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<幻影学園奇譚・学園ノベル>


見つけろ!伝説のメイド服!!

●オープニング

――――まもなくこの神聖都学園で学校祭が行われる。

生徒達はその楽しみに活気付き、わいわいがやがやと己と相手の意見を言い合って、普段犬猿の仲の者達が手を取り合って共同作業を行う。
そんなある意味異次元的な雰囲気を持つ学校祭準備の中で―――より一層、異次元を作り上げているメンバーがいた。


「―――というワケで、俺たちは有志でコスプレ喫茶をやることに決定した」


何が『と言うわけ』なのかはわからないが、希望は笑顔で黒板に書かれた「コスプレ喫茶」と言う文字をチョークでコツコツと叩いた。
ここにいる数人…いや、十数人の生徒達は、きょとんとしてたり呆れてたり、はたまた楽しそうだったりと…まぁ、つまるところ様々なリアクションである。

「あぁ、生徒会長からの許可はバッチリだから、そこんとこは気にしないよーにv」

そんな爽やかな笑顔で言われても、問題はそこじゃないわけで。
微妙な表情を浮かべる一部の人間の心を代弁するかのように、葉華が手を上げて口を開いた。

「あのさ…なんでコスプレ喫茶なワケ?
 そしてなんで集められたのがおいらたちなワケ?」

代弁有難う葉華。そんな言葉があちこちから聞こえてきそうである。
しかしそんな葉華の言葉ににっこりと笑みを浮かべた希望は、こともなげに言い放つ。

「なんでやるかっていうと、単に生徒達からテキトーに集めた集計の結果で『コスプレ喫茶が見たい』って意見が多かったから」

その言葉に、一同が思わず脱力する。ついでに思わずコケたのも数人。微妙にコントな世界だ。
っていうかそんなんでいいのか、神聖都学園よ。
そんな遠い目をする一部の人間をよそに、希望はさらににっこりと笑って口を開いた。

「…で、なんで集めたのがお前達かってゆーと…俺が呼びやすかった奴らを呼んだからvv」

いやぁ、持つべきものはトモダチだねぇ♪なんて笑う希望に、思わず張り倒したくなった人間が数人。
そして、信頼されていると知ってひそかに喜ぶ人間が数人。
あぁ、なんで自分が呼ばれたんだろう…と遠い目になってるのがさらに数人。

そんな内心知ってか知らずか、希望は笑顔でこう告げる。


「あ、そうそう。
 ―――――――悪いけど、これには拒否権は存在しないからvv」


基本的人権はどこにいった。

などという心の嘆きが聞こえてきそうなくらい、それを告げられた者達の大半は憔悴しきった表情を浮かべるのだった。
…ちなみに、極一部の人間は困るどころか楽しそうな表情を浮かべていたことは…此処だけの秘密である。

***

―――そしてそれから数分後。


この教室には、希望・崎・葉華・まきえ・聡・櫻・クロムと十人にも満たない生徒。
まるで秘密の会合と言わんばかりのこの状態に戸惑う生徒達を他所に、希望は爽やかに笑顔を浮かべて口を開いた。


「―――お前達には悪いけど、極秘で追加任務をやって欲しい」


極秘で追加任務。
その言葉の響きに、数人の生徒と聡が嫌な予感に眉を顰める。

「あの…僕、帰ってもいいですか?」
「却下vv」

聡の控えめな言葉も、笑顔で切り落とす。
法律は俺だ、と言わんばかりの態度に、その場にいる全員が思わず聡に同情の目を向けてしまった。

で、と勝手に気を取り直した希望は、笑顔で口を開く。


「…どうやらこの学園のどこかに伝説のメイド服が隠してあるらしい」


しーん…。
あぁ、このまま帰ってしまえたらどれだけ楽だろうか。
っていうかむしろ今日の夕飯はなんだろう…。
思わず現実逃避をしてしまっても、仕方の無いことだろう。

そんな全員の様子に訝しげに眉を顰めた希望は、むぅ、と不服そうに口を開く。

「―――言っとくけど嘘じゃないぞ。
 って言っても本当かどうかも定かじゃないけどな。
 この学園に代々伝わる伝説らしいけど、今まで見つけた人間は数えるほどしかいないらしい」

そう言って持っていたペンで机をこんこんと軽く叩くと、希望は真剣な表情で言葉を続けた。


「そのメイド服を着た人間は、誰よりも人を『萌え』させる能力を得、且つ色によって色々な属性を手に入れられる。
 そしてそのメイド服を着た人間に奉仕された者は、まるでそのメイドの魅力に最高の冥土に送られたような気持ちになるらしい」


