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<幻影学園奇譚・学園祭パーティノベル>


球体の陰謀 〜オーダーメイド? ロシアンたこ焼き〜
●野球部の野望 〜一球?入魂〜
 9月14日――神聖都学園の学園祭2日目。5日間に渡って行われるこの学園祭、日によってメインテーマが設定されており、2日目の今日は『演劇祭』ということになっていた。
 無論メインテーマに沿った出し物が自然と多くなる訳だが、そんなことにはお構いなく存在している出し物がある。
 そう、食べ物や飲み物を扱う出し物だ。いわゆる模擬店・露店・屋台……まあ呼び方はどうだっていい。とにかく、学園祭におけるメインの出し物の1つである。これがなければ、学園祭という雰囲気がしない物だ。
 2日目の今日も生徒たちはまだまだ元気いっぱい。若いのだから、1日くらいはしゃいでも疲れなど翌日まで残らないようだ。もっとも先生方の中には、もう疲れが見え始めた者も居るようだが……それはそれとして。
 ともあれ、今日も各々の出し物は元気いっぱいな生徒たちや外来者などで賑わっていた。その中で目を引くのは、サークル棟にある野球部の出し物だろうか。
 その出し物とは、たこ焼き屋。前述の、メインテーマには沿っている訳ではないが、これがなければ学園祭の雰囲気を感じられない物だ。
 しかし、普通のたこ焼き屋が目を引く訳もない。そこにはそれなりの理由が存在する。考えられる1つは味、よほど美味しいのかもしれない。また別に考えられる1つは、味以外の何かの要素だ。
 では、このたこ焼き屋が目を引く理由はというと――味以外の何かの要素の方であった。だがそれが話題となり、意外と好評であったから目を引いているのである。そもそも本来は、昨日の初日だけで店仕舞いのはずだったのだから。
 さて、そんなたこ焼き屋を営む野球部のスペースを覗いてみると、最初にでかでかと文字が記された立て看板が目に入った。
 少々癖もあるが、味のある字体でこう記されていた。『オーダーメイド? ロシアンたこ焼やっさーん』と。ちなみに何故か上の方に『帰ってきた』と書かれた紙が、ぺたっと張り付けられているのだが。
 『オーダーメイド』とあることから、きっと具の指定が出来るのであろう。けれどもその後についてる『?』と、それに続く『ロシアン』という文字が非常に気になって仕方がない。
 そして鎮座するたこ焼き器。といっても家庭用のそれではなく、明らかに業務用のたこ焼き器。なかなかに使い込まれており、油がしっかり鉄に馴染んでいるのが見て分かる。おまけに、焼けるたこ焼きはビッグサイズであった。どこか業者からレンタルしてきたのであろう。
「きゃーっ、苦ーい! 何これ〜っ」
「やった、こっちは餅チーズ♪」
 つい先程ここでたこ焼きを買っていったらしい女子生徒たちが、きゃいきゃい言いながら離れてゆく。もちろんたこ焼きを摘みながら。
「へへッ、毎度ありーッ」
 そんな女子生徒たちに向かって、たこ焼き器の前に立っていた坊主頭にねじり鉢巻の男子生徒が言い放った。両手にたこ焼き返しを持ちひっきりなしにたこ焼きを焼いているからか、顔やらユニフォームの中のアンダーシャツやらに汗が滲んでいた。
「ふわァァァァァ……」
 汗を拭いながら、大きくあくびをする男子生徒――渡橋十三。野球部の豪腕投手にして、このたこ焼き屋の主催者でもあった。まあこういう出し物だから、『元締め』と呼んだ方がしっくりくるかもしれないが。
「よ。景気はどうだい?」
 と、そこへふらーっと現れた1人の男子生徒。手には大きく膨らんだビニール袋を下げていた。
「よォ! お陰さンでボチボチだ」
 十三はニィと笑ってその男子生徒――室田充の言葉に答えた。
「だろうねえ。でなくちゃ、1日延長しないだろうし」
 そう言いながら充は、傍らの机にビニール袋の中身を並べていった。
「ラグビー部買出し部隊だ、頼むよ」
 出した中身は、チーズや椎茸、ソーセージやこんにゃくなどの様々な食材。ざっと見た所、無難な食材ばかりであった。
「ほ、こらまた大量に来たもンだぜ。おーい手ェ空いてる1年、こいつ刻ンどいてくンな」
