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<東京怪談・PCゲームノベル>


文月堂奇譚 〜古書探し〜

綾和泉汐耶編


「まさかここまでみつから無いとは思わなかったわ……。」

 夏も終わり秋風も吹き始めたとはいえ、まだ残暑の残る日差しの中、秋物のジャケットを羽織った綾和泉汐耶(あやいずみ・せきや)アスファルトとビルの谷間をゆっくり歩いていた。

 汐耶は目に入ってきた本屋、古本屋をしらみつぶしに入って、とある本を探していた。
その探している本は発行部数も少ない上、自費出版に近いという非常に見つかり難い種類の本だった為に見つけるのを非常に困難を極めていた。

 そして歩きながら、汐耶は自分の勤める図書館での出来事を思い出していた。
それはとある病気がちな高校生の少女が自分の所に相談に来たことであった。
その少女は以前病院に入院する前にお気に入りだった本がどうしても再び読んでみたくなり、病院を抜け出して図書館にやってきていた。
だがその本は図書館で検索をかけたが、見つからず汐耶は少女に探してみる約束をして休日の書店めぐりの間にその約束の本も一緒に探していたのだった。

「あれ?こんな通りあったかしら?」

 汐耶は自分が知らない内に、自分の知らない裏通りに入ってしまっている事に気がついた。
そしてその通りを歩いていると『古書店 文月堂』と書いてある看板が目に入ってきた。

「あら?こんな所に古本屋なんてあったのね…。
全然知らなかったわ、ひょっとしてここならあるかもしれないわね。」

 汐耶はそう言ってその小さな古い古本屋の暖簾をくぐっていった。

 店の中に入った汐耶を待っていたのは、汐耶のよく知る少女であった。

「いらっしゃいませ……、あれ?汐耶さんじゃないですか。
どうしたんですか?ひょっとして私に会いに来た、とかじゃないですよね?」

 店の中で汐耶の事を出迎えたのは佐伯紗霧(さえき・さぎり)という、以前汐耶が救った事のある少女だった。
エプロンをして店番をしている紗霧の姿に汐耶は驚いた様に話しかける。

「あら?キミは紗霧ちゃん?
お久しぶり、ここのお店は紗霧ちゃんのお店なの?」
「いえ、そのおねえちゃんの親戚の家のお店で、今ここの二階にお姉ちゃんと一緒に住まわせて貰っているんです。
そのお礼としてこうやってたまにお店のお手伝いをしているんですよ。」

 嬉しそうにそう笑顔で話す紗霧をみて汐耶も思わず笑みがこぼれる。

「今日ここに来たのは単なる偶然なのよ。
ちょっと探している本があって、来た事の無いお店だったからここにならあるかな?と思って、ね。」
「そうなんですか、それでどういう本を探しているんですか?」
「絵本なんだけど、なかなか見つからなくてね。」
「絵本、ですか……、沢山あるので、ひょっとしたらあるかもしれないですね。
確かそこの奥の棚の辺りに確かあったと思うんです。」

 紗霧が指差した棚の辺りを汐耶はゆっくりと見渡す。

「この辺、かしら?それにしてもすごい数の本ね、ちょっと探すのが大変そう…。」
「そうですね、たくさんありますから…。
あ、外とか暑かったと思うので何か飲み物でも持ってきますね、その間に探していてください。」

 紗霧はそう言って、奥に戻って行く。
しばらく汐耶はその絵本の棚の辺りを探していたが、しばらくして諦めたように吐息を漏らす。
そこへ詰めたい飲み物を持って紗霧が戻ってくる。

「その様子だと見つからなかったんですね……。
あ、冷たい飲み物もって来たんで一緒にのみませんか?気分転換すればあっさり見つかるかもしれないし。」
「そうね、紗霧ちゃんの言う通りかもしれないわね、それじゃお言葉に甘えてちょっと休ませてもらおうかしら。」

 汐耶は紗霧からコップを受け取りカウンターの近くに椅子に座る。
紗霧の以前会った時よりも格段に元気そうな姿をみて、汐耶は嬉しい気持ちになる。
そんな汐耶の気持ちを知ってか知らずか、紗霧はうれしそうに汐耶に話しかける。