「…メイドと冥土…シャレですか…?」
ぽつりと呟かれたまきえのツッコミを笑顔で黙殺して、希望は話を再開する。


「その冥土…もといメイド服がどこにあるかは一切不明だが、学園内のどこかに隠されているのは確かだそうだ。
 よって、コスプレ喫茶をするにあたってこのメイド服はできれば手に入れておきたい…!!!」


そう言って握り拳を浮かべる希望の目は、確かにメラメラと燃える炎が浮かんでいた。
あぁ…だめだ。これじゃあ何を言っても絶対聞きやしない。
そんな遠い目をする一同を見、希望はにっこりと微笑んだ。


「そういうワケで――――探してくれるよな?」


にっこり笑顔で疑問系の割には――誰もが、否といえる状況ではないことを悟りきっていた。

「あらぁ、楽しそうじゃない?」
「ふむ、そのような変わった物が存在しているのならば、探さない手はあるまい」
「うんうん、俺もそのメイド服着てる人が見てみたいサー☆あ、別に俺が着てもいいけどねー?」

…もちろん、すっごいノリ気の人間も複数存在したわけではあるのだが。



―――そんなわけで。
     一同は、(一部は半強制的に)伝説のメイド服を探すことになるのだった。


<探索場所&登場NPC>
A.学園校舎
B.学生寮
C.プール・校庭
D.購買部・サークル棟
E.体育館・道場


●いざ、解散!

「それじゃあ、この振り分けの場所に自由に別れてくれよな」

ただし帰る・放棄と言う選択肢は許しませんv、と笑顔で言う希望を見ながら、残されたメンバーはぱらぱらと別れ始めた。


「…何故…何故にコスプレ喫茶…。
 しかも行って来てくれってあの野郎…」

そうぼやきながらげんなりと机に伏すのは、芹沢・青。
どうやら同じ部活の人に言われて仕方なく来た挙句、この騒動に巻き込まれたらしい。
あとでシメル、と心に決めつつ、彼はすっくと立ち上がった。
そしてとてつもなく爽やかな笑顔を浮かべると、首を傾げる希望に向かって口を開く。

「………俺部活の方の準備で忙しいから」

じゃっ、と棒読みしつつシュピッと片手を上げて回れ右。
そのまますたこらと去ろうとする青だったが、それはがしっと掴まれた手で阻止された。
誰かと思って振り返れば、そこにいるのは…クロム。
にっこりと微笑んで、手に持っていた何かを持ち上げる。

「…部活の方からはきっちり許可は貰ってうから、ご心配ご無用よv」

そういったクロムの手に握られているのは――――『芹沢青、本日貸し出しOKv』と書かれた書類。
下のほうには部員の署名が幾つか書かれている。その名前の中には自分が知っている名前ばかりが沢山有った。

ぴしりと音をつけて固まった青を見つつ、クロムは書類をくるくると丸めて希望に手渡した。
「…コピーは沢山あるから、破っても無駄だぜ?」
正に今それをしようとしていた青は、同じように気力が果てたと言わんばかりの表情で机に突っ伏していた葉華の一言に、一気に机に逆戻りしたのは…言うまでもない。


「メイド服かぁ。お姉さん達がいたら喜んだだろうなぁ」
そういいながら笑うのは、海原・みあおだ。
彼女の姉達はそういうコスプレ好きな人なのか、それとも単なるメイドマニアなのか。
どちらだかわからないが、中々素敵な…げふごふ。もとい、変わったお姉さん達だ。

「そうなんですか…お姉さん達は、メイド服…お好きなんですか?」

丁度隣にいた聡が声をかけると、みあおはうん、と頷いた。
「もしメイド服が見つかったら、実際に着て記念撮影したいなぁv」
「はは…そうなんですか…」
どこか楽しそうなその表情に引き攣った笑みを返す聡。
するとその聡の背に、のしりと誰かがのしかかった。

「うわぁっ!?」

驚いて声を上げる聡の背から、なにやらやる気満々な声。

「コスプレ喫茶、か…。
 …ロマンだよな、浪漫!!!」

―――夏野・影踏だ。
「…た、楽しそうですね…」
妙にうきうきとした声の影踏に引き攣った問いかけると、影踏から満面の笑みが返ってきた。

「あったり前!
 俺はコスプレ大好きだからな!!」

そう言って胸を張る彼を誰か褒められるのならば褒めてみて欲しい。
そう言う事って人目もはばからず言ってもいいことなのだろうか。
それはわからないが、まぁ、本人が気にしてないことだし、別にいいのだろう、きっと。

