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<東京怪談・PCゲームノベル>


CHANGE MYSELF!〜DeepStageEXTRA #01〜


 異能力者を覚醒させるために活動する謎の集団『アカデミー』。その日本支部は切り立った崖の上に建つ古城にある。そこでは平凡な人間として生きる者から能力を導き出す使命を帯びた選ばれし人間『教師』が次の手を考えていた。彼らの目的は異能力という存在を世間に認めさせ、正しい社会的地位を確立すること。それが認められるまでは決して活動は終わらない。教師や教頭、そしてたくさんの能力者はいつまでも戦い続けるのだ。
 そんな彼らと改めて出会ったなら……あなたはどうするだろう? その価値観を壊すために戦うのだろうか。それとも行動を共にするのだろうか。すべてはあなたの心次第。あなたが変わらぬ信念を持って彼らと接するのか、それとも戦いの中で自分の心が変わったことを彼らに伝えるのか。

 今、それを伝えるステージを君に与えよう。君だけの物語を、ここから始めよう。その名は「DeepStageEXTRA #01」……


 異能力者でありながらアカデミーとまったく縁のない人間が、アカデミー日本支部の赤じゅうたんを歩いている。彼は自分が所属する会社『テクニカルインターフェース』の社長から指示を受け、謎に包まれたアカデミーの実態調査と日本支部同士の業務提携の打診のために足を運んでいたのだ。彼の本当の名はコマンダー・リバースだが、ここでは『ザ・レギオン』というコードネームの方を使った。極端な話、相手は本人が能力者であれば素性も素行も気にしないような連中である。こちらから余計なことをいちいち話さなくてもいいというのは非常にやりやすいとレギオンは素直にそう思った。
 彼は自分の前にひとりの教師に道案内をお願いしていた。彼はいつもタキシードを着た高速の男・風宮 紫苑だ。先ほどまで応接室で細かい話やお互いが用意した書類に目を通していたが、今はそこを出てアカデミーの施設案内の最中である。風宮はホテルのように扉がいくつも並ぶ廊下を通り抜けながら丁寧に説明する。上から降り注ぐ光も剥き出しの蛍光灯などではなかった。ちゃんと装飾の施されたライトが使われている。廊下にも高価そうな壷が専用の置物で飾られていた。レギオンはそれらも見ながら相手の話を聞く。

 「アカデミー日本支部の内装は古城ホテルのようなものになっております。われわれ教師は一日の大半をここで過ごしますし、能力を引き出すためにお迎えした方々も場合によっては長く滞在されますので。まず何よりも居住性を第一にと考えました。」
 「我が社も才能のある者たちを普通の社員として同等に扱っている点では、何かしら通ずるところがあると考えてもいいわけだな。」
 「もっともここに滞在できるのは能力の操作ができるようになるまでです。一時的な待遇ですから、貴社の方が優遇されているといえるでしょう。」

 そんな話をしながら歩くふたりだったが、さっきから廊下ですれ違うのは執事やメイドばかり。まるでここは何百年も昔のヨーロッパなのだろうか。レギオンは徹底した雰囲気作りを皮肉った。

 「こんなことにまでリアリティーを追求するのか。ホテル運営が本業でもあるまい?」
 「実はそういう趣味の教師がいるんですよ。だからこの古城で働く彼らはあのような姿で仕事をしているのです。もちろん、彼らもアカデミーに選ばれし者たちですので、迷い込んできた一般人の方の対処くらいはできますよ。」

 自分たちが望む理想郷のために小さなものから本気で作り上げていくアカデミーの姿勢はよくわかった。だが、風宮は決して仲間がいるであろう部屋の扉を開けてまでレギオンに状況説明をしない。やはりアカデミーは彼に見せたくないものがあるのだろう。見せないのなら聞いてやるとばかりに、レギオンは話を進めた。

 「能力者を覚醒させるというが、実際はどうしているんだ。だいたい教師とはなんだ。」
 「基本的に教師というのはふたつ以上の能力を保持し、能力を秘めた皆さんの才能を引き出すお手伝いができる人間のことを指します。ただ、最近ではわれわれの理想を崩そうとする方々もいますので、そんな皆さんのお相手を務めるためだけの教師というのも存在します。まぁ、そういった戦いの中でわれわれの仲間として活動したいと名乗り出てくださる方も少なからず存在しますので、そういう意味ではどちらも教師と呼んで差し支えはないと私は思っています。」
 「目覚めさせるという意味では同じ、か。だが、能力といってもさまざまな種類がある。貴様たちがそれすべてに対応できるわけはあるまい。」
 「特に誰も持ち得ない特殊な才能というのは、覚醒させるのに骨が折れます。しかし、そこは数多くの教師による実演などで補っています。例えば他者の能力に触れることがきっかけで自分の能力に目覚めることもあるのです。うちの教師・メビウスのように他者の影に入りこむという力はその手段を試すには最高に適しています。身体の内部から直接の異能力の刺激を与えるという方法はある程度の成果が上がっているのです。」

