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<幻影学園奇譚・学園祭パーティノベル>


祭り前夜
 夕闇が濃くなっていく。
 そろそろ時間だろうか――『夜』の闇の。
 日の光に閉じこめられた、それらがもうひとつの夜へと侵食を開始する。
 もうひとつの『夜』が、此処にある。

*****

「おつかれー」
「うん、じゃあまた明日」
 三々五々生徒達が帰っていくそこは、まさに廃墟か戦場かと言ったありさまだった。ペイントの名残が見えるカラフルに染まった新聞紙がかさこそと風に揺れている、様々なイベント用の設営場所。
「それじゃ始めようか。準備はいい?――ここからが正念場だ。覚悟してかかってよ」
「その前にチョッと良いデスか?掃除と聞いてマスが、一体何を『掃除』するんデス?」
 レイベル・ラブの呼びかけに集まった3人のうち、金髪碧眼の生徒が軽く手を上げる。彼――デリク・オーロフへちらとあまり友好的とは言えない視線を投げかけた後、
「…軽く説明した方が良さそうだね。分かってると思うけど、明日学園祭が始まるだろう?そのために今日までこうやって皆準備を重ねてきた。私が案じてるのはこういう時に乗じて碌な事をしない奴がいるって事。学校側も動いてるだろうけど、どうせ生徒が作るイベントなんだからこれも私達の仕事だろうってね」
「つまるところ、邪魔者の排除と言う事でいいんだろうな」
 涼しげな顔で装備品の状態をチェックしている亜矢坂9・すばるに、僅かに頷いて答える。
「端的に言えばそう言う事。分かったかい?」
「――どう動く?」
「そうデスね。全員か個別かでも随分違いマスが」
 ササキビクミノの言葉に、デリクがその通りと言うように大きく頷いた。
「そうだね…個別の方がいいね。固まって動くには範囲が随分広いから」
 そして、各自へ学園祭を邪魔する者が居た場合、学校を傷つけずに邪魔者を排除する事、修繕箇所がその場にある物で繕えるなら各自の裁量で修理する事。何か問題が起こっているならそれも各自で対処する事、等を口頭で伝えた後で、生徒が見当たらなくなった校舎の中で散開した。

