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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


埋もれた財宝

【オープニング】
 ギィ……。
 暗い館の一角、書庫とかかれた札を見つつ、扉を押し開いた。
 ここの扉はいつも重い。館の主である相馬・叶は、そう思いながら薄暗い部屋へ進む。
 明かりをつければ、おびただしいまでの本が、所狭しと置かれていた。
「さて、今日は何処から……」
 どうやらこれを片付けたいらしい。足の踏み場を探るように進んでいると、ふと、カタカタと本棚が揺れているのに気付く。
「あー……マズイですね……」
 いやになるほど爽快な諦め気分で呟いたと同時に、本棚から一冊の本が飛び出てきた。
 そしてそれは、一直線に叶へと向かった。何故か、牙のようなものを携えて。
 ひょい、と慣れた調子でかわすが、いかんせん体制が悪い。足を滑らせてひっくり返ってしまう。
 体を起こそうとしている内に、先ほどの本は積み重ねられた本の山に激突。追い討ちをかけるように、叶に本が降り注いだ。
 しんとした空気が、一瞬だけ漂ったが、叶は本にうずもれたまま、苦笑する。
「これは、僕一人じゃ無理ですね……」
 誰か手伝ってはくれまいか。叶は一旦書庫を離れ、パソコンの元へと向かうのであった。

【本文】
 それは放課後の出来事。級友でもある羽角・悠宇が、突然言い出したのだ。
「寄る所があるんだ」
 と。
 何処だろうと思いはしつつも、あえて聞くことはせず、彼女、初瀬・日和は黙って彼の後をついていった。
 行きがけは、他愛もない会話を繰り返したりとのんびりとした気分で向かっていたのに。そこについた途端、ちょっと、いや、かなり遠くを見つめたくなったのは、悠宇には内緒だ。
 ついた先は人気のない郊外の屋敷。物語に出てくるようなおどろおどろしい化け物屋敷のような雰囲気ではなかったが、何となく、異様な雰囲気はしていた。
「悠宇……ここに、用があるの?」
「あぁ。叶さんって人の手伝いだ」
 何を手伝うのだろう。そう言えば、先ほど本の整理がどうのと言っていたような気がするが、それだろうか。
 とはいえ、少し、入るのを躊躇ってしまいそうだ。
 そんな日和を一瞥だけする悠宇。と、丁度、屋敷の前に車が一台止まっているのを見つけた。庭を覗けば、人の姿も。
 その人は悠宇と同じ、銀髪を持った男性だった。彼が、例の叶だろうか。
 とりあえず確かめてみるべきだろう。悠宇は逡巡した後、尋ねた。
「あの……あんたが、叶さん?」
「はい…?」
 不思議そうに振り返った相手の様子からして、人違いのようだ。だが、その人は悠宇と、その影に隠れるような日和とを見て、しばし思案するような仕草を見せると、何事か呟いた。そうして、
「私はセレスティ・カーニンガムと申します。叶さんとは、ちょっとしたお知り合いでしょうか。キミ達は?」
 セレスティ・カーニンガムと名乗ったその人は、丁寧な調子で尋ねた。応じ、答える二人。
「俺は悠宇。こっちは日和だ」
「叶さんのおうちの書庫を整理するお手伝い……だよね、悠宇?」
 悠宇が頷くのを見てからもう一度セレスティを見やれば、彼は、なんだか楽しそうに笑っていた。
「とりあえず、中に入ってみないか? 叶さん、中で埋もれてるかも知んないし」
「そうですね。でも一応……ベルは鳴らしておきましょうね」
 悠宇の言葉に頷いて、日和はベルを鳴らし、しばしの応答を待ってみた。が、人の気配が感じられないのは相変わらずで。
 彼らは、顔を見合わせてから、屋敷の中へ入るのであった。

 屋敷の中は薄暗かった。
 特に複雑な造りをした屋敷でもなく、また、歩くのにも不便はなかったので、気にとめることでもなかったが。
「書庫は、どちらでしょうか……」
 日和がきょろきょろと辺りを見渡す。と。
 ずずーん………。
 廊下の奥の方から、物々しい音が聞こえてきた。
 気になったし、当てもないし。三人は――特に悠宇は嬉々として――音のした方へ向かった。
 いざ向かってみれば、ご丁寧に書庫と書かれた札が備えられている。そして、古びた扉の向こうには、確かに人の気配もした。
 やはり一応の礼儀としてノックをして、重い扉を開けば。

 キシャ―――ッッ!

