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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


消えた大学生

◆依頼内容
 人捜しの依頼が草間興信所に持ち込まれた。『怪奇探偵』の二つ名を持つ草間・武彦(くさま・たけひこ)はあまりに普通な依頼にとまどいを覚えつつも、依頼を受理する。
 依頼内容は失踪した大学生、沢渡涼(さわたり・りょう)の捜索だった。依頼主は涼の叔母にあたる高久・久美恵(たかひさ・くみえ)だ。涼は都内の音楽大学に通う大学一年生だが、それが何時からなのか、失踪してしまっていたのだ。 警察に失踪届と捜索願は出したものの、事態の進展は望めそうにない。数枚の写真と破格の報酬が久美恵からもたらされ、調査が開始されることになった。
・大学生沢渡涼の行方を捜してください。方法は問いません。
・携帯電話を所持していたが、電話は通じた事がない。
・通っていたのは都内の音楽大学。通学は東急線を利用。
・新宿駅から徒歩15分の賃貸マンションで1人住まい。
・学費と住居費は叔母の管理する預金口座から自動振り込みされていた。
・叔母は甥の交友関係を把握していない。

◆依頼開始
 草間探偵事務所に現れた四方神・結(しもがみ・ゆい)は突風の様だった。
「草間さん! お願いです」
「なんの事だ?!」
 扉を閉めるのももどかしそうに結は草間武彦のもとへと一気に歩み寄る。
「私、どうしても会いたいんです。会わなくちゃいけない気がするんです。だから、この人、私に探させてください。ね、お願いします!」
 息がかかる程近くまで迫る結に武彦はあわててくわえていた煙草を灰皿に置いた。一瞬火を消そうかとも思ったのだが、まだ吸い始めたばかりでつい勿体ないと思ってしまった。雑多な仕事を請け負っている割には、事務所の経営は破綻寸前だった。当然煙草を買う小遣いを捻出するのも苦労している。
「人捜しだ? なんの‥‥いや、どれの話だ。おい、ちょっと結、お前落ち着け!」
 金にならない細かい仕事が多いと評判の草間探偵事務所である。所長が個々の依頼を完璧に把握していなくても仕方がない。武彦があてにならないとわかると、結は勝手にファイルを漁り始めた。そしてすぐに目的としてきたその『依頼』を見つけだす。
「これです。私、この人を捜し出したい」
 結は着手中の依頼ファイルから1冊を取り出して武彦に示した。

◆喫茶店の甘い誘惑
 貧乏勝負なら武彦にだって負けないぞ、と自負している貧乏自慢(嘘)が、悲しくも更なる貧乏への道をぶっちぎりで走っていた。失踪した沢渡涼が通っていた大学に近い喫茶店で、神木・九郎(かみき・くろう)は手がかりとなりそうな情報を集めていた。
「ねぇ、ホントにキミぃ沢渡君の従兄弟なの?」
 ばっちりメイクをした女子大生が、秋波と間違えそうな程意味深な視線を九郎に向ける。多分、九郎を年下で世慣れない高校生と思いからかってやろうとしているのだろう。冗談じゃねぇ。こちとら世間に揉まれまくってしぶとく生き抜いている善良でいたいけな高校生だ。更に幾百もの悪態が溢れてきたが、情報を引き出す前に相手を怒らせるわけにはいかない。ぐっと堪えて気を静めてから口を開く。
「じゃなきゃ居所を探そうなんて思わないよ。涼兄ちゃんはあんまり親戚と上手くやってなかったからさ、せめて俺ぐらいって思うわけ。だから、なんか知ってたら教えてよ。さっき大学で心当たりありそうな事言ってたろ?」
 従兄弟を心配する善良でいたいけな高校生になりきって言う。もともと善良なのだから、演技するまでもない、と九郎は心の中で至極当然に思う。
「確かな事じゃないのよ。でもね、確かに最近の‥‥学校に来なくなる直前ぐらいの沢渡君ってちょっと変だったの」
「どんな風にさ」
 九郎が身を乗り出す。
「一言で言うなら荒れてたよ。試験に出てこないとか、めちゃ怒って教授の部屋から出てきたりとか、学校辞めたいとか、コンクールに出るとか出ないとか‥‥」
 やっぱり何かあったのか、と九郎は心の中で『ビンゴ!』と叫んだ。こうなると、ただの失踪ではなく事件性も出てくる。
「ふ〜ん‥‥そこんとこ、もっと詳しく教えてよ。付き合ってた人とかさ」
「‥‥お腹空いちゃったなぁ。ね、なんか頼んで良い?」
 つまりは奢れというのだろう。泣きそうになりながら九郎は店員を呼んだ。