 十三が後輩の1年生部員に向かって言うと、すぐに手の空いていた者がそれらの食材を回収して、まな板のある所へ運んでいった。
「ああ、余った分は好きに使って。ていうか、絶対余るだろうしねえ」
 さらりと言い放つ充。つまりはそれだけ色々と食材を買ってきたということである。
「それにしても、面白いこと考え付いたものだよね。ロシアンたこ焼きなんて」
 充が立て看板を見てつぶやいた。それに対し、十三がうんうんと頷く。
「ま、一応全国行ッたッてことで、趣味に走らせてもらッた訳だァな。……こうも好評たァちと予想外だッたがな」
「おまけに予約で具の指定や持ち込み、配達まで受け付けてるんだから、間違いなくアイデア勝ちじゃない?」
 立て看板からたこ焼きの方に視線を移し、充が言った。十三はニヤニヤと笑っている。
 さて、ここでこのたこ焼き屋の特徴的な部分をを説明しよう。
 まず、たこ焼き屋とは言ってるが、入っている具がたこであるとは一切限らない点である。たこかもしれないし、それ以外の何かかもしれない。とにかく食べてみるまでのお楽しみ、ロシアンルーレットなのだ。
 次に、充が言ったように予約で具の指定や持ち込みが出来るという点だ。これがいわゆるオーダーメイドの部分である。自分だけのたこ焼きが作れるのだから、普通のたこ焼きに飽きている者が飛びつかないはずがない。
 そして最後に、校内であれば配達可能であるという点だ。皆が皆、自由に出歩ける訳ではない。出し物の番をしなければならない生徒だって居る。そういった者たちにとってはありがたいシステムであった。
 これら3つの特徴が上手く噛み合って、昨日の思いがけない好評に繋がったのである。事実今日も千客万来、下手すれば昨日よりも客足はいいかもしれなかった。
「けど、お客さん多いとミスもあったりするんじゃない? ひょっとして」
 何気なく言った充の一言。それを聞き、十三が苦笑いを浮かべた。
「……あるんだ」
 充も苦笑い。そして思い出したように、こう続けた。
「あ、だから僕を呼んだんだ? ん……とりあえず、薬に関してはきちんと聞いてくれ。おかげで昨日の午後は酷い目に遭って……」
「失敗したのか?」
「……ああ惨敗だ」
 十三の言葉に、小さく頷く充。この会話だけではよく分からないが、昨日の午後に薬絡みで何かあった模様である。
「それはそれとして……で、何?」
 充が話を本題へ戻す。すると十三は頬をぽりぽりと掻いた。
「あー……呼んだのは他でもねェ。チト相談があッてヨ」
 と言い、十三は何やらごそごそと足元から出そうとしていた。
「たこ焼き食ってからな。だからこうやって食材を……うあ?」
 話の途中で目を丸くする充。十三が出してきた物を見て、面食らったのである。それは鉢植えの中で踊り狂っている『目鼻口がついた朝鮮人参』――というか、マンドラゴラであった。
「に、賑やかだな、オイ」
 そんなことを言いながらも、充の目はマンドラゴラに釘付けだ。ちなみに一応、マンドラゴラも薬になる植物で……。
「どーしたモンかねェ……コレ」
 腕を組み、困った様子の十三。
「どこから仕入れたのさ、それ」
「仕入れたンじゃねェさ、持ち込みだ。昨日金と一緒に預かッたはいいが……ちょうど混み合ッてた時でヨ、配達先がドコの誰かさーッぱり覚えてねェの」
 肩を竦め、十三が溜息を吐く。
「持ってきた人の顔すら覚えてないの?」
 若干呆れたような口調の充に対し、十三がこう答えた。
「黒いマントの生徒だッたよーな……けどヨ、オカ研辺り打診したが該当者0」
 なるほど、思い当たり調べられる範囲で調べてはみたようだ。が、該当者が居ないんじゃどうしようもない。
「でヨ、昨夜寮に持ち帰ッたらサイレンのごとく叫びまくッて、部屋の相方に追い出されちまッたんだよなァ……ふわァァァ」
 またあくびをする十三。この分じゃ、ろくに眠れなかったに違いない。
「なるほど。まあ……叫び声で死ななくてよかったよね」
 苦笑しながら、とんでもないことをさらっと言い放つ充。実際問題、マンドラゴラには引き抜いた時の叫び声を聞いたら死んでしまうという話もある訳で、何ら間違ったことは言っていないのであるが。
「ちょっと貸してみ?」
 充がスペースの中へ回り込み、マンドラゴラの鉢植えを受け取ろうとした。
