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■小人達を救え!■
昏石・紫黒斗(くれいし・しろと)の悪戯心で開かれたとある扉から、小さな小さなUFO(ユーフォー)が、草間興信所をへろへろと飛びながら訪れた。
「な、なんだ、お前達は……」
よろよろと出てくる小人達に、草間武彦はいやーな感じが絶えない。無理もない、この前、腐れ縁である謎の薬剤師、生野・英治郎(しょうの・えいじろう)に小人化されたばかりなのである。
「生野絡みか?」
聴くと、リーダーらしい緑色の瞳の結構美形な男が、ぐすぐすと泣きながら事の次第を述べた。
「我らはこの地球では宇宙人と言えるのだろうな。私はティンクル星の王子、トーマだ」
そして、トーマは語った。自分達の星が、テロリストの手によって侵略されつつあり、戦争が絶えないのだと。
「戦争か……こりゃまた話がシリアスになったな」
と武彦は言ったものだが、そうでもないらしい。
「そうなんです! テロリストのやつら、こんなに酷い兵器まで我々に当ててくるようになったんです!」
兵士Aの取り出したものは、ピーナッツの欠片だった。
「で、俺にどうしろって?」
武彦は半ば相手にしたくない色を濃くしていたが、見た目殆ど自分達と変わりない人間(?)にこういう風に頼まれては、聴かずにいられない。
「どうやらこの地球という星には、優しい人達と我らの惑星ティンクルよりも優れた科学力があるようなので、是非一緒にテロリストと戦ってほしいのです!」
待て待て待て、と武彦は思う。
「つまり……俺にもう一回小人になれ、と……」
小さな、しかしやられてしまってぼろぼろの戦車もどきの中からしくしくと泣きながら訴えるティンクル星の住民達の願いを、
「乗りかかった船だ、やってやるよ」
と、半ば自棄になって武彦は言ったのだった。
■いざティンクル星へ■
「ってことで『嫌々ながら』お前の作った改良完全版小人豆を食べたいんだが……本当に大丈夫なんだろうな?」
武彦が、草間興信所に集まった面子───シオン・レ・ハイ、シュライン・エマ、セレスティ・カーニンガム、松山・華蓮(まつやま・かれん)を代表して、嫌々呼んできた腐れ縁の謎薬剤師、生野・英治郎(しょうの・えいじろう)を目の前に、そう聞いた。
英治郎は、いつもどおり曲者笑顔を浮かべながら、
「勿論だとも武彦。さ、これが小人豆が入った袋です。人助けゆえ無料ですし、好きなだけ持っていってくれ」
と、掌に包み込めるくらいの袋を差し出した。シュラインが念の為確認してみると、確かに以前、アトラス編集部で見た小人豆とは少々違うようである───だからといって、完全に好きな時に戻れ、好きな時に小人になれるという生野の言葉を、今までの経験上鵜呑みにはしないが。
生野をさっさと追い返し、武彦は、「さてと」と、面々を振り返った。シオンの掌には、ティンクル星の人々が乗っているUFOが丁重に乗せられている。武彦達のやり取りは、聞こえている筈である。
「非常に気が進まないが、小人豆を食べてそのUFOに乗せてもらおうか。皆準備は出来てるか?」
武彦の問いに、4人其々、持ってきた荷物を抱えて頷き返事をする。
そして、徐に全員が、小人豆を食べ始めた。
「前に食べた時よりもちょっと塩味が濃いですね」
美味しそうに、シオン。
「こうして食べてみると、本当に普通の枝豆と変わりありませんね」
色々と観察しながら、セレスティ。
「小人になる、という点がなければ、食事の材料に充分なのに……なんだか勿体無い気がするわ」
とは、主に草間興信所の台所の主を担うシュライン。
「よその星にいけるのもめっちゃ楽しそうやけど、この小人豆もかなりのドキドキものやなあ」
ウキウキ顔で食べているのは、華蓮。
「っと……小さくなり始めたな」
嫌そうに、身体が縮み始めた武彦は、驚くティンクル星の王子、トーマの肩をひとつぽんと叩いた。
「言っとくけど、これは地球の科学とは別物の、『ヘンな真似しちゃいけない代物』のひとつだから、あまり深く考えないようにな」
「あ……は、はい」