◆大学の大きな樹の中で
 大きな大きな木の樹で、緋井路・桜(ひいろ・さくら)は幹に抱きついていた。小さな左右の手のひらから樹へと心を広げる。他の樹がそうであるように、ここの樹も桜に好意的だった。抵抗無く樹の世界へと桜を導いてくれる。
 草間探偵事務所で見た写真の人は、樹の記憶にもあった。練習室から零れる弦の音は桜の知らない旋律だ。上手なのかどうか桜に判断はつかなかったが、激しい気持ちが表れている音だと思う。それが突然中断された。
「どういうことですか? 俺に約束した事は全てはチャラって事ですか?」
 答える声は樹からは聞こえないらしい。あちこちの教室から聞こえてくる雑多な音が会話を聞き取りにくくしている。しばらくしてまた聞こえてきたのは、やはり涼の声だった。
「わかりました! そっちがそうなら、俺にも考えがあります」
 強く扉を閉める音が響く。会話はそれきり聞こえなかった。
 ゆっくりと樹の世界が遠くなり、現実の風や音が桜に感じられるようになる。けれど、しばらくは馴染むためにじっとしていた方がいいのだろう。幾度となく樹の世界へとシンクロしたことのある桜は、経験的にそれを知っていた。
「‥‥やっぱり‥‥何か、あった。今度はお家にも‥‥行ってみないと、いけない」
 ゆっくりと樹から身を起こすと、桜は大学の敷地をあとにした。

◆最悪のシナリオ?
 沢渡涼が通っていた大学へは車を使って移動した。途中、自分の携帯電話から涼の携帯電話へコールしてみる。しかし、呼び出し音が数回鳴ると留守番電話のメッセージが流れてくる。
「念の為にこの番号の携帯電話がどこにあるのか調べて下さい」
 セレスティ・カーニンガム(せれすてぃ・かーにんがむ)は同乗している部下に静かな口調で言った。部下は一礼するとすぐに作業にとりかかる。今や車で移動していても、オフォスにいるのと同様に検索や調査が出来る。それだけの金をセレスティは自分の車にかけていた。
 大学での聞き込みによれば、最近の涼は粗暴な振る舞いが多かったらしい。教授との師弟関係も良好とは言えない。けれど、涼は荒れている理由について語らなかったし、大学側も特別な事はなかったと言う。
「確かにここで打ち明け話をするというのは無理な事の様ですね」
 セレスティは微かに眉をよせた。漠然としてだが、この大学という場所に膨大な邪念が渦巻く様なものが感じられた。多分、多くの思念が集合して形成されたものなのだろう。こんなものがあるのでは、信頼関係を築いたり、愛情や尊敬の念を持続しているのに相応しい場所とはいえない。
「お疲れですか?」
 顔色の悪い主を気遣って部下の1人が声を掛けた。セレスティはうなづく。
「そうですね。彼のバイト先を当たってみましょう」
 この場所に居る事は苦痛であった。
 セレスティが睨んだとおり、涼は生活費を稼ぐためにバイトしていた。日々の練習に多くの時間を割かなくてはならない身でありながら、バイトもしなくてはならないのだから、かなり辛い生活だっただろう。けれど、あの音楽大学ではそう珍しい事でないようだ。だから涼がバイトしていたこのライブハウスも同じ学生から紹介されたものらしい。
「あぁ、あいつね。俺も困ったよ、あの時は。いきなり来なくなっちゃったからな」
 店長だという若い、いかにも堅気ではない様子の男は疲れたように溜め息をつきながら言った。
「涼さんは悩みを抱えていた様なのですが、あなたにその事を言っていませんでしたか?」
「さぁなぁ。あいつ、あんま自分の事を話さない奴だったからな‥‥まぁ悪い奴じゃなかったけどな」
「そうですか。ありがとうございます」
 セレスティは丁寧に礼を言って車へと戻る。その表情は険しかった。店長の口調が涼を過去形で語っているのが妙に気になった。

