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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:罠  〜東京戦国伝〜
執筆ライター  :水上雪乃
調査組織名   :草間興信所
募集予定人数  :1人〜3人

------<オープニング>--------------------------------------

 函館での一件から半月ほどが経過した。
 時は平和に移ろい、織田信長に支配されているIO2日本支部もすっかりなりを潜めている。
「このまま世を儚んで集団自殺でもしてくれるとありがたいんだがな」
 短くなった煙草を灰皿に押しつけ、草間武彦がいった。
 新宿区にある探偵事務所。
 高くなってきた空が窓越しに見える。
「そんな確率、何パーセントあるっていうんですか?」
 熱いお茶を差し出しつつ、義妹が苦笑する。
 そんな甘い相手ではないのだから。
「ゼロにいくつ掛け算しても、答えはゼロだな」
「よく判ってるじゃないですか」
「けど、大人しくしているのは、次のたくらみのためだったら嫌だな」
「そういうことを言うと現実になりますよ」
 花が咲くように笑う零。
 このときは冗談だった。
 だが三日後、彼女はこの発言を心から悔いることになる。
 草間興信所に一通の封筒が届けられたからだ。
 その中には一枚の写真と手紙。
「イーゴラ‥‥くん‥‥っ!?」
 表情を凍り付かせる零。
 写っていたのは、怪奇探偵たちと縁のあった人猫(ウェアキャット)だ。
 鎖で拘束されたている。
 だが、はにかみ屋のあの少年は死んだ。
 零も草間も、イーゴラの最期を見届けている。
「反魂‥‥」
 苦渋の呻きを漏らす怪奇探偵。

 本日零時、サンシャイン六〇ビルまでこられたし。

 ごく短い文章が、紙面におどっていた。










※東京戦国伝の第5幕です。
 バトルシナリオです。推理の要素はありません。
※3名様限定です。今回は参加枠の拡大ありません。
 また、料金が高くなっていますのでご注意ください。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
 受付開始は午後9時30分からです。

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罠  〜東京戦国伝〜

 難しい顔をした草間武彦が、ストレスと煙を一緒に吐き出した。
 心配そうに、シュライン・エマが見つめる。
 新宿区にある小さな探偵事務所。
 そこに無礼極まる招待状が届いたのは、数分前の出来事である。
 草間たちと縁のあったイーゴラ。
 それが信長軍団に囚われている。
「とうして安らかに眠らせてあげないんですか‥‥」
 草間零の声が震えるのは、怒りからか哀しみからか。
「‥‥不動とクミノに連絡を取れ。零」
「え、あ、はい」
 受話器を持つ零。
 シュラインが小首をかしげた。
「なんでそのふたり?」
 草間が口にしたのは、不動修羅とササキビ・クミノ。
 このふたりは、イーゴラのことを知らない。
 状況から考えて、親友の骨董屋や美髭の絵本作家に声をかけるものと思ったのだが。
「お前にここに残れよ。シュライン」
「なんでよ?」
 屹っと見返す。
 蒼い瞳から放たれた視線が、まっすぐに夫の目を射抜いていた。
 ややたじろぎつつも、
「この件は、あいつを知らないヤツの方が良いんだ」
 応える怪奇探偵。
「‥‥‥‥」
 何を言いたいのか、シュラインには判った。
 判ってしまった。
 彼は言っているのだ。イーゴラ少年の存在を考慮から外す、と。
 たしかに少年はもう死んでいる。
 死者は人質にはならない。
 だから、イーゴラもろとも信長軍団を倒す。
 理としては、おそらく正しい。
 しかし、反魂されたものにだって痛覚はある。感情もある。
 一度死を味わったイーゴラに、ふたたび同じ苦しみを与えるというのか。
「‥‥いつから‥‥」
「‥‥‥‥」
「いつから、そんなに冷たい心を持つようになったの? 武彦さん」
 シュラインが愛した男は、そういう人間ではなかったはずだ。
 イーゴラが殺されたとき、草間は復讐のために単身でハンターたちの本拠地に乗り込もうとした。
 事務所の貯蓄をすべてはたいてまで、少年の遺骨をセルビアに届けた。
 損得勘定など考えない熱さ。
 それを持っている男だったはずなのに。
「変わっちゃったの?」
 微笑。
 悲しいほどに透明な。
 黙り込む草間。
「そいつは違うぜシュライン。武さんは変わってなんかいない」
 声は、戸口から響いた。
 デニムのサマージャンパーを羽織った野性的なハンサム。
 好戦的な輝きを赤い瞳に浮かべた青年がたたずむ。
「灰慈‥‥いつから‥‥?」
「ほぼ最初から。通夜みたいな雰囲気だったんで、声をかけづらくてな」
 言って、巫灰慈が所長のデスクに歩を進める。
「言葉が足りないぜ。武さん」
「‥‥うるせぇな‥‥」
 巫と草間のつきあいは長く、怪奇探偵夫婦に次ぐ。
 そして、シュラインとは違って精神的に一歩離れたところが状況を見ることができる。
 赤い瞳の浄化屋と北の魔女新山綾の関係を、シュラインが冷静に観察できるのと同じように。
「武さんはお前を哀しませたくねぇんだよ」
 同年の友人を見遣り、巫が説明する。
 サンシャイン六〇ビルに出向く。そこには壮絶な戦いが待っているだろう。怪奇探偵が勝利するとは限らないが、仮に勝利したとして。
「イーゴラは、助けられねぇんだよ」
 重い言葉。
 彼は、少年を弟のように可愛がっていた。
 しかし、死者の席は生者の側にはない。
「‥‥苦痛は、与えねぇよ」
「灰慈‥‥」
 巫は立て板に水を流すように語ったわけではない。むしろ自分に言い聞かせるように、無理矢理にでも納得させるように、一言一言をかみしめている。
 だからこそ、シュラインもまた納得せざるを得なかった。
 そして納得には苦渋が伴う。
「そう‥‥よね‥‥」
「おまえはここにいるんだ」
 優しく、夫が肩に手を置いてくれる。
 だが蒼眸の美女は、ゆっくりと頭を振った。
「シュライン‥‥?」
「やっぱり私も行く。だって、家族だったんだから」
 彼女がいったのは、たったそれだけ。
 そして、たぶん彼らにはそれで充分だった。
「ふたりに連絡が付きましたよ」
 零が言う。
 開戦の号砲のように。


