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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:激突! 魔オリンピック!!  〜野球編〜
執筆ライター  :水上雪乃
調査組織名   :草間興信所
募集予定人数  :1人〜4人

------<オープニング>--------------------------------------

 記者会見が続いている。
 日本中の期待を一身に背負い、アテネへ乗り込むはずだった野球日本代表チーム。
 しかし、大きな危機を迎えていた。
 チームの指揮を執る、日本最高の名将と称えられるナガピマ監督が病に倒れてしまったのである。
 代わって監督代行となったのは草間武彦。
 どうして代行なのかというと、やはり監督はナガピマ、という考えからだ。
 一緒にアテネへ行くことはできなくとも、心は一つ。
「監督の霊に応えるためにも、必ず金メダルを獲ってきます」
「死んでませんっ!」
 あいかわらずバカなことを言う監督代行に、零ヘッドコーチがツッコミを入れた。
 がす、と。
「のぉぉぉぉっ!?」
 頭を抱えて転げ回る草間。
 まあバットでぶん殴られれば、普通はこうなる。
 不安を隠せない報道陣。
 当然である。
 しかし、大衆の予想とは裏腹に、野球オリンピック代表は順調に勝ち進んだ。
 そして準決勝。
 対戦相手は、オーストラリア。
 これに勝てば、銀メダル以上が確定する。
「いや。銀はいらない。金が欲しいんだっ!」
「‥‥義兄さんの欲しいのは、金メダルよりも金そのものでしょう」
「そうっ! 金メダルを獲って帰れば、報奨金ががっぽがっぽ‥‥」
「子供の夢を壊すようなことを言わないでください」
 がす。
 またバットが唸り、草間の頭にめり込む。
「ぬぉぉぉぉっ!!」
 悶絶。
 ふつうは死んでしまうところだろうが、まあ、草間だから。
「むしろそのまま死んでしまっても良いですよ?」
「しどい‥‥」
 監督代行の嘆きはともかくとして、スタジアムは緊張をはらんで静まりかえっている。
 決戦の幕が、切って落とされようとしていた。














※パラレルスポーツ、魔シリーズです。
 もちろんコメディです。
 最近は重苦しい話が続いたので、ちょっと息抜きということで。
 ちなみにこの試合、日本は敗北します。
 史実(?)では。
 選手、敵選手、観客、実況の人、どんなスタイルの参加もOKです。
 魔球や秘打が飛び交います。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
 受付開始は午後9時30分からです。


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激突! 魔オリンピック!!  〜野球編〜

 近代オリンピックの第一回大会は、アテネで催された。
 西暦の一八九六年のことだ。
 それから一〇〇年余の時を経て、第二八回大会はふたたびアテネに戻ってきた。
 満を持して乗り込んだ日本選手団は空前のメダルラッシュをもたらす。
 柔道、水泳、マラソン、体操。
 金色に輝くメダルは、日本中を歓喜に包んだ。
 まあ、同時に国民たちを睡眠不足に陥れたわけではあるが。
 当然のようにギリシアを訪れる人も増え、旅行会社などはこぞってツアーを企画した。
 ニッポン人観光客とスパイはどこに行ってもいる、というのは冷戦時代に使われた笑えないジョークだが、アテネの街にマナーの悪い日本人が溢れることになったのは事実だ。
 そしてそのなかに、シュライン・エマの姿もあった。
 戸籍上の本名を、草間シュラインという。
 じつは野球日本代表の草間武彦監督代行の細君だったりする。
 年の差は四歳。
 子供はいない。
 なんであんなのにこんな美人の奥さんが? というのは球界の七不思議に数えられ、
「るわけないじゃない」
 明後日の方向にツッコミを入れたシュラインが、足早にホテルへと向かう。
 どうしてスタジアムへ直行しないのかというと、怖くてみれないのだ。つまり、夫や妹が戦う姿をみる勇気がないのである。
 もし負けたりしたら‥‥などと考えると食事も満足に喉を通らない。
 だったら情報を遮断して日本の自宅に籠もっていれば良さそうなものだが、そこはそれ、夫を近くで応援したいという気持ちがある。
 なかなか複雑な奥さんなのだ。
 そしてホテルの部屋に入ると早速テレビをつけ、すぐに消す。
 すーはーすーはーと深呼吸。
 そしてまたスイッチを入れ、
「‥‥‥‥」
 すぐに消した。
 まるでバカみたいである。
 ちなみに、なにをやっているのかというと、怖くて画面を直視できないのだ。
 まるで、ではなくて、バカそのものである。
 掌に人という字を書いて呑んだりしている。
 しばらくこの状態が続きそうだ。
「武彦さん‥‥離れていてもこころはひとつよ‥‥」
 呟いたりして。
 スタジアムからたいして離れていないホテルにいるくせに。
 まあ、ラブラブなのは良いことなのだ。きっと。


