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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


▼ウイルスの鼓動▲


------<オープニング>--------------------------------------

 コンピュータールームの前を通り過ぎようとしたところ、壁を叩くような音が聞こえて体が硬直した。足音とは明らかに異なる低い振動。ゆっくり首を巡らせる。
 誰もいない。緑の非常灯に照らされた廊下が続くだけだ。
「気のせいね」
 響カスミが安堵の呟きを漏らした直後、再び聞こえた。今度はハッキリと耳に入ってくる。どうやらコンピュータールームの中から発せられているようだ。
 コンピュータールームは24時間ロックされていない。学生が自由に使用できるようにされている。しかし、もう遅い時間だ。寮の門限時間も過ぎている。なにかの理由で教員が残っているのだろうか。
 恐怖心が高まる。それでもカスミは確かめずにはいられなかった。怪奇現象などあるわけがないのだ。目で見て原因を突き止めないかぎり、学園での安息の一時を得られない。
 おそるおそるドアに手を掛けた。
 100台のパソコンが綺麗に整列して設置されている。最近、全てのパソコンを新しくしたばかりで質も良い。一昔前のノートパソコンを使っているカスミには羨ましいほどだった。
 異常は部屋の中央にあった。ぼんやりと淡い光が闇夜に浮かんでいる。パソコンの電源が点いているようだった。誰かが消し忘れたのだろう。ひとまず安心してデスクの間を縫って歩く。
「きゃっ」
 モニターを見て短く叫び、思わずパソコンから飛び退く。すぐ後ろのデスクに腰を打ってカスミは顔をしかめた。痛みをさすりながら、もう一度モニターを見てみる。
 収縮と膨張を繰り返す心臓が映っている。本物ではない。よく見て分かった。CGで作られたリアルな映像と鼓動がリピートで流れているのだ。
「まったく、怖がって損したわ。それにしても、趣味の悪いスクリーンセーバーね」
 作り物と判明しても長いこと見ていて気持ちのいいものではない。早々に消して職員室の忘れ物を取りに行こうと思い、マウスを操作する。
「?」
 おかしかった。いくらマウスを動かしてもキーボードの適当なボタンに触れても画面は現状を維持する。ほんの少し指先が触れても通常画面に戻るはずだ。なかば自棄になってボタンを連打してみたが状況は変わらなかった。
 ふと我に返ると、音が増えていた。隣のパソコンだ。同じように心臓のCGが脈動して不愉快な音を発し始めた。異常な現象は終わらない。成す術無く立ち尽くしているうちに次々にパソコンが点いていく。
「い……――」
 カスミは心音に囲まれていた。徐々に音のテンポが早く大きくなっていく。自身の心臓も爆発してしまいそうだった。なにがなんだか分からなくなり、耳を塞いでその場にうずくまる。
「いやぁああぁー!」

 翌朝、泣きながら眠るカスミの姿が発見される。昨夜の記憶は失っていたが、後日に目撃証言を女子生徒から聞いて思い出すことになる。ただしカスミのとは少し違った。作業中に制御不能になってモニターに人影が映り、男の笑い声が聞こえたらしい。しかし同じコンピュータールームで起こっているからには全く関係無いわけではないだろう。
 すぐ様、カスミが頼りになる人物を呼んだことは言うまでもない。