「!!?」
 何か――明らかに本が、本なのに牙を剥いて飛び掛ってきた。正しく、文字通り。
「な、な、な……」
「伏せて!」
 驚く間もなく飛んできた声に、慌てて伏せる一同。
 半瞬の間を置いて、本は扉にぶち当たる。そうして、憑き物が落ちたかのように大人しくなった。
「い、いい今……本が飛び掛ってきたようなのは、私の目の錯覚でしょうか……」
 足元を埋め尽くす本の山に突っ伏したまま、日和は問う。一般の常識から考えて、本が飛ぶなど、ましてや、牙を剥いて襲い掛かってくるなど、ありえない。ありえないはずなのだが、誰も錯覚であると肯定してはくれない。
 変わりに、穏かな微笑が迎えてくれた。
「開いた扉に反応して逃げ出そうとしたようですね……平気でしたか?」
 先ほど飛んできた本を拾い上げて微笑むのは、青年。
 手前の棚に本を収めると、二言三言唱えごとをしてみせる。すると、その一角は何かに包まれたように、整然とした。
 いくら本が逃げ出そうとしても、揺れるだけが精一杯のようだった。
(あぁ、やっぱり錯覚じゃなかったんですね……)
 確信してしまった日和が遠い目をしている横で、セレスティは興味深げに、悠宇はやはり嬉々として、青年の所作を眺めていた。
「申し送れました。私は紅月双葉といいます。あなた方は、叶さんのお知り合いで?」
 ニッコリと微笑んで尋ねる、紅月・双葉。それぞれに頷きと自己紹介を返せば、やはり彼は微笑んで、
「そうですか。ところで早速ですが、叶さんを掘り起こすのを手伝ってもらえませんか?」
 真白な手袋が、奥の方、文字通り山となった本を、指した。
 どうやらアレは、先ほどの暴れん本が要因で起きた物々しい音の結果だそうで。
 詳しく言えば、暴れだした本が脚立の上の叶に飛び掛り、かわしたは良いもののよろけた拍子に傍らの本棚を掴んでしまい、物々しい音を立てながら一緒に崩れた、と。
「……叶さんは、生きてらっしゃるのでしょうか……?」
「えぇ、タフですから」
 根拠も何もない双葉の言い分ではあるが、そんな事を問いただしている暇があったら、さっさと掘り起こしてあげた方が良さそうである。
 中でもがいている様子さえ伺えない本の山へ駆け寄ると、
「叶さん、生きてますか?」
 とりあえず呼びかけてみる、セレスティ。しかし、判っていたような気はするが、反応はない。
「手近な所からどけてこうぜ」
 倒れた本棚を起し、零れていた本を一つ一つ納めながら、悠宇。と、手にした本に付箋がつけられているのに、目が行った。
「あぁ、それは私がつけました。気になった本に、色々……」
 様子に気付いた双葉の言葉に納得し、悠宇は何の気なしに、その本のタイトルを、確かめた。
 そして、即座にしまった。
 邪術大全とか書いてあったのは、きっと目の錯覚だと思いながら。
 ついでに、ネーミングセンスがないなとかも、思いながら。