 誰も想定していない出来事が起こっていた。
 サンシャイン六〇ビルの爆破予告が、日本中のマスコミに流れたのだ。
「困ったもんですよ‥‥」
 髪を掻き上げながら苦笑を浮かべたのは、稲積秀人という。
 警視庁刑事部参事官。階級は警視正。
 草間が強いパイプを持つ警察官僚であり、日本に冠たる名門、稲積家の若き当主だ。
 彼に依頼して、サンシャインを閉鎖してもら予定を、怪奇探偵は立てていた。
 だがその前に爆破予告が流れてしまったのである。
 周辺地域には野次馬が溢れ、同時にテロ対策に関する非難が日本政府に集中した。
 なにしろこの国には、口が達者な文化人と「危険を顧みない勇敢な若者」がうじゃうじゃいる。
 浅間山荘事件の時も、上九一色村の宗教団体強制捜査のときも、野次馬が十万単位で押し寄せた。
 邪魔になるだろうとか、付近の人々に迷惑だろうとかは考えないのが日本国民である。
 その一方で、自分の行動が招いた結果に対する責任を他人に押しつけたりもする。
 今回のケースでいうと、爆破予告を未然に防ぎ、かつ人知れず解決できなかったことに対する批判だ。
「なにいってんだ? おめえら。と、言いたくなるな。マジで」
 苦い顔をするのは不動。
「すまん」
 頭を下げるクミノ。
 どうして謝っているかというと、じつは彼女が爆破予告を流したからである。
 連携の不備というやつだ。
 もちろんクミノは良かれと思ってやったのだが、
「悪しかれと思って作戦を立てるヤツなんかいないさ」
 巫の言葉は厳しい。
 土地を放射能汚染させるために原子力発電所を建てるものなどいない。負けるために戦争をする人間もいない。
 実際のところ、悪意の成功よりも善意の失敗の方が爪痕は大きいものだ。
「政府は焦っています。もしこの件が選挙に影響するようなら、今後の支援は難しくなるかもしれません」
「いまの首相に退陣されると困るわね」
 シュラインの声も深刻である。
 ヴァンパイアロードとの戦い、七条との決戦、邪神との死闘、それらを上手く隠蔽し一般人に知らせないようにしてくれたのが、いまの首相である。
 政治的な手腕はさほど高くはないが、剛毅で実直で、なによりも平和の大切さをよく知っている人物だ。
「IO2、日本政府、そして俺たち。三つ巴の戦いになったら目も当てられないな」
「その場合は、俺たちが最初に消滅するから、後腐れがないっちゃないけどな」
 不動の台詞に巫が苦笑を浮かべる。
 個人レベルの戦いから、国家の存亡レベルまでクラスアップしてしまった。
 笑い事ではないはずだが、
「良い方に考えましょ。これで政府はIO2と手を切る決心を固めるかもしれないわ」
 微笑したシュラインが、意気消沈するクミノの肩を叩いた。
 ちらりとそれを見遣った不動。
「日本がアメリカの圧力に勝てるかね」
 とは、口にしない思いである。
「警察と自衛隊は、とにかく民間人を周辺区域から追い払うので精一杯です。援護は期待しないでください」
 話題を戻す稲積。
「判ってる。じゃ、そろそろ突入するか」
「えらい軽いな。巫さん」
「重くなったって仕方ねぇさ」
 貞秀の鞘を握りしめる手が白くなっている。
 緊張していないわけはないのだ。
 だが、命がけでもそう見せないのが、男の美学というものだろう。きっと。
 ローターの回転速度が上がってゆく。
「いくわよ‥‥」
 シュラインの声。
 探偵たちを乗せたヘリコプターが、空へと舞う。


