コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<幻影学園奇譚・学園祭パーティノベル>


花を待つ

『皆、頑張ろうね!』

 一人でやるより、二人。
 二人でやるより、三人で――沢山いれば、凄く楽しい。

 何をやる?
 何をしたい?

 話し合っては時が過ぎ、早いもので当日がやってくる。
 お祭の準備は何時だって――、大賑わいの。

 とは言え普通じゃつまらない。
 喫茶室なら何処にでもあるし、大抵学園祭の出し物にあるから―――

 だから、少しばかり時を遡って。

 古き良き時。
 和と洋の見事に調和した時代の――、喫茶室。



**前日、夜**

「よいしょっ……と」

 こんなものかなあ?
 そう、呟きながら桜木・愛華は教室をぐるりと見渡した。
 今日は取り敢えず、テーブルや椅子を設置しておいて、細かいところは明日の朝、やろうと考えていたのだが……

(中々上手く決まらないんだもん(汗))

 教室を大正時代風の喫茶にしようと考えたものの、教室の四角い空間をどれだけ綺麗に、かつレトロな雰囲気を醸し出した喫茶室に見えるかを考えるのは大変なもので、漸く納得いく位置が決まったところなのだ。
 四角い空間。
 入った瞬間に見える黒板をどうすれば良いか、カーテンの黄色は取り外して一旦変えるにしても…と、考えれば考えるだけ、時間が過ぎて行って。
 あとは接客の練習やらメニューの取り方やら……かなり目まぐるしく、日々も過ぎていき。

 だが、これならば教室と言う事も一瞬忘れる事が出来る、筈だ。
 時計は懐かしい、優しい色合いの振り子時計。
 蓄音機も何処かから借りてきたものを設置して、懐かしい音源を楽しめるようにした。
 無論、ちゃんと自分たちでアナログ盤を用意したりもして。
 古きよき、時代に帰れる様な、そんな音ばかりを集め。
 机は明日の朝、合わせる事にするが、教卓の辺りに調理係スペースを作り、机をカウンターの様に並べ、注文出来たり、出来たものを渡したりする場に変え……黒板は、お品書きの場所へと雰囲気を変えさせた。

「…皆で楽しめると、いいな♪」

 見渡して可笑しな点がないところを確認すると、愛華はにっこり笑い――教室を、後にした。

 明日の朝も早起きだけど頑張らなくっちゃ♪、そう、力を振り絞りながら。



**当日―朝、打ち合わせ?**

 秋が近い。
 その季節にはやたらと美味しいものが並び……無論、甘味も誘惑に抗える筈が無いほどに魅惑的なものが並ぶ。
 酷暑の後だけに秋の味覚は格別と言う事なのか……疲れた身体を労わるような、そう言うものが多くある。
 愛華はそんな中、どれを作ればお客さんに喜んでもらえるかを丹念に選び、メニューへと書き込み、ずっと料理を作ってくれたら良いなあと思っていた一つ年上の先輩にメニューを見せた。

「まきちゃん、はいメニュー……大丈夫だよね?」
「…一つ年上の先輩を"まきちゃん"呼ばない。どう言うメニューがあるのやら見ないと解らんが……ふむ……」

 愛華が作ってくれたメニュー(主にデザート系)を見、にんまり――こう言う風に言うと可笑しいが、本当ににんまりと楽しそうに極上の笑みを浮かべながら嘉神・真輝は頷いた。

「悪くは無いな♪ 不味いものは出せないし……試食しながら頑張るか」
「ホント!? 良かったあ……って、まきちゃん…今、何か…不穏な呟きが……」
「気のせい、気のせい、秋の所為♪」

 笑顔でごまかしながら、「怪しい」と言う表情の愛華に食欲の秋の所為だと告げる。
 …最後の呟きは、ほぼ自分自身にしか聞こえないような呟きではあった筈なのだけれど。
 厨房の方は任せとけって!と、言わんばかりに真輝は着ていた書生服の袖を捲くり、拳に力を込めた。

 ――その姿は、まるで。

 女の子がガッツポーズをするのと、何ら変わりは無く。
 ついつい愛華は「まきちゃん、可愛い♪」と口にして――軽い、拳骨を額に受けた。
 コツン、という音が自らの額に軽く響いて愛華は次の場所へ足を運ぶ。



**色、とりどり**

 真朱、浅葱、萌黄、黄檗に藤色……色とりどりに映されるのは何も花だけではない。
 和紙にも、それらは映され人に色の妙を教える。
 手作りのコースターや折鶴をテーブルへ飾りつけているのは矢羽の着物に袴、と言う女学生姿の柏木・アトリ。
 髪を高く結い上げ、大きなリボンが、瞳と同じように戸惑うように揺れている。
 あまり出来る事は少ないかもしれないけれど……と、彼女自らが喫茶で使う備品を作ってきたのだが……

(も、もしかしたら余計な事だったかしら……?)

