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■小人達の夢の後■
「珍しいわね、あなたのところから差し入れなんて」
碇麗香は、昼食時を利用して、久々の来訪者───草間興信所の主、草間武彦の差し入れした枝豆を編集者達と一緒に食べていた。たまにはこういった昔のおやつもいいだろう。
「いやー、零が俺がいない間に接客した俺の友達ってヤツから土産もらっちまったらしくてさ、それも段ボール箱にどっさり。流石に賞味期限内に喰いきれないだろ?」
「それで、わたしのところに持ってきたわけね。美味しいから嬉しいけど」
そう言っている間にも、顔なじみの者達もやってきて、食べたりしている。
やがて、零もやってきた。
「よお、零。お前も喰えよ」
「そっそれが兄さん! そのお土産……枝豆じゃなかったらしくて、お友達の間違いだそうです」
「へ?」
ぽり、と食べる手が止まる。
「なんでも、それは『小人豆』といって、食べると30分以内に発芽して小人化してしまうという豆らしくて。あ、小鳩豆っていう、鳩が匂いをかいだだけでやってくる豆型の薬を作ろうとして、一行間違えた索引を引いて『小人豆』を作っちゃったらしいんですけど……」
薬、と聴いて武彦はぴくりと引きつる。
「まさか───その、土産持ってきてくれた友達ってのは」
「はい、この前兄さんを子供にしちゃったからお詫びにって、生野・英治郎(しょうの・えいじろう)さんです」
「あいつは二度と敷居をまたがすなと言っただろー!!」
生野英治郎とは、昔からの武彦の腐れ縁で、変わり者の薬剤師である。ついこの前も武彦に新しく作った薬を飲ませ、子供にしてしまった事件があったばかりなのだ。それは、麗香も伝え聞いて知っていた。
「に、兄さん!」
そうしているうちに、みるみる零と麗香が大きくなってきた───他編集者達、客達は変わらないのに。
いや、自分達、「小人豆」を食べた者だけが文字通り「小人」のように小さくなっているのだった。
「待てっ! なんで麗香、お前や他の数人は平気なんだ!」
「あ、これ、体質的に『あわなくて』小人化しない人もいるみたいです」
さらりと、メモを読む零。
被害を免れた者達は、そのままの等身のまま小さくなった───リカちゃん人形ほどの武彦や中間達を踏まないように気をつけながら、動揺している。
「そ───それで、零ちゃん。この状態からは、どうすれば治るのかしら?」
麗香は武彦にもらった差し入れを食べたことを心底後悔しながら、尋ねる。いや、まだ自分が被害にあわなかっただけマシと思うべきか。
「元に戻る薬は、今生野さんが、こんなこともあろうかと思って山にこもって作っているそうです」
「何がこんなこともあろうかと思ってだ、あいつ……」
絶対に、こうなることを見越して押し付けたとしか武彦には思えない。
「その間、『小人豆』の特徴として、一ヶ月は戻らないそうなんですけど───食べてない人の傍にくっついてると元に戻る期間が早いらしいです。それと」
零はメモしてきたものを見ながら、言った。
「楽しい雰囲気が好きなお豆らしいので、楽しい雰囲気をたっぷり吸わせてあげるといいらしいです」
「栽培じゃないのよ……」
新鮮な空気を吸わせたりするのとなんら変わらない。呆れる、麗香。
「まー……巨大化するよかマシだろうがなー……誰かに踏まれたりしたら死ぬぞ本気で……」
武彦が言うと、零は被害にあった人間達を踏まないよう気をつけながらやってきて、持ってきていた紙袋からちょうど全員が入るほどの水槽を取り出した。
そこにつまんで丁寧に全員を確保すると、碇麗香の机の上に置く。
「協力者さん、今募りますから。兄さん、待っててくださいね」
零の言葉に、げんなりする武彦と麗香だった。
■水槽に水を入れてはいけません■
シュライン・エマ、初瀬・日和(はつせ・ひより)、羽角・悠宇(はすみ・ゆう)は、水槽の中の小人達、否、小さくなってしまった哀れな人間達を見つめて、うーんと唸っていた。
