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<幻影学園奇譚・学園ノベル>


学園生活をエンジョイできるのか?


 ――プロローグ

 実はこの学校には、ラジオ体操同好会というものがある。
 今年できたばかりの同好会で、会長は赤毛の少年がやっている。彼は一年生だった。
 表向きは圭という名前を名乗っているが、彼には違う名前がある。そう、怪盗ダウトだ。彼が活躍する場所は学園ではない。が――何の因果か学校へ通っているわけだから、そこで悪さをしない彼でもない。
 そういうわけで、ラジオ体操同好会とは世を忍ぶ仮の姿。その全貌は怪盗トリッキーズのアジトなのである。

 「トリッキーズって知ってるか」
 生徒指導の教師が、二人の男子生徒に話しをしている。一人は金髪を立てた単ランの草間・武彦。もう一人は職員室に来てまでやる気のなさそうな深町・加門だ。
「はあ?」
「知りません」
 草間が驚いた顔で加門を見る。加門はその顔に、驚いたような顔をする。
「知らねえの?」
「へ? なに有名なのか、それ」
 続けて「美味いのか」と言い出しそうな加門を放り出して、草間は生徒指導の教師へ視線を戻した。
「実はうちの学校でも犯行声明が出てなあ、モニュメントの腕がもがれたりしただろう。あれがそうだったって言うんだ」
「それで、俺達に何の用っすか」
「また次の予告が出てるんだ。まさか教師がイタズラに付き合うわけにもいかない。お前等ともかく運動神経だけはいいんだ。どうにかできるだろう」
 草間は眉を上げた。
「そんな無茶苦茶な」
「明日から購買の三十個限定のヤキソバパン、二つ融通してやるからな」
 そんな無茶……と草間が言いかけたとき、深町・加門が言った。
「先生、四つ」
「乗るな、お前も」
 加門につい手をあげて突っ込もうとすると、彼はひょいとそれを避けた。
「寝太郎……」
 加門は教師の手元から予告状を取り上げて読んでいる。

 『リコーダー、学校で一番偉いもの いただきに参上します 怪盗トリッキーズ』

「トリッキーズもよっぽど暇なんだな」
 草間と加門の声がはもった。

「俺達も大概暇だな」
「暇なんだからしょーがねえだろうが」
 ラジオ体操同好会の部室にて、ダウトとベーがこんな会話をしたのも無理はない。
 何が悲しくて学校からアホなものを盗んでいるやら、本人達にも自覚がないのだ。人生は一応お約束の為にある筈だ。とダウトは疑わない。 
 
 ――エピソード
 
 
 ふわぁ、と大きな欠伸と共に深町・加門は校門に現れた。
 いつもより二十分ほど早い登場である。神宮寺・夕日は加門の姿に、びっくりし過ぎて挨拶さえかけそびれた。
 校門より五メートル離れた木の陰に隠れている委員長ことCASLL・TOは、ツカツカと歩いてきた。
 加門がCASLLの方を見て立ち止まる。それからスローペースで
「おは」
 と言いかけたところへ、CASLLはおもむろにジェルを胸ポケットから取り出して、天然パーマなのか寝癖なのかわからないほどグチャグチャの加門の頭を撫でつけはじめた。
「い、委員長、なにをやって」
 顔が怖いという理由でCASLLに近寄れない夕日が遠くからCASLLに訊く。
「私は常々、加門さんの髪型は実は校則違反なのではと疑っていたのです」
「はあ?」
 夕日が疑問符を浮かべる。
 加門はされるがままになっているが、実のところただ眠たくて反応ができないように見える。
 CASLLは櫛を取り出し加門の髪を丁寧にといて、素晴らしいまでにさらさらにした後、きっちり七三に分けてセットを完了した。
「ぶ……」
 夕日がつい笑う。
 CASLLは加門のシャツのボタンを第一ボタンまでさくさく閉め、それから校則違反の棒タイに眉を上げてから、仕方がないといった風にそのネクタイも締め上げた。加門が首に手を当てて「ぐ、ぐるじい」とかすかに抵抗を示す。
「委員長、それ以上やると寝太郎が死んじゃいます」
「しゃきっとして! はいよし」
 CASLLは加門の背を叩き彼がまっすぐ背を伸ばして歩き出したのを見送ってから、また木の陰に隠れた。
 加門が弄られている間に、校則違反バリバリの草間・武彦が通って行ったことに、風紀委員は誰も気付かなかったようだった。

