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<PCシチュエーションノベル(グループ3)>


流浪の終着点


 千葉県柏の科学警察研究所から忽然と姿を消した風宮 駿の捜索は、警視庁超常現象対策本部と千葉県警の合同で行われた。一警察官の失踪にこれだけ大きな捜索が行われるのは極めて珍しい。周辺住民の間では街を駆け抜けるパトカーの多さに何事かと騒いだほどだ。だが、それもしばらくすれば終わる。行方不明者の捜索など、そう長くは行わないものなのだから。捜索に参加した警察官はいっこうに見当たらない風宮に対して同情した。
 しかし半月後、警視庁から現場に下った指示はその予想を大きく裏切るものだった。『風宮刑事の捜索は決して手を緩めてはならない』と短く書かれたプリントを読んだ警官は皆、その目を疑った。どうやら現場と会議室の温度差は相当なものだったらしい。結局、明確な理由を語られないまま、探索を継続させられた。来る日も来る日も道行く人間と写真の顔を見比べる所轄の警官たちの努力とは裏腹に、風宮失踪に繋がる手がかりはまったくつかめなかった。
 彼はある組織から回収した特殊なベルトを所持していた。それは不吉な名前で呼ばれ、明らかに超常現象対策本部を標的にした犯罪を起こすために作られたと推測されている。研究所襲撃事件もそのベルトの奪還を図った組織の犯罪だったが、目的は達成されていないとの目算が強かった。仮にその時回収したのなら、すでにそのベルトで次なる犯罪を起こしているからだ。そういった推測から、ベルトは風宮が持っていると考えるのが一番自然だった。だから警視庁は諦めなかった。しかし、その行方は結局わからないままだ……


 ある日の午後、いつものように神聖都学園から帰宅する少女が河川敷を歩いていた。彼女の名は佐藤 絵里子。ちょっとオタッキーでミーハーな、どこにでもいる女子高校生である。上を向いてゆっくりと歩く彼女の頭の中は今、次に出す同人誌のネタでいっぱいになっていた。彼女の趣味は同人誌作り。それもやおい。

 「なーんかイマイチなんだよね。こういう展開だとあんまり萌えないっていうか……もうひとひねりっていうか。今日はなんか冴えないなぁ。」

 頭の中はすでに原稿を前にした作家モードといったところか。絵里子はこんな調子でろくに道の先も見ずに歩いていた。すると突然、普段の生活ではなかなか聞くことのできない、恐怖心を煽るには十分な威力の咆哮が彼女の身体を揺るがした。はっとなった絵里子は身を震わせながらもその音源を確認する……すると橋の上で奇妙な姿をしたふたりが対峙しているではないか。彼女はすぐにピーンときた。

 「あ、こんなところでも特撮の撮影やるんだ〜。知的好奇心と新境地開拓のために失礼しま〜す。」

 さっそくかばんから携帯電話を取り出して、そのふたりにカメラを向ける絵里子。まずそのレンズは猛牛のような黒い毛並みの怪物を捕らえた。その画面を見た彼女は、一生懸命にあるものを探しながらシャッターボタンを押す。指はせわしなく動くが、探し物をしている瞳はなかなか動かない。時間が経つにつれて眉間にしわが寄り、口元も上がる。どうやらイライラしているようだ。

 「ファスナーがないじゃない、ファスナーが。お約束じゃないの、そーゆーの! まぁいいわ、次はあっちを……」

 とりあえず気を取りなおして次に絵里子が画面が映したのは褐色のスーツを着た戦士だった。子ども向けのヒーロー番組にしてはとても地味なカラーリングだ。彼女が首を傾げると、戦士はカメラのフレームの外へと飛び出していく。そう、前にいる猛牛に向かって行ったのだ!

 「うおぉぉぉぉっ!!」
 「ちょっと、まだ撮ってないのにぃ。もう!」

 戦士は猛牛の頭に手刀で攻撃する。だが、全身を強固な鱗と鉄球を模した鎧で覆っている彼にとって、その攻撃は蚊が刺したようなものらしい。まったく動じる気配を見せず、戦士の腹に強烈なパンチを見舞った!