「食ってみてェンなら止めねェよ?」
「食べないって」
 十三の言葉に笑いながら、充がマンドラゴラの鉢植えを抱え込むように受け取った。マンドラゴラは16ビートの音楽にのっているかのごとく、とても踊りまくっていた。ここでトランスなんかかけた日には、もっととんでもない踊りを見せてくれるのではないかというのは非常に余談である。閑話休題。
「よしよし、ちょっとおとなしくしようなー」
 何を思ったか、鉢植えをゆらゆらと揺らしながらマンドラゴラをなだめようと試みる充。
「へッ、そンなンでおとなしくなるなら、俺ッチもやッてら……ッてオイ。静かになッてきてンじゃねェか」
 今度は十三が目を丸くする番であった。どうしたことか、充にあやされてマンドラゴラが踊りをやめておとなしくなってきたのである。
「おー、よしよし。いい子だなー。うちの子になるかー?」
 まるで子猫か何かに接しているかのような充の態度。しかし確実に、そのあやし方は効果を発揮していたのであった。

●食は道連れ、世は情け?
 充がマンドラゴラをあやしていたその時、立て看板の前には1人の女子生徒が立っていた。立て看板の文字をじーっと見て、何やら思案顔である。手にはどこかの出し物で買ってきたのか、棒のついた苺飴を握りしめていた。
「うーん……昔の芸人さん思い出すんだけど……その時代の人が居るのかしら……?」
 ぼそりつぶやく女子生徒――光月羽澄の視線をよくよく見てみると、『やっさーん』の部分に向けられていた。いや……普通は『オーダーメイド?』とか『ロシアンたこ焼き』の部分に目が向くものではないだろうか? ほんま、怒るでしかし。
 そんな羽澄がふと気付くと、すぐ隣にやはり思案顔の割烹着姿な女子生徒の姿があった。
「……何かしら、逃げれられない宿命のようなモノをココに感じるわ……」
 こっちはこっちで、またよく分からないことをぶつぶつとつぶやいている女子生徒――シュライン・エマ。思うにどこかへちょこっと出かけた帰りに、たまたまこの前を通りがかったのであろう。
 そのシュラインのつぶやきを聞き、改めて立て看板を見直す羽澄。今度は『オーダーメイド?』や『ロシアンたこ焼き』の部分にも目が向いた様子。
(どんなのが入ってるのかしら)
 瞬時にここがどういうたこ焼き屋か察した羽澄。再びシュラインの方を見てちと思案。そして――おもむろにぎゅっとシュラインの腕をつかんだ。
「うに?」
 突然腕をつかまれ、驚きの声を発するシュライン。間髪入れず、羽澄がこう言った。
「よかったら……分けっこして食べない?」
 それを聞いたシュラインは、何故か天を仰ぎぽつりつぶやいた。
「やっぱり……宿命?」
「ねえ……ちょっと演劇入ってる?」
 首を傾げ、羽澄がシュラインに尋ねた。そりゃそうだ、何が『宿命』なのか羽澄には全く分からないのだから。
「あ、ううん。こっちの話。そうね……もぎゅっと制覇しなくちゃね」
 シュラインは自分に言い聞かせるように言った。
 ともあれ、立て看板の前を離れてたこ焼きを注文しに行こうとする2人。その前に、ビニール袋を下げたラクロスのユニフォーム姿の女子生徒が、十三の所へ小走りで向かっていった。
「先輩、お待たせしましたっ」
 少し息を弾ませ、十三にそう言う女子生徒は寒河江深雪。ラクロス部の部員である。
「オウ、帰ッてきたか」
 たこ焼きを返す手を止めずに出迎える十三。その向こうではまだマンドラゴラをあやしている充が、深雪に向かってひょいと手を上げていた。深雪も小さく手を上げてそれに返す。
「ええと、ご注文通り青汁とラッキョウと梅干、納豆、アロエの皮を……」
 とそこまで言って、言葉を中断させる深雪。視線は十三のユニフォームに向いていた。
「どしたい?」
「ユニフォーム……シミになりませんか?」
 どうやら深雪、細かい油はねが十三のユニフォームにぴしぴしとついてるのが気になるらしい。
「お、こいつか。気にすンなッて。どーせ練習でいッつも泥だらけになッてンだしヨ。こンくらいのシミ、強力洗剤で一発だァな」
 ニィッと笑って答える十三。
「そうですか……」
「お、そうだ。昨日のにがりな、好評だぜ。『やってくれたな』ッて、何度言われたか分かンねェ」
 ……好評なのだろうか、それって?