 校舎の横を進んでいると、ざわざわと騒がしい。校庭には人がいない。上を見上げてみると、屋上に人が殺到していた。何事だろうと、加門は頭をかいた。髪に指がひっかからない。なんだか変な感じだ。
 下駄箱で草間・武彦に出会った。
「よお」
「おお」
 二人ともさほど仲がいいわけでもなく、一日ほとんど口を利かないことだってある。しかし、その……トリッキーズのせいでそういうわけにもいかないようだ。
「トリッキーズだってよ」
 草間が言った。彼はガムを噛んでいる。
「へえ? 屋上に」
「いや、校庭」
「なんだそれ、ガムくれ」
「屋上へ行くと絵が見られるんだと」
 草間がポケットからチューインガムを取り出して加門に渡した。二人とも上履きの踵を踏みつけたまま、ゆっくりと階段をのぼって行く。
「昨日の美術の課題やったか」
「なにそれ」
 草間が言うと、加門はガムを口に放り投げながら答えた。
「お前、あれ今日提出だぞ、やばくねえ?」
「やばいの?」
 草間には、シュライン・エマという単位管理の素晴らしい進級推進係がいるが、加門にはいないのだ。草間より加門の進級を心配した方がいいかもしれない。
「トリッキーズとか捕まえてる場合じゃねえだろ」
「マジ? つかでもヤキソバパンだしなあ」
 屋上まで階段をのぼると、上にはシュライン・エマがいた。
「おはよう、チョコ」
「おーす」
「はよう」
「おはよう、寝太郎くん」
 シュラインは草間と加門を引っぱって金網まで連れて行った。するとそこからは、とってもリアルに描かれているドラえもんが見えた。石灰で描いたのだろう。ついでに、トリッキーズとも書かれていた。
「本気でしょ、トリッキーズ」
 シュラインは髪をはらいながら言う。だが――二人は真面目に受け取らなかった。
「……ぶ、つーかよ、これ見てどこらへんがマジなんだよ、エマ」
「巧いもんだなあ」
 二人の反応を見て、シュラインは二人の耳を引っぱった。
「トリッキーズはいるんでしょ、で、やる気なわけ。わかる? やる気なんだから、捕まえなくちゃなわけ」
 そこへ屋上へ新たな情報が入ってきた。
「体育館が大変なことになってるらしいぞ」
 ピクリ、屋上の面々は顔を見合わせて出入り口に殺到した。草間と加門そしてシュラインも、目を瞬かせて顔を見合う。
「なにかしら……今度は」
 体育館へ向かった三人は、溢れている人をかき分けて体育館の入り口までなんとか入り、そして目を疑う物を見た。
 そこにはタマゴがずらーっと並んでいたのである。
「な、……なにこれ」
 シュラインは屈んで手近なタマゴを摘んでみた。どうやら、直接体育館に接着剤でくっつけてあるらしい。
「くっついてるわ。接着剤でくっつけていったわけね……イタズラにしては、バカみたいに手がこんでる」
 草間と加門は声もない様子で、どう受け取っていいのか悩んでいる。
 シュラインは顎に手を当てて、制服のスカートを片手で掴んだまま言った。
「問題を一つあげるとするならば」
「……するならば?」
 草間が聞き返す。
「うちの担任の性格上、保護者会の椅子出しとか、学園祭の後片付けとか、無駄に引き受ける性質があるから、ここの後片付け頼まれないといいわね」
「それは……最悪だ」
 言ったのは加門で、草間はその時点でその時間をサボろうと決めているようだった。
 シュラインが草間のタンランの裾を持って言う。
「逃がさないわよ、単位そうじゃなくても危ういんだから」
 草間はぷーっと風船ガムを膨らませた。
 