 愛華から聞いた話では「大正浪漫喫茶」だったので、作ってきたものもそれらに合わせた色合いにしてきたのだが、不安ばかりが大きく膨らみ。
 が、アトリの予想と反して、傍にいた面々は、それらを見た瞬間に、「わあ…!!」と喜びの声をあげた。

「綺麗、綺麗っ♪ これならお客様喜ぶよ〜♪」
 と、愛華がテーブルクロスの上に飾られたコースターや折鶴を見て、言えば、
「本当……持って帰りたいって言う人も居るかもしれないね」
 そう、凛々しく書生服姿に身を包んだ花瀬・祀もうんうん頷いた。
 今日は、いつもの髪型とは違い一本の三つ編みに纏め、その上に学生帽を目深に被りつつあったので、ぱっと見ても細身の少年で通ってしまうほどに清しい雰囲気を放っていた。
 そして、その隣に居る橘・沙羅も何度もコースターを見つめては、
「凄いなあ……こう言うの作れるなんて」
 と憧れの眼差しをアトリへと向け。
 アトリはどう返して良いか、戸惑いつつもはにかんだ様な笑みを返す。

 沙羅の服装はアトリと同じく女学生スタイルだが、上は桜色の着物になっており、桜の花が散らしてある。
 足元は落ち着いたダークブラウンの長靴。
 編み紐が細くヒールも若干高めだが、ヒール部分が太いので転びにくく安全な仕様のものとなっている。
 愛華やアトリも履いている靴は、やはり同じようなタイプのもので、流石に喫茶店をやるのだからこけてお客様にご迷惑をかける訳にも行かず。
 お店業は安全第一、清潔第一なのである。

「さてと…じゃあ、綺麗なものも見れたし準備時間もあと僅か。ちゃっちゃとテーブルのセッティングも終わらせちゃおう!」
「あ、そうですね……時間もないし」
「…う、もうじき、接客かあ……メニュー覚えれてるかなあ……」
「祀ちゃんなら大丈夫っ。そ、それより問題は沙羅で……えっと、えっと、愛華ちゃん…転んだりしたらごめんね」
 と、沙羅が謝った瞬間。
 祀と愛華、ふたりの口がほぼ同時に動き。
「「大丈夫、緊張しなきゃ」」
 ――と、左右の肩にふたりの手が乗った。

 アトリはそれを見て微笑を深めながら、クロスを敷き、色々と教卓の方で準備している真輝へと、
「嘉神さん、美味しい甘味楽しみにしていますね?」
 と柔らかな声を掛けた。
 試食中の真輝は声を出せないため、親指を立て「任せとけ」と示す。

 さて――もう、そろそろ、喫茶室開店、である。


**勧誘とその狭間の**

(……どうしたもんかね……)

 一人、モデルである事を生かしながら客寄せをしようと思っていた相沢・久遠は困ったように腕を組んだ。
 お客さんが連れない、と言うのではなく―ー寧ろその逆で。
 困ったくらいにお招きできるのは良い事なのだが、如何せん、その。

「久遠さんっ、少しは中も手伝ってよね!!」
「おう、少しは手伝ったって罰はあたらん!!」

 と愛華や真輝の怒りの声――が、飛んでくる。
 声を発してる人は振り向かなくても解るし、手伝うのは本当なら問題無いのだが……傍らに居る少女のすぐ傍には寄れないもどかしさ。
 視線で解る。
 けれど、避けずにはいられない。
 距離を置かなければ行けない事も存分に解っているのだ。
 桜色の着物の少女からは。

 だが――どう言えば解って貰えるのか。
 その事だけが酷く難しい。

 溜息をつかないように入り口から中へと入ろうとする久遠。

 が。

 どーーーん!と凄い衝撃が身体に走り。
 その次にいやに、ひんやりした感触が胸に伝わった。

 そうして。

「うっわー……申し訳ないっ。堪忍な?」
 と、久遠に謝るのは八重歯が印象的な、笹原・美咲。
 大正時代のカフェによくいる女中スタイルを、その細身の身体に一糸の狂いなくすっきり着こなし、着付けをきちんと習っているのだろう事が窺える。
 そんな少女が、何度も何度も…久遠でさえ、もう良いからと言いたいほどに頭を下げるのを繰り返す。
 無論、謝るのに理由がないわけではない。
 入り口付近で立っていた久遠の姿に気付かず、思いっきりぶつかり、更には、お冷を久遠へと零してしまったのである。
 慌てて拭こうにも、メニューを取る用紙しか持っておらず、思わず知らず美咲がその紙で拭きそうになるのを、久遠の苦笑が止めた。

