のいる場所へ舞い降りた。
「さぁ、紅い龍がどんなものを見せてくれるか楽しみだわ‥‥くすくす」
 降り立った少女に一人の魔術師が襲い掛かり、一瞬にして返り討ちにされる。興が削がれるとばかりに冷たい視線を向ける。
「‥‥全く、飼い主と同じでペットもうるさいわね‥‥。蝕、好きなだけ喰らっていいわよ、行きなさい」
 骸骨を模った人形・蝕は解き放たれた獣のように次々と近づく敵を薙ぎ払う。凄まじい戦いを背にして、殺は和泉の前に立った。
 彫像のように和泉は反応しない。
「天羽和泉‥‥あなたは今、何を考えているの? 悲しい? 悔しい?それとも何も考えていないのかしら?」
 動かない。静止した和泉の頬に手を差し伸べると、静かに触れる。
「あなたのことはちょっと気に入ってるの‥‥答えるなら、あなたが望むようにしてあげるわ」
 これが、囚われているという状態か。怒りという感情を知らない殺には、ただそれが綺麗なものに見えた。和泉の何も映さない金色の瞳。無機質な瞳から頬にかけて透明な雫が流れ落ちている。
「‥‥泣いているの? あなた」
 頬に手を添えていた殺は、そっと舌で零れ落ちる涙を掬うと、妖艶な微笑を浮かべる。
「くすくす、生きてはいるのね‥‥意識はあるのかしら」
 ‥‥ころ、して‥‥くださ、‥‥
 声が聴こえた。
 いや、声ともいえないような、かすかな音。無機質な空気の振動。和泉の唇が、小さく、震えるように動いている。
「あの子、来てしまったら――出会ってしまったら、八雲が、こんどは‥‥とりこまれて‥‥しまうから‥‥龍が、青色をしって、しまうから‥‥」
 
 殺は、彼方から近づいてくる八雲とおまけのもう一人の姿を捉えた。
 視線を東京タワーに向ける。
 彼女が近づくにつれて、龍の色は徐々に青色に染まりつつあった。龍を中心に嵐が吹き荒れ始める。
「‥‥だから、その前に‥‥わたしを。ころして――」


 ケンジは八雲を連れて額に向かうが、途上で霊樹と慎の戦いを目の当りにする。
「歌美咲霊樹‥‥奴を倒せば機械龍も止まるかもれない。はっきり言ってオレに倒せる相手かどうかは解らない‥‥」
 魔術師たちがケンジを取り囲んだ。霊樹を守るように、そして八雲を狙うようにこちらの隙をうかがっている。
 ケンジは宣言するように炎の剣を構えた。
「だけど! 俺は自分の欲望の為に罪の無い人を巻き込むような奴は許せねぇっ! 全ての力を出し切って奴と戦う! これ以上八雲さん達を好きにさせてたまるかっ!」
 一瞬にして十数の魔術陣が空間に展開され、数上の光がケンジを薙ぎ払い、焼き尽くす。
 爆炎が埋め尽くした。
 だが、煙の中から現れたのは肩で息をしながらも無事なケンジと八雲の姿。
「馬鹿な――!? レーザー光線を焼き尽くした!? そんなこと科学的に、物理的にあり得ん!」
「んなこと俺が知るかよ」
 と強がりながら、かなりの力の消費を感じて危機を感じる。次の一斉射撃には耐えられるかどうか‥‥瞬間、魔術師たちが吹き飛ばされた。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥早く、いって」

