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ようこそ、幻想文学の世界へ
イマドキの祭囃子が遠い。遠くにある。ずっと遠くだ。
彼は――いや、彼女はぐっすり眠っているところだった。
図書室の机はいくつかが運び出されているか、隅に追いやられていて、パネル展示がなされている。図書委員会が企画した、これも出し物のひとつなのだ。テーマは『幻想文学の歴史 〜 勃興からライトノベルまで』。高校らしからぬ、そして外のイマドキの祭囃子などどこへやらといった、堅苦しくもあるテーマだ。そして展示物はといえば、9割方が文章なのであった。
図書委員の姿はない。実は当番をさぼって音楽祭を観に行ってしまったからなのだが、その真相を知る者はここにない。
イマドキの祭囃子は、体育館ステージから漏れてくる音楽祭の喧騒なのであった。歓声であり、ロックであり、ヘヴィ・メタルである。あるいは、ポップなチューンのアイドルソング。
図書室の静寂は、その喧騒から遠くにあってふさわしい。
本を枕にしている彼女が、むにゃむにゃと幸せそうに舌を動かした。眠っている猫のように。
その猫を、いや女子生徒を起こさないように足音をしのばせながら、おとなしげな女子生徒が本棚の群れに向かっていった。
「えっと……C棚C棚……」
探している本の在り処を忘れないように、もぐもぐと口の中で目標を唱えながら、彼女は本棚の林の中に入った。林の中にも小さな机があった。何の気なしにその机を見た彼女は、ひゃっ、と軽く飛び上がった。
「あら……」
この世のものとは思えないほど美しい女子生徒が席についていて、古びた『雨月物語』を読んでいたのである。
「お祭りなのに、こんな静かなところにご用?」
「あ、えっと、明日の出し物のことで……ちょっと調べたいことが……と、図書委員さんですか?」
「ちがうわ。私、咎狩殺。外がうるさいから、避難してきただけ。……あなたとは、どこかで会った?」
問われた女子は、心持ち強く首を振った。
それは、嘘のようで、真実だった。
「橘沙羅、です。初めてだと、思います」
「そう。……敬語なんか使わなくていいのに。それに、私、1年だし」
「あ、そうなん……ですか」
自分がひとつ上だと知っても、橘沙羅は、何故か敬語でことばを締めた。そうして、殺の暗くも妖しい視線から逃げるようにして、本棚の林の中に戻った。
本を枕にして眠っている女子生徒が、深い吐息をつきながら寝返りを打った。
殺が、ぴくりとその紅い目を図書室の出入り口に向ける――。
「――んの初めてかも――」
「――なの? てっきり、いつも昼寝に使ってるんじゃないかって――」
がらり、と戸が開けられた。
言葉を交わしながら図書室に入ってきたのは、人形のように美しい男子生徒と、あまり真面目そうではない男子生徒のふたりだった。どちらも、あまり図書室には似つかわしくない生徒だった。
「ほら見ろ。つまんねー出しモン」
「そういうこと言っちゃ失礼だよ。楽は何の出し物に関わってるの?」
「なーんにも」
「それじゃ、きみそのものがつまんないよね」
「おいこら!」
「ほら、たまには字を読まないと、そのうち何にも読めなくなるよ。最近のライトノベルは難しい漢字ばっかり使うか、ぜんぜん使ってないかのどっちかなんだから」
「じゃ、ぜんぜん使ってないほう読む」
「そしてさらにバカ……じゃなくて、読めなくなっていくわけだよね。なんてきみらしいんだろ」
「ひとを傷つける天才だな!」
「どうも」
「誉めてねぇ!」
「あら……急に、騒がしくなったのね」
『雨月物語』と骸のような人形を抱えて、本棚の間から、すうっと現れた影があった。
紅い目の少女だ。咎狩殺。
