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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


狗使い〜wolf master〜

●Opening
 草間興信所に、二人の男が居た。
 片方は、この興信所の主、草間・武彦。もう一人は、背広を来た端整な顔立ちの男。
 いつも応対にあたる零は買い物に行っており、興信所に他に人影は無い。
 二人の男は、一枚の新聞の切り抜きを挟んで座っていた。
「この記事がどうしたのですか?」
「もう気付いているのではないかね、怪奇探偵君」
 険しい視線を向ける草間に、その男は人の悪い笑みを浮べる。
「酔ったサラリーマンが犬に噛み殺された。ただの三面記事でしょう」
 死んだ者には悪いが、自分に何も関係無い人間の死亡記事など、読んでどうなるものでもない。
「おかしいと思わないかね?酔っていたとはいえ、たかが犬に人が殺されるとは」
「犬が強かったんでしょうね」
 あくまでこれは普通の事件と主張する草間に、男は首を傾げる。
「おかしいな、前評判では、草間武彦は怪奇といえば何にでも首を突っ込む変人という話だったが」
「一体誰から聞いたんですか、それ」
「君を知る色んな人間から話を聞いた結果だ」
 ニヤリ、と笑みを深くする男。それを見て、草間の表情が更に険しくなる。
「それで、そちらの見解ではどうなるんですか?」
「狗使い」
「イヌツカイ?」
 聞き返す草間に、狗使いだよ、と繰り返す男。
「どこにでも居る野良犬を、人も狩る狼へと変えてしまう」
「それが、狗使いと?」
「そうだ」
 自信を持って肯く男。しかし、草間は肯こうとはしない。
「信じられませんね」
「信じる信じないは勝手だ。……所で、これも前評判なのだが、草間武彦は金さえ払えば何でもする何でも屋だ、という話だったな」
 言葉と共に、テーブルの上に札束を置く男。
「随分と気前が良いですね」
「口止め料含みだ。私の事は詮索しないで欲しいのでね」
 興信所に入ってきてから一度も名も所属も名乗らない男が、嫌な笑みと共に言う。
「……分りました、出来る限りの事はしましょう」
 胡散臭い仕事だが、依頼料は魅力的。興信所を存続させる為には仕事の選り好みは出来ない。
「ああ、頑張ってくれたまえ」
 最後まで人の悪い笑みを浮べた男が、鷹揚に肯いた。

●MAIN
「それにしてもよぉ、人の記事三面記事よばわりたぁ、良い度胸してんじゃねぇか、アァ?」
「三面記事を三面記事と呼んで何が悪いか」
 佐久間・啓の台詞に、草間は紫煙をくゆらせながら応える。いったん新聞記事の切り抜きに目を落とすと顔を上げ、そこに居た面々を見回した。
「んで、作戦だが……やっぱ囮なのか?」
「やはりその方が確実だろうなぁ」
「ほら、さっさと軍資金出しやがれ」
 梅・海鷹と啓にせっつかれ、草間はしぶしぶ前金から軍資金を出す。未練がましそうなその顔を見て、梅鷹が苦笑を浮べた。
「で、みあおと辰一は調査」
「はい」
「分りました」
 肯く海原・みなもと空木崎・辰一を確認して、草間は残りの二人に視線を向ける。
「緋玻は、張り込みを頼む。んで、翼は遊撃班だ」
「私は分ったけど……」
「これくらい、風に聞けば簡単に解かる」
 田中・緋玻の視線の先で、蒼王・翼が不満気な顔で座っていた。
「そうかもしれないが、一人の情報じゃ弱いんだよ。相手が撹乱してくる可能性がある。その代り、お前の風感知で全員の状況を把握して、遊撃に回ってくれ」
「……しょうがない」
 風の王としては、人のサポートは教示に沿わないのだろうが、しぶしぶ肯く翼。
「それじゃ、各自頼んだ」
 さっさと行け、とでも言う風に手を振る草間に、全員の視線が集中する。
「ん? 俺か。俺は連絡係」
 六人のジト目をさらりとかわすその姿は、さすがに探偵であった。

