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<東京怪談・PCゲームノベル>


茜の心を癒す人 後編

 まだ止まない雨の中、親子は会った。
 然るべき運命が近づいているのだろう。
「茜……気分はどうだ?」
「決まったよ……お父さん」
「そうか、なら良いのじゃ」
 父親は安堵の溜息をつく。

 突然平八郎はあなたに振り向く。
「娘が世話になった。しかしお主は娘をどう思っているのだ?」
 と、訊いてきた。

 今までの短い間に彼女との日々をどう大事にしていたかを訊いているのだろう。


 あなたは、どうする? 


「中で詳しい説明をする。今はココで休め」
 平八郎は、宮小路皇騎に一度一瞥し、中に入る平八郎。
 まだ続く雨。
 茜の心と霊木の具現というならば。 
 茜がどんな宿命を持っているのだろう。

 ――それ以上に大事なことに気付かされたが。

「ありがとう」
 意志の強さを感じさせる茜の言葉。
「自信がついてきた」
「其れはとても良かった」

 霊木が完全に長谷神社を“他の存在に興味を持たせない”結界を貼る。それは高等な術師である皇騎にも分からなかった。
 もっとも、結界内にいるならそんなことはどうでも良いわけで、実際は彼の心の中にある。
 母親に“女性には優しく”と徹底的に躾られていた。故に女性には優しい皇騎。
 茜にもそのつもりで接していたのだが、徐々にそれ以上の感情を持ってしまった。
 幼なじみの従妹にはそこまでたどり着けなかった“一線”。
「どうしたの? 早くしないと風邪ひいちゃうから」
 茜がキョトンとして皇騎に言う。
「あ、いえ。少し考え事を」
「うん。そうだね。色々あるもんね。びしょ濡れだし、中に入ろう」
 茜は彼の手を引っ張った。

 ――やはり、コレが愛なのか……。

 皇騎は気付かされた。
 守ってあげたい。
 術師でもなく、ただ躾の通りではなく、純粋に茜を。
 客人用の寝間着に着替えている皇騎。
 ずぶ濡れになった服は、鼻歌を歌いながら茜が洗濯をしている。
 夕食は何と平八郎が作っているとか。
「お母さんは?」
「いないの……理由は分かんない。でも優しく綺麗な人ってお父さんが言った」
「そうですか……」
 とんでも無いことを訊いてしまったと思う皇騎。
 しかし茜は笑う。
「気にしないで。私より、よしちゃんが可哀想。先天性神格覚醒者の彼は家族に理解されなかったからね。でもいい人に出逢えて良かったとおもう。だってあんな元気なよしちゃん、初めて見たからね」
 紅一文字や三滝との戦いや皇騎の従妹との恋物語を語る茜。
 そこには翳りはない。如何に幼なじみを案じていたかを感じさせる。姉のように妹のように……。
 気が付けば、皇騎は一緒に洗濯や掃除を手伝っている自分がいた。
 式神の梟2羽は霊木に誘われたのか、そこを宿として決め込んでいるらしい。式神なりに2人の間を邪魔しちゃ悪いとか思っている事もあるのだろう。

 夕食を済まし、呑気にTV鑑賞になっていく。
 平八郎曰く、今はゆっくり休む方がいいのだと。なので、皇騎はこの親子と共に他愛のない話をし、TV鑑賞もしていた。
 くだらないが感心する雑学バラエティ番組を見終えたあとに、TVのスイッチを切り平八郎は真剣になった。
「では、本題に入ろう」
 今までの気さくで豪快さはなく、威厳と気迫に満ちた初老の男が目の前にいる。
 術師として、霊木を守るものとして皇騎と茜をみているのだ。
「まずはこの神聖なる儀式は長谷一族の者しか見ることが出来ない。しかし皇騎殿は違う。茜をココまで支えてくれている事は、判ったそれ故に、そなたには見て貰いたい」
「判りました」
「霊木は、世界の力の一部を持つ。純真というのはそれだけ無垢なる物。過去幾度過去の力を手に入れようとする魑魅魍魎や虚無の境界が狙ってきた。茜はその霊木の守護者になる試練を受ける。精神戦となるだろう。人の心と世界の心の戦いになるが、実際生き死にではなく、その心と同調することにある。しかし、世界との同調は極端に難しいのだ。茜はすでにそこまでの資格を持っているのだが、流石に若い。義明の事で心が乱れていたのだ。しかし、皇騎殿のおかげで元に戻った。感謝する」
 と、深々と礼をする平八郎。父として娘に対しての想いと、男として皇騎に対しての敬意を表していた
「平八郎さん……そんな……」
「お父さん」
 慌てる2人。
 しかし、直ぐに頭を上げる男は皇騎を見据える。
「では、聞こう。皇騎殿、茜をどう思っている?」
 と、訊いてきた。
「彼女とは出会って日は浅いですが、私はただ一人の男として彼女を愛しています」
 真剣な目で、茜にも聞こえるように答える、皇騎。
 平八郎から霊木の霊力と彼自身の気迫が彼に向けられた。
 まず感じたのは、驚異である。見据えられるだけでココまでの力に。
 もし茜が其の力に打ち勝てるのかという不安を感じた。
 世界の様々な感情に茜は耐えられるのかという不安、そして、世界という強大さに対しての恐怖。
 しかし、その力と気迫を全て受け止める。
 ――茜を守ると言うこと。愛し続けると言うことを。
 其れは彼の目が物語っていた。
「ふむ、いい顔だ」
 平八郎はそういったあと、いつもの気さくな老人に戻り、大笑いした。
 それは簡単な理由だ。
 真横に顔面を真っ赤にして照れている茜をみているのだから。
「では、ゆっくり休め、2人きりが良かろう」
 平八郎はゆっくり居間から出て行く。
「お、お父さん! ちょ、ちょっと!」
「明日は早いから、早めに寝るんだぞ、茜」
 と、父親は去っていった。
「もう、皇騎さん……思いっきり恥ずかしかった」
「え、でも、私もじつは……えっと……」
 お互いの気持ちを再確認したためか顔を合わせられなかった。
 親に認められたことはいいことだろう。
 後々問題は山積みになるだろうが、すべきことは決まっている。
 