 『うしゃあぁぁぁーーーっ!』
 「なっ……うぐわあぁぁっ!!」
 「だーかーらー、フレームから逃げないでよっ! ま〜たシャッターチャンス逃しちゃったじゃないっ!」

 ふたりの戦いが激しさを増すが、絵里子のご機嫌も激しさを増してきた。大きな火花を散らしながら飛んでいく戦士と動物のくせに人間みたいな笑みを漏らす猛牛。そのふたりを同時にカメラに収めようと画面に釘付けになる絵里子。彼女は知らず知らずのうちに彼らに近づいていた。すると、今度はふたりの話し声が聞こえてくる……

 「えっ、喋るの? だったら最初っからムービーモードにしてたのに〜っ、バカっ!」
 『早く返せよ……その魔導装甲服を。お前が装着すべきものじゃないんだ。それはお前が呼ぶ名のものではない。』
 「お……俺は?」
 『お前はダンタリアンだ。だが、それも今日までだ。このザ・バッファローがベルトを頂く!』

 流暢な日本語で語り合うふたり。戦士はダンタリアンで、猛牛のモンスターはバッファローと言うらしい。彼らが立ち止まって喋っている間にシャッターを切って写真を撮りまくる絵里子。携帯電話から奏でられるかすかな音などお構いなし。満足できるくらいふたりを撮影した後、今度は周囲に目を移した。

 「せっかくバッファロー男がセリフ喋ってるのに、近くにマイク持ったスタッフがいないじゃない……最近は隠しマイクで音を拾ってるのかな?」
 『ぐ、あの女ぁ……俺をカメラで撮りやがったなぁ! ダンタリアン、少し待て。まずはあの女から殺す!』

 絵里子が携帯電話のディスプレイから目を離して、今ものんきにどこかにいるはずの撮影班を探している。そこをめがけてザ・バッファローが地面を数回蹴った後に突っ込んできた! もちろん彼女はそんなことに気づいていない……ダンタリアンは数歩の助走から大きくジャンプして猛牛の行く手を阻んだ!

 「とぉりゃあぁぁぁーーーーーーーっ!」
 『バカが、そんな小娘を守ろうというのか……!』
 「あれ……これってなんかの演出?」
 「そんなわけないだろ! 早く俺から離れるんだ!」

 なんとか絵里子との間に割って入ることができたダンタリアンは猪突猛進するバッファローの攻撃を受けようと身構える。黒く不気味に光るふたつの角は空気を切り裂きながら戦士の胸を貫こうと迫ってきた! だが彼は、敵が目前まで迫ると身体を左に倒した……これでは絵里子を守ったことにはならない。このままではふたりとも貫かれてしまう。バッファローは嘲笑する。

 『ぶははは! 今、お前がそこをどけば、女は死ぬぞぉぉ!!』
 「ちょっとあんた、なんで今になって避けるのよ! カッコよくないわよっ!」

 絵里子の問いにダンタリアンは答えない。しかし、答えは数秒後にわかった。ダンタリアンの身体は徐々に横に倒れていくが、代わりに脚が天を向いた! その脚はバッファローの頭を挟むことで突進を止め、その勢いを別の方向に作用させる。そう、ダンタリアンは敵もろとも下の川へ落ちるつもりだったのだ! 自由を奪われた猛牛は悔しそうに叫ぶ!