「だから聡も一緒に回ろうなっ♪」
「え?あ、は、はぁ…」
「あ、私も一緒に探すね♪」

何が『だから』なのか分からないが、笑顔で言われた言葉に、聡は生返事で返す。
こういう時咄嗟の反応が出来無い上、押しに弱いのが聡だ。
しかもみあおもちゃっかり一緒に回ることを宣言している。
しかし影踏はそれを知らず、嬉しそうに笑うと聡により一層強く抱きついた。
それによって慌てる聡が見られるのは、それから数十秒後のこと。

「ふふ…皆さんお若いですよね…」
そんな光景を見ながらのんびりと笑っているまきえ。
普通は和む光景ではないと思うのだが、傍観者に徹すれば笑えるものなのだろう。きっと。
そんなまきえの隣に立つのは山内・りく。
同じように…いや、一層ぽややんとした雰囲気を醸し出す笑みを浮かべている。

「まきえさん、いっしょにメイド服を探しましょうね〜♪」
「えぇ…是非、お願い致しますね」

実際のところはまきえに半ば巻き込まれるような形で参加した彼女なのに、本人は全く気づいていない。
そんなりくのことを知っているのに、まきえはふふ、と言いながら易しく微笑むのだった。
…まきえ、結構悪人。


「んー…じゃあ、私はクラスも一緒だし、希望くんと探そうかな」
顎に指先を当てながら言うのは、シュライン・エマ。
「おや、俺と?」
「あら、いけない?」
「いんや。一人は寂しかったから大歓迎v」
にっこり笑顔の押収。別名笑顔の安売り。
爽やかな光景のはずなのに、奇妙なオーラが立ち上っているのは一体何故だろう。

「…メイド服、見つけたら後で草間に着せてみない?」

「チョコに?」
一緒に探索すると話が決まった途端、こそりと希望が悪人面でエマにとんでもない話を持ちかける。
きょとんと問い返したエマは、次の瞬間…にやりと、希望に負けるとも劣らない悪人面を浮かべた。
「…それは、面白そうね」
「だしょ?嫌がる相手に無理矢理、って言うのがまた面白いんだよねーv」
「私も協力するわ。頑張ってv」
「おうよ!」

…悪人協定、此処に結成されり。


「えっと…メイド服、かぁ…」
微妙そうな表情でぽつりとそう呟いたのは、彩峰・みどり。

「…この学園、なんか色々あるんだね」
そう言って苦笑すると、隣に座っていた崎がにへりと笑う。
「そりゃ色々あっぺよ。学園七不思議並に色々あんだべ」
相変わらず奇妙な方言もどき混じりだが、そんな崎の笑顔にみどりも微笑む。
「まぁ、面白そうだし…私もちょっとがんばってみようかな」
そう言うと、崎はへらりと笑うと彼女の肩をぽんぽん叩く。

「だいじょーぶ、ハイエロファントも頑張ればメイド服の一着や二着や五十着、すぐに見つけられるサ!!」
「あ、いや…流石に五十着はいらないかな…。
 …っていうか、お願いだから人前でハイエロファントはやめて…」

励ましになってるんだかなってないんだか。
そんな崎の言葉に、みどりは苦笑交じりの言葉を返す。
しかし崎はそれ知らず、笑顔で「ハイエロファントはハイエロファントだべさー」とさらっと返してきた。

「…言ってるそばから言うし。
 ……もういいけどね、慣れたから…」

遠い目をしながら諦め気味に呟くと、くすん、とちょっと小さく鼻を鳴らした。
しかし崎は全く気づいていなかったが。
デリカシーが無い男、崎。要注意である。

「おっもしれぇよなぁ、この企画」

すると、唐突に後ろから声が上がった。
その声に崎とみどりが後ろを向くと、そこに立っていたのは郡司・沙月。
彼は楽しそうににっと笑うと、二人の正面に腰掛ける。

「そのメイド服って、男が着ても問題はねぇんだろ?
 なんせ、『コスプレ』ではあることだし!」

すっごいノリノリなその声に、みどりがちょっと怯む。
しかし崎はむしろ喜色満面で、がしっと彼の手を掴んだ。

「凄い!キミ偉いよ!!
 男の中でメイド服を着てもいいかなーとか思ってるのはてっきり俺とのぞっちとクロむんだけだと思っとったんよーっ!!」

なんだか色々間違ってるような気がしないでもないが、崎は相当嬉しかったようだ。

「あったりめぇだろ!こんな面白そうなこと、乗らなきゃ男がすたるってんだ!!」
「あぁ、俺キミとは気が合いそうだべさーっ!!!」

なんだか二人ともすっかり自分達の世界を作り上げてしまっている。
そんな二人をこっそり後ずさって離れたところから見ながら、みどりは引き攣った笑顔を浮かべていた。

「…だ、大丈夫なのかなぁ…??」

その呟きは、騒ぐ二人の声に掻き消され、誰の耳にも届かず消えた。


「…ふぅ。今日も平和じゃのぉ…」
あちこちの騒ぎを離れた場所で眺めつつ足を組みながら手持ちの扇を使ってぱたぱたと自分を仰いでいるのは――櫻。
最初から乗り気な彼女は、特に気にすることもなくただのんびりとしているのだ。
そんな櫻の隣の席に座り、きょとんとした表情を浮かべているのは――栄神・千影。