トーマはそして、続いて衣服や荷物と共に小さくなった4人をUFOの中へと案内した。セレスティとシオン、武彦で一室。シュラインと華蓮で一室が宛がわれた。
「では」
トーマが、操縦室でクルーに命令を下すのが、天井のスピーカーから聞こえる。
「我がティンクル星へ出発! 自由と平和を取り戻しに!」
プルルル、とUFOが飛び立ち始める。ハンカチをひらひらさせ、「いってらっしゃ〜い」と、緊張感も何もない笑顔で生野、そしてその隣で「皆さんお気をつけて!」と心配そうに手を振っている零の姿が窓から見えるが、それも見る間に小さくなっていった。
それぞれの二部屋にも、他の部屋にいるティンクル星の兵士達同様人数分の簡易食料が配給されてきた。
「この食料を見ただけでも、平和な星の人々って分かるような感じね」
作戦会議も兼ねて一部屋でと武彦達男子衆の部屋に集まったのだが、シュラインが食べながらぽつりと言った。華蓮が、そういえばとスプーンを動かす手をとめる。
「簡素って一言で言っちゃえばそうやけど、なんや温度じゃなくあったかなスープとパンやもんなあ」
「気持ちまで、ほこほこしてきます」
幸せそうな顔をして、シオンがパンをほお張る。
「このスープ……具は地球で言えば簡素なのでしょうけれど、なにか、食物に対する素直な感謝が感じ取れるんですよね」
セレスティも、和やかな顔になって言う。
「ん? お前そういうのも分かるのか?」
「いえ、なんとなくですよ」
武彦の問いに、苦笑するが、シュラインはそんなセレスティを見て言った。
「そう、その感謝の気持ちがあるってことは……戦争とかもそんなに本当は好まないタイプの人達なんじゃないかと思うの。だって『酷い兵器』がピーナッツの欠片でしょう? 実を言うと私は、あまり科学という科学をティンクル星に持ち込みたくないの」
「地球だって戦争を繰り返して今に至る、という感じですからね。私も賛成です。出来ればテロリストさん達と和解したいくらいです」
真顔で、シオン。
「ホントに和解できるかはわからんけど、問題が解決せえへんから戦争がおきてるんやろ?」
一番に、綺麗に食事を終えて口元を拭く華蓮。
「ええ、ですからその問題点を話し合いでなんとか解決できないか等、私はそのテロリストの組織に行ってみたいのです。それと、同じ星の人達が争っているのかどうかという調査も」
セレスティの言葉に、
「同じ星の人達……? 違う星の人達同士が同じ星、つまりティンクル星を舞台に戦っているという可能性もあるということ?」
と、シュライン。
セレスティは頷く。
「助けを求めてきた人達側の事情と、テロリスト達の活動理由も気になります。片方だけに情報が偏りがあると、正しい判断がつきにくいと思いますから。正しいという基準も曖昧ですが、出来るだけ更生でありたいと思うのです。敵に私たちが交渉役として間に立つ事を理解して頂いて、という意味もあります」
「なんや筋が通ってて説得力あるなあ」
華蓮が、心底感心したようにセレスティを見る。シオンも自分の荷物をごそごそしながら、
「そうすると、私達が持ってきた武器や何かもあまり役に立たないということも考えられますね」
その手に持っているのは、フライパン、玩具のスリング、ゴキブリホイホイ、そして何故か、WASABI本生だった。
「ゴキブリホイホイは……元の大きさに戻ったら使えそうだけれど、WASABI本生って……?」
「よくぞ聞いてくださいましたシュラインさんっ。これこそが我が天敵ともいうべきものなのです!」
だから敵にもきくのではと持ってきたところが、シオンらしい。
少し頭を抱えたシュラインを、横目で見やったのは武彦である。
「そういうお前も随分可愛らしいものを持ってきたな」
「えっ……私はちゃんと動機があるのよ」
きょとんとしたように、シュライン。
「パチンコにネズミ捕り用ホイホイに……これシオンさんに負けてまへんわ」
その彼女の持っている開いた口から荷物の中身を見た華蓮の素直な感想。
「華蓮さんは、何を持ってきたんですか?」
セレスティの問いに、華蓮は、