*****

「此処もOK。…ガスはまだ開いていない。材料に変化は無い」
 食べ物を扱う店を重点的に見回っているすばるが、小型の虫除けジャマーを教室のひとつひとつを覗くついでに置きながら呟いていく。
 明日の朝には人で賑わうここも、今は誰1人おらず静かなものだ。整然と並べられた材料と機材は、時が過ぎるのをじっと待っているように思える。
 これからすばるが向かう教室も、今までと同じ筈だった。
「…小麦粉の袋が開いている」
 暗い室内に電気を付けて照らす…そこに、ぽつんと、口の開いた小麦粉の袋がひとつだけあった。そこは、客が座る用に作られたテーブルの上。通常ならその上に小麦粉の袋が置いてあることは無い。
「……」
 黙ったまま近寄ってみると、白いテーブルクロスで見えなかったが、一度倒れたのか、テーブルの上にも粉が振り撒かれているのが見えた。ふむ、と小さく呟いて、小麦粉の袋は調理用のスペースへ持って行き、掃除用具入れからホウキとチリトリを取り出してテーブルの上の粉を取り去る。
 これで綺麗になった、とその教室を出ようとした所。
 ばさり。
 調理スペースから何かが落ちた音がして、無表情のままそこを覗く。
 先ほどすばるが運んだ袋がひとつ、今度は口をさかさまにして床の上にあった。こぼれた粉が少し宙を舞っている。
「………」
 じぃ、と見つめる。――と。
 もぞり、と落ちた小麦粉の山が動き、中から数匹の黒い虫が慌てたように飛び出して来た。
 自らの持つジャマー…匂いと超音波をその虫へ向け、逃げようとした所を入っていた小麦粉の袋の中へと戻して口を捻る。
「小麦粉も使えないな。両方処分しよう」
 小麦粉はそのままゴミ箱へ入れ、この教室にもジャマーを1つ置いて、紙袋はゴミ箱へ後で入れようと手に持つ。
 …ところでどうやってこの虫は此処に入り込んだのだろう。
 他の材料の場所や教室の隅々まで調べてみたが、最初に袋から出て来た以外の虫は一匹も発見されなかった。
 そこからまた、何件かの教室の異常が無い事を確かめ、手に袋を持ったまま次の教室へと移動する。
 がらがら、と教室の戸を開けたすばるの目に、今度はやたらと肥え太った黒い虫が映った。今手に持つ袋の中に入っている黒い虫とは大きさの桁が違う。それは子供と相撲取りくらいの差があった。
「随分大きな虫だな」
「そうだろう?この学校は餌が豊富だからね」
 すばるの独り言に返事があったのはこの時だった。
「――何者だ?」
「誰だっていいさ。それより君こそ何しに来たんだ」
「見回りだ」
「そうか、それはご苦労な事だ。ここは何も無いよ、次の場所へ行けばいい」
 ――ぱちり、と教室に明かりを付ける。
 その、客用に作られたテーブルの上にでんと腰掛けているのは…髪が影のようになって表情までは読み取れないが、声から判断するに男のようだった。
「その虫も追い出さなければいけない。邪魔になるからな」
「いいじゃないか。彼らだって生きているんだから」
「…その理屈は今通用するものではない。あなたはその虫の飼い主か?」
「いいや?――導いてきただけさ、ここに」
「それなら尚更処分しなければならない。場合によっては、あなたも」
 ふんっ、と男が鼻を鳴らし、ゆらり、と何か軟体動物のような動きでテーブルから立ち上がった。
「せっかく良い居場所を見つけられたのに、ここから出て行けとは酷いね。そんな事を言うならお前も餌にしてやろうか――」
 そう言いつつ近寄って来た男だったが、びくん、と大きく身体を反らせて反応し。
「な、何だそれは」
 大きく顔を顰めてすばるへ訊ねる。
「虫除けの道具だ。明日の学園祭に出す食べ物に虫が付いたら困るからな」
「ぐおおぉ、何で、せっかく…見つけたのに…」
 ジャマーの範囲を、小規模から中規模へと移行させる。すると、テーブルに居た黒い虫は当然の事、そこに座っていた男までが奇妙な悲鳴を上げつつ身体をくねらせて窓の外から飛び出していった。
「……排除終わり」
 何となくあの男も虫っぽかったなと思いながら、すばるは汚れやゴミの有無を確認しつつ、別の教室へと何事もなかったかのように移動していった。