「あれって、平和なの?」
「こう言う馬鹿騒ぎが出来るのも危険がないからじゃ。
 戦争があればこんな騒ぎなんぞ悠々としておる暇すらないからのぉ」

じゃから、平和じゃ。
そう言って笑う櫻に、そっかぁ、と頷きながら千影は再度騒ぎの方を見た。

「櫻ちゃんは相変わらず素敵な思考回路ねぇ」
「ってか単に面倒なことは全部『平和』で片付けようとしてるだけなんじゃねぇの?」

と、不意に後ろと櫻のいる方とは逆の隣の席から、声がする。
驚いてそちらを見れば、そこには騒ぎに付き合ってられるか、といわんばかりの葉華と、にこにこ笑顔のクロムが何時の間にか座っていた。

「…おいら、時々希望の考えてるコトがわかんねぇ…」
「あらぁ、アタシはわかるわよ?」
「思考回路が似てんだろ」
「ま、酷いコト言うわねぇ!」
葉華ちゃんのいけずー、と拗ねたように言うクロムをはいはいと適当にあしらう葉華。
そんな二人を見ながら千影は櫻を見、葉華達を指差すと口を開く。

「…あれも、平和かな?」
「……まぁ、そう言えなくもないの」

どこか呆れたようにぽつりと返された呟きに、千影はふぅん、と感心したように頷くのだった。


***

「さー!行く場所も決まったってことで、さくさく探索に出かけるぞー!!」

パンパンと手を叩いて言う希望。
そんな彼を見て笑う者数名、既に疲れたように肩を落とすもの数名、苦笑する者数名。
それぞれの顔を見て微笑むと、希望はビシィッ!と教室のドアを指差して叫んだ。


「――――さぁ、いざ行かん!メイド服探しの旅へ!!!」


「……嫌な旅だな」
後方でぽつりと呟いた葉華が、クロムに思いっきり腕を抓られて悲鳴を上げた。


―――――――そんなわけで、探索、開始。


●D.購買部・サークル棟
とりあえず適当に探そう!(by崎)と言うモットーの下、崎とみどり、沙月の三人は購買部へとやってきていた。

崎はさっきからゴキゲンで、右手は沙月、左手はみどりとがっしり手を繋いで歩いているあたり、恥知らずと言うかなんというか…。
あれか、両手に花、とか笑いたいのかヤツは。
沙月の首には襟巻きサイズの狐のイズナ・夏目が巻きつくようにくっついている。
普段仕舞っているピルケースから何故出てるかと言うと、夏目を見た崎が目をこれ以上なく輝かせ、『折角だからこのまま出しててよv』とお願いしたせいだ。
まぁ別に出してても死ぬわけじゃないし、別にいいかなー、という感じで沙月もそのまま出しっぱだったりする。
みどりはどうすればいいのか分からず、さっきからおろおろして繋がれた手と崎に視線を交互に移していた。
別に手を繋ぐと言う好意は女性同士だったらどうってことないかもしれないが、相手は男。それも崎である。
数々の奇行を繰り返している崎に手をつながれて、安心していられるわけがない。…まぁ、男として意識しなくて済む分、幾分か楽かもしれないが。

「やっほーおばちゃん♪今日も元気ー?」
「あぁ、崎くんじゃないか!
 友達も連れて、今日はどうしたんだい?」
崎が笑顔で声をかけると、かっぷくの良さそうな購買のおばちゃんは笑顔で答える。

「あれ?崎くん、購買部のおばさんと仲いいの?」

ふとしたみどりの問いかけに、崎は笑顔で『勿論!』と頷いた。
「何せいっつもお世話になってるからね!」
「一体何に使ってるのかはわからないけど、2日に1回は必ずノートを買いにくる常連さんだからねぇ」
一冊買って2日後に買いにくるなら最初から買いだめしておけばって言うんだけど一度もそうした試しはないんだよ、と笑うおばちゃんに、みどりは口を引き攣らせた。
「…崎くん、ノートは一体何に使ってるの?」
「乙女のヒ・ミ・ツv」
「お前乙女じゃねーじゃん」
バチンッ、と音がしそうな崎の誤魔化しに、沙月から入る冷静なツッコミ。