 
 一時限目、2年A組、掃除。
 掃除へ行く前に、シュラインは自分のリコーダーがあるかどうか確かめてみた。すると、そこにリコーダーはなく、あったのはちくわであった。
「……チョコ」
 相変わらず似合わないジャージ姿で、サボることもできない草間が気だるくシュラインを見る。シュラインがちくわを持っていることから、目をしばたかせてそれを見て
「どうしたんだ、それ」
 そう訊いた。
「チョコもリコーダー見てみてよ」
「リコーダー?」
 草間はだらだらとロッカーまで歩いて行って、中に入っているリコーダーを取り出した。袋を開けてみると、中身はちくわである。
「ちくわ?」
「本当にリコーダーが盗まれたわ……」
「げ。まずい、寝太郎おい、テメー掃除さぼって寝てんじゃねえ」
 教室へ引き返して加門の頭を叩く。
 風紀委員の仕事を終えて帰って来た神宮時・夕日に、シュラインは声をかけた。
「夕日ちゃん、ちょっとリコーダー見てみて」
「え? リコーダーって縦笛の?」
 夕日は机の中を探ってリコーダーの袋を取り出し、中からちくわを出した。
「はい?」
「リコーダーがちくわになるなんて、いいじゃねえか、食えるし」
 加門はふわぁと大欠伸をして立ち上がった。彼は面倒なのかジャージに着替えていない。
「寝太郎くん、着替えないと生タマゴまみれよ、制服が」
 シュラインのするどい突っ込みに、加門は自分の格好を見た。それから渋々ジャージを取り出す。
 夕日は加門の隣でブラウスの上からジャージを着て、スカートの下にジャージを穿いた。加門はダラダラとネクタイを外している。
「次の予告は? ってか、地上絵もタマゴも予告なしだったじゃねえか」
 加門がワイシャツのボタンを外しながら言うと、シュラインは廊下から答えた。
「特に意味なんかないのよ、目立ちたいんでしょう。要するに」
 それから草間と夕日と連れ立って
「先に行くわよ」
 そう言って去って行った。
 加門はそのまま席に座り、二時間寝ることにした。
 
 
 二時限目、三年C組、数学。
 シオン・レ・ハイはふにゃあと悲鳴をあげていた。
「眠たいです、ベーさん」
「……そういうときはだ、鼻の両穴に鉛筆を突っ込んでおくといい」
 シオンは言われたとおりにしてみた。しかし、眠気が遠のく気配はない。後ろのCASLL・TOに声をかけられたので、そのまま振り向くと、CASLLは真顔で言った。
「大丈夫か」
「ねむたいのれーす」
「そういうときは」
 CASLLが鞄を明後日メンタムを取り出した。鼻の鉛筆に突っ込むことなく、手渡して力強く言う。
「瞼に塗るといい」
「ありがとうございます」
 シオンはCASLLから受け取ったメンタムを瞼の上に嫌というほど塗りつけた。やがてそこはひりひりと冷たくなる……そして、目を開けていられなくなった。
「ひぃ、無茶苦茶です」
 眠れないが起きていられている状態でもない。
 鼻に鉛筆を挿しているのを忘れてうつ伏せたら、ガツンと鉛筆と机が当たって鼻の奥へ鉛筆が入った。激痛が走って慌てて鉛筆をとると、ダバーっと鼻血が流れてくる。
「はなぢですよー!」
 前の席のベーが空の弁当箱をシオンの机に置いた後、目を瞬かせてのんびり言う。
「お前大丈夫か」
「はなぢ……」
 後ろの席のCASLLが気付いてティッシュペーパーをくれたので、大惨事は食い止められた。とはいえ、シオンの机の上はすっかり血びたしだったが。
「ああ、血が出すぎて私の命はもう長くはないかもしれません」
 まっ白に燃え尽きてシオンが言うと、CASLLが大丈夫か! と身体を揺すった。近くで見る相変わらず怖い形相に、一瞬昇天しそうになってしまう。
「死ぬ前に、デコレーションポッキーが食べたか……」
 がくっと身体の力を抜いて、机に伏せると数学の教師がやってきて、ベーとシオンとCASLLの頭をパンパンパンと叩き、「廊下に立ってろ」と非情な言葉を言った。