 謎の空飛ぶ塊からロープでぶら下がった時雨が、長刀の一振りで放った強烈な「真空波」による攻撃。
 そのまま龍の背に着地して、敵から降り注ぐレーザー光線と魔法力による雨のような攻撃を疾風のような動きで全てかわし、力をためた状態から再び長刀を振るう。
 龍の肌ともいえる金属の大地を斬りとって魔術師たち語と吹き飛ばした。
「‥‥す、凄い」
 圧倒的な破壊力。
 向こうで龍と一体化している霊樹が悲鳴を上げた。時雨の一撃は確実に機械の龍に、龍と一体化した霊樹にダメージを与えたのだ。
 ちなみに、理沙は時雨の使っていたロープに絡まっている。
「ふえ〜ん、何でこんな役回りなんですか私ぃっ!?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥だったら、手伝って」
 理沙のロープを切り。時雨は彼女に剣を持たせ。そのまま魔術師たち目掛けて彼女を投げつける。
「ええええぇぇぇぇぇっっ!!!!!!! 時雨さんボケすぎいぃぃっ!!!」
 魔術師たちを吹き飛ばしながら理沙は空の星となった。キラーン。
 一方、時雨の活躍でケンジは八雲を連れて防御陣を突破した。

 もうすぐ、別れていた龍の巫女たちが出逢う――。



●怪物が姿を顕すとき

 青い世界。
 天使の瞳を持つ少女――羽見 望(はねみ・のぞみ)は電脳空間に出現したその不思議な場所、《龍の夢》に潜り続けた。
 そこで謎の長い黒髪の少女と出会った。
 青の深遠で彼女が指差す先に何かが視える――。
「あれ、は――」
 あれは今、自分を案内してくれている少女と瓜二つの姿。
 眠るように青世界の中心で丸まっている。
「あれがこの世界の中心。彼女を殺せばいいの。そうすればこの青い世界も死ぬし、あなた達も元に戻れる。どう? 簡単でしょう」
 ゾクッと冷気を感じる。

 眠っていた少女の瞳が、少しづつ開き始めていた。

 恐い。彼女は恐い。
 でも、望の中で別の感情も感じ始めていた。
 これは歓喜? まさか――。
 必死で首を振る。

「あなたは誰‥‥いえ、『何』なの?」

 そこへ、見計らったようなタイミングで瀬名雫(せな・しずく)と夢琴香奈天(ゆめこと・かなで)が追いついてきた。
「ダメッ! そんなこと許さないんだから!」
「軽率な判断は歓迎できないわ。彼女の言葉を信じていいとは私には思えないもの」
 望の手に、何か冷たい感触がある――視線を下げると目に入ったのは、自分が握っている白銀の槍。知っている。

 これは、力を奪い、能力者を殺す槍。

 望は状況もわからないまま選択を迫られる――――。
 青き竜の夢とは、天使の瞳とは、謎が深まるまま状況だけが変動していく。
 能力者や望たちの運命はどうなるのだろうか。

                              ○



「ついに‥‥ついに出番がきたああああああああああああああ!!!!!!」

 かぶと虫型武者―― 楓希 黒炎丸(ふうき・こくえんまる)は叫んでた。
 力いっぱい叫んでた!
「今行くぞハンスよ! ついでに悪い奴を蹴散らすのだ!!!! 萌(燃)えてきたぞオオオオォ!!!!!」
 テンション上がりまくり!
 というか、あげすぎ!
 ついに! ついに今まで出番のなかった彼が動き出す時がきた! 運命の瞬間が幕を開けるのだ!!
「空間転移開始いたす! 電脳ダイブシステム始動開始! 戦闘モードシグナルブルー‥‥‥‥レディ‥‥‥‥ファイッ!!!!!」
 やたら「!」が多いが気にしない!! 世界征服四人組の中で一番強い! 最も強い! 最凶に強い!! 切り札中の切り札が動き始めたのだ!!
「纏うは鬼神! 震えるは絶大! いざ! 楓希黒炎丸!!!」
 ダイブに見事成功して!
 一瞬にして黒炎丸は龍の夢に到達した!!!
 趣味で作られかぶと虫型の武者の姿をした機械兵士でもあることは秘密だ!!!!
 ――――――――。
 はぁはぁ。
 疲れたのでテンション戻します。
 とにもかくにも、黒炎丸は仲間に超巨大空中要塞を送ると言う任務と、謎の精神空間『龍の夢』への侵入という使命を果たし、この不可思議な戦いにおける参戦を宣言したのだった。


