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<幻影学園奇譚・学園ノベル>


■真昼の幽霊■

 まもなく学園祭だというので、校内の生徒は学園祭準備で浮かれていた。
 喫茶店、ミニお化け屋敷、演劇、文化物展示など様々である。
 だが、その最中に妙な噂が流れてきた。
 喫茶店のために練習していたケーキがひとつだけ床に落とされていたり、紅茶がこぼされていたり。
 演劇部員の用意していた衣装が滅茶苦茶にされていたりと。
「こりゃ誰かが妨害してるな」
「しかも単独犯だな。大勢ならもっとデカイことやるだろ」
「ポルターガイストのミニ版だったりして……」
 ぽそりと誰かが呟き、しーんとなったが、生徒達は意気をやますわけにはいかないと、円陣を組んだ。
「怪しい人物を見つけたら、即効追い出すべし!」
「おーっ!」
 出された手の中の一本が、半分透けている。
 同時にその場にいた全員が気付くと、その手の主……古めかしい学ランを着た美形の男子生徒は、にっこり笑った。
「探し物をしているんだけど、きみたち知らないかな?」
 全員が応えられないでいると、彼は哀しげに消えていった。
「ゆっ……幽霊だっ! 犯人は幽霊だっ誰かどうにかしろ!」
「どうにかってどうするのよーっ!」
「わからんからどうにかなんだっ!」
 滅茶苦茶な論理を言いつつ、全員はそれでも舞台の大道具を仕上げるため、カナヅチやらノコギリやらを取り出し作業を始める。
「いーかっ、幽霊を見つけたらすぐ退治だっ誰かオフダ買って来いオフダ!」
「でも、何か言いたげだったけど……」
「んなもんしるかーっ!」
 すっかり錯乱しながらの舞台作りになってしまった。



■走るメロン……?■

 何が何でもこのタイトルの演劇をと主張しきった甲斐があった、と3年C組のシオン・レ・ハイは、ふんふん鼻唄を唄いながら衣装作りをしている。家庭科部所属の彼は、衣装作りに実に重宝されてはいたのだが、感激系の演劇であったはずのものが、タイトルの「走れメロン」のおかげで随分ギャグ的なものになりそうだと多くの生徒が心配していた。
「メロンって、まさか果物のメロンのことではないでしょうし」
 と、幽霊の噂を聞いてやってきていた、3年A組のセレスティ・カーニンガムが、シオンが縫い終えた実に見事な出来栄えの衣装の何着かを手に取り、汚さないよう気をつけて見ている。
「そんなに心配するほどのことでもないかと思いますが」
「いえ……シオン先輩が木の役をやってくださるのは助かるんですけど」
 と、2年B組の初瀬・日和(はつせ・ひより)がおずおずといった感じで言う。
「シオン先輩の言ってるこのタイトルのメロンってマジに果物のだから手に負えねえ……」
 その隣で、小道具を作りながら、ため息をつきつつ、2年A組の羽角・悠宇(はすみ・ゆう)。
 セレスティは微笑ましそうに目を細めた。
「それでも私は身体の調子の関係でお手伝いも出来ませんし、こうして見ていることしか出来ませんが……実に楽しそうですよ、皆さん」
「ええ、もうとっても楽しいです!」
 キラキラと目を輝かせながら、シオン。その間にもちくちくと針を動かす手は止めない。
「でも……幽霊さんには気をつけないと、私はまず出て来てほしいです。何を探しているのかお手伝いすれば、妨害も減ると思いますし」
 一番先に核心をついてきたのは、日和だった。
 その言葉に、初めてシオンの手が止まる。
 幽霊その他の「コワいもの」の類には、弱い彼である。
「そうだよなあ、とにかく出て来てもらわないことには面白くな……いや、解決しないしな」
 続けて、悠宇。
「幽霊は賑やかにしていると出てくるという話も聞きますしね。あと、他に被害にあっているクラブを見て回るのも手かと」
 セレスティが言い、それからひそひそと自然声をしずめて話し合った。もっとも、シオンは話についていくのがやっとだったのだが。
「じゃ、シオンさんはこのまま衣装作りを。日和さんは他のクラスを見て回り、悠宇さんはしたいことがあるというのでそちらを。私も同じくしたいことがありますので、とりあえず校内を回ってみます」
 セレスティがまとめ、シオンと日和、悠宇は力強く頷いて其々に行動を始めた。