「んまっ!その台詞クロむんに言ったら半殺しよ国司!?」
「…そのあだ名、止めてくんねぇ?」
「嫌です!!」
しなを作りながら叫ぶ崎のあだ名に意を答えると、0.1秒で否の答えが帰ってきた。

「…っていうか、どういう由来でそのあだ名に?」
「どうしてって、そりゃあ『郡司→律令制の地方官→上官は国司→じゃあ国司で!』って感じで」
「うわぁ…なんでまた歴史風?」

「…沙月さんはまだいいですよ…私なんてハイエロファントなんですから…」
「………」
胸を張る崎に呆れたような顔で問いかける沙月に、遠い目をしつつ話しかけるみどり。
なんだかもうワケわからん漫才みたいな状態に、おばちゃんもちょっと置いてけぼり状態だ。
そこで気を取り直したのか、みどりがおずおずと声をかける。

「購買部って、制服は売ってないんですよね?」
「あぁ、シャツなら売ってるけど、制服自体は売ってないねぇ」
買いたいならデパートに行って発注しないと、と言うおばちゃんにそうですか…と答え、みどりは有難うございました頭を下げた。

「とりあえず、在庫にある可能性は低いですけど…紛れ込んでる可能性も無きにしもあらずですし…」
「んじゃあ、ちょっと夏目に購買部の裏とか俺らじゃいけないトコ探しにいかせてみるか?」
「おう、よろしく国司♪」
「是非お願いします」
「おう」
沙月のナイスな提案に、崎とみどりは一も二も無く頷く。
この三人では裏に入って中を漁るのは少々難しいし、下手したら首根っこ掴んでお引取りお願いします、だ。
それだったら夏目に探しに行ってもらうのが一番だろう。

「…ってなわけで、頼むぜ、夏目」

その声にぴくりと反応した夏目は、ふわりと沙月の首から離れる。
そしてじーっと沙月を見、暫しの沈黙。
…まさか使役失敗したか?とどきどきする沙月をよそに。
夏目は暫く己が主である沙月をじーっと見つめた後…こくり、と頷いた。
どうやら使役は何とか成功したらしい。
五分五分の成功率だったがこれで一安心だ。

ほぅ、と安堵の溜息を吐く沙月を他所に、崎とみどりはそれじゃあ別の場所探してみよう、とスタスタと歩き出すのだった。
勿論、手は未だに繋がれたままである。

そして食堂。
此処に来てようやく手を離した崎は――――先ほどから、机の下ばかりを探していた。
かさかさとまるでゴキブリのように床を這う崎。
机の下に差し掛かればそこから上を覗き、何もなければまたかさかさと進んで机の下を見る。
……正直、大分気持ち悪い。

「…崎くん、何してるの?」
「何って探してるに決まっとんべー!!」
「…机の下に貼り付けてあると思ってるとか?」
「……あり?違う?」
…マジだ。コイツ素でそう思ってた。
なんだかある意味衝撃である崎のリアクションを見ながら、流石に入れ替えの激しい場所に堂々と置いてある可能性は流石にないだろうというみどりの助言もあってか、崎は若干渋々だが、探すのを止めた。

とりあえず夏目が帰ってくるのを待とうと言う事で一旦席についてのんびりしている三人。
そこで、みどりが疲れたように口を開いた。

「うーん…そういうのが隠されてそうなところって何処だと思う?
 …とりあえず、購買部で制服が売ってなかったから、その中に隠れてるって線はなさそうだし…」
裏で夏目君に探してもらって次第だけどね、と苦笑するみどりを見つつ、崎と沙月もうーん、と考える。

「…ねぇ崎くん」
「なんだべさー?」
唐突なみどりの問いかけに相変わらず変な方言で返すと、崎はみどりを見る。
「…何かそういうのを感じるとかない?」
「何で?」
みどりの不思議な質問に問いで返すと、みどりは大真面目に切り返す。

「…だってほら、崎くんってそういうの鋭そうだし」

真顔。
決して冗談を言っているという様子ではない彼女の様子に沙月は一瞬『天然だ…』と妙に感心してしまうが、やはり相手は崎。笑顔でさらっと返答する。

「んー…俺には残念ながら妖怪アンテナもどきは付属しとらんきに。
 その辺はさっぱりさー」

まぁ、メイド服が近くにあったら分かるかもしれんけどね!とわけの分からん事を言いながら胸を張る崎に、みどりはそっか、と苦笑した。
崎の不可解な言動に慣れてる分、沙月よりは対応は早く軽い。
困ったように笑いながら机に頬杖をつき、難しい顔になって呟く。
「む〜…結局よくわかんないし、一つ一つ探していくしかないよね…」
「ま、やっぱそれが一番確実な手段だろうな」
少々不満そうにぼやくみどりに、そう言って苦笑する沙月。