「ウチは武器とかは持ってきぃへんけど、かわりにこれでも陰陽師やから、ティンクル星の人達をコワがらせない程度に術使わせてもらうつもりです」
「と、いうと?」
更にシオンが尋ねると、ピッと華蓮は一枚の紙を出してみせた。何か呪文を短く唱えると、瞬時にそれは鳩の形に変わった。
「なるほど……式神ね」
シュラインの言葉に、華蓮は頷く。
「そうです。ウチのこの鳩と鼠の式神で、鳩式神には空から、鼠式神にはテロリスト本部の内部を探ろうと思います」
「私と同じく、情報調査のようなものですね」
セレスティが微笑む。そしてそれからしばらく彼らは話し込み、星についたらまず先にする行動を其々決めた。
「よし。んじゃ、その方針で」
と、武彦が作戦会議をしめた時、天井のスピーカーから、
『間もなくティンクル星に着陸します。各自シートをしめ、椅子に座っていて下さい』
と、クルーの声が聞こえて来た。
■其々の行動の行方■
武彦は、トーマ王子の住む宮殿の一室、トーマ王子の部屋で待つ役になった。本人も一応何かしたかったらしいが、「留守を護るのも大事なことよ」とシュラインに軽く宥められ、渋々のようにオレンジジュースを飲んでいた。
シュラインと華蓮はというと、いやにシンとした街中を一緒に歩いていた。
勿論、華蓮の式神達は既に放たれてある。
半分以上の店は閉められ、歩く人々も少なかった。
「一番の繁華街って聞いてたんだけど……テロリストがいるとやっぱりこんな風になっちゃうのかしら」
シュラインの言葉に、華蓮は残念そうに同意する。
「よくテレビとかで見る外国のテロの街とかもこんなんですしね。でも、あないな負傷者や死傷者が街におらんだけでもマシと思います」
それでも二人は、街往く人々の会話や服装等を細かくさり気なくチェックして歩いていた。
服装等も品質は豪華なものでなかったが、庶民の彼らだけでなく、そういえば王子のトーマの服もそうだったと二人は思い出していた。
「なんていうか、日本とか外国とかそういうのを取っ払った『一昔前』って感じがどことなくするのよね……」
曖昧な表現だと自分でも分かっていたが、現段階ではまだそうとしか言い切れない。
「そうですね。会話もテロにいつ襲撃されるかわからへんってまでの緊迫感は、まだないみたいですし」
華蓮も、笑いながら歩く親子連れを見送りながら言う。
空では鳩の式神が飛んでいる。そして、今頃鼠の式神達は、トーマ王子に教えられたテロリスト本部のビルへと向かっている筈だった。
セレスティとシオンは、シュラインと華蓮達と同じくトーマ王子に教わった、テロリスト本部のビルの近くの建物に身を潜めていた。
「科学の力はないということですけど、セレスティさん、ちゃんと監視カメラはあるみたいですね」
ビルのあちこちに、小さな監視カメラがついているのを見て、シオン。セレスティは頷き、さてどうして近寄ったものかと考えた。
ここに来るまでの間、セレスティはUFOの中で会議した通りに住民の情報集めや調査をしたのだが、住民、テロリストの一人たりともティンクル星でない者はいなかった。あとは、テロリストの統率者に出来れば会い、話し合いをしたいところだ。
「けれど、平和な星と思えばテロリストの目的が本当であれば───随分と殺伐としていますね」
ぽつりと、セレスティ。
「そうですね……トーマ王子のあまりに完璧な平和統率が気に入らなくて、というのがなんだか哀しいです」
「そこが子供といえば子供の考えともいえますけれどもね。まあ、独裁者・テロ統率者の考えは皆そのようなものでしょう」
セレスティは、少し冷たい笑顔を浮かべる。
「監視カメラ……どうやって潜入しましょう?」
困ったシオンが尋ねると、セレスティは長髪を靡かせ、堂々と建物から身を出していった。慌てて思わず追いかけるシオン。
「セ、セレスティさん!」
「ヘタにこそこそ近づいても怪しまれるだけです。私達が交渉役として行くのならば、尚更のこと」
「そ、それもそうですね……」
そして、冷や汗を流しながらも胸を出来るだけ張ってシオンも歩き出す。そしてふと、ビルに近づくごとに、妙なことに気がついた。
「セレスティさん……この監視カメラ、皆配線が切れてますよ」