 ――茜を助ける事、共に歩むと。

 

 翌朝。
 巫女姿に身を包む茜に、長谷神社儀礼用の服装の皇騎、宮司姿の平八郎が霊木の前に立っていた。
 梟が皇騎の所に戻ってくる。
 その目は優しかったし楽しかったみたいだ。霊木と楽しい一時を過ごしていたのだろう。
「では、始める」
 平八郎が、何か真言なのか特殊な言葉で詠唱する。
 木はコレに呼応し、霊的爆破で辺りを包み込んだ。

 ――ここは?
 神秘的な森林の中にいる感覚の皇騎。衣服と身体が透けて裸なっている。隣には茜が同じようになっていた。
 魂の形なのだろう。そして、この空間は霊木の特殊世界。
 世界の意志との戦いに身体は要らないと言うのだろうか。アストラル体と思われる。
「はじまったよ」
 茜は、ニコリと微笑む。しかし真剣さは変わらない。
「今……霊木が頭の中に様々なことを送ってくる。其れに耐えられるかが戦いなの」
「茜さん」
「守ってくれる?」
「もちろん。ずっと……いつまでも」
「ありがとう。私嬉しい。がんばる」
 アストラル体ながらも茜は皇騎に軽くキスをした。
 しっかりと、お互い手を繋いで、“世界”と同調する。
 身体……魂が砕けそうになって苦しむ茜を支える皇騎。
 その、試練は実際いつまでかかったのだろう。時間が判らず、光に飲み込まれた。
 

「長谷茜、長谷神社後継者として正式に純真の霊木との契約をした」
 満足げに平八郎は宣言する。
 気を失っている2人は、ずっと手を握っている。
「ここまで見せつけられると、認めざるを得ない。元から素晴らしい人物じゃ。悪くない」
 婿養子にしたいなと、考えながら初老の男はおもった。既に後継者が決まったことで、僅かしか“霊木”の加護がない。
「霊木の精霊よ、これからも我ら長谷一族がそなたを守り続けることが出来、嬉しい」
 宮司は感動と世界に対して感謝し、涙を流した。


 それから、1週間後。まるで嘘のような晴れ。
 皇騎と茜は再びあの公園に遊びに来ていた。
「皇騎さん! 早く! 早く!」
「ま、まって下さい、茜さん。こけますよ」
 明るい少女の見事な走りっぷりに驚く皇騎。
 戦闘訓練や自己鍛錬しているはずの彼はへとへとになっていた。
 試練から暫く記憶が曖昧になっていたが、長谷神社で1日休んだとき記憶を取り戻し、平八郎公認で付き合い始めたのだ。
 茜が、長谷神社後継者になったからと言ってもそんなに厳しいものではないようで、学校も行けるし、こうして愛する人と共に過ごす事も出来る。霊木の精霊と契約し、自然的浄化する力を得ている。もっとも、これから色々と継承者としての修行や試練が待ち受けているだろう。
 梟達は木陰で優しい目をして、2人のデートを見守っている。

 これから先、2人にどんなことがあるか。それは判らない。未来を読める茜も其れはしないし、何より、今はこの大好きな人と一緒に入れることが嬉しいのだ。
 


 ――この2人に永遠の幸有れ。


 End

■登場人物紹介

【0461 宮小路・皇騎 20 男 大学生(財閥御曹司・陰陽師)】

【NPC 長谷・茜 18 女 神聖都学園高等部・巫女】
【NPC 長谷・平八郎 65 男 長谷神社宮司】

■ライター通信
 滝照直樹です。
 『茜の心を癒す人』に参加して下さりありがとうございます。
 おめでとうございます。皇騎様。めでたく、茜は神社の後継者になり、親公認のカップルとなりました。
 問題としては、皇騎さんが長谷神社の婿養子にされそうです。その時はどうしましょうか? 親族会議で大波乱の予感はあるでしょう。長谷一族でしかなければ霊木は認めないようですので。

 と、此のノベルはパラレル世界なため、1つのエピソードでありますが、本編に影響しません。コレの結果を本編継続する方法は……自ずと判ると思います。


 では又の機会があればお会いしましょう。

 滝照直樹拝