そして、いま、御子柴楽という友人をつれてやってきた美しい男子生徒は、蓮巳零樹。
本棚の間から、零樹の姿をみとめて、ほうと溜息をつく橘沙羅の姿もある。
窓辺には、相変わらず熟睡している、眼鏡の女子生徒。
「両手に華つうか、よりどりみどり?」
楽が、にやにやと顔を崩しながら呟いた。
しかし楽は、幻想文学にちっとも興味がなかったわけではないらしいのだ。誘った零樹についてきたのだから、それは確かなことだった。零樹も実を言えば、楽がついてくるとは思わなかった。ただ零樹は、あまり騒がしいところが好きではないので、体育館ステージから遠ざかりたかったというのが本音だった。
楽はこれまでに体験してきた不可思議な現象や怪奇現象を、面白おかしい講談のようにして、沙羅に熱心に聞かせているところだ。その先の目的ははっきりしている。はあ、と零樹は溜息をつき、呆れた視線を楽からパネルに戻した。楽の話は確かにうまく出来ていて、沙羅もまた時折ひきこまれているようなのだが、警戒心は強い。というよりも、沙羅は警戒するのに忙しいようで、楽の思惑通りにことは運ばないだろう。沙羅には、熱い視線がもうひとつ注がれていた。……殺のものだった。
やれやれ、と零樹は一通りパネルの展示物に目を通してから(内容は期待していたよりも――いや、期待など実はさほどもしていなかったのだが、面白かった。ついのめりこんでしまった)、祭り騒ぎでも見下ろそうかと、窓に目をやった。
「……あれ」
思わず上がったその声は、いささか素っ頓狂なものだった。
楽も話をとめて、零樹の視線を追う。無論、沙羅と殺もだ。
「一子ちゃんじゃないか」
零樹がいう。むにゃむにゃ、と分厚い本を枕にして眠っている女子生徒が、唇をなめた。
「零樹、知り合いか?」
おまえほんときれーな子と縁あるな、と楽は心中で続けた。
「海キャンプで知り合ったんだ……ほら、こないだの」
「あったわね、そんな行事」
「ちょっと、うるさくしすぎちゃったかな」
「せっかくだから、一子ちゃんにも楽の冒険譚を聞いてもらえばいいよ」
ふうっ、と零樹は微笑んだ。
あの笑みは何か悪巧みをしているときの笑みだと気がついたのは、付き合いが長い楽だけだ。その笑みの裏に悪巧みが隠されていることに気づいたのは、殺である。
「それじゃ、起こしましょう。もうかれこれ一時間は眠ってるもの、充分休んでいるわ」
沙羅の気持ちを汲み取りつつも、殺は艶やかに微笑んで、眠っている女子生徒――言吹一子の背後にまわった。
3人が固唾を呑んで見守る中(零樹はにやにやしていた)、殺はその細い指を一子の喉にあてると、つうう、とうなじまでゆっくり撫ぜた。
「お・き・て」
「にゃーッ?!」
殺が後ろによろめいた。
凄まじい形相で飛び起きた一子の腕が、枕にしていた本を弾き飛ばし、座っていた椅子が賑やかな音とともに倒れた。沙羅は、叫んだ一子の口の中に、するどい牙を何本も見た。一子の枕が、いや本が、楽の顔面を強打した。零樹がめずらしく声を上げて笑った。のけぞってさえいた。
「あ、耳」
殺がきょとんとした顔で呟く。
そう、一子の頭に、確かにねこみみ――
「何してるんですか!!」
突然響きわたった声は、体育館ステージからもどってきた図書委員のもの。
何故か5人は、その場をほうほうのていで逃げ出していた。しかし、きゃあきゃあと笑いながら。
イマドキの祭囃子。チャート独占のアイドルの歌声。有名バンドのコピー。
若い歓声、笑い声、それはいつの間にか、空に直接響きわたっていた。
5人は屋上で笑っていたのだ。
いや、寝起きで笑うどころか走ることもままならず、零樹に手をひかれる猫娘や、声を立てずに艶やかに笑うだけの人形のような少女もいるが、確かにそこには明るい笑い声があって、抜けるような晩夏の青空がせきこんでいるのである。