 休み時間、廊下。 
「どうやって探すよ」
「どうして運動神経がいいとトリッキーズが捕まえられるってことになるんだ?」
 草間・武彦と深町・加門はジャージ姿とシャツの制服姿で廊下を爆走していた。走るだけなら誰にでもできるわけだが、なにもわからぬトリッキーズを見つけるのは至難の技だ。というより、はっきり言って見当もつかない。
 そんなところへ、黒・冥月がほくほくと嬉しそうな様子で廊下を歩いてきた。
「あ、運動神経いい奴めっけ」
 加門が冥月を指して言う。冥月は二人に出会ったのが相当嫌だったらしく、眉間にシワを寄せて回れ右をした。加門と草間は彼女の後ろで急停止し、彼女を振り向かせる。
「トリッキーズがリコーダー盗んだの知ってるか」
「そりゃ……知っているが」
「探してくれ」
 途方もないことを言う草間に、冥月は頭をトントン叩いてから言った。
「報酬は、メロンパンだ」
「先生に言っておく。じゃあな、俺達は怪しげな奴を追う」
 そう言って草間と加門はまた走って去って行った。
 
 冥月は「はあ」と一つだけ溜め息をつき、影を手繰っていって校長室へ出た。驚いて辺りを見回し、クローゼットの中を見る。クローゼットの中には大きな袋があり、その中に大量のリコーダーが入っていた。
 リコーダー回収終了。
 一応任務完了だった。
 トリッキーズ捕獲に自分が打って出るまでもなかろう、と冥月は考えていた。あちらもゲームでやっているわけで、こちらもゲームなわけだから、冥月のような能力者が参加するのはアンフェアーのような気がする。学校とは無駄なことが大切な場所なのだから、イタズラ者を捕らえて面白い場所でもない。
 冥月はそう考えて校長室を出た。大量のリコーダーは一応草間達に渡しておこう。


 三時限目、三年C組、家庭科。
 ミシンを使っているCASLLの後ろからシオンがぶつかったので、CASLLの指は見事に作っていたエプロンに縫い付けられた。
「……シオン」
 エプロンを指に縫いつけたまま、さすがのCASLLも怒って立ち上がる。シオンはきゃあっとベーの後ろへ飛び込んだが、べーもひょいとそれを避けてシオンは独りぼっちでCASLLと対峙することになった。
 今日のCASLLは学生書を落とすわトリッキーズが風紀を乱すわ、手にエプロンを縫い付けるわ散々なのである。
 CASLLはてりゃあとシオンの片腕を持って、十文字型めを決めた。
「ロープロープ!」
 はんぎゃー! とシオンは本当に辛そうである。
 ベーはそれをからから笑ってみていた。
 が、やはり最終的に家庭科の教師が三人を廊下に立たせた。オチはいつも同じだ。
 
 
 休み時間、職員室。
 深町・加門は、トリッキーズを探す秘策が特にあるわけでもないにも関わらず、ヤキソバパンの前払いをしてもらおうと職員室に来ていた。教師も頼んだ手前もあったのか、二つ分のヤキソバパンを与えてくれるように、適当に書いたメモを加門に持たせてくれた。
 職員室の前で呆れ顔のシュラインと夕日それから草間と合流し、購買部へ向かう。その道すがら、生徒が叫んでいるのを聞いた。
「ヤキソバパンが全部盗まれたぞー!」
 草間と加門の間の空気が沈黙する。
 それから二人はゆっくりと目を合わせて
「な、なんだと」
 小さな声で言った。
 二人はシュラインと夕日のことなど気にも留めず、猛烈な勢いで走り出した。そして購買部まで行くと、おばちゃんを相手に血走った目で訊く。
「ヤキソバパンは無事か」
「いやぁね、その怪盗なんちゃらがね」
「盗まれたのか!」
 怒りのあまり二人はその場で、メロンパン五個ずつとクリームパンを五個ずつもらい、教師のメモを渡して去ろうとした。
「ありえねえ、ヤキソバパン以外のパンなら五つずつで当然だ」
「そうだそうだ」
 そこへ生徒指導の教師がシュライン達を追い抜いてやってきて怒鳴った。
「お前等!」
 二人は十個ずつのパンを持って教師を睨んだ。
「それはただの万引きだぞ」
「ヤキソバパン二個に相当するパンはこれぐらいやらないと……」
 加門が言う前に、教師は二人の生徒の頭をゲンコツで殴ってパンを取り上げ、首根っこを捕まえて職員室へ連れ帰っていった。
 シュラインが後ろで一言
「バカね……」
「バカばっかり」
 夕日も同意する。
 シュラインはぼんやりと一時間前を思い起こして夕日に言った。
「そういえば、この前の休み時間、屋上鍵が閉まってたのよね」
「あら……どうしてかしら」
 二人はうーんと悩んでから、諦めてバカ二人を迎えに行くことにした。
 