「犯行は、ここら辺で行われてるみたいですね」
「なるほど……」
 あの後、ジト目に耐えられなくなった草間が調べた資料を持って、みなもと辰一は街の中に居た。
「それで、みなもさんの説によると、デパート関係者が怪しい、と」
「はい、水曜夜に犯行が行われているとすると、土曜休みのデパートの人が怪しいと思うんです。もちろん、水曜日が休みの職種も怪しいですけど」
 会話を交わしつつ、狗使いの証拠である犬を探す。犬を狗に変貌させるなら、その前に接触を持っているだろうとの考えからだった。
「デパートの裏口、とか怪しいですかね」
 呟きと共に、辰一はビルの谷間へと入って行く。みなもも後を追った。
「ん〜、犬の匂いがするで」
 辰一の肩に乗った式神、甚五郎が鼻をひくつかせつつ呟く。外見はただの猫が喋ったのに驚き、みなもが目を丸くした。
「少し気をつけた方がいいですね。この場で襲ってこないとも限りませんし」
「そうですね」
 周りを気にしながら、デパートの裏口へと進む。
「あ」
「あれは……」
 二人の視線の先に、痩せた犬に餌をやる女性の姿が見えた。こちらを見ている二人に気付いて、女性が顔を上げる。
「何か?」
「あ、いえ、別に」
 警戒する女性に笑顔を向けつつ、辰一が近付く。犬が警戒するように唸り声を上げたが、女性が手をかけると大人しくなった。その様子から、女性が犬の扱いに慣れているのを確認するみなも。
「いつも、ここで餌を?」
「はい、そうですけど、それが何か?」
 聞き返してくる女性に微笑を向けつつ、辰一はそっと犬を観察する。見た所は普通の犬。しかし、どこか変な感じもしないでもない。異能感知でもあれば詳しく分ったかもしれないが、辰一にその能力はなかった。
「何なんですか、一体」
「いえ、僕は少し通りかかっただけで」
「……男の方でしたか」
 僕、と辰一が言った途端、女性の表情が僅かに強張った。それをみなもは見逃さない。同時に、犬の目に凶暴な色が宿ったのも察知し、辰一の服の袖を引っ張り、危険を知らせた。
「それでは、これで」
 威嚇を返す甚五郎をなだめつつ、退散する辰一とみなも。ビルの谷間から出ると、一息ついて顔を見合わせた。
「少し脈あり、ですかね」
「そうですね」
 肯き合いつつ、みなもが携帯電話を取り出した。

「やれやれ、ここら辺の飯は不味い」
 ぼやきつつ、海鷹は何件目かの居酒屋を出る。食には少しうるさい海鷹には、居酒屋のツマミなどもってのほかなのだが、これも仕事だと自分に言い聞かせて耐えていた。
「よぅ兄さん、そっちはどうだい?」
 海鷹の肩が叩かれ、振り向いた先に啓が居た。
 同じく囮係の啓の顔は酒の所為か赤くなっている。囮の役目を忘れたのかと、海鷹が苦笑を浮べた。
「そっちはどうだ?」
「妙な女が後付けてやがる。みなもと辰一が見つけた奴だろう」
 すっ、と啓の顔が真顔に戻った。それを見て取って、海鷹は豪気な笑みを浮べる。
「護衛についたほうがいいか?」
「いんや、異能者が居ると気取られるのはまずい。ちゃんと誘導するから緋玻んとこ行っといてくれ」
 ぽんっ、と強く肩を叩くと、啓は歩き出す。その背を追って肯くと、海鷹も闇に消えた。