 そんな話を聞きながら、レギオンは実際に存在するであろう教師の量と質について考えてみた。確かに風宮の言う通り、教師の人数は多いだろう。だがこの古城で活動するのは本当に必要とされている、もしくはレアな能力を持った能力者や教師はほんの一握り。後のハンパな教師は適当に野に放ち、彼らの積極的な活動で才能ある人間たちを目覚めさせていくのだろう。教師にもピンからキリまでいるというのが率直な感想だった。だがその教師の配置は適材適所であるといえる。彼はアカデミーという組織がしっかりとした計画を打ち出し、それを実行する力を持っていることを認めた。
 風宮は考え事をしている彼を気遣い、丁寧な口調で階段を下りるなどは注意を促す。レギオンは礼も言わずに歩いていたが、最後の段を下りて一階の床を踏みしめた時に突然、周囲を見渡し始めた。その変化はすぐに風宮にも伝わる。そして身体を傾けてレギオンの方に向いた。

 「どうかされましたか、レギオン様。」
 「ネズミ……いや、野良犬が紛れこんでいるようだな。ふふふ、ここは我が力で……うごおおお!」

 彼が両腕を前へ突き出すと、その腕は瞬時に赤龍と黒龍へと変化した! そして双龍は近くの壁に向かって威力のあるブレスを吐き出す! レギオンの身体には13の遺伝子を持ち、自分の身体でそれを具現化することができるのだ!

 『グオォォォーーーーーッ!』
 『グギャアアアァァァーーーーーッ!』

 その圧倒的な力は古城の壁面をいとも簡単に壊してしまった。龍の鳴き声は崩壊の音を呼び、土煙を廊下へと導く。彼は両腕を元に戻し、もうもうと立ち上る煙の中へと入っていった。その向こうでは若い男がブレスに混じって飛んできた大粒の瓦礫の弾丸を身体に受け、全身からおびただしい血を流しているではないか。レギオンは彼に不敵な笑みを見せると、今度は両腕を横に広げて魔導強化服『バール』をその身に宿らせた!

 「ぐっ……き、貴様は、テクニカルインターフェースの人間じゃ……なかったのかっ?!」
 「霧崎、渉だな。俺の名はザ・レギオン。魔導強化服『バール』の装着者だ。我が社とアカデミーとの発展のため、お前には消えてもらう。」

 レギオンの言葉に驚き、舞い上がる塵を突き抜けて外に出る風宮。すると、彼の目の前には『バール』と霧崎が対峙しているではないか。さっさと戦いを始めようとするレギオンを制するかのように、風宮はすでにボロボロになった霧崎に哀れみをかけた。

 「霧崎様、入口はちゃんと設けてございます。そちらから入っていただければこんなことにならなかったものを……」
 「うるさい! お、お前らの陰謀はこの俺が、俺が壊してやる! うおおおぉぉぉおっ!!」
 「ほぉ……その痛手を受けながらまだ金狼に変身するか。だが貴様に勝機があると思うな。無謀すぎて反吐が出る。風宮、獲物はもらったぞ。」

 いつもは金色の毛に染まる霧崎だが、今回ばかりはそうもいかない。すでにいくつかの部位に赤い血を流していた。それでも気丈に構える霧崎。そして変身が完了したかどうかもわからないうちからダッシュするバール。その早さはすさまじく、霧崎は避ける間もなくそのタックルをまともに受けてしまい、後ろへと突き飛ばされた!

 「は、早……うごっ!」
 「こんなものか、アカデミーの抵抗勢力というのは。社に戻ったら、つまらぬネズミがいるとでも伝えておこう。」
 「う、うるさい……はあっ!!」

 不利な体勢からも鋭く煌く爪を操り、相手の仮面を貫こうとする霧崎。だが、高速で繰り出したはずの攻撃はバールに見切られており、逆に手首を捕まれ吊るし上げられてしまった。こうなると霧崎はまったく身動きが取れなくなってしまう。なんとかこの呪縛から脱しようと強化服の腹を何度も蹴るが、彼の攻撃はまったく効いていない……逆にそのお返しとばかりにバールから重いパンチを何度も何度も腹に叩きこまれるのだった。

 「ぶごぉ! ぐぶあぁ! うぐあわぁ!」
 「風宮の代わりに聞いてやる。貴様……アカデミーに入る気はないのか?」
 「……………ない。うぶっ!!」

 霧崎が答えた瞬間、バールの威力のこもった蹴りが胸を貫く。その一撃で身体がだらしなく伸びた霧崎を持ったまま、バールは崖へと歩き出した。下は底の見えない闇が広がっている。バールは風宮の名前を出したにも関わらず、彼のことなど気にもしていない。今、自分は戦いの中にいて、目の前に敗者が無残な姿を晒している……ただそれだけだ。例え彼の制止があっても、俺はやるんだという信念が手を放す。そして意識の消えかけている霧崎を闇に葬ったのだ。

 「……………うぐ、あがぁ……………」
 「俺と出会った時に貴様の命運は尽きていた。」

 霧崎が崖に落ちるまさにその瞬間は持ち上げていたせいで目に入ったが、バールは決して落ちていく彼を見るために下を向くことはなかった。負けた人間などに興味はない。彼がさっさときびすを返し、崖に背を向けて歩き出した。風宮の元に戻る途中で変身を解き、訪問用のスーツ姿に戻る。その姿になった時、風宮がうやうやしく礼をしながら挨拶をした。

 「レギオン様、今の戦いも参考にさせていただきます。」
 「勝手にしろ。」

 お互いのその言葉がいったい何を意味するのかはわからない。風宮の言葉を聞いたザ・レギオンは片側の唇を少し上げて少し嫌味に笑ってみせた。