一子はまだ何が起きたのかよくわかっていない状態で、未だに頭に猫耳が出ている。そうして、しきりに顔を拭っていた。沙羅はおずおずと手を伸ばし、一子のその猫耳をちょんちょんとつついて、わあ、と小さく感嘆の声を漏らす。沙羅の指にぴょいぴょいと動く黒い猫耳は、温かく、ほんとうの猫のものだった。
「ネコミミにメガネ……マニアックだ……でも、たまにはマニアックなのもオツかねぇ……」
ぼうっとした笑顔で、楽は寝ぼけ眼の一子を見つめる。その横では、くすくすと人形を撫でながら、満足げな殺が笑っていた。
「ほら、起きなよ、一子ちゃん。耳が出てるよ」
「うにゃ?」
「もう、せっかくの学園祭なのに、寝て過ごすなんて」
零樹が微笑むと、一子はふるふると首を振り、眼鏡を直した。きれいに編まれたおさげが振り回され、沙羅と楽の鼻先をかすめた。
「あれ?」
見上げれば、青天井。
「あれれ?」
目線を戻せば、おかしそうにしている4人の生徒と、白い柵。
「図書室は? あれ? ぼく、どうして屋上にいるんですか?」
「なりゆきなの」
沙羅が微笑んで、身を乗り出した。
しばしの談笑をはさんでから、それにしても、と沙羅が首をかしげた。
「屋上って、立ち入り禁止で、ドアに鍵がかかってたはずだけど」
「楽がいる限りは、鍵なんかないも同然だよ。ねえ、楽」
「えっ、あ、ああ――」
突然話を振られて、楽はわかりやすくうろたえた。沙羅に、一子に、ずっと微笑んだまま黙っている殺。三輪もの花を前にしては、楽は時と我を忘れてしまっていた。
零樹のことばに、そのことばの真意を知りたいと、三輪が一斉に楽を見つめた。
「ああ! あわわ!」
「なに慌ててるのさ? ――あれ」
呆れて笑った零樹が、ふと、楽のそばに目を落とした。
そこに分厚い本が落ちていたのだ。あ、と一子が声を上げる。
「ぼくが枕にしてた本です」
「あー、どさくさで誰か持って来ちまったんだな」
「……何の本?」
「タイトル、書いてないね。どんな内容だったの? 一子ちゃん」
「うーん、ぼく、とにかく枕がほしかっただけで……」
誰も中身を知らない本だ。
誰ひとりその存在を知らなかった。
古びた黄の表紙には、大きな門らしきものが、黒いインクで描かれていた。その場の誰もが、あやしい本だ、と心中でこぼした。少なくともライトノベルではないし、児童文学書でも、百科事典でもない――。
「門か……俺はどうやっても、門とか鍵とかと縁がある……俺の前じゃ、何の意味もないってのに……」
呟きながら、楽が本に手を伸ばした。
が、こぅん。
短い悲鳴は沙羅のものだった。それは恐怖のためのものではなく、驚きのために上がったものだったのだが、暗い光や煙や音から、殺が沙羅を守った。紅い目で本の異変を見つめつつ、殺は沙羅を抱きしめていた。
にゃッ、と声を上げた一子の前には、零樹が立っていた。ただひとり楽だけが、誰の加護ももらわずに光と音と煙を浴びたが、すべてのものが、楽を通り過ぎていくだけだった。
「楽! 何を開けたんだい!」
「聞くな! 俺に聞くなって!」
どぉう、と何かが楽の身体をすり抜けていった。殺の腕に力がこもり、沙羅とともにたちまち床に倒れこんだ。ふたりの少女がいたところを、凄まじい勢いでなにものかが馳せた。
倒れた沙羅や、一子と零樹、顔を上げた殺、本を取り落とした楽は、見てしまった。
白い白い、白いけだもの。
猫ではない、しろいもの。
犬でも狼でも有り得ない。6本、いや8本、ひょっとすると10本の脚をそなえていた。大きさはヒグマよりもふたまわり大きかろう。咆哮は恐怖の歌であり、或いは地獄に堕ちた亡者たちの嘆き声なのだ。
おー・おー・お・お・お・お・お!