 ――――どこまでもが青かった。

 青一色の空間に漂う細身の男性、 安宅 莞爾(あたか・かんじ) は冷静に周囲の観察する。
 黒炎丸と同じく、莞璽もまたこの『龍の夢』と呼ばれる空間へのダイブに成功していた。
 元企業工作員の経歴を持つ凄腕シャドウランナー。通称『紅い牙』とも呼ばれている彼は、小型ドローンを使用した情報収集を行い、ここまでミッションをこぎつけたのだ。
 シャドウランナーとは、政府に代わり政治を牛耳る巨大企業が自分の手を汚さない為に雇う影の仕事のスペシャリスト達の総称である。

「あなたは誰?」

 人がいた。
 訊ねてきたのはボブカットの髪形をした、比較的冷静そうな少女だった。
「夢琴香奈天、だな。この空間に侵入した能力者の一人。そちらにいるのが瀬名雫か」
「あらら、身元がばれちゃってる。困ったな」
 外套を纏った端整な顔立ちをした彼は、単独行動でここまでの侵入を成功していたのだから、やはり只者ではないだろう。
「あなた、どうして私たちのことを把握しているのかしら」
 莞璽は一息ついて、彼女たちの向こうでにらみ合いを続けている二つの人影に目を向けた。
「事前調査に抜かりはない。ある程度情報が集まったら、次に謀略を起こしている人間のリストを洗った。そして容疑者を割り出しつつ独自の行動を起こした。それだけだ」
 不可思議な空間で愛銃『アレス・プレデター』の照準を外すことなく、莞璽は隙なく説明した。この手の状況説明は、信用を得る最も有効な交渉術だ。
「向こうでにらみ合っている一人が羽見 望だな。あの銀槍は、以前彼女が起こした事件の際に報告された目撃例の確認されている能力者殺しの魔槍か。もう一人は――」
 もう一人にも見覚えがある。
 事件の中心である、龍を司る天羽家に生まれた双子――龍使いの巫女だ。そのどちらかは判断がつかないが、確かに似すぎているほどの容姿は本人と言ってもいいだろう。
「前々から思ったんだが、俺はこの手の謀略には慣れているような気がするからな‥‥抵抗は考えるな。ミッションの支障となる場合であれば邪魔者は全て消すつもりだ。例えそれが同じ能力者であろうともな」


   ここは事象のねじれた歪みの特異点。
   それを作り出しているのが天羽家の龍の秘術。
   双子として生まれた、今代の龍使いの巫女による波及効果。
   その顕現した結果による現象なのだろうか。
   例えるなら、可能性に形を与えて、二つの可能性として分離してしまった鏡世界のよに。
   元は同じで、同じモノから分岐した相似なす多重世界。


「複雑な状況のようだな」
 それは黒炎丸の声だった。彼のこの場所に到達したのだ。
 だが、突然にあがった抗議の声。
「馬鹿にするなロボォ!! 何でいまさらお前に手伝われるロボ!? そんな覚えないロボ!!」
 それは黒炎丸の仲間である異世界からやってきた機械生命体―― ハンス・ザッパー(はんす・ざっぱー) の叫び声だ。
 ――――正確には、顔だけハンスだけど。
「簡単な話だ。貴様だけじゃ話が動かないからな、くっくっく‥‥」
「ロ‥‥ロボロボロボロボロボロボロボロボロボォ〜‥‥」
 がっくりと両手をついてハンスは泣き崩れた。まったくその通り、駄目ロボっぷりを発揮してきただけに、言い返せる言葉が一つもない。見当たらないのだ。
 ハンスは男泣きに泣き崩れた。
 むくっと立ち直る。(首だけで)
 仲間に連絡を取った(顔だけでどのように連絡を取ったかは謎だ)
 ピッポッパ。トゥルルルル‥‥。
「あ、月霞さんですか? ハンスですロボ。あの〜‥‥俺はどうすれば‥‥」
「別に何もしなくていいですよ?」
「あ‥‥そうですか‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥って違がああああああああああう!!!!!! 俺にも出番よこせロボオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「でも首だけだし」
「‥‥」
「安心してください。この依頼終わったら新しい体作ってあげますから」
「‥‥‥‥びえええええええええん!!!」
 感情の爆発で、ハンスの心が投影されて首だけハンスは光った。大きくなった。でもそれだけだった。
「貴様、なにをやっておるのだ?」
「大きくなった、ロボ‥‥」
「それで?」
「(声にならない泣き叫び)」
 漫才を繰り広げる二体(正確には一体の独壇場だが)を無視して、莞璽は静かに声をかけた。
 この場における中心となる人物、望とその向き合う少女に。
「大体事情は理解したつもりだ。つまり、あんたの決意一つなのだろう?」
 指差す先には、青い世界の中心に眠る少女。
 望は瞳を押さえた。
 黄金色に染まった瞳が、痛い――。
「私は――」
 槍を構える。
 衝動が沸き起こる。
 意思を、理性を駆逐する感情。
「消滅させる――」