*****

 かつかつ、と夜の校舎に足音が響いている。
 時々その音が二重三重に聞こえて来るような気がするのだが、クミノはあまり構わずにいた。
 そのくらいなら通常の夜であれば当たり前のように存在するからだ。いちいち相手にしてなど居られない。
 ――だが、周囲に感じる別の意思…瘴気と言ってもいいくらいのわだかまりには、ひとつひとつ鋭い目を向ける。
 学園祭に期待が高まるのは分かる。だが、それはそれと同時に対なる存在も呼び込んでしまう。
 すなわち――
「そこッ」
 ギィィィィイィッィ!!
 今まさに、クミノの背に飛び乗ろうとしていた大きな影が、クミノが咄嗟に張り巡らせた障壁にぶつかり、激しい悲鳴を上げて逃げ去って行くところだった。
 こういった負のエネルギーは、基本的に分散してしまえば問題は無い。とは言え、同じ因子同士は集まりやすい上に此処は『学校』と言う特殊な閉鎖空間。集まったモノが散っても完全に敷地内から出て行く事はまれで、大抵は再び学校の中のどこかにひっそりと残り、再び集まろうとするのが常だった。
 しかも――今は彼らの力が発揮され易い夜。その他にも、この学校だからそう言った負のエネルギーが蓄積されやすい土台があるようにも思えるのだが、それが何なのかは自分でも良く分からない。
 ただ、ほんのちょっとしたしこりのように、気になっているのも事実だった。
「…うん?」
 明かりを付けても尚暗い廊下。その隅にうずくまるモノを目にし、僅かに目を細めてそちらへ足を向ける。
「そこで何をしている」
 近寄ってようやく見えたブレザーと黒く短い髪に、まだ残っていた生徒かと声をかけた――が。うずくまった姿勢の生徒は何も答えようとしない。いや、それどころかぴくりとも動く様子が無い。
「どうした?」
 手を伸ばし、その指先がブレザーに触れた途端。
 ――くしゃり、と指が触れた部分からブレザーが空気を抜くようにぺたんと床に落ち…居たと思った生徒の姿は何処にも無かった。ざあぁっ、と目の隅に黒い何かが動いた様にも見えたが、目を動かしてもそこにはもう何も無く。
 廊下にブレザーを置きっ放しにする訳にもいかず、手に持って歩き出した。落し物として扱えばいいのか、少し迷いながら。
 ゆっくり歩いて行く、その後ろからざわざわと細かい呟きのようなものが聞こえ、
「言いたいことがあるなら言えばいい」
 立ち止まらず、後ろを振り向かずにそう告げた。少し耳障りなだけで害意は感じられなかったからだったが、その言葉に反応したのか後ろで何かが起き上がる気配がし、くるりと振り返る。
 そこに。
 細かな闇を凝らせたような、そんな人影が立っていた。人間の姿にかろうじて見えるだけで、実体としては感じられない。
 ぱくん、ぱくん、とその闇が口を開く。声は泡粒のように小さく、ぷちぷちと弾ける音で半分以上かき消されてしまい、どうにか聞き取れたのは1つの言葉のみ。
 ――寒い?
 手に持ったブレザーにふと目をやる。そこから人影に視線を向けると、両腕がクミノの持つブレザーへと伸ばされていた。
「これが欲しいのか?」
 ぶんぶん、と首だろうと思われるものを大きく縦に振る黒い影。
「で、これはあなたのなのか?」
 つい、とブレザーを相手にも良く見えるように見せる、と同じようにぶんぶんと首を縦に振る。
 自分のものと主張する、害意は無さそうな影に、どうしたら良いのかと躊躇ったものの、結局ふいと横を向いてブレザーを差し出した。
「ほら。…それから、寒いならこんな場所におらず早く帰るのが良いだろう。明日は学園祭なのだから、その姿でうろついて居れば生徒に驚かれるぞ」
 ブレザーをいそいそと着込んだ影が、ちょっとしゅんとした様子を見せ、ふわふわと頼りない手を振ってクミノに背を向けた。その時、クミノがちょっとだけ目を見張る。
 一瞬だが。影にしか見えなかったその人影が像を結び――クラスメイトの顔が浮かんで見えた。
 確か冷房病に罹ったとかで、自宅で熱を出して寝込んでいる筈の。
 ――気付けばそこにはもう誰もおらず。
 クミノは気を取り直して、まだ闇の中わだかまっているそれらを散らしながら見回りを開始した。

*****

「さーて。何が出て来マスカ」
 教室棟から離れ、道場の辺りへと楽しそうな顔を覗かせたデリクが、既にほとんど出来上がっているお化け屋敷を見てほぅ、と小さく声を上げた。
「面白そうな作りデスね。――でもまだ作業をしている人がいるようデス」
 ぱたぱたと走り回る小さな足音。ひそひそと囁き声のようなものまで聞こえて来る。
 辺りはもうすっかり闇だと言うのに、この暗い中で作業を続けている生徒がいるとでも言うのだろうか。
 ――ぱちん、と入り口にある明かりを付けた途端、ざわめきが、足音が止んだ。
「おや?」
 どこか楽しげな口調で、お化け屋敷の暗幕へと近寄って行くデリク。入り口の上にはおどろおどろしい…というのか、ややレトロなお化けの絵が丁寧に描き込まれてあり。製作側の力の入れようが良く分かった。
 ぐるりとその周囲を巡ってみる。おそらく中には仕掛けが山ほど成されているのだろうが、外から見る限りでは何も分からない。
 ――ぱたぱた。
 かすかな足音がまた、聞こえた。
「まだ誰か残ってマスか?もう帰る時間デスよー」
 呑気な声が辺りへ響き渡る…と。
 かさこそ、と今度は――天井から音がする。まさか上に生徒がいるわけでもないだろうに、と思いつつ上を見上げ。
 天井に張り付く白い人影と…その煌々と輝く赤い瞳と目が合った。
 ―――!!
 くわっ、とありえない大きさに開いた口で威嚇しているつもりか、声にならない声を上げてそこからムササビのようにふぁさりと降りてくる。が。
「駄目デスよー。邪魔しちゃ…ね」
 にこりと笑いかけるデリクの足元から現れた巨大な手に間髪入れず掴まれ、そのまま闇の中へと引きずり込まれる。
 悲鳴は、聞こえなかった。
「さて――他に誰かイマスか?」
 気のせいだろうか。
 デリクの足元――彼の影が広がったように見える。そこから、何かが出て来ようとしているかのように、影が波立っているのが見える。
「と言っても此処はお化け屋敷なんデスよね。多少は…残しておいてあげマショウか」
 それは、明らかな挑発。にこりと人当たりの良い笑みを浮かべているのに、そこから感じ取れる気配は嘲りと、かすかな期待。
 危険を好む者が持つ独特の雰囲気が、デリクから発せられている。そしてそれは、多少なりとも呼び水にはなっていたらしい。
 道場の内から外から、静かに佇むデリクへと次々と人にあらざるモノが押し寄せて来たのだから。
 さすがにちょっと驚いたような顔を見せながらも、きちんと着込んだブレザーを乱すような事も無く、時々風に煽られて動く髪を撫で付けては、目の前ぎりぎりにまで迫った青白い、とうに人の姿をしていない其れと目を合わせる。
「サヨナラ、デスよ」
 にこりと優しく微笑んだその真横から、巨大な口がばくんとその首を噛み千切って行った。
「ふー。コレで少しは遊びやすくなったでショウ」
 さらりと前髪を掻きあげたデリクが、畏怖したかすっかり小さく、いや少なくなったそれらへ目もくれず、軽い足音を立てつつその場を立ち去った。