そんな三人の目の前に、麗香がべたっと「この水槽に水を入れるべからず。人死にが出ます」と、洒落にならない紙を貼る。
「あの人、生野さん……絶対、愉快犯ですよね」
愛犬バドの散歩の途中、バドがあまりに騒ぐので悠宇と立ち寄ってみたら、こんなことになっていた。日和の言葉に、悠宇はその中の武彦だけを見つめて、必死に笑いを堪えている。
「笑っちゃ駄目よ、悠宇。悪いわよ」
そういう日和も、ちょっとつつけば笑い出しそうだ。
「まーた生野さんにやられちゃったわけ? 草間さん。つくづくめぐり合わせが悪いっていうかなんていうか……」
「うるせっ」
水槽の中から、武彦の声が聴こえてくる。いつもより声が小さくなっているのは、仕様だろう。
「な、写真撮っといていい?」
「撮るなアホっ!!」
武彦の反応が面白いので、いちいち笑ってしまう悠宇なのである。
その隣で、こちらは流石に大人である。シュラインは、困ったように苦笑していた。
「今回はそのまま小さくなったってわけね……もうちょっと手軽に大きさ変化可能なら、事務所の懐事情が怪しくなった時とか食費浮かすのに便利そうかもしれない……」
「こらっシュラインっお前も真面目にやってくれ!」
大人のシュラインでさえ、ついからかわずにいられない。武彦だけが必死である。
そんな時、元気な声がアトラス編集部に響き渡った。
「こんにちはーっ。暇なので遊びにきました。バイトはどうしたんだとかは聞かないでください♪」
シオン・レ・ハイが、河川敷等で摘んだ花を新聞紙でくるんだものを手に、軽やかな足取りで麗香の元へ辿り着くところだった。
無論、そんなお土産は麗香に軽くあしらわれることは覚悟の上である。が、今日の彼は一味違った。
麗香が文字通り、花を押しやろうとしたところへ、チラシ配りでマスターしたステップをふみつつ渡そうとし始めた。
水槽の中の武彦までもが笑った。
それは、阿波踊りのステップだった。
誰がどう見ても阿波踊りのステップである。脱力したのか根負けしたのか、麗香は力なく、その花を受け取り、
「頭痛が酷くなったわ……」
と、頭を抑えてデスクに突っ伏した。
無理もない。
そしてシオンは、そこにあるものを見てキラッと目を輝かせた。
「あっ豆が! 食べていいですか!?」
そして「あああっ」と止めようとする皆の制止も虚しく、ぱくぱくと美味しそうに食べている。
「ああ枝豆、こんなに美味しい枝豆は実に半年振りです」
「は、吐けっ! 草間さん達みたいに小さくなつてもいいのか!?」
どん、と悠宇が焦って背中を叩く。すると、ごっくんと豪快な音がした。
「……飲んでしまいました」
「普通背中叩いたら口に入れてたモン出すだろー!?」
「飲みます普通っ! ああ、味わって食べられなかった。もう一度……」
「やめなさいというのに」
悠宇とシオンの不毛なやり取りを、シュラインがシオンの手を掴んでやめさせる───が。その掴んだ手がどんどん縮んでいく。
「あれ? 皆さん随分巨大化しましたね。さてはこの豆、ジャックと豆の木の豆ですね?」
「何がどうしてそういう思考になるのか俺は小一時間ほど問い詰めてえ……」
がっくりする悠宇に、ぽむぽむと背中を叩く日和。そして彼女は、すっかり小さくなってしまったシオンを、そっと手の平に乗せた。
「シオンさん、これはかくかくしかじかという豆で……」
日和達が事情を話して聞かせると、シオンは、何故か喜んでいた。その間にシュラインは、考えながら麗香と相談している。
「楽しい事ねぇ? 零ちゃん」
と、そこにいた零にシュラインは顔を向ける。
「んー……それって食べた人が楽しいって感じればOKなのかしら。それともその場の雰囲気自体なのかしら?」
「生野さんの言うところでは、『周囲の雰囲気が楽しくなれば』ってことらしいです」
零の返答に、なるほど、と全員が相槌を打つ。シュラインはとりあえず、水槽の中から我が恋人であり草間興信所の大事な主である武彦を、そっとつまみ上げた。