「まぁ、見つかったら見つかったでいいし、見つからなくても特になんともなさそうだし…」
そう言ってみどりが苦笑したところで、ちょうど夏目がふわりと宙を漂って帰ってきた。

「お帰り、夏目。
 それらしきものはあったか?」
夏目をまた首に巻きつかせながら沙月が問うと、夏目はふるふると首を左右に振る。
…どうやら、見つからなかったらしい。

「とりあえずあちこち探してみても見つからなかったし、購買部にはなさそうだぁね〜」
「それじゃあ、今度はサークル棟に行ってみよっか」

崎の言葉に続くように言われたみどりの言葉に、崎と沙月はこくりと頷くのだった。

***

そしてところ変わってサークル棟。
……の、演劇部活動場所。

崎が入るなり『やっぱメイド服っつったら演劇部だべさー!』と言い出し、訝しがる二人を他所に無理矢理引っ張ってきたのである。
こういうところ、無駄に強引な崎らしいというかなんというか…。

「さーて!いざ!!
 衣装箱漁りナリ――――ッ♪」

「…崎くんって、何者?」
「……俺にもわかんねぇ」
嬉々として衣装箱を漁りまくる崎の後ろ姿を見ながら、みどりと沙月は思わず顔を見合わせた。

それには、先ほど演劇部との会話が発端となる。
演劇部部室に入るなり崎の姿を認めた部長は引き攣った笑みを浮かべ。
用件を聞いた途端に「あーはいはい勝手に探せばー」と投げやりな態度で全てにおいてを放棄したのだ。
きちんとした事情を話せば大抵面白そうだと笑って乗ってくれる演劇部部長がむしろ大喜びしそうなネタだというのに。
なのに、崎が関わっていることには関わりたくないとばかりのこのリアクション!
一体、この演劇部部長と崎との間になにがあったのか…謎は募るばかりである。
風の噂で崎は演劇部の幽霊部員だと聞いたことがあるが…この状態では、部長に確かめるのもアレだろう。

「ホレホレ、ハイエロファントも国司も、さくさくメイド服探すべさー!!」

衣装室の山の中へ飛び込みながら二人を呼ぶ崎に、みどりも沙月も困ったように苦笑して、揃って中に飛び込むのだった。

***

――――――そんでもって数分後。

「…とまぁこんな感じで。演劇部の部活で使われている衣装を収納してある部屋を隅から隅まで荒らし…げふごふ。
 もとい、探し回った結果。なんとなく心惹かれる二着のメイド服が発見されました」
「なんとなく心惹かれるって…」
「確かメイド服って、この他にもあと三着くらい見つかったよな?」

―――三人の前には、二着のメイド服が置かれていた。

淡い緑と、明るいピンク。
確かにメイド服としては珍しいカラーではあるが、決してないとは言い切れない色である。
ましてやここは演劇部衣装収納室。
変わった衣装などそれこそごまんとあるのだから。

しばらくじーっとそのメイド服を見つめた崎は…唐突に、口を開いた。
「…とりあえず、これ着てみない?」
「「は?」」
二人揃って間抜けな返事。
まぁ、そりゃあいきなりこんなこと言われたら疑問符挙げても仕方ないだろうが。

「も、もし何もなかったらどうするの!?」
「そうだぜ!っていうかむしろその効果が危険なものとかだったらどうすんだよ!?」

何もなければ恥をかくし、何かあっても危険だったら命にかかわる。
そんな究極の二択、どちらも御免だ。
そう思って必死に否定する二人だが、崎は笑顔で口を開く。

「だいじょーぶ!
 俺のあるかどうかちょっと不確かな第六感が大丈夫だと叫んでる!!」
「あるかどうか不確かって時点で不安だから!!」
「っていうかどんな第六感だよそりゃあよぉ!!!」

ダブルツッコミ炸裂。
そりゃ確かにそんな台詞を吐かれればツッコミの一つも入れたくなる。
しかしそんな二人もなんのその。
崎は笑顔で二人にそれぞれメイド服を押し付けると、『さーさくさく着てきんしゃい!!』と無理矢理更衣室(バッチリ男女別仕様)に押し込めた。
押し込められた二人は少々戸惑ったが、最初から着なければ問題ないじゃないかと心の結論を出し…かけて。