 『おっ、お前……!』
 「お前、泳ぎは得意か? 俺は……どうだったかな。よく覚えてないんだ。ま、一緒に泳ごうか。」
 『放せっ、放せーーーーーっ!!』

 ふたりは絵里子をそこに置いて、そのまま川に落ちていった……彼女はすぐに橋の下を見たが、いつまで経ってもふたりが上がってくる気配がない。カットの声もかからなければ、カメラマンの姿もない。いくら待ってもしょうがないと悟った彼女は小さくため息をついてその場を去った。ほんの数分間の出来事だったが、絵里子の記憶は鮮明に残っていた。迫真の演技とはこういうことを言うのだろうか。彼女の興奮はいつまで経っても冷めなかった。


 橋から再び家路を急ぐ絵里子の頭の中は煮詰まっていた原稿のネタ出しからさっき遭遇した戦いに切り替わっていた。彼女はさっきよりも頷きの回数が多くなった。どうやらこの件に関しては理解できる部分が多いらしい。ぼーっと考えこむことはほとんどなかった。

 「あの怪人はバッファロー男で決定ね。もうひとりは……一応はヒーローなのかなぁ。ソニックって名前が似合いそうね。『ソニックなんとか』って感じ。今放送してるのとは種類が違うみたいだから、新番組の撮影かしら。だとしたらスクープね! いち早く同人誌に仕立てたら人気出るかな?!」

 彼女の頭の中はすでにふたりの人間体を想像していた。絵里子の脳内では、すでにふたりは男と決まっている。もちろん美形。あとはどっちが攻めか受けかを決めるだけだ。どんどんふたりのイメージが膨らんでくる。絵里子はすぐにでも家の机でそのイラストを書きたかった。幸い、家はもう目の前だ……と思ったその時、行く先にずぶ濡れの男性が倒れているのを見つけた。勢いよく家の中に入ろうとしていた彼女は驚く。

 「ちょっと……あれまさか、行き倒れ?」

 いったんは足を止めた絵里子だったが、思い出したかのように駆け出した。そして彼の姿を見る。表情こそ穏やかだが、その姿は尋常ではない。何かの事件に巻き込まれたのかと心配した彼女は彼を起こそうとした。しかし非力な女子高校生にはなかなか持ち上がらない。絵里子は近くでその様子を見ている奇妙な男性に向かって叫んだ。

 「ねぇ、この人行き倒れみたいなのよ。手を貸してくれない?」
 「……そいつを、助けるのか?」

 黒い皮ジャンを着た男性はあごで青年を指す。絵里子は不用意にも青年とこの男でカップリングのことを考えてしまったが、手を伝う水の冷たさとほんの少しのぬくもりで我に返った。そして軽蔑の目で男を見る。

 「そうよ、当たり前じゃない。ってあんた、ちょっと非常識よ。何様のつもり?」
 「お前はのんきでいいな。自分に死が迫っていることにすら気づけないとは……バカもいいところだ。」
 「あれ? そういえばさっきそんな声を聞いたような……」
 「ふふふ、やっと気づいたか……ははは、はーーーっはっはっは!」

 青年の肩を抱きながら奇妙な偶然に首を傾げる絵里子。男は愚かな小娘に本当の姿を晒す! 皮ジャンよりも黒くしなやかな肌、そして頭に二本の角を持ったあのモンスターが再び現れたのだ!

 「あ、あんた、さっきのバッファロー男!」
 『俺は運がいいぜ……一度にふたりとも殺せるなんてな。手間が省けたぜ。』
 「ふたり? さっきあたしだけ狙ってたくせにっ! 白々しいわよ!」
 『意味がわからないならそれでいい。ふたりで仲良く三途の川でも渡りなぁぁ!』
 「う、ウソでしょ! こ、これってさっきの撮影の続きよね? そうじゃなかったら一般視聴者参加型のドッキリよね?!」
 『じゃあ俺の攻撃をその身体で受けてみて、痛いかどうか試してみればいいじゃねぇか。まぁ、お前くらいならすぐに死んじまうだろうけどな。』
 「う、ウソじゃない?! 誰か、誰か助けてっっ!!」

 ザ・バッファローの手の甲には鉄球を思わせる鋭い針がいくつも伸びている。拳を握るとそれが凶器となるのだ。怪人の言葉通り、強く握られた右手は絵里子に向けられている。猛牛はさっきとは違い、一歩ずつ地面を踏みしめながらやってくる。この行為は彼女の恐怖を少しずつ駆り立てようというのだろうか。
 絵里子は恐怖のせいか、次第に手に力が入らなくなってしまっていた。さっきまで確かに青年の身体に触れていたのに、今はその感覚がまったくない。彼女は不意に視線を落とした……その時、自分の感覚がまだおかしくなっていないことが確認できた。自分はまだそこまで恐怖していないことを知らされた。
 青年はすでに絵里子の悲鳴で目覚めていた。そして自分の力でほんの少し身を起こし、怪人の姿を見ていたのだった!