 突入は屋上から。
 この作戦は、べつに奇をてらったものではない。
 塔でも城でも地下宮殿でも良いが、誰かを捕らえておくなら入り口から最も遠い場所でなくては意味がないのだ。
「裏をかいて一階に、という可能性もあるけどね」
「その場合、こちらが普通に一階から侵入したらアウトだ」
 シュラインの言葉にクミノが答える。
 裏の裏は表。
 ごく単純な理屈だ。
 読みあいになったら、正直いって勝算は薄い。
 となれば、相手の打ってくる手など気にせずに、こちらの作戦を貫くだけだ。
「いいねぇっ! そういう単純なのは大好きだっ!!」
 一番に、不動がヘリコプターから飛び降りる。
「無茶しやがるぜ」
 巫も続いた。
 ヘリコプターから屋上の床までの距離は、約二メートル。
 着地しないのは罠を警戒してのことだ。
 メンバーのなかで最も運動能力の低いシュラインも、魔弓シルフィードの力を使って危なげなく着地する。
 手を振って見送る稲積を乗せたヘリコプターが、すっと上昇して去ってゆく。
「なんでにこにこしてやがるんだ。あいつは」
 ぶつぶつと草間が言う。
「愚痴ってる暇はないわ。さっそくお出迎えよ」
 昇降口を指さすシュライン。
「敵もどうして打つ手が速い」
 アサルトライフルをかかえたクミノが走る。
 連続する発射音。
 ばたばたと倒れる人影。だが、
「ちっ」
 舌打ちして銃口を上に向ける。その周囲に手裏剣が降り注いだ。
「くっ!?」
 戦闘服が何カ所も裂け、白い肌が露出する。
 その横をすり抜けた不動。
 顔立ちが精悍になり、黒かった髪が金色に染まっている。
 どことなく王者の風格を漂わせているようだ。
 そして両手で持った長剣で、次々と手裏剣をたたき落とす。
 シュラインや巫は、その剣に見覚えがあった。
「エクスカリバーだな」
「つまりアーサーを降ろしたわけね」
「うまい手だぜ。連中は海外ヒーローを反魂してないからな」
「じゃあ、次はスパイダーマンでも降ろしてもらいましょ」
「運命さえも敵なのかってねっ!」
 馬鹿な会話を繰り広げつつも、巫もシュラインもさぼってなどいない。
 貞秀とシルフィードが唸り、黒装束どもを打ち倒してゆく。
「だが‥‥こいつら強いっ」
 突撃銃からファイティングナイフに持ち替えたクミノが、思わず呟く。
 動きの正確さ、速さ、そして実戦感覚。
 一流のファイターだ。
 彼女ほどの使い手でも、一対一で戦ってかろうじて勝てるかどうかというレベルだろう。それを複数相手にしているのだから始末に悪い。
「油断するな」
 クミノの背後に回り込もうとした忍者を、一刀のもとに斬り捨てる不動。
「すまん」
「こいつらの強さは実戦の記憶だ」
「なるほど」
 すぐに悟ったクミノ。ナイフを捨てて拳銃を取り出す。
 同じスタンスで戦ってはいけない。
 虚を突き、裏をかいてこそ勝機が生まれるというものだ。
 巫、不動、零が前衛となり、シュライン、クミノ、草間が後衛をつとめる。
 銃弾と見えない矢のバックアップは、とくに効果的だった。
 とはいえ、屋上に現れた忍者どもを一掃するまでは四〇分近くを要した。
「けっこうかかったな‥‥」
 息をはずませながら不動が呟いた。
 だが、まだ始まったばかりなのだ。