「好評なんですね? では8年モノの香酢とゴーヤ、大蒜の搾り汁も大丈夫ですね」
 だが深雪は十三の言葉を聞き、にこっと微笑んだ。好評かどうかは疑問が残る所であるのだが。
「ソフトカプセルに液体を閉じ込めて、噛んだ瞬間口の中に広がるように……ふふっ」
 準備の様子を思い出し、くすっと笑う深雪。そしてなおも話し続ける。
「そこまでやる? と最初は思いましたけど……」
 と、ここで深雪はあることに気付いた。それは自分の方に向いている視線。ゆっくりと振り向くと、羽澄とシュラインが深雪の方を見ていた。
「……あ。もしかして……聞いていました、か?」
 恐る恐る2人に尋ねる深雪。2人は揃って、こくこくと頷いた。
「え、えーと……昨日からお手伝いを、あの、させてもらってるんです……その、ウチの部長の命令で」
 深雪の説明はしどろもどろ。表情も『やっちゃった……』といった様子である。
「キミも一緒に食べましょ?」
 にこっと微笑み、羽澄が深雪に言った。この状況で、深雪が断ることが出来るはずもない。
「責任はとります……はい」
 がくっと肩を落とし、深雪が言った。『策士、策に溺れる』とはこういうことなのだろうか。いや、たぶん細かい部分で違うのだろうけれども。

●いざ尋常に、勝負!
 結局、羽澄・シュライン・深雪の3人で1人前たこ焼きを注文することとなった。1人前8個盛りなのだが、十三が1個おまけすると言うので、今回は9個盛り。つまり1人につき3個割り当てがあるということである。
「オーイ、食わねェのか?」
 十三がマンドラゴラをあやし続けている充に尋ねた。
「後でねー」
 そうとだけ答える充。どうもマンドラゴラに夢中になってしまっているらしい。たこ焼きは二の次といった模様である。
「十三お……コホン……十三先輩、これも使ってくださいな。センブリです」
 たこ焼きを焼く前に、シュラインが十三にセンブリを手渡した。
「どうして持ってるんですか?」
 素朴な疑問を深雪が口にした。
「ちょっとね。罰ゲームで使用して……」
 多くを語らぬシュライン。いったいどこで使ったんだ、どこで。
「オウ、ありがたく使わせてもらわァ。て、今『おじさん』とか言いかけてねェか?」
 十三がニヤリ笑う。苦笑するシュライン。まあ今の十三はねじり鉢巻姿だし、おじさんのように見えなくもなかったのだろう。きっと。
 と、そんなやり取りがあった最中、羽澄は全く別の所に視線が向いていた。
「……ねぇ」
 羽澄が十三に声をかけた。
「お、持ち込みか?」
「そうじゃなくて。後ろにある、何か煩い声出しそうな大根っぽいの」
 羽澄の視線は、充が未だあやしているマンドラゴラの鉢植えに向いていた。それについて十三が説明しようとした時、羽澄の言葉が続いた。
「と……」
 『と』?