 「お前の相手は彼女じゃなくて、俺だろ?」
 『ダン、ダンタリアン……!』
 「あんた、まさか……あんたがさっきの!」
 「そういうこと。自分の名前は忘れたけど、それだけはなんとなく覚えてるんだ。」

 青年は彼女の肩に手を置いてウインクすると、自分がダンタリアンであることを告げた。そしてすっくと立ち上がると、瞬時にベルトが出現する……手には『世界』のカードをベルトの中心にある宝玉・イエソドにかざした!

 「変身!」

 カードが手元から消える頃には、彼の身体にいくつもの光が煌きを放つ! そしてさっきのヴィジョンがゆっくりと現れ、瞬時にそれとの融合を果たすのだった。彼は再びダンタリアンに変身したのだ! そして『正義』と『悪魔』のカードを右手の甲にある宝玉・ホドに読みこませる!

 「今度こそお前を三途の川に送ってやる!」
 『ジャスティス』『デビル』

 右手の甲が輝きを増すとともにスーツと同じように槍のヴィジョンが出現した。ダンタリアンがそれを手に取ると、その槍は瞬時に具現化する! それを自分の頭上で風車のように回しながら、猛牛に対して突っ込んだ!

 「うおおぉぉぉっ! てりゃあっ、おりゃあっ!!」
 『うぐう、あがぁ! こ、こいつ、槍を持った途端……つ、強い!』
 「そりゃどうも! はあっ!!」
 『ぐげ、は、早……うがあぁぁぁぁーーーっ!!』

 絵里子がダンタリアンのことを『ソニック』と表現したのは間違いではなかった。槍を使いこなすその早さといったらない。バッファローの目ではその軌跡を追うことができなかった。だからこそダンタリアンが繰り出す攻撃に踊らされているのだ。最後の鋭い突きで遠くに吹き飛ばされた猛牛は悔しさを身体中で表現する。

 『お前……この俺を吹き飛ばすとは! 砕いてやる、俺の誇りにかけてすべてを破壊してやるっ!!』
 「あんなのが当たってきたら、ぶつかった方はいったいどうなるのよ……」

 地面を何度も蹴り、自らを黒い弾丸にするためバッファローは前傾姿勢になった。再び、あの角が太陽の光を受けて怪しく光る。絵里子の心配はダンタリアンに向けられたものだった。しかし彼は槍を構えたまま動こうとしない。そして猛牛が突進のための一歩を踏み出した時、思いっきり右手を引いた! その手には槍が構えられている!

 「槍投げ?!」
 「とぉぉぉりゃあぁぁぁぁぁっ!!」
 『バカが、そんなもの通用するかぁ!』

 大きなモーションで繰り出されたダンタリアンの槍は一直線にバッファローの元へと向かう! だがそれは手元にあった時とは違い、さっきのような力がこもっていない。前に飛ばす勢いだけの攻撃では猛牛を倒せないことは誰の目にも明らかだった。怪人は案の定、槍を恐れずダンタリアンに突っ込んでいく!

 『こんなもので串刺しになるくらいなら、バッファローとは名乗らないぜ!』
 「そうだろうな。お前ならそれを弾き飛ばそうと躍起になるだろうからな。俺は最初からそれを期待してたんだ!」
 「あんた、またあのカードを使うの?!」
 『なっ、なんだと! カードだと?!』

 槍投げはフェイク……ダンタリアンは槍が手を離れた瞬間、両手にカードを出現させていた。そして両腕をクロスさせ、左腰の宝玉・ネツァフに『塔』、右腰の宝玉・ホドに『力』を読みこませる!