「ん……しょ……」
 男等が掘り起こし作業をしている傍ら、日和は散っている本をとりあえず本棚に収めようとしていた。本を4冊ばかり積み上げ、両手で抱え上げると、日和は本棚へと向かう。が、よほど分厚い本ばかりチョイスしてしまったのか。やたら、重い。
 それにしたって、重さがちょっと尋常ではない気がする。するが、それは、きっとここの本だからだろうと、一言で纏めてみる。あまり常識だの理屈だのを考えてしまうと、混乱をきたしてしまいそうだったので。
(悠宇、なんだか面白がってるみたい……)
 戸惑いがちの自分とは対照的に生き生きとしている傍らの級友をちらりと見やった、拍子に。足元の本に蹴躓いて、お約束といわんばかりに豪快にひっくり返り……かけて、止まった。
「平気? ここの本は危険物多いから、気をつけないといけませんよ」
 受け止めるように背後から日和の肩を支えながらそういったのは、すらりと細身の長身を持った、一見して男性にも見える、女性。
 彼女は綾和泉・汐耶という名で、日和らと同じように叶の手伝いにきた者である。
 汐耶は、日和の持っていた本を一冊取り上げると、苦笑じみた笑みを浮かべ、本を軽く撫でた。
「重いわけですね。本当に、ここの本たちは隙あらば逃げ出そうとして……」
 呟きながら、『封印』を施す汐耶。手にとっては封印して、日和に返してを繰り返し、彼女の持っていた全てを封印し終えた汐耶は、「どう?」というように小首を傾げた。
「………軽く、なりました……」
「そうですか。それは、良かった」
 微笑んで、何事もなかったかのように本を見繕う汐耶。軽くしてもらったのはありがたいが、何をどうしてそうしたのか。もう既に日和の想像の範疇を超えている。
 本当に、考えるのはやめにした方が良さそうだ。
 軽い頭痛を覚えながら、手持ちの本をしまおうとすると、また、汐耶に肩を掴まれた。
「キミ、名前は?」
「あ……初瀬日和です」
「そうですか。あぁ、私は汐耶です。日和さん、彼には近付かないようにする事をお勧めしますよ」
 汐耶を見上げてきょとんとしている日和に、汐耶は双葉を指して、言うのだ。
 ますますわけが判らない。困ったように汐耶を見つめると、彼女は肩を竦めて、耳打ちするのだ。
「彼、女性が苦手らしいから……」
 と。
 そうなんですか。と、驚きを告げようとしたところ、汐耶は何かを見つけたのか、日和から視線を逸らし、奥のほうを見やった。
 つられ、日和もその方を見やれば。銀糸を流した青年が、困ったように苦笑していた。
「余計なお仕事、増やしちゃいましたね」
「予想はされてたことじゃないですか。今更、です」
 ポリポリと頬を掻く彼が、叶のようだ。彼に答える汐耶を見ていると、悠宇が尋ねてきた。
「誰? それと……何、話してたんだ?」
「汐耶さんって言う人……ここの本は危険だって言うのと、双葉さんが女の人苦手だから、近寄らない方がいいって言うのと……」
 おずおずと答える日和に、納得を返す、悠宇。そんな彼らの傍ら。汐耶は、セレスティ、叶らと親しげに話していた。
「奇遇ですね。あなたがいると、心強いですよ」
「本当に、奇遇です。叶さん、また、良い助っ人さんがいらっしゃいましたね」
「はい、嬉しいです」
 ガタガタとやかましい本棚も、当初より散らかり具合が激しくなっている床も、彼らには見えていないのだろうか。
 素敵な和みを演出してくれた所で、ようやく、作業再開だ。

 棚の中の本を一つ一つ見やり、種類事に分けていく作業をしていた日和。分類違いの本をいくつか抜き出すと、脚立の上に居た悠宇に、声をかけた。
「悠宇、これは、何処に入れればいいのかな……?」
「さぁ……? あ。さっき二つほどあっちの棚で、双葉さんが同じような本片付けてたな」
 悠宇が指をさすのと一緒にその方へ顔を向けて場所を確認すると、日和は本を抱え上げた。
 先ほどのようにやたら思いと言うことはないが、何だか占いがらみの本らしく、女の子としては、少し、興味があった。
(開いちゃだめ、開いちゃだめ……)
 何が起こるかわからないのだと自らに言い聞かせるが、やっぱり、気になる。後で安全確認をしてもらってから見ようかと思ってみたり。
 と、目的の棚の前に着いた。聳える本の山を一つずつ確認していくと、悠宇の言ったように、同じ系統の本が収められている場所があった。
 そのままでは微妙に手が届かないので、一旦本を足元に置き、一冊ずつ棚へしまっていく。
 その、過程で。日和は、不思議な本を見つけた。
 いや、不思議と言うよりは……どこか怖い、本。
 読めない文字が書かれた表紙。霊的なものに特に敏感、というわけではないが、そんな日和にも、危険であることは容易に感じ取れた。
 ぞっと、背筋によぎるものを感じるのだ。開けてはいけない、と。
 とにかく棚に収めてしまおうと、背伸びをして空いた場所に入れようとするが、そんな日和を嘲笑うかのように、本は、揺れた。
「きゃっ!」
 どさっ、ばさばさ……。
「……あ……」
 気づいた時には、既に遅し。驚きに手を離してしまった日和の足元で、本は開いてしまっていた。
「日和、離れろ!」
 咄嗟に日和の腕を引く悠宇。黒と紫の交ざった、目にも怪しい煙のようなものが立ち上ったかと思えば、同色の稲妻と変わり、床を迸る。
 丁度、日和のいたあたりに。
「…悠宇……」
「平気だ。アレくらいなら……」
 どうしようと言うような日和に視線を配り、安心させるように笑う悠宇。
 だが、先ほどから暴れまくっている本の中で、最も凶暴に見えるのは、確かだ。さしずめ、ボスキャラといった所か。
 その禍々しさは、それをかぎつけて集まってきた他の者達も、訝しげに眉をひそめるほど。
 けれど。それを見据える悠宇の表情は、どこか楽しそうだ。
 余裕……いや、どちらかと言えば興奮か。
 ただ、背後に日和を庇っている以上、彼女を守らねばならない。悠宇はしばしの逡巡の後、その背に翼を生み出した。
「日和、少し下がってろ」
 本より迸る稲妻の第二撃が繰り出されようとした刹那。黒石の翼をはためかせ、その場に強風を起こした。
 それは本を包み、巻き上げ、纏うオーラさえも掻き消すようで。
 それが、ふっ、と消えた瞬間。それを見計らい、セレスティは本を掴み、封印を、施す。
 一緒に巻き上げてしまった普通の本は、汐耶と双葉、そして日和が器用にキャッチしている。
 風の名残が吹きぬけた、途端。みな、脱力したように息をついていた。
「こんなものまで、持ってたんですね……」
 今では大人しい本を撫でながら、セレスティは苦笑する。
 両手いっぱいに本を抱えたままの双葉も同じような表情だ。
「節操なく集めるから……」
「いやぁ、つい……」
 キャッチしきれなかった本を拾い上げている叶に、少しばかり咎めるように言う汐耶だが、まるで効果なし。
「それにしても、何だかサーカスみたいで、凄かったですね」
 それどころか、何処までも抜けているのだ、この、依頼人は。
「見世物みたいに言ってくれるなよ」
 羽をしまいこんだ悠宇も、さすがに脱力して。そう、笑うのであった。