咆哮は、叫び声は、イマドキの祭囃子を引き裂いてゆくぞ。
「い――いまの、いまの、」
殺に思わずすがり、その紅い目を覗きこみながら(あくまで、思わず)、沙羅がその大きな目をいっぱいに開き、立ち上がった。驚いてはいるが、その足は震えてはいないし、視線はしっかりとしていた。
「いまのは、なに?!」
「俺が、開いちまった。この本が――門そのものだったってわけか。あいつの檻の……扉だったんだ」
楽が再び、分厚い古書を手に取った。表紙に描かれた門は――確かに開き、「向こう側」の深淵が、黒々としたインクによって描きだされていた。
そして本文はといえば、まったくの白紙、黄ばんだただのページが666枚綴られているのみ。
「まったく、ほんとにこまった人だよ」
零樹は楽に呆れ顔で笑いかけてから、凄まじい力でねじ曲げられた柵に近づいた。
おー・オー・お・お・お・ォ・ぉ!
すでに、その声は、体育館ステージから聞こえてくるものなのか、あの得体の知れない白い獣の咆哮なのか、わからない。獣はわき目も振らずに走り続けているようだ。あれは、猪なのか。
どおん、と煙と大音響が、サークル棟の方角で上がった。甲高い悲鳴のようなものも聞こえてきた。あれは、獣が上げた声ではない。まちがいなく。
「とめよう」
零樹が、溜息まじりに呟いて、振り返った。
「暇だしさ」
おー・オー・おー!
楽が本を抱き、零樹が一子の手を引き、殺が沙羅の手を引く。沙羅は、安全なところに居た方がいいという皆のすすめを断って、ついてきた。
「みんながいれば、大丈夫。それに沙羅だって、きっと役に立てるよ。……そんな気がするの」
彼女はなるべく、なぜか、殺とは距離を置きたかったのだが――当の殺が、それを赦してはくれなかった。艶やかで涼しげな笑みをもって、沙羅を捕らえて離さない。
「そう。私とあなたは、大丈夫。私もそんな気がするわ」
殺の目が、キと動いた。音さえ立てたかもしれない。
「あ――こっちに来る!」
零樹がそう言って足を止め、ひらりと身をひるがえしたとき、白い獣は凄まじい勢いで立ち止まった一行の傍らを駆け抜けていった。バビルサのように顎を突き破って生えている牙に、『本場の味 たこやき』ののぼりが引っ掛かっていた。
「……死人とか出てねぇよな?」
自分のせいでこんなことになってしまったと、楽には良心の呵責がある。
「大丈夫さ。ここのみんなはタフだから」
零樹はそう言って、根拠はないが、そう答えた。
獣の足音は、ほとんど地響きだ。獣を追う者の姿があった。たこやき屋を担当しているらしい生徒で、「のぼりを返せ」とわめきつつ、串を振り回していた。
「すごく興奮してました」
一子が、喧騒の中でぽつりと呟く。
一子が眼鏡の奥からちらりと垣間見たのは、寝ていたところを叩き起こされた、野生の獣の怒りと驚きであった。
「図書室で殺さんに起こされたときの、ぼくでした」
おー・おー・お・お・お・お・お!
ど・ど・どぉう!
今度は、体育館の方角で轟音だ。
『皆さん、落ち着いてください! 風紀委員と生徒会の指示に従って――』
きいん、とハウリング混じりに、放送席から呼びかけがある。
はっ、と沙羅が殺の手を振りほどいて、無言で放送局のテントに駆けこんだ。
「何をするの?」
「うたうの!」
沙羅よりも早くテントに飛び込んだのは、零樹だった。零樹は笑顔で放送部員に挨拶し、その手からマイクを奪い取ると、沙羅に差し出す。
「じゃあ、歌って」
オー・オー・オ・オ・オ・オ!
おー・おー・お・お・お・お!
その叫び声を貫いて、透き通った歌声が駆けぬけ、喧騒が一息でしずまった。
カナリアのさえずりが、がぅるる、と獣を振り向かせる。その足元で、恐怖も焦りも束の間忘れた生徒たちが、へたりと座りこんだ。
あー・アー・あ・あ・あ・ア!
獣はスピーカーを睨みつけると、
ぐぼぉぉぉぉおおおおう!