 誰もいない回廊を六人が駆ける。
 迷いもなく。
 敵は戦術を熟知している。したがって戦力を小出しにして逐次投入する愚を犯すはずがない。
 相手が六人だからこちらは八人。などというせこい計算はしないのだ。
 どこかに集中しているはずである。
「どこかというのはどこだ?」
「広い場所」
 不動の問いに、クミノが短く答える。
 その予見は正しかった。
 五六階のホール。
 そこにイーゴラはいた。もちろん信長軍団と一緒に。
「速かったな」
 もう馴染みとなった真田昌幸が口を開く。
「飛んできたんでね。イーゴラを返してもらうぞ」
 貞秀を構えたまま、巫がじりじりと接近する。
「返せば、我らの同志となるか?」
「やっぱりそれが狙いね。頷くと思う?」
「思わぬな」
 シュラインの言葉に、苦笑で応える真田昌幸。
「だが、こういう条件ならばどうだ? そなたらが動かなければ、この獣人の命は保証しよう」
「‥‥‥‥」
 黙り込む探偵たち。
 じつのところ、こういう条件が一番つらい。
 信長軍団、つまりIO2のやることを黙ってみているだけで良い。わざわざ勝算の低い戦いに挑む必要はないのだ。
 そうすればイーゴラは救われ、探偵たちも傷つかない。
 だが、それではこの国はどうなる?
 欠点だらけのニッポン。
 だが、それでも護るために戦い、散っていったものたちはどうなる?
「シュラインさん。ハイジさん、草間のお兄ちゃんとお姉ちゃん‥‥」
 イーゴラの声が響く。
 透明な、悲しいほどに透明な声。
「もう一度あえて良かった。でも、さよなら」
 しゅるりと右手の爪が伸びる。
 それは獣人の武器。
 巫もシュラインも、少年が戦闘態勢をとったのを見たことがない。
 はじめて見せた武器は、敵に対して振るわれるのではなかった。
 まるでスローモーションのように、イーゴラの左胸に吸い込まれる。
 笑顔だけを残して。
 砂になってゆく少年の身体。
「ぁ‥ぁ‥ぁぁぁ‥‥‥」
 呻きとも喘ぎともつかぬ音を自分の口が発するのを、シュラインは聞いた。
 助けられなかった。
 また、助けられなかったのだ。
「てめえら‥‥巻き込みやがって‥‥! 静かに眠っていたイーゴラをっ!!」
 巫が爆発する。
 闇色に染まってゆく貞秀。
 インテリジェンスソードが、彼の怒りに同調しているのだ。
 突進。
 クミノと不動が続く。
 そして立ちふさがる人影が三つ。
「海野六郎」
「望月六郎」
「由利鎌之助」
 名乗りと、刃鳴りが重なる。
 一合を打ち交わしただけで、これまでの雑魚とは強さの桁が違うことが判った。
「ぐぅっ!!」
 不動は由利鎌之助と、クミノは海野六郎と、そして巫は望月六郎と斬り結んでいる。
「真田‥‥十勇士‥‥?」
 シュラインの呟き。
「そう呼ばれることもござるが。まあ、ただの小者でござるよ」
 飄々とした声。
 蒼眸の美女の背後から。
「なっ!?」
 あわてて飛び退き、振り返った先には、
「拙者、猿飛佐助ともうすでござる」
 どことなく愛嬌のある顔立ちをした青年がたたずんでいた。
 小者などと自称しているが、超聴覚をもつシュラインに気配すら感じさせなかった。
「小者だけどタダモノじゃないってオチは勘弁よ」
「それは残念でござる」
「ホントに言おうとしてたわけ?」
「はっはっはっ」
 ものすごくわざとらしい笑い声。
 恐ろしい相手だ、と、シュラインは直感した。
 流れる雲のように掴みどころがない。殺気も感じない。
「滅びの風っ!!」
 いきなりの大技。
 音波振動による破砕。シルフィードが持つ最も強力な攻撃だ。小技の通じる相手ではない。最大級の攻撃で一気に勝負を決めるべきだ。
 だが、射線上から、猿飛佐助がふっと消える。
「あぶないでござるなぁ。当たったら死ぬでござる」
 声は左側から聞こえた。
「‥‥アンタはもう死んでるでしょ。何百年も前に」
 油断なくシルフィードを構えたままのシュライン。
「それはいいこっなしでござるよ」
「佐助。何を遊んでいる」
 唐突に、第三者の声が混じる。
 猿飛佐助に比較すれば、ストイックさを感じる声だ。
「貴公は真面目でござるなぁ。せっかくだから美女との会話を楽しみたいではござらぬか」
「べつに私は楽しくないけどね。アンタ誰よ?」
「霧隠才蔵」
「なるほどね」
 冷たい汗がシュラインの背筋を伝う。
 一対一でも苦戦しているのに、二対一になってしまっては勝算など立てようがない。
 仲間たちもそれぞれに苦戦中で、とても援護する余裕はなかろう。
「へへ‥‥やるじゃねぇか」
「貴公もな」
 エクスカリバーに絡みつく鎖鎌。不動と由利鎌之助の視線もまた、火花を散らして絡み合う。
 クミノも巫も一進一退の攻防を続けている。
 難敵だ。
 草間と零のコンビと対するものは、三好清海入道と三好伊三入道と名乗った。
 奇しくも、兄妹対兄弟の対決である。
 いずれにしても、シュラインは一人で二人を相手にしなくてはならない。
 むろん、それは不可能なことだった。
 無数の小さな傷を負い、追い込まれてゆく。
「‥‥だめかも‥‥」
 怯懦が頭をよぎる。
「諦めるなんて、らしくないなぁ。シュラインちゃん」
 場にそぐわぬ陽気な声が流れ、
「くっ!?」
「なっ!?」
 突然巻き起こった強風が、ニンジャマスターたちを吹き飛ばした。
「綾さんっ!?」
「ふふーん。ヒロインは遅れてやってくるものなのよ」
 ホールの入り口に立った小柄な女。
 紅唇があでやかに言葉を紡ぐ。
 新山綾。
 巫の恋人であり、北の魔女と呼ばれる護り手の一人だ。
「なんでここにっ!?」
「こっちにも情報網があるのよ。遅れてごめんね」
「おせっかい‥‥なんだから」
 シュラインの毒舌にもうれしさが滲む。おそらくは戦闘ヘリでも使って急行してくれたのだろう。
「ハイジ。助けにきてあげたわよ」
 ウィンク。
 とうの巫は返答するゆとりがないが、表情に余裕が生まれた。
「さーて。これで数は互角になったわね」
 呪文の詠唱を始める綾。
 彼女が操るのは物理魔法。
 その威力は、草間も、シュラインも、巫も零も知っている。
「互角ではないよ」
 だがそのとき、綾のさらに背後からかかる声。
 はっとして振り返った魔女の瞳に映る少年の姿。函館で会った顔だ。
 真田幸村、という。
 そしてその左右から飛び出す影。
 凶刃が魔女に肉迫する!

