「とりあえず小さくなった人達の好きな事や食べ物等聞いて実行していくとして、他に皆でお笑い系の番組とか舞台とか見てみるとか。どうかしら?」
「この間乗れなかったジェットコースターでも乗りにいくか? ドナルドにも会えるしさ?」
「羽角ーっっ!!」
悪戯っぽく続けた悠宇の言葉に、これまた単純に(この場合は無理もないが)頭から煙を上げる、武彦である。シュラインは真顔で対応する。
「遊園地は飛ばされる可能性があるし、やめたほうがいいわね。動物園とかコミカルな映画とか……お祭りなんかもあれば行ってみてもいいかもしれないわね」
「お祭りは……雑誌で見る限りでは、予定はなさそうですね」
日和が、麗香に渡された行事予定が主に載っている雑誌のページをめくりながら言った。
「じゃ、武彦さんは預かっていくわね」
「ええ、是非そうして頂戴」
シュラインがまるで誘拐犯のような台詞を吐くが、突っ込む余裕は麗香にはない。さっきからシオンが、ぴょんぴょんと飛びはね、「誰かにつれてってもらうのなら麗香さんがいいでーす!」と、煩いのである。
「じゃ、武彦さんいらっしゃい」
ちっちっちっと思わず小動物に対するように手を差し伸べるシュラインを、武彦は睨みつつもよじ登った。
「お前なー……俺は子猫でも子犬でもないんだぞ」
「そうだったわね、ごめんなさい武彦さん」
あっけらかんと微笑み、肩に乗せてみたり腕に乗せてみたり、どこが一番乗せるのに安全か試してみるシュライン。
「リカちゃん人形大って持ち歩こうとすると微妙に大きいのよね……」
「やっぱり鞄の中でしょうか?」
日和が、シオンをそっとつまんで麗香の肩に乗せる。
麗香は、
「わたしまで一緒に行かなくちゃならないの?」
と、苛々している。
「まあまあ、一緒に縮まなかっただけいいと思ってさ、シオンさんのせっかくのご指名なんだし」
悠宇が言うと、麗香は仕方なさそうにため息をつき、シオンをつまんで自分の内ポケットに入れた。シュラインも、結局内ポケットにしたらしい。
「……シオンは嬉しそうだな……」
シュラインの服の内ポケットにおさまって、麗香の内ポケットで鼻歌を唄っているシオンを横目で睨む武彦。
「小さくなったら、食べ物がお腹一杯食べられるのです! 大きな食べ物、ああ、夢のようです!」
「いっそ夢であってくれ……」
同じ小さくなった者にしても、実に対照的な二人である。
そして麗香も入れた4人の普通の人間達と、二人の小人は外に出たのだった。
■とんだハプニング■
アトラス編集部を出たところで、シュラインが誰かとぶつかった。バランスを崩し、鞄まで落としてしまう。
「あっすっすみません!」
見たところ高校生ほどの少年が、慌てたように謝る。
こちらは、小人化した人間を見られまいと必死なため、「いいえ」やら「大丈夫」やら言って少年が行った後、
「草間さんは大丈夫か?」
悠宇が聴くと、シュラインもそれが気懸かりだったらしい。今の拍子でつぶれてはいまいか。内ポケットを探り、シュラインは、
「いない」
と、ぽつりと言った。
「え?」
日和が、焦ったようにそこらを探し始める。無論、悠宇もシュラインもである。三人で地べたを這いずり回り、武彦がひっくり返ってはいないか、どこかに飛んでいってドブの中に落ちていないかとひっそり声をかけながらの捜索である。
段々、野次馬が増えてきた。麗香は急いで、内ポケットのシオンをもっと潜らせる。
「動かないで!」
シュラインの凛とした声が放たれる。
「コンタクトが落ちました。皆一歩でも動いたら弁償してもらうぜ」
楽しむように、悠宇。
ピタリと、野次馬達の足が止まる。そして、麗香の内ポケットの中からシオンが「あのー」と意見した。
「草間さん、シュラインさんにぶつかった少年にくっついてっちゃったんじゃないでしょうか?」
ハッとする三人。
「まさか……くっつき虫じゃあるまいし」
と、シュラインが懐かしい植物の名称を言うが、気になるらしく、
「さっきの少年を追うわ。麗香さん、シオンさんも連れて来て、肉体労働させて悪いけど」
と、走る羽目になったのだった。