上顎からバビルサじみた牙が抜けるほどに大きくあぎとを開き、咆哮した。
咆哮が風の唸りを呼び、多くのものを吹き飛ばす。声はまっしぐらに沙羅を目指した。多次元のものにとって、沙羅の美しく穏やかな声は、耳障りな金切り声であったらしい。
殺が風の前に立ちはだかって、沙羅を護った。殺の黒髪が、びしびしと幾房もはじけ飛んだ。
「こっち見てますねえ……こっち来るかも……ああ、こっち来る……」
目をしぱしぱとゆっくりしばたたかせるその仕草は、眠気からきているものか、この期に及んでも。この、喧騒の中にあって、言吹一子はまだ眠い。
だが、その細く頼りない影に手を伸ばすと、一子はずらりと一振りの日本刀を抜き放った。
「ちょっと、まだ半分夢の中なのに、危ないよ」
「大丈夫……だって、ぼくら、夢の中なんですから。はじめからね」
むにゃむにゃと呟いてから、一子は刀を振りかぶる――
白の獣は、すでに走り出していた。
おー・おー・オー・おー・おー!!
殺は、沙羅の前から動かない。
一子が眠気任せに刀を振り下ろす。牙が飛び、脚が1本だけ傷ついた。
「楽!」
「わーってるよ!」
一子の斬撃で、速度が落ちた白の獣。
その前に、楽が飛び出した。開いたままの扉を手にして――
オーオーオーオーオ、ぉ・お・お・お!
しかし、楽は、開けることが出来ても閉じることは出来ない。
だから、
「かして」
殺がその手を優雅に伸ばした。
人差し指と、中指と、薬指の爪だけが長く伸びた、白い細い手を。楽が言われるままに差し出した本は、ぴちっ、とその薬指に引っ掛かれた。
たちまち、古びた本はさらに古び、ほころび、腐り、楽の腕の中で朽ち果てた。
イマドキの祭囃子は、そのうちまた響き始めるだろう。
騒ぎの元凶たる5人も、騒ぎを収めた5人も、すぐに雑踏と喧騒の中に消えて、通り過ぎていく。
「あのときの楽の顔!」
「言うな! でもビビった! 確かに!」
「その、でも、ちょっと、男らしかったです」
「そ、そうか!」
「そうね、あの顔はすてきだった。でも、あと10年は必要かもね。私好みの落ち着きが身につくには」
「10年かよ!」
「よかったじゃないか、楽。期待されたの初めてじゃない?」
「……」
「あ、テンション下がっちゃった」
笑い声は、半壊したサークル棟前、日の下の即席オープンカフェ。
いつの間にかひとり減った輪と、膝の重みに気がついて、零樹がしいっと人差し指を唇に当てた。
「何だよ、零樹」
「もう、起こすのはよそう」
そう、いつの間にか零樹の膝で、黒猫が一匹丸くなっている。沙羅と殺は、その背を撫でようと同時に手を伸ばしかけて、思わず顔を見合わせ、笑いながら手を引っ込めた。
はアやれ、と楽が溜息をついた。
「結局、オイシイとこ持ってくのはおまえだよ――」
イマドキの祭囃子が遠い。遠くにある。ずっと遠くだ。
彼は――いや、彼女はぐっすり眠っている。
「ああ、SIZUKUが歌うんだね」
「マジで?」
「行く?」
「……行かないんだろ」
「そうね」
「彼女、寝てるもの」
アイドルの歌声、喧騒、笑い声とは、空にある。
何も知らない夢は、イマドキの祭囃子が紡いでいくのだ。
そうして、彼女も――
そのうち、目を覚ます。
<了>
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【2489/橘・沙羅/2-C】
【2568/言吹・一子/1-B】
【2577/蓮巳・零樹/男/2‐B】
【2584/御子柴・楽/男/3-A】
【3278/咎狩・殺/1‐B】
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ライター通信
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モロクっちです。このたびはパーティーノベルご発注ありがとうございました! 初のパーティー対応商品で、どきどきしながら納品です。
本というかたちの門から飛び出してきた猛獣は……モロクっちのオリジナルです。似たようなのは某神話に出てきますが、<白の獣>とでもお呼び下さい。
わいわい楽しい感じに仕上げてみたつもりです。
青春は、このモロクっちに、描けましたでしょうか?
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