「というより、これは……」
まるで、退化しているようだ。
シオンとセレスティは、思わず顔を見合わせた。
「ん」
ぶらぶらと歩いていた華蓮が、ふと立ち止まったのでシュラインは振り返った。
「どうかしたの?」
「ウチの放った鼠式神から伝わってきたんですよ。式神の見たものはウチにも伝わって来るから、離れたとこからでも、アジトの様子を探れますから」
「潜入したセレスティさんとシオンさんに何かあった?」
心配そうに尋ねる彼女に、華蓮はじっと耳をすますようにしていたが、鼠式神の何匹かが物陰から見たり聞いたりしていることを、伝え始めた。
「交渉」という言葉を初めて聞いて少し動揺しながらも、見張りのテロリスト達はセレスティとシオンを、統率者の元へとあっさり連れて行った。
その間、あちこちの部屋の前を通り、その窓からシオンは中を覗いていたので、大体どこに武器(ピーナッツの欠片等)が置いてあり、見た武器の全てが食べ物類だということも知った。
「私が統率のエイラックだが、交渉とはどういうことだ?」
いかにも悪者面といった感じの美青年が、不審そうに眉間に皺を寄せながら二人を交互に見つめた。
「誰かと誰かの意見の食い違いは当たり前のことですが、それを戦争にするのもどうかと思いまして」
涼しい顔で、セレスティ。シオンははらはらと見つめている。
「意見ならば話し合い、またはアンケート等をとって解決するのが大人だと思うのですがどうでしょう? 国会や議会形式をとるのもいいと思います」
「すると何か?」
エイラックは、カチャリと拳銃を瞬時に出し、セレスティの額につきつけながら不機嫌そうに言う。
「俺は『大人』ではなくそこら辺のガキと同じということか? お前達はそんなことを言うために俺に会いにきたのか?」
(拳銃……?)
(どうして……? 科学の力なんてなかったんじゃ……?)
セレスティとシオンは同じことを疑問に思い、そして「拳銃」が出てきたからには中に入っているのも必ずしも「酷い兵器」の「ピーナッツの欠片」とは限らないということも懸念し、ちらりと一瞬視線を交わした。
思いが通じたかは分からない。ともかくも二人が二人とも捕まっては意味がない。すかさずシオンが、後ろ手に持っていた、地球から持ってきていた菓子のひとつ、仲良くなるためにと献上する筈だったものを差し出した。
「え、エイラックさん! 私は貴方と仲良くなりにきたんです。決して殺し合いとかそんなことをするためでは……も、もちろんセレスティさんだってそうです! お近づきの印に、これをどうぞっ!」
それは、クールミントだった。そう、あの、何粒か口に入れて噛むと胃の匂いまで取れてなんとやらというものである。エイラックはこちらも不審そうにしていたが好奇心はあるらしく、近くに一人だけ立たせていた見張りの仲間Aに毒見をさせた。途端に、悶え苦しむ仲間A。
だがそのすぐ後、
「エイラック様! こ、この武器は凄いものです! 一瞬死ぬかと思う程ツーンとして、その後、胃までスッキリとなりました! いえ、これは武器でなく薬なのかもしれません!」
「ふむ」
エイラックは片眉を上げ、シオンだけを外に出すことを許した。
「そっちの中年男のほうは外に出してやれ。但し、出す前に足の一本くらいには傷を負わせろ。トーマへの見せしめだ」
「はっ!」
仲間Aはビシッと敬礼を取ると、「まっ待ってくださいセレスティさんも」と暴れるシオンを部屋から引きずり出した。
「マズいわね……拳銃なんて、予想外だわ。多分そんなもの、トーマ王子も知っていたかどうか」
その一部始終を鼠式神が見、華蓮を通してシュラインに伝えたのをエイラックは知らない。
シュラインがそう呟くと、「急いで草間さんにも知らせな」と焦る華蓮と共に、一度宮殿に急ぎ戻り、待機していた武彦とトーマ王子にその旨を告げた。
「けんじゅう? それは物凄い武器なのですか?」
「物凄いも何も、ヘタすればイッパツであの世行きです」
華蓮が身振り手振りでなんとか伝えようとするが、やはりすっかりは伝わらないらしい。だが、物事の重大さは充分に伝わったようだ。
「では、セレスティ殿を救出に、これを機に我が軍を率いてエイラックの元へ!」