 『タワー』『ストレングス』
 「お前を串刺しにするのは、この俺だっ! たあっ!!」
 『槍は……槍は囮だったのか! しまった、今からではブレーキがきかな……!』

 カードの効力でいつもよりも空高く舞い上がったダンタリアンは直線的に移動する猛牛の身体に向かってキックを放つ! その早さはバッファローの突進力に勝るとも劣らない威力を秘めており、地面にかざした足は角よりも激しく空気を切り裂いていた! 放たれた槍は猛牛の敵ではなかったが、空から迫るダンタリアンは彼の脅威となって襲いかかる!

 「とぉりゃあぁぁぁーーーーーーーっ!!」
 『う、うげあぁぁぁぁぁぁっ!!』

 強烈なキックを食らって爆発するバッファロー……その爆炎の中からダンタリアンが姿を現した。彼は『愚者』のカードで変身を解除すると、再びあのやさしい顔をした青年の姿に戻った。すべてを目の当たりにした絵里子は呆然とその一部始終を見て感想を漏らした。

 「……ウソでしょ?」
 「だから、ホントだって。」

 ふたりの意見の食い違いは未来永劫続くようにも思えた。腰の抜けた絵里子を担いで、青年はまたあの笑顔を見せた。


 服が濡れたままで外に放り出すわけにもいかず、青年はとりあえず絵里子の家に上がることになった。いくら意見が違えども、彼が彼女を救ったことには間違いない。ということで、絵里子はとりあえずのお礼として服の洗濯を引き受けたのだ。

 服が乾くまでの間、暇つぶしのつもりで彼女は青年の身の上話を聞いたのだが、これがいけなかった。思い出してみれば出会った時からそんなことを言っていたような気もする……
 そう、青年は記憶がないのだ。覚えていることといえば、さっきのようにダンタリアンなる姿に変身することだけ。住所や職業はおろか、自分の名前すら覚えていない有様なのだ。そんな人間をこのまま放り出せば、もしかしたら近所で悪い噂が立つかもしれない。絵里子は背筋が寒くなった。

 「しばらく家に置いておけば記憶も戻るかもしれないし……決まり! あんた、ここにいなさい。でも炊事洗濯家事手伝いはよろしくね。あと、もしかしたらまたああいうのが襲ってくるかもしれないから、そのボディーガードもよろしく。パターンなのよね、一度襲われると何度も襲われちゃうっていうの。」
 「あいつが言ってたじゃないか、写真を撮るなって。それを消しちゃえば、少しは不安も……」
 「意見する前に返事を聞きたいわね。炊事とかはできるの? できないの??」
 「それくらいなら、いくらでもお手伝いできるよ。」
 「ま、一番最後のが重要なんだけどね……。きっと携帯の写真を消しても追われる時は追われるだろうからあえて消さないでおくわ。いざとなったら警察に駆け込むつもりだし。で、いつまでも名前がないのも困るから名前をつけてあげる。まー、さっきあんたがタロットカードみたいなの使ってたから、それにちなんでやってみたらこんなのになったわ。」
 「占いって早いんだね。いつの間にやったの?」
 「あんたがお風呂に入ってる時によ!」
 「ああ、そうなんだ。で、なんて名乗ればいいの?」

 絵里子はタロットで決まった名前を大きく書いた紙を彼に見せる。そしてちゃんと読めるかどうか、青年に音読させた。

 「かざみや……しゅん?」
 「そう、風宮 駿。記憶が戻るまではその名前で行きましょ。さーさー、名前も決まったし今日からしっかり働いてよね。まずは夕飯の準備から! さっきまざまざと調理用具とか冷蔵庫の中身とか見てたからある程度はできるんでしょうけど。」
 「何作っても文句言わないのなら作るけど。」
 「……そういう不安を掻き立てるようなセリフは思ってても言わないの!」

 こうしてダンタリアンに変身する風宮 駿は絵里子の家に居候することになったのだ……