*****

「ゴミは出た時に処分すれば後々面倒にならなくて良いのだが」
 隅に丸められた新聞紙や紙屑、ビニール袋等をひとまとめにしつつ、レイベルが溜息を付く。明日の朝一でやろうとしているらしい部分には手を付けず、壊れた箇所や壊そうとするモノがいないかどうか確かめながら。
 ――バキィン!
「うわぁぁぁっ」
 イベント会場を見て回るレイベルの耳に、かすかな、だがはっきりとした悲鳴が聞こえて来たのは、そんな時だった。鋭い目を会場の――ステージの上に向けて足を急がせる。
 どうした、と声をかけようとして…そこにいる数人の生徒達の様子に軽く首を傾げる。
「い、痛いってっ」
「え?だって折れたら添え木した方がいいって言うじゃない」
「それより骨継いでからの方がいいんじゃないの?」
 ――上を見上げれば、無残に端がめくれて折れたパネル。その脇にもう1人小さな人影がしがみ付いているように見えるが、あれは取り残された生徒だろうか。
「とにかく、固定して運ぼうよ。あの広い所まで行って救急車呼べばいいじゃない」
「いたたた、だから触るなってば!」
 …上に昇って何をしていたのだろうか?その1人が落ちて、足をどうにかしたらしい。
「大丈夫か」
「うわあっっっ」
「きゃああああっっ」
 ――突然声をかけたレイベルが、何か別なものに見えたらしい。大きな悲鳴が上がり、憮然としたレイベルが腕を組む。
「人に対して悲鳴とは失礼だな。ところでこんな時間まで何をしていた?設営がし切れないのなら明日早朝でも良いだろうに」
「上にパネルを引っ掛けるだけだから、最後にやってしまおうって事になったんだけど…あなたはなんでここに?」
「…大したことじゃない。見回りと掃除だ」
 なんだ、と小さな声が聞こえ。それから思い出したように生徒の1人が足に手を当てていたた、と半泣きになる。
「折ったのか?見せてみろ」
「え――何か出来るの?」
「多少なら心得はある」
 その堂々とした態度に信頼したか、生徒がこくりと頷いてそっと足を差し出した。…学生服の上から手を当て、相手の反応を見ながら触れて行く、と。
「っ、いっ、痛い痛い痛いっっ」
 もしかしたらひびが入っているかもしれないが、骨折には至っていないようだ。だが、激しく挫いたらしく既に足首が熱を持っており、このままでは朝までに相当腫れてしまうだろうと言うのが予想出来る。
「骨は折れていないようだ。念のため明日病院でレントゲンを撮って来るといい。それと、少し挫いたようだな」
 言いつつ、生徒達には聞こえないよう口の中で別に呪文を唱えて行く。手の平に、力を集め、
「ずれている箇所を戻すぞ」
 両手で足首とすねそれぞれを押えて、最後の一言と共にぐきり、と音を立てながら足首を少し捻った。その瞬間の痛みに少年が飛び上がり――そして、きょとんとした顔をする。
「痛みが薄れてきただろう?」
「うん…ずれてただけ?」
「そんなところだな。…ところで。上のは降ろさなくていいのか?」
「あっ」
 レイベルの施術を見守っていた女生徒が声を上げて立ち上がった。
「折れたパネル、直さないと…」
 とは言え、ついさっき落ちたばかりの少年のようになるのが怖いのだろう。躊躇いながら、ステージの上に転がっているはしごを立てかけて、誰か他の人は…ときょろきょろ見回している。ふぅ、とレイベルが息を吐いた。
「私がやろう」
 ――それにしても。
 ハシゴを昇りながら、レイベルが不思議に思う。降ろさなくていいのか、とは上にしがみついたままの人物に対しての言葉だったのだが、パネルの事しか口にしなかった。
「不人情なものだ」
「全くだよ」
 頭の上から声がし。――見上げると、そこに。
 折れたパネルの上に座った少年が居た。楽しそうに、レイベルを眺め。
「僕が落ちた時も大騒ぎだったな。あんなに人が集まるなんて初めてだったよ」
 下で落ちた少年を囲んでいる生徒達をにやにや笑いながら見下ろして、そんな事を言う。
「あれは、お前の仕業か」
「いいじゃないか。僕だって突き落とされたんだから」
 けらけらと笑いながら。…笑いながら、足をぶらつかせる少年。
「このくらいの高さじゃ死ななかったね。残念。じゃあ今度はあそこからにしてみようかな」
 見上げるのは、当然このステージより高い、屋上。
「やめておけ。死んでしまえば、癒すわけにもいかないんだぞ」
「別に。僕が死ぬわけじゃないしね」
「――そうか」
 べきべきべき、と何か不穏な音が聞こえ、生徒達が顔を上げた時には、どうやったのかパネルの修繕は終わっていた。レイベルがゆっくりとハシゴから降りてきて生徒達の前に立つ。
「暗くなってからこのような作業をしようとするからだ。落ちたのは自業自得だぞ」
「急にバランスが崩れたんだよ。僕が悪いわけじゃない」
「それが結果的にパネルを折ったのだろうが。…さ、帰れ。今日の事は先生達に言う程でも無いしな」
 …ばたばたと走り去って行く生徒達の背中を見、上を見上げる。
 そこにはもう誰もおらず、綺麗に整えられたステージがあるのみだった。