「とは言ったものの、こりゃ不味いかぁ?」
 苦笑を浮べつつ、啓は呟く。その回りを、異形と化した犬――狗が三匹で取り囲んでいた。
「俺ぁただの一般市民だぜ、見逃してくれないか?」
 狗の向こうに立つ、俯いた女性に声をかけるが、反応は無い。
「まあ、今までだって普通に一般人襲ってきたからなぁ、人殺しの嬢ちゃん」
「うるさいっ!」
 怒りの声と共に、女性が顔を上げる。爛々と光る双眸は、狂犬の目をしていた。
「ひぃ、怖いねぇ……」
 おどけつつ、周囲を見渡す。誘き出しの地点までは少しある。運良く味方が来てくれればいいが、と多少不安に駆られた。
「男なんか……死んでしまえばいいっ!」
 女性の声と共に、三匹の狗が飛び掛ってきた。急所を庇いつつ、啓は息を詰める。
 しかし、予想していた衝撃は来なかった。
「遅いだろうが」
「おぉ、すまんすまん」
 寅の面を被った海鷹が、硬質化させ伸ばした爪で狗を弾き飛ばす。
「犬如きがわいに敵うと思ったらあかんでぇ」
 本性である白獅子の姿を表した辰一の式神、甚五郎がもう一体の狗を引き倒し、押さえ込んでいる。
「ッタク、チャント誘キ寄セナサイヨ」
 最後の狗は、鬼としての本性を表した緋玻がその腕で殴り飛ばし、沈黙させていた。
「っ……」
 狗が三匹とも倒されたのを見て、逃げようとする女性。しかし、女性の目の前で風景が歪み、鏡面と化した。
「結界で空間を隔たさせました、もう逃げられませんよ」
 静かな辰一の声。その隣には、みなもと翼が居た。
「もう勝ち目はありません、降参してくれませんか?」
 みなもの言葉に、女性は恨みがましい視線を向ける。それを見取って、翼が女性に近付いた。
「人を殺めた不浄な力、僕が消してあげるよ」
 翼の静かな威圧感に、女性は後ずさろうとする。しかし、結界がそれを阻んだ。
「これで、終わりだ」
 女性の頭に手を乗せて、力を解放する。女性の周りを風が渦巻いた。しかし、女性の様子に変化はない。目もそのままだった。
「何で?」
「この力が不浄な力? 冗談じゃない。これは、立派な断罪の力よ」
 女性の暗い声が響く。その威圧感に、思わず翼は女性から手を離した。
「私を滅茶苦茶にした男。そんな男をこの世から消す為に、私はこの力を手に入れたの」
「じゃあ、金を取ったのはなぜです?」
 みなもの問いに、女性は歪んだ笑みを見せる。
「その金で、この世の虐げられたモノを助けてたのよ。子供、女性、捨てられた動物。そんなもの全てを助けてたの」
 ふぅ、と一息つく女性。三匹の狗の姿がぼやけ、痩せ細った野良犬の姿になった。
「虐げられたものを助けるために、虐げられた犬を使ったのか?」
「この子達は、私を助けるといってくれた。だから、かわいそうだけど、私の力になってもらったの」
 犬の治療を行いつつ放たれた海鷹の問いを受けて、女性が犬達を見回す。その瞳には、複雑な悲しみが宿っていた。
「獣医として、お前のやり方は気にくわない」
 進み出ようとした海鷹を、緋玻が制した。その鬼面に怒りが浮いているのを感じ取り、海鷹は足を止める。
「理由ハトモアレ、罰ハ受ケテモラウワ」
「緋玻さん、止めましょう」
 女性の方に進み出ようとする緋玻を辰一が止める。これ以上誰かが傷付くのは見たくない、そう瞳が語っていた。
「アタシハネ。ソウイウ人間ノ甘サガ嫌イナノ」
 ぐっ、と緋玻が辰一を見据えた。正に鬼の形相であるそれを見て、辰一が道を開ける。
「アナタニ利用サレタ犬ノ恨ミ、受ケナサイ」
 緋玻が女性に手をかざす。途端に、女性の表情が変わった。
「なんで、なんでそんな目で見るの!? 私は貴方たちのためにやったのにっ」
 見えない何かに怯えるように尻餅をつく女性。むちゃくちゃに手を振り回すその様子には、先程まで見せた威圧感は無い。
「……ふぅ」
 元の姿に戻った緋玻が溜息をつく。同時に、緋玻の幻術を受けた女性も力が抜けたようにへたり込んだ。
「警察には、自首した事にしておこうか」
 女性を抱え上げ、翼が呟く。その場にいた全員が、ゆっくりと肯いた。