「あ、待ってや!」
華蓮が引きとめようとしたが、トーマ王子は既に部屋から姿を消していた。
「そんなことせえへんでも、ウチらが『元の大きさ』に戻ればすむことやのに」
「本当にね……」
「じゃ、戻るか」
シュラインと武彦が同時にため息を小さくつきつつ、「元の大きさに戻るよう」念じた───が。
「戻らへんやんかっ」
華蓮が焦った。
武彦とシュラインは、「やっぱり」といった感じでぐったりしている。
「あの英治郎のことだ……まだ絶対完全な改良小人豆なんて作れてないと思ったぜ」
「仕方ないわ……予想はしていたのだから、このままトーマ王子のあとを追いましょう。私達も、セレスティさんを救いに」
「シオンさんも、もう負傷してるかもしれへん、はよ行きましょう!」
そして、華蓮とシュラインに武彦は、トーマ率いる王子軍の前衛に加わったのだった。
■歴史の名残■
部屋から出されたシオンは、テロAに外に出される瞬間、パチンコで足を狙われていることに気づき、咄嗟に懐に潜ませていたもので足をカバーし、勢いよく飛び出してシオンのアキレス腱を狙ったピーナッツの欠片を弾き飛ばすのに成功した。
「な……なんだその盾は!?」
「ふ」
シオンは得意げに微笑み、ビシッと敵の鼻面に突きつけてみせた。
「これはフライパンというものですっ!」
「貴様……どこからそんな脅威な科学物体を……エイラック様に報告を!」
「そぉはさせません!」
そしてこれまた懐に入れていたWASABI本生を取り出し、テロAの目に。
その哀れな悲鳴は、トーマ軍や武彦、シュライン、華蓮の耳にも届いた。それだけ、本部の近くに来ていた。
シュラインがハッとする。
「シオンさんの声かしら!?」
「いや、あれはWASABI本生喰らったテロのひとりの声ですわ……」
半ば呆然としながら、空から偵察している鳩式神を通じて分かったことを伝える、華蓮。
「つまり、シオンは無事なのか?」
武彦の問いに、「今のところは平気みたいで、こっちの軍の声に気づいてくるところです」と、彼女は続ける。
言っているうちに、トーマ軍&武彦達と、シオンは本部の手前辺りで合流した。
そしてシオンは、内部の武器の種類や場所、そして監視カメラのこと等も話して聞かせた。
「退化……? それって前にはちゃんと起動してたってことよね」
考え込むシュラインの身体が、突然大きくなりだしたのはその時だ。本人も驚いたが、小さい皆も慌てて踏まれないようにと避難した。
「これだから……生野さんの作るものって当てに出来ないのよ……」
またまたぐったりしながらも、用意してきたバッグの中から、元の大きさに戻った時のために持ってきていた小さな水鉄砲を取り出した。
「そんなものどうするんだ?」
武彦が見上げながら聞くと、
「これを消防車ホースの水当てて追い込むように使ってみようかと思って」
「なるほど、それなら私も」
と、こちらも大きくなり始めたシオンが、荷物の中からゴキブリホイホイを取り出し、本部の周囲で一番広い場所に設置する。華蓮は、
「あれには絶対入ったらあかんで」
と、トーマ軍全員に注意していた。
すると、窓から見ていたらしいテロリスト達が、一斉に出来損ないの戦車のようなものに乗って、シュラインやシオンに弾を飛ばしてきた。だが、弾といっても所詮は菓子、食べ物である。見事、全部シオンの口がキャッチし、華蓮と武彦は思わず拍手した。
「ウチも負けてられへんで!」
こちらも武彦とほぼ同時に大きくなり始めた華蓮が、何か呪文を唱える。すると、本部ビルの中が一斉に騒がしくなった。
「何をしたの?」
不思議に思ったシュラインに、華蓮は、
「呪縛符を出現させて本部ビルの中の連中を呪縛したんです。これで大半は動けんはずです」
「元の大きさに戻るには個人差があるみたいですね。とすると、今にセレスティさんも……」
シオンが言い終わる間もなく、ビルが半壊し、元の大きさに戻ったセレスティが中から現れた。どうやら、どこにも傷はないようである。
「セレスティさん、無事だったんや!」
華蓮が嬉しそうに言うと、セレスティは苦笑したように言った。