「これは、ここ……っと」
 シリーズ物っぽい小説を同じ棚に押し込み、悠宇は、ふぅ、と息をつく。
 一段落ついたし、時間も、もういい頃合だ。大して役目を果たしていないような書庫の壁時計を見て、それを確認すると。悠宇は、傍らの日和を見やって尋ねた。
「そろそろ、帰るか」
「そうだね……あんまり遅くなってもいけないし……」
 手持ちと、足元の本が一通り本棚に収まったのを見渡して確かめた日和も、こくりと頷いた。
 叶に挨拶も済ませ、帰ろうと思った、その時。
「悠宇さん、日和さん」
 呼び止める声。振り返れば、叶が小首を傾げながらこちらを見ていた。
「今日は、お疲れ様でした。おかげで助かりました。お礼……と言ってはなんですが、お好きな本、差し上げますよ」
「お礼? いいよ。こっちはこんなに楽しませてもらったんだから」
 本の山をぐるりと眺め、ヒラヒラと手を振る悠宇。彼にとっては、空飛ぶ本たちと戯れ、楽しんだ時間こそが、謝礼となったようだ。
 そりゃぁ、多少、疲れることもあったような気はするが。
 一方日和は、変な本を開いてしまったりで役に立たなかったのではないと、少し落ち込んでいたのだが、そんな日和にも、叶は大層喜んでくれた。それだけでもありがたいのにお礼なんてとんでもないと言いたげである。
「そうですか? あぁでも、折角ですから一つ……まだ、暴れたりないような本でもどうぞ。封印処理を施したブックカバーもお付けしますから、安全ですし」
 折角だから、と言う叶に、悠宇は日和と顔を見合わせ、にっ、と笑う。
「じゃあ、あんまり危なくなさそうな奴、一冊もらえないかな?」
「はい、喜んで」
 ニコリと微笑んだ叶より手渡された本。それを手に、彼らは、帰路につく。
「大変だったけど……楽しかったよな」
「うん。そうだね……」
 それに、守って、くれたし……。
 胸中で呟き、日和は、ふふ、と小さく笑う。
 今日の放課後は、とても、充実した一日となったかも、しれない……。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【1449 / 綾和泉・汐耶 / 女 / 23 / 都立図書館司書 】
【1883 / セレスティ・カーニンガム / 男 / 725 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】
【3524 / 初瀬・日和 / 女 / 16 / 高校生】
【3525 / 羽角・悠宇 / 男 / 16 / 高校生】
【3747 / 紅月・双葉 / 男 / 28 / 神父(元エクソシスト) 】

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■         ライター通信          ■
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 この度は【埋もれた財宝】にご参加いただき、まことにありがとう御座います。
 毎度の事ながら、個々の仕上がりは微妙に異なっております。他の方の視点から捉えたこのシナリオというものに興味がありましたら、是非参照を…。

 始めまして日和様。叶のお手伝い、ありがとうございます。
 唯一目の前の出来事に疑問を抱いてくれる和みキャラ! と、勝手に思ってしまいました(汗
 お友達の悠宇さんとの掛け合いも少し多めに配置してみましたが、どうでしょう;
 また…機会があれば、お会いできると嬉しいです。ありがとうございました。