 留置所の牢屋の中に、膝を抱えた女性が居た。表情を暗く歪ませ、小さな声で何事か呟いている。
 ふと、その姿に影が射した。女性が顔を上げると、見知らぬ男の姿が見える。
「誰?」
「君達のような人間を監視する組織の者だ」
 男の言葉に女性は顔を引きつらせる。"組織"に目をつけられれば人間としての生活は送れない。そう先輩の能力者から聞いた事を思い出した。
「随分と、暴れたものだな」
 男の声音は厳しい。それに打ち据えされたかのように、女性は震える。
「責任は取ってもらおう」
 男が、懐から黒く光る塊を取り出した。それが拳銃だと解かった瞬間、女の口から悲鳴が漏れる。
「そいつを殺してどうにかなるのか?」
 声は、男の横合いから聞こえた。視線を向けた先に居たのは、煙草を咥えた草間だった。
「人殺しには、人殺しで対応した方がいいと思わないかね?」
「詭弁だな」
 微笑を浮べた男と、厳しい表情の草間。二人の視線が交錯し、空気が凍った。
「……なんてな」
 男が肩を竦め、拳銃の弾倉を見せる。
「空?」
「この女性が死ぬ運命なら、君達が殺していた。それを覆す理由は、私には無い」
 拳銃をしまい、女性に一瞥をくれると、男は草間の方に歩き出す。
「また次の事件で会おう」
「遠慮したい所だな」
 すれ違いざまに二人は言葉を交わす。そのまま、男は歩き去って行った。
「……何なんだ、ありゃ」
 草間の呟きと、女性の怯えた声だけが、その場に残された。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 3935/梅・海鷹/男/44/獣医
 1252/海原・みなも/女/中学生
 2029/空木崎・辰一/男/28/溜息坂神社宮司
 2863/蒼王・翼/女/16/F1レーサー兼闇の狩人
 1643/佐久間・啓/32/スポーツ新聞記者
 2240/田中・緋玻/900/翻訳家
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■         ライター通信          ■
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 どうも、渚女です。
 東京怪談で仕事を始めて二度目の満員御礼、ありがとうございました。
 ちなみに渚女は、犬は好きですが苦手です。どうにも、吼えられそうなので。
 ここがよかった、ここをもっとよくして欲しい、などありましたら、お気軽にお手紙くださいませ。

 海鷹様は初めての御参加、ありがとうございます。今後も動物関係の依頼を出すかは分りませんが、御参加お待ちしています。
 みなも様は、毎度の御参加ありがとうございます。次は海原の誰が参加してくださるのか、楽しみに待っております。
 辰一様は初めての御参加ありがとうございます。何故か声を聞いても男だと認識されませんでしたが、まあ、そう言う事もあるということで、ご容赦ください。
 翼様も毎度の御参加ありがとうございます。万能系の能力を生かして、裏方に回って貰いましたが、いかがでしたでしょうか?
 啓様も初参加ありがとうございます。そうきたかっ! という感じの絡みには感服いたしました、次回のご参加もお待ちしています。
 緋玻様も毎度の参加ありがとうございます。900歳という歳経た経験を生かすのに少し苦労していますが、今後も参加頂けると嬉しいです。

 それでは、また次の物語でお会いしましょう。