「まあ、拳銃といっても中の弾もやはり退化していまして。それで助かりました」
そして、額にわずかについていた鉛の溶けたものをこすりとる。シオンはゾッとした。
「もももももし、これが退化してなかったら……」
「死んでたわね……」
こちらもごくりと唾を飲む、シュライン。
さてテロリスト達はそれからホイホイに捕まり、水鉄砲で追いこめられ、呪縛され、残るはエイラックだけとなった。
「俺は……コワかったんだ」
トーマ王子の前に項垂れ、がくりと膝をつくエイラック。
「独りだけ、あるものを見つけてから……これが本当になったらどうしようか、王子が手に入れたら『繰り返される』んじゃないか、と……コワかったんだ」
これはあんた達が持って行って処分してくれ、と、エイラックが、再び何故かまた小さくなってしまった武彦達に何か分厚い本の束を渡してきた。
「まあ……」
ぽりぽりと、こめかみの辺りをかきながら、武彦は空を見上げる。華蓮とシオンが、今度こそ平和の象徴をあらわすような白い鳩式神に乗って空を飛び回り、フライパンでピーナッツの欠片をボールのようにして空中テニスをしていた。
「なんだかわからんが、平和が戻ったんなら、コワいのもなくなるさ。実はこんなものを零がよこしてな」
と、武彦が振り向くと、言われて大きな袋を持ってきたシュラインがふうっと汗をかいてそれをドサッと置いた。
「この前武彦さんが童心に戻ったからか分からないけど、戦争やるくらいなら遊びで解決なさいってことらしいのね、生野さん的には」
そう言って袋を開けると、たくさんのゲームボーイ(旧式)が出てきた。エイラックとトーマをはじめ、一斉に目を輝かすティンクル星の人々。
「すごい! なんという科学!」
「おお! 箱の中で何か乗り物が動いているぞ!」
夢中になって遊び始める彼らに、降りてきた華蓮とシオンと共に、セレスティは微笑んだ。
「生野さんの言うことも、あながち間違ってはいないのかもしれませんね」
「奴の性格はまた別問題だがな」
苦虫を噛み潰したように、武彦。それをまあまあとシュラインがとりなしながら、こちらも遊び疲れた華蓮とシオンと共に、地球行きのロケットに乗った。
感謝の気持ちと共に、トーマ王子から渡されたのは、人数分の、この星の名産という、小さな紙を畳んだものだった。
宇宙空間、自動操縦で地球に向かう中、なんだろうと開いてみると、それは紙風船だった。
「わあ、懐かしいなあ」
華蓮がぽんぽんと手で遊んでいる。シオンは器用に足も使って蹴鞠のようにしていた。
「草間さん、これを見てください」
武彦がエイラックに渡された本の束を読んでいたセレスティは、少し真面目な顔で、だが少し微笑ましげに呼んだ。自然と、皆が集まる。
「これは、ティンクル星の歴史と科学を記したものですよ。これで監視カメラの謎も、拳銃の謎も解けました」
「あ……そういえば」
ぽむ、と思い出したようにシュライン。
「私達、どうしてティンクル星の人達と言葉が通じてたのか、今まで疑問に思わなかったのがおかしいくらいだわ。その謎もこれで解けたってことね」
「ウチには全部は難しくてよく読めへんけど……これ英語やんね」
「英語の本ですね」
華蓮とシオンも、セレスティの持つ本を覗き込む。
「つまり」
武彦が、結論を出した。
「ティンクル星は『扉(ゲート)』をくぐって行き来した───『未来の地球』だったってワケか」
戦争が起き、全てが退廃し、食物も失せ、それから何千年も時が経ち───質素でも平和な今のティンクル星が出来上がった。そういえば星も青かった、と皆は思う。
「私達の『今』って、本当に大事ね」
シュラインの言葉に、セレスティは頷く。
「一歩間違えば、ティンクル星はもっと科学と戦争の『進歩』した恐ろしい星になっていたかもしれませんからね」
「『今』のままでいいかは分かりませんが、なんだか私、あの星の人達───いえ、未来の地球のあの人達を見ていたら、すごく心が和みました」
シオンが、紙風船をしみじみと見下ろしながら、微笑む。
華蓮が、ロケットの窓からはるか彼方に消え行こうとしているティンクル星───未来の地球に向けて、そっと手を振った。
