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<東京怪談ノベル(シングル)>


 ポケットには大きすぎるのじゃ 〜前編〜

 昔、リンゴの木を眺めていた人が発見したのは万有引力の法則である。
 枝を離れたリンゴの実は、より大きなもの、地球に魅かれて地面に落ちるというルールだ。
 そんな事を考えながらリンゴの木を眺めて、何が楽しいのかという気もするが、ともかく見つかったものは仕方ない。
 また、似たようなルールとして、ハムスターっぽい小学生、本郷・源が夏枯れのおでん屋台を引いていて発見した、
 『お金はお金持ちの所に集まるのじゃの法則』が挙げられる。
 金持ち共はお金をいっぱい持っているのに、源の所には何で無いのじゃ?
 という逆切れ…いや、悩みの中から、源が気づいたルールである。
 少なくとも、山の化け猫もコタツから抜け出す夏の日差しの中、熱々のおでん屋台を引いて歩いた源は只者では無かった。
 「…というわけで、カジノに行くのじゃ」
 おでんが売れず、お金に困った源の結論が、それだった。
 ある秋の日の夕暮れ。東京都での出来事である、
 源は都営カジノの近く、人気の無い神社にフィアットを止め、相棒の嬉璃を呼び出した。
 「お金が無いのにギャンブルをすると、ますますお金が無くなってしまうぞ?
  ギャンブルは金持ちが儲かるように出来てるのじゃ」
 嬉璃が源に言った。
 「ふっふっふ、嬉璃殿はわかってないのぅ
  カジノでギャンブルをするのは、普通の人なのじゃ。
  でも、源は違うのじゃ」
 「うむ、確かに源は普通の人じゃ無いのぅ」
 「…どういう意味じゃ?」
 「何でも無いのじゃ」
 「それなら良いのじゃ」
 源と嬉璃は夕焼けの神社で話を続ける。ぱっと見だけなら、着物を着た小学生の女の子達が遊んでいるようにも見える。
 「カジノの金庫に行くのじゃ。
  そうすれば、お金がいっぱいあるのじゃ。ギャンブルなんかしなくて良いのじゃ」
 源は言った。
 「おお、それは良い考えなのじゃ。
  某都知事め、最近調子に乗ってるからおしおきするのじゃ」
 やるのじゃー。
 というわけで、源と嬉璃は神社を出て都営カジノへ向かった。平日だというのに、都営カジノはギャンブル客で賑やかだった。
 「さすが都営カジノじゃ。賑わってるのじゃ」
 「うむ、これなら嬉璃殿と源がフラフラしてても目立たないのじゃ」
 源と嬉璃は、『未成年立ち入り禁止』という看板をものともせず、カジノに乗り込み、入り口付近のフロア図を見ながら金庫への道を探した。
 「むむ、嬉璃殿、大変なのじゃ。
  金庫室へ行くには、メイン賭博スペースを通らなくてはならないのじゃ」
 「本当じゃ、パチスロ、丁半博打、闘鶏、室内競馬場、おぉ、チンチロリンまであるのじゃ」
 「古今東西のギャンブルが全て揃っておる…某都知事め、やるのぅ」
 都営カジノの中に施設された、5キロ四方程の広さがあるメイン賭博スペースは、源と嬉璃にとっては強敵だった。
 数時間、2人は足止めを受けた。
 「お金が無くなったのじゃ…」
 「某都知事め、許せん…」
 無念にも有り金を奪われた2人は、再び金庫を目指した。その後は警備員が邪魔をした位で大きな障害も無く、2人は金庫室にたどり着いた。
 金。金。金。
 世界札束博覧会でも開いているかのように、そこは世界各国の紙幣でいっぱいだった。
 「おお、お金じゃ。ポンド!ドル!フラン!ルーブル!ルピー!ペソ!クラウン!リラ!ウホッ、ウォンまであるの!世界中あるのじゃ!」
 源の目が\マークに変わっている。
 「やったのじゃ!さっさと運び出すのじゃ!」
 嬉璃の目も\マークに変わっている。
 2人は金庫の窓から札束を運び出し、フィアットに乗り込む。あらかじめ細工済みの警備員の車両は、真っ二つになったりボンネットが跳ね上がったりして、2人を見送るだけだった。
 「はっはっは、某都知事め、今頃悔しがって泣いておろう」
 「ナンバー不揃いで50億はあるぞ!今時のカジノにしては少ないけど、まあ良いのじゃ!札びらのシャワーぢゃ!それ!!」
 嬉璃が源の頭から札束をかけた。
 パラパラと、滝の流れのように札束は源の身体を包んだ。
 「うわーっ、熱い、熱い、熱いのじゃ!もう止めて欲しいのじゃ!」
 源は嬉しくてたまらない様子だった。
 だが、少しして、急に源はため息をついた。
 「…捨てるのじゃ」
 そして、元気が無い様子で言った。
 「どうしたのじゃ?」
 「よく見るのじゃ。1万円札の絵が福沢諭吉では無く、水戸黄門になっているのじゃ。
  これは偽札じゃよ…」
 1万円札を手に取りながら、源は言った。
 「こ、これが全部偽札!?
  某都知事は何をやっておるのじゃ!
  都営カジノに偽札が出回るとは、どういう事じゃ!」
 何とした事じゃ。嬉璃はどこに怒りを向けて良いかわからなかった。
 「…なるほど、わかったのじゃ。
  嬉璃殿! 次の仕事は決まったのじゃ!
  前祝いにぱーっとやるのじゃ!
  それ! ぱーっ!」
 と、源は景気良く、偽札の山を車の外へとばらまいた。
 車から溢れた偽札の山は、波のように道路へとばら撒かれていく。
 「偽札の聖地…そう…あそこなのじゃ!」
 源は言った。
 2人は、偽札をばら撒き尽くすまで、フィアットを走らせた。
 数日後、2人の姿は東京から消えていた…

 (完)