 黒風丸の胸に不吉な予感がよぎった。
 気に掛かることがある――。
 仲間に空中要塞を送ったとき、空間座標の認識に歪みのような不自然な指数を観測していたのだ。まるで、同じ空間にいながら、違う世界を指し示しているような数値。空間の歪みというよりも、世界認識の地表に潜む座標の特異点。
「なに――そんな馬鹿な」
 空中要塞を送った時、時空転送に確かに、観測したのだ。

 望が、槍を振り上げた。

「私は、『この場所』を 消滅させる――」


 異常が生じた。
 『空間』の一部に亀裂が走る。
 振り上げられた槍は、銀の軌跡を描いて青い空間を引き裂いた。
 切れ目は『同じ世界』をつないでいた。
 一つは、大型の自然災害で崩壊に瀕している東京。
 もう一つは、今から自然災害が発生することで崩壊を始めようとしている東京。
 同じ東京が、別の姿として立ち現れ、黒炎丸の使った空間転移で出来た空間の軌跡を力点として、青い空間の裂け目を支点として、二つの東京の空に亀裂を作り出したのだ。
 それは座標でいえば丁度、東京タワーの頭上にあたる位置だ。
 事は、物理的な歪みというよりも、高次元な魔術的神秘性による現象と認識されるため、迂闊な判断は現状を見誤るだろう。
「何が起こったのだ、一体‥‥」
 莞璽には分からない。とにかく、今は自分の使命を果たすだけだ。
 あえて感想を述べるとしたら――。
「まるで、二つの世界が重なり、別の世界を創っているとでも評するべきか――」

 あるいは、それこそが今代の龍使いの秘密か。



 一方その頃――。
「‥‥‥‥でっかくなっても出番ないロボ‥‥‥‥」
 膝を抱えながら(という心象風景を思い浮かべながら首だけで)だめロボ・ハンスは黄昏ていた。
 緑色のでかいのは夕日を見ながら呟いたとさ(ちゃんちゃん)
 って、この空間に夕日なんてありませんったら。






【to be continued [The chain of Closed Dragons]LAST Part】

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3300/楓希 黒炎丸(ふうき・こくえんまる) /男性/1歳/かぶと虫型武者】
【3893/安宅 莞爾(あたか・かんじ)/男性 /18歳/シャドウランナー】
【3227/ハンス・ザッパー(はんす・ざっぱー) /男性/5歳/異世界の戦士】

【1564/五降臨 時雨(ごこうりん・しぐれ)/男性/25歳/殺し屋(?)】
【3278/咎狩 殺(とがり・あや)/女性/752歳/人形繰り】
【3340/神無月 慎(かんなづき・しん)/男性/17歳/高校生:風紀委員長】
【3462/火宮 ケンジ(ひのみや・けんじ)/男性/20歳/大学生】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 こんにちは、雛川 遊です。
 またもやこれほど遅れてしまって‥‥大変に申し訳なく思います。スランプといいますか、どうしても筆が進まない日々が続き。精神的な疲れが溜まっているのかもしれませんが、参加していただいたのにこのような遅延の言い訳にはなりません。ご迷惑をお掛けしたことを謝罪させていただきます。
 【龍の縛鎖】最終回の募集は、10月15日を予定しています。

 それでは、あなたに剣と翼と龍の導きがあらんことを祈りつつ。