「私、汐耶さんが来てくれてすごく嬉しいんですよ。
以前助けていただいた御礼もちゃんとしたかったし、汐耶さんってその…すごく綺麗でなんかすごく憧れちゃうなって思ってて……。」
「そう?ありがとう、嬉しいわ。」
「図書館に勤めてるって聞いたから本が好きなんだな、って思っていつかここにいればまた会えるんじゃないかな?って思っていたんですよ。」
「私に?私に会っても楽しい事なんて無いんじゃない?」
「そんな事無いですよ、汐耶さんと話せるのってすごく嬉しいんですよ。」

 コップに注がれたアイスコーヒーを飲みながら、そんな紗霧の事を汐耶はどこか眩しそうに見る。

「そういえば絵本を探しているって言ってましたけど、どういう本なんですか?
私も探すお手伝いができるかもしれないですし。良ければ教えてもらえませんか?」

 そう言って紗霧は自分の持っていたコップをおいて身を乗り出す。

「ああ、そうね。
それじゃ手伝って貰おうかしら、これだけ本があると一人で探すのも大変だから。」

 本といつも付き合っている為、探す作業というのは他人よりもかなり上手なため、別に手伝ってもらわなくてもなんとかなる筈だったが、紗霧のその気持ちが嬉しかった為に汐耶は探している本の事を紗霧に話し始める。
話を聞いている内に紗霧の顔がだんだんと不思議な表情を浮かべていった。

「汐耶さん、ひょっとしてその本ってこの本じゃないですか?」

そう言ってカウンターの下から紗霧が出してきたのは、汐耶が探していた絵本そのものであった。

「え?この本だわ、でもどうして…?」
「えっと…実は……、ついさっきまで私が読んでいたんです。
なんだか素敵な話だなって、前に絵本のところで見つけてどうしても欲しくて、おばさんに頼んで譲ってもらったんです。」
「そう…、それじゃこれは売り物じゃないのね。」

 少し落胆の色を汐耶が見せると紗霧は慌てる。

「あ、そうじゃなくて、汐耶さんに差し上げます。
私は何回も何回も穴が開くほど見れたので、是非その人に渡してあげてください。
私も汐耶さんい少しでも恩返しが出来て嬉しいので。」

 そう言って汐耶にその絵本を紗霧は渡す。
その本を受け取ってしばらく考え込んでいた汐耶だったが、何か思いついた様にその本を鞄にしまう。

「ありがとう、それじゃお言葉に甘えてこの本はいただいて行くわね。
でもそれだけじゃ紗霧ちゃんに悪いから今度代りに私のお勧めの本を紗霧ちゃんにあげるわね。」
「あ、そんなお礼なんて……。」
「良いの、紗霧ちゃんにとってもこれはお気に入りの本だったんだから、ね?」

 そう言って断ろうとする紗霧を制して汐耶はそう言うとそっと席を立つ。

「それじゃ私はこの本を早速渡しに行って来るわね、珈琲美味しかったわ、ありがとう。」

 汐耶は文月堂から外に向かって歩き出す。
そしてそのままこの本を欲しがっていた少女のいる病院へと歩を進める。

 そして病院へついた汐耶は、少女のいる病室へと向かう。
少女の病室のの扉を開け中に入ると鞄からそっと絵本を取り出す。

「こんにちわ、約束していた本持ってきたわよ。
貸し出し期間はあなたが返したいと思った時まで、ね。」

 そう言って差し出された本を少女は満面の笑顔を汐耶に向けて受け取る。
そして少女は汐耶に向かって話しかける。
ありがとう、お姉さん、と……。

Fin


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ 綾和泉・汐耶
整理番号:1449 性別:女 年齢:23
職業:都立図書館司書


≪NPC≫
■ 佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋


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■         ライター通信          ■
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 どうも初めまして、新人ライターの藤杜錬です。
この度は『文月堂奇譚 〜古書探し〜』にご参加頂きありがとうございます。
汐耶さんを再び描く事が出来てとても嬉しかったです。
暑さもだんだん一段落してきましたが、身体など壊されぬようお気をつけくださいね。
それではご参加ありがとうございました。

2004.09.12
Written by Ren Fujimori