■シオンと幽霊■

 さて教室に何故か、いつの間にかぽつんと取り残されたシオンである。
 それに気づいた彼は、途端にコワくなってきた。
 垂れ幕がいい感じにあったのでそこに入って、顔だけ出してみたりする。しーんとした教室は、本当に音がしない。それでもまだ、放課後直後ということもあり、人声がどこからか聞こえるのがせめてもの救いだった。
 人声───。
「ねえこれもう少し赤、濃くしたほう映えるんじゃない?」
「すんませーん、ボールとってくださーい」
「ぼくの声も……聞こえるのかな」
 明らかに、最後に聞こえた声は異質のものだった。
 シオンはひいいと声もなく飛び上がる。あたふたと垂れ幕から逃げ出し、腰が抜けてしまったのではいつくばって扉まで行こうとする。
 扉の前に、それを立ちはだかる透き通った足が現れた。
 ───透き通った足。
 今度こそ、シオンの悲鳴が響き渡った。



■探し物が見つからない■

 全員が元の教室に集まり、全く同じ容姿の幽霊もまた其々についてきたのを見て、各自は一瞬困惑した。すると、幽霊───宮内・春樹(みやうち・はるき)と名乗った───は、ひとつの姿に「合体」した。
「ごめんね。ぼくはちょっと特殊な力を持っていて、魂をこうして何分割もできるんだ」
 春樹は言う。
 聞くと、彼はこの学校の生徒なのは確かだが、所属は野球部。1の背番号を背負ったエースだったという。
「それで」
 恐る恐るといった感じで、日和が尋ねる。
「どこまでお役に立てるか判りませんけど、なにをお探しなのかお話聞かせて下さいませんか?」
 確かに、何を探しているか分からなければ、手伝うにしても手伝いのしようもない。
「埋めたようなものだと探しにくいでしょうけれど、他のものでしたら可能性はありますので」
 と、セレスティ。
「え、ええと、その、衣装とか破ったりの悪戯とかは私も一緒に謝りにいきますので……」
 とは、シオン。ようやくコワさは薄れてきたらしい。
「で、探し物には付き合いますから、できれば学園祭の準備にはあまり悪戯しないでいただけると嬉しいんですけど……みんな苦労してやってますから。先輩にも経験おありでしょう? 慌しい、でも楽しい学園祭の準備って……」
 傷つけたくない、という感じが伝わってきたのか、先輩と呼ばれた春樹は微笑ましそうに笑った。
「ぼく自身は悪戯してるつもりはなかったんだけど、力がコントロールきかなくて。ごめんね。学園祭の経験は、ぼくにはないけど、言ってることは分かるよ。気をつける」
 学園祭の経験はないと聞いて、少し全員が神妙になる。
 切り出したのは、さっきからそれだけが気がかりだといった風な悠宇だった。
「それで、えーと……先輩。未練が断ち切れたら素直に成仏していただける、んだよな?」
 日和にあわせて「先輩」といっているらしい彼は、ここで親切にしたからと日和を道連れにされてはたまらないと、真剣に心配しているらしかった。
 すると、春樹はクスッとまた笑った。
「大丈夫。『未練』が取れたらぼくはちゃんと独りでいくよ」
 でも、と少しだけ切なそうな微笑にすりかわる。
「多分……探し物は見つからないと思うよ。ずっとずっと探してた。それでも、見つからなかったから───ぼくの、親友」
「え」
 シオンが、目をみはる。セレスティは、なるほどその線もあったかと微かに目を細める。日和は少しだけ唾を飲み込み、悠宇がそっとその手を握った。
「うん、ぼくの親友。死んでるはずなんだ、もう。
 約束がね」
 ───約束がね……あったんだ。
 それは、戦時中、それでもまだ誰にも徴収が来ていない頃。
 春樹と親友の和人(かずと)は学校一と言われるほどの大親友だった。同じ教室で笑いあい、部活は和人は美術部と違っても暇な時は行き来するほど、窓越しに会話するほど仲がよかった。


