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<東京怪談ノベル(シングル)>


 ある日の魔法薬屋さん。

「あ、在庫がない」
 シリューナは短く呟いた。
 品物の在庫を確かめていたら在庫が少なくなっている事に気がついた。
 品物がないと商売にならないため、シリューナは魔法薬を作る事にした。
「足りないのは…治癒薬か…」
 何が足りないのかを確認したあとに魔法薬精製を行う部屋へと移動をする。部屋へと異動したあとは慣れた手つきで治癒薬を精製していく。
「完成するまでに時間がかかるわね」
 どうやって時間を潰そうかと思案している時に弟子達の名前を書いた紙が目に入る。
「そうだ。弟子達にどの魔法を教えるか考えておこうか」
 シリューナは数多くの魔法を取得しているが得意なのはやはり治癒魔法だろうか。治癒魔法だったら覚えていて得をすることはあっても損をすることはまずない。
「治癒魔法を教えようか」
 シリューナは空間を操る魔法も扱えるが、これを使うと凄く疲れるし、教えるのも大変だからとりあえず、忘れよう。
ギィと椅子に腰掛け「ふむ」と手を口のところに当てて考え始める。
「そうだな。最初は簡単な治癒魔法から教えていくか。しかし…役に立つと言えば…」
 石化の魔法を教えても問題ないだろうか。いざ、と言う時に役に立つかもしれないし。
「…いや、その前に」
 何かを覚えるには身体で体験するのが一番かもしれない。そうなると弟子達に呪術の魔法を使っても良いと言う事になる。
 何かを教えると言う事は楽しくしなければいけない。そうなると、まずは自分が楽しい呪術を使わねばいけないと言う事になる。
「そうだな、やはり楽しいのは治癒魔法よりも呪術関係だな」
 そう言ってシリューナは呪術関係の事がびっしりと書かれている本を取り出した。
「まずは動物に変える変化の魔法だな、これはまず弟子が部屋に入ってきたらすぐにかけて…反応を見るのも面白いな。次にそのまま石化などの拘束魔法で動けないようにして、別な呪術を試すのも悪くはない」
 シリューナはよほど楽しいのか「フフフ…」と不敵な笑みを浮かべながら今だ想像(妄想)の中にいる。
「そうだ、最初に私がした事がバレたらいけないから視力を落とす魔法をかけないといけないな」
 別にバレてもいいのだが、展開的にバレない方が面白そうだとシリューナは考えていた。
 その石化させたものをどこかに置いておくのもインテリアとしてはいいだろうか。ちょうど部屋の中に飾るものが欲しかったのだから。
「いや、飾るとなったら動物では味気ないな。何か別なものにしてしまおうか」
 うーん、と唸りながらシリューナは椅子から立ち上がりうろうろと部屋の中を歩き回る。

 こうなったら、何か可愛いものにしてしまおうか。
 いや、それよりもかっこいいものの方がいいだろうか。

「迷うなぁ…」
 今のシリューナには『弟子達に魔法を教える』ではなく、『弟子達に呪術を使って、いかに自分が楽しむか』に目的が変わってしまっている。
 だけど、今のシリューナには多分、誰かが言わない限り目的が変わっているなんて気づきはしないだろう。


「………あれ、師匠だよね…」
 部屋の扉の向こうでは、魔法の事を聞きに来た弟子の一人が自分に言い聞かせるようにして呟いていた。
 このまま聞かなかった振りをして部屋の中に入ってもいいのだが、その場合必ず犠牲になってしまうだろう。
 今のシリューナを止めるものは誰もいないのだから。


「あぁ…誰か来ないかしら」
 シリューナは何かを企んでいるような笑みを浮かべながら紙にびっしりと書かれたスケジュールを見ながらうっとりと呟く。
 そんなシリューナが扉の向こうにいる弟子に気がつくのはこれから数分後の事。
 そして、精製していたはずの治癒薬が使えないものになってしまっている事にシリューナが気がつくのは、これから一日後の事であった。


 ★END★