 ラブラブといえば、日本選手団のなかにも熱い思いを抱くものがいたりする。
「金メダルを持って帰るぜ‥‥綾。結婚指輪代わりに」
 握りしめた白球に誓いを立てている男一匹。
 巫灰慈という。
「朝から暑苦しいですね。ただでさえ三六度もあるんですから、これ以上暑くしないでくださいよ」
 ツッコミは、女の声だった。
 梅蝶蘭。日本に数人しかいない女性プロ野球選手だ。
 二人はともにピッチャーで、しかも先発型である。
 そして立っている場所はブルペン。
 普通なら、一試合に二人の先発ピッチャーは必要ない。
 つまり、
「熱くもなるぜ。総力戦ってやつだからな」
 巫が不敵に笑う通りだ。
 今日の試合は準決勝。
 トーナメント方式の勝負は負ければそこでおしまいだ。
 そのあたりが、リーグ戦の国内ペナントレースとは異なる。
「あと二つですね。長かったような、短かったような」
 曖昧な笑みを浮かべる蝶蘭。
 あまり緊張感を持ってはいないようだ。
 野球でいうオリンピックとは、サッカーでいうワールドカップと同じようなもの、ではない。
 重さがまるで違うのだ。
 ほとんどのサッカー選手にとってワールドカップは夢の舞台である。それに出場することが叶うなら、そこで自分の選手生命が終わっても良いと思えてしまうほどの。
 野球選手にとってオリンピック出場は、むろん名誉なことではあるが、選手生命を賭けて挑むという類のものではない。
 彼らの目は、まず国内リーグに向けられているからだ。
 善悪の問題ではなく、スタンスの違いである。
 オリンピックの野球は数ある種目の一つでしかない。あるいは野球にもワールドカップがあれば変わってくるかもしれないが。
 だから、
「退魔ーボール一号の封印を解くときがきたようだぜ‥‥」
 ぶつぶつ言っている巫の気持ちが、蝶蘭にはわからない。
 一〇歳以上年長の先輩が使う魔球は、一球ごとに命を削って投げるような危険さを伴っている。
 日本シリーズでならともかく、オリンピックごときで使うべきものではない。
「オリンピックで勝っても年俸は上がりませんよ」
 やや偽悪的に言ってみる。
 巫がにやりと笑って曰く。
「男には、無意味と判っていてもすべてを賭けなきゃいけないときがあるんだよ」
 なんか格好つけまくってる。
 ちなみにこのとき巫の脳内には以下のような妄想が展開されていた。

 歓声がスタジアムを埋め尽くす。
 勝ったのだ。ついに優勝した。
 マウンド上、満足げな顔をした巫だったが、がっくりと膝を突く。
「ハイジっ!?」
 客席から駆け下りてくる人影。
 柔らかな胸に巫の頭が収まる。
「綾‥‥このメダルはお前に送るプレゼントだ」
「ハイジ‥‥」
「指輪がわりに受け取ってくれ」
「ありがとう」
「俺はもう野球を失ってしまったが‥‥」
「でも、わたしがいるわ」
 近づく顔。
 触れ合う唇。
 歓声が、いつの間にか万来の拍手へと変わる。
 ヒーローインタビューのお立ち台へと続く道が、ヴァージンロードのように輝いていた。