「鱗がちゃんと取れてない丸い魚って……『アレ』よねぇ?」
 羽澄の視線は、マンドラゴラのさらに後ろまで届いていた。そこには何やら丸みを帯びた干物のような物を抱えた、野球部1年生部員の姿が。その干物もよくよく見れば、魚のような、けれど上半身はどうも違うような……。
「……ちョい待ちそこの1年。手にしてる奴……人魚のミイラだろーが」
 十三もそれに気付いたようで、『何でそんなモン持ってやがる!』とでも言いたげな顔でその部員に声をかけた。
「……何食わせるのかしら?」
 にこーっと微笑んで、十三に詰め寄る羽澄。これぞ『ザ・プレッシャー』、見事な圧力である。
「人魚の肉って、不老不死になるって言い伝えあったよねえ?」
 しれっと言い放つ充。確かに肉はそう言われているが、ミイラでも同じ効果があるかは定かではない。というか、どっから手に入れたんだ、それ。
 思案する十三。やがて出した結論は――。
「……入れちまうか」
 入れるのか!
 だが一旦決断したら早い。十三は人魚のミイラを1年生部員に刻ませたのである。もちろん、すぐさまたこ焼きの具として使われた。
 ややあって、9個のたこ焼きが容器に盛られて差し出された。
「素晴らしい焼き色ね……ただ者じゃないわ」
 たこ焼きの焼き色をじーっと見て、シュラインがつぶやいた。中身によって焼き加減など調節が難しいだろうに、どれもほぼ均等に美味しそうに焼けているのである。
「へッ……精進せいよ」
 胸を張りつぶやく十三。いや、その台詞言うのは作り手じゃないから。
「誰から食べる?」
 羽澄が深雪とシュラインの顔を交互に見て言った。そういえば……まだ順番を決めていない。
 結局じゃんけんをし、深雪・羽澄・シュラインという順番で食べてゆくことになった。
「いただきます……」
 最初に食べるのは深雪だ。端の方のたこ焼きにつまようじを刺し、そのまま口へと運んでゆく。もごもごと口の中が動き――。
「たこが肉厚で柔らかいですっ!」
 破顔する深雪。1個目はセーフであった。
「じゃあ真ん中を」
 続いて羽澄が、真ん中のたこ焼きを口へ運ぶ。もごもごと口が動くが、何故かがりごりと固い物を噛む音が聞こえてくる。
「何、この歯ごたえ……? コリコリしてる」
 首を傾げる羽澄。はて、いったいこれは何なのだろう。
「歯ごたえあって、コリコリしてるのかぁ」
 充の声が聞こえてきた。充は何か、察しがついたらしい。
「ひょっとして、ナマコ?」
「正解!」
 充の言葉に、十三がびしっと指差して言った。それを聞いた羽澄は頭を抱え込む。
「ナマ……」
 慣れない人にはちとあれかもしれないが、ナマコは珍味である。好きな人は好きだったりする。
「んー……なら、今の隣を」
 3人目のシュラインは、羽澄の取った隣のたこ焼きを口へ運んだ。もごっと一瞬口が動いたかと思うと――そのままシュライン撃沈。その場へしゃがみ込んでしまった。
 何事かと、皆の視線がシュラインへ向く。シュラインは顔を両手で覆ったまま、苦し気に言葉を吐き出した。
「セッ……センブリ……ああ〜……」
 何ということか、自分が提供したセンブリが見事に自分へ戻ってきてしまったのである。こういうのを『因果応報』というのかもしれない。
 その後2周したが、深雪は餅チーズとソーセージという結果で、トータル3勝0敗。羽澄は具なしと苺味のグミキャンディーという結果で、トータル0勝2敗1引き分け。シュラインはタバスコカプセルとゴーヤという結果で、トータル0勝3敗ということになった。
「ま……負けない……私……」
 これがシュライン最後の言葉であった。……いやまあ、単にその後で気絶しただけなんですが。
 こういう微笑ましい――ということにしておこう――光景もありつつ、野球部のたこ焼き屋は2日目の今日も繁盛したのであった。
 ちなみに余談になるが、人魚のミイラを誰が食したのかは不明である。が、翌日教師の誰かが少し若返ったという噂が出たのであるが……ただの噂ということにしておこう、うん。

【了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                 / 性別 / クラス 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
                  / 男 / 3−A 】
【 0076 / 室田・充(むろた・みつる)
                  / 男 / ?−? 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
                  / 女 / 2−A 】
【 0174 / 寒河江・深雪(さがえ・みゆき)
                  / 女 / 2−B 】
【 1282 / 光月・羽澄(こうづき・はずみ)
                  / 女 / 2−A 】