◆宛先のないメッセージ
 結は涼が良く通っていた場所を片っ端からあたっていた。良く行く本屋、馴染みの楽器店、喫茶店、CD屋、カラオケショップ、ゲームセンター、映画館。写真を持って聞き込みをしても、顔や名前を見知っている者は誰もいなかった。
「‥‥収穫なし‥‥かぁ」
 さすがの結も疲れて公園で一休みする。ベンチの腰掛けてぼぅ〜っと周囲を眺めた。どちらを見てものどかな風景だ。ゆっくりと散歩する老夫婦。水で悪戯する子供達、犬を連れている親子連れ。みんな幸せそうに見える。けれど、行方のわからなくなった涼は幸せそうではなかった。聞き込みにあったった学校にも居場所がないように思えるのだ。
「だから失踪しちゃったのかな‥‥」
 何故だかそうは思いたくなかった。頭を抱えてがっくりとうつむく。すると、ベンチの裏側に何かが貼り付いているのが目に入った。

◇涙のわけ
 ベンチの椅子になっている部分裏にその紙切れは貼り付いていた。普通なら気が付かなかっただろうが、片方の端が外れてぶらりと垂れ下がっていたのだ。迷わず結はそれを手に取った。理由は判らなかったが何故かその紙切れが気になったのだ。開いてみると、それは五線紙だった。手書きの楽譜で細かく音符や音楽記号が刻まれている。さして古いものではない。
「これは‥‥なんなんだろう」
 楽譜を見てもわからない。けれど、これが何か大事なものなのではないかという気がしてならない。結はそれをハンカチで包むとそっとバッグにしまい込んだ

◆新たなる依頼
 調査を開始して3日目、草間探偵事務所に高久久美恵から連絡が入った。涼をさらったという犯人から脅迫状が届いたというのだ。それは涼が持っていた筈の携帯電話から発信されたメールで、久美恵の夫義則の携帯電話へと送信されたものであった。文面には500万円を支払えば涼を返すので下手な手出しはするなとある。文末には『警察に知らせれば生きては返さない』の決まり文句も入っている
「どうしたものでしょう」
 久美恵は真っ青な顔をして再び草間探偵事務所に訪れた。
「まぁこっちも手がかりがないってわけじゃあありませんが、なにぶんまだ3日しか調査していませんからねぇ‥‥」
 武彦は内心あれこれ思案しながらも、愛想がよくて頼もしげに見える笑顔を心がけつつ久美恵をソファへ座るよう促した。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 情報 】
【2895 /神木・九郎/男/10代後半/現時点では不明】
【1883 /セレスティ・カーニンガム/20代/現時点では不明】
【3941 /四方神・結/女性/10代後半/身辺に拠点がない・公園の五線紙】
【1233 /緋井路・桜/女性/10代前半/現時点では不明】
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■         ライター通信          ■
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 お待たせ致しました。草間探偵事務所での人捜し依頼ですが、続いてしました。もし、よろしければまたご参加頂きたくよろしくお願いします。結さんが爆発的な行動力と不屈の精神で掴んだ情報は結さん固有のものです。また、五線紙の事は結さんのみが知っています。もし、次回もご参加下さるのならばこれをお使いになる事が出来ます。誰かに情報を提供する場合には、ご面倒でもライター宛にメールを下さいますようお願い致します。では‥‥またお逢い出来る事を楽しみにしております。