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 講義中と休み時間では大きなギャップが生まれる。靴音さえ響く静けさの前者と雑談に花の咲く後者。職員室もまた例外ではなかった。特に一角を陣取った女生徒の集まりはアイドルに群がるファンと同様の賑やかさだ。ある女性講師は微笑ましそうに眺め、ある独身男性講師は嫉妬の目で見ている。
 中心にいるのは特別非常勤講師として久々に学園へ来ていた宮小路皇騎だ。下手な女よりも長く綺麗な黒髪を揺らして女生徒一人一人に笑顔を見せる。彼女達は甲高い声を発して頬を赤く染めた。力が抜け、座りこんでしまう者までいる。人生経験の浅い少女を軽く骨抜きにするほどの魅力があった。
 勢いよく戸が開いて名前を呼ばれた。何事かと思っているうちに群れを割って突進してきたのは音楽を担当する響カスミだった。涙目で鬼気迫る形相に女生徒はモーゼによって割かれた海のように道を開けていた。
「宮小路先生、早く、早くどうにかしてっ! 私は怪奇現象なんて全くこれっぽっちも信じないけど、もし万が一、いえ、億が一にもそんなことがあったりしたらこの学園で働くなんてできなくなるわ!」
「落ち着いてください。どうかしたんですか?」
 狂乱せんばかりの彼女を柔らかくなだめ、鼻をすすりながらされる事情説明に耳を傾ける。
 事件のあらましを聞いて皇騎は肯いた。イタズラにしては妙な話だ。第一、女性の頼みごとを無下に断るなどできない。
「分かりました。では調べてみましょう」
 安堵の息を漏らすカスミの横で、女生徒が元気良く手を上げた。まるで講義中の光景だ。皇騎が名指しをして、どうぞ、と言う。カスミの話に必死で怖がる弱々しい女のコを演じていた周りの女生徒が抜け駆けされたとばかりの強い視線を向けた。挙手した少女は優越感を表情へ全面に出して余裕の口調で語り出す。
「私、噂で聞いたんですけど。モニターに映ってたのって、この学園の講師に似てたらしいですよ。誰かまでは分からなかったみたいですけど。この学園、講師も多いですからねぇ。一度だけしか見たことないなんてざらですから。もちろん、先生みたいにカッコ良かったら一目で死ぬまで覚えてられるっていうか、もう先生大好きっ!」
 後半はともかく、怪奇現象において問題多きこの学園での噂は信憑性が高い。十分に手掛かりにはなり得る。見えないところで肘打ちされたり後頭部を叩かれている情報提供者に微笑んで礼を述べた。


 調査のために立ち入り禁止にしたコンピュータールームに流れるのはキーボードを軽やかに押す音のみ。皇騎はメインコンピューターを華麗に操作してモニターを凝視していた。下から上に流れる一般人には解読不可能な文字の羅列を確認し、なるほど、と息をつく。
 100台のパソコンはこのメインコンピューターに一度接続され、学園のマザーコンピューターへ繋がっている。初めに探りを入れたのはマザーコンピューターで、異常は一切無かった。次にコンピュータールームの全パソコンを調べると見たことのない小さなバグを発見した。皇騎ほどの技術がなければバグとも気づけない巧妙なバグだ。起動するのに支障はない。しかし何者かが荒らしているのに間違いはなさそうだった。
 マザーコンピューターには影響を与えていないようだが念には念を入れておく必要がある。召喚した式神の梟をモニターに向かって放った。具現化された本体は画面に触れた局部から記号や英数字に変化して吸い込まれていく。後ろではカスミが感心したような声を出して見ていた。
「さて、ここでの用事は済みました。行きましょう」


 午後の講義が始まる鐘の音。カスミは講義を受け持っていて、一人で聞き込みを行うことになった。皇騎はもともと午前で帰れる予定で、午後の時間は空いていた。
 研究棟には講師兼研究者が日々こもって作業をしている。学園がスポンサーとなり、研究成果があった時には利益の何割かを快く渡すシステムになっているのだ。設備も整っていて研究者にとっても都合のいい環境だった。必然と人は寄ってくる。部屋数も増える。そんな膨大な量の研究室を皇騎は端から順に見て回っていた。
 学園のパソコンはプロフェッショナルである皇騎から見てもしっかりしたセキュリティが成されている。つまり、プログラムをいじれるのは卓越した技術者だ。それも学園のセキュリティを理解する人間――雇われた講師兼研究者。