「色々教わったんやな、ウチら。ありがとうな」
そして、「今」自分達が住む地球へと。
故郷へと帰る道々、ロケットの中で、ティンクル星についてや住んでいる人達についての楽しい談話が和やかに続いたのだった。
───真っ黒な中、救いのように浮かぶ神の手毬、地球よ。
───どうか、名を変えてもその寿命尽きるまで、
我ら全ての生き物の心の糧であっておくれ───
『地球を友としここにその道を記す
───作者不詳』
《完》
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
3356/シオン・レ・ハイ (しおん・れ・はい)/男性/42歳/びんぼーにん +α
0086/シュライン・エマ (しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1883/セレスティ・カーニンガム (せれすてぃ・かーにんがむ)/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い
4016/松山・華蓮 (まつやま・かれん)/女性/17歳/陰陽師
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、東瑠真黒逢(とうりゅう まくあ)改め東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。今まで約一年ほど、身体の不調や父の死去等で仕事を休ませて頂いていたのですが、これからは、身体と相談しながら、確実に、そしていいものを作っていくよう心がけていこうと思っています。覚えていて下さった方々からは、暖かいお迎えのお言葉、本当に嬉しく思いますv
さて今回ですが、小人ネタの続きものにしてみました。遅延続きのノベルですが、今回は39度の熱の中、思い切り意識を集中して筋書きをたて、書いてみました。因みに最後の何行かは、草間武彦がエイラックに渡された本の全ての最初の頁に書かれている文章です。地球を「神の手毬」と表現したのは、もう9年かその辺の昔になるのですが、この表現はとても気に入っているので、いつかまた何かに使おうかと思っています。今回は入浴シーンを入れたかったのですが、あまり物語に絡みこめなかったので、また次の機会にと思ってやめました。
■シオン・レ・ハイ様:連続のご参加、有難うございますv フライパンで思わず華蓮さんと空中テニスをして頂いたのですが、如何でしたでしょうか。なんとなく、フライパンがツボでしたもので……(笑)。
■シュライン・エマ様:連続のご参加、有難うございますv 武器という武器をあまり持ち込みたくない、という点はやはり鋭いなと感じました。でも、「未来の地球」でなくとも、言語達者なシュラインさんなら通訳として話せると思います(笑)。
■セレスティ・カーニンガム様:連続のご参加、有難うございますv 今回は一番危険(?)な役回りにさせて頂きましたが、如何でしたでしょうか。そういえば青いティンクル星なのに海が出せなかったなと、セレスティさんの危機をどう脱するか考えていた時思い出したのを、今また思い出しました(笑)。
■松山・華蓮様:初のご参加、有難うございますv 服装のことをもう少し詳しく書きたかったのですが、なかなか書く機会もなく、書かずに終わってしまい、申し訳なく思っています。鳩式神、ということで、平和の象徴として使わせて頂きましたが、シオンさんと空中テニスは如何でしたでしょうか(笑)。
「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回は主に「夢」、というより「願い」を込めたものになったと思います。戦争を童話風に皮肉ったものと考えて頂ければなと思います。
なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>
それでは☆
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