日和はというと、急いでこちらも、連れて来ていた愛犬バドの、つなげていた首輪を解こうとして───悠宇にしがみついた。
「バドが、バドがいないの」
「そんな、草間さんじゃあるまいし」
言って、「ん?」と思う。
「日和、お前のとこの犬、拾ったものなんでもどこかに隠すクセなかったか?」
「あ……」
もしかして、この前の武彦が子供になった時に会ったので、武彦の匂いを覚えているかもしれない。
「バド探そうぜ」
「うん」
手分けして、そうして日和と悠宇は内心同時に、「シュラインには後で説明しよう」と恐ろしく思いつつも思っていた。
■本物の武彦はどれ?■
「あら?」
一緒に走っていた麗香が、ふと内ポケットを見遣った。
「どうかしたの? 麗香さん」
一緒に立ち止まるシュラインに、麗香が、「シオンさんがいなくなったわ」と告げた。
今日は厄日かしら、と思うシュラインである。とりあえず麗香は自分の部下達も心配だろうからとアトラス編集部に帰ってもらうことにし、シュラインは二人を探す羽目になった。
闇雲に走っていても意味がない。事実、ここは動物園の近くだった。
「困ったわ……あの少年、高校生くらいだから動物園になんて一人ではこないだろうし」
そこへ、ぎーこぎーこと音を立てながら、ねじ巻き人形がシュラインの足元までやってきた。この前ちょっとだけ興信所で見た、生野にそっくりな人形である。
自然、警戒するシュライン。
そんなシュラインに、生野人形は電機音声で話しかけてきた。
「シュラインさん、シュラインさん、囚われの私を助けてください。助けてくれたら、武彦くんも助けてあげますよ」
一瞬反論しようとしたが、人形と会話が出来るはずもない。
「助けてくれないのなら、こうです」
生野人形はそう言うと、自爆した。派手に煙が沸き起こり、風に乗って消えたと思ったら、動物園のほうが騒がしくなった。
「おいっヘンな人形がたくさんいるぞ!」
「ホントか? これで娘の誕生日の金が浮く」
「よし、つかみ取りだ!」
まさか、生野はどこからか見張っていて、武彦の居場所も知っていたのだろうか。
動物園に走る、シュライン。入ったところで、ずざっと後じさりした。動物園の入り口から向こう1メートルくらい、リカちゃん人形大の武彦がわさわさいるのだった。
「悪ふざけも過ぎると後が痛いわよ、生野さん?」
ひくひくと口元を引きつらせながら、シュラインは誰にともなく言う。
この中に本物の武彦がいるとすれば───。
簡単である。
「武彦さん、生野さんの居場所が分かったわよ! 解毒剤も作ってあるって言ってたわ!」
これに反応すれば、武彦に間違いない。
だが、誰一人として反応しなかった。シュラインは、武彦人形を一人、つまみあげてみる。じたばたする武彦人形は、何も喋ろうとしなかった。あちこちから、糸くずがはみ出ている。
「……全部偽者……つまり、武彦さんを探させないために足止めってわけね」
ぽい、と本物の「人形」の武彦を武彦人形の群れに置き、いつもと違う賑わいをみせる動物園を後にする。商店街までうろうろと探していると、バッタリ悠宇と日和に出会った。
悠宇の手には、かなり汚れてはいたが、疲弊しきった武彦の姿があった。
「武彦さん!」
思わず悠宇の手から奪い返そうとして、犬の匂いがぷんぷんしていることに気付く。
「つまり……」
シュラインが真相を見事頭の中で推理し、日和と悠宇は、バツが悪そうに笑ってみせた。
「あ、そうだシュラインさん、夏祭りが今日あるらしいんだ。しかも小人用とかって小さく書いてある」
悠宇が言い、日和がチラシを見せた。こんなことをするのは一人しかいない。シュラインは、くしゃっとチラシを握りつぶさずにはいられなかった。
■武彦、想い出の夏■
聴くと武彦は、あの少年にぶつかってシュラインの内ポケットからダイブしたところを、つながれてあった日和の愛犬バドに、運良くキャッチされ、ついでに取れかかっていた首輪を振り切って喜び勇んだバドに、日和の家の裏庭に埋めさせられるところだったという。