 二年。
 二年間、戦争が激しかった。そのため、学園祭は中止になった。
 三年目、ようやく学園祭が出来ると皆で準備をはりきっていた。野球部の春樹は関係ないから、和人が楽しく準備しているのを時々嬉しそうに見に来ていた。
「なあ春樹、俺達将来さ」
 ある時、和人が何か描きながら嬉々として目を輝かせて言った。
「俺達将来さ、同じ仕事して同じ生活してさ。お互い誰かと恋愛して結婚するまでそうしてたらさ、楽しいだろうな」
「うん。そうだね」
 どんな職業がいいとか。
 どっちが先に給仕係になるかとか。
 そんなことをたくさん話した。
 やがて、春樹に徴収が来た。
 和人は泣いた。
「泣かないでいいよ」
 春樹は、いつもの笑顔で言った。
「学園祭、今年はあるんだから。
 そしたら、その頃にはこの戦争も終わってる。学園祭で、会おう」
 でも、春樹は戻らなかった。
 戦地で死んだ。
 その直前、和人も風邪をこじらせて死んだと、聞いた。


「でも」
 春樹は、言う。
「和人もここに来てると思ったんだ。学園祭で会うって、再会しようって、約束したから」
 それで。
「それで───毎年、待ってたんですか?」
 涙脆いシオンが、涙を堪えて尋ねる。
 こくりと頷いたのを見たとき、日和はぽつりと涙をこぼした。悠宇がハンカチを出して、そっとぬぐってやりながら春樹を見つめる。
「でもさ、ダメだと思っても毎年きてたんなら、絶対探し物はあると思う」
 だって、人の願いは無限の可能性を秘めているから。
 祈りは、無限の奇蹟をおこすから。
「そうですね」
 静かな声で、セレスティ。
「まだ、諦めるのは早いです。和人さんとは、具体的にはどこで再会をと約束したのですか? それと、思い出の場所をしらみつぶしというのも手ですね」
「和人は、ぼくに会いたくないんじゃないかって思う」
 春樹は言う。
「これだけ待っても、出てきてくれないから、きっと愛想尽かされたんだ」
「そんなことありません!」
 シオンが、拳を震わせて縋るようにこたえる。
「将来を誓うほどの大親友なら、きっとまだ眠っているとか、気づいてないだけです。もっとたくさんの呼び声を───そう、呼んであげればいいんです、力の限り。そしたらきっと目を覚まします!」
「あ、いいかもなそれ」
 悠宇が、ぽんと手を打つ。
「和人先輩の好きだった場所か、待ってそうな場所で皆で叫ぼうぜ」
「和人先輩って、私も叫びます。美術部の窓越しでよく会話してたなら、美術部にいるかもしれませんよね」
 日和が、力を込めた微笑を浮かべて春樹を元気付けるように言う。
「そうですね……美術部員達も帰っている時間でしょうし、行ってみましょう」
 セレスティの言葉に、全員は春樹と共に美術部に向かった。



■いつか雨宿りをしよう■

 美術部に行き、電気をつけると、美術室の中でもあまり使われていない教室は、少し広く感じられた。
「こうしてみると、結構古いですね」
 セレスティが、壁を見つめながら言う。
「机も木造とかありますね」
 シオンが、全員分の椅子を揃える。
「黒板もすっかり埃がかぶってる……」
 日和は、和人のために掃除をしてあげたい気分になった。
「さてっと。んじゃ、呼ぶか」
 悠宇が、喧嘩をするでもないのに気合をこめる意味で指をパキパキと鳴らす。
「「「「和人先輩!」」」」
 合図もなかったのに、4人の声が不思議と揃った。思わず照れくさそうに笑いあい、もう一度と息を吸ったその瞬間。
「あ───」
 春樹が、教室の後ろのほう、何かがぼうっと光り始めたのに気づいて身を乗り出した。
 4人も腰を上げる。
 光り始めたもの。
 それは、
「───和人が描いてた、絵だ」
 それは、決して春樹にさえ見せなかった、和人の最期の作品。
 キャンパスに水彩で、大きな樹と、虹色の雨、そしてその樹の下に座って雨宿りしながら楽しそうに話している二人の姿───春樹と、恐らくは和人の姿が描かれていた。
 雨なのに、その絵の空はどこまでも青く。
 虹色の雨は冷たそうでもなく、とてもあたたかく。
 二人の姿は、これ以上にないほど幸せそうで。
「こんなところに」
 幽霊でもなく。
 魂として、この絵に宿っていた。
「こんなところに、いた」
 春樹はキャンパスの前に座り込み、泣き続けた。
 そして、ほどなくして───そのまま、静かに、
                         消えた。





