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海へ行こう
「…海に行きたい」
誰かがそう呟いた。
「今年まだ一回も海行ってない!海行きたい行きたい行きたいーっ!!」
「あたしもあたしもっ、スイカ割したい泳ぎたい、日焼けしたーい!」
「俺も行きたい、女の子ナンパしたーい!」
白い雲、青い海、どこまでも広がる砂浜…相変わらず暑いし、むしむしするし、かといってクーラーは冷えるし、やっぱりこう言う時は海しかない!
もう少しすればクラゲが出て泳げなくなってしまうことだし、その前になんとしても一泳ぎ。
…そうして企画された、皆で海にいこう計画。
発端が発せられた場所が草間興信所であったが故に、なし崩し的に引率は草間氏。
皆でお弁当やら浮き輪やら思い思いのものを持ち寄って、れっつごー海へ。
「お話しは聞きましたのにゃ、差し入れにゃのにゃー!」
『〜♪』
傍迷惑な猫とエビフライも加えて一同は夏の終わりの海へと旅立ったのだった。
深青顎(ふかお あぎと)29歳…彼はテクニカルインターフェイス社の関連会社に努める潜水士でサーフィンが趣味の、今時らしい茶髪に赤い瞳が特徴的な、一見海の好きな爽やか好青年である。
だがそれはあくまでも表向きの顔…本当の姿はテクニカルインターフェイス社破壊工作員。
しかもその身体は普通の人間ではない…遺伝子改造人間である。
鮫人、鮫の形態への変身、水中での行動、えら呼吸などといった特性をもっている。
その本来(?)の名はザ・シャーク。
鮫怪人である彼は、当然の如く海が好きだった。
彼の中にある魚の遺伝子が騒ぐのだろう…休みともなれば海に行き、サーフィンをしたり元の姿に戻って水の中を自在に泳ぎ回る…そんな彼だから夏は好きだろうと思いきや、実は逆であった。
何故なら、彼の領域である海に、何も知らない無知蒙昧たる人間共が踏み込んでくる季節だからである。
今日も今日とて海に来た彼は、砂浜で騒ぐ有象無象の人間共に舌打ちをした。
芋の子を洗うようにうじゃうじゃと、よくもまあ集まったものだと考えながら海に入った彼は、鮫の形態に姿を変えて悠然と人気の無い深い海を泳ぎ回った。
だが人気は遠くとも、ざわめきのような喧騒は止らない…水の中にいても同じこと、更にはゴミが流れてきたり、ビーチボールが飛んできたり…その様は彼の怒りを誘った。
非常に、腹立たしい。
そうして思いついたことは、遊泳客を驚かして暇潰しをしようというものであった。
上手くすれば、鮫の出る海として遊泳禁止になるやも知れぬ。
そう考えれば躊躇うことは無い、鮫の形態のまま浅瀬へと近づくと、彼は一人の女に狙いを定めた。
銀色の長い髪を背中の中ほどまで伸ばした、黒い水着の女。
濃い緑のサングラスから覗く瞳は黒…派手な女だ。
連れは小学生と高校生ぐらいか、どちらも連れとは思えない全く違うタイプ…つるぺた好きにはたまらない幼児体型のガキと白いワンピースの水着の清純派で。
だからその異様さが尚のこと目に止まったのかもしれない。
深青顎…否、ザ・シャークはゆっくりと、深いところへと足を進めてくる彼女の様子を伺った。
連れを幾分離れたところを狙って、彼は行動を開始した。
ゆっくりだったスピードを急に上げる…狙うは脇腹、その柔肉を抉ってやろうと思った。
だがその牙は彼女の肉には届かなかった。
「危ないっ!」
連れらしき女の片方が悲鳴のように高い声を上げたのだ。
「!?」
それを聞いた銀髪の女は身体を捻り、それによってその脇腹に風穴を開けるはずだった牙はその薄皮一枚…水着を引っかけただけで終わってしまった。
「くっ!」
勢いがあったせいで派手に破ける水着、その身体に鮫肌がぶつかってその勢いに女がよろめいた。
そうしてザ・シャークの目には、それまであまりに目にしたことのない…水の中でも良く見える彼の目だからこそ鮮明に…白いものが目に入った。
柔らかな曲線を描く乳房、腰のライン…薄い水着1枚で覆われた身体のラインを想像することは簡単ではあった…だが生身となれば、また違う。
男のものに比べれば圧倒的に違うその色の白さ触れた柔らかな、だが弾力のある感触。
目に焼きついた光景と、その感触は…遺伝子改造人間というその生い立ち上あまり免疫が無かったのか…彼の頭に血を上らせるのには充分なものであった。
『ぶはっ!』
上った血は、勢い良く鼻から迸った…つまりは水の中で派手に鼻時を吹いた。
慌てて鮫人の姿に変わって鼻を押さえようとするが止らない…溢れた血はあたりを赤く染めた。
『…………』
思わず、凝視してしまっていた。
「きゃああーッ!」
連れらしき女の悲鳴が上がる。
傍から見れば、銀髪の女が鮫に襲われて血を流したように見えたのだろう。
その声に我に返った・シャークは慌てて反転して出来うる限り最速でその場を離れた。
「………」
人の滅多に訪れない深い場所に移動して、ザ・シャークは手頃な岩場を見つけて無言で水の上に這い上がった。
水の中ではいつまで立っても血が止らない…量はもうそれほどでもなかったが。
しばらくすると渇いてきたのか血は止って、男は海水で残った血を流すと溜息を一つ。
岩場の上で当方に暮れたように頭を垂れて低く呟いた。
「…柔らかかった」
彼がこれからどこに行くのかは、不明。
END
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
3356/シオン・レ・ハイ/男性/42歳/びんぼーにん(食住)+α
1963/ラクス・コスミオン/女性/240歳/スフィンクス
1431/如月・縁樹/女性/19歳/旅人
2320/鈴森・鎮/男性/497歳/鎌鼬参番手
0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2868/本谷・マキ/女性/22歳/ロックバンド
2866/村沢・真黒/女性/22歳/ロックバンド
3745/ザ・シャーク/男性/29歳/テクニカルインターフェイス社破壊工作員
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■ ライター通信 ■
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朝晩はもう冷えますが、少しでも海を楽しんでいただけていれば幸いです。
鼻血を拭くということで、免疫のない人にさせて頂きました。
幾つかのパートに分かれており、ザ・シャークさんのみプレイングの関係から個別とさせて頂いたためその分短くなっております。
海に遊びに来た組みの視点バージョンは襲われた方々の物をご覧ください(笑。
それでは機会がありましたらまた…。
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