「なかなか壮絶な体験をしたんですね」
と、しみじみとシオン。こちらは、似たような状況に遭っても楽しんでいたのだから問題はないらしい。
「お前はいいよ、念願のウサギに乗れたんだから」
シュラインに綺麗にハンカチで拭いてもらいながら、どこかむすっとして武彦。
「でも、小人用祭りって……主催者は絶対あの人だと思うのだけど」
シュラインが、何気なく玩具の露店のリカちゃん人形の服に目を留めながら呟く。
「生野さんしかいねえよな、やっぱ」
悠宇が同意する。
「あちこちに、小人化した人も何人かいるみたいだし……だから、シオンさんや草間さんを見ても、みんなあまり騒がなかったんですね」
日和が、その玩具の露店から買って、「毎度あり」と言われ、微笑んで会釈して来ながら言う。
「待て、初瀬……俺はリカちゃん人形の服を着る趣味はないぞ」
シュラインの内ポケットに収められようとしながら、武彦。
「でもこれ、リカちゃん人形の服じゃなくて、リカちゃんの恋人の人形の服ですよ。きっとピッタリかと」
「そうだぜ草間さん、そんな汚い服着てシュラインさんの服汚したら申し訳ないだろ?」
日和に続き、こちらはどうしてもからかっているとしか思えない口調で、悠宇。
「草間さん、草間さん、小さめのさくらんぼ飴というのもありますよ!」
こちらは、ウサギごと日和に抱っこされながらのシオンである。
「どの道、一度興信所に戻って、お風呂に入ってからのほうがいいわ。犬に咥えられていたのなら、雑菌もあるでしょうし」
シュラインが尤もな意見を言ったので、全員一度、草間興信所に戻ることになった。
零が、人数分のお茶を淹れてくれる。
「さ、草間さん。私と一緒にお風呂に入りましょう」
ウサギは零がすみっこのほうで一緒に遊んでおり、ウサギから降りたシオンが、こちらも悠宇に買ってもらったらしいリカちゃんの恋人の服、しかし武彦のものとは違う服を持って毅然と言った。
「いや……どうやって入るんだ、溺れるぞ」
「心配ないわ、武彦さん。今、石鹸やらなにやらを全部小さく切っておいたから」
シュラインが風呂場から言う。
「どうせなら牛乳風呂がいいです!」
シオンのリクエストで、零が鍋で牛乳を沸かし、適度な温度にして、それを底の浅い、ちょうど今の武彦とシオンが入れる程度の器を見つけ出して入れた。
シュラインと一緒に石鹸やタオルを小さく切っていた日和は、なんだか楽しいらしい。
「元に戻るかの瀬戸際なんだから、楽しんでは駄目よ……って、楽しんだほうがいいのよね」
自分で言って苦笑するシュラインも、なんだか楽しそうである。
「んじゃ、何か事故がないように、一応俺も入るよ」
悠宇が、そう言って、武彦とシオンを手にとってタオルを肩に引っ掛け、風呂場に行く。
男性陣がお風呂の間、シュラインと日和はお笑いをやっている番組を探し当て、零の出してくれたお煎餅を食べながら見ていた。
もう、午後19:00である。
風呂から上がってきた悠宇は、リカちゃん人形の恋人の服を着た武彦とシオンを満足そうに肩に乗せていた。
「牛乳風呂、楽しかったです♪」
シオンも上機嫌だが、武彦は早く元に戻りたいらしい。いや、誰でもそうだと思うが。
「ほらほら、草間さんはシュラインさんの膝に乗せてもらいなよ。そんなに背が低いんじゃ見られないだろ、テレビ」
悠宇がシュラインの膝の上に乗せるが、武彦は、
「馬鹿! これで元に戻ったらどうするんだ」
シュラインが下敷きになるぞと続けようとした時、周囲の楽しい雰囲気が功を奏したのか、ぼむっという音を立てて煙と共に武彦は元の大きさに戻った。
同時に、シオンも悠宇の肩の上で元に戻る。都合のいいことに、服も、小人化した時に一緒に縮んだのと同じ道理だろう、リカちゃんの恋人の服のまま武彦とシオンの身体にうまくフィットしていた。
「やった! やったぞシュライン!」
「ああ、ウサギさんの上で元に戻らなくてよかった……」
武彦とシオンはそれぞれに言うが、シュラインの頬が少し染まっていることに気付き、慌てて武彦は膝からどいた。