 ───将来、何になりたい? 二人で、何をしようか。
 ───疲れたらさ、雨宿りしよう。きっと受験やなにかで疲れてるから。
 ───そうだね、まずは雨宿りだ。それで疲れがすっかりとれるまで、とれても、ずっとずっと楽しい話してよう。
 ───約束だよ。いつか、雨宿りをしよう。
 ───約束。──約束だよ───





《完》






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】
3356/シオン・レ・ハイ (しおん・れ・はい)/男性/3年C組
1883/セレスティ・カーニンガム (せれすてぃ・かーにんがむ)/男性/3年A組
3524/初瀬・日和 (はつせ・ひより)/女性/2年B組
3525/羽角・悠宇 (はすみ・ゆう)/男性/2年A組






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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東瑠真黒逢(とうりゅう まくあ)改め東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。今まで約一年ほど、身体の不調や父の死去等で仕事を休ませて頂いていたのですが、これからは、身体と相談しながら、確実に、そしていいものを作っていくよう心がけていこうと思っています。覚えていて下さった方々からは、暖かいお迎えのお言葉、本当に嬉しく思いますv

さて今回ですが、まずは遅延してしまいまして、すみません。これを書いている翌日に10年来の親友の告別式があり、また、母も再検査となり、わたし自身も検査の話も出ていて、少し深刻な状態になっていました。
今回は、戦争をテーマに盛り込んでみました。オープニングと比べて随分重いなと感じるかもしれませんが、実はこれが書きたかったと分かっていただければ物凄く嬉しいです。
因みに今回は、幽霊探しの部分だけ個別とさせて頂いていますので、他の方々のも見てみると楽しいかもしれません。それと、今回、物語を毀しそうでしたので、ヘタに公式NPCは出しませんでした。

■シオン・レ・ハイ様:連続のご参加、有難うございますv 「走るメロン」をもう少しネタに使いたかったのですが、そうするととても長くなりそうでしたので、また次の機会に何かのタイミングとあわせて使いたいなと思っています。「呼び声」の提案は、意外とロマンチストだとわたしが思っている(勝手にですが)シオンさんなら真っ先に言い出しそうだと思い、こんな感じにさせて頂きました。
■セレスティ・カーニンガム様:連続のご参加、有難うございますv 埋めたもの、というくだりで、一瞬タイムカプセルや和人の白骨でもいいかなとも思ったのですが、こちらのほうがある意味自然かなと思いましたので、こちらにしましたが如何でしたでしょうか。
■初瀬・日和様:連続のご参加、有難うございますv 先輩、と呼ぶところがとても日和さんらしいなと思いまして、つい最後のほうの「呼び声」も「先輩」とつけてしまいました。もう少し日和さん独特の気遣いというかそういうものが出したかったのですが、心残りのひとつです。
■羽角・悠宇様:連続のご参加、有難うございますv いつもながら日和さんを大事に思う気持ちを前面に出しすぎた感じもしますが、こんな風に普段もしつつ、物事をこなしていくPCさんだと思っています。何があっても諦めないだろうなと思ったので、あの提案をシオンさんに続いて、していただきました。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。それを今回も入れ込むことが出来て、本当に感謝しております。有難うございます。今回は「雨宿り」、「約束」の意味も少し深く考えて頂けたら幸いと思います。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