「うへへへへへへへへ」
「おーい。巫さーん。もどってこーい」
 巫の目の前で、蝶蘭がひらひらと手を振っている。


 ベンチにどっかりと腰を下ろした草間が、腕を組んでグラウンドを睨みつけている。
 まるで親の敵でもみるように。
「いよいよだな‥‥」
 草間の頭の上にどっかりと腰を下ろした露木八重が、腕を組んでグラウンドを睨みつけている。
 まるで親の敵でもみるように。
「いよいよなのでぇす‥‥」
 ‥‥‥‥。
 ‥‥‥。
 ‥‥。
 ‥。
「つまり説明するとですねっ」
 沈黙に耐えきれなくなった草間零が口を開いた。
 ふ。勝った。
「このおちびさんは、マスコットというか義兄さんのペットというか」
「ペットじゃないのでぇす!」
 ぶすっと。
 いっちょまえに日本代表のユニフォームを着込んだ体長十数センチの不条理妖精が、零の鼻の穴に彼女サイズの特製バットを突っ込む。
「いゃぁああ!! 私そういうキャラじゃないのにぃぃ!!!」
 激しく抵抗する零。
「コメディーに出てしまったからには仕方がないのでぇすっ!」
 意味不明なことを言いながら、八重がバットをぐりぐり回したりして。
「いゃぁぁぁ!!」
 なにやってんだか。
 零の醜態はともかくとして、八重はむろん選手ではない。
 かといって首脳陣でもない。
 では何かというと、じつは零が言ったように草間のペットとかマスコットというのが、最も事実に近い。
 だが、事実を告げるようなオロカモノは監督代行の妹と同じ運命をたどるだけなので、誰も口にしないだけだ。
「失礼なナレーションでぇすね! 零ねぇちゃのいろいろなものがついたこのバットを顔になすりつけるでぇすよ?」
「いゃぁぁぁぁぁぁ! やめてぇぇぇぇっ!!! そんなマニア受けするようなこと言わないでぇぇぇっ!!!」
 零の悲鳴。
 気持ちはよく判るし、むしろそれはやめて欲しい。切に。
「そろそろだな‥‥」
 横の喧噪もなんのその。シリアス路線を貫こうと心に決めた草間が呟く。
 敵のベンチに、人が集まり始めていた。


「ついにはじまったっ」
 拳を握りしめたシュラインがテレビ画面に見入る。
 結局、見ることにしたらしい。
 まあ、ここまできて見ないで帰るわけにはいかないだろう。
「オーストラリアはそれほど強いチームじゃない‥‥」
 手にしたノートを視線を送る。
 彼女自身が一生懸命あつめた資料だ。
 いじましいほどの努力である。
 ただ、シュラインがこれを持っていてどうするのだ、という説もあったりする。どうせ資料を集めたのなら、夫に渡せば良かったのだ。
 そうすればあの頼りない監督代行の戦術決定の手助けになっただろう。
 もっとも、そういうことができる性格の奥さんではない。
「だって照れくさいじゃないっ」
 というわけだ。
「あ、武彦さんが映った。がんばって!!」
 黄色い声援。
 ちなみに、画面に叫んでも相手には聞こえない。
 聞こえないからできることもある、としておこうか。
 画面の中。
 ベンチに座った草間は難しい顔をしている。頭に乗せた八重とともに。