 軽く頭を下げ、戸を閉める。ふぅ、と息を吐いて窓辺に立つと外には闇が舞い降りていた。廊下の蛍光灯も消え、非常灯と月明かりを頼りに歩くしかない。下校時間はとっくに過ぎている。
 まだ半分も回れていなかった。あまり有益な収穫は無し。研究者もほとんどが帰宅している。残りは明日に持ち越した方が効率も良いだろう。コンピュータールームに寄ってから帰ろうと思っていた。
 角を曲がる直前に背後で、あ、と女の短い声が聞こえた。白衣を羽織ったややふっくらした若い研究者が小走りでやって来る。丸いフォルムの可愛らしい顔に見覚えがあった。昼間、初めの方で話を聞かせてもらった女だ。忙しそうにしていて、ほとんど話せなかった。
「宮小路先生、とおっしゃいましたよね? 先生が部屋から出ていかれたあと私は続けて研究に没頭していたのですが、脳はそれとは別に思考を開始していたようで、お話の手掛かりをもとに一つの結論がふと閃いたのです。しまいには皮肉なことに研究には手付かずになってしまい、どうも気になって先生を探していたのですが見つからずに帰ろうと思っていたところ、こうして無事にお目見えできた次第です」
 彼女は興奮した様子で独特の口調で語りだした。実年齢はどれぐらいなのだろうか。少なくとも二十代半ばにはなっているはずだ。目の前の女性には、まるで中学生の無邪気さが備わっているようだった。精神は肉体を制す。常に新しいものを追い求める研究者の心はみずみずしいままなのかもしれない。
「ピースをあてはめていくと一人の男性像が浮かんできたのです。かつて同じ研究室にこもっていたので間違いありません。先生のおっしゃる特徴と合致するのです。いつも淀んでいて湿っぽく、気味の悪い印象しかありませんでした。私も同業者ですが、ああはなりたくありませんね」
 そうですか、と皇騎は肯いて煌々と照る月を見上げた。意外なところで大収穫を得た。上手くいけば今夜中にでも片がつく。
「ちなみにその方は、いまどこに?」
「それが、数日前に研究室で倒れているのを発見されて」
 真正面からの問いかけに、若い研究者は急にしぼんで目を伏せた。敢えて訊かなくとも彼女の態度で察する。ありがとうございました、と微笑して肩に手を置き、顔を上げさせた。
 息を切らしたカスミが慌てて走ってきたのはその時だった。


「いったい、なにが起こったんです?」
「とにかくっ、早くっ!」
 協力者にさようならを言う暇もなく手を引かれていた。握る力は強いくせに震えている。なにが起こったのか大方は予想できた。
 引かれるままにつれていかれた先は案の定コンピュータールームだ。ドアは開け放された状態でカスミは中を覗こうともしない。自分自身を怯えから慰めるように肘を抱いている。
 全モニターが赤く点滅していた。腹に響く低い衝撃音も空間を漂っている。
「あの時と同じ現象だわ。私、調査の経過を聞きたくて、宮小路先生がいるんじゃないかと思ってコンピュータールームへ寄ったの。そうしたら――」
「分かりました、もう大丈夫です。ここからは私に任せてください」
 震える声で話すいくつも年上の彼女が幼い少女に見える。安心させるように茶の髪を撫でてあげると緊張が解けたらしく、ゆっくりとした呼吸を始めた。皇騎を見るといつもの調子で笑み、ありがとう、と言った。今度は震えていない。
 メインコンピューターには疲弊しきった式神が右往左往するCGが映されていた。
「ご苦労様、戻ってください」
 モニターから飛び出た梟は弱々しく羽ばたき、皇騎の肩に止まって姿を消す。
 恐々とついてきたカスミと共にモニターを睨んだ。
「宮小路先生、どうするの?」
「少し痛い目に合わせなくてはならないようですね。下がっていてください」
 皇騎は技術者としても優れたものだが、ネットワークに精神感応ができる。奥の手でもあるネットワークダイブは能力の一つだった。
 瞳を閉じた皇騎の全身を青白い光が覆いだす。輝きは徐々に強さを増して部屋を満たしていった。