「あ……あわわ、ついつい紙で拭こうと……っと、みどりちゃん、ごめん! ウチ、ちょっと抜けるわ〜」
「えええ!? 美咲ちゃん、何処行くの? 注文は? お冷は?」

 急に、自分の名前を呼ばれ、彩峰・みどりは大きな瞳をくるくると動かしながら問い掛けた。
 その様は何処か、西洋人形めいたものを思わせ、女優として有名な事など窺わせないほど、穏やかだ。
 美咲と同じく女中スタイルで、給仕をしているが、その姿は一枚の絵から抜け出たようでもあり、暫し――美咲にすればいつもの事だが――見惚れてしまう。

(…って、みどりちゃんに見惚れてる場合でなく!)

 はた、と気付き自分に軽く突っ込みを入れると、美咲は、漸く落ち着きを取り戻し、
「見ての通りや。前日まで練習してたのに、どーにもこーにも……」
 と、若干、関西の言葉から、関東の言葉に戻りつつ、ぽそぽそと言いながらも「ほな!」と、美咲は久遠を引っ張り、自分の荷物が置いてある場所へと、駆けた。

 ――久遠に一切の言葉を挟ませる、暇も無く。

 そうして、残された、沙羅やみどりたちはと言えば。

「……美咲ちゃんって……可愛いよね」
「大丈夫、沙羅ちゃんも可愛い……自信持とう?」
「あ、ありがと……でも」

"羨ましいなあ、と思えたの"

 あの人と、手をつなげる美咲ちゃんが、凄く凄く。

 呟けずに、言葉は沙羅の中へと降り積もる。
 音も無く、降る雪のように。

 思いが伝わったのだろうか、みどりはそっと、沙羅の肩を柔らかく、包んだ。
 震えるでもなく、考え込むような沙羅を励ますように、そっと。

 祀は、項垂れた沙羅の背を見て、ただただ、学帽を被りなおす。
 一番の親友が、自分以外の誰かに心寄せてるのを見て、一抹の苦しさを味わいながらも。
 解っているだけに邪魔出来ないとも知っていて。


**遠いから、近い**

「んー…タオルは何処だったかな…ああ、あった、あった♪ 本当に申し訳ないっ」
「いや……何も此処まで引っ張ってくれなくても、僕も自分の荷物の中に」
 タオルくらいは……と言いかけたものの、久遠はその言葉を打ち切る。
 この場合は、彼女の好意に甘えるべきだろうし、また、あそこから出るタイミングをくれたのも美咲なのだ。
 ほんの少しの沈黙をどう思ったのか。
 美咲は、にぱっと言う音が聞こえるような笑顔を浮かべた。
「中々、盛況やね……そう、思いはりますやろ?」
「ん…そうだな。桜木も嘉神も準備から、ずっと頑張ってるし、ウェイトレスは可愛い子揃いだし?」
「最後の、ウチの事はおいといても皆、ホント可愛いなあ…と思う」
 だから気張ったんだけどなあ……どうにも失敗ばかりで。
 前日まで練習していた成果も中々発揮できない始末。

 ――はっきり言って悔しい。

 みどりちゃんは、プロ根性で立ち回ることが出来るから、尚更。

 笑顔から、しょんぼり顔に変わった美咲を見、久遠は、
「君の方も少し休憩が必要だったかな?」
 何に対しての休憩かとは言わず、問い掛ける。
 苦笑混じりに笑っても八重歯が覗く美咲の口から、
「お互いに、やね」
 と、呟きが聞き取れる範囲で返って来て、久遠は何度目になるかわからない苦笑を再び浮かべた。

 その頃、喫茶室の方では、と言うと。

 喫茶室の方では、一部の女子から(主にお客様と思われる)、緊迫した空気が流れていた。
 彼女たちの口から発する事を禁じられた言葉、それは。

『まきちゃん、今日も可愛い〜♪』や、わざと女の子のように真輝を言ってしまう言葉全てである。
これを言ったが最後。

「そうか、そんなに視力が落ちたか…少し涙を流して洗浄した方が良いかも知れないな(にっこり)」
 ……と、抹茶カステラにわさびが入り。
 抹茶アイス、抹茶ぱふぇにも同様に、わさびはもとより辛子も入り、時には餡蜜に、タバスコまでかけられてしまうのだ。

