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<東京怪談ノベル(シングル)>


 ポケットには大きすぎるのじゃ 〜後編〜

 人口35人の日本で一番小さな村、狩雄登呂村。
 その狩雄登呂のさらに谷底の牧場に、源と嬉璃は居た。悪者…狩雄登呂村の衛士隊…に追いかけられた源と嬉璃は、崖の上から転落したのである。
 「うぅ、フィアットが逝ってしまったのじゃ…」
 嬉璃が泣いている。機嫌が悪そうだ。谷に落ちた時に半壊したフィアットは、さすがに動かなかった。
 「嬉璃殿、仕方無いのじゃ。
  気を取り直して、ひとまず村に戻るのじゃ!」
 源は嬉璃をなだめながら、崖の上の狩雄登呂村を目指した。しばらく山登りをした末、2人は狩り雄登呂村に戻った。
 2人が戻ってみると、先程2人を追い回した悪者達の姿は、もう無いようだった。
 「今日の所は、城の様子でも見に行って休もうかの?」
 源が嬉璃に言った。焼きそばの大食い大会、谷底への転落。そして谷底からの復帰など、色々疲れた。
 源と嬉璃は、悪者に見つからないようにこっそりと城に近づく。
 「先程の衛士隊達は居なくなったようじゃのう。
  やはり、源達が死んだと思っておるのかな?」
 源は言った。
 「そうかもしれんな。全く、某都知事も詰めが甘い…」
 嬉璃は首を振った。機嫌は直ったようだ。ひとまず、2人が狩雄登呂村の城に着くまで、衛士隊が現れなかった事は確かだ。
 2人は狩雄登呂の城を遠巻きに眺めてみる。
 戦国時代…もしくは、それ以前、下手をすれば源平合戦の頃に建てられたのではないかと思われる古城は、遠くから見た感じでは廃城のようにも見えた。城として、手入れされているという様子は見られない。
 「これが殿様の天守閣ぢゃって? まるでカラッポの廃墟じゃ」
 双眼鏡で天守閣を眺めた嬉璃は、呆れたように言った。先程の衛士隊の団体さんが、あの古城に寝泊りしているとは、とても思えない。
 様子を伺うまでも無く、どこからでも入れそうな城だった。
 「大きくなりおったのぅ…」
 脈絡も無く呟いたのは、源だった。
 どこか、遠い目をしている。
 「こら、一人でカッコつけて悩むのぢゃない! ほら、言うのじゃ!」
 嬉璃は源の首を絞めながら言った。
 「わ、わかったのじゃ、言うのじゃ!」
 首を絞めるのは良くないのじゃ。と源は話を始める。
 「10日以上、前の話なのじゃ。
   如札の謎を解こうと思った源は、一人で城に行ったのじゃ。
   まだ駆け出しのチンピラじゃった…」
 「今でもあんまり変わらないと思うがのう…」
 「そんな事は無いのじゃ!」
 「わ、わかったから手を離すのじゃ、源殿。首を絞めるのは良くないのじゃ」
 嬉璃は言った。源は話を続ける。
 「村祭りに遊びに来た小学生の振りをして、城に忍び込んだのは良かったのじゃが、落とし穴に落ちてしまったのじゃ。
  そしたら、地下には如札の工場があったのじゃ。びっくりしたのじゃ。
  でも、追ってが来たので、仕方無く、如札の原板はそのままにして逃げたのじゃ…」
 「そんな事があったのか…」
 「そうなのじゃ。
  それで、その時も崖に落ちて、やっぱり先程の牛に助けられたのじゃ。
  あの時は子牛だったのに、今は立派になったのう…」
 随分成長の早い子牛だと、嬉璃は思った。
 「しかし、つまりは源殿?
  全然だめだったという事じゃな?」
 嬉璃は言った。
 「そうなのじゃ…
  コテンコテンで、しっぽ巻いて、逃げちゃったのじゃ」
 源は言った。
 「なるほど、牛に感謝せねばのう…」
 「全くじゃ…」
 源と嬉璃は頷きあった。
 牛さん、ありがとう。と、嬉璃はあらためて思った。
 一応、狩雄登呂の城は見た所、どこからでも忍び込めそうな城である。だが、衛士隊の団体さんがどこから現れないとも限らない。あんまり牛さんに迷惑をかけるのも悪いだろう。
 どうしたものかと悩む二人だったが、一瞬辺りが暗くなった。2人は空を見上げる。
 「オートジャイロとは古風じゃな」
 空にはオートジャイロが、ゆらゆらと飛んで、狩雄登呂の天守閣へと入っていく所だった。
 「老中じゃよ」
 ぼそっと源は言った。
 「え?」
 「さあ、宿でも探すのじゃ。明日は忙しくなるのじゃ」
 「忙しくなる…源殿、考えがおありのようじゃのう」
 「ふっふっふ、任せるのじゃ。
  先程、昼食の時に見た瓦版によると、明日は老中の子牛の結婚式なのじゃ。
  それに乗じてしまうのじゃ!」
 「それは良いのじゃ!」
 そうして、嬉璃と源は、ひそひそと話しながら狩雄登呂の城をひとまず後にした。
 狩雄登呂の城は夕日で赤く染まっている。そろそろ夕飯が恋しい。
 明日は、忙しくなりそうだった…

 (完)