 
 昼休み、いつもの場所。
 シュライン・エマはお弁当を広げていた。隣には草間・武彦が座っている。
 草間は先生から許可が降りた四つのパンを持っていた。メロンパン二つにクリームパン二つ。シュラインはぼんやりとつぶやく。
「要するに、目立ちだがりやなのよね」
「ちくしょう、ヤキソバパンが」
「つまり、放っておくのが一番だと思うの。ヤキソバパンはちょっとやりすぎだとは思うんだけど……て聞いてる?」
「俺は別にヤキソバパンが惜しいんじゃねえ、ただ腹が立つだけだ」
「……嘘ばっかり」
 草間の顔にはヤキソバパンの恨みと書いてある。
 シュラインの弁当箱の半分は草間の分だった。だからシュラインも、自分には少し大きな弁当箱を使っている。
 タマゴ焼きを口に放り込みながら、草間はブツブツ言っていた。
「次学校集会でしょ」
「ああ、めんどくせえ」
「たぶんね、大きなことやると思うわよ、トリッキーズ」
 草間はメロンパンをもごもごさせながら、黒髪のシュラインを横目にする。シュラインは目を伏せて考えながら言った。
「今日のメインイベントってわけ」


 昼休み、二年A組。
 CASLLと加門と夕日は、窓を開け放したままの教室でパンをかじっていた。夕日は弁当だった。
「トリッキーズをどうにかしなければ!」
「ヤキソバパンを取り返さなくては!」
 加門とCASLLの会話は微妙に噛み合わない。が、本人達はあまり気にしていないので、いいということにする。
「でも次学校集会よ、何かするかしら」
「しますね。私は、校舎を回ってサークル棟も回ってみます」
 CASLLが言う。加門はうーんとうなってから、
「俺はなんか適当に」
「適当ではだめです! きっと私の学生証もトリッキーズの手にあるに違いない」
「……そうかなあ」
 夕日の突っ込み空しく、CASLLは熱く燃えていた。
「加門さん、さあご一緒に見回りに行きましょう」
「げ、なんで俺……」
 朝直した筈の髪がまたもとのグシャグシャに戻っているのを見て、CASLLはまたも加門の頭をスタイリングし直して、加門を引きずって去って行った。
「あの、今、ナチュラルに私のこと完全無視?」
 軽くショックを受けながら、夕日は二人を追いかけた。
 
 
 五時限目、学校集会。
 校長の言葉を待たずして、草間、加門、CASLLは動いていた。全員前傾姿勢で、やる気満々である。あちこちに視線を投げ、そして最初にCASLLが気が付いた。
「屋上に影が!」
 そうなったら三人とも全力疾走である。加門、草間、CASLLと土足のまま校舎へ入り階段を猛スピードでのぼっていく。