 広い道を挟んで並ぶレンガ造りの家と店。
 地面は石畳で真っ直ぐ続いている。遥か遠く、丘の方まで伸びていた。地平線には映画などのファンタジーな世界で見る城の小さな影があった。
 人々は皆が笑顔で果物や肉などを売って働いている。幸せそうな光景を眺めながら皇騎は街の人間に混ざって歩いた。
 店先で客を呼び止める活気に溢れた声、世間話をする婦人の笑い声、犬を追いかけて駆け回る子供の声。道端を外れると青い草花が生い茂り、蝶や蜂が蜜を舐めていた。
 花売りの少女もいる。緑のワンピースに白いエプロン、栗毛の長い髪を三つ編みにした頭には清潔な三角巾を着けている。通り過ぎる人に声をかけてはグリーンの瞳を輝かせて元気に明るく話していた。口元に髭を生やした中年男性が一言二言なにかを口にして去っていく。どうやら売れなかったようだ。少女は寂しそうに笑って、また道行く人に呼びかける。
 皇騎と視線があった。ロックオンされたようだ。売り物の詰まったカゴを腕に掛け、嬉しそうにスキップして近づく。東京の人波でこんなことをすれば宇宙の彼方まで浮くが、この異国の風景と少女の無邪気な明るさにマッチしていた。
「お兄さん、お花をお一ついかがで――」
 言葉の途中で電池が切れたかのように彼女は動きを止める。喉が鳴った。口の端から赤い線が垂れる。アゴを伝って喉を通り、洋服の襟がシミで汚れていった。
 少女は自分自身になにが起こったのか分からないといった表情をして下を向く。左胸は襟よりもずっと汚れていた。広がりも早く、円は見る見るうちに面積を増やしていく。
 中心には皇騎が武器召還した名刀「髭切」が刺さっていた。
 少女はこちらを見上げ、ぎこちない笑みを浮かべる。皇騎も慈しみの微笑を返した。
 カゴの影から刃の光が落ち、甲高い音を立てて地面を跳ねる。持ち主は崩れるように倒れ伏した。
 音がなくなっていた。どこからともなく聞こえたメロディーも、もう奏でられていない。あるのは、笑いを消して瞳のくぼんだ街人。それぞれが凶器を持って取り囲んでくる。血の気や意思が感じられない。目の落ちた蝋人形に近かった。
 低い男の声が聞こえた。方向は分からないものの確かに振動は流れてくる。
「なぜトラップだと分かった?」
「あいにく、プログラムに容赦するつもりはありませんから」
「おのれっ!」
 平然とする皇騎に憎々しげな語気を叩きつけてくる。敵となった人々が一斉に輪を縮めた。
 躊躇いはない。
 正面から襲い来る太った男の首を飛ばし、横のクワを持つ若い女を突き、背後に感じた気配に振り返りの勢いを利用して胴を薙ぎ払う。真っ二つになった遺体を飛び超えて斧を振り下ろそうとする大男の腕を一振りで切断し、みぞおちへピンポイントで鋭い蹴りを食らわす。鬼の形相で包丁を構え、突撃してくるシワがれた老女の腹を刺す。まだ向かってこようとするのを刀に捻りを加えて止め、心臓に向かって斬り上げた。
 真紅の水溜りは時間に比例して波打ちが大きくなっていく。秒単位で叫びと水気ある響きが発生していた。
 皇騎は息一つ乱れていない。刀を振るう動作も一切の曇りなく動作を維持していた。もともと北辰一刀流の達人とまで言われる使い手だ。相まってネットワーク内では能力を飛躍させられる。単調な動きのプログラムでは相手にならなかった。
 たじろぐ人形達を見回しもせず、単純労働に飽き飽きした口調で空間の支配者に問う。
「もう終わりですか?」
「ハッ! 笑わせるな。この世界で俺に敵うとでも思ったのか? 俺の意思次第では世界をどうとでも作りかえられる。一国を作り上げ、一人一人の生活をシミュレーションすることだってできる。外部の人間にどうこうできるものではない。どうだ分かったか、俺の恐ろしさが。分かったなら、ここから立ち退く――」
「100ヶ国ならどうですか? 可能ですか?」
「と、当然だろう! 貴様、さては阿呆だな? 俺の話を聞いていなかったのか? だいたい貴様のような脳無しがいるから世界はどんどん衰え――」
「では、1000ヶ国なら? いや、1万ヶ国なら、どうでしょう?」
 男の声がピタリと止んだ。歯軋りが聞こえてくるようだった。ほくそ笑んでみせると実際に聞こえた。
 皇騎はコンピューターのプロフェッショナルだ。少しでもかじったことがある者ならば誰でも分かることだった。世界を創造できても致命的な欠点が存在する。
 自暴自棄になったのか、残りの敵意が再度飛びかかってきた。冷静な皇騎は刀を逆手に持ちかえる。
「無駄です」
 切っ先を石畳へ垂直に下ろし、突き立てる。皇騎へ手を触れる寸前だった者達が衝撃波に呑まれて綿毛のように吹き飛んだ。刀を中心に地面へ亀裂が走って幾筋にも枝分かれする。
 一掃。
 皇騎のした行動に相応しい言葉だ。もはや周りで壁になるものがない。あとは戦力になり得なくて路地裏への入り口や窓から目だけを出していた子供と少女の姿しかなかった。
 迷わず首を巡らし、一方を冷たく見据える。
 果物の影でこちらを見ていた少女がヒッと息を呑んだ。逃げ出そうとしてオレンジの山にぶつかり、無様な転び方をする。やっと起き上がろうとした頃には既に皇騎の射程内にあった。
「逃げられませんよ、犯人さん」
「な、なぜ――?」
「アナタはずっと安全圏にいながら戦闘の様子がよく分かる位置にいましたからね、一目瞭然でした。さぁ、どうしますか?」
 首筋に切っ先を突きつけて微笑む。犯人は血に塗れた刃を黒目で追い、何度も唾を飲み込んだ。
「お前の背後に拳銃のプログラムを立ち上げれば、その端整な顔に風穴を空けることもできるんだぞ」
「不可能ですね。街を細部まで作り、あれだけの人々に複雑な思考回路を持たせて動かしていたんですから。メモリー切れなんでしょう?」
 皇騎はニコッと笑って髭切を消した。少女の姿をした研究者から観念の溜め息が漏れるまで時間はかからなかった。