「シオンさんも、重いから早く降りてくれ」
「あ、すみません」
いそいそと悠宇の肩から床にストンと降りる、シオンである。
「悠宇って案外力持ちなのね」
日和がクスクス笑うと、それから先は武彦とシオンの「小人体験談」が繰り広げられた。
シオンは満喫したようだが、武彦は一つもいいことがなかったようだ。
「そういえば草間さん、女性の内ポケットってもう少し下につけたほうがいいと思いません?」
真面目にそう言うシオンに、武彦は神妙な面持ちで「まったくだ」と頷く。
「頭にシュラインの胸が当たって仕方がなかった」
一瞬、しーんとなる。
「ん? どうかしたか? 皆」
その武彦の頭に、真っ赤になったシュラインが黙って鉄拳を喰らわせたのは言うまでもない。
そして後日、前回のようにまた、いつの間にか悠宇の撮っていた写真が界隈にて見世物にされたのだった。
《完》
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
3356/シオン・レ・ハイ (しおん・れ・はい)/男性/42歳/びんぼーにん +α
3525/羽角・悠宇 (はすみ・ゆう)/男性/16歳/高校生
3524/初瀬・日和 (はつせ・ひより)/女性/16歳/高校生
0086/シュライン・エマ (しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、東瑠真黒逢(とうりゅう まくあ)改め東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。今まで約一年ほど、身体の不調や父の死去等で仕事を休ませて頂いていたのですが、これからは、身体と相談しながら、確実に、そしていいものを作っていくよう心がけていこうと思っています。覚えていて下さった方々からは、暖かいお迎えのお言葉、本当に嬉しく思いますv
さて今回ですが、小人ネタに走ってみました。サンプルを作っている最中に一昔前の某ドラマを思い出したのですが、書いているほうは結構楽しかったです(笑)。今回は、少しばかり個別になっておりますので、是非お暇がありましたら、他の参加者様のも読んでみてください☆ 次回は異界にて小人ネタの続きを募集いたします☆
■シオン・レ・ハイ様:連続のご参加、有難うございますv 一緒に小人になる、といったことでこのノベルにも広がりが出来て、とても感謝しています。ウサギさんはいつからいたのでしょうかという突っ込みは、ナシです(笑)。
■羽角・悠宇様:連続のご参加、有難うございますv またまた写真に結果草間氏の姿を収めてしまった悠宇さんです(笑)。こちらが書く先をプレイングしてくださいました。お風呂のシーンで草間氏をからかうところも書きたかったのですが、流石に書けませんでした(苦笑)。
■初瀬・日和様:連続のご参加、有難うございますv 今回は、予想していたどのプレイングより違う展開が書かれておりましたので、書き手としても楽しく書かせていただきました(笑)。愛犬のお名前も書いて下さっていて、とても嬉しかったです。
■シュライン・エマ様:連続のご参加、有難うございますv 今回は全体的にギャグというか、そんな中でも冷静さを失わないシュラインさんには脱帽です。最後はまたまたお約束でしたが、お気に召されませんでしたらすみません;
「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回は主に「夢」というか、ひとときの「和み」を草間武彦氏にして頂きまして、皆様にも彼にもとても感謝しております(笑)。次回はどんな風になるのか、書き手としても楽しみな今後です。
なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>
それでは☆
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