                       つづく


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086/ シュライン・エマ /女  / 26 / 翻訳家 興信所事務員
  (しゅらいん・えま)
2592/ 不動・修羅    /男  / 17 / 高校生
  (ふどう・しゅら)
0143/ 巫・灰慈     /男  / 26 / フリーライター 浄化屋
  (かんなぎ・はいじ)
1166/ ササキビ・クミノ /女  / 13 / 学生?
  (ささきび・くみの)

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。
「罠 〜東京戦国伝〜」お届けします。
続いてしまいます☆
まあ、12回シリーズの予定ですからー
もっとも、キャラたちが頑張りすぎると、予定より早く終わってしまうかもしれませんね☆
いろんなものが。
IO2(信長軍団)を倒すという名目で、あまり派手なことをやりすぎると、日本政府までが敵に回ってしまいますので、ご注意くださいね。
政府が敵に回ると、当然ながら警察や内閣調査室や自衛隊の支援が受けられなくなりますよー
また、敵の正体が一般に知れるとパニックになってしまいますので、その点もご注意を。
護るために戦う、というのは、非常に骨の折れる作業です。
その意味においては、信長軍団の方が有利ですね。
破壊の後に再生を目指すわけですからー

さて、楽しんでいただけましたか?
またお会いできることを祈って。