「文句はいわせん! さぁ、食え!」

 ……ある意味、此処まで徹底したのに言われてしまう自分の顔に悩まずには、いられない真輝であった。

 真輝の横では、悩みつつも、その上に輪をかけ更に忙しい真輝を見かねて、みどりや愛華、アトリも手伝いに入っている。
 アトリは手先が器用な事を生かして、コースターを作ったのと同様に真輝が作った品に、綺麗な和紙の小物をつけたりと忙しい。
 だが、どう言う風なものをつけようかと真輝が作る品々を見て考えるのは楽しく、
「これだけでも参加させてもらう価値はあったなあ……」
 と、しみじみ呟き、愛華のきょとんとした視線を貰ってしまったり、はたまた、みどりの、
「役に立ってる方が、そう言うのは凄く不思議ですね」
 そう、言われてしまったりで。
 アトリは、開店準備前と同じように、やんわり、だが困ったような微笑を浮かべた。

 本当なら少し、気になることはあるのだけれど。
 大切な友人の事、戻ってこない人の事、それぞれに。

 だけれど――

(……大丈夫、よね?)

 忙しなく、注文を取る二つの影を、じっと見る。

 ぱたぱたと、沙羅と祀が注文を取り、時に転びそうになる沙羅を祀が、難なく掴んだりして、女生徒からも無論、男子生徒からも「相変わらず仲良しだねえ」やら歓声がしたりと、それはまた大賑わいで。
 ふたりとも、僅かの緊張はあるようだけれど、前日まで皆と一緒に練習していた成果があったのか、沙羅の笑顔に、遊びに来た先生まで和んでしまい、祀に強烈なツッコミを貰ったりもしていたけれど。

「祀ちゃん、こう言うのも楽しいね」
「んー……そうだね、少し混乱する部分もあるけれど」
「……全然、そんなに見えないよ?」
「そりゃぁ、ねえ……緊張してるって、なめられたら嫌じゃん?」
 虚勢でも何でも余裕がなきゃ、と片目を瞑る祀に、沙羅は、
「祀ちゃんらしいね」
 と、返し、笑った。
 その笑顔は、先ほどよりも微かに元気が出てきたようで、
(忙しさのお陰で、少しは、沙羅の気分が紛れたんなら良いけれど)
 と、考え、お冷を所望するお客さんへと「ただいま! お待ちください」と声をあげ、教卓の方へと向かう。

 まだまだ、忙しい時間は本日の学園祭終了時間まで続きそうである。



**戦い済んで、陽が暮れて**

『愛華、みんなとたくさん思い出作れて楽しかったvvホントにありがとう』

 こう言う風に言えるのも、皆で楽しめたから。
 ちょっとしたハプニングとか、色々あったけれど――

『学園祭、だものね』

 楽しかった思い出と一緒に、愛華は明日になれば消えてしまう喫茶を今一度、見た。
 いつもの、家での雰囲気とはまた違う風景。

 何時か、こんなお店を自分で作れたら良いな……そう、遠くない日に想いを馳せながら。

 振り返ると愛華の後ろには皆の笑顔。

 ただ、ただ、嬉しくて愛華はその場所へ溶け込むように駆け出していった。






□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【2155 / 桜木・愛華 / 女性 / 2‐C】
【2227 / 嘉神・真輝 / 男性 / 3‐B】
【2489 / 橘・沙羅 / 女性 / 2‐C】
【2528 / 柏木・アトリ / 女性 / 2‐C】
【2575 / 花瀬・祀 / 女性 / 2‐C】
【2648 / 相沢・久遠 / 男性 / 3‐A】
【3057 / 彩峰・みどり / 女性 / 2‐C】
【3315 / 笹原・美咲 / 女性 / 2‐C】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

こんにちは、今回こちらのノベルを担当させていただきました、秋月 奏です。
今回は私の体調不良により、納品が遅れました事、大変ご迷惑をおかけしました。
桜木・愛華PLさまの優しいお言葉が凄く胸にしみました…(ほろ)

ですが、凄く楽しんで書かせて頂きまして、本当に指が動かなくなる事
腕の痛みがなければ…!!と、涙を飲み……漸くお届けできます事、
本当に嬉しく思います(^^)

そして、色々と関係等を提示してくださる方も多くて。
色々と話す人を組み合わせたり、様々な光景を見れる事は本当に楽しくて
わくわくしながら作業をさせていただきました。
僅かでも楽しんでいただければ、幸いです♪

皆さんの学園祭がこの後も楽しいものとして残りますよう。
また、何処かでお会いできるのを、祈りつつ。