「あー、そうそう。
 着てくんないと、後で俺からあっつーいベーゼがお待ちしておりマッスルvv」

と外から崎の爽やかな割には相当危険な言葉を頂き、二人は大慌てで着替える羽目になったのだった。
ある意味最大級の嫌がらせ宣告。しかも妙に本気な色を含んでいる辺り、笑いで済ませることが出来なかったのが…最大の要因だろう。

…そんでもって数分後。

「―――うん、二人ともよぉ似合っとーよv」
「…あうぅ…恥ずかしいよぅ…」
「メイド服自体はどーってことないけど…これ、気味悪いから出来れば着たくなかったよなぁ…」

演劇部部室では、笑顔の崎とピンク色のメイド服を着せられて真っ赤になったみどり、そしてちょっと嫌そうに顔を顰めながらリボンを引っ張る、緑のメイド服を着せられた沙月の姿があった。
部長含めた部員たちは、既に完全に遠巻きに見ている状況になってる。
関わりたくないのか、それとも単になんとなく近寄れないような。

「…でさ、二人とも、何か変化ない?」

「……そ、そんなこと言われても…」
「…人に着せといてそういう質問する辺り、いい根性してるなオイ…」
「なんだぁ、まだないのかー」
会話が噛み合ってません。
っていうか崎の場合、端っから否定の会話だけは流してる節があるのですが。
メイド服のスカート端を引っ張りながら、沙月はどこか呆れたような、且つどこか残念そうにぽつりとぼやく。

「…せっかくなら狐の耳と尻尾、付けてぇよなぁ…」

本当ならこの場面で言うべき台詞ではないと思います、先生。
傍観者に徹している部員達からそんな心のツッコミがやってきそうなその状況に、驚くべき展開が待っていた。

―――――――ひょこり。

「「!!」」
『!?!?』
不意に不思議な効果音と共に、沙月に目をやっていた全員が目を見開く。
それも、みどりと崎も一緒に、だ。

「…んあ?」
それを訝しげに見ていた沙月だったが、ふと、自分の体に違和感があることに気づく。
なにやら頭の上でひょこひょこ揺れているような気が…。
更に、なにやら足を先ほどからくすぐる毛先のようなものもあるような…。

…なにやら、嫌(不思議なことが起こりそう)な予感。

そっと手を上にあげると、頭の上に手を乗せる。
ふにゃり、と柔らかく…暖かい感触が手に触れた。
それをなぞるように触るとふさふさとした毛、三角形に近いその形。
しっかりと頭の上から生えているのは―――耳。
目を見開いた沙月だったが、すぐにまさか、と手を尻の方へ持っていく。
ふわりとしたスカートの尻の部分を触ると―――ふさり、と、触れる感触。
長く、かといって細長いわけではなく、まるで筆のように伸びたそれ。
言うまでもなく…尻尾だ。…それも、狼や狐のもの。

ぎこちなく首を動かして鏡を見てみれば―――メイド服を着た自分に、耳と尻尾がついている。

―――――もしかしなくても、狐の耳と尻尾が生えているのだ。

「……これ、どういう仕掛けだ?」
「…多分さ、それ、伝説のメイド服だワ」
こんな仕掛けがあるとは思わなかったなぁ、崎ビックリー☆と笑う崎に、沙月ががくりと肩を落とす。

「……すごいなぁ…猫の耳と尻尾とかも、やっぱり生やせたりするんですか…?」

そんな沙月を見ながら、みどりが感心したようにそう呟くと。
――――ひょこり。
「……え゛?」
自分の頭上と御尻の辺りから、なにやら不穏な効果音。
ぴこぴこ動く感覚と、足に触れる柔らかい毛。

「…どうやらそれも、伝説のメイド服だったみたいだぁネ」

崎のへらりと笑いながらの言葉に、みどりは呆然とするしかないのだった。
後で戻りたいと思えばすぐに耳と尻尾が引っ込むと知って誰よりも喜んだのは、多分彼女だろう。
他にも沙月に頼んで調査して貰ったが、耳と尻尾がある動物しか出来ないらしかった。

―――――その後。
       崎が残りのメイド服三着を試着してみたものの、結局変化は何もなく、ただのメイド服だったことが判明した。
       更に他の場所もあちこち探索してはみたものの、残念ながら他にメイド服を発見することは出来なくて。
       そしてそのまま帰った三人が、教室に帰ってからメイド服の実験台にされている聡を見て驚く(一部笑う)のは―――それから、数十分後の話。


▲結果▲
メイド服入手×2。
緑メイド服(動物を想像するとその耳と尻尾が生えてくる。ただし耳と尻尾がある動物限定らしい)
ピンクメイド服(上と同じ)