 昼休みを使ってパソコンを使用する生徒がコンピュータールームをいくらか埋めていた。メインコンピューターの前に座るのはカスミだ。付き添いで後ろには皇騎が立っている。昨夜は能力からくる疲労で碌に点検もできなかった。大丈夫だとは言っておいたのだがカスミは心配らしく、自分で確かめなくては気が済まないとのこと。こうして万が一のためにと校内放送で呼び出された次第だった。
「本当に本当に大丈夫なんでしょうね?」
「ええ、しっかりと処理しておきましたから」
 マウスを危険物を扱うように恐る恐る触れ、ゆっくり動かす彼女に自信を持って肯く。モニター上を操作のままにカーソルが滑っていった。
 あの男は不死を研究していたらしい。研究に研究を重ね、目をつけたのがコンピューター。ネットワークに繋がれていれば様々なパソコンに精神プログラムをコピーでき、例え一部のパソコンが処分されても問題がない。誤算だったのは、プログラム内を探索している間に自分のパソコンをこのコンピュータールームに持っていかれてしまったことだという。スペックが高かったため、学園に再利用されたのだ。更にマザーコンピューターへはセキュリティが強固で侵入できず、コンピュータールームに閉じ込められた。その腹いせにイタズラを生き甲斐にして本人はなかなか楽しんでいたらしい。
 一通り確認をしたカスミが立ち上がる。まだ半信半疑の顔をしているが気は済んだようだった。
「お礼といってはなんだけど、ご飯をオゴらせてくれないかしら?」
「もちろん、喜んで」
 快く引き受け、彼女の後ろへついていく。途中、メインコンピューターを振り返ると研究者の微笑む顔が映っていた。皇騎もつられてクスッと笑う。
 あまり害もなさそうだったので、パソコンを使用する者に迷惑かけないことを条件に存在の保障をすると男は涙を流して感謝してきた。根は悪い人間ではなさそうだ。研究に没頭するあまり、印象が悪くなっただけなのだろう。しばしば一角が秀でた人間は第三者から見て異常に見えてしまうことがあるのだ。
「宮小路先生、どうかした?」
「いいえ、なんでもありません。行きましょう」
「ええ。でもあまり高価な物は遠慮してもらいたいわ」
「では、フォアグラとトリュフをふんだんに使ったパスタなんてどうでしょう? 近くに美味しいお店があるのを知ってるんですよ」
 皮肉でも意地悪でもなかった。同じ"高価"という漢字二文字でも二人には大きなズレがある。ただそれだけのことだ。
「ちょっと、通帳と相談させてね」
 金銭感覚のギャップが怪奇現象を上回る恐怖をカスミに与えたらしかった。


<了>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【0461/宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)/男性/20/大学生(財閥御曹司・陰陽師)】


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■         ライター通信          ■
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ご参加、ありがとうございました♪

初めまして、tobiryu(とびりゅー)といいます^^

今作がOMCライターとしてのデビュー作となっています。

不慣れゆえに至らない点もあったかもしれませんが、いかがでしたでしょうか。

今回の調査は正に宮小路皇騎さんのためにあるようなものでしたね。

素直に文章へ取り組むことができました。

無理なくまとまったモノが書けたと思っています。

プレイングも大変分かりやすく、頭を悩ませずに済みました。

もしまたの機会がありましたら、よろしくお願い致します♪