*****

「どうだった?」
「楽しかったデスよ。皆さんに素直に帰ってもらいマシタ」
「…そんなにいたのか?」
「ええ。明日の本番が待ちきれなかったのでショウ」
 こくこく、と頷くデリク。
 すばるも淡々と済んだ事を告げ、手に持った紙袋をレイベルへと押し付ける。
「ゴミだ」
 ……かさかさ音が聞こえた気もしたが、ゴミと言う言葉を信じて袋は開けないでおく。
「明日は無事に祭りが行われそうだ」
 クミノが呟く。昼間に参加出来そうに無いのは残念だが、とも。
「ふむ。…ご苦労だったな。これでこの学校側の苦労も少しは報われるだろう」
 振り返ると見える、夜の校舎。
 まだ何か残っているようにも思えるが、それでも夕刻以降に比べるとその気配は激減しており、祭りが終了に至るまでには深刻な問題は起きないように思えたため、満足げな息を吐いて――もう一度校舎を見上げた。

 静かに眠っているように見える校舎。
 そこから――ほんのかすかだが、明るい、歓声が聞こえたような、気がした。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / クラス】

【0606/レイベル・ラブ /女性/3-B】
【1166/ササキビ・クミノ/女性/2-C】
【2748/亜矢坂9・すばる/女性/2-A】
【3432/デリク・オーロフ/男性/1-B】

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■         ライター通信          ■
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お待たせしました。パーティノベルをお届けします。
各自が分散した形で書かせていただいたので、それぞれほぼ同時刻の出来事です。順番も特にはありません。
場面転換するようなイメージで読んでいただけると嬉しいです。

それでは、発注と参加ありがとうございました。
また別の機会にお会いできる事を楽しみにしています。
間垣久実