●はい、チーズ!
一番最後に葉華とクロムがオレンジ色のメイド服を持って帰ってきたことで、全員が揃った。
どうやら二人のもって帰ってきたメイド服は着ると小さくなるものだったらしい。
外見年齢10歳程度のクロムを見たらしい葉華が、『クロムって…あの頃からこんなんだったんだな…』と言ってまたもやクロムに抓られるという一幕もあったが、それ以外は特に問題もなく。
合計七着ものメイド服を見つけられたという戦果(?)に、希望も大満足である。

「…それじゃあ…記念撮影と行きましょうか…」
『は?』

メイド服も見つかったことだしさっさと帰ろうとしていた一部のメンバーを、まきえの笑顔が見事に押し留めた。
「折角見つけたんだしさ、着て記念撮影しなくっちゃ損でしょ損v」
にっこり笑った崎が悪魔に見える。
帰りたくて仕方がなかったメンバーは、くらりと眩暈がした気がした。

「ちょ、ちょっと待てよ!メイド服は七着だけだろ!?
 それじゃあ当然あぶれるメンバーも出ることだし、問題ないよな!?」

そう口を開いたのは葉華。
そんなもの着てたまるかぐらいの勢いは、相当このメイド服を着たくないらしい。

しかしそんな葉華の抵抗むなしく、にっこり笑った希望から爆弾が投下された。


「――――そんなの、二回に分けて撮影すればいいだろ?」


…なんてこったい。
今正に葉華の言い訳で逃げようとしていたメンバーも、その言葉にぴきっと口を引き攣らせた。

「あ、一人半端が出るけど、その人は演劇部から借りてきた普通のメイド服を着てもらうからねv」

やっぱり揃えるならメイド服オンリーでいかなくちゃvと何の変哲もないメイド服を持ちながら爽やかに笑うクロムに、勘弁して欲しかったメンバーは崩れ落ちるのだった…。


―――――その後。
        抵抗するメンバーを無理矢理押し留め、強制撮影会が行われたのは…言うまでもなく。


後日、報酬としてその写真が送りつけられたが…その時に嫌がっていた面々が一体どんなリアクションをしたのか。
それは…推して知るべし、ということである。


終。

●●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●●

【0086/シュライン・エマ/女/2−A】
【1415/海原・みあお/女/2−C】
【2259/芹沢・青/男/2−A】
【2309/夏野・影踏/男/3−A】
【2364/郡司・沙月/男/2−C】
【3057/彩峰・みどり/女/2−C】
【3368/山内・りく/女/3−A】
【3689/栄神・千影/女/1−B】


【NPC/秘獏・崎/男/1−A】
【NPC/葉華/両性/1−C】
【NPC/緋睡・希望/男/2−A】
【NPC/山川・聡/男/2−C】
【NPC/山川・まきえ/女/3−A】
【NPC/櫻/女(無性…?)/3−B】
【NPC/クロム・フェナカイト/男(心は乙女(笑))/3−C】

○○ライター通信○○
大変お待たせいたしまして申し訳御座いません(汗)学園ノベル、「見つけろ!伝説のメイド服!!」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
また各地点で最低一着はメイド服を発見できたということで、おめでとうございまーす(をい)
相変わらず個別9:共通1の割合で書いてますので、個別シーンが果てしなく大量です(ぇ)
自分のキャラが他の人のノベルに出てる、なんてこともありますし、今回は他の人の物も見て探してみるのも中々面白いかもしれません。
と言うか、今回自分が探索した場所以外がどうなったか気になる場合は、他の人のノベルを閲覧してみるのをお薦めいたします(笑)
また、今回残念なことにB地点学生寮…つまり葉華とクロムのところには一人も来ないという悲しい結果に…(ほろり)よって、今回B地点の描写は無しです。
その代わりなのか、A地点希望の人が一番多かったです。…聡とまきえが人気があるのかそれとも校舎が人気があるのか…(笑)
ちょっと人によって長さがまちまちですが、ご容赦くださいませ(土下座)
なにはともあれ、愉快なNPC達のことをよろしくお願い致します(ぺこり)

みどり様:ご参加、どうも有難う御座いました。
     からかい甲斐のある相手を見つけて、崎も大喜びです(をい)みどり様は可愛いPC様なので、妙にからかいたくなってしまいます…(アホ)
     少しずつ崎の扱いに慣れてきているようですが、相変わらず崎の奇行には驚かされているようで…なによりですv(待てコラ)
     猫耳猫尻尾が出たときは、相当驚いたことでしょうね(笑)

また参加して下った方も、初参加の方も、この話への参加、どうも有難う御座いました☆
色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。