 シュラインと夕日は、釣り糸が降りてきて絶妙な釣り針使いで校長のカツラが引きはがされるのを見ていた。それはもう見事としか言いようがなかった。トリッキーズ、どうしてそんな無駄なところが器用なのだろう。
 つい考えてしまってから、三人の後を追おうと夕日とシュラインは列から飛び出した。屋上まで一気に駆け上がると、ヨーヨーが投げつけられる。ヨーヨーはうまく割れて、強烈な匂いの液体を振りまいた。
 CASLLは匂いに負けてその場に倒れた。
 草間はおそらく首謀者であろう黒い布で目以外を隠している男に組み付いた。しかし男はその腕をするりと抜けて、軽く草間を蹴ってみせる。
 草間にネバネバの何かがくっついた。見ると、鉄砲を持った男が立っている。
「アホ、俺にまで当たるわ」
 草間と組み合っていた男が言い、それに次いで金網の上に乗っている男が叫んだ。
「いいぞ」
 その瞬間草間と組み合っていた男は草間に釣竿を投げつけた。全員が金網にのぼり、何もない空中へ身を投げていく。……と思ったら、ワイヤーが張ってあり購買部の屋根に飛び移れる寸法だった。
「ちっ」
 加門がCASLLを起こし校舎を駆け下りて行った。
 夕日がこんなこともあろうかと、と草間にペンチを渡す。
「だって目立つといったら屋上でしょ、屋上から逃げるって行ったら空を飛ぶかワイヤーよ」
 夕日の機転のせいで、ワイヤーは途中で切られ、一人かなりの高さから落ちて行った。
 
 CASLLは加門から学生証を受け取った。
「どこにあったんですか」
「さっきの、屋上」
「ああ、じゃあ朝落としたのかもしれません」
 二人は駆けている。校舎を抜けて購買部へ向かう途中、全校生徒がそちらへ向かっているのを見て尻込みをしていると、道にまた一つ学生証が落ちているのをみつけた。
「シオンの学生証ですね」
 CASLLは加門の手からそれを受け取る。その瞬間、前の生徒をかき分けてシオンが自転車に乗って突っ込んできた。
 うわぁ! と加門が避ける。
「トリッキーズを追おうと思ったんですがあ」
 そう言いながら、シオンはCASLLに突っ込んだ。
 加門が校舎を見上げると、『トリッキーズ見参』と書かれた大きな垂れ幕が校舎に下がっていた。


 ――エピローグ
 
 ヅラのかぶった女神像の下で、草間と加門、シュラインと夕日と冥月はヅラを見上げていた。
 CASLLは現在保健室で治療中である。大した怪我でなければよいが……と思う。
「実は捕まえようと思えば捕まえられたのだが」
 冥月が神妙な顔で言った。
「は? マジか」
「ああ。だが、捕まえたらまずいだろう」
「なにが」
「生徒だったりしてみろ。退学処分になるかもしれないじゃないか」
 シュラインは腕組をしてうんとうなずく。
「それはそうかもしれないわね」
「でも悪いことしてるのよ、捕まっても仕方ないじゃない」
 夕日が口を尖らせる。
「たかがイタズラもあの規模になれば、停学退学処分になってしまう。私はあまりよく思えなくてな」
「……まあ、そうかもしれないけど」
 加門はイライラと女神像を蹴って、足を打撲し抱えながら言った。
「くそ、絶対次は関わらねえぞ!」
「それが一番だ、リコーダーは返ってきたしな」
 草間が不思議そうに訊く。
「どうやって見つけたんだ?」
 冥月は答えず、微笑をして校舎へ歩き出した。
 
 
 ――end
 

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女子/2−A】
【2164/三春・風太(みはる・ふうた)/男子/1−C】
【2778/黒・冥月(ヘイ・ミンフェ)/女子/1−A】
【3356/シオン・レ・ハイ/男子/3−C】
【3359/リオン・ベルティーニ/2−C】
【3453/CASLL・TO(キャッスル・テイオウ)/男子/3−C】
【3586/神宮寺・夕日(じんぐうじ・ゆうひ)/女子/2−A】
【3806/久良木・アゲハ(くらき・あげは)女子/1−C】

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■         ライター通信          ■
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「学園生活をエンジョイできるのか?」にご参加くださいまして、ありがとうございます。
ライターの文ふやかです。
今回はトリッキーズを微妙に追いかける形になってしまいました。もっと派手な動きがあればよかったのですが。全くありませんでした。プレイング軽視(私ではお約束のようになってしまっていて申し訳ありません)がありましたことを深くお詫びいたします。
少しでもお気に召せば幸いです。
またお会いできることを祈っております。

文ふやか