「こいつら‥‥粘りやがるぜ‥‥」
 帽子を脱いで汗をぬぐう巫。
 イニングは四回裏。
 先発した彼の球数は、すでに一〇〇球に達しようとしていた。
 とんでもないハイペースである。
 ここまで相手をした打者はわずか一〇人。ほとんど毎回を三人で切って取っているのだ。ただし、一人の打者に対して一〇球以上を投げさせられている。
 リードするキャッチャーのジョウピマが悪いわけではない。むろん、巫の調子が悪いわけでもない。
 徹底した持久戦をオーストラリア代表がおこなっているのである。
「くさいところは全部カットしやがる‥‥」
 得意のスライダーをファールにされる。
 相手はストレートに的を絞り、ストライクゾーンに入る変化球はすべてカットしてファールにしてしまう。
 オーストラリアの監督が不敵に笑っていた。
「疲れさせれば巫の速球も打てるというわけか‥‥研究されてるな‥‥」
 無念の臍をかむ草間。
 アテネに入ってからというもの、ほとんどラクな試合はなかった。
 明らかに格下の相手にも苦戦してしまう。
 草間の指揮能力が低いから、ではない。
 実際、日本最強といっても過言ではないようなメンバーである。
 若手を我慢して使う必要もない。ローテーションの谷間もない。国内リーグ各チームの主軸になっている選手たちを集めて作ったドリームチーム。それが日本代表だ。
 監督は、
「油断するな」
 と、気を引き締めてやれば良い。
 良いはずであった。
「だが‥‥ここまで研究されていると‥‥」
「おぢちゃは全然研究してないでぇすしね。相手のこと」
「ぐっは‥‥」
 不条理マスコットが痛いところを突いてくる。
 プロ野球のない国の情報は入手しづらいのは事実だ。シュラインのように小さな情報を地道に集めれば、あるいはある程度の資料が揃ったかもしれないが、そこまでする必要を日本代表はみとめなかった。
 これだけのドリームチームである。
 どうして格下の相手の情報を必死になって集めなくてはならない?
 いつも通りの野球をすれば必ず勝てる。
 その傲慢さのツケを、今になって請求されていた。
「はぁはぁ‥‥」
 大きく肩で息をつく巫。
 五回までに一九九球。
 そろそろ限界である。
「監督代行」
 蝶蘭が、草間に話しかけた。
 瞳のあたりに決意がみなぎっている。
「‥‥判った」
 やや躊躇った後、八重を一度降ろした三〇男が帽子を目深にかぶりなおした。
 巫に代えて蝶蘭。
 この継投は最初から考えていたことではある。
 ことではあるのだが、計算外の要素が二つあった。
 交代時期が、考えていたよりずっと早まってしまったこと。
 リードして交代することができなかったこと。
「‥‥おわったな‥‥」
 小さな小さな呟きは、誰の耳にも届かなかった。
 不思議そうに八重が見上げている。
 蝶蘭は力投した。
 粘られても粘られても怯むことなく、焦ることなく。
 スコアボードにはゼロが並んだ。
 女性投手が必死に投げ込む姿はブラウン管を通して日本中に感動を与えた。
 だが、その彼女も、ついに刀折れ力尽きるときがくる。
 九回裏ツーアウト。
 甘く入った内角のストレート。
 たった一球の失投。
 スタンドへ消えてゆく白球。
 その瞬間、日本が金メダルを獲るという夢は費えた。
「く‥‥」
 膝からマウンドに崩れる蝶蘭。
 駆け寄ったキャッチャーのジョウピマが、やさしく彼女の肩を叩いた。
 観客席から、両チームの健闘を称える拍手が降り注いでいる。


  エピローグ

「武彦さん‥‥」
 インタビューを終え、ロッカールームへと引き上げようとしていた草間に声をかけたものがいる。
「シュライン。なんでこんなところに?」
 むろん奥さんだ。
 いても立ってもいられなくなってホテルを飛び出したのだ。
「その‥‥なんていうか‥‥」
「どうしても金メダルを取ろうっていう執念が、俺たちよりあいつらの方が勝っていた。そういうことさ」
「武彦さん‥‥」
 芸もなく繰り返すシュライン。
「そんな顔するなって。金には届かなかったけど、銅はまだ手が届くところにあるんだからな」
 草間がにやりと笑う。
「‥‥そうね」
 そういったシュラインが、夫の腕に自分の腕を絡めた。
 ロッカールームへと遠ざかってゆく足音。
 そのはるか後方。
 いじいじと床にのの字を書いている男がいる。
「あやぁ‥‥金メダルとれなかったよぅ‥‥」
 べそべそ。
 鬱陶しいことこの上ない。
 困った顔で、蝶蘭と八重が傷心の青年の肩を叩いてやっていた。



















                      おわり



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086/ シュライン・エマ /女  / 26 / 監督代行の奥さん
  (しゅらいん・えま)
1009/ 露樹・八重    /女  /910 / ベンチの応援要員
  (つゆき・やえ)
0143/ 巫・灰慈     /男  / 26 / ピッチャー
  (かんなぎ・はいじ)
3505/梅・蝶蘭      /女  / 15 / ピッチャー
  (めい・でぃえらん)

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。
「激突! 魔オリンピック!!  〜野球編〜」お届けいたします。
史実は変わりませんでした☆
試合内容は違いますけどねー
お久しぶりの魔シリーズです。
楽しんでいただけましたでしょうか?

それでは、またお会いできることを祈って。